未来編②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「正一君!!死なないで!!」
「う……」
ツナの呼び掛けにうっすらと目を開けた入江は、消えそうな声で尋ねる。
「……チョイスは…どうなった…?」
「…ゴメン、負けたんだ……」
「何だって!?そんなことは許されない!!勝たなきゃ……勝つんだ!!」
まだ戦おうと起き上がる入江に、獄寺が「動くな」と怒鳴る。
チェルベッロはチョイスの終了を宣告し、全通話回線を開放した。
それにより、入江の声はミルフィオーレの観覧席にも、遠く離れた檸檬と蜜柑にも伝わる。
『(入江さん……)』
悔しさと戸惑いを見せる檸檬を前に、蜜柑は握っていた銃を匣に戻す。
『どうして…何で銃を下ろすの!?まだ決着は…』
驚く檸檬の問いに答えたのは、蜜柑ではなくチェルベッロだった。
「先ほども申しました通り、チョイスの終了は貴女方の戦いの終了を意味します。」
「そう……ミルフィオーレの勝ちよ。姉さんは白蘭によって殺される。ボンゴレの人間達と共にね。」
『(そうだ、ツナ達は…!)』
ハッとした檸檬は、チェルベッロに聞く。
『バトルが終わったんなら、あたしは向こうに移動しても?』
「構いません。」
空間移動でツナや入江がいる場所へ行った檸檬を、蜜柑は止めなかった。
ピグを匣に戻し、セレネの尾羽による傷の程度を確認しながら立ち上がった。
ファレノプシス・パラドックス
「ダメだ正一君!動いたらお腹から血が!!」
「てめー死にてーのか!!」
「死んだっていいさ!白蘭サンに勝てるなら喜んで死ぬ!!」
入江の言葉に、ツナと獄寺は戸惑い言葉を失う。
少し前から募っていた入江の異常な覚悟に対する疑問……それを爆発させるかのように、ツナは問いかけた。
「何故こんなになってまで白蘭を倒すことに執念を燃やすのか…分からないよ!!」
「…え?」
今度は入江の方がフリーズした。
ツナ達が疑問を抱いてるのに、今まで気付けなかったことに対する困惑。
「人類のためとかいくら理屈を聞いても…自分には遠い話のようで、ついていけなくなる時があるんだ……」
「10代目のおっしゃる通りだ……。過去に戻るためってならいいが、この時代のことを片付けるためにガキの俺達が戦うってのがピンとこねぇぜ…」
『ツナ!隼人!入江さん!!』
そこに、空間移動をしてきた檸檬が声をかける。
驚いてそちらを向いたツナは、檸檬が右足を引きずりながら歩いているのに気付く。
「檸檬!だ、大丈夫…!?」
『うん、何とか……蜜柑と、あんまりちゃんと話せなかったけど…』
「無事に来たってことは、勝ったのか…?」
『ううん……チョイスが終わったからって、チェルベッロにストップかけられて…』
眉を下げる檸檬は、入江の怪我を見て青ざめる。
『入江さん…!』
「ぼ、僕は大丈夫だよ……それより、本当にすまない。僕は忙しさにかまけて話すのを放棄してた。」
「正一君……教えてよ、どうしてそこまで白蘭を…?白蘭と何があったの?」
「…全て話すよ……いや、むしろ聞いてもらいたい……」
話は、11年前に遡る。
並盛に住んでいた入江は、ある日ランボを助けたことによりボヴィーノファミリーからお礼の木箱をもらった。
そこにはランボ宛の10年バズーカの弾も入っていたが、返すタイミングを失ったまま部屋にしまってあった。
それを、掃除中に誤って足の上に落としてしまう。
10年後の入江は、アメリカの工科系大学に通っていたらしく、少年の入江はそこに行き着く。
身分証や新聞の日付で10年後だと理解し、怖くなった入江は荷物を持ったまま学校の中庭へ走った。
そこでぶつかったのが……白蘭だった。
---「いててて…」
---「……大丈夫かい君?」
---「あ…日本語…」
落とした身分証を見て、白蘭は入江の弟だと勘違いしていた。
入江はすぐに謝って駆けだし、しばらくして過去に帰った。
「白蘭と初めて会ったのは未来だったんだ!」
「……話自体はいたって普通のタイムトラベルだな。」
『すぐに帰れたみたいだし…』
「ああ。あの時はまだ白蘭サンも“ただの人”だったしね。」
過去に戻った入江は、タイムトラベルをしたことに興奮したと同時に、自分の夢であるミュージシャンになってなかったことに落ち込んだ。
そこで、未来を変えようと考えた。
「未来を変える?そんなこと…」
「過去を変えれば未来も変わる……未来は1つじゃないんだよ。」
「パラレルワールドだな。」
不意に聞こえた声に振り向くツナ、獄寺、檸檬。
『みんな!』
「早く正一君の処置を!!」
バジル、了平、クローム、フゥ太、ジャンニーニ、ディーノ、そしてリボーンが観覧席からやって来たのだ。
「あ…スパナは!?」
「もう向こうで毒サソリ達が処置をしている!」
「正一は俺が診てやる。」
スパナの身を案じる正一の傷を診て、リボーンは了平に晴れゴテを開匣するように言った。
その一方でツナが尋ねる。
「そう言えば昔、大人ランボも言ってたよ!そのパラ…」
「パラソルワールドとは何だ!?傘か?」
「パラレルだっ、バカ!!」
それは、世界が枝分かれしていき、色んなパターンの未来が存在するという考え。
「つまり…“もしも”の世界が実際にあるってこと?」
「そうだ。“もしも”の数だけな。」
「だがこの世に“もしも”なんてたくさんあるぞ!!」
『だから無数の分岐で無数のパラレルワールドが存在するってことになるんだね…。』
「その通りだよ、檸檬さん。」
入江が目指したのは、“もしも自分がミュージシャンになっていた場合”の未来。
それを実現させようと、学校の教科書を全部燃やし、進路指導票に「ミュージシャンになれなきゃ死んでやる!」と書いた。
そうして過去の状況を変えて、もう一度10年後に向かった。
きちんと未来は変わっていて、入江が行き着いたのは外国の町外れの廃れた飲み屋だった。
自分を囲むのは見るからに普通ではない人間達。
その場所でミュージシャンとして働いていたらしいが……入江は金銭トラブルを抱えてたらしく、ギャングに追われていた。
追手たちは、入江が10年バズーカで入れ替わった存在などとは知らず、入江少年を追い回す。
「おかしいだろ…?僕はミュージシャンには向いてなかったみたいだ……」
「そんな…」
「そして僕は、そこで2人の人間に出会う…」
『2人?』
疑問符を浮かべる檸檬に、入江は懐かしげな瞳を向けた。
「今となっては信じられない。僕をギャング集団から救ってくれたのは……蜜柑さんだったんだ。」
『蜜柑!?』
走って逃げていた入江は、30秒もしないうちに向かいから来た人間にぶつかった。
その人物こそ、その世界でフリーの殺し屋をしていた蜜柑だったのである。
---「入江正一さん…?」
---「えっ…あ…」
---「待てコラァ!!」
---「間違いないわね。」
---「あ、あの…!」
「彼女は…蜜柑さんは、不当な返済を迫る輩を始末する殺し屋だったみたいだ。あの世界の僕は依頼人だったらしい。」
蜜柑は、入江を追いかけていたギャングを一瞬にして撃ち殺してしまった。
そして、口をパクパクさせる入江少年を振り返り、小さな笑みを零す。
---「これでいいかしら?これからは、借金相手はちゃんと選ぶのよ?」
---「は…はい……」
「…僕が蜜柑さんの笑顔を見たのは、それが最初で最後だった。この世界で同じミルフィオーレという組織にいたけど……全然…」
『蜜柑が、他の世界で……』
「それでも飲み屋に戻るのが怖かったから、蜜柑さんが去った後も走って大通りに向かった。」
しかし、曲がり角で人にぶつかってしまう………白蘭に。
---「す…すみません!……あっ!」
---「君、日本人かい?」
---「ええ…あの…」
彼と出会ったのは違う世界での出来事だから、何事もなく立ち去れると入江は思っていた。
ところが、その予想は覆される。
---「あれ?ちょっと待って。んー……君、何処かで会わなかったっけ?」
---「え…いや、人違いだと思います。」
何とかやり過ごそうとした入江だが、白蘭は頭痛を引き起こしてその場に座り込んでしまう。
---「何か…分かりそうだ……何かが…大事なことが解けそうだよ……」
そう呟いた後、白蘭は入江を真っ直ぐ見つめて。
---「君とは、全然違う場所で会ったことがある……違う世界で!!場所は、大学……君の名は…イ、リ、エ……」
気味が悪くなって走り出し、時間が経って過去に戻っていた。
『白蘭が、違う世界で出会った入江さんを認識した…?』
「ど、どういうこと!?」
「この時は、僕も何が何だか分からなかったさ。白蘭サンがこの時手に入れた能力は、この後のタイムトラベルで分かることになる…」
「また行ったの?」
聞き返すツナに入江は苦笑する。
ミュージシャンになったあの未来が許せなくて、大学を目指すことにした。
そして1年後、未来を確かめに行ったのだ、と。
ところが、3回目のタイムトラベルは入江の予想をまた裏切った。
世界は荒廃し……戦争で焼け野原となっていたのだ。
---
-----
-----------
「(マーを開匣するべきかしら…)」
チョイスの終了に伴い、蜜柑は白蘭や真6弔花に合流する必要があった。
マーを出して位置を調べてから向かおうとした、その時。
-「蜜柑?聞こえてる?」
「白蘭……はい、聞こえています。」
-「良かった良かった。僕ら今ね、綱吉クン達のトコに向かってるから蜜柑もそっち来て。えーっとね、桔梗とトリカブトがいるトコ♪」
「分かりました、そちらに直接向かいます。」
手首にあるレーダーを見て、蜜柑は桔梗の位置を確認する。
しかし、歩き出そうとすると右足の傷が痛んだ。
尾羽のナイフに、ひときわ深く傷を付けられたようだ。
「つっ……」
-「蜜柑?怪我、痛むかい?」
「…いえ、すぐ治りますから。」
-「……そっか、ピグちゃんがいれば晴の炎も使えるもんね♪」
「はい。」
-「じゃ、一旦切るねー♪」
しばしの沈黙の後、白蘭は軽く俯く。
長めの前髪が、その目元を隠した。
「びゃくらーん、どしたの?」
「ん?別に、何でも無いよ。ただ…」
首を傾げるブルーベルに、白蘭はいつも通りの張り付けたような笑顔を見せる。
「…奇跡ってあるのかなーって思って。」
---
------
------------
隠れていた一般人に保護された入江は、その時代の携帯端末を見る。
そこには、戦争を起こして世界征服を成し遂げた独裁者の演説が流れていた……
その名は、白蘭。
「そんな!!」
「何故ヤツが!?」
「僕も何かの間違いだと思ったよ……悪い夢だとね。だからその後も出来る限りの変化を起こして、何度もタイムトラベルを試みた。」
けれど、何度試しても全ての未来が白蘭に支配されていたのだ。
『全てが…!?』
「白蘭のヤツ、何をしたんだ?」
「僕が目覚めさせてしまった能力を、己の欲のために悪用したんだ。彼は、どのパラレルワールドでも一番に知識を有し、先端技術を得て、強力な軍を作った……」
「そ、そんなこと……白蘭の能力って何なの!?」
「パラレルワールドとは現実と並行している、独立した別の世界だ……」
それゆえに、どんな人間も他のパラレルワールドのことは知り得ない。
まして、交わったり関わったりすることなどあるハズがない。
「だが白蘭サンは、同時刻のパラレルワールドにいる全ての自分の知識と思惟を共有できるんだ!」
『知識と思惟の、共有…?』
告げられた白蘭の力に、場にいる檸檬以外の全員が驚き口をつぐんだ。
「う……」
ツナの呼び掛けにうっすらと目を開けた入江は、消えそうな声で尋ねる。
「……チョイスは…どうなった…?」
「…ゴメン、負けたんだ……」
「何だって!?そんなことは許されない!!勝たなきゃ……勝つんだ!!」
まだ戦おうと起き上がる入江に、獄寺が「動くな」と怒鳴る。
チェルベッロはチョイスの終了を宣告し、全通話回線を開放した。
それにより、入江の声はミルフィオーレの観覧席にも、遠く離れた檸檬と蜜柑にも伝わる。
『(入江さん……)』
悔しさと戸惑いを見せる檸檬を前に、蜜柑は握っていた銃を匣に戻す。
『どうして…何で銃を下ろすの!?まだ決着は…』
驚く檸檬の問いに答えたのは、蜜柑ではなくチェルベッロだった。
「先ほども申しました通り、チョイスの終了は貴女方の戦いの終了を意味します。」
「そう……ミルフィオーレの勝ちよ。姉さんは白蘭によって殺される。ボンゴレの人間達と共にね。」
『(そうだ、ツナ達は…!)』
ハッとした檸檬は、チェルベッロに聞く。
『バトルが終わったんなら、あたしは向こうに移動しても?』
「構いません。」
空間移動でツナや入江がいる場所へ行った檸檬を、蜜柑は止めなかった。
ピグを匣に戻し、セレネの尾羽による傷の程度を確認しながら立ち上がった。
ファレノプシス・パラドックス
「ダメだ正一君!動いたらお腹から血が!!」
「てめー死にてーのか!!」
「死んだっていいさ!白蘭サンに勝てるなら喜んで死ぬ!!」
入江の言葉に、ツナと獄寺は戸惑い言葉を失う。
少し前から募っていた入江の異常な覚悟に対する疑問……それを爆発させるかのように、ツナは問いかけた。
「何故こんなになってまで白蘭を倒すことに執念を燃やすのか…分からないよ!!」
「…え?」
今度は入江の方がフリーズした。
ツナ達が疑問を抱いてるのに、今まで気付けなかったことに対する困惑。
「人類のためとかいくら理屈を聞いても…自分には遠い話のようで、ついていけなくなる時があるんだ……」
「10代目のおっしゃる通りだ……。過去に戻るためってならいいが、この時代のことを片付けるためにガキの俺達が戦うってのがピンとこねぇぜ…」
『ツナ!隼人!入江さん!!』
そこに、空間移動をしてきた檸檬が声をかける。
驚いてそちらを向いたツナは、檸檬が右足を引きずりながら歩いているのに気付く。
「檸檬!だ、大丈夫…!?」
『うん、何とか……蜜柑と、あんまりちゃんと話せなかったけど…』
「無事に来たってことは、勝ったのか…?」
『ううん……チョイスが終わったからって、チェルベッロにストップかけられて…』
眉を下げる檸檬は、入江の怪我を見て青ざめる。
『入江さん…!』
「ぼ、僕は大丈夫だよ……それより、本当にすまない。僕は忙しさにかまけて話すのを放棄してた。」
「正一君……教えてよ、どうしてそこまで白蘭を…?白蘭と何があったの?」
「…全て話すよ……いや、むしろ聞いてもらいたい……」
話は、11年前に遡る。
並盛に住んでいた入江は、ある日ランボを助けたことによりボヴィーノファミリーからお礼の木箱をもらった。
そこにはランボ宛の10年バズーカの弾も入っていたが、返すタイミングを失ったまま部屋にしまってあった。
それを、掃除中に誤って足の上に落としてしまう。
10年後の入江は、アメリカの工科系大学に通っていたらしく、少年の入江はそこに行き着く。
身分証や新聞の日付で10年後だと理解し、怖くなった入江は荷物を持ったまま学校の中庭へ走った。
そこでぶつかったのが……白蘭だった。
---「いててて…」
---「……大丈夫かい君?」
---「あ…日本語…」
落とした身分証を見て、白蘭は入江の弟だと勘違いしていた。
入江はすぐに謝って駆けだし、しばらくして過去に帰った。
「白蘭と初めて会ったのは未来だったんだ!」
「……話自体はいたって普通のタイムトラベルだな。」
『すぐに帰れたみたいだし…』
「ああ。あの時はまだ白蘭サンも“ただの人”だったしね。」
過去に戻った入江は、タイムトラベルをしたことに興奮したと同時に、自分の夢であるミュージシャンになってなかったことに落ち込んだ。
そこで、未来を変えようと考えた。
「未来を変える?そんなこと…」
「過去を変えれば未来も変わる……未来は1つじゃないんだよ。」
「パラレルワールドだな。」
不意に聞こえた声に振り向くツナ、獄寺、檸檬。
『みんな!』
「早く正一君の処置を!!」
バジル、了平、クローム、フゥ太、ジャンニーニ、ディーノ、そしてリボーンが観覧席からやって来たのだ。
「あ…スパナは!?」
「もう向こうで毒サソリ達が処置をしている!」
「正一は俺が診てやる。」
スパナの身を案じる正一の傷を診て、リボーンは了平に晴れゴテを開匣するように言った。
その一方でツナが尋ねる。
「そう言えば昔、大人ランボも言ってたよ!そのパラ…」
「パラソルワールドとは何だ!?傘か?」
「パラレルだっ、バカ!!」
それは、世界が枝分かれしていき、色んなパターンの未来が存在するという考え。
「つまり…“もしも”の世界が実際にあるってこと?」
「そうだ。“もしも”の数だけな。」
「だがこの世に“もしも”なんてたくさんあるぞ!!」
『だから無数の分岐で無数のパラレルワールドが存在するってことになるんだね…。』
「その通りだよ、檸檬さん。」
入江が目指したのは、“もしも自分がミュージシャンになっていた場合”の未来。
それを実現させようと、学校の教科書を全部燃やし、進路指導票に「ミュージシャンになれなきゃ死んでやる!」と書いた。
そうして過去の状況を変えて、もう一度10年後に向かった。
きちんと未来は変わっていて、入江が行き着いたのは外国の町外れの廃れた飲み屋だった。
自分を囲むのは見るからに普通ではない人間達。
その場所でミュージシャンとして働いていたらしいが……入江は金銭トラブルを抱えてたらしく、ギャングに追われていた。
追手たちは、入江が10年バズーカで入れ替わった存在などとは知らず、入江少年を追い回す。
「おかしいだろ…?僕はミュージシャンには向いてなかったみたいだ……」
「そんな…」
「そして僕は、そこで2人の人間に出会う…」
『2人?』
疑問符を浮かべる檸檬に、入江は懐かしげな瞳を向けた。
「今となっては信じられない。僕をギャング集団から救ってくれたのは……蜜柑さんだったんだ。」
『蜜柑!?』
走って逃げていた入江は、30秒もしないうちに向かいから来た人間にぶつかった。
その人物こそ、その世界でフリーの殺し屋をしていた蜜柑だったのである。
---「入江正一さん…?」
---「えっ…あ…」
---「待てコラァ!!」
---「間違いないわね。」
---「あ、あの…!」
「彼女は…蜜柑さんは、不当な返済を迫る輩を始末する殺し屋だったみたいだ。あの世界の僕は依頼人だったらしい。」
蜜柑は、入江を追いかけていたギャングを一瞬にして撃ち殺してしまった。
そして、口をパクパクさせる入江少年を振り返り、小さな笑みを零す。
---「これでいいかしら?これからは、借金相手はちゃんと選ぶのよ?」
---「は…はい……」
「…僕が蜜柑さんの笑顔を見たのは、それが最初で最後だった。この世界で同じミルフィオーレという組織にいたけど……全然…」
『蜜柑が、他の世界で……』
「それでも飲み屋に戻るのが怖かったから、蜜柑さんが去った後も走って大通りに向かった。」
しかし、曲がり角で人にぶつかってしまう………白蘭に。
---「す…すみません!……あっ!」
---「君、日本人かい?」
---「ええ…あの…」
彼と出会ったのは違う世界での出来事だから、何事もなく立ち去れると入江は思っていた。
ところが、その予想は覆される。
---「あれ?ちょっと待って。んー……君、何処かで会わなかったっけ?」
---「え…いや、人違いだと思います。」
何とかやり過ごそうとした入江だが、白蘭は頭痛を引き起こしてその場に座り込んでしまう。
---「何か…分かりそうだ……何かが…大事なことが解けそうだよ……」
そう呟いた後、白蘭は入江を真っ直ぐ見つめて。
---「君とは、全然違う場所で会ったことがある……違う世界で!!場所は、大学……君の名は…イ、リ、エ……」
気味が悪くなって走り出し、時間が経って過去に戻っていた。
『白蘭が、違う世界で出会った入江さんを認識した…?』
「ど、どういうこと!?」
「この時は、僕も何が何だか分からなかったさ。白蘭サンがこの時手に入れた能力は、この後のタイムトラベルで分かることになる…」
「また行ったの?」
聞き返すツナに入江は苦笑する。
ミュージシャンになったあの未来が許せなくて、大学を目指すことにした。
そして1年後、未来を確かめに行ったのだ、と。
ところが、3回目のタイムトラベルは入江の予想をまた裏切った。
世界は荒廃し……戦争で焼け野原となっていたのだ。
---
-----
-----------
「(マーを開匣するべきかしら…)」
チョイスの終了に伴い、蜜柑は白蘭や真6弔花に合流する必要があった。
マーを出して位置を調べてから向かおうとした、その時。
-「蜜柑?聞こえてる?」
「白蘭……はい、聞こえています。」
-「良かった良かった。僕ら今ね、綱吉クン達のトコに向かってるから蜜柑もそっち来て。えーっとね、桔梗とトリカブトがいるトコ♪」
「分かりました、そちらに直接向かいます。」
手首にあるレーダーを見て、蜜柑は桔梗の位置を確認する。
しかし、歩き出そうとすると右足の傷が痛んだ。
尾羽のナイフに、ひときわ深く傷を付けられたようだ。
「つっ……」
-「蜜柑?怪我、痛むかい?」
「…いえ、すぐ治りますから。」
-「……そっか、ピグちゃんがいれば晴の炎も使えるもんね♪」
「はい。」
-「じゃ、一旦切るねー♪」
しばしの沈黙の後、白蘭は軽く俯く。
長めの前髪が、その目元を隠した。
「びゃくらーん、どしたの?」
「ん?別に、何でも無いよ。ただ…」
首を傾げるブルーベルに、白蘭はいつも通りの張り付けたような笑顔を見せる。
「…奇跡ってあるのかなーって思って。」
---
------
------------
隠れていた一般人に保護された入江は、その時代の携帯端末を見る。
そこには、戦争を起こして世界征服を成し遂げた独裁者の演説が流れていた……
その名は、白蘭。
「そんな!!」
「何故ヤツが!?」
「僕も何かの間違いだと思ったよ……悪い夢だとね。だからその後も出来る限りの変化を起こして、何度もタイムトラベルを試みた。」
けれど、何度試しても全ての未来が白蘭に支配されていたのだ。
『全てが…!?』
「白蘭のヤツ、何をしたんだ?」
「僕が目覚めさせてしまった能力を、己の欲のために悪用したんだ。彼は、どのパラレルワールドでも一番に知識を有し、先端技術を得て、強力な軍を作った……」
「そ、そんなこと……白蘭の能力って何なの!?」
「パラレルワールドとは現実と並行している、独立した別の世界だ……」
それゆえに、どんな人間も他のパラレルワールドのことは知り得ない。
まして、交わったり関わったりすることなどあるハズがない。
「だが白蘭サンは、同時刻のパラレルワールドにいる全ての自分の知識と思惟を共有できるんだ!」
『知識と思惟の、共有…?』
告げられた白蘭の力に、場にいる檸檬以外の全員が驚き口をつぐんだ。