日常編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
放課後。
黄色い声援の中から、聞こえて来るのは友達の声。
「サンキュー!」という武のものと、
「てめーら付いて来んじゃねぇ!」という隼人のもの。
そう、バレンタインのチョコを渡す女子達が、2人に集まっているのである。
そんな中、1コもチョコを貰っていない男子が1人。
『ツーナっ!』
「檸檬、どしたの?」
ふふふ、と笑う檸檬。
ツナは首をかしげる。
『はいっ!コレ、どうぞ♪』
檸檬がツナに差し出したのは、綺麗にラッピングされた小さな箱。
「檸檬!これって…!!」
『バレンタインのチョコだよ!』
その瞬間、クラス中の男子が2人の方を向いた。
「そ、そんな…!」
「檸檬ちゃんがダメツナにィィィィ!!!??」
「やめてくれーっ!!」
そんな声を聞きながら、首をかしげる檸檬。
ツナの方に向き直り、もう一度箱を差し出す。
『貰って。これはツナの為に作ったんだから』
「ほ、ホントにいいの!?」
『勿論っ!』
檸檬はにっこり笑う。
ツナは顔を真っ赤にしながら受け取った。
「あ、ありがと…」
『どういたしまして。ま、ツナにとっちゃ、京子のチョコには及ばないけどね』
「(そ、そうだ京子ちゃん!誰かにチョコあげたのかなー)」
ツナは檸檬の目の前で、目を白黒させ始めた。
『(ツナ…面白いなぁ…)』
「直接聞けばいいじゃねーか」
「『リボーン!!』」
「さっさと行け!」
ズガン!
死ぬ気弾を撃たれたツナは、京子の後を追いかけて行った。
『…行っちゃった』
ふふっと笑う檸檬。
すると、1人の男子が檸檬に話しかけた。
「檸檬さん…ダメツナが本命なんですか?」
『はい!?』
“本命”の意味をよく知らない檸檬。
『えっと…何を勘違いしてるか知らないけど、一応クラスのみんなの分もあるよ?』
「「「「えっ!!?」」」」
檸檬はカバンの中から大きな袋を取り出した。
『作り過ぎちゃったみたいで……1個1個包んであるから何個でも取っていいよ』
「「「「よっしゃあああああ!!!!!」」」」
檸檬のチョコ争奪戦が始まった。
『(軽く50は作ったからなぁ…余っちゃうかも……)』
皆の自分に対する評価も知らず、そんな事を考えてぼーっとしている檸檬。
すると、
「なぁ檸檬、俺の分はねぇの?」
『武!』
山本が、後ろからいきなり檸檬の首の辺りを片手で抱きしめた。
もう一方の手には、他の女子達から貰ったチョコがたんまり入った袋が握られている。
『武、チョコ好きなの?そんなに貰ったのに』
抱きつかれた事には大して反応せず、山本を見上げる檸檬。
「まぁなっ」
山本は、自分を見上げる檸檬の予想以上に可愛い表情を見て、顔を赤らめながら返事をする。
すると檸檬は、カバンの中からツナにあげた物と同じくらいの大きさの箱を取り出した。
『ちゃーんと作ったよ。はい、どーぞ♪』
まだ自分を離さない山本に、後ろ向きに箱を渡す。
「やりぃ~!サンキュ」
ちゅ、
山本は小さなキスを檸檬の頬に落とした。
『どういたしまして』
それを見て黙っていないのが、獄寺。
「てめー野球バカ!檸檬に何してやがる!」
『だーかーら!どーして隼人が怒るのよ!別にいいでしょ?それに……またそんなリンゴみたいになって……』
「なっ…!!」
「ホントだな!獄寺、リンゴみてーだぞ!」
「うるせー!!てめーは黙れ!」
獄寺の後ろからは、チョコを受け取ってもらいたくて付いて来ているたくさんの女子。
檸檬はピンと閃いた。
『隼人、』
「あ?」
『隼人にもあるよ、チョコ』
「なっ……俺は、べっ、別に……」
獄寺は檸檬から目を逸らした。
「なんだ、獄寺。いらねーの?なんなら俺、貰うぜ?」
「ばっ、何言ってんだ!いらねーなんて誰が言った!?」
『じゃあ隼人、あげるからさ、あたしのお願い聞いて?』
「あ!?」
“お願い”と言われて少しドキッとする獄寺。
檸檬は山本の腕を抜け、獄寺の耳もとでこう言った。
『後ろにいる女の子達のチョコ、全部貰ってくれたら、あたしもチョコあげる♪』
「はぁっ!?」
耳もとで言われて、真っ赤になる獄寺。
檸檬はにこっと笑った。
『わかった?』
「…おぅ」
獄寺がくるっと振り返り、待機していた女子達に、
「もらってやるよ…」と言ったのは、それから5秒後の事。
「…ってか、持てねーよ!!」
全てのチョコを受け取ったものの、あまりの量に持ちきれない獄寺。
『袋、あげようか?』
檸檬が言った。
「…おぅ」
『何か隼人、今日その返事ばっかだね。』
くすっと笑う檸檬に、獄寺は再び赤面する。
『じゃあ、袋と…コレ!』
「ん?」
檸檬の手には、取っ手つきの大きな袋と、ツナと山本にあげたのと同じ大きさの箱。
『どうぞ♪』
「さ、サンキュ」
『袋も貰っちゃっていいから。あたしは使わないし』
檸檬はホワイトデーの存在を完全に忘れている。
「そっか…あんがとな」
頑張ってそれだけ言った。
檸檬はまたにっこり笑う。
『どういたしまして』
獄寺は大きな袋にチョコを詰めはじめる。
檸檬のチョコは一番上にして。
「なぁ、檸檬っ!」
『どしたの?武。』
「(またあの野球バカ…)」
少し不機嫌になる獄寺。
「今日、一緒に帰んねぇ?」
「なっ…!」
獄寺は思わず立ち上がる。
そのガタッという音に吃驚する檸檬。
『なぁに?どしたの隼人、変だよ?』
「い、いや、別に…」
『あのね、武。あたしまだ1人渡してない人がいるんだ…』
「「??」」
獄寺と山本は2人で頭上に疑問符を浮かべた。
『応接室に寄ってかなくちゃいけないの』
「「(雲雀かよ…)」」
『ごめんね、多分明日なら大丈夫!武が部活あっても待ってるから』
そう言って、残念そうな顔をする檸檬を見れば、誰だってこう言ってしまうだろう。
「いーよいーよ!じゃ、また今度な!」
『うん!』
「んじゃ獄寺、帰るか!」
「はぁ!?何でてめーと帰らなきゃいけねーんだよ!!」
「まーまー、そう言わずに、な?」
山本は獄寺の腕を引っ張って教室を出て行った。
「じゃーなー、檸檬」
『うん!また明日ー』
笑顔で手を振る檸檬の後ろでは、未だに檸檬のチョコ争奪戦が行われていた。
『さて、と!』
檸檬はカバンをぎゅっと持ち直す。
『(応接室に行かなくちゃ!)』
教室を出て、階段を上っていった。
---
--------
コンコン、
「誰?」
『1のA…』
「入っていいよ」
いつもの様に即答する雲雀。
檸檬の声が分からないハズがない。
ガチャ
『失礼しま-す』
「やぁ、檸檬」
『恭弥っ!』
ギュ-ッ
ちゅ、
いつもの様に、抱きついて頬にキスをする。
『会いたかったよ、恭弥♪』
いつもより甘えた声で言われ、少し驚く雲雀。
「何で?」
『今日は渡したい物があるの。あー…風紀委員だから没収、とかカタイ事は無しね!』
そう言うと檸檬は、カバンの中からツナ達と同じくらいの箱を取り出した。
『バレンタインチョコだよ♪』
「ワオ、思いっきり校則違反だね」
『だーかーらー、そういうカタイ事は無しって言ったでしょ?いらないならあたしが食べるけど』
「誰がいらないって言った?」
『(物凄い即答…)どーぞ!』
檸檬はチョコを渡す。
「開けるよ」
『うん!』
中に入っていたのは、普通の茶色くて丸いチョコレート。
『恭弥のは特別にしたんだ。甘いもの、どっちかって言うと苦手そうだったから、コーヒー風味のチョコにしたの』
「ふぅん」
へへっ、と笑う檸檬。
雲雀は赤くなるのを押さえて、チョコを一つ、パクッと食べた。
檸檬は、ドキドキしながらそれを見守る。
コロコロと口の中でチョコを転がしているようだ。
「ナッツが入ってる…」
『ダメだった!?』
「大丈夫だよ」
檸檬はホッと胸を撫で下ろす。
雲雀はチョコを溶かしきった後、檸檬を見た。
「うん、おいしいよ」
『(う、わぁ…)』
久しぶりに見た雲雀の微笑みに、檸檬は一瞬見とれた。
『(さ、流石王子様フェイス…綺麗だなぁ)』
「檸檬?」
『えっ?あっ、な、何でもないよ!アハハッ!』
慌てふためく檸檬を見て、ふぅとため息をつく雲雀。
「また、でしょ?」
『え?』
雲雀はそれ以上何も言わなかった。
雲雀に自分の思考がバレたのを察した檸檬。
咄嗟に弁解する。
『だ、だって恭弥がカッコいいんだもん!しょうがないじゃん!』
真っ赤になって俯く檸檬を見て、雲雀はフッと笑った。
「檸檬は、可愛いね」
『え!?』
檸檬は驚いて顔を上げる。
雲雀は何事もなかったかの様に、2つ目のチョコレートを食べていた。
『(まったく…どこまでも王子様なんだからぁ)』
檸檬は力が抜けていくのを感じた。
だが、いつまでも此処に居るわけにはいかない。
今日は京子とハルが、ツナの家に来てチョコを作るのだ。
『じゃあ恭弥、あたしは今日は帰るね』
「もう?」
『ごめんね、ちょっと忙しいの。また明日ね』
ちゅ、
別れの挨拶をしてから、ふとドアのぶを握ったまま檸檬は問いかけた。
『あのさ、恭弥……』
「何?」
『恭弥は…ずっとあたしの友達でいてくれる?』
「……どうしたの、急に」
『な、何となく…』
目を泳がせる檸檬を見て、雲雀はいつもと変わらぬ調子で答えた。
「今更でしょ、そんな事」
『え…?』
「初めて応接室に来た時、自分で何て言ったか忘れたの?」
---『だって、恭弥は日本での友達第1号だもん』
「今更聞き直すなんて、檸檬らしくないよ」
『あ、そっか……そうだねっ♪……うん、分かった!』
檸檬は応接室を出て、ツナの家へと走って帰った。
その小さな変化を雲雀にも感じ取られた事に、気付かないまま。
---
------
-----------
『ただいまーっ!』
「お帰りなさい、檸檬ちゃん」
『あれ?奈々さん、この匂いは?』
なんかチョコレートみたいな、でもどこか毒々しいような…。
「今ね、京子ちゃんとハルちゃんが、台所でバレンタインのお菓子作ってるのよ」
『えっ!?それってまさか、ビアンキ姉さんも一緒ですか?』
「えぇ、そうみたいだったけど」
途端に檸檬は青ざめていく。
『(めちゃくちゃヤバいじゃん!!!)』
急いで2階に上がった。
『ツナ!今、台所で!!』
部屋の中には、ツナとリボーン、そしてたんこぶの出来たフゥ太がいた。
「檸檬、お帰り……そうなんだよ、ビアンキがポイズンチョコ作ってんだよ」
『ど、どうするの!!?』
「今考えてんだけど…………あ!!大人ランボだ!」
『そっか!でも、囮になってくれるかな…?』
「さぁ…」
と、そこに、
「若き…ボンゴレ…檸檬さん……」
「『噂をすれば…………!!?』」
振り向いた先にいたのは、顔面血だらけの大人ランボだった。
『ら、ランボちゃん!どーしたの!?』
「暗殺されちゃったーーー!!?」
「ツナ兄、檸檬姉、救急車だよ!」
「待って…!」
騒ぎ出す檸檬達を止めるランボ。
「これは…鼻血です」
「「『鼻血ーーー!!?』」」
「僕は女性の頼みは断らない主義なので、頂いたチョコは全て食べようと努力する。バレンタインデーでは必ずこのような惨事になるんです」
「「(しょーもねーっっ!)」」
ツナとフゥ太が呆れていると、檸檬はカバンの中から小さな箱を取り出して、ため息をついた。
『そーだったの…じゃぁ、このチョコは子供のランボちゃんにあげなきゃいけないね』
「えっ!?」
ランボはバッと起き上がった。
『ら、ランボちゃん!?』
「檸檬さん、そのチョコ下さい!」
『え!で、でも…』
「下さい!」
ランボは檸檬の目の前で正座をした。
『…何で?』
「実は、10年後の世界では、檸檬さんは長い出張任務に出掛けていて、留守にしているんです。よって、檸檬さんからチョコを頂けないんです」
『そうなの…あたし、大変だねぇ』
檸檬はしみじみと10年後の自分の生活を考えた。
『うん、分かった!じゃぁこのチョコは大人ランボちゃんにあげる!』
「ありがとうございます」
ランボは血まみれの顔でにこりと笑った。
『どういたしまして♪』
檸檬も笑い返した。
ランボが貰ったチョコを大事にポケットに入れたその時。
「リボーン、ちょっといいかしら?味はビターがいい?それともスイート?」
『ビ、ビアンキ姉さん!!』
「こ…こんな時に!!」
ビアンキが、視界に入った大人ランボをロメオと勘違いして、調理器具を叩き付ける。
そして、
「ポイズンクッキング串刺しパスタ!!覚悟ロメオ!!!」
「『ランボ(ちゃん)!!』」
「死ね!」
串刺しパスタを振り下ろすビアンキ。
だが、その一瞬前に、リボーンがツナに死ぬ気弾を撃った。
「死ぬ気でビアンキをおびき出す!!」
次の瞬間、ツナがランボを姫だっこして立っていた。
『ツナ!』
「すごいや、またランキングデータを超えてるよ!!」
ツナはそのまま窓から屋根に飛び下りて、いろんな屋根の上を走って逃げた。
とにかく自分の家から遠くへ。
ビアンキは勿論、その後を追う。
『(よし、この隙に…)』
檸檬は台所へ向かった。
「あれ?檸檬ちゃん!?」
台所に行くと、京子とハルがチョコレートを器によそっていた。
『京子、ハル、それってチョコフォンデュだよね!?』
「うん」
「そうだけど…」
『クラッカーは!?』
「あ、それならビアンキさんが作った生地がまだそこに…」
ハルの指差した先には、変な煙の出たクラッカーの生地があった。
『(良かった-!まだ焼かれてないみたい)』
檸檬は冷蔵庫にしまっておいた、ランボ用のチョコクッキーの生地の残りを、それに混ぜた。
『(これで少しは中和されるはず…)』
ビアンキが帰って来る前に、檸檬は台所から立ち去った。
---
------
-----------
そして、
「「男性の皆様お待たせしましたー!バレンタインチョコ、できましたーーーっ!!」」
「「いい匂い!!」」
『(どうかちゃんと食べられますように…)』
チョコフォンデュだという事を聞いて、喜ぶツナとフゥ太。
「さぁ、召し上がれ。クラッカーは私が作ったわ」
「「(えぇ~っ!!?)」」
「どうぞ」
カタン、とクラッカーの皿を置く。
ツナの顔は青ざめていた。
『ツナ!』
あたふたするツナに、檸檬はそっと耳打ちした。
『あたしが普通の生地混ぜたから、毒は少しだけ中和されてると思うの。試しに一枚、食べてみて』
「檸檬…」
檸檬にそう言われてツナが断れるはずもなく、恐る恐るクラッカーを手に取り、チョコを付ける。
そして、
パクッ
「(ちょっと苦しいけど)お、おいしい……!」
「「良かった~っ」」
ツナの感想を聞き、喜ぶ京子とハル。
ホッと胸を撫で下ろす檸檬。
「檸檬、ありがとう」
『いーえ、あたしだって、京子とハルが悲しむ顔は見たくないもん。ツナがおいしいって言ってくれれば、2人は喜ぶから』
「そ、そうだね!」
何はともあれ、誰も死なないバレンタインになりましたとさ。
黄色い声援の中から、聞こえて来るのは友達の声。
「サンキュー!」という武のものと、
「てめーら付いて来んじゃねぇ!」という隼人のもの。
そう、バレンタインのチョコを渡す女子達が、2人に集まっているのである。
そんな中、1コもチョコを貰っていない男子が1人。
『ツーナっ!』
「檸檬、どしたの?」
ふふふ、と笑う檸檬。
ツナは首をかしげる。
『はいっ!コレ、どうぞ♪』
檸檬がツナに差し出したのは、綺麗にラッピングされた小さな箱。
「檸檬!これって…!!」
『バレンタインのチョコだよ!』
その瞬間、クラス中の男子が2人の方を向いた。
「そ、そんな…!」
「檸檬ちゃんがダメツナにィィィィ!!!??」
「やめてくれーっ!!」
そんな声を聞きながら、首をかしげる檸檬。
ツナの方に向き直り、もう一度箱を差し出す。
『貰って。これはツナの為に作ったんだから』
「ほ、ホントにいいの!?」
『勿論っ!』
檸檬はにっこり笑う。
ツナは顔を真っ赤にしながら受け取った。
「あ、ありがと…」
『どういたしまして。ま、ツナにとっちゃ、京子のチョコには及ばないけどね』
「(そ、そうだ京子ちゃん!誰かにチョコあげたのかなー)」
ツナは檸檬の目の前で、目を白黒させ始めた。
『(ツナ…面白いなぁ…)』
「直接聞けばいいじゃねーか」
「『リボーン!!』」
「さっさと行け!」
ズガン!
死ぬ気弾を撃たれたツナは、京子の後を追いかけて行った。
『…行っちゃった』
ふふっと笑う檸檬。
すると、1人の男子が檸檬に話しかけた。
「檸檬さん…ダメツナが本命なんですか?」
『はい!?』
“本命”の意味をよく知らない檸檬。
『えっと…何を勘違いしてるか知らないけど、一応クラスのみんなの分もあるよ?』
「「「「えっ!!?」」」」
檸檬はカバンの中から大きな袋を取り出した。
『作り過ぎちゃったみたいで……1個1個包んであるから何個でも取っていいよ』
「「「「よっしゃあああああ!!!!!」」」」
檸檬のチョコ争奪戦が始まった。
『(軽く50は作ったからなぁ…余っちゃうかも……)』
皆の自分に対する評価も知らず、そんな事を考えてぼーっとしている檸檬。
すると、
「なぁ檸檬、俺の分はねぇの?」
『武!』
山本が、後ろからいきなり檸檬の首の辺りを片手で抱きしめた。
もう一方の手には、他の女子達から貰ったチョコがたんまり入った袋が握られている。
『武、チョコ好きなの?そんなに貰ったのに』
抱きつかれた事には大して反応せず、山本を見上げる檸檬。
「まぁなっ」
山本は、自分を見上げる檸檬の予想以上に可愛い表情を見て、顔を赤らめながら返事をする。
すると檸檬は、カバンの中からツナにあげた物と同じくらいの大きさの箱を取り出した。
『ちゃーんと作ったよ。はい、どーぞ♪』
まだ自分を離さない山本に、後ろ向きに箱を渡す。
「やりぃ~!サンキュ」
ちゅ、
山本は小さなキスを檸檬の頬に落とした。
『どういたしまして』
それを見て黙っていないのが、獄寺。
「てめー野球バカ!檸檬に何してやがる!」
『だーかーら!どーして隼人が怒るのよ!別にいいでしょ?それに……またそんなリンゴみたいになって……』
「なっ…!!」
「ホントだな!獄寺、リンゴみてーだぞ!」
「うるせー!!てめーは黙れ!」
獄寺の後ろからは、チョコを受け取ってもらいたくて付いて来ているたくさんの女子。
檸檬はピンと閃いた。
『隼人、』
「あ?」
『隼人にもあるよ、チョコ』
「なっ……俺は、べっ、別に……」
獄寺は檸檬から目を逸らした。
「なんだ、獄寺。いらねーの?なんなら俺、貰うぜ?」
「ばっ、何言ってんだ!いらねーなんて誰が言った!?」
『じゃあ隼人、あげるからさ、あたしのお願い聞いて?』
「あ!?」
“お願い”と言われて少しドキッとする獄寺。
檸檬は山本の腕を抜け、獄寺の耳もとでこう言った。
『後ろにいる女の子達のチョコ、全部貰ってくれたら、あたしもチョコあげる♪』
「はぁっ!?」
耳もとで言われて、真っ赤になる獄寺。
檸檬はにこっと笑った。
『わかった?』
「…おぅ」
獄寺がくるっと振り返り、待機していた女子達に、
「もらってやるよ…」と言ったのは、それから5秒後の事。
「…ってか、持てねーよ!!」
全てのチョコを受け取ったものの、あまりの量に持ちきれない獄寺。
『袋、あげようか?』
檸檬が言った。
「…おぅ」
『何か隼人、今日その返事ばっかだね。』
くすっと笑う檸檬に、獄寺は再び赤面する。
『じゃあ、袋と…コレ!』
「ん?」
檸檬の手には、取っ手つきの大きな袋と、ツナと山本にあげたのと同じ大きさの箱。
『どうぞ♪』
「さ、サンキュ」
『袋も貰っちゃっていいから。あたしは使わないし』
檸檬はホワイトデーの存在を完全に忘れている。
「そっか…あんがとな」
頑張ってそれだけ言った。
檸檬はまたにっこり笑う。
『どういたしまして』
獄寺は大きな袋にチョコを詰めはじめる。
檸檬のチョコは一番上にして。
「なぁ、檸檬っ!」
『どしたの?武。』
「(またあの野球バカ…)」
少し不機嫌になる獄寺。
「今日、一緒に帰んねぇ?」
「なっ…!」
獄寺は思わず立ち上がる。
そのガタッという音に吃驚する檸檬。
『なぁに?どしたの隼人、変だよ?』
「い、いや、別に…」
『あのね、武。あたしまだ1人渡してない人がいるんだ…』
「「??」」
獄寺と山本は2人で頭上に疑問符を浮かべた。
『応接室に寄ってかなくちゃいけないの』
「「(雲雀かよ…)」」
『ごめんね、多分明日なら大丈夫!武が部活あっても待ってるから』
そう言って、残念そうな顔をする檸檬を見れば、誰だってこう言ってしまうだろう。
「いーよいーよ!じゃ、また今度な!」
『うん!』
「んじゃ獄寺、帰るか!」
「はぁ!?何でてめーと帰らなきゃいけねーんだよ!!」
「まーまー、そう言わずに、な?」
山本は獄寺の腕を引っ張って教室を出て行った。
「じゃーなー、檸檬」
『うん!また明日ー』
笑顔で手を振る檸檬の後ろでは、未だに檸檬のチョコ争奪戦が行われていた。
『さて、と!』
檸檬はカバンをぎゅっと持ち直す。
『(応接室に行かなくちゃ!)』
教室を出て、階段を上っていった。
---
--------
コンコン、
「誰?」
『1のA…』
「入っていいよ」
いつもの様に即答する雲雀。
檸檬の声が分からないハズがない。
ガチャ
『失礼しま-す』
「やぁ、檸檬」
『恭弥っ!』
ギュ-ッ
ちゅ、
いつもの様に、抱きついて頬にキスをする。
『会いたかったよ、恭弥♪』
いつもより甘えた声で言われ、少し驚く雲雀。
「何で?」
『今日は渡したい物があるの。あー…風紀委員だから没収、とかカタイ事は無しね!』
そう言うと檸檬は、カバンの中からツナ達と同じくらいの箱を取り出した。
『バレンタインチョコだよ♪』
「ワオ、思いっきり校則違反だね」
『だーかーらー、そういうカタイ事は無しって言ったでしょ?いらないならあたしが食べるけど』
「誰がいらないって言った?」
『(物凄い即答…)どーぞ!』
檸檬はチョコを渡す。
「開けるよ」
『うん!』
中に入っていたのは、普通の茶色くて丸いチョコレート。
『恭弥のは特別にしたんだ。甘いもの、どっちかって言うと苦手そうだったから、コーヒー風味のチョコにしたの』
「ふぅん」
へへっ、と笑う檸檬。
雲雀は赤くなるのを押さえて、チョコを一つ、パクッと食べた。
檸檬は、ドキドキしながらそれを見守る。
コロコロと口の中でチョコを転がしているようだ。
「ナッツが入ってる…」
『ダメだった!?』
「大丈夫だよ」
檸檬はホッと胸を撫で下ろす。
雲雀はチョコを溶かしきった後、檸檬を見た。
「うん、おいしいよ」
『(う、わぁ…)』
久しぶりに見た雲雀の微笑みに、檸檬は一瞬見とれた。
『(さ、流石王子様フェイス…綺麗だなぁ)』
「檸檬?」
『えっ?あっ、な、何でもないよ!アハハッ!』
慌てふためく檸檬を見て、ふぅとため息をつく雲雀。
「また、でしょ?」
『え?』
雲雀はそれ以上何も言わなかった。
雲雀に自分の思考がバレたのを察した檸檬。
咄嗟に弁解する。
『だ、だって恭弥がカッコいいんだもん!しょうがないじゃん!』
真っ赤になって俯く檸檬を見て、雲雀はフッと笑った。
「檸檬は、可愛いね」
『え!?』
檸檬は驚いて顔を上げる。
雲雀は何事もなかったかの様に、2つ目のチョコレートを食べていた。
『(まったく…どこまでも王子様なんだからぁ)』
檸檬は力が抜けていくのを感じた。
だが、いつまでも此処に居るわけにはいかない。
今日は京子とハルが、ツナの家に来てチョコを作るのだ。
『じゃあ恭弥、あたしは今日は帰るね』
「もう?」
『ごめんね、ちょっと忙しいの。また明日ね』
ちゅ、
別れの挨拶をしてから、ふとドアのぶを握ったまま檸檬は問いかけた。
『あのさ、恭弥……』
「何?」
『恭弥は…ずっとあたしの友達でいてくれる?』
「……どうしたの、急に」
『な、何となく…』
目を泳がせる檸檬を見て、雲雀はいつもと変わらぬ調子で答えた。
「今更でしょ、そんな事」
『え…?』
「初めて応接室に来た時、自分で何て言ったか忘れたの?」
---『だって、恭弥は日本での友達第1号だもん』
「今更聞き直すなんて、檸檬らしくないよ」
『あ、そっか……そうだねっ♪……うん、分かった!』
檸檬は応接室を出て、ツナの家へと走って帰った。
その小さな変化を雲雀にも感じ取られた事に、気付かないまま。
---
------
-----------
『ただいまーっ!』
「お帰りなさい、檸檬ちゃん」
『あれ?奈々さん、この匂いは?』
なんかチョコレートみたいな、でもどこか毒々しいような…。
「今ね、京子ちゃんとハルちゃんが、台所でバレンタインのお菓子作ってるのよ」
『えっ!?それってまさか、ビアンキ姉さんも一緒ですか?』
「えぇ、そうみたいだったけど」
途端に檸檬は青ざめていく。
『(めちゃくちゃヤバいじゃん!!!)』
急いで2階に上がった。
『ツナ!今、台所で!!』
部屋の中には、ツナとリボーン、そしてたんこぶの出来たフゥ太がいた。
「檸檬、お帰り……そうなんだよ、ビアンキがポイズンチョコ作ってんだよ」
『ど、どうするの!!?』
「今考えてんだけど…………あ!!大人ランボだ!」
『そっか!でも、囮になってくれるかな…?』
「さぁ…」
と、そこに、
「若き…ボンゴレ…檸檬さん……」
「『噂をすれば…………!!?』」
振り向いた先にいたのは、顔面血だらけの大人ランボだった。
『ら、ランボちゃん!どーしたの!?』
「暗殺されちゃったーーー!!?」
「ツナ兄、檸檬姉、救急車だよ!」
「待って…!」
騒ぎ出す檸檬達を止めるランボ。
「これは…鼻血です」
「「『鼻血ーーー!!?』」」
「僕は女性の頼みは断らない主義なので、頂いたチョコは全て食べようと努力する。バレンタインデーでは必ずこのような惨事になるんです」
「「(しょーもねーっっ!)」」
ツナとフゥ太が呆れていると、檸檬はカバンの中から小さな箱を取り出して、ため息をついた。
『そーだったの…じゃぁ、このチョコは子供のランボちゃんにあげなきゃいけないね』
「えっ!?」
ランボはバッと起き上がった。
『ら、ランボちゃん!?』
「檸檬さん、そのチョコ下さい!」
『え!で、でも…』
「下さい!」
ランボは檸檬の目の前で正座をした。
『…何で?』
「実は、10年後の世界では、檸檬さんは長い出張任務に出掛けていて、留守にしているんです。よって、檸檬さんからチョコを頂けないんです」
『そうなの…あたし、大変だねぇ』
檸檬はしみじみと10年後の自分の生活を考えた。
『うん、分かった!じゃぁこのチョコは大人ランボちゃんにあげる!』
「ありがとうございます」
ランボは血まみれの顔でにこりと笑った。
『どういたしまして♪』
檸檬も笑い返した。
ランボが貰ったチョコを大事にポケットに入れたその時。
「リボーン、ちょっといいかしら?味はビターがいい?それともスイート?」
『ビ、ビアンキ姉さん!!』
「こ…こんな時に!!」
ビアンキが、視界に入った大人ランボをロメオと勘違いして、調理器具を叩き付ける。
そして、
「ポイズンクッキング串刺しパスタ!!覚悟ロメオ!!!」
「『ランボ(ちゃん)!!』」
「死ね!」
串刺しパスタを振り下ろすビアンキ。
だが、その一瞬前に、リボーンがツナに死ぬ気弾を撃った。
「死ぬ気でビアンキをおびき出す!!」
次の瞬間、ツナがランボを姫だっこして立っていた。
『ツナ!』
「すごいや、またランキングデータを超えてるよ!!」
ツナはそのまま窓から屋根に飛び下りて、いろんな屋根の上を走って逃げた。
とにかく自分の家から遠くへ。
ビアンキは勿論、その後を追う。
『(よし、この隙に…)』
檸檬は台所へ向かった。
「あれ?檸檬ちゃん!?」
台所に行くと、京子とハルがチョコレートを器によそっていた。
『京子、ハル、それってチョコフォンデュだよね!?』
「うん」
「そうだけど…」
『クラッカーは!?』
「あ、それならビアンキさんが作った生地がまだそこに…」
ハルの指差した先には、変な煙の出たクラッカーの生地があった。
『(良かった-!まだ焼かれてないみたい)』
檸檬は冷蔵庫にしまっておいた、ランボ用のチョコクッキーの生地の残りを、それに混ぜた。
『(これで少しは中和されるはず…)』
ビアンキが帰って来る前に、檸檬は台所から立ち去った。
---
------
-----------
そして、
「「男性の皆様お待たせしましたー!バレンタインチョコ、できましたーーーっ!!」」
「「いい匂い!!」」
『(どうかちゃんと食べられますように…)』
チョコフォンデュだという事を聞いて、喜ぶツナとフゥ太。
「さぁ、召し上がれ。クラッカーは私が作ったわ」
「「(えぇ~っ!!?)」」
「どうぞ」
カタン、とクラッカーの皿を置く。
ツナの顔は青ざめていた。
『ツナ!』
あたふたするツナに、檸檬はそっと耳打ちした。
『あたしが普通の生地混ぜたから、毒は少しだけ中和されてると思うの。試しに一枚、食べてみて』
「檸檬…」
檸檬にそう言われてツナが断れるはずもなく、恐る恐るクラッカーを手に取り、チョコを付ける。
そして、
パクッ
「(ちょっと苦しいけど)お、おいしい……!」
「「良かった~っ」」
ツナの感想を聞き、喜ぶ京子とハル。
ホッと胸を撫で下ろす檸檬。
「檸檬、ありがとう」
『いーえ、あたしだって、京子とハルが悲しむ顔は見たくないもん。ツナがおいしいって言ってくれれば、2人は喜ぶから』
「そ、そうだね!」
何はともあれ、誰も死なないバレンタインになりましたとさ。