未来編②
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『行くよセレネ、』
「みっ!」
セレネを肩に乗せて蜜柑に突っ込んで行く檸檬。
「ようやく殺し合いする気になったわね。」
『違うって言っても信じてくれないんでしょうっ?』
先ほどまでとは違い、蜜柑に斬りかかる檸檬。
メインウェポンにしているだけあって、手足と同じようにナイフを扱い攻め立てる。
しかし、不利な接近戦に持ち込まれたにも関わらず、蜜柑は一歩も引いていなかった。
数年間檸檬と戦い、分析し続けていたからであろう。
常人にとっては目にも止まらないスピードのナイフ捌きを見事に見切り、軽やかにかわす。
「ピグ、」
「ガアーッ!!」
『後ろからなんて卑怯じゃない?』
「みぃっ!」
蜜柑の指示で、特有のすばしっこさを活かして檸檬の背中に爪を立てようとしたピグ。
が、セレネが咄嗟に増殖し、防壁を展開した。
幻騎士の最期
篠突く雨が決まり、幻騎士は地に落ちた。
「(やったぜ、オヤジ…)」
リベンジを果たした山本は、形態変化を解く。
「おお!!」
「やったな!」
「山本も確実にメローネ基地ん時より、パワーアップしてんな。」
-「山本…勝ったんだね!」
-「へっ、」
観覧席の人間やツナ、獄寺もその勝利に安堵する。
が、未だ小刀からの炎の噴射で空中に停滞する山本に、うつ伏せ状態の幻騎士が問いかけた。
「何故だ……ボンゴレといい貴様といい…何故トドメをささない……」
「俺達は人殺しじゃねーからな。」
山本の返答に、幻騎士はしばし沈黙した。
---
------
-------------
「(徐々に息が合って来てる……厄介ね。それに…)」
同じ頃、檸檬とセレネの変化と共に、蜜柑は感じ取っていた。
幻騎士の殺気が、急激に弱まっていることを。
先ほど大きな斬撃音が聞こえたのも、気のせいではないだろう。
「(まさか……だとしたら、)」
『考え事とは余裕だねっ!』
シュッ、
「つっ…!」
その時、檸檬のナイフに対する反応が若干遅れた蜜柑。
白い隊服に、それまで無かった切り目が付く。
僅かに蜜柑の皮膚にも届いていたようで、赤が少し滲んだ。
「ずっと…ずっと考えてる……私の誕生理由、存在意義…」
『蜜柑…?』
「だから……殺してみようと思ったの。」
蜜柑が檸檬に向けたのは、それこそ機械のような無機質な瞳で。
その異常さに一瞬怯んでしまった檸檬。
「ピグ、やるわよ……C to“F”。」
「ガアァーッ!!」
『(F、ってことは……また違う属性!?)』
一声鳴いたピグは宙返りをし、炎変換プログラムを起動させる。
次の瞬間、尾に灯る炎は藍色に変わっていた。
『霧!?まさか…』
「ガアーッ!!」
『くっ…セレネ!』
「みぃーっ!」
ピグはそのまま口から藍色の炎を辺り一面に噴射する。
どうやらこれまで体内に蓄積されていた全ての炎を吐きだしているようで、
吸収しきれないと察した檸檬は、咄嗟にセレネに呼びかけ防壁を作らせた。
『ごめんねセレネ、ありがと………!!?』
「みっ!?」
噴射された炎の直撃は回避出来たが、檸檬とセレネは自分の目を疑った。
それまでのビル群は何処にもなく、自分たちを囲んでいたのは……
『何よコレ……一面真っ白…!?』
「み……」
『(そっか、霧は“構築”……これはピグの炎で創られた…幻覚空間!)』
しかし檸檬には分からなかった。
何故蜜柑がこのタイミングで幻覚空間を作り出させたのかが。
「ガァーッ!」
『おっと!』
真っ白い空間のどこからともなく姿を現し、攻撃をしかけたかと思えばまた消えていくピグ。
一瞬だけだったが、尾の炎がオレンジに戻っているのを檸檬は確認した。
しかし、幻覚空間は消えない。
どうやらピグにダメージを負わせなければならないようだ。
『(にしても……蜜柑は何処に……)』
白い空間に囲まれた直後から、檸檬には蜜柑の気配が感じられなくなった。
単純に檸檬の五感が幻覚に支配された、とも考えられるが……
『(まさか、ピグを囮に蜜柑が離脱した!?でも一体どうして…!?)』
観覧席では、キョロキョロ辺りを見回す檸檬の姿に京子とハルが疑問符を浮かべていた。
「檸檬ちゃん、どうしたんでしょうか?」
「何か落し物かな?」
「いいえ、恐らく幻術にかかっているんだわ。さっき、蜜柑の大空小猿の炎が一瞬だけ藍色になっていたもの。」
「しかし妙です、トリカブトの幻術はモニターでも見えましたが…」
「弱いんだよ、あの幻覚。」
バジルの言葉に雲雀が短く返す。
それに付けたすようにジャンニーニが言った。
「檸檬さんも蜜柑さんも、共に五感が優れているが故に幻術を使われては不利になってしまいます。弱い幻術でも翻弄されるには充分なのだと…」
「だとしてもおかしいわ。蜜柑が……戦線を離脱して別の場所に向かっているもの。」
ビアンキの言う通り、蜜柑はピグのみを檸檬との戦いの場に残し、一人で移動していた。
肩には、もう一つのアニマル匣・マーを乗せて。
「マー、目的地は…分かってるわね?」
「キィッ!」
---
------
------------
「後悔するな…俺は白蘭様のために、いずれ必ず目的は遂行する。」
幻騎士の言葉に、観覧席の白蘭は「さすが♪」と一言。
「望むところだ」と山本が返したところで、幻騎士の耳に桔梗からの通信が入った。
ミルフィオーレ結成の立役者であり、白蘭の影の右腕。
あらゆる隠密作戦を成功させる、白蘭が最も頼りにする男。
数々の評価を並べたところで、桔梗は残虐な処置を発動させる。
パキッ、ボウッ…
幻騎士の鎧から無数に何かが生えてきたのだ。
「この炎……雲属性の桔梗の葉!?」
空中からそれを見た山本も、違和感を覚える。
「ハハン、悪く思わないでください、幻騎士。役に立たぬ時に消せるよう、増殖する雲桔梗(カンパヌラ・ディ・ヌーヴォラ)を仕込んでおいたのです。白蘭様の命でね。」
「(白蘭様が!?)」
そんな話が、幻騎士に信じられるハズもなく。
彼は、白蘭が自分を捨てることなどあり得ないと叫び続ける。
そして…過去の記憶に思いを馳せた。
白蘭が自分を……死の恐怖、絶望から救ってくれた日の記憶……
修業の旅先で、ワクチンの無い不治の病に感染してしまった幻騎士。
2日間で感染レベルは5まで達し、死を実感しベッドの上で涙し続けていた。
そこに、防菌スーツも着ずに入って来たのが、白蘭だった。
彼は幻騎士に語りかける。
---「神様ってのは無情だと思わないかい?」
白蘭の言う通りだった。
良い行いをしたからと言って、長生きできるものではない。
善良な医療関係者も簡単に命を落とすし、
剣の腕をひたすら磨いてきた幻騎士も流行り病などで死のうとしている。
---「僕が神なら、そうはしないな。」
尽くしてくれればそれだけの見返りをしてあげる、と。
そして……あの時代になかったワクチンを幻騎士に授けたのだ。
---「君の病気を治してあげよう。後は自分で考えな♪」
自分に起こった奇跡は、神である白蘭の施し。
その日から幻騎士は、白蘭に力の全てを捧げ尽くしてきた。
しかし……
「がっ…ぐああああ!!!」
「おい幻騎士!!何だ!?どうしたんだ!?」
-「山本君!幻騎士に一体何が起こってるんだい!?」
「体中に草が生えてる……殺気がねーし、幻騎士の幻覚じゃねえ!」
-「何だって!?」
最悪の事態を想定したディーノが、ビアンキに「何か飲みたい…」と頼む。
その真意を汲み取ったビアンキは、京子とハルを連れてモニターの無い奥の部屋へと。
「ぐああっ!!白蘭様が俺を殺すハズはない!!桔梗!図ったな!!」
雲桔梗に体中を蝕まれ、出血しつつも叫ぶ幻騎士。
その姿をモニター越しに見て、白蘭は笑う。
「相変わらず思いこみ激しいな~。幻ちゃんは本当によくやってくれたよ、小さい器なりに。でも僕が飽きちゃったから…割るんだ。」
その時。
「あっ…あいつは…!」
「あれは……桔梗の…」
移動してきた蜜柑が近くのビルの角から現れた。
走って来たせいか、若干息が上がっている。
無表情ではあったものの、蜜柑はゆっくりと歩み寄っていった。
ボロボロになっていく幻騎士へと。
「残念だな桔梗!!白蘭様は必ずまた俺を救って下さる!!この幻騎士こそが白蘭様の最も忠実なる僕!!」
「…幻騎士……」
「ぐっ、が……蜜柑、か…」
「あれー?蜜柑ってばいつの間にあっち行ったんだろー?ねー、ビャクラン。」
「ホントホント、だから幻ちゃん割ろうと思ったんだー………蜜柑に近づき過ぎたから。」
ミルフィオーレ観覧席の会話などつゆ知らず、蜜柑は吐血する幻騎士をただ見つめる。
「我は…白蘭様と共にあり!!蜜柑…お前は知っているだろう!!」
「…えぇ、貴方と私は似ていたから。」
幻騎士はだんだんと抵抗をやめていき、終いには穏やかに笑う。
「(似ているから……私も、いつかは…)」
体中に生える桔梗の茎が太くなったのは、終わりの合図。
その散り際が蜜柑の瞳に映ろうとした、その時だった。
「あぶねぇっ!!」
「なっ…!!?」
黒いスーツが蜜柑の視界を覆ったのと同時に、蜜柑の身体は宙に浮いた。
状況の把握に時間はかからなかった。
山本が直前に蜜柑を抱え上げ、爆発から遠ざけたのだ。
「幻騎士…幻騎士ーー!!」
蜜柑を庇うように抱きかかえながら叫ぶ山本に、幻騎士の血飛沫がかかった。
「…何をしてるの?」
“DARQ及びLIGHTはチョイスに干渉してはいけない”
そのルールが無ければ、蜜柑は山本を即座に撃ち殺していたであろう。
しかしルールがある今は、撃ち殺してしまえばミルフィオーレの負けとなる。
ゆえに蜜柑は山本に抱えられながら、空中で問いかけた。
「わ、悪ぃ…けど爆発が……」
「回避出来たわ、馬鹿にしてるの?」
「違ぇって!何つーか、その…」
近くのビルの屋上に蜜柑を下ろし、山本は言った。
「あんたは、見ちゃいけないような気がして……」
眉を下げる山本に、蜜柑は一瞬言葉を詰まらせる。
「……似ていたから、確認すべきだと思ったの。彼の末路を。」
「けどよ、」
「似ている存在がどう扱われるか知ろうと思うのは…おかしい?」
『だから…わざわざ幻覚空間まで作って、あたしを足止めしたの?』
「檸檬っ!」
「…予想より早かったわね。」
何処からともなく表れたのは、ピグを退け幻覚空間から脱出した檸檬とセレネだった。
「……ピグ、」
「キィィ…」
溜め息をついてから蜜柑がピグを呼ぶと、檸檬の後ろからやって来たピグが小さく鳴いた。
ダメージを負っているらしく、元の小さいサイズに戻っている。
「完全に壊さなかったのね…やっぱり姉さんは手緩いわ。」
『そこまで非情じゃないもの。』
檸檬と蜜柑が再び対峙する中、
ボンゴレの無線には“幻騎士の炎反応が完全に消えた”というスパナからの知らせが入る。
白蘭が自分のファミリーの人間を消したという事実に、呆然とするツナ。
-「これが…僕達が戦っているミルフィオーレの……白蘭サンの正体だ…」
「……勝とう。」
入江が言った後、ツナの静かな決意が無線を通じて皆に伝わる。
「世界のためとか…73とか言われてもピンと来なかったけど……白蘭がみんなを酷い目に遭わせてるのは間違いないんだ!!」
-「…綱吉君……よし!!一気に畳みかけよう!!標的を先に倒しさえすれば勝ちなんだ!!」
幻騎士とトリカブトを倒した今、有利なのは確実にボンゴレ。
-「獄寺君は守備を続行してくれ!!綱吉君と山本君で一気に空中から敵標的を撃破する!!」
「「「おお!!」」」
バイクから降り、ハイパー化して飛んでいくツナ。
ナビが示す、敵標的のいる地点へと。
「んじゃ、行ってくるぜ!」
『うん、朗報待ってるよ♪』
「おう!そっちも負けんなよ!」
『もちろんっ!』
山本も檸檬とわかれ、デイジーの元へ向かった。
ズガガガンッ、
「ガアアーッ!!」
蜜柑はピグに数発撃ちこみ、再び巨大化させる。
しかし檸檬は戦闘態勢にならず、蜜柑に話しかけた。
『さっき言ってたよね?存在意義を考えてるって。』
「とりあえず今の存在意義は……姉さんを殺すことよ。」
『だからあたしを殺して……“その後の”存在意義を確かめたい…ってことだよね。』
「分かってるなら、大人しく殺されなさいよ。」
『……ごめんね蜜柑…それだけは、出来ない……。』
檸檬はナイフを握り直して、深呼吸を1つ。
『あたしは今、蜜柑に感情を取り戻して貰いたくて…ココにいる。話し合いたいと思ってる。』
「数値化できない無常なものに、興味はないわ。」
『蜜柑が自分の心で、あたしを憎んで殺そうと思うならそれで構わない!感情を持ってなお、白蘭に尽くしたいと思うなら、その時はちゃんと戦う!!だからっ…』
「うるさい!」
蜜柑の二丁拳銃から十数発の弾が飛び出す。
それは真っ直ぐ檸檬に向かうが……全て炎は奪われ、弾かれた。
『だからそんな……世界に絶望したような……哀しい瞳はもう、やめて。』
「みっ!」
セレネを肩に乗せて蜜柑に突っ込んで行く檸檬。
「ようやく殺し合いする気になったわね。」
『違うって言っても信じてくれないんでしょうっ?』
先ほどまでとは違い、蜜柑に斬りかかる檸檬。
メインウェポンにしているだけあって、手足と同じようにナイフを扱い攻め立てる。
しかし、不利な接近戦に持ち込まれたにも関わらず、蜜柑は一歩も引いていなかった。
数年間檸檬と戦い、分析し続けていたからであろう。
常人にとっては目にも止まらないスピードのナイフ捌きを見事に見切り、軽やかにかわす。
「ピグ、」
「ガアーッ!!」
『後ろからなんて卑怯じゃない?』
「みぃっ!」
蜜柑の指示で、特有のすばしっこさを活かして檸檬の背中に爪を立てようとしたピグ。
が、セレネが咄嗟に増殖し、防壁を展開した。
幻騎士の最期
篠突く雨が決まり、幻騎士は地に落ちた。
「(やったぜ、オヤジ…)」
リベンジを果たした山本は、形態変化を解く。
「おお!!」
「やったな!」
「山本も確実にメローネ基地ん時より、パワーアップしてんな。」
-「山本…勝ったんだね!」
-「へっ、」
観覧席の人間やツナ、獄寺もその勝利に安堵する。
が、未だ小刀からの炎の噴射で空中に停滞する山本に、うつ伏せ状態の幻騎士が問いかけた。
「何故だ……ボンゴレといい貴様といい…何故トドメをささない……」
「俺達は人殺しじゃねーからな。」
山本の返答に、幻騎士はしばし沈黙した。
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「(徐々に息が合って来てる……厄介ね。それに…)」
同じ頃、檸檬とセレネの変化と共に、蜜柑は感じ取っていた。
幻騎士の殺気が、急激に弱まっていることを。
先ほど大きな斬撃音が聞こえたのも、気のせいではないだろう。
「(まさか……だとしたら、)」
『考え事とは余裕だねっ!』
シュッ、
「つっ…!」
その時、檸檬のナイフに対する反応が若干遅れた蜜柑。
白い隊服に、それまで無かった切り目が付く。
僅かに蜜柑の皮膚にも届いていたようで、赤が少し滲んだ。
「ずっと…ずっと考えてる……私の誕生理由、存在意義…」
『蜜柑…?』
「だから……殺してみようと思ったの。」
蜜柑が檸檬に向けたのは、それこそ機械のような無機質な瞳で。
その異常さに一瞬怯んでしまった檸檬。
「ピグ、やるわよ……C to“F”。」
「ガアァーッ!!」
『(F、ってことは……また違う属性!?)』
一声鳴いたピグは宙返りをし、炎変換プログラムを起動させる。
次の瞬間、尾に灯る炎は藍色に変わっていた。
『霧!?まさか…』
「ガアーッ!!」
『くっ…セレネ!』
「みぃーっ!」
ピグはそのまま口から藍色の炎を辺り一面に噴射する。
どうやらこれまで体内に蓄積されていた全ての炎を吐きだしているようで、
吸収しきれないと察した檸檬は、咄嗟にセレネに呼びかけ防壁を作らせた。
『ごめんねセレネ、ありがと………!!?』
「みっ!?」
噴射された炎の直撃は回避出来たが、檸檬とセレネは自分の目を疑った。
それまでのビル群は何処にもなく、自分たちを囲んでいたのは……
『何よコレ……一面真っ白…!?』
「み……」
『(そっか、霧は“構築”……これはピグの炎で創られた…幻覚空間!)』
しかし檸檬には分からなかった。
何故蜜柑がこのタイミングで幻覚空間を作り出させたのかが。
「ガァーッ!」
『おっと!』
真っ白い空間のどこからともなく姿を現し、攻撃をしかけたかと思えばまた消えていくピグ。
一瞬だけだったが、尾の炎がオレンジに戻っているのを檸檬は確認した。
しかし、幻覚空間は消えない。
どうやらピグにダメージを負わせなければならないようだ。
『(にしても……蜜柑は何処に……)』
白い空間に囲まれた直後から、檸檬には蜜柑の気配が感じられなくなった。
単純に檸檬の五感が幻覚に支配された、とも考えられるが……
『(まさか、ピグを囮に蜜柑が離脱した!?でも一体どうして…!?)』
観覧席では、キョロキョロ辺りを見回す檸檬の姿に京子とハルが疑問符を浮かべていた。
「檸檬ちゃん、どうしたんでしょうか?」
「何か落し物かな?」
「いいえ、恐らく幻術にかかっているんだわ。さっき、蜜柑の大空小猿の炎が一瞬だけ藍色になっていたもの。」
「しかし妙です、トリカブトの幻術はモニターでも見えましたが…」
「弱いんだよ、あの幻覚。」
バジルの言葉に雲雀が短く返す。
それに付けたすようにジャンニーニが言った。
「檸檬さんも蜜柑さんも、共に五感が優れているが故に幻術を使われては不利になってしまいます。弱い幻術でも翻弄されるには充分なのだと…」
「だとしてもおかしいわ。蜜柑が……戦線を離脱して別の場所に向かっているもの。」
ビアンキの言う通り、蜜柑はピグのみを檸檬との戦いの場に残し、一人で移動していた。
肩には、もう一つのアニマル匣・マーを乗せて。
「マー、目的地は…分かってるわね?」
「キィッ!」
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「後悔するな…俺は白蘭様のために、いずれ必ず目的は遂行する。」
幻騎士の言葉に、観覧席の白蘭は「さすが♪」と一言。
「望むところだ」と山本が返したところで、幻騎士の耳に桔梗からの通信が入った。
ミルフィオーレ結成の立役者であり、白蘭の影の右腕。
あらゆる隠密作戦を成功させる、白蘭が最も頼りにする男。
数々の評価を並べたところで、桔梗は残虐な処置を発動させる。
パキッ、ボウッ…
幻騎士の鎧から無数に何かが生えてきたのだ。
「この炎……雲属性の桔梗の葉!?」
空中からそれを見た山本も、違和感を覚える。
「ハハン、悪く思わないでください、幻騎士。役に立たぬ時に消せるよう、増殖する雲桔梗(カンパヌラ・ディ・ヌーヴォラ)を仕込んでおいたのです。白蘭様の命でね。」
「(白蘭様が!?)」
そんな話が、幻騎士に信じられるハズもなく。
彼は、白蘭が自分を捨てることなどあり得ないと叫び続ける。
そして…過去の記憶に思いを馳せた。
白蘭が自分を……死の恐怖、絶望から救ってくれた日の記憶……
修業の旅先で、ワクチンの無い不治の病に感染してしまった幻騎士。
2日間で感染レベルは5まで達し、死を実感しベッドの上で涙し続けていた。
そこに、防菌スーツも着ずに入って来たのが、白蘭だった。
彼は幻騎士に語りかける。
---「神様ってのは無情だと思わないかい?」
白蘭の言う通りだった。
良い行いをしたからと言って、長生きできるものではない。
善良な医療関係者も簡単に命を落とすし、
剣の腕をひたすら磨いてきた幻騎士も流行り病などで死のうとしている。
---「僕が神なら、そうはしないな。」
尽くしてくれればそれだけの見返りをしてあげる、と。
そして……あの時代になかったワクチンを幻騎士に授けたのだ。
---「君の病気を治してあげよう。後は自分で考えな♪」
自分に起こった奇跡は、神である白蘭の施し。
その日から幻騎士は、白蘭に力の全てを捧げ尽くしてきた。
しかし……
「がっ…ぐああああ!!!」
「おい幻騎士!!何だ!?どうしたんだ!?」
-「山本君!幻騎士に一体何が起こってるんだい!?」
「体中に草が生えてる……殺気がねーし、幻騎士の幻覚じゃねえ!」
-「何だって!?」
最悪の事態を想定したディーノが、ビアンキに「何か飲みたい…」と頼む。
その真意を汲み取ったビアンキは、京子とハルを連れてモニターの無い奥の部屋へと。
「ぐああっ!!白蘭様が俺を殺すハズはない!!桔梗!図ったな!!」
雲桔梗に体中を蝕まれ、出血しつつも叫ぶ幻騎士。
その姿をモニター越しに見て、白蘭は笑う。
「相変わらず思いこみ激しいな~。幻ちゃんは本当によくやってくれたよ、小さい器なりに。でも僕が飽きちゃったから…割るんだ。」
その時。
「あっ…あいつは…!」
「あれは……桔梗の…」
移動してきた蜜柑が近くのビルの角から現れた。
走って来たせいか、若干息が上がっている。
無表情ではあったものの、蜜柑はゆっくりと歩み寄っていった。
ボロボロになっていく幻騎士へと。
「残念だな桔梗!!白蘭様は必ずまた俺を救って下さる!!この幻騎士こそが白蘭様の最も忠実なる僕!!」
「…幻騎士……」
「ぐっ、が……蜜柑、か…」
「あれー?蜜柑ってばいつの間にあっち行ったんだろー?ねー、ビャクラン。」
「ホントホント、だから幻ちゃん割ろうと思ったんだー………蜜柑に近づき過ぎたから。」
ミルフィオーレ観覧席の会話などつゆ知らず、蜜柑は吐血する幻騎士をただ見つめる。
「我は…白蘭様と共にあり!!蜜柑…お前は知っているだろう!!」
「…えぇ、貴方と私は似ていたから。」
幻騎士はだんだんと抵抗をやめていき、終いには穏やかに笑う。
「(似ているから……私も、いつかは…)」
体中に生える桔梗の茎が太くなったのは、終わりの合図。
その散り際が蜜柑の瞳に映ろうとした、その時だった。
「あぶねぇっ!!」
「なっ…!!?」
黒いスーツが蜜柑の視界を覆ったのと同時に、蜜柑の身体は宙に浮いた。
状況の把握に時間はかからなかった。
山本が直前に蜜柑を抱え上げ、爆発から遠ざけたのだ。
「幻騎士…幻騎士ーー!!」
蜜柑を庇うように抱きかかえながら叫ぶ山本に、幻騎士の血飛沫がかかった。
「…何をしてるの?」
“DARQ及びLIGHTはチョイスに干渉してはいけない”
そのルールが無ければ、蜜柑は山本を即座に撃ち殺していたであろう。
しかしルールがある今は、撃ち殺してしまえばミルフィオーレの負けとなる。
ゆえに蜜柑は山本に抱えられながら、空中で問いかけた。
「わ、悪ぃ…けど爆発が……」
「回避出来たわ、馬鹿にしてるの?」
「違ぇって!何つーか、その…」
近くのビルの屋上に蜜柑を下ろし、山本は言った。
「あんたは、見ちゃいけないような気がして……」
眉を下げる山本に、蜜柑は一瞬言葉を詰まらせる。
「……似ていたから、確認すべきだと思ったの。彼の末路を。」
「けどよ、」
「似ている存在がどう扱われるか知ろうと思うのは…おかしい?」
『だから…わざわざ幻覚空間まで作って、あたしを足止めしたの?』
「檸檬っ!」
「…予想より早かったわね。」
何処からともなく表れたのは、ピグを退け幻覚空間から脱出した檸檬とセレネだった。
「……ピグ、」
「キィィ…」
溜め息をついてから蜜柑がピグを呼ぶと、檸檬の後ろからやって来たピグが小さく鳴いた。
ダメージを負っているらしく、元の小さいサイズに戻っている。
「完全に壊さなかったのね…やっぱり姉さんは手緩いわ。」
『そこまで非情じゃないもの。』
檸檬と蜜柑が再び対峙する中、
ボンゴレの無線には“幻騎士の炎反応が完全に消えた”というスパナからの知らせが入る。
白蘭が自分のファミリーの人間を消したという事実に、呆然とするツナ。
-「これが…僕達が戦っているミルフィオーレの……白蘭サンの正体だ…」
「……勝とう。」
入江が言った後、ツナの静かな決意が無線を通じて皆に伝わる。
「世界のためとか…73とか言われてもピンと来なかったけど……白蘭がみんなを酷い目に遭わせてるのは間違いないんだ!!」
-「…綱吉君……よし!!一気に畳みかけよう!!標的を先に倒しさえすれば勝ちなんだ!!」
幻騎士とトリカブトを倒した今、有利なのは確実にボンゴレ。
-「獄寺君は守備を続行してくれ!!綱吉君と山本君で一気に空中から敵標的を撃破する!!」
「「「おお!!」」」
バイクから降り、ハイパー化して飛んでいくツナ。
ナビが示す、敵標的のいる地点へと。
「んじゃ、行ってくるぜ!」
『うん、朗報待ってるよ♪』
「おう!そっちも負けんなよ!」
『もちろんっ!』
山本も檸檬とわかれ、デイジーの元へ向かった。
ズガガガンッ、
「ガアアーッ!!」
蜜柑はピグに数発撃ちこみ、再び巨大化させる。
しかし檸檬は戦闘態勢にならず、蜜柑に話しかけた。
『さっき言ってたよね?存在意義を考えてるって。』
「とりあえず今の存在意義は……姉さんを殺すことよ。」
『だからあたしを殺して……“その後の”存在意義を確かめたい…ってことだよね。』
「分かってるなら、大人しく殺されなさいよ。」
『……ごめんね蜜柑…それだけは、出来ない……。』
檸檬はナイフを握り直して、深呼吸を1つ。
『あたしは今、蜜柑に感情を取り戻して貰いたくて…ココにいる。話し合いたいと思ってる。』
「数値化できない無常なものに、興味はないわ。」
『蜜柑が自分の心で、あたしを憎んで殺そうと思うならそれで構わない!感情を持ってなお、白蘭に尽くしたいと思うなら、その時はちゃんと戦う!!だからっ…』
「うるさい!」
蜜柑の二丁拳銃から十数発の弾が飛び出す。
それは真っ直ぐ檸檬に向かうが……全て炎は奪われ、弾かれた。
『だからそんな……世界に絶望したような……哀しい瞳はもう、やめて。』