未来編②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「その刀を背負った犬が貴様のボンゴレ匣か。」
「まぁそんなところだ。」
山本が撫でると、雨犬も山本に思い切りじゃれる。
「秋田犬で次郎ってんだ、俺の小刀3本の面倒をみてくれてる。」
モニターで見ている京子とハルは、その姿に「可愛い」と和むが、スクアーロは呆れたように片手で顔を覆った。
山本のボンゴレ匣
「でも俺、この前のあんたみたいに、本当は刀4本使うんだ。」
すっと立ち上がった山本は、率直に「4本目を取りに行って良いか」と尋ねるが、幻騎士はそんな暇を与えるつもりはないようで。
「図に乗るな。」
山本に迫る複数の気配。
それは、メローネ基地で10年後の雲雀にも使われた、目に見えない幻海牛のミサイルだった。
ところが山本は臆することなく小刀を1本用意し…
コォォォ……ボッ、
大きく炎を噴射することにより、後ろに跳躍して爆発をかわした。
そしてそのまま、先ほど弾かれた時雨金時を取る。
そして、2本目の小刀を出し、更に早いスピードで幻騎士に迫った。
ギャキィン…
一太刀交えただけで、幻騎士には衝撃波により傷がつく。
「(この男…!!)」
山本の剣の威力が増したと察した幻騎士は、刀ごと山本を突き放し、幻海牛で再び巨木の構築し始めた。
自分も、その中に溶け込んで。
「幻騎士が消えた!!」
観覧席ではバジルが目を見開くが、山本は落ち着き払ったままリングに炎を灯す。
そして……
ヒュヒュヒュッ、
ドガァッ、
自分に向かって来る幻海牛のミサイルを、刀から噴出させた炎のジェット力で飛んでかわしていった。
その様子を見て、リボーンは彼の成長を実感する。
「山本の奴、飛んで戦えるようになっただけでなく、リングの炎で幻海牛の位置を察知で出来るようになってるな。」
「でも、相手が見えなければ攻撃を与えられないわ!!」
ビアンキの危惧に、スクアーロは無言でただ口角を上げた。
---
-------
同じ頃、蜜柑の銃弾を避け続けながら檸檬は不思議に思っていた。
『(これだけかわしてるのに、何故…)』
「弾切れは無いわよ。」
檸檬の思考を読みとったように、蜜柑は言う。
「…29577発。」
『え…?』
「私がこの時代の姉さんに勝った時に使った弾数よ。」
『それって、壊滅したボンゴレ本部で……ってこと?』
「えぇ。だから…今回はどれだけ用意したか、想像はつくでしょう?」
鼻で笑いながら、蜜柑は更に撃ち続ける。
檸檬の方は、攻撃をしようとせずに避けるばかり。
『(用意周到な蜜柑のことだから……恐らく、最低でも倍の弾数はあるハズ…)』
10年後の檸檬が蜜柑に負けたということは、決着がつく前にリバウンドが来てしまった、ということ。
つまり……
『(あたしがこうして凌いでられるタイムリミットは……29577発まで…!)』
ギリッと歯を食いしばった檸檬。
と、不意に肩の上でセレネが鳴く。
「みぃっ!」
『え?うわっ…と!』
背後からピグが迫っていたのを、檸檬は辛うじて避けた。
『ありがとう、セレネ♪』
「みっ!」
気付けば、セレネは普通と逆向きに立っていた。
檸檬の背後をよく観察しようとしているようだ。
そうすれば、檸檬が自分で背後まで気を配らずに戦える。
『セレネ……ありがと、後ろは任せたよ!』
「みぃっ!」
それを見た蜜柑は、即座にピグを呼び戻す。
「左肩を狙いなさい。」
「ガァッ!」
ズガガンッ、
一回り大きさを増したピグが、再び檸檬に攻め寄る。
大空の炎を纏った爪が、檸檬の左肩のみを狙いだした。
『(どういうこと…!?)』
「みっ!」
『わっ…と、』
背後から来たのは、蜜柑の銃弾。
咄嗟にかわす檸檬だが、その左肩をまた切り裂こうとする。
『(今あたしの“後ろの目”になってくれてるセレネを狙うなら……直接右肩に攻撃するハズ……一体…)』
考えながら避け続ける檸檬に、蜜柑は妖しい笑みを浮かべた。
---
------
------------
「そこだっ、」
動く巨木の中に、山本は小刀2本を投げる。
それらはピッタリ幻騎士の鎧を捉えてて。
「(バカな!!!)」
次郎から3本目の小刀を受け取り、山本は幻騎士を斬りつけた。
「凄い!」
フゥ太を始め、観覧席の面々は驚くばかり。
相手の姿が見えない状態から、一太刀入れたのだ。
それは、幻騎士も同じように思っていた。
「…あり得ん!完全に幻海牛と同調した俺の幻覚を見破るなど!」
「へへっ、作戦成功だなっ♪次郎に気を取られて、上の方には気がいってなかったみてーだもんな。」
「(上!?)」
そう、山本は最初から2つのアニマル匣を展開していたのだ。
「雨燕!!」
「あーやって、幻海牛が作った巨木に、雨属性の炎を撒いてたんだ。そんで、雨属性の炎の特徴は“鎮静”だぜ。」
雨を浴びた海牛の動きは鈍くなるが、
幻騎士のスピードは変わらないためズレていく。
「幻覚の動きの合ってない所が、幻騎士の位置ってワケだな。」
リボーンも満足そうに納得する。
「あっ、ちなみにコイツは……小次郎ってんだ。」
「次郎と小次郎だって!面白ーい!」
「すごいネーミングセンスですね…」
「さてとっ、言っとくけどこれからだぜ、俺達の本気は。」
1本の長刀と3本の小刀を携えるその姿は、飛躍的な成長を感じさせる。
それは味方だけでなく、敵である幻騎士にも実感させてしまうほどで。
「(…どうなっている、この男……以前の山本武ではない!!)」
---
------
------------
「行くわよピグ、」
「ガアーッ!!」
蜜柑の指示で、ピグは炎弾の発射態勢に入る。
いち早くそれを察知し、炎を奪おうとナイフを構えた檸檬。
しかし……
「これでどうかしら?」
ズガガガガ…
『なっ…!』
この戦闘でずっと一点に留まっていた蜜柑が、初めて移動した。
檸檬との距離を長くとり、斜め上と正面に乱射したのだ。
『(全部、追尾型…!)』
正面の弾だけでなく、斜め上に撃たれた弾も上から降って来るように檸檬に迫る。
否、正しくは……檸檬の右肩に乗るセレネに向かって。
それだけでなく、左半身にはピグの炎弾が迫っている。
「さぁ、右と左……どちらを取る?」
『(後ろに下がっても追尾と炎弾は避けられない!上は銃弾に塞がれてるし、空間移動は……)』
蜜柑とピグが繰り出したこの攻撃から逃れる最良の手段は、空間移動だった。
しかし、それには最大の問題が。
『(あたしとセレネが、ちゃんと同じ場所に移動できるか……分からない…!)』
同時に2つのものを移動させるのは簡単だった。
しかし、波長のひずみを通り抜けるのは、不安定なトンネルを通るのと同じ。
つまり……同じひずみから入っても、同じ出口に辿りつく保証が無いのだ。
もしバラバラの地点に出てしまっては……
戦闘力がほとんど無いセレネが危険に晒される。
「みぃっ…」
迫り来る銃弾の雨と巨大な炎弾に、セレネは檸檬の肩の上で震える。
『(今の蜜柑の銃弾のターゲットはセレネ……だったら!!)』
覚悟を決めた檸檬は、グッと両足に力を込め、両手にナイフを握った。
---
------
------------
匣兵器だけでなく、山本の成長に驚くディーノとリボーン。
すると、後ろからスクアーロが言う。
「剣への覚悟だぁ。あのカスは超一流剣士に必要な素質を十二分に備えているが、一つだけ弱点があった。」
来日してすぐ、山本を預かっていった日のことを思い出すスクアーロ。
「剣士になりきれねぇ甘さだぁ…」
---「剣士になりきれない甘さ?」
---「この時代のお前も同じだった。俺は気に食わなかったが、それもてめーの一部と思い黙っていた。」
疑問符を浮かべる山本に、スクアーロは真剣な眼差しを向けて。
---「野球か剣か、どちらかを選べぇ。」
---「………いきなり進路指導かよ…」
---「てめーには両方を同時にこなす才がある!!だが剣はこなすもんじゃねぇ、懸けるもんだぁ!!」
その熱弁にしばし沈黙した後、山本は笑顔で言った。
---「それならもう決まってる、剣一本でいく。」
山本は言った。
幻騎士戦では、勝つ自信があり、これが終われば過去に帰れると信じていた。
しかし結果は敗北。
意識が飛んでいく中で、すごく後悔した……と。
---「剣へのつっこみが甘いから親父の時雨蒼燕流を汚しちまったって……それによぉ、仲間のために全力を尽くせてなかったんじゃないのかって……」
そして、決意した。
もうあんな思いをしないためにも、剣だけに全てを注ぐと。
---「ま、寂しさもあんだけどな。期間限定とは言え野球をスッパリ忘れんのは。」
---「期間限定!?」
---「ああ、過去に帰るまでだぜ。」
---「う"お"ぉい!!何か納得できねぇぞ!!」
「…動機と期間が気にいらねぇが、全てを剣に捧げるその覚悟が奴を本物の剣士にした。」
スクアーロの話を聞き、リボーンが言う。
「2択を迫られ剣を選ぶってのは、初代雨の守護者そのものだな。」
「初代ボンゴレファミリーの、ですか?」
「ああ。」
初代雨の守護者の剣は世紀無双と言われ、誰もが認める才能を有していた。
しかし、本人は何よりも音楽を愛し、自分の剣を1本も持たなかったという。
ところがある時、異国の友であったボンゴレI世のピンチを聞きつけた彼は…
何の躊躇いも無く命より大事な楽器を売り、武器と旅費に換えて助けに向かった。
その武器と言うのが、3本の小刀と1本の長刀だったという。
「友のために、全てを捨てることを厭わなかったんだ。」
それは、山本がスクアーロに示した決意と同じもの。
「小次郎、形態変化!」
山本の言葉に反応し、雨燕がその姿を変えていく。
「時雨金時と燕が合体した!!」
「あれは長刀だ。やはり山本のボンゴレ匣は……」
全てを洗い流す恵みの村雨と謳われた、朝利雨月の変則四刀!!!
-「みぃっ、みぃーっ!」
「え?この声って…」
「檸檬ちゃんの匣兵器、ですか…?」
京子とハルが、別モニターからの声に気付き、そちらを見る。
「はひっ!煙ばっかりです!!」
「檸檬ちゃん…!」
不安そうにする2人を見て、ディーノが雲雀に尋ねた。
「恭弥、ずっと見てたんだろ?檸檬と蜜柑は…」
「うるさい。」
「恭弥…?」
雲雀の表情と固く握られた拳に、ディーノとリボーンは何かを察する。
「まさか、檸檬……」
「やべーかもな…」
煙が徐々に晴れていき、全体像が窺える。
そこには……
「みっ…みぃーっ!」
哀しみいっぱいに鳴き続けるセレネと…
『はぁっ……う…ぐっ……』
「「檸檬ちゃん!!」」
背中に大きく傷を負い、膝をついた檸檬。
銃弾にあった炎は全て奪って無力化出来たものの、
ピグの炎弾の炎を全て吸収し切れなかった檸檬は、そのまま炎弾を受けたのだ。
「みぃっ…」
『大丈夫、だった…?セレネ……』
檸檬が吸収出来た炎弾の炎は、全体の3割弱。
つまり、7割分のダメージは与えられたことになる。
それでもセレネにだけは当たらないようにと、檸檬は自分の背中を盾にした。
結果、傷を負った背中だけでなく、衝撃によって口からも血が滴っているのだが。
「愚かにも程があるわね。」
「いかん!このままでは極限に隙だらけだぞ!!」
「匣兵器を庇うなんて……それは所詮、戦いに使うオモチャでしょう?」
コツコツと、蜜柑が歩み寄る。
嘲りの視線を送りながら。
観覧席では皆が青ざめ、雲雀は眉間に皺を寄せる。
『…だってあたしは……護る為に、戦うんだもの……』
「護った結果がコレよ。姉さんは、匣兵器なんて“道具”を護ったせいで、私に負ける。」
『セレネは…道具じゃない……』
「そうね、戦闘の役にも立たない“ガラクタ”だわ。」
銃口が檸檬に向けられる。
檸檬と蜜柑の距離は、2メートル。
引き金を引かれてしまえば、回避は不可能。
「みぃっ…!」
『大丈夫…だからね……セレネ………つぅっ…』
背中の傷からドクドクと血が流れる。
その痛みに、檸檬はついに手をついた。
「炎弾は痛いでしょう?けれど、私が得て来た痛みには程遠いわ。」
『…蜜柑……』
「存分に、痛みと苦しみを味わうのね…!」
蜜柑が引き金を引いた、その時。
「み…みぃぃーっ!!!」
「あ、あれは…!?」
「セレネちゃんが光ってる…」
「綺麗です…!」
「ったく…遅ぇぞぉ!セレネ!!」
突如大きく鳴いたセレネが、檸檬を覆うほどの紫色の光を放つ。
その光景に驚き声を上げるバジル、京子、ハル。
一方スクアーロは、痺れを切らしたように叫んだ。
「これは…」
「みぃーっ!」
強い光がやみ、蜜柑が目を開けると……
そこには、たくさんの雲ヒナの分身で出来た大きなドームが出来上がっていた。
モニターでそれを見たディーノは、安堵したように頭を掻く。
「ヒヤヒヤさせるぜ……だが、これで一先ず安心だな。」
「何だ、知ってたのか?」
「あぁ。この時代の檸檬にセレネの能力についてある程度聞かされてる。」
「ただ、セレネはエンジンかかんのが遅ぇんだぁ。」
「だからこの時代の檸檬も、実戦では使ってなかったみてーだな。」
ディーノとスクアーロの言葉に、リボーンはニッと笑う。
「だとしたら、チャンスだぞ。いくら蜜柑が檸檬と何度も交戦していたとは言え、出してねー技は知らねぇだろうからな。」
「でも、あの盾…」
「大丈夫だ。セレネの盾は…ちょっとやそっとじゃ破れねぇぜ。」
不安そうなクロームの言葉に、ディーノは半ば得意気に返した。
「盾があるなら破壊するまでよ。ピグ、」
「ガァーッ!」
ピグの爪が切り裂いても、中にいるハズの檸檬の姿は見えない。
セレネの分身が、何層も重なっているのだ。
しかも、切り裂かれた箇所も“増殖”によって瞬時に再生してしまう。
「(それなら…)」
容赦なく破壊の死ぬ気弾を撃ち込む蜜柑。
しかしそれでも、セレネの盾は突破できずに再生される。
それが、360度檸檬を隠しているのだ。
「ふぅん、やるねぇ……檸檬チャンの匣アニマル。」
ミルフィオーレ側の観覧席で、白蘭は呟く。
が、それでも笑みは絶やさずに。
「けど、このまま防がれてばかりじゃないよね?蜜柑♪」
愉しそうに、眼光を鋭くした。
「まぁそんなところだ。」
山本が撫でると、雨犬も山本に思い切りじゃれる。
「秋田犬で次郎ってんだ、俺の小刀3本の面倒をみてくれてる。」
モニターで見ている京子とハルは、その姿に「可愛い」と和むが、スクアーロは呆れたように片手で顔を覆った。
山本のボンゴレ匣
「でも俺、この前のあんたみたいに、本当は刀4本使うんだ。」
すっと立ち上がった山本は、率直に「4本目を取りに行って良いか」と尋ねるが、幻騎士はそんな暇を与えるつもりはないようで。
「図に乗るな。」
山本に迫る複数の気配。
それは、メローネ基地で10年後の雲雀にも使われた、目に見えない幻海牛のミサイルだった。
ところが山本は臆することなく小刀を1本用意し…
コォォォ……ボッ、
大きく炎を噴射することにより、後ろに跳躍して爆発をかわした。
そしてそのまま、先ほど弾かれた時雨金時を取る。
そして、2本目の小刀を出し、更に早いスピードで幻騎士に迫った。
ギャキィン…
一太刀交えただけで、幻騎士には衝撃波により傷がつく。
「(この男…!!)」
山本の剣の威力が増したと察した幻騎士は、刀ごと山本を突き放し、幻海牛で再び巨木の構築し始めた。
自分も、その中に溶け込んで。
「幻騎士が消えた!!」
観覧席ではバジルが目を見開くが、山本は落ち着き払ったままリングに炎を灯す。
そして……
ヒュヒュヒュッ、
ドガァッ、
自分に向かって来る幻海牛のミサイルを、刀から噴出させた炎のジェット力で飛んでかわしていった。
その様子を見て、リボーンは彼の成長を実感する。
「山本の奴、飛んで戦えるようになっただけでなく、リングの炎で幻海牛の位置を察知で出来るようになってるな。」
「でも、相手が見えなければ攻撃を与えられないわ!!」
ビアンキの危惧に、スクアーロは無言でただ口角を上げた。
---
-------
同じ頃、蜜柑の銃弾を避け続けながら檸檬は不思議に思っていた。
『(これだけかわしてるのに、何故…)』
「弾切れは無いわよ。」
檸檬の思考を読みとったように、蜜柑は言う。
「…29577発。」
『え…?』
「私がこの時代の姉さんに勝った時に使った弾数よ。」
『それって、壊滅したボンゴレ本部で……ってこと?』
「えぇ。だから…今回はどれだけ用意したか、想像はつくでしょう?」
鼻で笑いながら、蜜柑は更に撃ち続ける。
檸檬の方は、攻撃をしようとせずに避けるばかり。
『(用意周到な蜜柑のことだから……恐らく、最低でも倍の弾数はあるハズ…)』
10年後の檸檬が蜜柑に負けたということは、決着がつく前にリバウンドが来てしまった、ということ。
つまり……
『(あたしがこうして凌いでられるタイムリミットは……29577発まで…!)』
ギリッと歯を食いしばった檸檬。
と、不意に肩の上でセレネが鳴く。
「みぃっ!」
『え?うわっ…と!』
背後からピグが迫っていたのを、檸檬は辛うじて避けた。
『ありがとう、セレネ♪』
「みっ!」
気付けば、セレネは普通と逆向きに立っていた。
檸檬の背後をよく観察しようとしているようだ。
そうすれば、檸檬が自分で背後まで気を配らずに戦える。
『セレネ……ありがと、後ろは任せたよ!』
「みぃっ!」
それを見た蜜柑は、即座にピグを呼び戻す。
「左肩を狙いなさい。」
「ガァッ!」
ズガガンッ、
一回り大きさを増したピグが、再び檸檬に攻め寄る。
大空の炎を纏った爪が、檸檬の左肩のみを狙いだした。
『(どういうこと…!?)』
「みっ!」
『わっ…と、』
背後から来たのは、蜜柑の銃弾。
咄嗟にかわす檸檬だが、その左肩をまた切り裂こうとする。
『(今あたしの“後ろの目”になってくれてるセレネを狙うなら……直接右肩に攻撃するハズ……一体…)』
考えながら避け続ける檸檬に、蜜柑は妖しい笑みを浮かべた。
---
------
------------
「そこだっ、」
動く巨木の中に、山本は小刀2本を投げる。
それらはピッタリ幻騎士の鎧を捉えてて。
「(バカな!!!)」
次郎から3本目の小刀を受け取り、山本は幻騎士を斬りつけた。
「凄い!」
フゥ太を始め、観覧席の面々は驚くばかり。
相手の姿が見えない状態から、一太刀入れたのだ。
それは、幻騎士も同じように思っていた。
「…あり得ん!完全に幻海牛と同調した俺の幻覚を見破るなど!」
「へへっ、作戦成功だなっ♪次郎に気を取られて、上の方には気がいってなかったみてーだもんな。」
「(上!?)」
そう、山本は最初から2つのアニマル匣を展開していたのだ。
「雨燕!!」
「あーやって、幻海牛が作った巨木に、雨属性の炎を撒いてたんだ。そんで、雨属性の炎の特徴は“鎮静”だぜ。」
雨を浴びた海牛の動きは鈍くなるが、
幻騎士のスピードは変わらないためズレていく。
「幻覚の動きの合ってない所が、幻騎士の位置ってワケだな。」
リボーンも満足そうに納得する。
「あっ、ちなみにコイツは……小次郎ってんだ。」
「次郎と小次郎だって!面白ーい!」
「すごいネーミングセンスですね…」
「さてとっ、言っとくけどこれからだぜ、俺達の本気は。」
1本の長刀と3本の小刀を携えるその姿は、飛躍的な成長を感じさせる。
それは味方だけでなく、敵である幻騎士にも実感させてしまうほどで。
「(…どうなっている、この男……以前の山本武ではない!!)」
---
------
------------
「行くわよピグ、」
「ガアーッ!!」
蜜柑の指示で、ピグは炎弾の発射態勢に入る。
いち早くそれを察知し、炎を奪おうとナイフを構えた檸檬。
しかし……
「これでどうかしら?」
ズガガガガ…
『なっ…!』
この戦闘でずっと一点に留まっていた蜜柑が、初めて移動した。
檸檬との距離を長くとり、斜め上と正面に乱射したのだ。
『(全部、追尾型…!)』
正面の弾だけでなく、斜め上に撃たれた弾も上から降って来るように檸檬に迫る。
否、正しくは……檸檬の右肩に乗るセレネに向かって。
それだけでなく、左半身にはピグの炎弾が迫っている。
「さぁ、右と左……どちらを取る?」
『(後ろに下がっても追尾と炎弾は避けられない!上は銃弾に塞がれてるし、空間移動は……)』
蜜柑とピグが繰り出したこの攻撃から逃れる最良の手段は、空間移動だった。
しかし、それには最大の問題が。
『(あたしとセレネが、ちゃんと同じ場所に移動できるか……分からない…!)』
同時に2つのものを移動させるのは簡単だった。
しかし、波長のひずみを通り抜けるのは、不安定なトンネルを通るのと同じ。
つまり……同じひずみから入っても、同じ出口に辿りつく保証が無いのだ。
もしバラバラの地点に出てしまっては……
戦闘力がほとんど無いセレネが危険に晒される。
「みぃっ…」
迫り来る銃弾の雨と巨大な炎弾に、セレネは檸檬の肩の上で震える。
『(今の蜜柑の銃弾のターゲットはセレネ……だったら!!)』
覚悟を決めた檸檬は、グッと両足に力を込め、両手にナイフを握った。
---
------
------------
匣兵器だけでなく、山本の成長に驚くディーノとリボーン。
すると、後ろからスクアーロが言う。
「剣への覚悟だぁ。あのカスは超一流剣士に必要な素質を十二分に備えているが、一つだけ弱点があった。」
来日してすぐ、山本を預かっていった日のことを思い出すスクアーロ。
「剣士になりきれねぇ甘さだぁ…」
---「剣士になりきれない甘さ?」
---「この時代のお前も同じだった。俺は気に食わなかったが、それもてめーの一部と思い黙っていた。」
疑問符を浮かべる山本に、スクアーロは真剣な眼差しを向けて。
---「野球か剣か、どちらかを選べぇ。」
---「………いきなり進路指導かよ…」
---「てめーには両方を同時にこなす才がある!!だが剣はこなすもんじゃねぇ、懸けるもんだぁ!!」
その熱弁にしばし沈黙した後、山本は笑顔で言った。
---「それならもう決まってる、剣一本でいく。」
山本は言った。
幻騎士戦では、勝つ自信があり、これが終われば過去に帰れると信じていた。
しかし結果は敗北。
意識が飛んでいく中で、すごく後悔した……と。
---「剣へのつっこみが甘いから親父の時雨蒼燕流を汚しちまったって……それによぉ、仲間のために全力を尽くせてなかったんじゃないのかって……」
そして、決意した。
もうあんな思いをしないためにも、剣だけに全てを注ぐと。
---「ま、寂しさもあんだけどな。期間限定とは言え野球をスッパリ忘れんのは。」
---「期間限定!?」
---「ああ、過去に帰るまでだぜ。」
---「う"お"ぉい!!何か納得できねぇぞ!!」
「…動機と期間が気にいらねぇが、全てを剣に捧げるその覚悟が奴を本物の剣士にした。」
スクアーロの話を聞き、リボーンが言う。
「2択を迫られ剣を選ぶってのは、初代雨の守護者そのものだな。」
「初代ボンゴレファミリーの、ですか?」
「ああ。」
初代雨の守護者の剣は世紀無双と言われ、誰もが認める才能を有していた。
しかし、本人は何よりも音楽を愛し、自分の剣を1本も持たなかったという。
ところがある時、異国の友であったボンゴレI世のピンチを聞きつけた彼は…
何の躊躇いも無く命より大事な楽器を売り、武器と旅費に換えて助けに向かった。
その武器と言うのが、3本の小刀と1本の長刀だったという。
「友のために、全てを捨てることを厭わなかったんだ。」
それは、山本がスクアーロに示した決意と同じもの。
「小次郎、形態変化!」
山本の言葉に反応し、雨燕がその姿を変えていく。
「時雨金時と燕が合体した!!」
「あれは長刀だ。やはり山本のボンゴレ匣は……」
全てを洗い流す恵みの村雨と謳われた、朝利雨月の変則四刀!!!
-「みぃっ、みぃーっ!」
「え?この声って…」
「檸檬ちゃんの匣兵器、ですか…?」
京子とハルが、別モニターからの声に気付き、そちらを見る。
「はひっ!煙ばっかりです!!」
「檸檬ちゃん…!」
不安そうにする2人を見て、ディーノが雲雀に尋ねた。
「恭弥、ずっと見てたんだろ?檸檬と蜜柑は…」
「うるさい。」
「恭弥…?」
雲雀の表情と固く握られた拳に、ディーノとリボーンは何かを察する。
「まさか、檸檬……」
「やべーかもな…」
煙が徐々に晴れていき、全体像が窺える。
そこには……
「みっ…みぃーっ!」
哀しみいっぱいに鳴き続けるセレネと…
『はぁっ……う…ぐっ……』
「「檸檬ちゃん!!」」
背中に大きく傷を負い、膝をついた檸檬。
銃弾にあった炎は全て奪って無力化出来たものの、
ピグの炎弾の炎を全て吸収し切れなかった檸檬は、そのまま炎弾を受けたのだ。
「みぃっ…」
『大丈夫、だった…?セレネ……』
檸檬が吸収出来た炎弾の炎は、全体の3割弱。
つまり、7割分のダメージは与えられたことになる。
それでもセレネにだけは当たらないようにと、檸檬は自分の背中を盾にした。
結果、傷を負った背中だけでなく、衝撃によって口からも血が滴っているのだが。
「愚かにも程があるわね。」
「いかん!このままでは極限に隙だらけだぞ!!」
「匣兵器を庇うなんて……それは所詮、戦いに使うオモチャでしょう?」
コツコツと、蜜柑が歩み寄る。
嘲りの視線を送りながら。
観覧席では皆が青ざめ、雲雀は眉間に皺を寄せる。
『…だってあたしは……護る為に、戦うんだもの……』
「護った結果がコレよ。姉さんは、匣兵器なんて“道具”を護ったせいで、私に負ける。」
『セレネは…道具じゃない……』
「そうね、戦闘の役にも立たない“ガラクタ”だわ。」
銃口が檸檬に向けられる。
檸檬と蜜柑の距離は、2メートル。
引き金を引かれてしまえば、回避は不可能。
「みぃっ…!」
『大丈夫…だからね……セレネ………つぅっ…』
背中の傷からドクドクと血が流れる。
その痛みに、檸檬はついに手をついた。
「炎弾は痛いでしょう?けれど、私が得て来た痛みには程遠いわ。」
『…蜜柑……』
「存分に、痛みと苦しみを味わうのね…!」
蜜柑が引き金を引いた、その時。
「み…みぃぃーっ!!!」
「あ、あれは…!?」
「セレネちゃんが光ってる…」
「綺麗です…!」
「ったく…遅ぇぞぉ!セレネ!!」
突如大きく鳴いたセレネが、檸檬を覆うほどの紫色の光を放つ。
その光景に驚き声を上げるバジル、京子、ハル。
一方スクアーロは、痺れを切らしたように叫んだ。
「これは…」
「みぃーっ!」
強い光がやみ、蜜柑が目を開けると……
そこには、たくさんの雲ヒナの分身で出来た大きなドームが出来上がっていた。
モニターでそれを見たディーノは、安堵したように頭を掻く。
「ヒヤヒヤさせるぜ……だが、これで一先ず安心だな。」
「何だ、知ってたのか?」
「あぁ。この時代の檸檬にセレネの能力についてある程度聞かされてる。」
「ただ、セレネはエンジンかかんのが遅ぇんだぁ。」
「だからこの時代の檸檬も、実戦では使ってなかったみてーだな。」
ディーノとスクアーロの言葉に、リボーンはニッと笑う。
「だとしたら、チャンスだぞ。いくら蜜柑が檸檬と何度も交戦していたとは言え、出してねー技は知らねぇだろうからな。」
「でも、あの盾…」
「大丈夫だ。セレネの盾は…ちょっとやそっとじゃ破れねぇぜ。」
不安そうなクロームの言葉に、ディーノは半ば得意気に返した。
「盾があるなら破壊するまでよ。ピグ、」
「ガァーッ!」
ピグの爪が切り裂いても、中にいるハズの檸檬の姿は見えない。
セレネの分身が、何層も重なっているのだ。
しかも、切り裂かれた箇所も“増殖”によって瞬時に再生してしまう。
「(それなら…)」
容赦なく破壊の死ぬ気弾を撃ち込む蜜柑。
しかしそれでも、セレネの盾は突破できずに再生される。
それが、360度檸檬を隠しているのだ。
「ふぅん、やるねぇ……檸檬チャンの匣アニマル。」
ミルフィオーレ側の観覧席で、白蘭は呟く。
が、それでも笑みは絶やさずに。
「けど、このまま防がれてばかりじゃないよね?蜜柑♪」
愉しそうに、眼光を鋭くした。