未来編②
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『ディーノ、恭弥の修業に来たの?』
「いや、今日はツナたちの修業を見るからあんま時間取れないって伝えに来たんだ。」
「わざわざ来なくていい。」
『きょ、恭弥…』
あたしを解放して、ぷいっとそっぽを向く恭弥。
ふと、足首をつつかれる感触。
『セレネ?』
「み…」
『あ、そろそろ炎切れそうだね、匣に戻る?』
「みっ。」
ポケットから匣を取り出して、セレネを戻らせた。
「さすが、良く懐いてんな。」
『え?多分、元々10年後のあたしに懐いてたんだと思う。』
「そー言えば恭弥みてーに肩に乗せてたな。」
言いながら少し笑うディーノ。
と、今度はあたしの頭に手を乗せて。
「にしても縮んだなー!10年前の檸檬はこんなに幼かったんだな。」
『また子供扱いする…』
「いーじゃねーか、今も昔も檸檬は可愛いぜ?」
『あ、ありがと…』
何だか、ディーノは10年で随分カッコよくなったなぁ…
お兄ちゃん度もアップしてる…。
『そうだ!あたしもツナ達に会いに行かないと!』
「何で。」
『わっ、恭弥……ビックリしたぁ…』
「草食動物たちに用事?」
『そりゃあ、日本に帰って来たよって言わなきゃいけないし……京子とハルにも心配かけてるかも知れないし…』
「…ふぅん。」
『また帰って来るよ、恭弥と一緒にココで修業するつもりだし!』
もう、離れ離れは嫌だから。
あたしも…なるべく恭弥の傍にいたいと思うから。
「…2時間。」
『らじゃ!ありがとう恭弥っ♪』
感謝の気持ちを込めて、恭弥の頬にキスを1つ。
久々にしたら、ちょっと照れ臭かった。
---
--------
---------------
アジトに帰った俺は、京子ちゃんに話したことをハルにも話した。
ハルは、笑顔で「話してくれてありがとう」と言ったけど……それは取り繕いだって分かった。
「ツナさん今、修業中なんですよね。わざわざハルのためにスイマセン!もう行ってOKですよ。」
「へ?」
「修業の時間が勿体ないです!」
「でもお前…全然大丈夫じゃないじゃん……」
「はひ!?な、何言ってるんですか!?ハルは知りたかった話を聞けたんですよ!大満足で嬉しくてお腹いっぱいです!!」
笑顔のまま、「お願いだから行って欲しい」と頼まれているようで。
俺はかける言葉を見つけられずに席を立った。
「じゃあ行くな!あ……いつもご飯作ってくれてありがとな。」
「そんな改められると照れます!ツナさんもファイトです!!」
「ん。」
「いってらっしゃーい!」
ツナが去った後、ハルは脱力するように座り込んだ。
そこにビアンキが現れ、声をかける。
「ツナを困らせまいと、よく頑張ったわね。」
「凄く…ショックです……」
何かを隠されていること、ツナ達が頑張っていることは知っていた。
しかしその規模の大きさや重大さを分かっていなかった。
「何も知らずに我が儘ばっかり言って……自分のノーテンキぶりが…悔しい、です……」
溢れだす涙を抑えきれずに、泣きだすハル。
ビアンキはしゃがんでその体を支えるように抱きしめた。
「ハルは頑張ってるわ。」
「それと……ビアンキさん、檸檬ちゃんも話したがらないだろうって言ってましたよね……それも、今ならちょっと分かります…」
「えぇ…」
「いっぱい背負って、それでもハル達に笑顔で接してくれてる……檸檬ちゃんの強さ、凄いなって……」
ハルの言葉は、自身の嗚咽で途切れた。
ビアンキはその涙が止まるまで、ハルの背を優しく摩り続けた。
---
--------
「京子ちゃんとハルに話したって、皆に報告しなきゃ。お兄さん、怒るかなぁ…?」
少し不安になりながら、通信室に入る。
と、そこには…
「あ、ディーノさん!!それに……檸檬!!?」
「よぉツナ、」
『ツナ、久しぶりっ!』
「い、いつ帰って来たの!?」
『実は昨日日本に戻って来たんだけど……色々あって、さっき空間移動でアジトに帰ったばっかなの。』
「俺は修業の進み具合をチェックしに来たんだ。」
久々に会った…と言っても3日くらいだけど……檸檬は元気そうで、本当に安心した。
イタリアで追加の資料と匣を見つけて、今はまた修業をしているらしい。
『あたしのことより、そっちは?京子達にボイコットにあったって聞いたけど…』
「家事にばかり現をぬかしてねーだろーな?」
「え……あ、うん。京子ちゃんにヒントを貰って、少しだけ匣のことが分かって来たんだ。多分もう暴れたりはしないと思う…」
自信は100%ってワケじゃないけど、俺の言葉を聞いて皆がそれぞれ期待の反応を示す。
「で、でもまだやってみないと分からないけど…」
-「ラン♪」
「ん?」
その時、突然モニターに変な画像が流れて、変な音声が聞こえてきた。
-「ラン♪ラン♪」
「ジャンニーニ、何これ?」
「そ、それが分かりません!何者かに回線をジャックされてます!!」
-「ランラン♪」
『回線ジャック……もしかして…』
-「ランランランランラーン……ビャクラン♪」
「なぁ!?」
最後に出てきた小さいキャラクターは、前に見た白蘭にそっくりで。
-「ハハハハッ!!どう?面白かったかい?」
「白蘭!!」
-「退屈だから遊びに来ちゃった、食べるかい?」
白蘭と一緒に映っていたのは、高く盛られたパフェ。
-「なーんてね、本当は“チョイス”についての業務連絡さ。日時については言ったけど、場所は言ってないよね。」
6日後の正午に、並盛神社………白蘭は、そう指定した。
「並盛で戦うの…!?」
-「んー…どーだろーね。とりあえず必要な準備して、仲間は全員連れて来てね。少なくとも過去から来たお友達は全員だよ。」
「何!?」
「全員って…」
「京子ちゃんやハルも!?」
「何だと!!?」
ショックを受ける俺達にまた笑い、今度は檸檬を見る白蘭。
-「勿論、君には何が何でも来てもらうよ……檸檬チャン♪」
『……分かってるよ。』
-「あ、どんなつもりで来るのか知らないけど、戦う準備はした方がいいよ。じゃないと……蜜柑は君の話なんて聞かないで、すぐに殺しちゃうだろうから。」
檸檬の拳が握られたのが、見えた。
きっと、話し合いで和解したいと強く強く願ってるハズなんだ。
檸檬はもう、蜜柑と戦いたくないと思ってる。
それなのに……
『…蜜柑の傷は……治ったの?』
-「まぁね、ちゃーんと全回復させたよ。檸檬チャンにやられた腕も、とっくに元通りさ♪」
『そう…良かった……』
-「そーゆワケで、みんなで来ないと君たちは失格だからね。」
「な!ちょっと待って!!」
-「じゃあ修業頑張ってね~♪」
「おい!!」
白蘭は言いたいことだけ言って、回線を切ってしまった。
京子ちゃんとハルを連れていかなくちゃいけないなんて……混乱し始める俺達。
「こうなると、ツナが京子やハルに状況を説明したのは正解だったかもな。」
「ご、ごめん……俺、話したんだ……やっぱり京子ちゃん達にも事実を知ってもらうべきだって…」
『ツナ……ひょっとして、今までのことも…?』
「う、うん…」
檸檬は酷くショックを受けたみたいだった。
同じく、京子ちゃんのお兄さんも突然壁を殴って。
「京子はどうなった……」
「お兄さん、あの…」
「京子はどうなったー!?」
山本に押さえられながら問いただすお兄さんに、ちゃんと聞いてくれたことを伝えた。
ディーノさんが、俺をフォローしてくれるように言う。
この状況では遅かれ早かれ言わなければいけなかっただろう、と。
「にしても白蘭の奴、どーやって回線に入りこんだんだ?」
『それは多分蜜柑が…』
リボーンの疑問に檸檬が答えようとした、その時。
「セキュリティがザルなんだぁ…アマチュア共がぁ。」
『あ、アロちゃんっ!!』
「う”お”っ!?な、何でこっちにいやがんだ、檸檬!!」
『えっと…空間移動で……』
どうやら檸檬はスクアーロより後にイタリアを発ったらしい。
けど、どう考えても空間移動の方が早いから、先に着いてしまったようだった。
お土産(?)のマグロをディーノさんに渡して、スクアーロはそのままコツコツと歩み進めた。
ディーノさんの“生徒”って言葉に反応した、山本の方へ。
だけど……
ガッ、ドガッ、バキッ、
「がはっ!!ぐあっ!!」
「山本ぉ!!」
『あ、アロちゃん…』
山本が気絶するまで殴り蹴り、担ぐスクアーロ。
「殺しやがったのか!?」
「まったく、殺してやりてぇぜ。このカスは預かって行くぞぉ。」
「えぇ!?そんなこと…」
反対しようとする俺を、ディーノさんと檸檬が止める。
「ここはスクアーロに任せるんだ。山本のことは、俺達より分かっている。」
『アロちゃん、あんな風に言ってたけど本当に殺したりはしないから……ちゃんと、武のこと考えてる。』
「そんな…」
こうして山本はスクアーロと姿を消した…。
不安が消えない俺に、お兄さんが呼びかける。
と、次の瞬間、
バキッ、
「ぐはっ!」
『なっ…!』
「おい了平!」
「10代目!!」
お兄さんは少し、目を潤ませていたように思う。
「やはり京子を巻き込んだことは許せん……だが俺も男だ…この1発で次に進むことにする!!」
『了平さん……』
この日は、みんなの溜まっていたモヤモヤが一気に噴き出したような酷い一日だった…。
でも、この日からみんなが変わり始めた…!
自分のすべきことをやって、それが一つの方向に噛み合い始めた。
『ツナ、大丈夫?』
「あ、ありがと檸檬…」
俺に手を差し伸べてくれた檸檬は、やっぱり少し複雑そうな表情で。
「あの、檸檬…」
『ん?』
「檸檬のことも、京子ちゃん達に話したんだ……蜜柑さんとのことも……勝手にごめん!」
『………頭上げてよ、お願い。』
俺は、身勝手だった。
京子ちゃんのお兄さんが断固反対してるのを知ってて、
檸檬が自分の修業や戦いを隠したがってるのを知ってて、
話してしまったんだから。
なのにお兄さんはたった1発で押さえてくれて、
檸檬は変わらず笑いかけてくれる。
「でも…」
『あたしね、日本に帰って来た時に決めたんだ。もう隠し事しないって。だから、ツナが話す手間を省いてくれて、ラッキーだなって思ってるよ♪』
「檸檬…」
『じゃあ、ちょっと京子とハルに会ってくる!久しぶりだし。』
「あ、うん…」
檸檬が明るく振る舞おうとする時のクセ、少しだけ分かって来た。
“本当の気持ち”の中に、軽い冗談を混ぜる。
きっとさっきのも、“隠し事しない”っていうのは本当の決意で、
“手間が省けてラッキー”っていうのは冗談…むしろ嘘なんだろう。
「けじめをつけに行くつもりだな、檸檬の奴。」
「リボーン…」
「今まで檸檬は、京子とハルに対して全ての傷を隠しながら接してきたんだ。だが戦いを見せるということは……傷も見せるということだ。」
「蜜柑相手に、無傷での勝利はあり得ないからな…」
ディーノさんが頭を掻きながら、溜め息をつく。
「心配されるのが苦手な檸檬のことだ、あの2人に戦う姿は見せたくなかっただろうぜ。」
「いーじゃねーか、心配されることも覚えていかねーとな。無理して笑顔を見せるのは良いことじゃねぇ……そいつは檸檬もいずれ理解しないといけねーことだ。」
「あぁ、そうだな…」
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『(何て言おうかな……てゆーか何処まで知ってるんだろう…?)』
ツナが知ってるのは、第六感を使い過ぎると発作が起きるってことまで、かな?
とすると…京子もハルもそれを知ってる…?
『う~ん…』
悩みながらキッチンに向かっていると、後ろから呼びかけられた。
「檸檬ちゃん…!?」
『あ…』
「檸檬ちゃんっ!!」
『京子……えっと、久しぶり。元気だった?』
普通に返したつもりだったんだけど、京子は何故か瞳を潤ませて駆け寄る。
食糧庫から取って来たらしき野菜たちを抱えて、あたしに尋ねた。
「大丈夫!?怪我は!?」
『えっ…』
「ツナ君から、聞いたの……檸檬ちゃん、いっぱい戦って…酷い怪我して……それで…」
『だ、大丈夫だよ!イタリアで治してから帰って来たの♪だから心配しないで、ね?』
それでもポロポロと泣き出してしまった京子。
ちょっと焦って、とりあえずキッチンまで誘導する。
そこには、ハルがいて。
「檸檬ちゃんっ!!」
『ハル、久しぶり。』
笑顔で答えたつもりなのに、ハルも泣きそうな顔をする。
『あ、あの……あたしは大丈夫だよ?怪我治ったし、今は無茶なことしてないし…』
「そうじゃ、無いんです……」
『へ?』
「檸檬ちゃんについてツナさんから聞いた時……凄く、不安になりました…」
「いつか檸檬ちゃんが、何処か遠くに行っちゃう気がして…」
ハルと京子は、あたしの手をぎゅっと握った。
「ハル達が聞いたことは、檸檬ちゃんが知られたくなかったことだって、何となく分かったんです……だけど、」
「お願いだから……今までみたいに仲良くして欲しいの…!」
『2人とも…』
正直、こんな反応をされると思ってなくて、凄く凄くビックリした。
2人は……あたしの過去や第六感のことを知っても、友達でいてくれるんだ…。
『怖く、ない…?あたしは、普通の人間じゃないんだよ…?』
「怖くなんかないよ!」
「檸檬ちゃんは、私たちの友達の檸檬ちゃんです!」
『ありがと……ありがとう、京子、ハル……』
隠してることが、2人のためだと思ってた。
でもそれは、知られるのを怖がってるだけだったのかも知れない。
『よしっ、やる気出てきた!あたしも修業頑張るよ♪過去に帰ったら…また遊びに行こうね!』
「うん!」
「はい!」
2人の笑顔に、元気を貰った。
キッチンを出ると、そこにはビア姉さんがいた。
『ビア姉さん…』
「覚悟を決めた様ね、檸檬。」
『はい。2人が受け入れてくれたから……あたしも、隠すのはやめようと思って。』
第六感は、人智を超えている。
だから軽蔑されるだろうと腹を括ってた。
けど……2人の反応は予想外で。
「あの子たちにとって、檸檬はもうかけがえのない存在なのよ。」
『はい…』
「もちろん、私達にとっても。」
『あたしも……みんなが大切です。だから、みんなの未来を護る為に戦います。』
そして、眠ってしまった蜜柑の心を呼び覚ます為に……。
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京子とハルに別れを告げた後、あたしは並中に戻った。
2人は、あたしにも軽食を作って持たせてくれた。
ツナ達がそれぞれの修業に取り組み始めたし、あたしも頑張ろうって思う。
一刻も早く、10段階までマスターしなくちゃいけないから。
『ただいま、恭弥!』
「おかえり。」
『あれっ、ディーノも戻ってたんだ。』
「あぁ、向こうは問題なさそうだからな。今日は空気が荒れてたが……これでツナ達もスッキリして修業に取り組めるだろ。」
『うん、そうだね。』
恭弥とディーノはそのまま屋上で修業するっぽかったから、あたしは応接室に行くことにした。
「ねぇ檸檬、」
『ん?』
「無理したら…咬み殺すから。」
“目が見えなくなった”話を聞いているせいか、恭弥はムッとしながらそう言う。
その表情を見ていたら、何だか嬉しくなって。
『大丈夫だよ、休憩入れながらやる。』
心配されるのが、嫌いだった。
あたしなんかの為に心を動かして欲しくなかった。
あたしなんかが誰かの心を動かしてるってことが、耐えられなかった。
あたしは、気にかけて貰うべき存在じゃない……と。
けど今は、ちょっと違う気がする。
心配してくれるその言葉が、嬉しい。
こんなあたしを大切に思ってくれてるってことに、感謝したい。
「…ならいいけど。」
「体調悪くなったらすぐ言えよ、ココにいるからよ。」
「貴方は関係ないよ。」
「何でだよ、檸檬は俺の大事な妹分だぜ?」
「……咬み殺す。」
「おっと!」
修業…というかバトルを始めちゃった恭弥とディーノに微笑してから、あたしは屋上を後にした。
階段を降りながら、拳をギュッと握りなおした。
そして……その6日後、決戦の日には……
あたし達の修業は完璧に仕上がった。
「いや、今日はツナたちの修業を見るからあんま時間取れないって伝えに来たんだ。」
「わざわざ来なくていい。」
『きょ、恭弥…』
あたしを解放して、ぷいっとそっぽを向く恭弥。
ふと、足首をつつかれる感触。
『セレネ?』
「み…」
『あ、そろそろ炎切れそうだね、匣に戻る?』
「みっ。」
ポケットから匣を取り出して、セレネを戻らせた。
「さすが、良く懐いてんな。」
『え?多分、元々10年後のあたしに懐いてたんだと思う。』
「そー言えば恭弥みてーに肩に乗せてたな。」
言いながら少し笑うディーノ。
と、今度はあたしの頭に手を乗せて。
「にしても縮んだなー!10年前の檸檬はこんなに幼かったんだな。」
『また子供扱いする…』
「いーじゃねーか、今も昔も檸檬は可愛いぜ?」
『あ、ありがと…』
何だか、ディーノは10年で随分カッコよくなったなぁ…
お兄ちゃん度もアップしてる…。
『そうだ!あたしもツナ達に会いに行かないと!』
「何で。」
『わっ、恭弥……ビックリしたぁ…』
「草食動物たちに用事?」
『そりゃあ、日本に帰って来たよって言わなきゃいけないし……京子とハルにも心配かけてるかも知れないし…』
「…ふぅん。」
『また帰って来るよ、恭弥と一緒にココで修業するつもりだし!』
もう、離れ離れは嫌だから。
あたしも…なるべく恭弥の傍にいたいと思うから。
「…2時間。」
『らじゃ!ありがとう恭弥っ♪』
感謝の気持ちを込めて、恭弥の頬にキスを1つ。
久々にしたら、ちょっと照れ臭かった。
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アジトに帰った俺は、京子ちゃんに話したことをハルにも話した。
ハルは、笑顔で「話してくれてありがとう」と言ったけど……それは取り繕いだって分かった。
「ツナさん今、修業中なんですよね。わざわざハルのためにスイマセン!もう行ってOKですよ。」
「へ?」
「修業の時間が勿体ないです!」
「でもお前…全然大丈夫じゃないじゃん……」
「はひ!?な、何言ってるんですか!?ハルは知りたかった話を聞けたんですよ!大満足で嬉しくてお腹いっぱいです!!」
笑顔のまま、「お願いだから行って欲しい」と頼まれているようで。
俺はかける言葉を見つけられずに席を立った。
「じゃあ行くな!あ……いつもご飯作ってくれてありがとな。」
「そんな改められると照れます!ツナさんもファイトです!!」
「ん。」
「いってらっしゃーい!」
ツナが去った後、ハルは脱力するように座り込んだ。
そこにビアンキが現れ、声をかける。
「ツナを困らせまいと、よく頑張ったわね。」
「凄く…ショックです……」
何かを隠されていること、ツナ達が頑張っていることは知っていた。
しかしその規模の大きさや重大さを分かっていなかった。
「何も知らずに我が儘ばっかり言って……自分のノーテンキぶりが…悔しい、です……」
溢れだす涙を抑えきれずに、泣きだすハル。
ビアンキはしゃがんでその体を支えるように抱きしめた。
「ハルは頑張ってるわ。」
「それと……ビアンキさん、檸檬ちゃんも話したがらないだろうって言ってましたよね……それも、今ならちょっと分かります…」
「えぇ…」
「いっぱい背負って、それでもハル達に笑顔で接してくれてる……檸檬ちゃんの強さ、凄いなって……」
ハルの言葉は、自身の嗚咽で途切れた。
ビアンキはその涙が止まるまで、ハルの背を優しく摩り続けた。
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「京子ちゃんとハルに話したって、皆に報告しなきゃ。お兄さん、怒るかなぁ…?」
少し不安になりながら、通信室に入る。
と、そこには…
「あ、ディーノさん!!それに……檸檬!!?」
「よぉツナ、」
『ツナ、久しぶりっ!』
「い、いつ帰って来たの!?」
『実は昨日日本に戻って来たんだけど……色々あって、さっき空間移動でアジトに帰ったばっかなの。』
「俺は修業の進み具合をチェックしに来たんだ。」
久々に会った…と言っても3日くらいだけど……檸檬は元気そうで、本当に安心した。
イタリアで追加の資料と匣を見つけて、今はまた修業をしているらしい。
『あたしのことより、そっちは?京子達にボイコットにあったって聞いたけど…』
「家事にばかり現をぬかしてねーだろーな?」
「え……あ、うん。京子ちゃんにヒントを貰って、少しだけ匣のことが分かって来たんだ。多分もう暴れたりはしないと思う…」
自信は100%ってワケじゃないけど、俺の言葉を聞いて皆がそれぞれ期待の反応を示す。
「で、でもまだやってみないと分からないけど…」
-「ラン♪」
「ん?」
その時、突然モニターに変な画像が流れて、変な音声が聞こえてきた。
-「ラン♪ラン♪」
「ジャンニーニ、何これ?」
「そ、それが分かりません!何者かに回線をジャックされてます!!」
-「ランラン♪」
『回線ジャック……もしかして…』
-「ランランランランラーン……ビャクラン♪」
「なぁ!?」
最後に出てきた小さいキャラクターは、前に見た白蘭にそっくりで。
-「ハハハハッ!!どう?面白かったかい?」
「白蘭!!」
-「退屈だから遊びに来ちゃった、食べるかい?」
白蘭と一緒に映っていたのは、高く盛られたパフェ。
-「なーんてね、本当は“チョイス”についての業務連絡さ。日時については言ったけど、場所は言ってないよね。」
6日後の正午に、並盛神社………白蘭は、そう指定した。
「並盛で戦うの…!?」
-「んー…どーだろーね。とりあえず必要な準備して、仲間は全員連れて来てね。少なくとも過去から来たお友達は全員だよ。」
「何!?」
「全員って…」
「京子ちゃんやハルも!?」
「何だと!!?」
ショックを受ける俺達にまた笑い、今度は檸檬を見る白蘭。
-「勿論、君には何が何でも来てもらうよ……檸檬チャン♪」
『……分かってるよ。』
-「あ、どんなつもりで来るのか知らないけど、戦う準備はした方がいいよ。じゃないと……蜜柑は君の話なんて聞かないで、すぐに殺しちゃうだろうから。」
檸檬の拳が握られたのが、見えた。
きっと、話し合いで和解したいと強く強く願ってるハズなんだ。
檸檬はもう、蜜柑と戦いたくないと思ってる。
それなのに……
『…蜜柑の傷は……治ったの?』
-「まぁね、ちゃーんと全回復させたよ。檸檬チャンにやられた腕も、とっくに元通りさ♪」
『そう…良かった……』
-「そーゆワケで、みんなで来ないと君たちは失格だからね。」
「な!ちょっと待って!!」
-「じゃあ修業頑張ってね~♪」
「おい!!」
白蘭は言いたいことだけ言って、回線を切ってしまった。
京子ちゃんとハルを連れていかなくちゃいけないなんて……混乱し始める俺達。
「こうなると、ツナが京子やハルに状況を説明したのは正解だったかもな。」
「ご、ごめん……俺、話したんだ……やっぱり京子ちゃん達にも事実を知ってもらうべきだって…」
『ツナ……ひょっとして、今までのことも…?』
「う、うん…」
檸檬は酷くショックを受けたみたいだった。
同じく、京子ちゃんのお兄さんも突然壁を殴って。
「京子はどうなった……」
「お兄さん、あの…」
「京子はどうなったー!?」
山本に押さえられながら問いただすお兄さんに、ちゃんと聞いてくれたことを伝えた。
ディーノさんが、俺をフォローしてくれるように言う。
この状況では遅かれ早かれ言わなければいけなかっただろう、と。
「にしても白蘭の奴、どーやって回線に入りこんだんだ?」
『それは多分蜜柑が…』
リボーンの疑問に檸檬が答えようとした、その時。
「セキュリティがザルなんだぁ…アマチュア共がぁ。」
『あ、アロちゃんっ!!』
「う”お”っ!?な、何でこっちにいやがんだ、檸檬!!」
『えっと…空間移動で……』
どうやら檸檬はスクアーロより後にイタリアを発ったらしい。
けど、どう考えても空間移動の方が早いから、先に着いてしまったようだった。
お土産(?)のマグロをディーノさんに渡して、スクアーロはそのままコツコツと歩み進めた。
ディーノさんの“生徒”って言葉に反応した、山本の方へ。
だけど……
ガッ、ドガッ、バキッ、
「がはっ!!ぐあっ!!」
「山本ぉ!!」
『あ、アロちゃん…』
山本が気絶するまで殴り蹴り、担ぐスクアーロ。
「殺しやがったのか!?」
「まったく、殺してやりてぇぜ。このカスは預かって行くぞぉ。」
「えぇ!?そんなこと…」
反対しようとする俺を、ディーノさんと檸檬が止める。
「ここはスクアーロに任せるんだ。山本のことは、俺達より分かっている。」
『アロちゃん、あんな風に言ってたけど本当に殺したりはしないから……ちゃんと、武のこと考えてる。』
「そんな…」
こうして山本はスクアーロと姿を消した…。
不安が消えない俺に、お兄さんが呼びかける。
と、次の瞬間、
バキッ、
「ぐはっ!」
『なっ…!』
「おい了平!」
「10代目!!」
お兄さんは少し、目を潤ませていたように思う。
「やはり京子を巻き込んだことは許せん……だが俺も男だ…この1発で次に進むことにする!!」
『了平さん……』
この日は、みんなの溜まっていたモヤモヤが一気に噴き出したような酷い一日だった…。
でも、この日からみんなが変わり始めた…!
自分のすべきことをやって、それが一つの方向に噛み合い始めた。
『ツナ、大丈夫?』
「あ、ありがと檸檬…」
俺に手を差し伸べてくれた檸檬は、やっぱり少し複雑そうな表情で。
「あの、檸檬…」
『ん?』
「檸檬のことも、京子ちゃん達に話したんだ……蜜柑さんとのことも……勝手にごめん!」
『………頭上げてよ、お願い。』
俺は、身勝手だった。
京子ちゃんのお兄さんが断固反対してるのを知ってて、
檸檬が自分の修業や戦いを隠したがってるのを知ってて、
話してしまったんだから。
なのにお兄さんはたった1発で押さえてくれて、
檸檬は変わらず笑いかけてくれる。
「でも…」
『あたしね、日本に帰って来た時に決めたんだ。もう隠し事しないって。だから、ツナが話す手間を省いてくれて、ラッキーだなって思ってるよ♪』
「檸檬…」
『じゃあ、ちょっと京子とハルに会ってくる!久しぶりだし。』
「あ、うん…」
檸檬が明るく振る舞おうとする時のクセ、少しだけ分かって来た。
“本当の気持ち”の中に、軽い冗談を混ぜる。
きっとさっきのも、“隠し事しない”っていうのは本当の決意で、
“手間が省けてラッキー”っていうのは冗談…むしろ嘘なんだろう。
「けじめをつけに行くつもりだな、檸檬の奴。」
「リボーン…」
「今まで檸檬は、京子とハルに対して全ての傷を隠しながら接してきたんだ。だが戦いを見せるということは……傷も見せるということだ。」
「蜜柑相手に、無傷での勝利はあり得ないからな…」
ディーノさんが頭を掻きながら、溜め息をつく。
「心配されるのが苦手な檸檬のことだ、あの2人に戦う姿は見せたくなかっただろうぜ。」
「いーじゃねーか、心配されることも覚えていかねーとな。無理して笑顔を見せるのは良いことじゃねぇ……そいつは檸檬もいずれ理解しないといけねーことだ。」
「あぁ、そうだな…」
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『(何て言おうかな……てゆーか何処まで知ってるんだろう…?)』
ツナが知ってるのは、第六感を使い過ぎると発作が起きるってことまで、かな?
とすると…京子もハルもそれを知ってる…?
『う~ん…』
悩みながらキッチンに向かっていると、後ろから呼びかけられた。
「檸檬ちゃん…!?」
『あ…』
「檸檬ちゃんっ!!」
『京子……えっと、久しぶり。元気だった?』
普通に返したつもりだったんだけど、京子は何故か瞳を潤ませて駆け寄る。
食糧庫から取って来たらしき野菜たちを抱えて、あたしに尋ねた。
「大丈夫!?怪我は!?」
『えっ…』
「ツナ君から、聞いたの……檸檬ちゃん、いっぱい戦って…酷い怪我して……それで…」
『だ、大丈夫だよ!イタリアで治してから帰って来たの♪だから心配しないで、ね?』
それでもポロポロと泣き出してしまった京子。
ちょっと焦って、とりあえずキッチンまで誘導する。
そこには、ハルがいて。
「檸檬ちゃんっ!!」
『ハル、久しぶり。』
笑顔で答えたつもりなのに、ハルも泣きそうな顔をする。
『あ、あの……あたしは大丈夫だよ?怪我治ったし、今は無茶なことしてないし…』
「そうじゃ、無いんです……」
『へ?』
「檸檬ちゃんについてツナさんから聞いた時……凄く、不安になりました…」
「いつか檸檬ちゃんが、何処か遠くに行っちゃう気がして…」
ハルと京子は、あたしの手をぎゅっと握った。
「ハル達が聞いたことは、檸檬ちゃんが知られたくなかったことだって、何となく分かったんです……だけど、」
「お願いだから……今までみたいに仲良くして欲しいの…!」
『2人とも…』
正直、こんな反応をされると思ってなくて、凄く凄くビックリした。
2人は……あたしの過去や第六感のことを知っても、友達でいてくれるんだ…。
『怖く、ない…?あたしは、普通の人間じゃないんだよ…?』
「怖くなんかないよ!」
「檸檬ちゃんは、私たちの友達の檸檬ちゃんです!」
『ありがと……ありがとう、京子、ハル……』
隠してることが、2人のためだと思ってた。
でもそれは、知られるのを怖がってるだけだったのかも知れない。
『よしっ、やる気出てきた!あたしも修業頑張るよ♪過去に帰ったら…また遊びに行こうね!』
「うん!」
「はい!」
2人の笑顔に、元気を貰った。
キッチンを出ると、そこにはビア姉さんがいた。
『ビア姉さん…』
「覚悟を決めた様ね、檸檬。」
『はい。2人が受け入れてくれたから……あたしも、隠すのはやめようと思って。』
第六感は、人智を超えている。
だから軽蔑されるだろうと腹を括ってた。
けど……2人の反応は予想外で。
「あの子たちにとって、檸檬はもうかけがえのない存在なのよ。」
『はい…』
「もちろん、私達にとっても。」
『あたしも……みんなが大切です。だから、みんなの未来を護る為に戦います。』
そして、眠ってしまった蜜柑の心を呼び覚ます為に……。
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京子とハルに別れを告げた後、あたしは並中に戻った。
2人は、あたしにも軽食を作って持たせてくれた。
ツナ達がそれぞれの修業に取り組み始めたし、あたしも頑張ろうって思う。
一刻も早く、10段階までマスターしなくちゃいけないから。
『ただいま、恭弥!』
「おかえり。」
『あれっ、ディーノも戻ってたんだ。』
「あぁ、向こうは問題なさそうだからな。今日は空気が荒れてたが……これでツナ達もスッキリして修業に取り組めるだろ。」
『うん、そうだね。』
恭弥とディーノはそのまま屋上で修業するっぽかったから、あたしは応接室に行くことにした。
「ねぇ檸檬、」
『ん?』
「無理したら…咬み殺すから。」
“目が見えなくなった”話を聞いているせいか、恭弥はムッとしながらそう言う。
その表情を見ていたら、何だか嬉しくなって。
『大丈夫だよ、休憩入れながらやる。』
心配されるのが、嫌いだった。
あたしなんかの為に心を動かして欲しくなかった。
あたしなんかが誰かの心を動かしてるってことが、耐えられなかった。
あたしは、気にかけて貰うべき存在じゃない……と。
けど今は、ちょっと違う気がする。
心配してくれるその言葉が、嬉しい。
こんなあたしを大切に思ってくれてるってことに、感謝したい。
「…ならいいけど。」
「体調悪くなったらすぐ言えよ、ココにいるからよ。」
「貴方は関係ないよ。」
「何でだよ、檸檬は俺の大事な妹分だぜ?」
「……咬み殺す。」
「おっと!」
修業…というかバトルを始めちゃった恭弥とディーノに微笑してから、あたしは屋上を後にした。
階段を降りながら、拳をギュッと握りなおした。
そして……その6日後、決戦の日には……
あたし達の修業は完璧に仕上がった。