未来編②
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『ホントにいなくなったんだ…』
日本に空間移動してきたあたしは、街中を見回して、ミルフィオーレの完全撤退を初めて実感した。
マモンチェーンを巻いたリングが、首元でシャンと鳴る。
『てゆーかココ……商店街?』
手を抜いて適当に“並盛に移動したい”って思っただけだったから、商店街のど真ん中に着いちゃったみたい。
久々の平和な空気に、少しだけ深呼吸した。
あたしの知ってる並盛じゃないけど、何だか安心する………。
『って、こーしちゃいられない!』
ディーノ、何処にいるんだろう?
ボンゴレ地下アジトに行けば会えるかな?
………けど、
『(会いたい、な…)』
日本に帰って来たら、一番に会いに行こうと決めてたから。
きっと、並中にいるハズだから。
行こう。
もう1つの匣を探しに行く、その前に。
並中へと、走った。
空間移動が出来なかったんじゃない。
ただ、自分の足で、その場所に行きたかった。
告白
「家事と共同生活を…ボイコットーー!?」
京子ちゃんとハルの宣言に、ショックと焦りを隠せなかった。
白蘭との戦いまで1週間しか無いのに……
しかも、リボーンやジャンニーニ、フゥ太まで女装して女子側につくとか言う始末。
決別してしまった俺達は、5人で相談を始めた。
「一応聞くぜ、どうするんだ?ツナ。」
「うん……やっぱり今の本当の状況やこれからの戦いのことは話せないよ…。あんな壮絶な戦いに巻き込めない…」
「ったくアイツら、10代目のお気持ちも知らずに……俺も話さない方がいいと思います。」
そう言う獄寺君に対し、山本は少し苦笑して。
「まっでも、アイツらだけ知らねーってのも、仲間外れみてーで可哀相だけどな…」
「……それは、そうだけど…」
「話してはいかん!!これで京子に何かあったら!!京子に何かあったらぁ!!」
「るせーなっ!」
「お兄さん…」
お兄さんのストップに後押しされ、話さないという結論で収まった。
そして、家事は自分たちでやって修業との両立を計ろうと。
けど……
洗剤の量を間違えたり、料理の方もボロボロで、さっぱり。
おまけに修業の方も上手く行かずに…ストレスだけが溜まっていった…。
---
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『(恭弥、いるかな…)』
10分ちょいで並中に着いて、校庭の真ん中に立った。
応接室は、カーテンがしまってる。
ってことは……屋上?
透視を使って見てみれば、寝転がってる熱反応が1つ。
『よしっ、』
ほんの少し上がった息を落ち着かせて、階段を駆け上がった。
早く会いたい。
第六感を使えば一瞬で移動できるけど……あたしは何故か、このもどかしさを許していた。
恭弥に、会える。
あたしには、もう人を想う資格なんて無いのかも知れない。
人間離れした力を持ってしまったんだから。
だけど、それでも……
約束は守らせて。
今までたくさん、傷つけて苦しめてしまったから。
それでも貴方は、待っててくれたから。
最後の階段の前に立つと、屋上へのドアの窓から光が降り注いだ。
商店街から走って、階段をいくつも駆け上がったあたしの足は、一段ずつゆっくり上っていった。
一番最初に、何を言えばいいのかな。
どんな顔して、ドアを開けようかな。
ぐちゃぐちゃ考えてる間に、もうドアのぶを握っていた。
言葉も表情も定まらないまま、押しあけてしまう。
会いたい気持ちが、強すぎて。
少し錆びれた音がして、陽光が全身を包んだ。
真正面で寝転がっていた彼は、学ランを肩から落として振り向く。
あぁ…本物だ。
あたし、やっと貴方との約束……ちゃんと守れた…。
『…恭弥っ……』
姿を見ただけで、涙が込み上げる。
次の瞬間浮かんだのは、謝罪の言葉ばかりだった。
隠しごとして、ごめんなさい。
勝手にイタリアに行って、ごめんなさい。
すぐ戻れなくて、ごめんなさい。
いつも迷惑かけて……本当に本当に、ごめんなさい。
何処から謝ればいいのか分からなくなって、屋上に一歩踏み入れた場所で立ちすくんで俯く。
すると急に、視界が真っ暗になった。
けど、あったかい。
『へ…?』
「遅い……遅いよ檸檬……」
ぎゅううっと、痛いほどの腕の力が嬉しくて、いよいよ涙が止まらなくなる。
『ごめんなさ…』
「違うでしょ。」
……あ、そっか。
こんなのは、恭弥が望んでる言葉じゃなくて。
『えっと、ね……』
「うん、」
『会いたかった………会いたかったよぉっ…恭弥ぁ……』
「うん…」
堪え切れなくなって、しがみつくように抱きついた。
恭弥はゆっくりと優しく、髪を撫でてくれる。
そして小さく耳元で、こう言った。
「僕もだよ、檸檬…」
あぁどうして、どうしていつも待っててくれるの?
あたしは今まで、たくさん迷惑かけてきたのに。
自分で自分が嫌になるくらい、恭弥を振り回してるのに。
ダメだと分かっているのに、甘えてしまうの。
恭弥が、変わらずあたしを想ってくれるから。
こんなに安心する場所を、あたしにくれるから。
「…まったく、檸檬は僕を試してるの?」
『えっ…?』
数秒の間のあと投げかけられた質問に、首を傾げる。
あたしが、恭弥を試す…?
どういうこと…?
質問の意味を理解してないと察したのか、恭弥は腕を少しだけ解いて額をコツンとくっつけた。
「離れれば、僕が君を諦めるとでも思ってるの?」
『えっ!?あ、そ…そんな風に考えたりしてないっ!あたしは、その…………ってゆーか!ち、近いよっ…!///』
必死に顔ごと目を逸らそうとするけど、恭弥にガシッと掴まれて適わない。
仕方なく、額をくっつけたまま目線だけ下にして答える。
『あ、あたしは……恭弥があたしを大事にしてくれてるのを…疑おうなんて思ったことないよ。けどっ…あたしなんかでいいのかなって……いつも、ずっと、そう考えてる…』
正直に、正直に。
もう、恭弥に嘘をつきたくないから。
『あたしの生い立ち、立場、化け物みたいな力……色んなこと含めて、あたしは自分を許せないの……幸せな環境に置いてもらって、誰かに大切にされることがっ……許せない…』
「……檸檬、」
恭弥に呼ばれて少し上を向くと、その瞬間、もっと恭弥の顔が近くなった。
この距離……前に、一度だけ………
『……んっ…』
そうだ……キス、されてるんだ…
優しくて、甘い。
だけど自分の涙が混ざって、ちょっとしょっぱい…
唇を通じて、溢れ出て来る。
もう離れないでって、言われてる。
あたしは……
あたし、も……
すぅっと唇が離れて、恭弥に真っ直ぐ見つめられて。
何でも見抜かれてしまいそうで、むしろ既に見抜かれていそうで。
『離れたくないっ…』
想われる価値がないと分かってても、あたしは貴方を求めてしまう。
ずっと一緒にいたいだなんて、幻想すら抱いて。
何て…我儘なんだろうね。
恭弥のこと、“我が儘王子”って言えないよね。
『恭弥が、好き……大好きっ……だから、あたし…』
「檸檬、」
ボロボロと気持ちを吐きだしてくあたしを、恭弥は優しく抱きしめて。
「もう、放さないから。」
『恭弥…』
「檸檬が離れたくなっても、放さない。」
『うん……うんっ…』
「今はまだ、許せなくてもいい。檸檬が自分を許せなくても…僕は檸檬を、愛してるよ。」
まるで、雲に乗ったような感覚だった。
氷が溶けたような、
鎖が解けてくような、
翼が生えたような。
恭弥の傍にいるだけで、自由になれる。
“普通じゃない”あたしを許して、愛してくれる人------
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屋上に荷物を置いて、体育座りした。
恭弥も隣に腰を下ろす。
『あのねっ……話したいこと、たくさんあるんだけど…』
もうやめなきゃ。
あたしは秘密を抱え過ぎた。
隣に居たいと思うから、全部秘密にするのはやめる。
『長くなるし……その、ちょっと暗い話もあるん…だけど…』
「聞くよ、全部。」
『……ありがとう。』
ゆっくりと、順を追って説明した。
この時代であたしがしてきた戦いのこと、
ボンゴレが壊滅の危機に陥ってること、
ミルフィオーレには蜜柑がいて、あたしの命を狙っていること、
そして……第六感のこと。
『この時代のあたしは…みんなに内緒で第六感を研究して修業してた。過去のあたしに伝えるために…』
未来のあたしからの手紙に書いてあったことも、ほとんど話した。
どんな修業をして、その結果どうなったか。
もちろん、未来のあたしの視界が閉ざされたことも……話した。
恭弥は少し……かなり眉間にしわを寄せて、小さくため息をついた。
「今も……そんな修業してるの。」
『……うん…』
怒られて反対されると思ってたのに、恭弥はただあたしの肩を抱いて。
「無理は、してないんだよね。」
『それはちゃんと気をつけてる、けど…』
「けど、何?」
『あ、えっと……てっきり“やめろ”とか言われると思ってたから…』
「言っても檸檬は聞かないでしょ、どうせ。」
諦めたように返して、肩を抱く手で頭を撫でる。
「怖くはないの?」
『……怖いよ…』
「随分素直だね。」
『修業始める時ね、この時代の恭弥にも聞かれたの。』
やっぱり恭弥は恭弥だね、と笑うと、
ムスッとしてそっぽを向いてしまった。
『この時代の恭弥に言われたんだ……怖い時は怖いって言いなよって。』
「…ふぅん……」
『あたし、甘えるのも頼るのも下手なんだって。』
「うん。」
『何でそこ即答!?』
「だってそうでしょ。」
ムスッとしてたのがウソみたいに、今度は意地悪な笑みを見せる。
「それでも……僕には甘えてくれるんでしょ?」
『なっ…!///』
「弱った時は、僕のトコに来るんだよね?」
『う……』
何でこう、自信たっぷりに聞くんだか。
そんな恭弥の言葉にドキドキしちゃうあたしもあたしだけど。
「違うの?」
『……違く…ない……と思う…』
恥ずかしくて俯くと、恭弥がクスッと笑ったのが聞こえた。
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ボンゴレ地下アジト、女湯。
ボイコット宣言をしてから丸1日経った。
しかし未だ続く膠着状態に、京子とハルの表情は浮かない。
「お兄ちゃん達、昨日はカップめんだったみたいだけど……今日は栄養のあるもの食べてるのかなぁ…?」
「ツナさん達が本当のことさえ教えてくれれば、飛んで行ってご飯作るんですけど…」
2人が言うと、ビアンキが髪を結いながら返した。
「貴女達はツナ達がすぐに降参すると思ってたみたいね。私はそう簡単にはいかないと思うけど………」
その理由は2つ。
1つは、秘密を知った2人が変わってしまうことを恐れて拒んでいるから。
喋りながらビアンキは浴槽に入り、クローム・イーピンと少し離れたところに座る。
「気になる人がいつまでも変わらないなんて、男の幻想に過ぎないんだけどね。」
もう1つの理由は、意地。
「あの子たちは女は男が守るものだと思ってるの………禍々しい世界を見せないことに、男のプライドをかけてるわ。」
洗い終わった京子とハルは、ビアンキとクローム達の間で湯船につかっていた。
「気持ちは嬉しいですけど……ハル達だって力になりたいんです。それを一方的に決める権利はツナさん達には無いと思います。」
「その通りね、男は身勝手で非合理だわ。でも私達女の想像を超えて、男はプライドに命をかけるものなの。」
むしろプライドに命をかけられない男は男じゃない、
そう言いながらビアンキはリボーンに思いを馳せる。
「……檸檬ちゃんが居てくれたら、全部教えてくれたかな…?」
「そうですね……檸檬ちゃん、ツナさん達と一緒に修業もしてたみたいですし…」
「ダメね。」
「「え?」」
京子とハルの考えをバッサリ否定するビアンキ。
疑問符を浮かべる2人に、ビアンキは諭すように言う。
「あの子は……檸檬は、きっとツナ達以上に口を固く閉ざすわ。あの子は禍々しい世界で育ったから…知られたくないという思いが人一倍強いハズよ。」
ため息をついて、ビアンキは続ける。
「ストイックなのよ、檸檬は。生きる為に手を汚してきた自分が……貴女達のようなキレイな人間と、平和な世界で生きていいワケがないと本気で思ってるの。」
「そんなこと無いのに…」
「檸檬ちゃんは凄く優しい子ですし、ハルは友達になれて良かったって思います!」
「そうね……周りのそういう気持ちが、檸檬の心を開かせるわ。あの子も少しずつ、変わっていってる。寄り掛かるのは悪いことじゃないって、学んでるのよ。」
その時、クロームが浴槽から出る。
「…お先します。」
「はーい。」
「クロームちゃん、後で………!!」
京子とハルの目に入ったのは、クロームの背中に入った斜めの大きな傷。
「背中、どうしたの!?」
「……今日の修業の傷……でもボス達に比べれば、ずっと少ないと思う。」
女子側についたとは言え、クロームは自分がどんな修業をしているのか告げていなかった。
京子もハルも、まさかあんなに大きな傷を作るほどだとは思っていなかったようで。
しかも……ツナ達は更に激しい修業をしているという。
「………京子ちゃん!」
「………ハルちゃん!」
「「あ…」」
2人の決断は、共通のものだった。
「男のプライドなんて、ハルにはナンセンスで全然ついていけませんけど…」
「……一時休戦にしようか。」
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翌日。
相変わらずボンゴレ匣を前に何も出来ず、ため息をつきながら廊下に出るツナ。
とそこに、深刻な顔をしたビアンキが。
「ツナ!!京子がアジトを飛び出したの!!何も教えてくれないトコにいられないって!!」
「何だって!?」
「今なら間に合うわ!急いで追って!!」
街に向かったという京子を追うため、ツナはジャンニーニにハッチを開けるよう頼んで駆け出した。
その一部始終を見ていたリボーンが、ツナが去った後ビアンキに問う。
「ツナを騙してどーする気だ?」
「修業に行き詰まってるみたいだからリフレッシュよ♪」
「悪くねーな。」
ビアンキの答えを聞いたリボーンは、ツナの後ろ姿にニッと笑みをこぼした。
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京子を見つけて追いついた俺は、ビアンキに騙されたと知って混乱した。
「ツナ君、顔色悪いよ?大丈夫?」
「え…いや……俺てっきり、京子ちゃんがボイコットで飛び出したかと思って…」
「え…?んーん、ボイコットはもう終わりにしたの。」
信じて待つ……ハルとそう決めたと告げる京子ちゃん。
けど、俺は首を振った。
走って京子ちゃんを捜してる間に、たくさん考えた。
俺達は、随分と身勝手なことをしていたんだって分かった。
危険があるって言っときながら、それがどんな危険で何が原因なのか……何も分からないのは不安過ぎる。
「もうとっくに酷い状況に巻き込んでるのに……一緒に戦ってもらってるのに、ある物を無いって言うのは酷いって分かったんだ…」
ハルにも後で話すから聞いて欲しい…
俺がそう言うと、京子ちゃんは無言で頷いた。
それから俺は、全部話した。
今の状況、ミルフィオーレや白蘭のこと…
奴らがマフィアで、俺もボンゴレファミリーの10代目候補だってこと…
檸檬がイタリアに行ったワケや、蜜柑さんの存在も…
そして、今までの戦い……
途中、夕陽の光の具合なのか京子ちゃんの瞳が潤んでいるように見えたけど……
話したんだ……
京子ちゃんは黙って頷いてた。
「……そんな…感じなんだ…」
「うん…」
「驚いた…?」
「うん…」
京子ちゃんは「話してくれてありがとう」って言ってくれた。
それでも俺は、コレで良かったのかと内心もやもやしていた。
「腰につけてるのが、ツナ君の匣兵器?」
「あ…うん、コレだよ……」
「その子が悪さするんだね。」
「そうなんだ……とてもこいつは俺の手には負えそうになくって。」
炎を少しでもリングに灯すと、手の中で動く。
そんな匣兵器を見て、京子ちゃんは「見せて」と手を伸ばす。
まさか笑顔で興味をもたれるとは思わなくて、戸惑いを隠せない俺。
「だ、ダメだよ!危ないんだ!!京子ちゃんに何かあったら!!ほら、隙を狙って襲う気だ!!」
「ごめんなさい!!」
一層激しく動く匣に、京子ちゃんは謝る。
けど、しばらく俺を匣を見ていた京子ちゃんは、こんなことを言った。
「その子……本当は凄くツナ君と仲良くしたいのかもね。」
「え…?」
「ツナ君の気持ちと同じ気持ちになってるもん。」
「同じ…気持ち?」
「ツナ君が不安でドキドキすると、一緒に不安になってビクビク~って震えてるみたい。」
「……でもコイツは、震えるどころか俺を殺そうと…」
そこで、気付いた。
初めて開匣した時も、急に不安になったんだ……。
何だか怖くなって……心の中でコイツを拒絶したんだ。
そしたら俺を襲ってきた…
俺がコイツを拒めば拒むほど、力を増幅させてきた……
まさかコイツ……俺の心を、映してるのか…!?
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『………』
「………」
『……あのさ、恭弥…』
「何。」
『あたしそろそろ…』
「ダメ。」
恭弥と再会して、1日経ちそうです。
日本に戻ったのはもう1つの匣を探すためなんだけど……
てゆーかディーノに聞こうと思ったんだけど……
恭弥がボンゴレアジトに行くことを許してくれません…どうしよう。
そりゃーあたしだって、恭弥と2人でいられるのは嬉しいけど……
でも修業しなくちゃって思うのに。
昨晩は応接室で寝かされて、恭弥は夜の見回り行っちゃうし……
それで今日はまた、屋上でのんびりしてるし…
空間移動使おうとすると怒るし…
「みぃーっ!みぃっ!」
『どしたのセレネ?』
それまでヒバードと追いかけっこ(?)をしていたセレネが、急にあたしの膝に乗った。
「みっ!」
セレネが膝の上でぴょいっと跳ねたのと同時に、恭弥がバッと振り向く。
あ……誰か来たんだ…。
『(この気配……もしかして…!)』
ギィッと開いたドア。
屋上に足を踏み入れたのは………
「よっ、恭弥!」
「…また咬み殺されに来たの。」
『ディーノっ!!』
「檸檬っ!?」
そっか、この時代のディーノも恭弥の師匠やってるんだ!!
恭弥と一緒にココにいて良かった!
『久しぶりディーノ!あのね…………って、わわっ!!』
「アイツに何の用?」
『きょ、恭弥…』
ディーノに駆け寄ろうとしたら、後ろから恭弥に抱きとめられる。
こ、この体勢、恥ずかしい……
『あの、だから匣について聞こうと…』
「ハハハッ!相変わらずだなー、お前らは。あんま見せつけんなって。」
『え……えぇ!?///』
「ほら檸檬、コレだろ?」
笑いながら歩み寄るディーノは、あたしにソレを差し出した。
「この時代のお前から預かった、お前専用のアニマル匣だ。」
それは、セレネの匣と同じように真っ黒くて、1つ目とは逆向きの三日月が装飾されていた。
『ありがとう……本当にありがとう、ディーノ!』
これで第九段階に進める……
受け取ったもう1つの匣を、ギュッと握りしめた。
日本に空間移動してきたあたしは、街中を見回して、ミルフィオーレの完全撤退を初めて実感した。
マモンチェーンを巻いたリングが、首元でシャンと鳴る。
『てゆーかココ……商店街?』
手を抜いて適当に“並盛に移動したい”って思っただけだったから、商店街のど真ん中に着いちゃったみたい。
久々の平和な空気に、少しだけ深呼吸した。
あたしの知ってる並盛じゃないけど、何だか安心する………。
『って、こーしちゃいられない!』
ディーノ、何処にいるんだろう?
ボンゴレ地下アジトに行けば会えるかな?
………けど、
『(会いたい、な…)』
日本に帰って来たら、一番に会いに行こうと決めてたから。
きっと、並中にいるハズだから。
行こう。
もう1つの匣を探しに行く、その前に。
並中へと、走った。
空間移動が出来なかったんじゃない。
ただ、自分の足で、その場所に行きたかった。
告白
「家事と共同生活を…ボイコットーー!?」
京子ちゃんとハルの宣言に、ショックと焦りを隠せなかった。
白蘭との戦いまで1週間しか無いのに……
しかも、リボーンやジャンニーニ、フゥ太まで女装して女子側につくとか言う始末。
決別してしまった俺達は、5人で相談を始めた。
「一応聞くぜ、どうするんだ?ツナ。」
「うん……やっぱり今の本当の状況やこれからの戦いのことは話せないよ…。あんな壮絶な戦いに巻き込めない…」
「ったくアイツら、10代目のお気持ちも知らずに……俺も話さない方がいいと思います。」
そう言う獄寺君に対し、山本は少し苦笑して。
「まっでも、アイツらだけ知らねーってのも、仲間外れみてーで可哀相だけどな…」
「……それは、そうだけど…」
「話してはいかん!!これで京子に何かあったら!!京子に何かあったらぁ!!」
「るせーなっ!」
「お兄さん…」
お兄さんのストップに後押しされ、話さないという結論で収まった。
そして、家事は自分たちでやって修業との両立を計ろうと。
けど……
洗剤の量を間違えたり、料理の方もボロボロで、さっぱり。
おまけに修業の方も上手く行かずに…ストレスだけが溜まっていった…。
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『(恭弥、いるかな…)』
10分ちょいで並中に着いて、校庭の真ん中に立った。
応接室は、カーテンがしまってる。
ってことは……屋上?
透視を使って見てみれば、寝転がってる熱反応が1つ。
『よしっ、』
ほんの少し上がった息を落ち着かせて、階段を駆け上がった。
早く会いたい。
第六感を使えば一瞬で移動できるけど……あたしは何故か、このもどかしさを許していた。
恭弥に、会える。
あたしには、もう人を想う資格なんて無いのかも知れない。
人間離れした力を持ってしまったんだから。
だけど、それでも……
約束は守らせて。
今までたくさん、傷つけて苦しめてしまったから。
それでも貴方は、待っててくれたから。
最後の階段の前に立つと、屋上へのドアの窓から光が降り注いだ。
商店街から走って、階段をいくつも駆け上がったあたしの足は、一段ずつゆっくり上っていった。
一番最初に、何を言えばいいのかな。
どんな顔して、ドアを開けようかな。
ぐちゃぐちゃ考えてる間に、もうドアのぶを握っていた。
言葉も表情も定まらないまま、押しあけてしまう。
会いたい気持ちが、強すぎて。
少し錆びれた音がして、陽光が全身を包んだ。
真正面で寝転がっていた彼は、学ランを肩から落として振り向く。
あぁ…本物だ。
あたし、やっと貴方との約束……ちゃんと守れた…。
『…恭弥っ……』
姿を見ただけで、涙が込み上げる。
次の瞬間浮かんだのは、謝罪の言葉ばかりだった。
隠しごとして、ごめんなさい。
勝手にイタリアに行って、ごめんなさい。
すぐ戻れなくて、ごめんなさい。
いつも迷惑かけて……本当に本当に、ごめんなさい。
何処から謝ればいいのか分からなくなって、屋上に一歩踏み入れた場所で立ちすくんで俯く。
すると急に、視界が真っ暗になった。
けど、あったかい。
『へ…?』
「遅い……遅いよ檸檬……」
ぎゅううっと、痛いほどの腕の力が嬉しくて、いよいよ涙が止まらなくなる。
『ごめんなさ…』
「違うでしょ。」
……あ、そっか。
こんなのは、恭弥が望んでる言葉じゃなくて。
『えっと、ね……』
「うん、」
『会いたかった………会いたかったよぉっ…恭弥ぁ……』
「うん…」
堪え切れなくなって、しがみつくように抱きついた。
恭弥はゆっくりと優しく、髪を撫でてくれる。
そして小さく耳元で、こう言った。
「僕もだよ、檸檬…」
あぁどうして、どうしていつも待っててくれるの?
あたしは今まで、たくさん迷惑かけてきたのに。
自分で自分が嫌になるくらい、恭弥を振り回してるのに。
ダメだと分かっているのに、甘えてしまうの。
恭弥が、変わらずあたしを想ってくれるから。
こんなに安心する場所を、あたしにくれるから。
「…まったく、檸檬は僕を試してるの?」
『えっ…?』
数秒の間のあと投げかけられた質問に、首を傾げる。
あたしが、恭弥を試す…?
どういうこと…?
質問の意味を理解してないと察したのか、恭弥は腕を少しだけ解いて額をコツンとくっつけた。
「離れれば、僕が君を諦めるとでも思ってるの?」
『えっ!?あ、そ…そんな風に考えたりしてないっ!あたしは、その…………ってゆーか!ち、近いよっ…!///』
必死に顔ごと目を逸らそうとするけど、恭弥にガシッと掴まれて適わない。
仕方なく、額をくっつけたまま目線だけ下にして答える。
『あ、あたしは……恭弥があたしを大事にしてくれてるのを…疑おうなんて思ったことないよ。けどっ…あたしなんかでいいのかなって……いつも、ずっと、そう考えてる…』
正直に、正直に。
もう、恭弥に嘘をつきたくないから。
『あたしの生い立ち、立場、化け物みたいな力……色んなこと含めて、あたしは自分を許せないの……幸せな環境に置いてもらって、誰かに大切にされることがっ……許せない…』
「……檸檬、」
恭弥に呼ばれて少し上を向くと、その瞬間、もっと恭弥の顔が近くなった。
この距離……前に、一度だけ………
『……んっ…』
そうだ……キス、されてるんだ…
優しくて、甘い。
だけど自分の涙が混ざって、ちょっとしょっぱい…
唇を通じて、溢れ出て来る。
もう離れないでって、言われてる。
あたしは……
あたし、も……
すぅっと唇が離れて、恭弥に真っ直ぐ見つめられて。
何でも見抜かれてしまいそうで、むしろ既に見抜かれていそうで。
『離れたくないっ…』
想われる価値がないと分かってても、あたしは貴方を求めてしまう。
ずっと一緒にいたいだなんて、幻想すら抱いて。
何て…我儘なんだろうね。
恭弥のこと、“我が儘王子”って言えないよね。
『恭弥が、好き……大好きっ……だから、あたし…』
「檸檬、」
ボロボロと気持ちを吐きだしてくあたしを、恭弥は優しく抱きしめて。
「もう、放さないから。」
『恭弥…』
「檸檬が離れたくなっても、放さない。」
『うん……うんっ…』
「今はまだ、許せなくてもいい。檸檬が自分を許せなくても…僕は檸檬を、愛してるよ。」
まるで、雲に乗ったような感覚だった。
氷が溶けたような、
鎖が解けてくような、
翼が生えたような。
恭弥の傍にいるだけで、自由になれる。
“普通じゃない”あたしを許して、愛してくれる人------
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屋上に荷物を置いて、体育座りした。
恭弥も隣に腰を下ろす。
『あのねっ……話したいこと、たくさんあるんだけど…』
もうやめなきゃ。
あたしは秘密を抱え過ぎた。
隣に居たいと思うから、全部秘密にするのはやめる。
『長くなるし……その、ちょっと暗い話もあるん…だけど…』
「聞くよ、全部。」
『……ありがとう。』
ゆっくりと、順を追って説明した。
この時代であたしがしてきた戦いのこと、
ボンゴレが壊滅の危機に陥ってること、
ミルフィオーレには蜜柑がいて、あたしの命を狙っていること、
そして……第六感のこと。
『この時代のあたしは…みんなに内緒で第六感を研究して修業してた。過去のあたしに伝えるために…』
未来のあたしからの手紙に書いてあったことも、ほとんど話した。
どんな修業をして、その結果どうなったか。
もちろん、未来のあたしの視界が閉ざされたことも……話した。
恭弥は少し……かなり眉間にしわを寄せて、小さくため息をついた。
「今も……そんな修業してるの。」
『……うん…』
怒られて反対されると思ってたのに、恭弥はただあたしの肩を抱いて。
「無理は、してないんだよね。」
『それはちゃんと気をつけてる、けど…』
「けど、何?」
『あ、えっと……てっきり“やめろ”とか言われると思ってたから…』
「言っても檸檬は聞かないでしょ、どうせ。」
諦めたように返して、肩を抱く手で頭を撫でる。
「怖くはないの?」
『……怖いよ…』
「随分素直だね。」
『修業始める時ね、この時代の恭弥にも聞かれたの。』
やっぱり恭弥は恭弥だね、と笑うと、
ムスッとしてそっぽを向いてしまった。
『この時代の恭弥に言われたんだ……怖い時は怖いって言いなよって。』
「…ふぅん……」
『あたし、甘えるのも頼るのも下手なんだって。』
「うん。」
『何でそこ即答!?』
「だってそうでしょ。」
ムスッとしてたのがウソみたいに、今度は意地悪な笑みを見せる。
「それでも……僕には甘えてくれるんでしょ?」
『なっ…!///』
「弱った時は、僕のトコに来るんだよね?」
『う……』
何でこう、自信たっぷりに聞くんだか。
そんな恭弥の言葉にドキドキしちゃうあたしもあたしだけど。
「違うの?」
『……違く…ない……と思う…』
恥ずかしくて俯くと、恭弥がクスッと笑ったのが聞こえた。
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ボンゴレ地下アジト、女湯。
ボイコット宣言をしてから丸1日経った。
しかし未だ続く膠着状態に、京子とハルの表情は浮かない。
「お兄ちゃん達、昨日はカップめんだったみたいだけど……今日は栄養のあるもの食べてるのかなぁ…?」
「ツナさん達が本当のことさえ教えてくれれば、飛んで行ってご飯作るんですけど…」
2人が言うと、ビアンキが髪を結いながら返した。
「貴女達はツナ達がすぐに降参すると思ってたみたいね。私はそう簡単にはいかないと思うけど………」
その理由は2つ。
1つは、秘密を知った2人が変わってしまうことを恐れて拒んでいるから。
喋りながらビアンキは浴槽に入り、クローム・イーピンと少し離れたところに座る。
「気になる人がいつまでも変わらないなんて、男の幻想に過ぎないんだけどね。」
もう1つの理由は、意地。
「あの子たちは女は男が守るものだと思ってるの………禍々しい世界を見せないことに、男のプライドをかけてるわ。」
洗い終わった京子とハルは、ビアンキとクローム達の間で湯船につかっていた。
「気持ちは嬉しいですけど……ハル達だって力になりたいんです。それを一方的に決める権利はツナさん達には無いと思います。」
「その通りね、男は身勝手で非合理だわ。でも私達女の想像を超えて、男はプライドに命をかけるものなの。」
むしろプライドに命をかけられない男は男じゃない、
そう言いながらビアンキはリボーンに思いを馳せる。
「……檸檬ちゃんが居てくれたら、全部教えてくれたかな…?」
「そうですね……檸檬ちゃん、ツナさん達と一緒に修業もしてたみたいですし…」
「ダメね。」
「「え?」」
京子とハルの考えをバッサリ否定するビアンキ。
疑問符を浮かべる2人に、ビアンキは諭すように言う。
「あの子は……檸檬は、きっとツナ達以上に口を固く閉ざすわ。あの子は禍々しい世界で育ったから…知られたくないという思いが人一倍強いハズよ。」
ため息をついて、ビアンキは続ける。
「ストイックなのよ、檸檬は。生きる為に手を汚してきた自分が……貴女達のようなキレイな人間と、平和な世界で生きていいワケがないと本気で思ってるの。」
「そんなこと無いのに…」
「檸檬ちゃんは凄く優しい子ですし、ハルは友達になれて良かったって思います!」
「そうね……周りのそういう気持ちが、檸檬の心を開かせるわ。あの子も少しずつ、変わっていってる。寄り掛かるのは悪いことじゃないって、学んでるのよ。」
その時、クロームが浴槽から出る。
「…お先します。」
「はーい。」
「クロームちゃん、後で………!!」
京子とハルの目に入ったのは、クロームの背中に入った斜めの大きな傷。
「背中、どうしたの!?」
「……今日の修業の傷……でもボス達に比べれば、ずっと少ないと思う。」
女子側についたとは言え、クロームは自分がどんな修業をしているのか告げていなかった。
京子もハルも、まさかあんなに大きな傷を作るほどだとは思っていなかったようで。
しかも……ツナ達は更に激しい修業をしているという。
「………京子ちゃん!」
「………ハルちゃん!」
「「あ…」」
2人の決断は、共通のものだった。
「男のプライドなんて、ハルにはナンセンスで全然ついていけませんけど…」
「……一時休戦にしようか。」
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翌日。
相変わらずボンゴレ匣を前に何も出来ず、ため息をつきながら廊下に出るツナ。
とそこに、深刻な顔をしたビアンキが。
「ツナ!!京子がアジトを飛び出したの!!何も教えてくれないトコにいられないって!!」
「何だって!?」
「今なら間に合うわ!急いで追って!!」
街に向かったという京子を追うため、ツナはジャンニーニにハッチを開けるよう頼んで駆け出した。
その一部始終を見ていたリボーンが、ツナが去った後ビアンキに問う。
「ツナを騙してどーする気だ?」
「修業に行き詰まってるみたいだからリフレッシュよ♪」
「悪くねーな。」
ビアンキの答えを聞いたリボーンは、ツナの後ろ姿にニッと笑みをこぼした。
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京子を見つけて追いついた俺は、ビアンキに騙されたと知って混乱した。
「ツナ君、顔色悪いよ?大丈夫?」
「え…いや……俺てっきり、京子ちゃんがボイコットで飛び出したかと思って…」
「え…?んーん、ボイコットはもう終わりにしたの。」
信じて待つ……ハルとそう決めたと告げる京子ちゃん。
けど、俺は首を振った。
走って京子ちゃんを捜してる間に、たくさん考えた。
俺達は、随分と身勝手なことをしていたんだって分かった。
危険があるって言っときながら、それがどんな危険で何が原因なのか……何も分からないのは不安過ぎる。
「もうとっくに酷い状況に巻き込んでるのに……一緒に戦ってもらってるのに、ある物を無いって言うのは酷いって分かったんだ…」
ハルにも後で話すから聞いて欲しい…
俺がそう言うと、京子ちゃんは無言で頷いた。
それから俺は、全部話した。
今の状況、ミルフィオーレや白蘭のこと…
奴らがマフィアで、俺もボンゴレファミリーの10代目候補だってこと…
檸檬がイタリアに行ったワケや、蜜柑さんの存在も…
そして、今までの戦い……
途中、夕陽の光の具合なのか京子ちゃんの瞳が潤んでいるように見えたけど……
話したんだ……
京子ちゃんは黙って頷いてた。
「……そんな…感じなんだ…」
「うん…」
「驚いた…?」
「うん…」
京子ちゃんは「話してくれてありがとう」って言ってくれた。
それでも俺は、コレで良かったのかと内心もやもやしていた。
「腰につけてるのが、ツナ君の匣兵器?」
「あ…うん、コレだよ……」
「その子が悪さするんだね。」
「そうなんだ……とてもこいつは俺の手には負えそうになくって。」
炎を少しでもリングに灯すと、手の中で動く。
そんな匣兵器を見て、京子ちゃんは「見せて」と手を伸ばす。
まさか笑顔で興味をもたれるとは思わなくて、戸惑いを隠せない俺。
「だ、ダメだよ!危ないんだ!!京子ちゃんに何かあったら!!ほら、隙を狙って襲う気だ!!」
「ごめんなさい!!」
一層激しく動く匣に、京子ちゃんは謝る。
けど、しばらく俺を匣を見ていた京子ちゃんは、こんなことを言った。
「その子……本当は凄くツナ君と仲良くしたいのかもね。」
「え…?」
「ツナ君の気持ちと同じ気持ちになってるもん。」
「同じ…気持ち?」
「ツナ君が不安でドキドキすると、一緒に不安になってビクビク~って震えてるみたい。」
「……でもコイツは、震えるどころか俺を殺そうと…」
そこで、気付いた。
初めて開匣した時も、急に不安になったんだ……。
何だか怖くなって……心の中でコイツを拒絶したんだ。
そしたら俺を襲ってきた…
俺がコイツを拒めば拒むほど、力を増幅させてきた……
まさかコイツ……俺の心を、映してるのか…!?
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『………』
「………」
『……あのさ、恭弥…』
「何。」
『あたしそろそろ…』
「ダメ。」
恭弥と再会して、1日経ちそうです。
日本に戻ったのはもう1つの匣を探すためなんだけど……
てゆーかディーノに聞こうと思ったんだけど……
恭弥がボンゴレアジトに行くことを許してくれません…どうしよう。
そりゃーあたしだって、恭弥と2人でいられるのは嬉しいけど……
でも修業しなくちゃって思うのに。
昨晩は応接室で寝かされて、恭弥は夜の見回り行っちゃうし……
それで今日はまた、屋上でのんびりしてるし…
空間移動使おうとすると怒るし…
「みぃーっ!みぃっ!」
『どしたのセレネ?』
それまでヒバードと追いかけっこ(?)をしていたセレネが、急にあたしの膝に乗った。
「みっ!」
セレネが膝の上でぴょいっと跳ねたのと同時に、恭弥がバッと振り向く。
あ……誰か来たんだ…。
『(この気配……もしかして…!)』
ギィッと開いたドア。
屋上に足を踏み入れたのは………
「よっ、恭弥!」
「…また咬み殺されに来たの。」
『ディーノっ!!』
「檸檬っ!?」
そっか、この時代のディーノも恭弥の師匠やってるんだ!!
恭弥と一緒にココにいて良かった!
『久しぶりディーノ!あのね…………って、わわっ!!』
「アイツに何の用?」
『きょ、恭弥…』
ディーノに駆け寄ろうとしたら、後ろから恭弥に抱きとめられる。
こ、この体勢、恥ずかしい……
『あの、だから匣について聞こうと…』
「ハハハッ!相変わらずだなー、お前らは。あんま見せつけんなって。」
『え……えぇ!?///』
「ほら檸檬、コレだろ?」
笑いながら歩み寄るディーノは、あたしにソレを差し出した。
「この時代のお前から預かった、お前専用のアニマル匣だ。」
それは、セレネの匣と同じように真っ黒くて、1つ目とは逆向きの三日月が装飾されていた。
『ありがとう……本当にありがとう、ディーノ!』
これで第九段階に進める……
受け取ったもう1つの匣を、ギュッと握りしめた。