未来編②
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タタタタッ…
ガチャ、
『おはよう!』
「おっはよー♪」
『あれっ?ベルが早起きしてる!』
「ししっ、だって俺、今日も檸檬の修業付き合うって言ったじゃん?だから。」
『ホントに!?ありがとーっ!!』
笑顔で礼を言う檸檬に、隣の席をポンポンと叩くベル。
檸檬がそこに座ったと同時に、ドアが開いてルッスーリアが入って来た。
「みんな、朝ごはん出来たわよ~vV」
修業開始
---
------
------------
ポッ……ポッ……
「ん…」
微かな点滴の音に鼓膜を刺激され、彼女は瞼を押し上げた。
白い白い部屋、しかし見覚えがある。
「(ココは……)」
「あ、やっと起きた。」
やや懐かしい声がして、ふっと視線だけ右にずらす。
と、白い白い部屋に、白に包まれた人物。
彼女の口は、ゆっくりと彼の名を発した。
「白……蘭……」
「おはよう、君にしては随分長く眠ったね、蜜柑。」
「どれくらい…」
「半日だよ。」
信じがたいその情報に、蜜柑は目を見開いた。
いつも自分は4時間しか眠らないと決めている。
半日となると、その3倍。
「蜜柑?」
突如起き上がろうとし始めた蜜柑の肩を、白蘭はぐっと抑えつけた。
「何してるの?まだ…」
「完治しました、動けます。」
「ダメだよ、“命令”。」
白蘭が一度その単語を言うだけで、蜜柑は動きを止める。
そして、「分かりました」と横になる……ハズだった。
「………何故…ですか?」
半身を起こしたまま、彼女は俯いて問いかけた。
解かれている長い髪が、その表情を隠す。
しかし白蘭には、伝わっていた。
自分が手を置いている蜜柑の肩から、その僅かな震えを。
「貴方は……分からない……」
まるで白い布に落としていくように、蜜柑は言葉を零す。
「こんなに…長くお仕えしてるのに……分かりません……」
普段と違う蜜柑の様子に、多少驚きながら白蘭は手を握る。
と、何かに気が付き蜜柑を抱き寄せた。
「白蘭…?」
「熱、あるね。」
「ありません、平温です。」
「分かるよ、いつもより熱いから。」
誤魔化せないと察したのか、蜜柑は黙り込む。
ただ、その意識は朦朧とし始めていた。
「疲れてるんだよ、日本は大変だっただろ?」
「いいえ…」
「もう少し眠って、これも命令ね。」
白蘭の指が蜜柑の髪をゆっくりと梳く。
蜜柑はやがて、もたれるように眠りにおちた。
「貴方は……何故………私、を…」
直前まで、感じる疑問を口にしながら。
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日本。
「元気してたか?弟分。」
「ディーノさん!!」
ツナのボンゴレ匣の暴走直後、兄弟子であるディーノが現れた。
「すげー!馬乗ってるぜ。」
「オレンジの炎…大空の匣兵器だな。」
「しっかし、ハハハッ!10年前のお前らは本っ当ガキだなっ。」
「何!」
ディーノの感想に獄寺がムッとした、その時。
「一体何時だと思ってんだ?もうガキは寝る時間だぞ。」
リボーンとジャンニーニが奥からやって来た。
その姿を見たディーノは、懐かしむように、しかしほんの少し哀しみを交えて目を細める。
「また会えるとはな……我が師リボーン………」
「何だその面は、10年経ってもヘナチョコが消えねーな。」
「ちぇっ、何年経っても子供扱いかよ。」
リボーンの返しに苦笑した後、馬から降りようとしたディーノ。
ところが………
ズリッ、ドッテーン!
「いっつつ…」
「え!?」
「ドッテーン、て…」
「おい、もしかしてよぉ……」
薄々感じ取る3人。
一方、当の本人は不思議そうに首をかしげて。
「おっかしーなー……今日はやけに転ぶっつーかドジるっつーか……1キロも離れてねー場所からココに来るのに3時間掛かっちまったし…」
「あの…ディーノさん、部下の人は?」
「ん?3時間前にロマーリオなら草壁と飲みに行かせたぜ。」
予想は、確信に変わった。
10年経ってもディーノは“部下の前じゃないと力が出せない体質”だったのだ。
そして本人は未だそれに気付いていない、と。
兎にも角にも、これがツナ達と10年後ディーノとの再会だった。
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「うっし!これでもうオッケ?」
『うん!純度を上げるコツは掴めたみたい。』
朝食後の1時間で、檸檬は第七段階を終了させた。
奪った炎の純度を即座に上げる……それが、最終試練だったのだ。
『本当にありがとう、ベル。それと……』
「そっからは無し。」
『ひゅむっ…!?』
ベルが不意に檸檬の口に手を当て、途切れさせる。
やや困惑した視線を向ける檸檬に、ベルは笑顔を見せて。
「迷惑かけてごめんとか、付き合わせてごめんとか、そーゆー謝罪系の言葉は却下な♪」
そう言ってから、檸檬の口を押さえていた手を退ける。
『…ありがとう……ベルには、助けてもらってばっかりだね……』
「王子なんだから当然っしょ。」
『ふふっ♪』
「さーて、ちょっと休憩入れよーぜ。ぶっ通しは身体に悪ぃし。」
『うん、じゃあ少し休憩してから第八段階やる。』
広間に向かって歩き出すベルと檸檬。
と、玄関の方でバタンッと盛大にドアが閉められた音がした。
『誰だろ?乱暴な閉め方して…』
「んー……もしかしてスクアーロじゃね?」
『アロちゃん…?』
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朝、目覚まし時計を止めてぐーっと背伸びをする京子とハル。
歓迎会の片付けをしにキッチンへ向かう。
と、食器を洗う音が聞こえてきた。
「誰かいますね…」
ふっと覗いて、彼女達は少し驚いた。
「「あ。」」
「ご……ごめんなさい。」
食器を洗っていたのは、クロームとイーピンだった。
京子とハルの姿に、慌てて何か喋ろうとするクローム。
しかし、二人にはもう、分かっていた。
「あの…私、もっとちゃんと……」
俯くクロームの泡だらけになった両手を、それぞれ握ってほほ笑む。
クロームの方から近づいてくれた、そのことがただ、嬉しかったのだ。
友好の象徴とでも言うべき握手を、イーピンもまた笑顔で見つめていた。
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僕の腕の中で眠りに落ちた蜜柑をそうっと横たわらせて、頭を撫でる。
「ねぇ蜜柑…、」
君はさっき、一体何を訊こうとしたのかな?
それは…知識欲?
それとも、教えてほしいっていう“願い”?
感情が無いなんて、ウソに決まってる。
だって蜜柑はちゃんと檸檬チャンを憎んでるし、
理解不能だと首をかしげるし、
時々僕の言葉に戸惑うんだ。
少しずつ、見せてくれてるんだ。
分かりにくいだけ、表に出しにくいだけ。
僕に分かれば、それで良いよ。
でも蜜柑には……
「僕の感情は、分からないんだよね。」
僕が蜜柑の感情を見つけられても、蜜柑は他人の感情を見ようとしない。
見たくもないと思ってる。
かつて、他人の感情のせいで蜜柑は心を壊したから。
もう二度と、他人の感情を理解出来ないように、自分の心を殺した。
それが、“この世界の”蜜柑………
けどね、僕は全然構わないんだ。
君がココに、僕の手の届くトコに居てくれれば、それで良いんだ。
「君はもう、何処にもいないから。」
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「よしっ、揃ったな。今日から本格的な匣兵器の修業だが……リボーンの一番の教え子である俺が、全体を仕切る家庭教師をすることになった。」
その日の夕飯後、トレーニングルームにてツナと守護者を集め、ディーノは説明を始めた。
「宜しくな!」
「ヘナチョコのアイツなんかに務まるんスかねー。」
「でもディーノさん、部下の前だと凄いし……」
獄寺とツナがヒソヒソと話していると、何処からか光るものが降りてきて。
「ちなみに今回、俺はその上の役職・家庭教師の精だからな。」
「妖精になっちゃったよ!!ワイヤーで吊ってる!」
光っていたのはリボーンの妖精衣裳だった。
「ディーノがへぼい時は俺が制裁を下すから安心しろ。」
「いでで!やめろってリボッブッ!!」
リボーンによる頬への蹴りにたじたじになりながら、ディーノはクロームに問いかけた。
「意思確認だ。お前はボンゴレ守護者であると同時に骸の一味でもある。ミルフィオーレとの戦いには味方として数えていいのか?」
数秒黙ったクロームだったが、はっきりと強く頷く。
彼女の目的も、ツナ達と変わらない。
強くなって、過去に帰ること。
「よし、頼んだぜ。それと、ランボにも本格的な修業をしてもらう。白蘭を倒すには守護者全員の力が必要だ。」
「(本当に、仕方ないのかな…?)」
この時代のツナからボンゴレ匣について多少の情報を得ているディーノは、それを考慮した上で各々に違うメニューを組んだ。
また雲雀が既に自分と修業を始めたことも伝える。
「雲雀さん!見つかったんですね!!」
「相変わらず可愛くねーじゃじゃ馬だけどな、今は俄然やる気だぜ。」
「なっ…あの雲雀が、修業にやる気だと!?」
「あぁ、“檸檬もイタリアで修業してる”って言ったらな。」
「檸檬もですか!?」
驚くツナ達に、ディーノは軽く頷く。
「この時代の檸檬が言ってたんだ、ヒントは散りばめたってな。」
「ヒント…?」
「恐らく第六感の資料のことだな、草壁に渡した書類の他に、もう一つ作ってたんだ。」
「さすがリボーン、俺もそうだと踏んでる。」
ディーノはそこで話を戻し、ツナに言った。
「お前は正しく開匣できるまで一人だ。」
「え!?一人って…一人ぼっち!?」
「と言っても匣兵器と一緒だぜ、匣にトラブルが起きた時は使い手がずっと一緒にいてやることだ。」
「……それだけ、ですか?」
「今のがヒントだ。」
次に獄寺。
「お前は匣初心者である笹川了平と、ランボの面倒を見てやってくれ。」
「なにっ!?」
ディーノの人まかせな態度と生徒への不満で拳を作る獄寺。
しかし…
「すごいね獄寺君、もう教える立場なんて。」
「えっ!?(すごい…!?)」
ツナの一言に獄寺は一瞬固まり、次の瞬間テンションを上げた。
「いえいえいえ勿体ないお言葉!!自分なんてまだピヨッ子です!!ですがお役に立てるなら力の限りやらせて頂きます!!」
了平とランボが口々に不満を漏らしたが、やる気になった獄寺は止められない。
引き摺り回してでも教えるそうだ。
「次にクローム髑髏。お前は匣兵器強化のために、半分の時間をアルコバレーノ・マーモンの残した幻覚強化プログラムで修業し、残りの時間を格闘能力アップに使うんだ。」
“あそこの2人に手伝ってもらってな”とディーノが向いた方には、
手を振るビアンキとイーピン。
クロームは少し安心したように口角を緩めた。
「そして、山本武。」
「うす!待ってたぜディーノさん!何やんだ?」
へへっと笑う山本を見て、ディーノは考えた。
幻騎士に負けたことで山本は凹んでると思っていたが、明るさは変わらない。
山本らしいと言えば、山本らしいのだが……
「お前はパスだ、待機。」
「へっ?」
「ぱ、パス!?」
山本とツナが驚く隣で獄寺がガッツポーズをする。
「つーかお前には手ー出せねぇんだ。お前にヘタなこと教えればアイツにぶっ殺されるからな。」
「あいつ?」
「お前の才能の一番の理解者は、マジだぜ。今回の修業で山本武、お前すげーことになるかもな。」
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イタリア、ヴァリアーのアジト。
広間でくつろぐベルとルッスーリア、窓辺に立つフラン、そして紅茶を啜る檸檬。
ベルはナイフでダーツをしながら言った。
「ししし、うちの作戦隊長何処行ったんだ?」
「だからぁ、日本の跳ね馬から届いた10代目ファミリーのメローネ基地攻略レポートを見たら…」
---「う"お"ぉい!!ふざけんなぁ!!」
「とか叫んで飛び出してっちゃったのよ~。」
『やっぱりさっきのドアの音、アロちゃんだったんだ…』
「そう言えば、何か本部が静かだなーと思ったら、作戦隊長いなかったんスねー。」
「今頃気づいたか、新入りっ。」
ドシュッ、
「うっ、」
ベルの投げたナイフが、ダーツの的ではなくフランの蛙のかぶり物に刺さる。
『ベル、フランが可哀相だってば…』
「ホントですよー、ミーって可哀相。」
「可哀相なくらいアホだな、ししっ♪」
意地悪く笑うベルの横で、檸檬がルッスーリアに尋ねる。
『じゃあアロちゃん、日本行っちゃったの?あたしも一緒に行けば良かったぁ…』
「やめといた方がいいわよ、だってスクアーロったら自分の匣で海渡るとか言ってたもの。」
『え!?飛行機じゃなくて!?』
「うわ、フランよりアホじゃね?」
「ミーと比べないで下さいー。」
と、その時。
ドガァァァン!!
『な、何!?』
-「も、申し訳ありませんザンザス様ぁ!!うわあああ!!」
大きな破壊音と、悲鳴。
上の階から響いてくるそれらの音は、埃をも降らせる。
「あ、またボスの被害者がー…」
「ったくスクアーロが留守だとボスを抑えられるヤツがいねーじゃん。」
「レヴィも病院送りだしね。」
『そうだったの!?』
「ルッス先輩、クジャクで回復してあげればいいじゃないですかー。」
「だってレヴィが嫌だって言うんだもの。ボスから受けた傷は勲章だから消したくないって。」
「うししっ、どこまで“ボスLOVE”なんだか。」
ベルは再びナイフでダーツを始める。
上の階から響く音が気になる檸檬は、席を立った。
「行くんですかー?檸檬さん。」
『あ、うん……アロちゃんの代わりは務まらないかもだけど…ボスが不機嫌なのは困るもん。』
「危ないですよー。それに、檸檬さんは修業が先決のハズですー。」
「そーそー、次は開匣なんだろ?」
ベルの台詞を聞いて驚いたのはルッスーリア。
「あらっ、開匣って…リングが要るじゃない!大丈夫なの!?だって檸檬は…」
『少しくらいなら、平気。』
「ならいいんだけど……」
「触らぬ神に何とやらって言うじゃん、ボスのことは下っ端に任せときゃいーって。」
『う、うん…』
少し腑に落ちなかったが、3人に修業に戻るよう勧められた檸檬は仕方なく自室に帰った。
机の上に置いてある匣を手に取り、第八段階のノートを開く。
そして、ファイルの一番後ろから雲系リングを取り出した。
『ホントに、出来るのかな…?』
一番最初、ツナが炎を出すのにとても苦労していたのを覚えてる。
覚悟って、口に出すような簡単な言葉じゃないんだ。
あたしには、すぐ出せるのかな…
あたしの中に眠る覚悟は、素直な気持ちは………
リングを、右手中指に嵌めた。
どくんっ、
『うっ……ぐっ…、』
何、コレ……気持ち悪い…!
あたしの中に流れる波動が…リングに捻じ曲げられる…!!
『そっか、コレが……相性最悪の理由、ね…』
波動から炎を生成するリングは、あたしにとって波動を捻じ曲げる強制装置でしか無いんだ…。
波動を敏感に感じ取れるからこそ、苦しくなるってワケね。
『(けどっ…!)』
こんな苦しみから逃げるワケにはいかない!
これぐらい耐えなくちゃ、蜜柑と和解することなんて……
そうだ、そうだよ…
あたしは……妹と、仲直りしたいの。
その為には、話を聞いて貰わなくちゃいけない。
話を聞かなくちゃいけない。
蜜柑を倒すためじゃなくて、
その攻撃を凌ぐために強くなりたい。
護るために、強くなりたい……
『(それが……あたしの覚悟よ!!)』
パァァァッ…!
『わぁっ!』
リングに、バイオレットの炎が灯った。
即座にその炎をナイフに移して、リングを外す。
純度を最高レベルに換えてから、匣に炎を注入した。
カチッ、
匣に開けられていた穴は、ナイフの形状にピッタリで。
ドシュウッ、
『(何が出てくるんだろう…)』
少し緊張して、ごくりと唾を飲む。
2秒ほどで眩い光が収まり、そこに現れたのは……
「みぃーっ、みぃーっ、」
『え…?』
鳴き声は聞こえるのに、姿が見えない。
部屋を見回しても、どこにも。
「みぃーっ、」
それに、言っちゃ悪いけどこの鳴き声……随分と頼りない…。
『一体どこに………わっ!』
「みっ!」
“それ”は机の上に落ちていたみたいで、渾身の力であたしの指をくわえた。
『ごめんね、気付かなかった。』
「みぃー…」
『あなたがあたしのアニマル匣?』
「みっ!」
可愛い…
ヒバードよりも一回り小さい、ヒナだった。
何のヒナなんだろう…?
隼人の瓜ちゃんみたいに大きくなるのかなぁ?
その子はあたしの手の平の上でピョイピョイ跳ねる。
両翼と頭部にだけ、微弱な雲の炎が灯っている。
この子は、純度が高いほど開匣時間が長くなるってボスが言ってた。
その条件は、この子が秘めた何らかの力に関係あるのかも知れない。
『宜しくね♪』
「みぃっ!」
背中を撫でてあげると、気持ち良さそうに鳴いてくれた。
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太平洋。
荒れ狂う波間に、1隻の漁船が漂っていた。
台風のせいできちんと舵が取れないまま。
その船体に突如、大きな衝撃が走る。
「なんや!?横っ腹に何かぶつかったで!!」
「横…?」
窓の外に目をやった船員は、悲鳴をあげて腰を抜かした。
「はうっ!フカ…フカだ~~!!」
「腰抜かすほどデカいフカがおりますかい、ジョーズや無いんやから。」
と、覗いた船員すら腰を抜かす。
すると、今度はドアが勢いよく開けられ……
「この船は日本行きだな、乗せてけぇ…」
「ど、何処から…?」
船長の問いに答えず、彼は言った。
「山本武、あのガキィ……敗けたとは、どおいうことだぁ!!!!」
鮫に乗って単身やって来たスクアーロの叫びが、台風の海に響き渡った。
ガチャ、
『おはよう!』
「おっはよー♪」
『あれっ?ベルが早起きしてる!』
「ししっ、だって俺、今日も檸檬の修業付き合うって言ったじゃん?だから。」
『ホントに!?ありがとーっ!!』
笑顔で礼を言う檸檬に、隣の席をポンポンと叩くベル。
檸檬がそこに座ったと同時に、ドアが開いてルッスーリアが入って来た。
「みんな、朝ごはん出来たわよ~vV」
修業開始
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ポッ……ポッ……
「ん…」
微かな点滴の音に鼓膜を刺激され、彼女は瞼を押し上げた。
白い白い部屋、しかし見覚えがある。
「(ココは……)」
「あ、やっと起きた。」
やや懐かしい声がして、ふっと視線だけ右にずらす。
と、白い白い部屋に、白に包まれた人物。
彼女の口は、ゆっくりと彼の名を発した。
「白……蘭……」
「おはよう、君にしては随分長く眠ったね、蜜柑。」
「どれくらい…」
「半日だよ。」
信じがたいその情報に、蜜柑は目を見開いた。
いつも自分は4時間しか眠らないと決めている。
半日となると、その3倍。
「蜜柑?」
突如起き上がろうとし始めた蜜柑の肩を、白蘭はぐっと抑えつけた。
「何してるの?まだ…」
「完治しました、動けます。」
「ダメだよ、“命令”。」
白蘭が一度その単語を言うだけで、蜜柑は動きを止める。
そして、「分かりました」と横になる……ハズだった。
「………何故…ですか?」
半身を起こしたまま、彼女は俯いて問いかけた。
解かれている長い髪が、その表情を隠す。
しかし白蘭には、伝わっていた。
自分が手を置いている蜜柑の肩から、その僅かな震えを。
「貴方は……分からない……」
まるで白い布に落としていくように、蜜柑は言葉を零す。
「こんなに…長くお仕えしてるのに……分かりません……」
普段と違う蜜柑の様子に、多少驚きながら白蘭は手を握る。
と、何かに気が付き蜜柑を抱き寄せた。
「白蘭…?」
「熱、あるね。」
「ありません、平温です。」
「分かるよ、いつもより熱いから。」
誤魔化せないと察したのか、蜜柑は黙り込む。
ただ、その意識は朦朧とし始めていた。
「疲れてるんだよ、日本は大変だっただろ?」
「いいえ…」
「もう少し眠って、これも命令ね。」
白蘭の指が蜜柑の髪をゆっくりと梳く。
蜜柑はやがて、もたれるように眠りにおちた。
「貴方は……何故………私、を…」
直前まで、感じる疑問を口にしながら。
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日本。
「元気してたか?弟分。」
「ディーノさん!!」
ツナのボンゴレ匣の暴走直後、兄弟子であるディーノが現れた。
「すげー!馬乗ってるぜ。」
「オレンジの炎…大空の匣兵器だな。」
「しっかし、ハハハッ!10年前のお前らは本っ当ガキだなっ。」
「何!」
ディーノの感想に獄寺がムッとした、その時。
「一体何時だと思ってんだ?もうガキは寝る時間だぞ。」
リボーンとジャンニーニが奥からやって来た。
その姿を見たディーノは、懐かしむように、しかしほんの少し哀しみを交えて目を細める。
「また会えるとはな……我が師リボーン………」
「何だその面は、10年経ってもヘナチョコが消えねーな。」
「ちぇっ、何年経っても子供扱いかよ。」
リボーンの返しに苦笑した後、馬から降りようとしたディーノ。
ところが………
ズリッ、ドッテーン!
「いっつつ…」
「え!?」
「ドッテーン、て…」
「おい、もしかしてよぉ……」
薄々感じ取る3人。
一方、当の本人は不思議そうに首をかしげて。
「おっかしーなー……今日はやけに転ぶっつーかドジるっつーか……1キロも離れてねー場所からココに来るのに3時間掛かっちまったし…」
「あの…ディーノさん、部下の人は?」
「ん?3時間前にロマーリオなら草壁と飲みに行かせたぜ。」
予想は、確信に変わった。
10年経ってもディーノは“部下の前じゃないと力が出せない体質”だったのだ。
そして本人は未だそれに気付いていない、と。
兎にも角にも、これがツナ達と10年後ディーノとの再会だった。
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「うっし!これでもうオッケ?」
『うん!純度を上げるコツは掴めたみたい。』
朝食後の1時間で、檸檬は第七段階を終了させた。
奪った炎の純度を即座に上げる……それが、最終試練だったのだ。
『本当にありがとう、ベル。それと……』
「そっからは無し。」
『ひゅむっ…!?』
ベルが不意に檸檬の口に手を当て、途切れさせる。
やや困惑した視線を向ける檸檬に、ベルは笑顔を見せて。
「迷惑かけてごめんとか、付き合わせてごめんとか、そーゆー謝罪系の言葉は却下な♪」
そう言ってから、檸檬の口を押さえていた手を退ける。
『…ありがとう……ベルには、助けてもらってばっかりだね……』
「王子なんだから当然っしょ。」
『ふふっ♪』
「さーて、ちょっと休憩入れよーぜ。ぶっ通しは身体に悪ぃし。」
『うん、じゃあ少し休憩してから第八段階やる。』
広間に向かって歩き出すベルと檸檬。
と、玄関の方でバタンッと盛大にドアが閉められた音がした。
『誰だろ?乱暴な閉め方して…』
「んー……もしかしてスクアーロじゃね?」
『アロちゃん…?』
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朝、目覚まし時計を止めてぐーっと背伸びをする京子とハル。
歓迎会の片付けをしにキッチンへ向かう。
と、食器を洗う音が聞こえてきた。
「誰かいますね…」
ふっと覗いて、彼女達は少し驚いた。
「「あ。」」
「ご……ごめんなさい。」
食器を洗っていたのは、クロームとイーピンだった。
京子とハルの姿に、慌てて何か喋ろうとするクローム。
しかし、二人にはもう、分かっていた。
「あの…私、もっとちゃんと……」
俯くクロームの泡だらけになった両手を、それぞれ握ってほほ笑む。
クロームの方から近づいてくれた、そのことがただ、嬉しかったのだ。
友好の象徴とでも言うべき握手を、イーピンもまた笑顔で見つめていた。
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僕の腕の中で眠りに落ちた蜜柑をそうっと横たわらせて、頭を撫でる。
「ねぇ蜜柑…、」
君はさっき、一体何を訊こうとしたのかな?
それは…知識欲?
それとも、教えてほしいっていう“願い”?
感情が無いなんて、ウソに決まってる。
だって蜜柑はちゃんと檸檬チャンを憎んでるし、
理解不能だと首をかしげるし、
時々僕の言葉に戸惑うんだ。
少しずつ、見せてくれてるんだ。
分かりにくいだけ、表に出しにくいだけ。
僕に分かれば、それで良いよ。
でも蜜柑には……
「僕の感情は、分からないんだよね。」
僕が蜜柑の感情を見つけられても、蜜柑は他人の感情を見ようとしない。
見たくもないと思ってる。
かつて、他人の感情のせいで蜜柑は心を壊したから。
もう二度と、他人の感情を理解出来ないように、自分の心を殺した。
それが、“この世界の”蜜柑………
けどね、僕は全然構わないんだ。
君がココに、僕の手の届くトコに居てくれれば、それで良いんだ。
「君はもう、何処にもいないから。」
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「よしっ、揃ったな。今日から本格的な匣兵器の修業だが……リボーンの一番の教え子である俺が、全体を仕切る家庭教師をすることになった。」
その日の夕飯後、トレーニングルームにてツナと守護者を集め、ディーノは説明を始めた。
「宜しくな!」
「ヘナチョコのアイツなんかに務まるんスかねー。」
「でもディーノさん、部下の前だと凄いし……」
獄寺とツナがヒソヒソと話していると、何処からか光るものが降りてきて。
「ちなみに今回、俺はその上の役職・家庭教師の精だからな。」
「妖精になっちゃったよ!!ワイヤーで吊ってる!」
光っていたのはリボーンの妖精衣裳だった。
「ディーノがへぼい時は俺が制裁を下すから安心しろ。」
「いでで!やめろってリボッブッ!!」
リボーンによる頬への蹴りにたじたじになりながら、ディーノはクロームに問いかけた。
「意思確認だ。お前はボンゴレ守護者であると同時に骸の一味でもある。ミルフィオーレとの戦いには味方として数えていいのか?」
数秒黙ったクロームだったが、はっきりと強く頷く。
彼女の目的も、ツナ達と変わらない。
強くなって、過去に帰ること。
「よし、頼んだぜ。それと、ランボにも本格的な修業をしてもらう。白蘭を倒すには守護者全員の力が必要だ。」
「(本当に、仕方ないのかな…?)」
この時代のツナからボンゴレ匣について多少の情報を得ているディーノは、それを考慮した上で各々に違うメニューを組んだ。
また雲雀が既に自分と修業を始めたことも伝える。
「雲雀さん!見つかったんですね!!」
「相変わらず可愛くねーじゃじゃ馬だけどな、今は俄然やる気だぜ。」
「なっ…あの雲雀が、修業にやる気だと!?」
「あぁ、“檸檬もイタリアで修業してる”って言ったらな。」
「檸檬もですか!?」
驚くツナ達に、ディーノは軽く頷く。
「この時代の檸檬が言ってたんだ、ヒントは散りばめたってな。」
「ヒント…?」
「恐らく第六感の資料のことだな、草壁に渡した書類の他に、もう一つ作ってたんだ。」
「さすがリボーン、俺もそうだと踏んでる。」
ディーノはそこで話を戻し、ツナに言った。
「お前は正しく開匣できるまで一人だ。」
「え!?一人って…一人ぼっち!?」
「と言っても匣兵器と一緒だぜ、匣にトラブルが起きた時は使い手がずっと一緒にいてやることだ。」
「……それだけ、ですか?」
「今のがヒントだ。」
次に獄寺。
「お前は匣初心者である笹川了平と、ランボの面倒を見てやってくれ。」
「なにっ!?」
ディーノの人まかせな態度と生徒への不満で拳を作る獄寺。
しかし…
「すごいね獄寺君、もう教える立場なんて。」
「えっ!?(すごい…!?)」
ツナの一言に獄寺は一瞬固まり、次の瞬間テンションを上げた。
「いえいえいえ勿体ないお言葉!!自分なんてまだピヨッ子です!!ですがお役に立てるなら力の限りやらせて頂きます!!」
了平とランボが口々に不満を漏らしたが、やる気になった獄寺は止められない。
引き摺り回してでも教えるそうだ。
「次にクローム髑髏。お前は匣兵器強化のために、半分の時間をアルコバレーノ・マーモンの残した幻覚強化プログラムで修業し、残りの時間を格闘能力アップに使うんだ。」
“あそこの2人に手伝ってもらってな”とディーノが向いた方には、
手を振るビアンキとイーピン。
クロームは少し安心したように口角を緩めた。
「そして、山本武。」
「うす!待ってたぜディーノさん!何やんだ?」
へへっと笑う山本を見て、ディーノは考えた。
幻騎士に負けたことで山本は凹んでると思っていたが、明るさは変わらない。
山本らしいと言えば、山本らしいのだが……
「お前はパスだ、待機。」
「へっ?」
「ぱ、パス!?」
山本とツナが驚く隣で獄寺がガッツポーズをする。
「つーかお前には手ー出せねぇんだ。お前にヘタなこと教えればアイツにぶっ殺されるからな。」
「あいつ?」
「お前の才能の一番の理解者は、マジだぜ。今回の修業で山本武、お前すげーことになるかもな。」
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イタリア、ヴァリアーのアジト。
広間でくつろぐベルとルッスーリア、窓辺に立つフラン、そして紅茶を啜る檸檬。
ベルはナイフでダーツをしながら言った。
「ししし、うちの作戦隊長何処行ったんだ?」
「だからぁ、日本の跳ね馬から届いた10代目ファミリーのメローネ基地攻略レポートを見たら…」
---「う"お"ぉい!!ふざけんなぁ!!」
「とか叫んで飛び出してっちゃったのよ~。」
『やっぱりさっきのドアの音、アロちゃんだったんだ…』
「そう言えば、何か本部が静かだなーと思ったら、作戦隊長いなかったんスねー。」
「今頃気づいたか、新入りっ。」
ドシュッ、
「うっ、」
ベルの投げたナイフが、ダーツの的ではなくフランの蛙のかぶり物に刺さる。
『ベル、フランが可哀相だってば…』
「ホントですよー、ミーって可哀相。」
「可哀相なくらいアホだな、ししっ♪」
意地悪く笑うベルの横で、檸檬がルッスーリアに尋ねる。
『じゃあアロちゃん、日本行っちゃったの?あたしも一緒に行けば良かったぁ…』
「やめといた方がいいわよ、だってスクアーロったら自分の匣で海渡るとか言ってたもの。」
『え!?飛行機じゃなくて!?』
「うわ、フランよりアホじゃね?」
「ミーと比べないで下さいー。」
と、その時。
ドガァァァン!!
『な、何!?』
-「も、申し訳ありませんザンザス様ぁ!!うわあああ!!」
大きな破壊音と、悲鳴。
上の階から響いてくるそれらの音は、埃をも降らせる。
「あ、またボスの被害者がー…」
「ったくスクアーロが留守だとボスを抑えられるヤツがいねーじゃん。」
「レヴィも病院送りだしね。」
『そうだったの!?』
「ルッス先輩、クジャクで回復してあげればいいじゃないですかー。」
「だってレヴィが嫌だって言うんだもの。ボスから受けた傷は勲章だから消したくないって。」
「うししっ、どこまで“ボスLOVE”なんだか。」
ベルは再びナイフでダーツを始める。
上の階から響く音が気になる檸檬は、席を立った。
「行くんですかー?檸檬さん。」
『あ、うん……アロちゃんの代わりは務まらないかもだけど…ボスが不機嫌なのは困るもん。』
「危ないですよー。それに、檸檬さんは修業が先決のハズですー。」
「そーそー、次は開匣なんだろ?」
ベルの台詞を聞いて驚いたのはルッスーリア。
「あらっ、開匣って…リングが要るじゃない!大丈夫なの!?だって檸檬は…」
『少しくらいなら、平気。』
「ならいいんだけど……」
「触らぬ神に何とやらって言うじゃん、ボスのことは下っ端に任せときゃいーって。」
『う、うん…』
少し腑に落ちなかったが、3人に修業に戻るよう勧められた檸檬は仕方なく自室に帰った。
机の上に置いてある匣を手に取り、第八段階のノートを開く。
そして、ファイルの一番後ろから雲系リングを取り出した。
『ホントに、出来るのかな…?』
一番最初、ツナが炎を出すのにとても苦労していたのを覚えてる。
覚悟って、口に出すような簡単な言葉じゃないんだ。
あたしには、すぐ出せるのかな…
あたしの中に眠る覚悟は、素直な気持ちは………
リングを、右手中指に嵌めた。
どくんっ、
『うっ……ぐっ…、』
何、コレ……気持ち悪い…!
あたしの中に流れる波動が…リングに捻じ曲げられる…!!
『そっか、コレが……相性最悪の理由、ね…』
波動から炎を生成するリングは、あたしにとって波動を捻じ曲げる強制装置でしか無いんだ…。
波動を敏感に感じ取れるからこそ、苦しくなるってワケね。
『(けどっ…!)』
こんな苦しみから逃げるワケにはいかない!
これぐらい耐えなくちゃ、蜜柑と和解することなんて……
そうだ、そうだよ…
あたしは……妹と、仲直りしたいの。
その為には、話を聞いて貰わなくちゃいけない。
話を聞かなくちゃいけない。
蜜柑を倒すためじゃなくて、
その攻撃を凌ぐために強くなりたい。
護るために、強くなりたい……
『(それが……あたしの覚悟よ!!)』
パァァァッ…!
『わぁっ!』
リングに、バイオレットの炎が灯った。
即座にその炎をナイフに移して、リングを外す。
純度を最高レベルに換えてから、匣に炎を注入した。
カチッ、
匣に開けられていた穴は、ナイフの形状にピッタリで。
ドシュウッ、
『(何が出てくるんだろう…)』
少し緊張して、ごくりと唾を飲む。
2秒ほどで眩い光が収まり、そこに現れたのは……
「みぃーっ、みぃーっ、」
『え…?』
鳴き声は聞こえるのに、姿が見えない。
部屋を見回しても、どこにも。
「みぃーっ、」
それに、言っちゃ悪いけどこの鳴き声……随分と頼りない…。
『一体どこに………わっ!』
「みっ!」
“それ”は机の上に落ちていたみたいで、渾身の力であたしの指をくわえた。
『ごめんね、気付かなかった。』
「みぃー…」
『あなたがあたしのアニマル匣?』
「みっ!」
可愛い…
ヒバードよりも一回り小さい、ヒナだった。
何のヒナなんだろう…?
隼人の瓜ちゃんみたいに大きくなるのかなぁ?
その子はあたしの手の平の上でピョイピョイ跳ねる。
両翼と頭部にだけ、微弱な雲の炎が灯っている。
この子は、純度が高いほど開匣時間が長くなるってボスが言ってた。
その条件は、この子が秘めた何らかの力に関係あるのかも知れない。
『宜しくね♪』
「みぃっ!」
背中を撫でてあげると、気持ち良さそうに鳴いてくれた。
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太平洋。
荒れ狂う波間に、1隻の漁船が漂っていた。
台風のせいできちんと舵が取れないまま。
その船体に突如、大きな衝撃が走る。
「なんや!?横っ腹に何かぶつかったで!!」
「横…?」
窓の外に目をやった船員は、悲鳴をあげて腰を抜かした。
「はうっ!フカ…フカだ~~!!」
「腰抜かすほどデカいフカがおりますかい、ジョーズや無いんやから。」
と、覗いた船員すら腰を抜かす。
すると、今度はドアが勢いよく開けられ……
「この船は日本行きだな、乗せてけぇ…」
「ど、何処から…?」
船長の問いに答えず、彼は言った。
「山本武、あのガキィ……敗けたとは、どおいうことだぁ!!!!」
鮫に乗って単身やって来たスクアーロの叫びが、台風の海に響き渡った。