未来編①
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『さーてと、おやつも食べたし!』
「あら、どこか行くの?この辺りはまだ敵の残党がウロウロしてるらしいわよ。」
考えてみれば、アジト内にスクアーロやベル、そしてレヴィの姿が無かった。
幹部だけでなく他の隊員も随分と少ない。
『(だからアロちゃん達いなかったんだ…)』
納得しながら、檸檬はルッスーリアに返す。
『そうじゃなくてね、その敵と戦う為に……新しい修業するの。』
「修業?だってもう第六感は…」
「もしかして、アップグレードですかー?」
表情一つ変えずにクッキーを食べ続けるフランが聞く。
食べカスついてるよ、と口の端を指さしてから、檸檬は軽く頷いた。
『うん、そんなトコ♪』
チョイス
自室に戻った檸檬は、分厚いファイルを開く。
そこには早速、修業内容が記されていた。
“第六段階 奪取した炎の出し入れ
・炎の奪取が出来ることが絶対条件
・奪った炎をナイフ内部の僅かな空洞に収納する
・必要な時に再び炎をナイフ外部に纏わせる”
『そう言えば、ちょっとした空洞があったような…』
日本で修業していた時は別段気にしていなかったが、どうやら出し入れの為のものだったらしい。
出し入れが出来れば、炎を奪取してからもう一度奪取が出来る。
つまりこれまでの2倍、相手から炎を奪えるのだ。
『よし、やってみよ!』
常備しているナイフを手に取り、ハッと気づく。
炎を出し入れする修業には、炎が必要である。
しかし………
檸檬は、自分で炎を出すことが出来ないのだ。
リングを持っていないし、持っていたとしても第六感が反発してしまう。
『しょうがないなぁ…頼んでみようっと。』
第六段階の内容を熟読して覚え、檸檬は広間に向かった。
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入江はリボーンに“チョイス”の説明をし始めた。
まず、2軍に分かれて戦場となる土地をチョイスし、
兵士ユニットをチョイスしチームを作り、
本陣となるユニットとその配置をチョイスし、
戦闘を行う。
そして勝者は報酬として敗者の所有物から欲しいモノをチョイスして奪えるのだ。
「そんなゲームだよ。」
「思ったよりシンプルだな。」
「ま、まぁね……もともとは僕と白蘭さんが暇つぶしで作ったボードゲームだからね。」
ところが、のめり込むうちにコンピューターゲームになり、
更に自由度を上げてアップデートを重ねた結果……
「ゲーム末期には、自走する巨大要塞が画面の中を走り回ったりしてたかな………」
「…趣味悪ぃな。」
「ぼ、僕も若かったんだよ!」
「でも白蘭はコレを“現実に”やると言ってたぞ。どう考えればいいんだ?」
「そこなんだ……ゲームであるチョイスを現実になんて出来るワケない!!だが白蘭サンのことだ……」
現実に置き換えるため、入江は更に細かなルールを話す。
まず兵士の数は話し合いで決め、揃わなければ負けとなる。
土地の場所も開戦前に直径10キロの広さでチョイスする。
基地ユニットは50平方メートル以内の物を自分で用意する。
「なるほどな、まさに戦争で言うところの“局地戦”を再現して行う感じだな。」
「ああ、そうだね……そして問題は、宿泊施設でもあり攻撃要塞でもある基地ユニットが、僕らには無いってことだ。」
「ま、まさか…実際に現物で基地を用意しろって言うんですか!?」
驚愕の情報に、ボンゴレのモニタールームにいるジャンニーニが声をあげる。
「何度も考えてみたんだけど、そう考えるのが自然だよ……」
「そんなこと急に言われても無茶ですよ!!人手も時間も足りません!」
「それに10キロって相当広い…機動力のある兵器が欲しいトコだな。」
「基地ユニットは作れねーし機動力もねぇ……どうするつもりだったんだ?正一。」
ジャンニーニやスパナ、そしてリボーンの指摘に一瞬黙ってから、入江は叫んだ。
「だから困ってるんじゃないか!!僕だって考える度に冷や汗ザーザーだよ!!」
「まぁ落ち着け。ココにはボンゴレの天才発明家とミルフィオーレの天才メカニックがいるんだ。きっと優秀な方が何とかしてくれるぞ。」
リボーンの言葉に反応したスパナとジャンニーニは、競うように言い切る。
「と、当然ですよ!!天才ジャンニーニ、スパナより優れた解決法を考えてみせますとも!!」
「ウチだってジャンニーニよりいいアイデアを考える。安心しろ、正一。」
「心強いな、正一。」
「う…うん、ありがとう!」
正一は言った。
今度の戦いはツナ達だけの戦いではなく、自分たち技術屋の戦いでもあるのだ、と。
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夜、ボンゴレ地下アジト。
味噌汁をよそりながら、フゥ太が言う。
「じゃあツナ兄達、メローネ基地にお弁当だけ置いて帰って来たんだ。」
「うん。入江君もスパナも何か真剣にやってて、とても話しかけられる雰囲気じゃなかったからね。」
「なーに、お前たちもすぐ死ぬほど忙しくなるから心配すんな。」
休み中だというのにリボーンがそんなことを言ったため、ツナ達は軽くテンションを下げる。
そんな3人に、夕飯が終わったらちょっと付き合えと言うリボーン。
ツナは嫌な予感を感じざるを得なかった。
「そう言えば、席が空いてるけど誰の席?」
「クロームちゃんです……帰ってから一回もご飯を食べてないんです。」
「えっ?でも、ご飯食べれるぐらいに回復したって……」
「お部屋の前にご飯、置いて来たんだけど……」
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『ルッスーリア、いるー?…………あれ?』
広間に戻って来た檸檬だったが、そこには誰もいなかった。
ルッスーリアだけでなく、フランもいなくなっている。
まだ中身が残っているらしきお菓子の缶だけが机の上に乗っていた。
『おっかしーなー…』
顎に手を当てて考える檸檬。
思えば、書類を熟読しているうちに結構な時間が経ってしまったのかも知れない。
とすると、二人共自分の部屋に戻ったのだろうか。
『探してみよっ。』
檸檬が方向転換しようとした、その時。
「そこ!隊服も着ずに何をしている!!」
『へっ!?』
30代半ばと見られる男が、後ろから檸檬に声をかけた。
ビックリして振り向いた檸檬は、自分の服装を見て納得する。
『あ、ごめんなさい。まだ隊服もらってなくて……』
「もらってないだと!?そもそもお前のような子供が何故ヴァリアーのアジトに…」
『あの、ルッスーリア見ませんでした?さっきまで広間にいたと思うんですけど……』
「なっ!幹部の方の名を呼び捨てるとは何と無礼な!!」
『えっ!?あの、えーと…』
今にも自分に掴みかかりそうな目の前の隊員に、後退る檸檬。
すると、背中が何かにぶつかった。
『わっ、ごめんなさい………ボス!』
「ざ、ザンザス様!!」
「…何してやがる。」
「いえ!こ、この子供が隊服も着ずにうろついていたので…」
『ルッスーリアとフラン探そうと思って……広間からいなくなっちゃったから…』
ザンザスに説明する檸檬を見て、隊員はますます目を見開いた。
「お前!ザンザス様にタメ口など…!」
「黙ってろ。」
「は、はい!」
「アイツらも残党処理に行った。」
『え!そうだったの!?』
驚いてから肩を落とす檸檬に、ザンザスは尋ねる。
「…何かあったのか、檸檬。」
『う~ん…ちょっと修業のために炎を貸して貰おうと思ったんだけど……』
「第六感の、か?」
『うん、新しい書類が見つかって。』
ザンザスと檸檬の会話を聞いていた隊員は、途端に顔を引きつらせた。
「“檸檬”……“第六感”……ま、まさか貴女は…!」
『へ?』
「す、すみませんでしたぁ!!」
『えぇっ!?あのっ、えぇえー!?』
走り去っていく彼を呆然と見送る檸檬。
一方ザンザスはそのやり取りに全く動じず檸檬に言う。
「おい、アレは日本で習得したのか。」
『(“アレ”?もしかして、絶対遮断のことかなぁ…?)』
ザンザスとジルの戦いの中、檸檬がコウモリの炎を遮った技・絶対遮断。
それは草壁から貰った書類に書いてあったワケではなく、檸檬が自分で編み出したのだ。
『うーんと…一応自分で考案したの。オリジナル♪』
「………来い。」
『えっ?あ、待ってよボス!』
スタスタ歩き始めるザンザスに、小走りで付いて行く檸檬。
『(何かあるのかな…?)』
ボスの考えは何年経ってもよく分からない。
とりあえず今は、黙って付いて行くことにした。
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「入れ。」
『失礼します。』
着いたのは、ボスの部屋。
ほんの少しだけ物の配置が変わってて、何だか新鮮に感じた。
『ボス…?』
「この時代のお前からの伝言だ。この匣は……純度の高さに開匣時間が比例する。」
『匣……って、もしかして…!』
「受け取れ。」
机の中からボスが取り出した、手の平サイズの四角いもの。
それは、まさしくあたしが今まで“使えなかった”武器で。
深い黒を基調としていて、ある面にはボンゴレの紋章、違う面にはヴァリアーの紋章。
他の面には三日月が描かれていた。
『キレイ…』
ボスからスルーパスされて、まじまじと見てみる。
これが、未来のあたしが使ってた……匣。
『これ、中身は…』
「知りてぇか?」
『……ううん、自分で開ける!』
今ココでボスに中身を聞くのは簡単だけど、やっぱり自分で最初に見てみたいもの。
『それにしても、黒って……もっといいデザイン無かったのかなぁ…』
「自ら選んだ、この時代の檸檬がな。」
『あたしが…!?』
何でそんな…
“DARQ”って通り名を象徴するかのように。
割り切ったつもりだけど、やっぱり嫌だ。
あたしは…確かに人智を超える力を持つけれど……
「怖ぇか?」
『えっ…』
「“闇”の通り名を持つのが、怖ぇかって聞いてんだ。」
ボスは、射抜く様な赤い眼光をあたしに向けていた。
見透かされそうで、思わず匣を持ってる指に力を入れる。
『……うん、まだちょっと怖い、かな。』
その言葉を口にするのは何だか情けなくて、ゆっくりと俯く。
するとボスは、手振りで「こっちへ来い」と。
『なに…?』
「かつて聞いた、お前の妹に。ヤツは…檸檬を“人間の闇”だと言った。」
『人間の、闇…?』
「人智を超えればあらゆる欲が叶う。“欲”こそ人間の本質だそうだ。」
この力は……人間の闇の…つまり“欲望”の産物なんだ…。
だからあたしは、“ダーク”と呼ばれる…。
「檸檬、」
『え?』
ボスはスッと手を伸ばし、あたしの頭を撫でる。
「その通りだとは思わねぇか?望みを持たねぇ人間はいねぇ。」
『それは、そうだけど…』
「だから恐れんな。」
言われた瞬間、心にしっくり来る何かがあった。
ボスの言葉が持つ、威厳。
それが、あたしにズシッと響いた。
「闇と呼ばれるのを、怖がってんじゃねぇ。」
赤く鋭い眼光は、あたしには優しく見えた。
あぁ、変わらないんだ…
あたしがいた10年前の世界と、何も変わってない。
威厳のある言葉で、その瞳で、
ボスはあたしに安堵をくれる。
ツナとは違う、“大空”………
『うん……うんっ、了解!』
10年前と同じように、笑顔で敬礼してみせた。
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ボンゴレ地下アジト、クロームの部屋。
静かに眠るムクロウを傍に、クロームは一人ベッドに寝転がっていた。
脳裏に過るのは、京子やハル、そしてビアンキの優しさ。
「(…おんなじ……)」
かつて、リング争奪戦の時に僅かに会話した檸檬のことを思い出す。
骸が大切に想っているその存在は、身代わりの守護者である自分にも同様に接してくれた。
---『今度はケーキ食べに行こうよ。』
あの時の檸檬の笑顔が、京子たちの笑顔と重なった。
思い出しで恥ずかしくなり、寝返りをうった、その時。
ウィィィィ…
扉が開いて、カギを掛け忘れていたことに気付く。
そして入って来たのは……
あんまんを持ったイーピンだった。
アツアツのそれに息を吹きかけ、一口食べる。
そして、覚えたてであろう日本語を。
「お…い……しー!」
スタッとベッドに座ったイーピンは、あんまんを千切ってクロームに差し出した。
最初は戸惑っていたクロームだが、空腹を思い出しそうっと受け取る。
部屋には咀嚼音のみが広がって。
「………おいしい…」
クロームの一言で沈黙は破られる。
しかしイーピンは尚も無言のまま、再びクロームにあんまんの欠片を差し出した。
「……ありがとう、」
引っ張り出すこともせず、ただ傍にいるイーピンの姿が、その時のクロームにはとても嬉しかった。
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同じ頃ツナ達4人は、一度も来たことのない部屋の前に案内されていた。
「何だよリボーン、こんなトコ連れて来て!」
「一体何の部屋スかね…」
ツナ達の会話はスルーし、リボーンとジャンニーニは二人で会話する。
「思ったより早く機動力対策は出来そうだな。」
「ハイ!スパナなんかに負けられませんからね。」
ジャンニーニ曰く、この部屋は未来のツナのコレクションルームの一つだと。
そして何処からかメジャーを取り出しツナの足の長さを測る。
「やっぱり短いですね、足。」
「なっ!?何なの一体!?」
「やはりサイズ的にもヴィンテージのアレがいいでしょうね。待ってて下さい、すぐ用意しますんで。」
「ワケわかんないぞ!リボーン!!」
「1日早い課外授業ってヤツだな。白蘭に勝つにはリングと匣だけじゃダメってことだ。」
と、次の瞬間。
コォオオ…!
辺りが揺れる様な振動と、頭蓋に直接響く様な音に、4人は体を震わせた。
「鼓膜が破れるよ!!何これ!!?」
「素晴らしい…ガソリン燃料と全く同じレスポンス。これならいけそうです!!」
コレクションルームから出て来たジャンニーニが跨っていたのは、一台のバイクだった。
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通り名に対する不安もだいぶ消え、明るい笑顔を見せた檸檬に、ザンザスは言った。
「…で、炎はどーすんだ?」
『あ!そうだった!』
「属性は?」
『何でも。』
「なら、使え。」
『えっ?』
ザンザスの右手にあるヴァリアーリングに、オレンジ色の炎が灯される。
檸檬は一瞬ぽかんとしたが、すぐにお礼を言った。
『ありがとうボス!!大事に使うねっ!』
右腿のナイフを手に取り、それをザンザスのリングの炎に触れさせる。
すると、ナイフはオレンジの炎に包まれた。
『本当にありがとう!頑張るね♪』
「…時間決めとけ。」
『うっ……』
雲雀と同じようなことを言われて、檸檬は軽く苦笑した。
『わ、分かった……じゃあ、30分…』
「守れよ。」
『はい。』
大きく頷いてから、檸檬はザンザスの部屋を出た。
貰った炎を、とりあえずナイフにしまってみようとする。
しかし、炎は一向に変化を見せない。
『おっかしーなー…』
ナイフの中の空洞に入れるイメージ、
檸檬には、それがイマイチ掴めないでいた。
と、そこに。
「檸檬ーっ、ただいまー♪」
『あ、ベル!』
「何してんの?」
ひょっこりと後ろから覗いたベルは、大空の炎が灯った檸檬のナイフに驚いた。
「…戦いに行く、とか?俺達が全部片付けるから、檸檬は休んでていーって!」
『ううん!違うの、コレは修業に使うための…』
「修業?」
首を傾げるベルに、檸檬は説明した。
ベルに貰ったカギは、木箱のものだったこと。
その中に、第六段階から第十段階の第六感修業内容が書かれたファイルがあったこと。
そして今、ボスに炎を貰って第六段階の修業をしようとしていたこと。
『ベル、見たことない?未来のあたしがナイフの中に炎しまってたの。』
「んー……あ、アレかも。」
『あるの!?』
「俺が見たのは、雨の炎灯してたけど一瞬のうちに雷に変わったってトコ。」
『うん、多分ソレ!何かコツとか言ってなかった?』
「んー…」
檸檬の問い掛けに、ベルは顎に手を当てる。
息をのんでそれを見つめる檸檬。
もしかしたら、ヒントを得られるかも知れない。
とりあえず第六段階はとっとと終わらせなきゃいけない。
「何か、ナイフに炎移すのって、波長の融合だって言ってたじゃん?」
『あ、うん。』
「俺には波長とか視えないから良くわかんねーけど……炎の波長をナイフの波長でコーティングする感じだとか言ってた気がする。」
『コーティング…包み込んでしまうってことね……ありがとう!ベル!』
「うししっ♪どーいたしまして。つーか気まぐれで聞いただけなのに、役に立つとか思ってなかったし。」
『そ、そうだったの?』
「まーね♪」
ナイフを使って様々な炎を出し入れしてた未来のあたしを見て、ベルは疑問に思って何となく聞いてみたそうだ。
未来のあたしがきちんと答えたのはきっと、この時代のあたしを導くため……
『(それだけ賭けてるんだ、ココにいる“あたし”に。)』
「檸檬?」
『んーん、何でもない!本当にありがとう、助かった♪』
「無理しないで頑張れよ。」
『うんっ!』
廊下でベルと別れ、あたしは自室に戻った。
コーティングするイメージを頭いっぱいに浮かべて、
目を閉じた。
「あら、どこか行くの?この辺りはまだ敵の残党がウロウロしてるらしいわよ。」
考えてみれば、アジト内にスクアーロやベル、そしてレヴィの姿が無かった。
幹部だけでなく他の隊員も随分と少ない。
『(だからアロちゃん達いなかったんだ…)』
納得しながら、檸檬はルッスーリアに返す。
『そうじゃなくてね、その敵と戦う為に……新しい修業するの。』
「修業?だってもう第六感は…」
「もしかして、アップグレードですかー?」
表情一つ変えずにクッキーを食べ続けるフランが聞く。
食べカスついてるよ、と口の端を指さしてから、檸檬は軽く頷いた。
『うん、そんなトコ♪』
チョイス
自室に戻った檸檬は、分厚いファイルを開く。
そこには早速、修業内容が記されていた。
“第六段階 奪取した炎の出し入れ
・炎の奪取が出来ることが絶対条件
・奪った炎をナイフ内部の僅かな空洞に収納する
・必要な時に再び炎をナイフ外部に纏わせる”
『そう言えば、ちょっとした空洞があったような…』
日本で修業していた時は別段気にしていなかったが、どうやら出し入れの為のものだったらしい。
出し入れが出来れば、炎を奪取してからもう一度奪取が出来る。
つまりこれまでの2倍、相手から炎を奪えるのだ。
『よし、やってみよ!』
常備しているナイフを手に取り、ハッと気づく。
炎を出し入れする修業には、炎が必要である。
しかし………
檸檬は、自分で炎を出すことが出来ないのだ。
リングを持っていないし、持っていたとしても第六感が反発してしまう。
『しょうがないなぁ…頼んでみようっと。』
第六段階の内容を熟読して覚え、檸檬は広間に向かった。
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入江はリボーンに“チョイス”の説明をし始めた。
まず、2軍に分かれて戦場となる土地をチョイスし、
兵士ユニットをチョイスしチームを作り、
本陣となるユニットとその配置をチョイスし、
戦闘を行う。
そして勝者は報酬として敗者の所有物から欲しいモノをチョイスして奪えるのだ。
「そんなゲームだよ。」
「思ったよりシンプルだな。」
「ま、まぁね……もともとは僕と白蘭さんが暇つぶしで作ったボードゲームだからね。」
ところが、のめり込むうちにコンピューターゲームになり、
更に自由度を上げてアップデートを重ねた結果……
「ゲーム末期には、自走する巨大要塞が画面の中を走り回ったりしてたかな………」
「…趣味悪ぃな。」
「ぼ、僕も若かったんだよ!」
「でも白蘭はコレを“現実に”やると言ってたぞ。どう考えればいいんだ?」
「そこなんだ……ゲームであるチョイスを現実になんて出来るワケない!!だが白蘭サンのことだ……」
現実に置き換えるため、入江は更に細かなルールを話す。
まず兵士の数は話し合いで決め、揃わなければ負けとなる。
土地の場所も開戦前に直径10キロの広さでチョイスする。
基地ユニットは50平方メートル以内の物を自分で用意する。
「なるほどな、まさに戦争で言うところの“局地戦”を再現して行う感じだな。」
「ああ、そうだね……そして問題は、宿泊施設でもあり攻撃要塞でもある基地ユニットが、僕らには無いってことだ。」
「ま、まさか…実際に現物で基地を用意しろって言うんですか!?」
驚愕の情報に、ボンゴレのモニタールームにいるジャンニーニが声をあげる。
「何度も考えてみたんだけど、そう考えるのが自然だよ……」
「そんなこと急に言われても無茶ですよ!!人手も時間も足りません!」
「それに10キロって相当広い…機動力のある兵器が欲しいトコだな。」
「基地ユニットは作れねーし機動力もねぇ……どうするつもりだったんだ?正一。」
ジャンニーニやスパナ、そしてリボーンの指摘に一瞬黙ってから、入江は叫んだ。
「だから困ってるんじゃないか!!僕だって考える度に冷や汗ザーザーだよ!!」
「まぁ落ち着け。ココにはボンゴレの天才発明家とミルフィオーレの天才メカニックがいるんだ。きっと優秀な方が何とかしてくれるぞ。」
リボーンの言葉に反応したスパナとジャンニーニは、競うように言い切る。
「と、当然ですよ!!天才ジャンニーニ、スパナより優れた解決法を考えてみせますとも!!」
「ウチだってジャンニーニよりいいアイデアを考える。安心しろ、正一。」
「心強いな、正一。」
「う…うん、ありがとう!」
正一は言った。
今度の戦いはツナ達だけの戦いではなく、自分たち技術屋の戦いでもあるのだ、と。
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夜、ボンゴレ地下アジト。
味噌汁をよそりながら、フゥ太が言う。
「じゃあツナ兄達、メローネ基地にお弁当だけ置いて帰って来たんだ。」
「うん。入江君もスパナも何か真剣にやってて、とても話しかけられる雰囲気じゃなかったからね。」
「なーに、お前たちもすぐ死ぬほど忙しくなるから心配すんな。」
休み中だというのにリボーンがそんなことを言ったため、ツナ達は軽くテンションを下げる。
そんな3人に、夕飯が終わったらちょっと付き合えと言うリボーン。
ツナは嫌な予感を感じざるを得なかった。
「そう言えば、席が空いてるけど誰の席?」
「クロームちゃんです……帰ってから一回もご飯を食べてないんです。」
「えっ?でも、ご飯食べれるぐらいに回復したって……」
「お部屋の前にご飯、置いて来たんだけど……」
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『ルッスーリア、いるー?…………あれ?』
広間に戻って来た檸檬だったが、そこには誰もいなかった。
ルッスーリアだけでなく、フランもいなくなっている。
まだ中身が残っているらしきお菓子の缶だけが机の上に乗っていた。
『おっかしーなー…』
顎に手を当てて考える檸檬。
思えば、書類を熟読しているうちに結構な時間が経ってしまったのかも知れない。
とすると、二人共自分の部屋に戻ったのだろうか。
『探してみよっ。』
檸檬が方向転換しようとした、その時。
「そこ!隊服も着ずに何をしている!!」
『へっ!?』
30代半ばと見られる男が、後ろから檸檬に声をかけた。
ビックリして振り向いた檸檬は、自分の服装を見て納得する。
『あ、ごめんなさい。まだ隊服もらってなくて……』
「もらってないだと!?そもそもお前のような子供が何故ヴァリアーのアジトに…」
『あの、ルッスーリア見ませんでした?さっきまで広間にいたと思うんですけど……』
「なっ!幹部の方の名を呼び捨てるとは何と無礼な!!」
『えっ!?あの、えーと…』
今にも自分に掴みかかりそうな目の前の隊員に、後退る檸檬。
すると、背中が何かにぶつかった。
『わっ、ごめんなさい………ボス!』
「ざ、ザンザス様!!」
「…何してやがる。」
「いえ!こ、この子供が隊服も着ずにうろついていたので…」
『ルッスーリアとフラン探そうと思って……広間からいなくなっちゃったから…』
ザンザスに説明する檸檬を見て、隊員はますます目を見開いた。
「お前!ザンザス様にタメ口など…!」
「黙ってろ。」
「は、はい!」
「アイツらも残党処理に行った。」
『え!そうだったの!?』
驚いてから肩を落とす檸檬に、ザンザスは尋ねる。
「…何かあったのか、檸檬。」
『う~ん…ちょっと修業のために炎を貸して貰おうと思ったんだけど……』
「第六感の、か?」
『うん、新しい書類が見つかって。』
ザンザスと檸檬の会話を聞いていた隊員は、途端に顔を引きつらせた。
「“檸檬”……“第六感”……ま、まさか貴女は…!」
『へ?』
「す、すみませんでしたぁ!!」
『えぇっ!?あのっ、えぇえー!?』
走り去っていく彼を呆然と見送る檸檬。
一方ザンザスはそのやり取りに全く動じず檸檬に言う。
「おい、アレは日本で習得したのか。」
『(“アレ”?もしかして、絶対遮断のことかなぁ…?)』
ザンザスとジルの戦いの中、檸檬がコウモリの炎を遮った技・絶対遮断。
それは草壁から貰った書類に書いてあったワケではなく、檸檬が自分で編み出したのだ。
『うーんと…一応自分で考案したの。オリジナル♪』
「………来い。」
『えっ?あ、待ってよボス!』
スタスタ歩き始めるザンザスに、小走りで付いて行く檸檬。
『(何かあるのかな…?)』
ボスの考えは何年経ってもよく分からない。
とりあえず今は、黙って付いて行くことにした。
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「入れ。」
『失礼します。』
着いたのは、ボスの部屋。
ほんの少しだけ物の配置が変わってて、何だか新鮮に感じた。
『ボス…?』
「この時代のお前からの伝言だ。この匣は……純度の高さに開匣時間が比例する。」
『匣……って、もしかして…!』
「受け取れ。」
机の中からボスが取り出した、手の平サイズの四角いもの。
それは、まさしくあたしが今まで“使えなかった”武器で。
深い黒を基調としていて、ある面にはボンゴレの紋章、違う面にはヴァリアーの紋章。
他の面には三日月が描かれていた。
『キレイ…』
ボスからスルーパスされて、まじまじと見てみる。
これが、未来のあたしが使ってた……匣。
『これ、中身は…』
「知りてぇか?」
『……ううん、自分で開ける!』
今ココでボスに中身を聞くのは簡単だけど、やっぱり自分で最初に見てみたいもの。
『それにしても、黒って……もっといいデザイン無かったのかなぁ…』
「自ら選んだ、この時代の檸檬がな。」
『あたしが…!?』
何でそんな…
“DARQ”って通り名を象徴するかのように。
割り切ったつもりだけど、やっぱり嫌だ。
あたしは…確かに人智を超える力を持つけれど……
「怖ぇか?」
『えっ…』
「“闇”の通り名を持つのが、怖ぇかって聞いてんだ。」
ボスは、射抜く様な赤い眼光をあたしに向けていた。
見透かされそうで、思わず匣を持ってる指に力を入れる。
『……うん、まだちょっと怖い、かな。』
その言葉を口にするのは何だか情けなくて、ゆっくりと俯く。
するとボスは、手振りで「こっちへ来い」と。
『なに…?』
「かつて聞いた、お前の妹に。ヤツは…檸檬を“人間の闇”だと言った。」
『人間の、闇…?』
「人智を超えればあらゆる欲が叶う。“欲”こそ人間の本質だそうだ。」
この力は……人間の闇の…つまり“欲望”の産物なんだ…。
だからあたしは、“ダーク”と呼ばれる…。
「檸檬、」
『え?』
ボスはスッと手を伸ばし、あたしの頭を撫でる。
「その通りだとは思わねぇか?望みを持たねぇ人間はいねぇ。」
『それは、そうだけど…』
「だから恐れんな。」
言われた瞬間、心にしっくり来る何かがあった。
ボスの言葉が持つ、威厳。
それが、あたしにズシッと響いた。
「闇と呼ばれるのを、怖がってんじゃねぇ。」
赤く鋭い眼光は、あたしには優しく見えた。
あぁ、変わらないんだ…
あたしがいた10年前の世界と、何も変わってない。
威厳のある言葉で、その瞳で、
ボスはあたしに安堵をくれる。
ツナとは違う、“大空”………
『うん……うんっ、了解!』
10年前と同じように、笑顔で敬礼してみせた。
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ボンゴレ地下アジト、クロームの部屋。
静かに眠るムクロウを傍に、クロームは一人ベッドに寝転がっていた。
脳裏に過るのは、京子やハル、そしてビアンキの優しさ。
「(…おんなじ……)」
かつて、リング争奪戦の時に僅かに会話した檸檬のことを思い出す。
骸が大切に想っているその存在は、身代わりの守護者である自分にも同様に接してくれた。
---『今度はケーキ食べに行こうよ。』
あの時の檸檬の笑顔が、京子たちの笑顔と重なった。
思い出しで恥ずかしくなり、寝返りをうった、その時。
ウィィィィ…
扉が開いて、カギを掛け忘れていたことに気付く。
そして入って来たのは……
あんまんを持ったイーピンだった。
アツアツのそれに息を吹きかけ、一口食べる。
そして、覚えたてであろう日本語を。
「お…い……しー!」
スタッとベッドに座ったイーピンは、あんまんを千切ってクロームに差し出した。
最初は戸惑っていたクロームだが、空腹を思い出しそうっと受け取る。
部屋には咀嚼音のみが広がって。
「………おいしい…」
クロームの一言で沈黙は破られる。
しかしイーピンは尚も無言のまま、再びクロームにあんまんの欠片を差し出した。
「……ありがとう、」
引っ張り出すこともせず、ただ傍にいるイーピンの姿が、その時のクロームにはとても嬉しかった。
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同じ頃ツナ達4人は、一度も来たことのない部屋の前に案内されていた。
「何だよリボーン、こんなトコ連れて来て!」
「一体何の部屋スかね…」
ツナ達の会話はスルーし、リボーンとジャンニーニは二人で会話する。
「思ったより早く機動力対策は出来そうだな。」
「ハイ!スパナなんかに負けられませんからね。」
ジャンニーニ曰く、この部屋は未来のツナのコレクションルームの一つだと。
そして何処からかメジャーを取り出しツナの足の長さを測る。
「やっぱり短いですね、足。」
「なっ!?何なの一体!?」
「やはりサイズ的にもヴィンテージのアレがいいでしょうね。待ってて下さい、すぐ用意しますんで。」
「ワケわかんないぞ!リボーン!!」
「1日早い課外授業ってヤツだな。白蘭に勝つにはリングと匣だけじゃダメってことだ。」
と、次の瞬間。
コォオオ…!
辺りが揺れる様な振動と、頭蓋に直接響く様な音に、4人は体を震わせた。
「鼓膜が破れるよ!!何これ!!?」
「素晴らしい…ガソリン燃料と全く同じレスポンス。これならいけそうです!!」
コレクションルームから出て来たジャンニーニが跨っていたのは、一台のバイクだった。
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通り名に対する不安もだいぶ消え、明るい笑顔を見せた檸檬に、ザンザスは言った。
「…で、炎はどーすんだ?」
『あ!そうだった!』
「属性は?」
『何でも。』
「なら、使え。」
『えっ?』
ザンザスの右手にあるヴァリアーリングに、オレンジ色の炎が灯される。
檸檬は一瞬ぽかんとしたが、すぐにお礼を言った。
『ありがとうボス!!大事に使うねっ!』
右腿のナイフを手に取り、それをザンザスのリングの炎に触れさせる。
すると、ナイフはオレンジの炎に包まれた。
『本当にありがとう!頑張るね♪』
「…時間決めとけ。」
『うっ……』
雲雀と同じようなことを言われて、檸檬は軽く苦笑した。
『わ、分かった……じゃあ、30分…』
「守れよ。」
『はい。』
大きく頷いてから、檸檬はザンザスの部屋を出た。
貰った炎を、とりあえずナイフにしまってみようとする。
しかし、炎は一向に変化を見せない。
『おっかしーなー…』
ナイフの中の空洞に入れるイメージ、
檸檬には、それがイマイチ掴めないでいた。
と、そこに。
「檸檬ーっ、ただいまー♪」
『あ、ベル!』
「何してんの?」
ひょっこりと後ろから覗いたベルは、大空の炎が灯った檸檬のナイフに驚いた。
「…戦いに行く、とか?俺達が全部片付けるから、檸檬は休んでていーって!」
『ううん!違うの、コレは修業に使うための…』
「修業?」
首を傾げるベルに、檸檬は説明した。
ベルに貰ったカギは、木箱のものだったこと。
その中に、第六段階から第十段階の第六感修業内容が書かれたファイルがあったこと。
そして今、ボスに炎を貰って第六段階の修業をしようとしていたこと。
『ベル、見たことない?未来のあたしがナイフの中に炎しまってたの。』
「んー……あ、アレかも。」
『あるの!?』
「俺が見たのは、雨の炎灯してたけど一瞬のうちに雷に変わったってトコ。」
『うん、多分ソレ!何かコツとか言ってなかった?』
「んー…」
檸檬の問い掛けに、ベルは顎に手を当てる。
息をのんでそれを見つめる檸檬。
もしかしたら、ヒントを得られるかも知れない。
とりあえず第六段階はとっとと終わらせなきゃいけない。
「何か、ナイフに炎移すのって、波長の融合だって言ってたじゃん?」
『あ、うん。』
「俺には波長とか視えないから良くわかんねーけど……炎の波長をナイフの波長でコーティングする感じだとか言ってた気がする。」
『コーティング…包み込んでしまうってことね……ありがとう!ベル!』
「うししっ♪どーいたしまして。つーか気まぐれで聞いただけなのに、役に立つとか思ってなかったし。」
『そ、そうだったの?』
「まーね♪」
ナイフを使って様々な炎を出し入れしてた未来のあたしを見て、ベルは疑問に思って何となく聞いてみたそうだ。
未来のあたしがきちんと答えたのはきっと、この時代のあたしを導くため……
『(それだけ賭けてるんだ、ココにいる“あたし”に。)』
「檸檬?」
『んーん、何でもない!本当にありがとう、助かった♪』
「無理しないで頑張れよ。」
『うんっ!』
廊下でベルと別れ、あたしは自室に戻った。
コーティングするイメージを頭いっぱいに浮かべて、
目を閉じた。