未来編①
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ボンゴレ地下アジト。
右手におにぎり、左手に牛乳瓶を持ったバジルが、ひっきりなしに料理を口に運んでいた。
同じ机を囲むツナ達は、その光景に口々に言う。
「バジル君…よく食べる。」
「あいつ、ちっこいクセに満腹キャラだったんスね…」
「見ていたら極限に俺も腹減って来たぞ。」
「食ったばっかじゃないスか!!」
と、ココで一息ついたバジル。
両手をパンッと合わせて礼儀正しく、
「ごちそうさまでした」と。
「とても美味しかった、と京子殿とハル殿にお伝え下さい。」
「きっと喜ぶよ!」
「それにしても驚きました、本当に並盛の地下にこんな立派なアジトが出来ていたなんて!」
「お前、10年前から来たのにこのアジトのこと知ってんのか?」
「はい!全てはボンゴレの勅命である死炎印のついた、この“助太刀の書”に記してありましたから。」
言いながらバジルは、小さな炎が灯った折り畳み式の極秘文書を取りだした。
充電
「助太刀の書!?」
「はい、このアジトへのルートとこの時代での戦い方が記されており、いざという時は燃えて無くなるんです。」
バジルが未来にやって来たのは10日前で、場所はスペインだった。
自分が倒れていた側にはパスポートと匣兵器、そしてこの極秘文書が置いてあったという。
バジルが取り出した匣兵器を見る獄寺。
「CEDEF……確か、門外顧問組織のことです。」
「父さんやラルと同じ組織の!」
「残念ながら今まで仲間には誰にも会ってませんが、この書と匣のおかげで途中で出くわしたミルフィオーレを撃退出来たんです。」
「え!バジル君、もうミルフィオーレと戦ってるの!?」
「えぇ、6回ほど戦闘を。」
そこに、ビアンキがやって来て言う。
「つまり、何者かの指示でバジルはツナ達とは別ルートで鍛えられ、ココに合流したと考えられるわね。」
ボンゴレにピンチが訪れた時はサポートをする特別機関であ門外顧問。
ミルフィオーレに攻撃を受けている今、バジルも戦力に加えられているのだ。
「極限に打倒白蘭の仲間だな!!」
「バジル君強いし、心強いよ!!」
「宜しくお願いします!」
話が一段落ついたところで、ビアンキがツナを急かした。
「さっきから京子とハルがお待ちかねよ。そろそろ地上へ行きましょ。」
「あ、そうだね。」
良かったらバジル君も一緒に、と言いかけたツナは振り返って目を丸くした。
数秒前まで眠そうな仕草など毛ほども見せていなかったバジルが、机を枕に爆睡していたのだ。
「……電池切れたみてーに。」
「よほど疲れていたのだな…」
「ああ…」
ツナ達は、10年後の京子とハルの家の様子を知る為に地上へと繰り出した。
---
------
------------
同日、ヴァリアーのアジト。
朝食を済ませた檸檬は、再び自分の部屋を物色し始めた。
ベルに貰ったカギで開くべき場所を探しているのだ。
『おっかしーなー……』
ベッドの下にも、机や絵の裏にも、無い。
どうして見つからないのか。
『さすがに床下は無いよねー、ここって2階だし……』
呟きながら一応確認しようと思い、第六感を発動した檸檬。
床を壊さずにその下を見るには、波長を辿って“視る”のが一番なのだ。
と、そこで檸檬はハッとした。
『……そうだ、そうだよ!!波長で視て探さないといけないんだ!!』
他の人に絶対に見つからない方法は、それしかない。
空間移動を使えば、工事をしなくても壁の中にだって簡単に隠せる。
第六感を継続発動させ、部屋を一通り見回した檸檬は、ベッドの真横の壁に何かが埋まってるのを見つけた。
『視えた…!』
空間移動で壁の中に手を入れ、取り出してみる。
と、それはA4サイズの木箱だった。
過去から来た檸檬が見つけると分かっていたらしく、ふたには“過去の檸檬へ”という貼り紙がある。
意を決してカギを開けると、一番上に置かれていた手紙が目に入った。
その下には、ファイルとノート、そしてジュエリーか何かが入ってそうな紺色の箱。
色々と気になる物はあったが、とりあえず上に置かれていた手紙に目を通すことにした。
“過去の檸檬へ”
以前草壁から受け取った書類と、同じ字体。
これもやはり、この時代の檸檬が過去の自分へ宛てたヒントのようだ。
“この手紙を読んでるってことは、ちゃんと第六感が使えるようになってきた……そう判断していいわね?
哲さんに渡した第五段階までの書類で、マスターしたことを前提に話を進める。
木箱に入れたファイルには、第六段階から第十段階までの修業内容がある。
酷な修業になると思うけど……乗り越えて欲しいの。
蜜柑と互角に戦う為には、あたしも匣を使わなくちゃいけない。
過去の檸檬がもう蜜柑と戦ったのなら、その事実は嫌と言うほど分かっているハズよ。”
『(分かってるけど……でも、)』
木箱には、檸檬専用と思われる匣兵器など入っていない。
また別の場所に、人物に預けられているのだろうか。
“それと、この手紙は少し長いけど……最後まで読んで欲しいの。
あたしは大きな過ちを犯し、皆を…恭弥を傷つけた。
でもそうせざるを得なかった、あたしの視界が無くなったのは……避けがたい運命だった…そう、思ってる。”
『うそ……ウソだよ、そんなのっ…!』
手紙を持つ檸檬の手が震える。
第六感の修業のせいで目が見えなくなった未来の自分。
それが運命だとしたら……いつかはココにいる自分も………
“けれど、貴女には同じ道を歩ませないと決めたから……だからあたしは、手紙を書いてる。
恐ろしい運命が無い道へ、貴女を導きたいから……長い昔話、貴女にとっては未来の話だけど……付き合って頂戴。”
そこで1枚目は終わり、檸檬は2枚目へと視線を移した。
---
------
-------------
10年後の自分の家に行ったハルには、元気に生きてた未来の自分に負けられないという気力が沸き起こったという。
ツナはその反応を意外なものだと感じたが、合流した時の京子の表情を見て、同じように感じたんだと察した。
ただ了平は、何処か違う感じがした……。
ビアンキに他に行きたいところは無いのかと尋ねられ、今度は全員で並中に向かった。
「わ~変わんないっ!!」
「懐かしー!」
10年の間、増築も改築もされなかった並中。
2年A組の教室に入り、それぞれの席に座る。
「本当は…檸檬ちゃんもいるんだよね…」
「あぁ、俺の隣だったぜ。」
「檸檬、元気にしてるかな……ちゃんと休んでればいいけど…」
イタリアに少しだけ思いを馳せながら、俺達は屋上に足を進めた。
学校を好きだなんて今まで思わなかったけど…10年経っても変わらず迎えてくれたこの場所は、
忘れていた思い出をたくさん蘇らせてくれた。
こんなに楽しかったんだって、実感して、
過去に戻ったらもっと噛み閉めようって。
そう誓ったら、何だか空っぽだった気力が回復してくのを感じたんだ。
まぁ、ランボが漏らして騒ぎ始めたから、リフレッシュな気分はすぐドタバタモードになっちゃんたんだけど……。
---
-------
ツナ達が騒ぐ向かいの校舎の屋上では、雲雀がボンゴレ匣を眺めながら寝そべっていた。
行方を眩ませた彼は、ココに来ていたのだ。
---『恭弥のこと、世界で一番大好きだよ。』
---『だから、ね……もし全部が終わって、平和な過去に帰れたら………また、屋上で…2人で………』
檸檬がイタリアへ空間移動して行った時のことを、思い出す。
日本に帰って来る、そう言っていた。
信じようと思う。
檸檬を信じることがきっと、檸檬への想いの証明になるから。
と、その時。
「あいつら、いい顔してんな………しばらくほっといても大丈夫そうだ。」
聴き慣れない声に、起きあがってトンファーを構える。
僕が寝そべっていた後ろの高台にいたのは……見覚えのあるヤツだった。
「まぁ待て恭弥、そう慌てなくても、みっちり鍛えてやっから。」
「………ヤダ。」
「待てっつの!!」
檸檬が僕のトコに帰るまで、暇つぶしに付き合ってくれるってことだよね?
---
-----
----------
「檸檬~っ、ちょっといいかしらぁ?美味しいお菓子が………」
コンコンッと軽いノックをしてから扉を開けたルッスーリアは、目の前の光景に思わず固まった。
ついさっき、少なくとも朝食時には明るい笑顔を見せていた檸檬が、木箱の前に跪き啜り泣いていたのである。
その右手には、数枚に渡る手紙のようなものが強く握られて。
「檸檬どうしたの!?何があったの!?」
『…ルッスーリア……』
扉を閉めて駆け寄ったルッスーリアに、檸檬は抱きついた。
右手に握られた手紙がクシャクシャッと音を立てる。
震えるその背中を擦りながら、ルッスーリアは優しく問いかけた。
「檸檬、話せるかしら?」
『……う、ん…』
「嬉し泣き、じゃないわね?」
『うんっ…』
返事をした檸檬は抱きついていた腕を解き、左の袖で涙を拭い、右手にあった手紙を折り畳んだ。
『全部…分かったの……未来のあたしが、何を考えて、何をして、結果的にどうなったか……それに…』
檸檬はルッスーリアに小さな紺色の箱を見せる。
そのジュエリーボックスには………
「まぁ…!これ、指輪じゃない!!」
それは、戦闘に使う炎を灯すリングではなかった。
美しいダイヤモンドが装飾された、銀色の指輪。
「もしかして、コレって……」
『恭弥から貰ったって、手紙に………けどっ、』
檸檬はそこで口をつぐんだ。
「つらいなら話さなくていいのよ」と優しく肩を叩くルッスーリアに、こくっと頷き指輪と手紙を木箱にしまってふたをした。
『ごめんね、ありがとう…ルッスーリア……』
「いいのよ、檸檬は過去から来たんだもの。知りたくなかったこともたくさんあると思うわ。」
『うん……だけど、受け止めなくちゃいけない。じゃないと進めないから。』
そう、この時代のあたしは、過去から来たあたしを導くために犠牲になった。
わざと、無理な修業をして第六感に飲み込まれた…。
「美味しいお菓子あるから、気分が落ち着いたら広間にいらっしゃい。」
『分かった、ありがとう♪』
ルッスーリアが部屋を出た後、大きなため息を一つ吐いた。
手紙の内容を反芻して、ベッドに突っ伏す。
未来のあたしは、匣兵器が登場してすぐの頃はリングを使って匣を開けていた。
自分専用の匣もあったらしい。
けど、あたしの中に眠る第六感がリングの作用と相性最悪と分かり、匣を使えなくなってしまった。
そこで、ボンゴレでの第六感研究と同時進行で力を完成させる修業を始めた。
第六感の修業を始めて1ヶ月後、未来のあたしは予知夢を視たそうだ。
その日から、その夢と同じ光景が何度も何度も目の前に映るようになった。
それは、“過去からきたあたしと、この時代の蜜柑が対峙している光景”…
あたしのお母さんの未来視では、自分が関わっている未来じゃないと視れない。
未来のあたしが視たのは、その条件と正反対の未来、つまり……
“自分が絶対関わることが出来ない未来”だった。
それが本能による警告だと察した未来のあたしは、過去から来る自分が第六感の修業をし易いように導くと決めた。
そして……悲鳴をあげる身体を無視して、無理やり修業速度を上げたのだ。
それはすなわち、第六感の完成の先に何があるか把握して、過去のあたしに伝える為でもあった。
『(そして、同じ頃……あの指輪が渡されたんだ…)』
この時代の恭弥とツナが何かを隠していたのは、未来のあたしは薄々勘付いていたみたい。
けれど、敢えて訊かなかった。
---『恭弥が隠してることに関して何も聞かない。だからあたしも…1つだけ秘密にしていい?』
恭弥が隠してたのは、入江さん達との計画のこと。
あたしの秘密は……過去のあたしを導こうとしてること。
未来のあたし達は、そこで擦れ違った。
恭弥が指輪をくれた時、未来のあたしはソレを受け取ったものの付けることが出来なかった。
手紙に、その悲痛な思いが語られていた。
“あたしは勿論恭弥を愛してる。ココに何度書いても足りないほど、想ってる。
なのにあたしは…彼を騙してしまった。
この身体は、もうボロボロ。第六感を使えば使うほど、体中を襲う痛みからは解放されない。
あたしには、アレを受け取る資格が無かったのかもしれない。
大好きだけど、あたしはまた恭弥を苦しめる。
苦しめると分かってても、修業をやめることは出来ない。
あの未来を視てしまった限り、過去のあたしを導く義務があるから……
全てが終わったらちゃんと迎えに来るよ……恭弥はそう、言ってくれた。
けれど、その時あたしはこの世界に存在してるのか分からない。
蜜柑に殺されてるかもしれない、人間じゃない存在になってるかもしれない、
また、離れなくちゃいけないかもしれない……
そんなあたしが、1人の女の幸せを味わおうなんて贅沢過ぎる。
あたしの中に存在し続ける恐ろしい力と犯罪者の血は、消えないのだから。
でも……これだけは、本当の気持ち。
側にいるだけで、声を聞いているだけで、手を繋ぐだけで、心からあったかくなれる。
たとえ離れることになっても、あたしはずっと……恭弥のことを、世界で一番愛してます。”
第六感を完成させたあたしは、恭弥に内緒で、草壁さんに第五段階までの書類を預けた。
もうじき、この時代で起こる全てを過去の自分に委ねることになる……
その覚悟と決意を、自分の内に隠したまま。
そして残りの書類を木箱に隠し、鍵をベルに託した。
炎を奪うことに長けた特別なナイフは1本だけ恭弥に預けた。
多分、別の人に匣を預けたんだと思う。
そして、過去のあたしを導く準備を終えた直後、“あの日”がやって来た。
手紙にも、その時の心境が綴られていた。
“これは、制裁なんだと思った。
突然全身の力が抜けて、あたしは医務室に運ばれた。
気絶している間に見た夢の中で、あたしは黒いものに追われていた。
よこせ、受け入れろ、抗うな、おいで、と引きずり込もうとする黒い闇……
あたしは恐怖のあまり逃げ出した。
逃げて、拒絶して、抵抗した結果………あたしの視界は、閉ざされた。
意識が戻った時、手を握られている感覚だけあった。
誰が握っているのか分かっていたから、大丈夫だよと伝えようとした。
けれど、あたしにはもう、彼の顔は見えなかった。
視えたのは、心配して来てくれた恭弥の波動のみ。
その瞬間、あたしは自分の運命を呪った。
力を恨んで、自分を殺してしまいたくなった。
見えない、何も見えない………愛する人の表情すら、ちゃんと分からない。”
そこからはフゥ太君や草壁さんから聞いた通り、未来のあたしはボンゴレの人達の前から姿を消した。
そして再び現れたのは、ミルフィオーレによってボンゴレ本部が急襲された日。
自分の匣を持たないまま、1人で粘り続けた。
……蜜柑によって捕まるまで。
『…よしっ、』
第六感に対する恐怖が消えたワケじゃない。
けど、未来のあたしは身をもってその危険をあたしに教えてくれた。
だから……
『頑張るよ、あたし。』
決意を言葉にして、あたしは部屋を出た。
大広間でそわそわしていたルッスーリアに呼びかける。
『ルッスーリア!』
「あら檸檬、もう大丈夫なの?」
『うんっ!美味しいお菓子食べれば、きっと元気百倍になる♪』
「そうねっvじゃあこれ、どうぞ♪」
ルッスーリアが差し出したクッキーの缶を開け、にっこり笑う檸檬。
『ありがとーっ!おいしーっ!』
「あー、ズルいですよ檸檬さーん、ミーも食べたいですー。」
『はいっ、どーぞ♪』
「どうもー、ルッス先輩にしてはいいチョイスですねー。」
「あら、私はいつもナイスチョイスよん♪」
フランとルッスーリアの会話を聞いて、クスッと笑う。
『フランは可愛いねっ♪』
「……それ、この時代の檸檬さんにも言われましたー。」
『そう?じゃあよっぽど可愛いんだよ!』
「ミーは男なんですけどー、」
『気にしない気にしない!褒め言葉なんだから♪』
「………まぁいいですけどー…」
あたしにはまだ、チャンスがある。
視界を閉ざさないまま、第六感を完成させるチャンスが。
恐れないで修業をしようと、意気込んだ。
右手におにぎり、左手に牛乳瓶を持ったバジルが、ひっきりなしに料理を口に運んでいた。
同じ机を囲むツナ達は、その光景に口々に言う。
「バジル君…よく食べる。」
「あいつ、ちっこいクセに満腹キャラだったんスね…」
「見ていたら極限に俺も腹減って来たぞ。」
「食ったばっかじゃないスか!!」
と、ココで一息ついたバジル。
両手をパンッと合わせて礼儀正しく、
「ごちそうさまでした」と。
「とても美味しかった、と京子殿とハル殿にお伝え下さい。」
「きっと喜ぶよ!」
「それにしても驚きました、本当に並盛の地下にこんな立派なアジトが出来ていたなんて!」
「お前、10年前から来たのにこのアジトのこと知ってんのか?」
「はい!全てはボンゴレの勅命である死炎印のついた、この“助太刀の書”に記してありましたから。」
言いながらバジルは、小さな炎が灯った折り畳み式の極秘文書を取りだした。
充電
「助太刀の書!?」
「はい、このアジトへのルートとこの時代での戦い方が記されており、いざという時は燃えて無くなるんです。」
バジルが未来にやって来たのは10日前で、場所はスペインだった。
自分が倒れていた側にはパスポートと匣兵器、そしてこの極秘文書が置いてあったという。
バジルが取り出した匣兵器を見る獄寺。
「CEDEF……確か、門外顧問組織のことです。」
「父さんやラルと同じ組織の!」
「残念ながら今まで仲間には誰にも会ってませんが、この書と匣のおかげで途中で出くわしたミルフィオーレを撃退出来たんです。」
「え!バジル君、もうミルフィオーレと戦ってるの!?」
「えぇ、6回ほど戦闘を。」
そこに、ビアンキがやって来て言う。
「つまり、何者かの指示でバジルはツナ達とは別ルートで鍛えられ、ココに合流したと考えられるわね。」
ボンゴレにピンチが訪れた時はサポートをする特別機関であ門外顧問。
ミルフィオーレに攻撃を受けている今、バジルも戦力に加えられているのだ。
「極限に打倒白蘭の仲間だな!!」
「バジル君強いし、心強いよ!!」
「宜しくお願いします!」
話が一段落ついたところで、ビアンキがツナを急かした。
「さっきから京子とハルがお待ちかねよ。そろそろ地上へ行きましょ。」
「あ、そうだね。」
良かったらバジル君も一緒に、と言いかけたツナは振り返って目を丸くした。
数秒前まで眠そうな仕草など毛ほども見せていなかったバジルが、机を枕に爆睡していたのだ。
「……電池切れたみてーに。」
「よほど疲れていたのだな…」
「ああ…」
ツナ達は、10年後の京子とハルの家の様子を知る為に地上へと繰り出した。
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同日、ヴァリアーのアジト。
朝食を済ませた檸檬は、再び自分の部屋を物色し始めた。
ベルに貰ったカギで開くべき場所を探しているのだ。
『おっかしーなー……』
ベッドの下にも、机や絵の裏にも、無い。
どうして見つからないのか。
『さすがに床下は無いよねー、ここって2階だし……』
呟きながら一応確認しようと思い、第六感を発動した檸檬。
床を壊さずにその下を見るには、波長を辿って“視る”のが一番なのだ。
と、そこで檸檬はハッとした。
『……そうだ、そうだよ!!波長で視て探さないといけないんだ!!』
他の人に絶対に見つからない方法は、それしかない。
空間移動を使えば、工事をしなくても壁の中にだって簡単に隠せる。
第六感を継続発動させ、部屋を一通り見回した檸檬は、ベッドの真横の壁に何かが埋まってるのを見つけた。
『視えた…!』
空間移動で壁の中に手を入れ、取り出してみる。
と、それはA4サイズの木箱だった。
過去から来た檸檬が見つけると分かっていたらしく、ふたには“過去の檸檬へ”という貼り紙がある。
意を決してカギを開けると、一番上に置かれていた手紙が目に入った。
その下には、ファイルとノート、そしてジュエリーか何かが入ってそうな紺色の箱。
色々と気になる物はあったが、とりあえず上に置かれていた手紙に目を通すことにした。
“過去の檸檬へ”
以前草壁から受け取った書類と、同じ字体。
これもやはり、この時代の檸檬が過去の自分へ宛てたヒントのようだ。
“この手紙を読んでるってことは、ちゃんと第六感が使えるようになってきた……そう判断していいわね?
哲さんに渡した第五段階までの書類で、マスターしたことを前提に話を進める。
木箱に入れたファイルには、第六段階から第十段階までの修業内容がある。
酷な修業になると思うけど……乗り越えて欲しいの。
蜜柑と互角に戦う為には、あたしも匣を使わなくちゃいけない。
過去の檸檬がもう蜜柑と戦ったのなら、その事実は嫌と言うほど分かっているハズよ。”
『(分かってるけど……でも、)』
木箱には、檸檬専用と思われる匣兵器など入っていない。
また別の場所に、人物に預けられているのだろうか。
“それと、この手紙は少し長いけど……最後まで読んで欲しいの。
あたしは大きな過ちを犯し、皆を…恭弥を傷つけた。
でもそうせざるを得なかった、あたしの視界が無くなったのは……避けがたい運命だった…そう、思ってる。”
『うそ……ウソだよ、そんなのっ…!』
手紙を持つ檸檬の手が震える。
第六感の修業のせいで目が見えなくなった未来の自分。
それが運命だとしたら……いつかはココにいる自分も………
“けれど、貴女には同じ道を歩ませないと決めたから……だからあたしは、手紙を書いてる。
恐ろしい運命が無い道へ、貴女を導きたいから……長い昔話、貴女にとっては未来の話だけど……付き合って頂戴。”
そこで1枚目は終わり、檸檬は2枚目へと視線を移した。
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10年後の自分の家に行ったハルには、元気に生きてた未来の自分に負けられないという気力が沸き起こったという。
ツナはその反応を意外なものだと感じたが、合流した時の京子の表情を見て、同じように感じたんだと察した。
ただ了平は、何処か違う感じがした……。
ビアンキに他に行きたいところは無いのかと尋ねられ、今度は全員で並中に向かった。
「わ~変わんないっ!!」
「懐かしー!」
10年の間、増築も改築もされなかった並中。
2年A組の教室に入り、それぞれの席に座る。
「本当は…檸檬ちゃんもいるんだよね…」
「あぁ、俺の隣だったぜ。」
「檸檬、元気にしてるかな……ちゃんと休んでればいいけど…」
イタリアに少しだけ思いを馳せながら、俺達は屋上に足を進めた。
学校を好きだなんて今まで思わなかったけど…10年経っても変わらず迎えてくれたこの場所は、
忘れていた思い出をたくさん蘇らせてくれた。
こんなに楽しかったんだって、実感して、
過去に戻ったらもっと噛み閉めようって。
そう誓ったら、何だか空っぽだった気力が回復してくのを感じたんだ。
まぁ、ランボが漏らして騒ぎ始めたから、リフレッシュな気分はすぐドタバタモードになっちゃんたんだけど……。
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ツナ達が騒ぐ向かいの校舎の屋上では、雲雀がボンゴレ匣を眺めながら寝そべっていた。
行方を眩ませた彼は、ココに来ていたのだ。
---『恭弥のこと、世界で一番大好きだよ。』
---『だから、ね……もし全部が終わって、平和な過去に帰れたら………また、屋上で…2人で………』
檸檬がイタリアへ空間移動して行った時のことを、思い出す。
日本に帰って来る、そう言っていた。
信じようと思う。
檸檬を信じることがきっと、檸檬への想いの証明になるから。
と、その時。
「あいつら、いい顔してんな………しばらくほっといても大丈夫そうだ。」
聴き慣れない声に、起きあがってトンファーを構える。
僕が寝そべっていた後ろの高台にいたのは……見覚えのあるヤツだった。
「まぁ待て恭弥、そう慌てなくても、みっちり鍛えてやっから。」
「………ヤダ。」
「待てっつの!!」
檸檬が僕のトコに帰るまで、暇つぶしに付き合ってくれるってことだよね?
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「檸檬~っ、ちょっといいかしらぁ?美味しいお菓子が………」
コンコンッと軽いノックをしてから扉を開けたルッスーリアは、目の前の光景に思わず固まった。
ついさっき、少なくとも朝食時には明るい笑顔を見せていた檸檬が、木箱の前に跪き啜り泣いていたのである。
その右手には、数枚に渡る手紙のようなものが強く握られて。
「檸檬どうしたの!?何があったの!?」
『…ルッスーリア……』
扉を閉めて駆け寄ったルッスーリアに、檸檬は抱きついた。
右手に握られた手紙がクシャクシャッと音を立てる。
震えるその背中を擦りながら、ルッスーリアは優しく問いかけた。
「檸檬、話せるかしら?」
『……う、ん…』
「嬉し泣き、じゃないわね?」
『うんっ…』
返事をした檸檬は抱きついていた腕を解き、左の袖で涙を拭い、右手にあった手紙を折り畳んだ。
『全部…分かったの……未来のあたしが、何を考えて、何をして、結果的にどうなったか……それに…』
檸檬はルッスーリアに小さな紺色の箱を見せる。
そのジュエリーボックスには………
「まぁ…!これ、指輪じゃない!!」
それは、戦闘に使う炎を灯すリングではなかった。
美しいダイヤモンドが装飾された、銀色の指輪。
「もしかして、コレって……」
『恭弥から貰ったって、手紙に………けどっ、』
檸檬はそこで口をつぐんだ。
「つらいなら話さなくていいのよ」と優しく肩を叩くルッスーリアに、こくっと頷き指輪と手紙を木箱にしまってふたをした。
『ごめんね、ありがとう…ルッスーリア……』
「いいのよ、檸檬は過去から来たんだもの。知りたくなかったこともたくさんあると思うわ。」
『うん……だけど、受け止めなくちゃいけない。じゃないと進めないから。』
そう、この時代のあたしは、過去から来たあたしを導くために犠牲になった。
わざと、無理な修業をして第六感に飲み込まれた…。
「美味しいお菓子あるから、気分が落ち着いたら広間にいらっしゃい。」
『分かった、ありがとう♪』
ルッスーリアが部屋を出た後、大きなため息を一つ吐いた。
手紙の内容を反芻して、ベッドに突っ伏す。
未来のあたしは、匣兵器が登場してすぐの頃はリングを使って匣を開けていた。
自分専用の匣もあったらしい。
けど、あたしの中に眠る第六感がリングの作用と相性最悪と分かり、匣を使えなくなってしまった。
そこで、ボンゴレでの第六感研究と同時進行で力を完成させる修業を始めた。
第六感の修業を始めて1ヶ月後、未来のあたしは予知夢を視たそうだ。
その日から、その夢と同じ光景が何度も何度も目の前に映るようになった。
それは、“過去からきたあたしと、この時代の蜜柑が対峙している光景”…
あたしのお母さんの未来視では、自分が関わっている未来じゃないと視れない。
未来のあたしが視たのは、その条件と正反対の未来、つまり……
“自分が絶対関わることが出来ない未来”だった。
それが本能による警告だと察した未来のあたしは、過去から来る自分が第六感の修業をし易いように導くと決めた。
そして……悲鳴をあげる身体を無視して、無理やり修業速度を上げたのだ。
それはすなわち、第六感の完成の先に何があるか把握して、過去のあたしに伝える為でもあった。
『(そして、同じ頃……あの指輪が渡されたんだ…)』
この時代の恭弥とツナが何かを隠していたのは、未来のあたしは薄々勘付いていたみたい。
けれど、敢えて訊かなかった。
---『恭弥が隠してることに関して何も聞かない。だからあたしも…1つだけ秘密にしていい?』
恭弥が隠してたのは、入江さん達との計画のこと。
あたしの秘密は……過去のあたしを導こうとしてること。
未来のあたし達は、そこで擦れ違った。
恭弥が指輪をくれた時、未来のあたしはソレを受け取ったものの付けることが出来なかった。
手紙に、その悲痛な思いが語られていた。
“あたしは勿論恭弥を愛してる。ココに何度書いても足りないほど、想ってる。
なのにあたしは…彼を騙してしまった。
この身体は、もうボロボロ。第六感を使えば使うほど、体中を襲う痛みからは解放されない。
あたしには、アレを受け取る資格が無かったのかもしれない。
大好きだけど、あたしはまた恭弥を苦しめる。
苦しめると分かってても、修業をやめることは出来ない。
あの未来を視てしまった限り、過去のあたしを導く義務があるから……
全てが終わったらちゃんと迎えに来るよ……恭弥はそう、言ってくれた。
けれど、その時あたしはこの世界に存在してるのか分からない。
蜜柑に殺されてるかもしれない、人間じゃない存在になってるかもしれない、
また、離れなくちゃいけないかもしれない……
そんなあたしが、1人の女の幸せを味わおうなんて贅沢過ぎる。
あたしの中に存在し続ける恐ろしい力と犯罪者の血は、消えないのだから。
でも……これだけは、本当の気持ち。
側にいるだけで、声を聞いているだけで、手を繋ぐだけで、心からあったかくなれる。
たとえ離れることになっても、あたしはずっと……恭弥のことを、世界で一番愛してます。”
第六感を完成させたあたしは、恭弥に内緒で、草壁さんに第五段階までの書類を預けた。
もうじき、この時代で起こる全てを過去の自分に委ねることになる……
その覚悟と決意を、自分の内に隠したまま。
そして残りの書類を木箱に隠し、鍵をベルに託した。
炎を奪うことに長けた特別なナイフは1本だけ恭弥に預けた。
多分、別の人に匣を預けたんだと思う。
そして、過去のあたしを導く準備を終えた直後、“あの日”がやって来た。
手紙にも、その時の心境が綴られていた。
“これは、制裁なんだと思った。
突然全身の力が抜けて、あたしは医務室に運ばれた。
気絶している間に見た夢の中で、あたしは黒いものに追われていた。
よこせ、受け入れろ、抗うな、おいで、と引きずり込もうとする黒い闇……
あたしは恐怖のあまり逃げ出した。
逃げて、拒絶して、抵抗した結果………あたしの視界は、閉ざされた。
意識が戻った時、手を握られている感覚だけあった。
誰が握っているのか分かっていたから、大丈夫だよと伝えようとした。
けれど、あたしにはもう、彼の顔は見えなかった。
視えたのは、心配して来てくれた恭弥の波動のみ。
その瞬間、あたしは自分の運命を呪った。
力を恨んで、自分を殺してしまいたくなった。
見えない、何も見えない………愛する人の表情すら、ちゃんと分からない。”
そこからはフゥ太君や草壁さんから聞いた通り、未来のあたしはボンゴレの人達の前から姿を消した。
そして再び現れたのは、ミルフィオーレによってボンゴレ本部が急襲された日。
自分の匣を持たないまま、1人で粘り続けた。
……蜜柑によって捕まるまで。
『…よしっ、』
第六感に対する恐怖が消えたワケじゃない。
けど、未来のあたしは身をもってその危険をあたしに教えてくれた。
だから……
『頑張るよ、あたし。』
決意を言葉にして、あたしは部屋を出た。
大広間でそわそわしていたルッスーリアに呼びかける。
『ルッスーリア!』
「あら檸檬、もう大丈夫なの?」
『うんっ!美味しいお菓子食べれば、きっと元気百倍になる♪』
「そうねっvじゃあこれ、どうぞ♪」
ルッスーリアが差し出したクッキーの缶を開け、にっこり笑う檸檬。
『ありがとーっ!おいしーっ!』
「あー、ズルいですよ檸檬さーん、ミーも食べたいですー。」
『はいっ、どーぞ♪』
「どうもー、ルッス先輩にしてはいいチョイスですねー。」
「あら、私はいつもナイスチョイスよん♪」
フランとルッスーリアの会話を聞いて、クスッと笑う。
『フランは可愛いねっ♪』
「……それ、この時代の檸檬さんにも言われましたー。」
『そう?じゃあよっぽど可愛いんだよ!』
「ミーは男なんですけどー、」
『気にしない気にしない!褒め言葉なんだから♪』
「………まぁいいですけどー…」
あたしにはまだ、チャンスがある。
視界を閉ざさないまま、第六感を完成させるチャンスが。
恐れないで修業をしようと、意気込んだ。