未来編①
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いつだって、そう。
檸檬はさ、信頼しきった仲間にも泣いてるトコ隠すんだ。
10年前から、ずっとそう。
バレバレだってのに、笑って誤魔化して。
コンコン、
「檸檬、いる?」
だから…
俺は、そんな檸檬の泣き場所になれたらって思った。
少なくとも、エース君がいない時は。
休息
『ベル…?』
「うん、ちょっと話があんだけど。」
そう言うと、少し躊躇いがちにドアが開いて檸檬が顔を覗かせた。
あーやっぱり、泣き顔の一歩手前の顔だ。
『どんな…?今じゃなきゃ、ダメ?』
「大事な話、今がいい。」
『……分かった、ちょっと待ってね。』
暗めにしていた部屋の明かりをパチッとつけて、檸檬は俺を招き入れた。
『えっと、そこのソファでいい?』
「全然オッケー♪」
『お茶とか…』
「いーから檸檬、ココ座って。」
『へ?……うん、分かった。』
ぽすっと隣に座った檸檬は、不思議そうに俺を見上げる。
その頭を撫でながら、口を開いた。
「あんね檸檬、一番最初に言っとくけど、」
『うん。』
「俺はずっと檸檬が大好きで、それはこれからも変わらない。」
『えっ……で、でもあたし、』
「別にエース君消そうとか思ってんじゃなくて、要は……檸檬が捕まって、すんげー心配したってこと。」
ボンゴレ本部壊滅の、6日前。
俺が、捕まる前の檸檬を最後に見た日。
---『あたし、ちょっと行って来る……未来のために。』
---「檸檬…?」
様子がおかしかったのに、思いつめた表情してたってのに、俺は止めなかった。
---『“あたし”にまた会ったらその時は……導いてあげて、お願い。』
まるで、別人が来るとでも言うような、言葉の選び方。
そして、首に下げていたモノを俺に渡した。
餞別であるかのように。
---「コレ…」
---『ベルに預けておくね、あたしの大事なカギ。』
そして檸檬は、姿を消した。
『ご、ごめんね……あたし、みんなに心配かけて…』
「ストップ。」
『ほえっ…!?』
檸檬の顔が見えないように、
檸檬に顔を見られないように、
強く強く抱きしめた。
『えっ…ちょ、ちょっとベル!?///』
「檸檬、聞いて。」
暴れて逃れようとする檸檬に、腕の力を強めて。
「俺、今の檸檬の顔……知ってんだよ。」
『今の、顔…?』
「泣きそうなのに、我慢してる顔。」
檸檬の抵抗が止まった。
見透かされたことに、驚いたんだと思う。
こんなトコも、この時代の檸檬と同じだ。
そしてきっと、我慢する理由も同じ。
「エース君に言われたっしょ、“他のヤツの前で泣くな”って。」
『な、何で…分かったの…?』
「この時代でも、まるっきりおんなじだったし。」
だから檸檬は我慢する。
泣きたい時は、エース君の傍に行けばいいから。
けど、それが出来なかったら?
今みたいに、“傍に居られないこと”が哀しみの理由だったら?
「檸檬、寂しいならココで泣いてよ。」
『だ、大丈夫だからっ…』
「俺がこうして抱きしめてるの、何でだと思う?」
その問いの答えを見つけられないまま、檸檬は黙る。
「涙、見えないように。」
『え…?』
「ホントは拭ってあげたいけど、見ないから。」
檸檬は優しくて強いけど、
女の子なんだからさ。
「ココで泣いても、無かったことにしとくから。」
『ベル…』
「寂しい時はスッキリするまで付き合うぜ、だって俺王子だし♪」
今だけ、俺を檸檬の泣き場所にしてよ。
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-------
優しい言葉に触れる度、涙腺が刺激される。
ココで泣いたら、それはベルに対する甘えにならない?
恭弥に対する、裏切りにならない?
分からない、分からないよ。
寂しくて、仕方ないんだもの。
早く日本に戻って、恭弥に全部告げたい。
あたしが隠してきたこと、教えなくちゃって思う。
だからそれまで泣かないって、
会えた時の嬉し涙に取っておこうって思ってるのに……
心と反比例するかのように、
ぽろぽろと頬が濡れていく。
『ごめん……ベル、洋服が……』
「気にしないでいーから、あんまり動くと泣き顔見えちまうし。」
『あ、うんっ…』
10年の間で、色々なことが変わったんだと感じた。
あたしがとめどなく涙を流してる時、背中をさするベルの手は、10年前と違う気がした。
止まれ、止まれ。
必死に念じたけど、涙は止められなかった。
自由に涙を止められた昔より、弱くなったのかな……
泣き顔なんて、一番見せたくないのに。
「あのさ檸檬、」
『なに…?』
「檸檬のコト心配してんのは、エース君だけじゃないからね。俺も、ボスも、他の奴らも、檸檬を大事に思ってっから。」
『ベル…』
「だから檸檬、ぜーんぶ我慢すんのは無し。約束だぜ?」
『…………うん、』
頷いて、涙を拭った。
ちょっと、スッキリした。
見上げると、ベルはいつもみたいに笑っていた。
ふわふわした金髪は、王子様のイメージそのものだった。
「そうそう、もいっこ大事な話あんだけど、」
『もう1つ?』
「んーと……コレ!」
ベルは自分の首の後ろに手を回して、さげていた小さめのカギを差し出した。
『コレって…?』
「この時代の檸檬から預かってたカギ。返しとこうと思ってさ。」
『ありがとう…』
それほど古くないカギだった。
もしかしてコレも、未来のあたしが“あたし”を導くためのヒント、なのかな…?
「あー、俺腹減ったなー。檸檬は?」
『えっと…少し……』
「んじゃ一緒に広間行こ、多分まだ他の奴らもいるだろーし。」
『うんっ。』
渡されたカギを首から下げて、あたしはベルと部屋を出た。
「今日は6弔花倒したから、きっと夕飯豪華だぜ♪」
『ホント!?楽しみーっ!』
「オカマはオカマだけど飯はうまいし。」
『そうだよね!ルッスーリアの作るご飯、美味しいもん♪』
お料理に期待しながら廊下を歩いてて、ふと気付く。
あたし、まだベルにちゃんとお礼言ってなかった。
『ねぇベル!』
「ん?」
『あの…ありがとう。』
寂しさを乗り越えて、今こうして笑顔になれたのは、ベルのおかげだから。
「(やっべ、不意打ち…!///)」
『…ベル?』
「な、何でもねぇっ!!早くいこーぜ!」
『あ、うんっ、ちょっと待ってよーっ!!』
スタスタ歩き始めたベルを追って、あたしはちょっと小走りした。
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「つまり……お前達が10年後に来てみたら、ボンゴレにとって酷く荒んだ世界になっていた……」
翌日、並盛地下アジト。
了平がマジックで画用紙に絵を描きながら聞いた話を反復する。
「そこで過去に帰る為元凶であろう男、入江を倒しに行ったら…実は入江は良い奴で……」
紙芝居のようにめくりながら、了平は言う。
「極限に悪いヤツは73を集め世界征服を企む白蘭だと判明!!10日後に奴らを倒さねば過去には帰れぬどころか人類の危機らしい!!妥当白蘭!!妥当真6弔花!!!」
「……というワケだな。」
「ええ……た、多分…」
熱く話し過ぎたせいで若干息を切らす了平に、ツナは軽く返答する。
すると獄寺が悪態をついた。
「てめー、たったこんだけ理解すんのに5時間もかけてんじゃねぇ!」
「何だと!?俺は二転三転する話は二転目までが限界なのだぁ!!」
「自慢することか!!バーカっ!!」
「バカと言った奴がバカなのだ!!」
「いいや!バカな奴がバカだね!!」
机をひっくり返し、言い争いを始める了平と獄寺。
すると、2人の肩を山本がガシッと抑えて。
「まーまー、やっと再会出来たんじゃねーか!仲良くいこーぜ。」
「おめーは安静なんだろーが、すっこんでろ野球バカ!!」
「聞けばセンパイも行方不明になった俺達を探して日本を5周もしてくれたなんて、嬉しーじゃねーか!」
「おかげで身も心も極限にたくましくなったぞ!!」
腕まくりして力こぶを見せる了平。
ボンゴレサイドにとって悪い状況でることには変わりないが、ツナは10年前の了平が来たことにより場が明るくなったと感じていた。
「(俺が言うのも変だけど…若さって凄いな………)」
メローネ基地から地下アジトに帰って一日が経った。
ラルは体調を崩してしまったけど…命に別条はなくて良かった!
獄寺君と山本も…見る限りは元気!
雲雀さんは一人で何処かへ消えてしまって、草壁さんが探しに行ったけど、どうなったのかな?
檸檬とは、ヴァリアーとの無線で話して以来連絡は取れていないけど……向こうで療養してると思う。
それと、昨日貰ったボンゴレ匣は、
メローネ基地の戦いで気力を使い果たしちゃったみたいで強い炎を出せなくて……
結局開匣できなかったんだ。
それに、色んなことがあって気持ちと頭が混乱してた俺達は、
修業に入る前に2日間しっかり休むことにしたんだ。
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「はひ?クロームちゃん、お腹空いてないんですか?」
ハルの質問に、髑髏は箸を持つ手をもじもじさせる。
と、京子が笑顔で言った。
「今食べる気がしないなら無理しなくていいよ。ご飯はお腹空いてる時に食べるのが一番美味しいもんね。」
その言葉に、髑髏は顔を紅潮させて静かに立ち上がる。
「…私……部屋に…」
「だったらお茶飲んでいきません?美味しい紅茶が…」
ハルの台詞が終わらないうちに、髑髏はキッチンから飛び出して行ってしまった。
「帰ってから何も食べてないけど、大丈夫かな…」
「というか、大人しくて変わった子です…」
「ふふっ…優しくされて、どうしていいのか分からないのよ。」
ビアンキが京子とハルに教える。
髑髏は、最近まで自分が1人だと思って生きて来たのだと。
それゆえ、無条件に受け入れられることなど考えたこともなかったハズだと。
「だから、京子やハルが自然にしてあげることも、あの子にはカルチャーショックなのよ。」
信じられない事実に言葉を失う京子とハル、そしてイーピン。
しかしビアンキは微笑んで最後に付け足す。
「でも優しい子よ、変わらず接してあげて。」
「「はい!」」
そこに、話を終えたツナ達がやって来る。
「俺達もそろそろご飯にするよ。」
「せっかくのオフがてめーのせいで潰れるぜ。」
「黙らんか!!」
未だに言い合いを続ける獄寺と了平。
そんな中ビアンキがツナに話しかける。
「この後のことで相談があるんだけど。」
「ふげっ!」
「獄寺君!あ、ビアンキゴーグルつけて!!」
「ごめんあそばせ♪」
「獄寺は姉を見ると気絶するのだったな。」
何とか持ち直した獄寺。
ビアンキの相談とは、京子とハルを地上散策に連れていきたい、ということだった。
レーダーに何も映らなくなった今なら、安全であろうと踏んだのだ。
「でも…」
「だったら俺達も一緒に行こうぜ、護衛っつーかさ。」
「…それなら、」
「ついでに入江さんに差し入れ持ってったら?昨日から不眠不休で働いてるらしいよ。」
フゥ太がそう提案し、ツナ達は外へ行く準備を始めた。
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「正一、装置を隠す掘削ルートの目途がたった。あとは嵐モグラで掘るだけだ。」
「いいね、助かるよスパナ!」
「装置自体も問題なく作動してる………綱吉君達と同時期に入れ替わった彼も、そろそろ来るはずだ。」
“彼”というのが何者か分からないスパナは、疑問符を浮かべる。
一方正一は思い出したように頭を掻いた。
「とは言っても、白蘭サンとの戦い…問題山積みだな……」
-「一体何で勝負するんだ?」
声と共にパッと現れたのは、ホログラムのリボーンだった。
ツナが自分のヘッドホンを置いて行ったのだとスパナが言う。
-「ちゃおっス。」
「リボーンさんか。ちゃ…ちゃおっス…!」
-「白蘭が力比べで10日後にやると言っていた、チョイスってのは何なんだ?」
「チョイスね………学生の頃、僕らの間で流行ってた自作ゲームのことなんだ…」
-「ゲーム?」
「そう…戦争のね。」
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「ワクワクです♪ケーキ屋さんが10年たってどうチェンジしてるか楽しみですね!」
「新メニュー増えてるかなー!」
エレベーターの中、そんな会話をする京子とハルの後ろで、ツナは1人重い空気を感じていた。
原因は、先ほどのビアンキとの会話。
---「ちょっとツナ、いい?」
---「なーに?ビアンキ、呼び出したりして。」
---「あの子達が本当に地上に出たい理由、分かる?」
---「へ?」
---「自分の家に行きたいのよ。」
---「え!?で…でも今行っても……」
---「ええ…恐ろしい現実が待ってるかも知れないわ……でももう引き留める理由が無いのよ!」
そこでビアンキはガシッとツナの肩を掴んで。
---「しっかりフォローしてあげてね。」
---「い"っ!?お、俺が!?」
---「あなたボスでしょ!!」
---「い"っ…」
---「こっちの事情に詳しい檸檬がいれば任せられる面もあるんだけど…」
---「檸檬に?けど、檸檬は今…」
---「だからツナ、任せたわよ!!」
---「そ、そんなぁ~!」
本当は行くのを止めるべきだと分かっていても、
家族に会いたい気持ちは痛いほど分かるのだ。
ツナには無理に止めることも出来ない。
と、その時。
ヴーッ、ヴーッ、
「何だ!?」
突如止まったエレベーター。
ジャンニーニの声が聞こえて来る。
-「Aハッチでリング反応です!!ミルフィオーレの可能性もあります!!」
「10代目!!」
「見に行くべきじゃねーか?」
「そうだね……ちょっと行って来るね!」
京子とハルを残し、走りだそうとしたツナ。
しかしふっと振り返って。
「だ…大丈夫だよ、すぐ戻って来るから。そしたら行きたい場所へ行こう!」
「ツナさん…」
「ツナ君…」
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地上に出たツナ達は、リングの反応があった地点に向かった。
「この辺りだね。」
「間違いありません。」
と、その時、
ガサッという音に反応したツナが上を見ると、真っ直ぐに落ちて来る人影が。
「え、ちょ、どーしよ………でっ!」
「ぐっ、」
「あたーーーーっ!!」
「沢田!!」
「大丈夫かツナ!!」
頭同士が大激突し、うずくまるツナ。
相手の方もうつ伏せで倒れる。
「申し訳ありません……沢田…殿……」
「ああ!き、君は…」
「助太刀に参りました!!」
「バジル君!!!」
一度は起き上がったものの、再び倒れてしまうバジル。
「こいつ、俺達の知ってる10年前のバジルっス!!」
「おい、大丈夫か!?」
「情けない話ですが…体に力が……」
「何か欲しいの!?水!?」
「出来れば……おむ…すび…を…」
こうしてツナ達は、新たな仲間と合流した。
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イタリア、ヴァリアーのアジトにて。
『ん……』
自室で眠っていた檸檬は、大きく背伸びをした。
隣の部屋にはスクアーロがいたため、安眠できたようだ。
『…そうだ、探さなくちゃ。』
昨日ベルから貰い、首に下げていたカギを見て呟く。
白蘭との戦いまで10日。
それはすなわち……檸檬が妹と決着をつけるまでのタイムリミットでもあるのだ。
『(もしコレがあたしへのヒントだとしたら……この部屋の何処かにピッタリのカギ穴があるハズなんだけど…)』
キョロキョロしても、見当たらない。
檸檬は頭を捻って考える。
もし自分が隠す立場だったら、何処にソレをしまっておくか。
『“あたし”の思考回路だし、分かるハズなんだけどな……』
バンバン!
「う"お"ぉい檸檬!!朝飯だぞぉ!!」
『あっ、はいはーい!』
ガチャ、
『おはようアロちゃんっ♪』
「お、おぅ…」
『広間だよねっ、一緒に行こ!』
「てっ…手ぇ引っ張んなぁ!!」
檸檬が広間のドアを開けると、ちょうど出ようとしているフランとぶつかりそうになった。
『わっ…と!』
「あ、檸檬さん。おはようございま-す。」
『おはようフラン!何処行くの?』
「堕王子を起こしに……酷いんですよねー、そーゆー雑用全部ミーに押し付けて。」
「てめぇは新米なんだからそれぐらい当然だろーがぁ!!」
檸檬の後ろから反論するスクアーロ。
それに舌打ちするフランを見て、檸檬が言った。
『じゃあ、あたしも行くよ。』
「ホントですかー?助かりますー。」
『アロちゃん、先に座ってて。』
「おぅ…」
フランと一緒にベルの部屋に向かう檸檬。
コンコン、
「ベルセンパーイ、朝ですよー。」
『ベールー、起きてるー?』
試しに透視を使って見てみると……
『あ、起き上がった。』
「え……最速記録なんですけどー、」
バンッ、
「てめーカエル!何で檸檬と一緒に来てんだよ!!死ね!!」
ドシュドシュドシュッ、
「……こーなると思いましたー。おはよーございます、寝坊堕王子。」
「誰が堕王子だっ!」
ドシュドシュッ、
『べ、ベル!もうダメ!てゆーかフラン、大丈夫!?』
「檸檬さん優しいですねー、惚れそうですー。」
『へっ?』
「ふっざけんな!!」
『だからベル!ダメだってばー!』
更に多くのナイフを構えるベルの手を、必死に抑える檸檬。
起こす役目が終わったから、と広間に戻っていくフラン。
憎らしそうに不満オーラを放つベル。
ヴァリアーの朝は、ちょっとした喧嘩を経て始まった。
檸檬はさ、信頼しきった仲間にも泣いてるトコ隠すんだ。
10年前から、ずっとそう。
バレバレだってのに、笑って誤魔化して。
コンコン、
「檸檬、いる?」
だから…
俺は、そんな檸檬の泣き場所になれたらって思った。
少なくとも、エース君がいない時は。
休息
『ベル…?』
「うん、ちょっと話があんだけど。」
そう言うと、少し躊躇いがちにドアが開いて檸檬が顔を覗かせた。
あーやっぱり、泣き顔の一歩手前の顔だ。
『どんな…?今じゃなきゃ、ダメ?』
「大事な話、今がいい。」
『……分かった、ちょっと待ってね。』
暗めにしていた部屋の明かりをパチッとつけて、檸檬は俺を招き入れた。
『えっと、そこのソファでいい?』
「全然オッケー♪」
『お茶とか…』
「いーから檸檬、ココ座って。」
『へ?……うん、分かった。』
ぽすっと隣に座った檸檬は、不思議そうに俺を見上げる。
その頭を撫でながら、口を開いた。
「あんね檸檬、一番最初に言っとくけど、」
『うん。』
「俺はずっと檸檬が大好きで、それはこれからも変わらない。」
『えっ……で、でもあたし、』
「別にエース君消そうとか思ってんじゃなくて、要は……檸檬が捕まって、すんげー心配したってこと。」
ボンゴレ本部壊滅の、6日前。
俺が、捕まる前の檸檬を最後に見た日。
---『あたし、ちょっと行って来る……未来のために。』
---「檸檬…?」
様子がおかしかったのに、思いつめた表情してたってのに、俺は止めなかった。
---『“あたし”にまた会ったらその時は……導いてあげて、お願い。』
まるで、別人が来るとでも言うような、言葉の選び方。
そして、首に下げていたモノを俺に渡した。
餞別であるかのように。
---「コレ…」
---『ベルに預けておくね、あたしの大事なカギ。』
そして檸檬は、姿を消した。
『ご、ごめんね……あたし、みんなに心配かけて…』
「ストップ。」
『ほえっ…!?』
檸檬の顔が見えないように、
檸檬に顔を見られないように、
強く強く抱きしめた。
『えっ…ちょ、ちょっとベル!?///』
「檸檬、聞いて。」
暴れて逃れようとする檸檬に、腕の力を強めて。
「俺、今の檸檬の顔……知ってんだよ。」
『今の、顔…?』
「泣きそうなのに、我慢してる顔。」
檸檬の抵抗が止まった。
見透かされたことに、驚いたんだと思う。
こんなトコも、この時代の檸檬と同じだ。
そしてきっと、我慢する理由も同じ。
「エース君に言われたっしょ、“他のヤツの前で泣くな”って。」
『な、何で…分かったの…?』
「この時代でも、まるっきりおんなじだったし。」
だから檸檬は我慢する。
泣きたい時は、エース君の傍に行けばいいから。
けど、それが出来なかったら?
今みたいに、“傍に居られないこと”が哀しみの理由だったら?
「檸檬、寂しいならココで泣いてよ。」
『だ、大丈夫だからっ…』
「俺がこうして抱きしめてるの、何でだと思う?」
その問いの答えを見つけられないまま、檸檬は黙る。
「涙、見えないように。」
『え…?』
「ホントは拭ってあげたいけど、見ないから。」
檸檬は優しくて強いけど、
女の子なんだからさ。
「ココで泣いても、無かったことにしとくから。」
『ベル…』
「寂しい時はスッキリするまで付き合うぜ、だって俺王子だし♪」
今だけ、俺を檸檬の泣き場所にしてよ。
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優しい言葉に触れる度、涙腺が刺激される。
ココで泣いたら、それはベルに対する甘えにならない?
恭弥に対する、裏切りにならない?
分からない、分からないよ。
寂しくて、仕方ないんだもの。
早く日本に戻って、恭弥に全部告げたい。
あたしが隠してきたこと、教えなくちゃって思う。
だからそれまで泣かないって、
会えた時の嬉し涙に取っておこうって思ってるのに……
心と反比例するかのように、
ぽろぽろと頬が濡れていく。
『ごめん……ベル、洋服が……』
「気にしないでいーから、あんまり動くと泣き顔見えちまうし。」
『あ、うんっ…』
10年の間で、色々なことが変わったんだと感じた。
あたしがとめどなく涙を流してる時、背中をさするベルの手は、10年前と違う気がした。
止まれ、止まれ。
必死に念じたけど、涙は止められなかった。
自由に涙を止められた昔より、弱くなったのかな……
泣き顔なんて、一番見せたくないのに。
「あのさ檸檬、」
『なに…?』
「檸檬のコト心配してんのは、エース君だけじゃないからね。俺も、ボスも、他の奴らも、檸檬を大事に思ってっから。」
『ベル…』
「だから檸檬、ぜーんぶ我慢すんのは無し。約束だぜ?」
『…………うん、』
頷いて、涙を拭った。
ちょっと、スッキリした。
見上げると、ベルはいつもみたいに笑っていた。
ふわふわした金髪は、王子様のイメージそのものだった。
「そうそう、もいっこ大事な話あんだけど、」
『もう1つ?』
「んーと……コレ!」
ベルは自分の首の後ろに手を回して、さげていた小さめのカギを差し出した。
『コレって…?』
「この時代の檸檬から預かってたカギ。返しとこうと思ってさ。」
『ありがとう…』
それほど古くないカギだった。
もしかしてコレも、未来のあたしが“あたし”を導くためのヒント、なのかな…?
「あー、俺腹減ったなー。檸檬は?」
『えっと…少し……』
「んじゃ一緒に広間行こ、多分まだ他の奴らもいるだろーし。」
『うんっ。』
渡されたカギを首から下げて、あたしはベルと部屋を出た。
「今日は6弔花倒したから、きっと夕飯豪華だぜ♪」
『ホント!?楽しみーっ!』
「オカマはオカマだけど飯はうまいし。」
『そうだよね!ルッスーリアの作るご飯、美味しいもん♪』
お料理に期待しながら廊下を歩いてて、ふと気付く。
あたし、まだベルにちゃんとお礼言ってなかった。
『ねぇベル!』
「ん?」
『あの…ありがとう。』
寂しさを乗り越えて、今こうして笑顔になれたのは、ベルのおかげだから。
「(やっべ、不意打ち…!///)」
『…ベル?』
「な、何でもねぇっ!!早くいこーぜ!」
『あ、うんっ、ちょっと待ってよーっ!!』
スタスタ歩き始めたベルを追って、あたしはちょっと小走りした。
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「つまり……お前達が10年後に来てみたら、ボンゴレにとって酷く荒んだ世界になっていた……」
翌日、並盛地下アジト。
了平がマジックで画用紙に絵を描きながら聞いた話を反復する。
「そこで過去に帰る為元凶であろう男、入江を倒しに行ったら…実は入江は良い奴で……」
紙芝居のようにめくりながら、了平は言う。
「極限に悪いヤツは73を集め世界征服を企む白蘭だと判明!!10日後に奴らを倒さねば過去には帰れぬどころか人類の危機らしい!!妥当白蘭!!妥当真6弔花!!!」
「……というワケだな。」
「ええ……た、多分…」
熱く話し過ぎたせいで若干息を切らす了平に、ツナは軽く返答する。
すると獄寺が悪態をついた。
「てめー、たったこんだけ理解すんのに5時間もかけてんじゃねぇ!」
「何だと!?俺は二転三転する話は二転目までが限界なのだぁ!!」
「自慢することか!!バーカっ!!」
「バカと言った奴がバカなのだ!!」
「いいや!バカな奴がバカだね!!」
机をひっくり返し、言い争いを始める了平と獄寺。
すると、2人の肩を山本がガシッと抑えて。
「まーまー、やっと再会出来たんじゃねーか!仲良くいこーぜ。」
「おめーは安静なんだろーが、すっこんでろ野球バカ!!」
「聞けばセンパイも行方不明になった俺達を探して日本を5周もしてくれたなんて、嬉しーじゃねーか!」
「おかげで身も心も極限にたくましくなったぞ!!」
腕まくりして力こぶを見せる了平。
ボンゴレサイドにとって悪い状況でることには変わりないが、ツナは10年前の了平が来たことにより場が明るくなったと感じていた。
「(俺が言うのも変だけど…若さって凄いな………)」
メローネ基地から地下アジトに帰って一日が経った。
ラルは体調を崩してしまったけど…命に別条はなくて良かった!
獄寺君と山本も…見る限りは元気!
雲雀さんは一人で何処かへ消えてしまって、草壁さんが探しに行ったけど、どうなったのかな?
檸檬とは、ヴァリアーとの無線で話して以来連絡は取れていないけど……向こうで療養してると思う。
それと、昨日貰ったボンゴレ匣は、
メローネ基地の戦いで気力を使い果たしちゃったみたいで強い炎を出せなくて……
結局開匣できなかったんだ。
それに、色んなことがあって気持ちと頭が混乱してた俺達は、
修業に入る前に2日間しっかり休むことにしたんだ。
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「はひ?クロームちゃん、お腹空いてないんですか?」
ハルの質問に、髑髏は箸を持つ手をもじもじさせる。
と、京子が笑顔で言った。
「今食べる気がしないなら無理しなくていいよ。ご飯はお腹空いてる時に食べるのが一番美味しいもんね。」
その言葉に、髑髏は顔を紅潮させて静かに立ち上がる。
「…私……部屋に…」
「だったらお茶飲んでいきません?美味しい紅茶が…」
ハルの台詞が終わらないうちに、髑髏はキッチンから飛び出して行ってしまった。
「帰ってから何も食べてないけど、大丈夫かな…」
「というか、大人しくて変わった子です…」
「ふふっ…優しくされて、どうしていいのか分からないのよ。」
ビアンキが京子とハルに教える。
髑髏は、最近まで自分が1人だと思って生きて来たのだと。
それゆえ、無条件に受け入れられることなど考えたこともなかったハズだと。
「だから、京子やハルが自然にしてあげることも、あの子にはカルチャーショックなのよ。」
信じられない事実に言葉を失う京子とハル、そしてイーピン。
しかしビアンキは微笑んで最後に付け足す。
「でも優しい子よ、変わらず接してあげて。」
「「はい!」」
そこに、話を終えたツナ達がやって来る。
「俺達もそろそろご飯にするよ。」
「せっかくのオフがてめーのせいで潰れるぜ。」
「黙らんか!!」
未だに言い合いを続ける獄寺と了平。
そんな中ビアンキがツナに話しかける。
「この後のことで相談があるんだけど。」
「ふげっ!」
「獄寺君!あ、ビアンキゴーグルつけて!!」
「ごめんあそばせ♪」
「獄寺は姉を見ると気絶するのだったな。」
何とか持ち直した獄寺。
ビアンキの相談とは、京子とハルを地上散策に連れていきたい、ということだった。
レーダーに何も映らなくなった今なら、安全であろうと踏んだのだ。
「でも…」
「だったら俺達も一緒に行こうぜ、護衛っつーかさ。」
「…それなら、」
「ついでに入江さんに差し入れ持ってったら?昨日から不眠不休で働いてるらしいよ。」
フゥ太がそう提案し、ツナ達は外へ行く準備を始めた。
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「正一、装置を隠す掘削ルートの目途がたった。あとは嵐モグラで掘るだけだ。」
「いいね、助かるよスパナ!」
「装置自体も問題なく作動してる………綱吉君達と同時期に入れ替わった彼も、そろそろ来るはずだ。」
“彼”というのが何者か分からないスパナは、疑問符を浮かべる。
一方正一は思い出したように頭を掻いた。
「とは言っても、白蘭サンとの戦い…問題山積みだな……」
-「一体何で勝負するんだ?」
声と共にパッと現れたのは、ホログラムのリボーンだった。
ツナが自分のヘッドホンを置いて行ったのだとスパナが言う。
-「ちゃおっス。」
「リボーンさんか。ちゃ…ちゃおっス…!」
-「白蘭が力比べで10日後にやると言っていた、チョイスってのは何なんだ?」
「チョイスね………学生の頃、僕らの間で流行ってた自作ゲームのことなんだ…」
-「ゲーム?」
「そう…戦争のね。」
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「ワクワクです♪ケーキ屋さんが10年たってどうチェンジしてるか楽しみですね!」
「新メニュー増えてるかなー!」
エレベーターの中、そんな会話をする京子とハルの後ろで、ツナは1人重い空気を感じていた。
原因は、先ほどのビアンキとの会話。
---「ちょっとツナ、いい?」
---「なーに?ビアンキ、呼び出したりして。」
---「あの子達が本当に地上に出たい理由、分かる?」
---「へ?」
---「自分の家に行きたいのよ。」
---「え!?で…でも今行っても……」
---「ええ…恐ろしい現実が待ってるかも知れないわ……でももう引き留める理由が無いのよ!」
そこでビアンキはガシッとツナの肩を掴んで。
---「しっかりフォローしてあげてね。」
---「い"っ!?お、俺が!?」
---「あなたボスでしょ!!」
---「い"っ…」
---「こっちの事情に詳しい檸檬がいれば任せられる面もあるんだけど…」
---「檸檬に?けど、檸檬は今…」
---「だからツナ、任せたわよ!!」
---「そ、そんなぁ~!」
本当は行くのを止めるべきだと分かっていても、
家族に会いたい気持ちは痛いほど分かるのだ。
ツナには無理に止めることも出来ない。
と、その時。
ヴーッ、ヴーッ、
「何だ!?」
突如止まったエレベーター。
ジャンニーニの声が聞こえて来る。
-「Aハッチでリング反応です!!ミルフィオーレの可能性もあります!!」
「10代目!!」
「見に行くべきじゃねーか?」
「そうだね……ちょっと行って来るね!」
京子とハルを残し、走りだそうとしたツナ。
しかしふっと振り返って。
「だ…大丈夫だよ、すぐ戻って来るから。そしたら行きたい場所へ行こう!」
「ツナさん…」
「ツナ君…」
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地上に出たツナ達は、リングの反応があった地点に向かった。
「この辺りだね。」
「間違いありません。」
と、その時、
ガサッという音に反応したツナが上を見ると、真っ直ぐに落ちて来る人影が。
「え、ちょ、どーしよ………でっ!」
「ぐっ、」
「あたーーーーっ!!」
「沢田!!」
「大丈夫かツナ!!」
頭同士が大激突し、うずくまるツナ。
相手の方もうつ伏せで倒れる。
「申し訳ありません……沢田…殿……」
「ああ!き、君は…」
「助太刀に参りました!!」
「バジル君!!!」
一度は起き上がったものの、再び倒れてしまうバジル。
「こいつ、俺達の知ってる10年前のバジルっス!!」
「おい、大丈夫か!?」
「情けない話ですが…体に力が……」
「何か欲しいの!?水!?」
「出来れば……おむ…すび…を…」
こうしてツナ達は、新たな仲間と合流した。
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イタリア、ヴァリアーのアジトにて。
『ん……』
自室で眠っていた檸檬は、大きく背伸びをした。
隣の部屋にはスクアーロがいたため、安眠できたようだ。
『…そうだ、探さなくちゃ。』
昨日ベルから貰い、首に下げていたカギを見て呟く。
白蘭との戦いまで10日。
それはすなわち……檸檬が妹と決着をつけるまでのタイムリミットでもあるのだ。
『(もしコレがあたしへのヒントだとしたら……この部屋の何処かにピッタリのカギ穴があるハズなんだけど…)』
キョロキョロしても、見当たらない。
檸檬は頭を捻って考える。
もし自分が隠す立場だったら、何処にソレをしまっておくか。
『“あたし”の思考回路だし、分かるハズなんだけどな……』
バンバン!
「う"お"ぉい檸檬!!朝飯だぞぉ!!」
『あっ、はいはーい!』
ガチャ、
『おはようアロちゃんっ♪』
「お、おぅ…」
『広間だよねっ、一緒に行こ!』
「てっ…手ぇ引っ張んなぁ!!」
檸檬が広間のドアを開けると、ちょうど出ようとしているフランとぶつかりそうになった。
『わっ…と!』
「あ、檸檬さん。おはようございま-す。」
『おはようフラン!何処行くの?』
「堕王子を起こしに……酷いんですよねー、そーゆー雑用全部ミーに押し付けて。」
「てめぇは新米なんだからそれぐらい当然だろーがぁ!!」
檸檬の後ろから反論するスクアーロ。
それに舌打ちするフランを見て、檸檬が言った。
『じゃあ、あたしも行くよ。』
「ホントですかー?助かりますー。」
『アロちゃん、先に座ってて。』
「おぅ…」
フランと一緒にベルの部屋に向かう檸檬。
コンコン、
「ベルセンパーイ、朝ですよー。」
『ベールー、起きてるー?』
試しに透視を使って見てみると……
『あ、起き上がった。』
「え……最速記録なんですけどー、」
バンッ、
「てめーカエル!何で檸檬と一緒に来てんだよ!!死ね!!」
ドシュドシュドシュッ、
「……こーなると思いましたー。おはよーございます、寝坊堕王子。」
「誰が堕王子だっ!」
ドシュドシュッ、
『べ、ベル!もうダメ!てゆーかフラン、大丈夫!?』
「檸檬さん優しいですねー、惚れそうですー。」
『へっ?』
「ふっざけんな!!」
『だからベル!ダメだってばー!』
更に多くのナイフを構えるベルの手を、必死に抑える檸檬。
起こす役目が終わったから、と広間に戻っていくフラン。
憎らしそうに不満オーラを放つベル。
ヴァリアーの朝は、ちょっとした喧嘩を経て始まった。