未来編①
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敵のトップだった彼が告げる、本当の目的……
あたし達は、驚くことしか出来なかった…。
真相
「俺達の、味方だって!!?」
「う、うん…そうなんだ…」
その場にいる全員が入江さんに目を向け、唖然とした。
彼は普段の行動を部下とカメラによって白蘭に筒抜けにされていたらしい。
それが、今回あたし達の殴り込みで機器が破壊され、立場を気にせず話せる状態になった……と。
「ずっとこの時を待ってたんだよ……この基地・状況での出会い方こそ、僕らの設定したゴールだったんだから。」
「ゴール…?」
『“僕ら”って…』
「な…何言ってやがる!!」
入江さんは、ボンゴレリングを奪おうとするミルフィオーレに協力する一方で、
自分を標的にしてあたし達がこの基地に乗り込むように仕組んでいたそうだ。
「君達を鍛えて、強くなってもらうためにね。」
黙りこむあたし達に謝罪をしてから、それでもこの戦いは必要だったと主張する。
“これから来る戦い”……
そう、彼は言った。
「ふざけんな!!作り話に決まってるぜ!!てめーがヤバくなって来たんで、俺達を丸めこもうってんだな!!」
「獄寺の言う通りだ!!そんな話、信じられるか!!」
『隼人、ラル、待って。入江さん、嘘ついてない……』
「なっ…!」
檸檬の言葉に、獄寺とラルは詰まった。
入江の方は、慌ててそちらに目を向ける。
「透視、かい…?」
『突拍子なさすぎて、信じられない……けど、貴方の脳波は嘘をついてない…』
「あぁ、ありがとう…だけどあまり無理をしないでくれ、檸檬さん。軽くリバウンドが来始めてるだろうから…」
入江が自分を労わったため、檸檬は少し目を丸くした。
そして、確信する。
やはり彼は、嘘をついていないと。
「君達を殺そうと思えば、もっと早く殺せたさ……」
全員一気に入れ替えることも、
基地を早く動かすことも出来た。
だがそれをしなかったのは、ボンゴレ側に経験を積ませるため。
「だからこそ焦ったよ……まさか檸檬さん、君が被弾してしまうなんてね…」
『さっきから不思議に思ってたけど…一体どうして?この時代のあたしがミルフィオーレに捕まったままの方が良かったから?』
「間違っちゃいないけど、君にはイタリアに居て欲しかったんだ。」
『イタリア…?』
「てめー…どーゆーことだ!?」
頭を掻きながら入江は答える。
「つまり…檸檬さんは被弾してもしなくても、イタリアに居てくれれば良かったってことなんだ……。そうすれば、蜜柑さんがイタリアに留まるから。」
『あ……』
檸檬の捕獲を最優先にして動いている蜜柑。
もし檸檬が日本に逃げれば、当然蜜柑も来日する。
「予想外だったんだよ、蜜柑さんの来日は……何せ、白蘭サンに最も忠実な部下と言っても過言じゃない。」
日本で檸檬の捕獲が完了してしまえば、当然蜜柑の次の矛先はツナ達に向く。
そうなれば、誰も蜜柑を退けられない。
「檸檬さんが蜜柑さんと互角の戦いを繰り広げられるほど強くなっていたのが、本当に唯一の救いだったよ…」
『(互角………ううん、違う…)』
蜜柑との戦闘時のことを思い出す。
恭弥のハリネズミが暴走しないで、あのまま戦いを続けていたら…
あたしは、負けてた。
「そうだ、それともう一つ。守護者じゃないイーピン・笹川京子・三浦ハルも過去から連れて来たのも、僕らの計画だ。」
ピクリと反応したツナに、入江さんは言った。
「人は守るモノがあると強くなれる。そのために必要だと判断したんだ。現に……」
「そんな…!!そんな理由で!!」
次の瞬間、ツナが入江さんの胸倉を掴んで怒鳴った。
「もし京子ちゃん達に何かあったらどーするんだ!!京子ちゃん達だけじゃない!鍛えられる前に…皆この戦いで死んでたかもしれないんだぞ!!」
『ツナ…』
けど、入江さんからは残酷な言葉が返って来る。
「………その場合は…それで仕方ないんだよ……」
「んだと!」
「…そんな、」
「うぅ~ん………僕だって一生懸命やってるよ!!蜜柑さんの他にも予想外なことがたくさんあって大変だったんだぞ!!これは君達が思ってるほど小さい問題じゃないんだ!!」
糸がぷつっと切れたかのように、彼は大声で吐き出した。
「それにこの計画は、この時代の君の意志でもあるんだ!綱吉君!!」
「俺の…!?」
「この計画は絶対にバレないように、僕と10年後の君と10年後の雲雀恭弥の3人だけの秘密だったんだ。」
『えっ…恭弥も…?』
「この時代の雲雀君がこちらの奇襲を予測出来たのも、そのためなんだ。」
「なんと…!」
恭弥が関わっていたことも驚きだったけど、
草壁さんすらそれを知らなかったって事に、あたしは一層驚いた。
入江さんは続ける。
「10年後の君は、関係ない仲間を巻き込むことには最後まで躊躇していたが、最終的に過去の自分達の成長に必要だと了承したんだ。」
「そっ…そんなぁ……お、俺が…?」
想定外の事実に、ツナは呆然として入江さんのシャツから手を放した。
けど今度はラルが反論する。
「ありえん!!沢田の性格は知っている!!」
「そーだ!10代目はチビを巻き込んだりしない!!」
「あ~も~っ…それぐらいヤバい状況ってことでしょ!?話の流れで察してくれよ!!」
「…ぷっ………正一、逆ギレ…」
再び頭を掻き毟りながら怒鳴る入江さんを見て、リボーンの隣にいるつなぎを着た人が軽く吹き出した。
『(誰だろ…?)』
「とにかく、全てを賭けて対処しないと君達は仲間ごと全滅しちゃうんだって!!それどころか……人類の危機なんだぞ!!」
「人類の…危機……?」
「それと、これから来る戦いが関係してくるんだな?」
疑問符を浮かべるツナに対して、リボーンが冷静に返した。
「え?あ…うん……」
「リボーン…!?」
「俺は信じてやってもいいと思ってるぞ。」
やっぱり、リボーンが頼りになる一流ヒットマンであることに変わりはないんだ。
その一言で、あたしも少しだけ安心し始めてる。
「俺が感じてた疑問の答えとしては、今んとこ辻褄が合ってるからな。それに……入江は嘘ついてねぇんだろ?檸檬。」
『うんっ。』
「リボーンさん…檸檬……」
隼人は軽くテンパったみたいだけど、入江さんはあたし達の擁護に礼を返した。
「そうなんだ、君達の敵となるのは……白蘭サンだ。」
「やっぱり………あ…!」
ツナは自分が無意識にこぼした一言に吃驚してた。
けどあたしも、その名を聞いた瞬間妙に納得できた。
『(蜜柑が…あんなに強い忠誠を誓ってる存在……)』
それはつまり、それほどの脅威を持ち合わせている存在だってこと。
白蘭の目的は、73を集めて世界を自分のものにすること。
入江さんが言ってた73ポリシーってのは、その意志を指すそうだ。
「もしそれが達成されれば今の比じゃない地獄絵図を見ることになる……自分の思い通りにならない人間・集団・国までも抹殺するだろう…」
目的のためなら手段を選ばない……
白蘭の人間像が、少しだけ窺える。
「だとすると1つわかんねーな。何で今まで白蘭に手を貸して来たんだ?」
「ん?」
『確かに…ツナ達を連れて来なければ、白蘭はボンゴレリングを手に入れることができないハズ!』
「…うん、一時的にはね……。でも僕の手を使わずとも彼はいずれ君達を未来に連れて来る……」
更にもう一つ、入江さんがこのやり方にこだわった理由があるという。
「彼を止められるのはこの時代だけ……今、この時代に倒すしか、白蘭サンの能力を封じる手は無い!!」
「『能力!?』」
「説明すると長くなるが…………あっ!忘れてた!!」
白蘭の能力の説明が聞けるかと思ったら、入江さんはまた頭を抱える。
「ボンゴレ基地に何か連絡は?」
「ないぞ。」
「う…また緊張してきた……」
「どうか…したんですか…?」
お腹を抱えて座り込む入江に、ツナが尋ねる。
どうやら入江さんは、精神的圧力が腹痛になる体質みたい。
「君達の到着が白蘭サンを倒す為の1つ目の賭けだった。それを第1段階だとすると、クリアすべき第2段階があるんだ!!」
「え!?まだ戦うの?」
「いや…違うよ。君達にはしばらく傷を癒してもらうつもりだ。もっとも、それが出来るかは第2段階次第だけど…」
「何なんだ?その第2段階って。」
リボーンの問いかけに、入江さんは説明した。
そもそも、あたし達のメローネ基地侵入は、ボンゴレの総攻撃の一部。
その大規模な攻撃作戦が失敗すると全ては一気に難しくなるそうだ。
「一番のカギとなるのは……イタリアの主力戦だ。」
---
------
-------------
深い森の中に佇む、石造りの古城。
その至る所から大きな旗が立ち、風に靡いていた。
書いてある言葉は、“Squadra killer autonoma di Vongole IX”……
“ボンゴレ9代目直属 独立暗殺部隊”
また、小さくはためく手製の旗もあった。
“Lo non riconosco il Xattuale!”…
“俺は今の10代目は認めない!”と主張している。
それを見て、楽しそうな声をあげる者が1人。
「んまぁ素敵な旗vVレヴィったらココまでしてボスのご機嫌取ったりして~♪」
しかし、後に続いたのはけなす声。
「しししっ、相変わらずムッツリしたオヤジだぜ。」
「ぬっ、」
「う"お"ぉい!!」
言い争いが始まりそうになったその時、遮るかのような一声。
古城の柵に足をかけ、彼は続ける。
「そろそろおっぱじめるぜぇ!!」
そこに集まっていたのは、ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーの幹部達だった。
スクアーロ、レヴィ、ルッスーリア、ベル、そして10年前にはいなかった新しい幹部が並び、
黒い煙の向こうを見つめていた。
---
-------
-------------
『主力戦って…もしかして、』
「あぁ、そうだよ。恐らくヴァリアーがこちら側の最大戦力になるだろう。」
“ヴァリアー”の単語を聞いた途端、檸檬をはじめ、全員が目を丸くした。
「つーか入江、いい加減俺達をココから出せよ。」
「あぁごめん!待って、今開けるよ!」
『(ホントに、いい人なのかも…)』
自分の透視を疑うワケじゃないけど、
やっぱり敵の基地の指揮官が急にボンゴレ側だって言うのは信じがたかった。
でも今の入江さんは…完全に協力態勢になってる。
「檸檬さん、お体は…」
『ありがとうございます、大丈夫です。』
心配してくれた草壁さんに、笑顔を返す。
と、恭弥がムッとしてあたしを抱き寄せた。
『恭弥…?』
「こんな怪我と出血で、よく大丈夫なんて言えるね。」
『あー……待って!今軽減させるから。』
ポケットに残ってた2本の神経麻痺剤のうち、1本を投与した。
「何、それ。」
『魔法の薬だよ♪』
「真面目に答えてよ。」
『元気になる薬、ホントだよ?』
実際あたしの発作が収まったから、恭弥は一応納得したようだった。
と、ココで入江さんがあたしに歩み寄る。
「檸檬さん、実は…」
「何。」
「わっ!」
『きょ、恭弥っ、殺気放つの無し!』
あたしの前に立って入江さんにガンを飛ばす恭弥。
その腕を掴んで、あたしは聞き返す。
『あたしに、何か…?』
「言うべきか迷ったんだけど、言っておくよ。君はもともと、イタリアの戦力として計算されてたんだ。」
『えっ…!?』
髪を掻きあげながら、入江さんは目を逸らす。
「この時代の君がイタリアで捕らえられてたことは知ってると思う。だから僕らは、イタリア主力戦に別名をつけてた。」
「別名…?」
疑問符を浮かべる草壁さんに、頷く入江さん。
「“ダーク奪還戦”だ。」
「……ねぇ君、死にたいの?」
「えっ!?あ、ご、ごめん!!そんなつもりは…」
『恭弥、いいの。入江さんも、気にしないで下さい……』
ただの通り名……頭では理解して納得したつもり。
だけど…
恭弥が怒ってくれて、ちょっと嬉しかった。
「ホントにごめん……白蘭サンに怪しまれないようにって呼び方変えてたんだ……もう、使わないよ。」
『あ、ありがとうございますっ。それで…』
「そうだ、つまりは……捕らえられてる檸檬さんを救出して、そのままイタリアの戦力に…と考えてたんだ。」
『あたしが、イタリア主力戦の戦力!?』
だとしたら、どれだけ計画を狂わせてしまったんだろう。
入れ替わって脱出したあたしが、がむしゃらに空間移動で日本に来ちゃったせいで…
「まぁでも、今となっては結果オーライかな。君を追って蜜柑さんが来日した直後はヒヤヒヤしたけど…」
『そうです!蜜柑は…蜜柑は今、どうしてるんですか!?』
「確か、離脱した幻騎士と姿を消してそれっきりだな。」
リボーンが答える。
離脱…?蜜柑が…?
『だとしてもまだ、この基地内にいるんじゃ……』
「あぁ、何処かにはいると思う。けど多分……」
入江さんは、少し何か考えながらブツブツ言った。
『入江さん…?』
「………うん、多分蜜柑さんは自分のラボにいる。後付けの部屋だから、基地の移動で損壊はしてるハズだけど……」
『何でそんな部屋に…?』
「蜜柑さんが開発した2つ目の匣兵器専用プログラムは、そこのパソコンにしか入ってないんだ。勿論、彼女の脳内にも記憶されてるだろうけど、一からやり直すのは時間が掛かるからね。」
『2つ目って……チャージ式肥大化プログラムとは別の…!?』
アレでさえ苦戦させられたのに、更にもう一つあるなんて…!
「そうなんだけど、内容は白蘭サンにしか教えられてないんだ。その前にまず、蜜柑さんの技術は他のミルフィオーレには伝えられない…それが白蘭サンとの契約内容らしい。」
『つまり、アレを使うのは蜜柑だけ…………良かったぁ…』
他に伝わったらどれだけ脅威になることか。
そればっかりが心配だったあたしにとって、唯一の救いだった。
「とにかく、これでひとまず蜜柑さんがイタリア主力戦に関わることもなくなったんだ。君を追って来日したことでね。」
『……もしあたしが向こうで救出されてたら、』
「ほぼ同じ状態だったと思うよ。10年後の檸檬さんが恐らく晴の活性などで超回復させられ、蜜柑さんと戦ってた。」
そっか、生命維持装置とかつけられてる状態で監禁されてたんだもんね…
「気にしないで、ゆっくり休んで欲しい。本当に、君には驚かされたんだ。まさか過去から来て、こんなに短時間で第六感を使いこなすなんて。」
『は、はぁ……』
入江さんからあたしへの話は、それで終わった。
重体人のためにベッドを出して来ると言って、部屋の奥へ戻っていく。
それをボーッと見送ってると、恭弥が呼びかけて来た。
「ねぇ檸檬、」
『ん?なぁに?』
「檸檬が急に消えたのは、アイツのせいってことだよね。」
『あー…えっと……うん、そう、なるかなぁ…?』
あたしが隼人を庇おうとしたのもあったけど…
結局庇えなかったし……。
「……ふぅん…」
『もしかして恭弥、後で咬み殺すとか思ってるんでしょ!ダメだよっ!』
「………思ってないよ。」
『今ちょっと詰まった………きゃっ、』
喋ってる途中に、抱きしめられる。
『恭…』
「いいから。」
良くないよ、皆がいるのに…///
そう思ったけど、この抱擁があまりに切なくて、言えなかった。
『…ごめんね、恭弥……』
代わりに何故か、謝罪の言葉が漏れた。
あたし達は、驚くことしか出来なかった…。
真相
「俺達の、味方だって!!?」
「う、うん…そうなんだ…」
その場にいる全員が入江さんに目を向け、唖然とした。
彼は普段の行動を部下とカメラによって白蘭に筒抜けにされていたらしい。
それが、今回あたし達の殴り込みで機器が破壊され、立場を気にせず話せる状態になった……と。
「ずっとこの時を待ってたんだよ……この基地・状況での出会い方こそ、僕らの設定したゴールだったんだから。」
「ゴール…?」
『“僕ら”って…』
「な…何言ってやがる!!」
入江さんは、ボンゴレリングを奪おうとするミルフィオーレに協力する一方で、
自分を標的にしてあたし達がこの基地に乗り込むように仕組んでいたそうだ。
「君達を鍛えて、強くなってもらうためにね。」
黙りこむあたし達に謝罪をしてから、それでもこの戦いは必要だったと主張する。
“これから来る戦い”……
そう、彼は言った。
「ふざけんな!!作り話に決まってるぜ!!てめーがヤバくなって来たんで、俺達を丸めこもうってんだな!!」
「獄寺の言う通りだ!!そんな話、信じられるか!!」
『隼人、ラル、待って。入江さん、嘘ついてない……』
「なっ…!」
檸檬の言葉に、獄寺とラルは詰まった。
入江の方は、慌ててそちらに目を向ける。
「透視、かい…?」
『突拍子なさすぎて、信じられない……けど、貴方の脳波は嘘をついてない…』
「あぁ、ありがとう…だけどあまり無理をしないでくれ、檸檬さん。軽くリバウンドが来始めてるだろうから…」
入江が自分を労わったため、檸檬は少し目を丸くした。
そして、確信する。
やはり彼は、嘘をついていないと。
「君達を殺そうと思えば、もっと早く殺せたさ……」
全員一気に入れ替えることも、
基地を早く動かすことも出来た。
だがそれをしなかったのは、ボンゴレ側に経験を積ませるため。
「だからこそ焦ったよ……まさか檸檬さん、君が被弾してしまうなんてね…」
『さっきから不思議に思ってたけど…一体どうして?この時代のあたしがミルフィオーレに捕まったままの方が良かったから?』
「間違っちゃいないけど、君にはイタリアに居て欲しかったんだ。」
『イタリア…?』
「てめー…どーゆーことだ!?」
頭を掻きながら入江は答える。
「つまり…檸檬さんは被弾してもしなくても、イタリアに居てくれれば良かったってことなんだ……。そうすれば、蜜柑さんがイタリアに留まるから。」
『あ……』
檸檬の捕獲を最優先にして動いている蜜柑。
もし檸檬が日本に逃げれば、当然蜜柑も来日する。
「予想外だったんだよ、蜜柑さんの来日は……何せ、白蘭サンに最も忠実な部下と言っても過言じゃない。」
日本で檸檬の捕獲が完了してしまえば、当然蜜柑の次の矛先はツナ達に向く。
そうなれば、誰も蜜柑を退けられない。
「檸檬さんが蜜柑さんと互角の戦いを繰り広げられるほど強くなっていたのが、本当に唯一の救いだったよ…」
『(互角………ううん、違う…)』
蜜柑との戦闘時のことを思い出す。
恭弥のハリネズミが暴走しないで、あのまま戦いを続けていたら…
あたしは、負けてた。
「そうだ、それともう一つ。守護者じゃないイーピン・笹川京子・三浦ハルも過去から連れて来たのも、僕らの計画だ。」
ピクリと反応したツナに、入江さんは言った。
「人は守るモノがあると強くなれる。そのために必要だと判断したんだ。現に……」
「そんな…!!そんな理由で!!」
次の瞬間、ツナが入江さんの胸倉を掴んで怒鳴った。
「もし京子ちゃん達に何かあったらどーするんだ!!京子ちゃん達だけじゃない!鍛えられる前に…皆この戦いで死んでたかもしれないんだぞ!!」
『ツナ…』
けど、入江さんからは残酷な言葉が返って来る。
「………その場合は…それで仕方ないんだよ……」
「んだと!」
「…そんな、」
「うぅ~ん………僕だって一生懸命やってるよ!!蜜柑さんの他にも予想外なことがたくさんあって大変だったんだぞ!!これは君達が思ってるほど小さい問題じゃないんだ!!」
糸がぷつっと切れたかのように、彼は大声で吐き出した。
「それにこの計画は、この時代の君の意志でもあるんだ!綱吉君!!」
「俺の…!?」
「この計画は絶対にバレないように、僕と10年後の君と10年後の雲雀恭弥の3人だけの秘密だったんだ。」
『えっ…恭弥も…?』
「この時代の雲雀君がこちらの奇襲を予測出来たのも、そのためなんだ。」
「なんと…!」
恭弥が関わっていたことも驚きだったけど、
草壁さんすらそれを知らなかったって事に、あたしは一層驚いた。
入江さんは続ける。
「10年後の君は、関係ない仲間を巻き込むことには最後まで躊躇していたが、最終的に過去の自分達の成長に必要だと了承したんだ。」
「そっ…そんなぁ……お、俺が…?」
想定外の事実に、ツナは呆然として入江さんのシャツから手を放した。
けど今度はラルが反論する。
「ありえん!!沢田の性格は知っている!!」
「そーだ!10代目はチビを巻き込んだりしない!!」
「あ~も~っ…それぐらいヤバい状況ってことでしょ!?話の流れで察してくれよ!!」
「…ぷっ………正一、逆ギレ…」
再び頭を掻き毟りながら怒鳴る入江さんを見て、リボーンの隣にいるつなぎを着た人が軽く吹き出した。
『(誰だろ…?)』
「とにかく、全てを賭けて対処しないと君達は仲間ごと全滅しちゃうんだって!!それどころか……人類の危機なんだぞ!!」
「人類の…危機……?」
「それと、これから来る戦いが関係してくるんだな?」
疑問符を浮かべるツナに対して、リボーンが冷静に返した。
「え?あ…うん……」
「リボーン…!?」
「俺は信じてやってもいいと思ってるぞ。」
やっぱり、リボーンが頼りになる一流ヒットマンであることに変わりはないんだ。
その一言で、あたしも少しだけ安心し始めてる。
「俺が感じてた疑問の答えとしては、今んとこ辻褄が合ってるからな。それに……入江は嘘ついてねぇんだろ?檸檬。」
『うんっ。』
「リボーンさん…檸檬……」
隼人は軽くテンパったみたいだけど、入江さんはあたし達の擁護に礼を返した。
「そうなんだ、君達の敵となるのは……白蘭サンだ。」
「やっぱり………あ…!」
ツナは自分が無意識にこぼした一言に吃驚してた。
けどあたしも、その名を聞いた瞬間妙に納得できた。
『(蜜柑が…あんなに強い忠誠を誓ってる存在……)』
それはつまり、それほどの脅威を持ち合わせている存在だってこと。
白蘭の目的は、73を集めて世界を自分のものにすること。
入江さんが言ってた73ポリシーってのは、その意志を指すそうだ。
「もしそれが達成されれば今の比じゃない地獄絵図を見ることになる……自分の思い通りにならない人間・集団・国までも抹殺するだろう…」
目的のためなら手段を選ばない……
白蘭の人間像が、少しだけ窺える。
「だとすると1つわかんねーな。何で今まで白蘭に手を貸して来たんだ?」
「ん?」
『確かに…ツナ達を連れて来なければ、白蘭はボンゴレリングを手に入れることができないハズ!』
「…うん、一時的にはね……。でも僕の手を使わずとも彼はいずれ君達を未来に連れて来る……」
更にもう一つ、入江さんがこのやり方にこだわった理由があるという。
「彼を止められるのはこの時代だけ……今、この時代に倒すしか、白蘭サンの能力を封じる手は無い!!」
「『能力!?』」
「説明すると長くなるが…………あっ!忘れてた!!」
白蘭の能力の説明が聞けるかと思ったら、入江さんはまた頭を抱える。
「ボンゴレ基地に何か連絡は?」
「ないぞ。」
「う…また緊張してきた……」
「どうか…したんですか…?」
お腹を抱えて座り込む入江に、ツナが尋ねる。
どうやら入江さんは、精神的圧力が腹痛になる体質みたい。
「君達の到着が白蘭サンを倒す為の1つ目の賭けだった。それを第1段階だとすると、クリアすべき第2段階があるんだ!!」
「え!?まだ戦うの?」
「いや…違うよ。君達にはしばらく傷を癒してもらうつもりだ。もっとも、それが出来るかは第2段階次第だけど…」
「何なんだ?その第2段階って。」
リボーンの問いかけに、入江さんは説明した。
そもそも、あたし達のメローネ基地侵入は、ボンゴレの総攻撃の一部。
その大規模な攻撃作戦が失敗すると全ては一気に難しくなるそうだ。
「一番のカギとなるのは……イタリアの主力戦だ。」
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深い森の中に佇む、石造りの古城。
その至る所から大きな旗が立ち、風に靡いていた。
書いてある言葉は、“Squadra killer autonoma di Vongole IX”……
“ボンゴレ9代目直属 独立暗殺部隊”
また、小さくはためく手製の旗もあった。
“Lo non riconosco il Xattuale!”…
“俺は今の10代目は認めない!”と主張している。
それを見て、楽しそうな声をあげる者が1人。
「んまぁ素敵な旗vVレヴィったらココまでしてボスのご機嫌取ったりして~♪」
しかし、後に続いたのはけなす声。
「しししっ、相変わらずムッツリしたオヤジだぜ。」
「ぬっ、」
「う"お"ぉい!!」
言い争いが始まりそうになったその時、遮るかのような一声。
古城の柵に足をかけ、彼は続ける。
「そろそろおっぱじめるぜぇ!!」
そこに集まっていたのは、ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーの幹部達だった。
スクアーロ、レヴィ、ルッスーリア、ベル、そして10年前にはいなかった新しい幹部が並び、
黒い煙の向こうを見つめていた。
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『主力戦って…もしかして、』
「あぁ、そうだよ。恐らくヴァリアーがこちら側の最大戦力になるだろう。」
“ヴァリアー”の単語を聞いた途端、檸檬をはじめ、全員が目を丸くした。
「つーか入江、いい加減俺達をココから出せよ。」
「あぁごめん!待って、今開けるよ!」
『(ホントに、いい人なのかも…)』
自分の透視を疑うワケじゃないけど、
やっぱり敵の基地の指揮官が急にボンゴレ側だって言うのは信じがたかった。
でも今の入江さんは…完全に協力態勢になってる。
「檸檬さん、お体は…」
『ありがとうございます、大丈夫です。』
心配してくれた草壁さんに、笑顔を返す。
と、恭弥がムッとしてあたしを抱き寄せた。
『恭弥…?』
「こんな怪我と出血で、よく大丈夫なんて言えるね。」
『あー……待って!今軽減させるから。』
ポケットに残ってた2本の神経麻痺剤のうち、1本を投与した。
「何、それ。」
『魔法の薬だよ♪』
「真面目に答えてよ。」
『元気になる薬、ホントだよ?』
実際あたしの発作が収まったから、恭弥は一応納得したようだった。
と、ココで入江さんがあたしに歩み寄る。
「檸檬さん、実は…」
「何。」
「わっ!」
『きょ、恭弥っ、殺気放つの無し!』
あたしの前に立って入江さんにガンを飛ばす恭弥。
その腕を掴んで、あたしは聞き返す。
『あたしに、何か…?』
「言うべきか迷ったんだけど、言っておくよ。君はもともと、イタリアの戦力として計算されてたんだ。」
『えっ…!?』
髪を掻きあげながら、入江さんは目を逸らす。
「この時代の君がイタリアで捕らえられてたことは知ってると思う。だから僕らは、イタリア主力戦に別名をつけてた。」
「別名…?」
疑問符を浮かべる草壁さんに、頷く入江さん。
「“ダーク奪還戦”だ。」
「……ねぇ君、死にたいの?」
「えっ!?あ、ご、ごめん!!そんなつもりは…」
『恭弥、いいの。入江さんも、気にしないで下さい……』
ただの通り名……頭では理解して納得したつもり。
だけど…
恭弥が怒ってくれて、ちょっと嬉しかった。
「ホントにごめん……白蘭サンに怪しまれないようにって呼び方変えてたんだ……もう、使わないよ。」
『あ、ありがとうございますっ。それで…』
「そうだ、つまりは……捕らえられてる檸檬さんを救出して、そのままイタリアの戦力に…と考えてたんだ。」
『あたしが、イタリア主力戦の戦力!?』
だとしたら、どれだけ計画を狂わせてしまったんだろう。
入れ替わって脱出したあたしが、がむしゃらに空間移動で日本に来ちゃったせいで…
「まぁでも、今となっては結果オーライかな。君を追って蜜柑さんが来日した直後はヒヤヒヤしたけど…」
『そうです!蜜柑は…蜜柑は今、どうしてるんですか!?』
「確か、離脱した幻騎士と姿を消してそれっきりだな。」
リボーンが答える。
離脱…?蜜柑が…?
『だとしてもまだ、この基地内にいるんじゃ……』
「あぁ、何処かにはいると思う。けど多分……」
入江さんは、少し何か考えながらブツブツ言った。
『入江さん…?』
「………うん、多分蜜柑さんは自分のラボにいる。後付けの部屋だから、基地の移動で損壊はしてるハズだけど……」
『何でそんな部屋に…?』
「蜜柑さんが開発した2つ目の匣兵器専用プログラムは、そこのパソコンにしか入ってないんだ。勿論、彼女の脳内にも記憶されてるだろうけど、一からやり直すのは時間が掛かるからね。」
『2つ目って……チャージ式肥大化プログラムとは別の…!?』
アレでさえ苦戦させられたのに、更にもう一つあるなんて…!
「そうなんだけど、内容は白蘭サンにしか教えられてないんだ。その前にまず、蜜柑さんの技術は他のミルフィオーレには伝えられない…それが白蘭サンとの契約内容らしい。」
『つまり、アレを使うのは蜜柑だけ…………良かったぁ…』
他に伝わったらどれだけ脅威になることか。
そればっかりが心配だったあたしにとって、唯一の救いだった。
「とにかく、これでひとまず蜜柑さんがイタリア主力戦に関わることもなくなったんだ。君を追って来日したことでね。」
『……もしあたしが向こうで救出されてたら、』
「ほぼ同じ状態だったと思うよ。10年後の檸檬さんが恐らく晴の活性などで超回復させられ、蜜柑さんと戦ってた。」
そっか、生命維持装置とかつけられてる状態で監禁されてたんだもんね…
「気にしないで、ゆっくり休んで欲しい。本当に、君には驚かされたんだ。まさか過去から来て、こんなに短時間で第六感を使いこなすなんて。」
『は、はぁ……』
入江さんからあたしへの話は、それで終わった。
重体人のためにベッドを出して来ると言って、部屋の奥へ戻っていく。
それをボーッと見送ってると、恭弥が呼びかけて来た。
「ねぇ檸檬、」
『ん?なぁに?』
「檸檬が急に消えたのは、アイツのせいってことだよね。」
『あー…えっと……うん、そう、なるかなぁ…?』
あたしが隼人を庇おうとしたのもあったけど…
結局庇えなかったし……。
「……ふぅん…」
『もしかして恭弥、後で咬み殺すとか思ってるんでしょ!ダメだよっ!』
「………思ってないよ。」
『今ちょっと詰まった………きゃっ、』
喋ってる途中に、抱きしめられる。
『恭…』
「いいから。」
良くないよ、皆がいるのに…///
そう思ったけど、この抱擁があまりに切なくて、言えなかった。
『…ごめんね、恭弥……』
代わりに何故か、謝罪の言葉が漏れた。