未来編①
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「あれも幻覚か…?」
「………そう、願うけど…」
「…違うわ。」
姿を変えた幻騎士には、“地獄の騎士”という言葉がピッタリだった。
ヘルリング
あまりにも先ほどと違うその容姿に幻覚かと疑ったリボーンとスパナ。
しかし蜜柑はバッサリと否定した。
「何故分かる?」
「幻覚なら…もっと五感に違和感が生じるから。」
「そうか、蜜柑は優れた五感を持っていたな。」
納得したスパナだが、リボーンは依然疑問を投げかける。
「だとしたら、ヤツは何をしたんだ?」
「恐らくヘルリングへの精神譲渡……私も実際見たのは初めて。」
蜜柑は知る限りのことを話した。
自分が所持しているワケではないから、情報が渡ってもデメリットは無いと判断したのだ。
「ヘルリングは、この世に6つある呪いのリングと言われてる。全てが霧属性で、使用者との契約によって強大な力を発揮すると言われてるわ。」
「でもアレ…強大っていうより、凶悪…」
「地獄との契約は使用者の人格をも動かすらしいわ。そんな非科学的な話、信じるつもりは無いけれど。」
「だが、蜜柑の言う話はあながち嘘じゃねーな……」
変容を遂げた幻騎士と対峙するツナに、リボーンは真剣な視線を送った。
「ハァァハハ!!俺にもう弱点はない。さぁ、その目玉を抉ってやるぞ!」
「………お前には無理だ、化物。」
ツナはしばし幻騎士を見て、静かに返す。
「へらず口の童め…そう言ってられるのも……今のうちだ!!」
幻剣の分裂した刃が襲いかかるが、ツナはしっかりと受け止め幻騎士に蹴りを入れる。
だが幻騎士もそれをかわして再び太刀を分裂させる。
ツナは俊敏に動きその懐に飛び込んだ。
「確かに、速くなったわね。」
「やはり零地点突破の効能は大きい。」
蜜柑とスパナが口々に呟く。
直後、ツナと幻騎士の拳がお互いの頬を殴り合った。
「………何て戦闘だ……」
「いいえ、違う。」
「蜜柑…?」
首を傾げるスパナの横で、蜜柑は幻騎士を真っ直ぐに見つめていて。
その右手は未だ、何かの感情を示すかのように握られていた。
---
------
--------------
『なっ…!』
壁の向こうを視た檸檬は、驚きのあまり息を呑んだ。
そこに在った波動の数は、明らかに味方の人数を上回っていて。
『………うっ…、』
体力の限界を感じて一旦第六感を停止させ、視た光景を思い返す。
味方と思われる波動は皆、倒れていた。
そして、別の者達が運び出そうとしていた。
『(まさか…ミルフィオーレ……!?)』
檸檬の顔色に焦りが表れ始める。
自分の体力・精神力が共に限界に近づいてるのは理解できていた。
『(こんな状態で戦って……一体何分もつか…)』
しかし、皆が捕まるのを見逃すワケにはいかない。
動けるのが自分しかいないなら、一人で護ればいいだけの話。
覚悟を決めた檸檬が向こう側に空間移動しようとした、その時。
--「ダークがいないぞ!」
--「どこだ!?探せ!」
ミルフィオーレの者達は、檸檬をも捕まえる気らしい。
すぐにこちら側の部屋にも足音が響いて来た。
「居たぞ!ダークだ!!」
『こんにちは、あたしの仲間をどうする気?』
「お前もろとも、入江様のところに行ってもらう。」
『…入江正一のトコ、ね……』
まだ合流していないツナが1人で入江の所に辿りついた場合、人質にするつもりなのだろう。
そう思った檸檬は、ナイフを1本手に取った。
『なら、目一杯抵抗させてもらうよ♪』
「構わん!撃てぇ!!」
ドシュウッ、
『なっ…!』
撃たれたのは、普通の銃弾ではなく催眠ガス弾だった。
咄嗟に発動させたのは、“第5能力・解毒”。
「ダメです!効きません!!」
「怯むな!ダークは既にライト様との戦闘でダメージを負っている!」
『(そっか…)』
檸檬には、相手方の狙いが分かった。
今の状態の自分では、解毒の発動時間が限られている。
つまり、いずれは……
『(あたしも眠らされて、捕らえられるって事…)』
グッと歯を食いしばり、檸檬は決めた。
限界まで能力発動し続けることを。
ココで足掻けば、ツナの方が先に入江正一に辿りつくかも知れない。
そうすれば、人質の存在に踊らされなくて済む。
『おいでよ、敵さん。ダークの旋律、聞かせてあげる。』
滲め始めた汗をそのままに、檸檬は挑発的な笑みを見せた。
---
------
-------------
「やはり大して強くなってないな…」
「何!!」
ツナの言葉に、幻騎士本人だけでなく蜜柑も少し反応した。
「お前の強さは研ぎ澄まされた感覚のキレと、それを無駄のない動きに変える冷静で抑制のきいた判断力にある。頭に血がのぼっていては、恐くない。」
「……ク、ハァハハハ!!こんなものがヘルリングで倍加した俺の力だと思ったか!!真の力はこれからだ!!」
途端に口を大きく開き、その中が光りだした。
「ギョエッ、」
出て来たのは、当初ただの骸骨だった。
しかし、だんだんとその見た目を変えて行き……
「(分身か!?)」
「……ツナ、」
「ぐっ!」
山本の姿となり、ツナの首を絞めつけた。
「あれは…」
異様な光景に、蜜柑も眉を動かす。
「…ボス、」
「10代目!!」
現れる守護者は皆、次々にツナの首を絞めていく。
「しっかりしやがれツナ!そいつらは幻覚だぞ!」
「……分かってる!!」
「おーっと消していいのかな?その幻覚達と貴様の本物の守護者の命は繋がっているのだぞ!!」
「何!?」
衝撃的な一言に、ツナは振り払おうと構えた手を止めた。
---
-----
-----------
同じ頃、
ドシュッ、ザシュッ、
『どしたの?もう怖気づいちゃった?』
ミルフィオーレの下っ端達を何人も戦闘不能にしていく檸檬。
解毒能力が保てる時間は短いが、相手がだいぶ怯んでいた。
『(よし、いけるかもっ…!)』
もう少しだと踏ん張ろうとした、その時だった。
ズウィィィィン……
『ぁぐっ…!!?』
今まで感じたことのないほど不気味な波長が、その脳を刺激し始めたのである。
『何、コレ……』
脳に直接叩き込まれる、嫌な波長。
そして視えて来たのは……
--「やめろっ!放すんだ!!」
『ツナ…!!?』
『(やめて、やめて……!)』
襲いかかる波長に飲み込まれまいとする檸檬。
しかしその時もう、動きは止まっていて。
「今だ!捕えろ!!」
『ヤバっ…』
辛うじてミルフィオーレの攻撃をかわすものの、脳へのダメージにより動きが鈍っていく。
そして…
『(ダメ…解毒が切れちゃう……)』
敵は皆マスクをしていたが、していない檸檬は呼吸をしただけで催眠ガスの効果をもろに受けた。
もう一度発動させようにも、脳は既に不気味な波長に支配されかけていて。
『(何よ、コレ…何でこんな……強力な……)』
ふっと意識が飛び、檸檬の身体はその場に倒れ込んだ。
---
------
-------------
「奴らを殺さぬ限り振り解くことは不可能!!貴様に仲間を殺せるのか!?」
「ぐっ…」
追い詰められるツナの首には、更に仲間の手がかけられる。
「……沢田、」
「沢田さん…」
「(雲雀さんにラルに…草壁さんまで…!)」
そして…
『……ツナっ…』
「檸檬…!!」
涙を浮かべる檸檬の右手も、真っ直ぐツナの首にかけられて。
『いや…』
「ぐっ…うわああ!!」
ギュッと閉じられた瞳は、檸檬自身によるせめてもの抵抗。
しかし無情にも彼女の手は渾身の力でツナの首を絞める。
「アレは……雨宮檸檬!」
「姉さんの精神をも、幻覚に繋げたのね……さすがヘルリング、というところかしら。」
「檸檬が出て来たってのに、淡白な反応だな。」
「あの姉さんを葬れば、それはすなわち殺すことになる…白蘭の命令に背くことになるわ。」
蜜柑の答えにリボーンは納得した後、その視線を辿った。
「蜜柑、お前も幻騎士のあの姿は初めて見たんだな?」
「……それが、何?」
「随分と憐れんだような目ぇしてんじゃねーか。」
「憐れみ?私が?」
鼻で笑う蜜柑だったが、リボーンは「そうだ」と一言。
2人の間に座るスパナは、その表情を交互に見る。
しばしの沈黙の後、蜜柑はゆっくりと口を開いた。
「あれこそ、幻騎士が持ち続けて、私が捨てたモノなのよ。」
「蜜柑が捨てたモノ…?」
上からは、幻騎士の叫びが降って来る。
「どうだ?自分の信じた仲間に殺される気分は!!俺も殺りたかった!!あの時殺ってみたかった!!」
「…初めて会った時から、分かってた。幻騎士には、私と共通点がある……白蘭への揺るがぬ忠誠、ブラックとホワイトの隔たりに対する意識がないこと…」
蜜柑の言葉に、スパナもリボーンも耳を傾ける。
「似ていたのよ、その点に於いては。けど、立場が違うから忠誠の仕方も違ったし、属性が違うから戦闘スタイルも違った。」
「そっか、蜜柑はボス補佐だしな。」
「そーいや、ライトってのはいつから言われてんだ?」
質問に対し首を振る蜜柑に代わって、スパナがリボーンに言った。
「ウチは知ってる。蜜柑がボス補佐に就任してからだ。その時は既にそう呼ばれてた。」
「何かの略称なのか?」
「“Lady In Great Heaven's Territory”……天空域の淑女、だったかな?日本語訳、自信無い。」
「どうでもいいわ、通り名なんて。」
蜜柑はその話題を一蹴し、言った。
「数々の差異がある中で私と幻騎士が最も異なったのは、まさしくアレよ。」
「アレって……ウチにはどれか分からない。」
「幻騎士には、後悔があった。かつて一度、忠誠を証明できなかったという後悔が。」
「…だから憐れむのか。」
「さぁ…私は憐れみなんて感情は持ち合わせてないと思うけど。でも、そうね……」
蜜柑は少しだけ目を細めた。
その先には、勝利を確信した幻騎士の姿。
「さぁ落ちろ!!死ねボンゴレ!!!」
「あれを見てると、人の心の無常さを改めて刻み込まれるわ……」
「蜜柑…?」
「だから、要らないのよ…」
まるで自分に言い聞かせるように発せられた蜜柑の言葉に、スパナは疑問符を浮かべた。
と、その時。
「………幻騎士…」
守護者達の攻撃に苦しめられていたツナが、ギリッと歯を食いしばった。
「お前だけは………死んでも…許さねぇ!!」
グローブのクリスタルが輝き始める。
その言葉に、瞳に、幻騎士の方も一瞬だけ怯む。
「(心は不確かで、無常なモノ………)」
ヘルリングに囚われた幻騎士の精神が勝るか、
その卑劣な手段に触発されたツナの決意が勝るか。
「(心を有する者は、その心に強さも変動させられてしまう………不確かな、精神の変動に。)」
勝敗が分からなくなって来ていること自体が、“人の心”の作用の証明。
だからこそ蜜柑は捨てたのだ。
「(私には、要らない。)」
人間の、あらゆる感情を。
「………そう、願うけど…」
「…違うわ。」
姿を変えた幻騎士には、“地獄の騎士”という言葉がピッタリだった。
ヘルリング
あまりにも先ほどと違うその容姿に幻覚かと疑ったリボーンとスパナ。
しかし蜜柑はバッサリと否定した。
「何故分かる?」
「幻覚なら…もっと五感に違和感が生じるから。」
「そうか、蜜柑は優れた五感を持っていたな。」
納得したスパナだが、リボーンは依然疑問を投げかける。
「だとしたら、ヤツは何をしたんだ?」
「恐らくヘルリングへの精神譲渡……私も実際見たのは初めて。」
蜜柑は知る限りのことを話した。
自分が所持しているワケではないから、情報が渡ってもデメリットは無いと判断したのだ。
「ヘルリングは、この世に6つある呪いのリングと言われてる。全てが霧属性で、使用者との契約によって強大な力を発揮すると言われてるわ。」
「でもアレ…強大っていうより、凶悪…」
「地獄との契約は使用者の人格をも動かすらしいわ。そんな非科学的な話、信じるつもりは無いけれど。」
「だが、蜜柑の言う話はあながち嘘じゃねーな……」
変容を遂げた幻騎士と対峙するツナに、リボーンは真剣な視線を送った。
「ハァァハハ!!俺にもう弱点はない。さぁ、その目玉を抉ってやるぞ!」
「………お前には無理だ、化物。」
ツナはしばし幻騎士を見て、静かに返す。
「へらず口の童め…そう言ってられるのも……今のうちだ!!」
幻剣の分裂した刃が襲いかかるが、ツナはしっかりと受け止め幻騎士に蹴りを入れる。
だが幻騎士もそれをかわして再び太刀を分裂させる。
ツナは俊敏に動きその懐に飛び込んだ。
「確かに、速くなったわね。」
「やはり零地点突破の効能は大きい。」
蜜柑とスパナが口々に呟く。
直後、ツナと幻騎士の拳がお互いの頬を殴り合った。
「………何て戦闘だ……」
「いいえ、違う。」
「蜜柑…?」
首を傾げるスパナの横で、蜜柑は幻騎士を真っ直ぐに見つめていて。
その右手は未だ、何かの感情を示すかのように握られていた。
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『なっ…!』
壁の向こうを視た檸檬は、驚きのあまり息を呑んだ。
そこに在った波動の数は、明らかに味方の人数を上回っていて。
『………うっ…、』
体力の限界を感じて一旦第六感を停止させ、視た光景を思い返す。
味方と思われる波動は皆、倒れていた。
そして、別の者達が運び出そうとしていた。
『(まさか…ミルフィオーレ……!?)』
檸檬の顔色に焦りが表れ始める。
自分の体力・精神力が共に限界に近づいてるのは理解できていた。
『(こんな状態で戦って……一体何分もつか…)』
しかし、皆が捕まるのを見逃すワケにはいかない。
動けるのが自分しかいないなら、一人で護ればいいだけの話。
覚悟を決めた檸檬が向こう側に空間移動しようとした、その時。
--「ダークがいないぞ!」
--「どこだ!?探せ!」
ミルフィオーレの者達は、檸檬をも捕まえる気らしい。
すぐにこちら側の部屋にも足音が響いて来た。
「居たぞ!ダークだ!!」
『こんにちは、あたしの仲間をどうする気?』
「お前もろとも、入江様のところに行ってもらう。」
『…入江正一のトコ、ね……』
まだ合流していないツナが1人で入江の所に辿りついた場合、人質にするつもりなのだろう。
そう思った檸檬は、ナイフを1本手に取った。
『なら、目一杯抵抗させてもらうよ♪』
「構わん!撃てぇ!!」
ドシュウッ、
『なっ…!』
撃たれたのは、普通の銃弾ではなく催眠ガス弾だった。
咄嗟に発動させたのは、“第5能力・解毒”。
「ダメです!効きません!!」
「怯むな!ダークは既にライト様との戦闘でダメージを負っている!」
『(そっか…)』
檸檬には、相手方の狙いが分かった。
今の状態の自分では、解毒の発動時間が限られている。
つまり、いずれは……
『(あたしも眠らされて、捕らえられるって事…)』
グッと歯を食いしばり、檸檬は決めた。
限界まで能力発動し続けることを。
ココで足掻けば、ツナの方が先に入江正一に辿りつくかも知れない。
そうすれば、人質の存在に踊らされなくて済む。
『おいでよ、敵さん。ダークの旋律、聞かせてあげる。』
滲め始めた汗をそのままに、檸檬は挑発的な笑みを見せた。
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「やはり大して強くなってないな…」
「何!!」
ツナの言葉に、幻騎士本人だけでなく蜜柑も少し反応した。
「お前の強さは研ぎ澄まされた感覚のキレと、それを無駄のない動きに変える冷静で抑制のきいた判断力にある。頭に血がのぼっていては、恐くない。」
「……ク、ハァハハハ!!こんなものがヘルリングで倍加した俺の力だと思ったか!!真の力はこれからだ!!」
途端に口を大きく開き、その中が光りだした。
「ギョエッ、」
出て来たのは、当初ただの骸骨だった。
しかし、だんだんとその見た目を変えて行き……
「(分身か!?)」
「……ツナ、」
「ぐっ!」
山本の姿となり、ツナの首を絞めつけた。
「あれは…」
異様な光景に、蜜柑も眉を動かす。
「…ボス、」
「10代目!!」
現れる守護者は皆、次々にツナの首を絞めていく。
「しっかりしやがれツナ!そいつらは幻覚だぞ!」
「……分かってる!!」
「おーっと消していいのかな?その幻覚達と貴様の本物の守護者の命は繋がっているのだぞ!!」
「何!?」
衝撃的な一言に、ツナは振り払おうと構えた手を止めた。
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同じ頃、
ドシュッ、ザシュッ、
『どしたの?もう怖気づいちゃった?』
ミルフィオーレの下っ端達を何人も戦闘不能にしていく檸檬。
解毒能力が保てる時間は短いが、相手がだいぶ怯んでいた。
『(よし、いけるかもっ…!)』
もう少しだと踏ん張ろうとした、その時だった。
ズウィィィィン……
『ぁぐっ…!!?』
今まで感じたことのないほど不気味な波長が、その脳を刺激し始めたのである。
『何、コレ……』
脳に直接叩き込まれる、嫌な波長。
そして視えて来たのは……
--「やめろっ!放すんだ!!」
『ツナ…!!?』
『(やめて、やめて……!)』
襲いかかる波長に飲み込まれまいとする檸檬。
しかしその時もう、動きは止まっていて。
「今だ!捕えろ!!」
『ヤバっ…』
辛うじてミルフィオーレの攻撃をかわすものの、脳へのダメージにより動きが鈍っていく。
そして…
『(ダメ…解毒が切れちゃう……)』
敵は皆マスクをしていたが、していない檸檬は呼吸をしただけで催眠ガスの効果をもろに受けた。
もう一度発動させようにも、脳は既に不気味な波長に支配されかけていて。
『(何よ、コレ…何でこんな……強力な……)』
ふっと意識が飛び、檸檬の身体はその場に倒れ込んだ。
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「奴らを殺さぬ限り振り解くことは不可能!!貴様に仲間を殺せるのか!?」
「ぐっ…」
追い詰められるツナの首には、更に仲間の手がかけられる。
「……沢田、」
「沢田さん…」
「(雲雀さんにラルに…草壁さんまで…!)」
そして…
『……ツナっ…』
「檸檬…!!」
涙を浮かべる檸檬の右手も、真っ直ぐツナの首にかけられて。
『いや…』
「ぐっ…うわああ!!」
ギュッと閉じられた瞳は、檸檬自身によるせめてもの抵抗。
しかし無情にも彼女の手は渾身の力でツナの首を絞める。
「アレは……雨宮檸檬!」
「姉さんの精神をも、幻覚に繋げたのね……さすがヘルリング、というところかしら。」
「檸檬が出て来たってのに、淡白な反応だな。」
「あの姉さんを葬れば、それはすなわち殺すことになる…白蘭の命令に背くことになるわ。」
蜜柑の答えにリボーンは納得した後、その視線を辿った。
「蜜柑、お前も幻騎士のあの姿は初めて見たんだな?」
「……それが、何?」
「随分と憐れんだような目ぇしてんじゃねーか。」
「憐れみ?私が?」
鼻で笑う蜜柑だったが、リボーンは「そうだ」と一言。
2人の間に座るスパナは、その表情を交互に見る。
しばしの沈黙の後、蜜柑はゆっくりと口を開いた。
「あれこそ、幻騎士が持ち続けて、私が捨てたモノなのよ。」
「蜜柑が捨てたモノ…?」
上からは、幻騎士の叫びが降って来る。
「どうだ?自分の信じた仲間に殺される気分は!!俺も殺りたかった!!あの時殺ってみたかった!!」
「…初めて会った時から、分かってた。幻騎士には、私と共通点がある……白蘭への揺るがぬ忠誠、ブラックとホワイトの隔たりに対する意識がないこと…」
蜜柑の言葉に、スパナもリボーンも耳を傾ける。
「似ていたのよ、その点に於いては。けど、立場が違うから忠誠の仕方も違ったし、属性が違うから戦闘スタイルも違った。」
「そっか、蜜柑はボス補佐だしな。」
「そーいや、ライトってのはいつから言われてんだ?」
質問に対し首を振る蜜柑に代わって、スパナがリボーンに言った。
「ウチは知ってる。蜜柑がボス補佐に就任してからだ。その時は既にそう呼ばれてた。」
「何かの略称なのか?」
「“Lady In Great Heaven's Territory”……天空域の淑女、だったかな?日本語訳、自信無い。」
「どうでもいいわ、通り名なんて。」
蜜柑はその話題を一蹴し、言った。
「数々の差異がある中で私と幻騎士が最も異なったのは、まさしくアレよ。」
「アレって……ウチにはどれか分からない。」
「幻騎士には、後悔があった。かつて一度、忠誠を証明できなかったという後悔が。」
「…だから憐れむのか。」
「さぁ…私は憐れみなんて感情は持ち合わせてないと思うけど。でも、そうね……」
蜜柑は少しだけ目を細めた。
その先には、勝利を確信した幻騎士の姿。
「さぁ落ちろ!!死ねボンゴレ!!!」
「あれを見てると、人の心の無常さを改めて刻み込まれるわ……」
「蜜柑…?」
「だから、要らないのよ…」
まるで自分に言い聞かせるように発せられた蜜柑の言葉に、スパナは疑問符を浮かべた。
と、その時。
「………幻騎士…」
守護者達の攻撃に苦しめられていたツナが、ギリッと歯を食いしばった。
「お前だけは………死んでも…許さねぇ!!」
グローブのクリスタルが輝き始める。
その言葉に、瞳に、幻騎士の方も一瞬だけ怯む。
「(心は不確かで、無常なモノ………)」
ヘルリングに囚われた幻騎士の精神が勝るか、
その卑劣な手段に触発されたツナの決意が勝るか。
「(心を有する者は、その心に強さも変動させられてしまう………不確かな、精神の変動に。)」
勝敗が分からなくなって来ていること自体が、“人の心”の作用の証明。
だからこそ蜜柑は捨てたのだ。
「(私には、要らない。)」
人間の、あらゆる感情を。