日常編
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『どう?おいしい、かな?』
「………うん」
こんにちは、檸檬です。
冬休みも明けて、ただいま応接室で恭弥にお弁当を食べてもらってます。
お正月でお世話になったんで。(前回参照)
『良かったぁ。恭弥って無言で食べるからさぁ、ちょっと心配になるのよねー』
「しゃべりながら食べるのは嫌だから」
『ふーん。ま、それは予想つくけどね』
「檸檬は、もう食べたの?」
『一応。最近ココでおやつ食べ過ぎたから、ちょっと食事制限してるの』
あたしがそう言うと恭弥は少し顔をしかめた。
え?
何か悪い事言った??
『あ、あのっ、別におやついらないワケじゃなくて、ただ食べ過ぎはよくないから……だけどおやつは欲しいから…』
「そんな事じゃなくて」
恭弥は一言言うと、またぱくぱくと食べ始めた。
何だろ…分かんないよ。
『恭弥、怒った??』
少し不安になる。
原因は全く分かんないけど。
すると恭弥は、横目であたしを見て、ため息をついて、「倒れても知らないからね」と、また一言。
あ、もしかして、もしかすると…
『心配、してくれたとか…?』
「……別に」
『ありがと恭弥!』
ちゅ、
嬉しくなって恭弥の頬にキスをする。
恭弥はまた無言になる。
あぁ、やっちゃったよ。
また怒らせちゃった…(違)
「モンブランならあるけど」
『え?』
急な話題転換にあたしはびっくり。
「食べないの?」
『あ、えと…食べるっ♪』
やっぱり、恭弥は優しいね。
あたしの返事を聞くと、恭弥は草壁さんにモンブランを持って来させた。
『あ、ありがとうございます』
「敬語じゃなくていいよ」
『何で恭弥が言うの?』
「委員長だから」
草壁さんは黙っている。
何か…可哀想に思えて来た。
『あの、草壁さんはどう思いますか?やっぱりあたしは下っ端風紀委員だし、敬語がいいですよね?』
立っている草壁さんを見上げながら言うと、草壁さんは目を丸くした。
あたしの顔、何かついてる?
「別に、どちらでも」
あれ?
何で草壁さんがへりくだってんの??
謎過ぎる……。
『じゃぁ敬語…』
「じゃなくていいって言ってるでしょ。檸檬は僕に逆らうつもり?」
恭弥がまた口出しした。
おとなしくお弁当食べてればいいのにー…
『(やっぱり、我が儘王子だ…)』
あたしはため息をついて草壁さんに言った。
『じゃあ、えっと…出来たらタメ語使います』
恭弥の王子様な性格に、呆れながら笑った。
そしたら草壁さんはまた目を丸くしてあたしを見る。
『(やっぱ何か付いてんのかな?)』
あたしはカバンから手鏡を取り出した。
そうして自分の顔を見ている間に、恭弥が草壁さんを睨んで威嚇していた事なんて、あたしは知らない。
そして、後でこっそり敬語にしておこうと決意したのは別の話。
『美味しかったー!!』
「草壁、片付けといて」
「はい」
『えっ、あたしやるよ!』
「檸檬は座ってていいよ」
『でも…』
「いいから」
恭弥はホントに我が儘王子だ。
草壁さんはホントに偉いなぁ…。
『恭弥、』
「何?」
『草壁さんの事、たまにはいたわってあげてね』
あぁ、檸檬はホントにお人好しだ。
その対象が他に向けば向く程、僕はイライラする。
そんな事、君は知らないでしょ?
「たまには、ね」
『良かった♪んじゃ、あたしはもう帰るね』
「ダメ」
『だ、ダメって何よ!』
「僕が終わるまで待ってて」
『……(この我が儘王子っ!でもまぁ、たまにはいっか)』
檸檬はふーっとため息をつき、雲雀の隣に座り直す。
『しょうがないから残っててあげますよー。でも早く帰りたいから手伝わせてねー』
「……その口調、何かムカつく」
『あ、やっぱり?』
ごめーん、と無邪気に笑う檸檬を見て、雲雀は微かに微笑んだ。
「じゃぁ、檸檬が全部やってよ」
『えぇ~っ!それはヤだ』
檸檬は少し膨れた。
「(そんな事しても可愛いだけなんだけど…)」
『だって、2人でやった方が早く終わるし、楽しいでしょ?』
そう言ってまた笑顔に戻る。
「楽しいかどうかは分からないけどね」
『楽しいよ、恭弥と一緒だもん♪』
檸檬の言葉には、いちいち驚かされる。
そんな事も知らないで隣で笑う檸檬。
手に入れたい、僕だけのものにしたい、
そう、願わずにはいられない。
案の定早く終わった仕事。
僕はバイクの後ろに檸檬を乗せた。
『ホントにいいの?』
「いいよ、仕事手伝ってくれたしね」
『やったー!!』
檸檬は僕の腰に抱きついた。
『ありがとう、恭弥!』
「別に」
バイクのエンジンをかけると、檸檬が少しだけその音に驚く。
「捕まっててね」
『うんっ』
思いきりとばした。
別に早く檸檬をあの家に帰したかったワケじゃなくて、ただとばしたかった。
こんな風に風を切れば、
きっと檸檬は……
『わぁーっ!気持ちーいっ!』
ほら、喜んでくれる。
ところがしばらくして、檸檬は急に叫んだ。
『恭弥、止めてっ!』
「何?」
仕方なく止めてみる。
「どうしたの?檸檬」
『ちょっと用事があって……今日はここまででいいから!ありがとう、また明日っ!』
檸檬は凄いスピードで走り去った。
何だろう…興味があったから、追ってみる事にした。
---
------
-----------
バイクに乗って周りを見ていると、あたしの目に隼人が映った。
恭弥にバイクを止めてもらって、別れを告げて、あたしは走った。
何であんなトコに1人でいるの?
どうしてそんな顔をしているの?
1人は怖いから、側に行かなくちゃ。
お節介かもしれないけど、
誰かが1人になるのは………
“あの頃”のあたしと、同じように生きるのは……
あんな、光の届かない世界に生きるのは……
たとえ自分の事じゃなくたって、耐えられない。
---
------
10代目の家でリボーンさんの指導を受けていたのに、10代目に怪我をさせてしまった。
悲鳴が聞こえて来たって言って、やって来た山本に10代目は言った。
---「山本ォ!助かったー!!」
10代目が頼りにしてるのは、俺じゃなくて山本……
「やっぱ俺、1人が向いてんのかな」
『それ……本気?』
独り言に返事をされ驚き見上げると、そこには檸檬がいた。
「なっ…檸檬!!?」
俺につかつかと歩み寄って、真剣な顔でもう一度聞く。
『本気?』
その息は荒かった。
一体どっから走って来たんだか。
そんな遠くから、俺を見つけたっていうのか?
俺が何にも答えないまま檸檬を見ていると、今度は涙目になっていった。
『本気でそんな事、思ってるの…?ねぇ、隼人っ……』
ついに涙が溢れた。
俺は吃驚して立ち上がる。
「なっ、何でオメ-が泣くんだよ!?」
『だって…1人は、怖いんだもんっ……あたしは知ってるもんっ……』
「な、泣くなよ……」
あたふたして、どうすればいいか考えた挙げ句、檸檬の背中を摩る。
「(………そうか…)」
檸檬は、本当の孤独を知ってんだ。
ストリートファイト時代、檸檬は優勝者であると同時に、1番孤独な人間でもあった。
親にすら、見捨てられた存在だったみてーだし、な……
『隼人、行かないで…』
檸檬は震える声で俺に言う。
そして、下に向けていた顔を上げ、俺をまっすぐ見つめた。
『皆が嫌いになっちゃったワケじゃないでしょう?』
「そ、そりゃぁ…」
そうだけどよぉ、
10代目に必要とされてないのに、いる意味はあるのか?
『お願いだから…行かないで……』
開いていた手を握られて、顔が熱くなるのを感じた。
檸檬は昔からよく分かんねぇ。
強気に喧嘩を仕掛けるクセに、こんなに脆いトコだってある。
そんな面を知っちまったら、守りたいと思わねぇはずがねぇ。
「けど、俺は…」
『どうしても、なの?』
檸檬は更に強く俺の手を握った。
と、そこに、
「やーっぱり獄寺君だ」
「お母様!!」
『奈々さん……』
「あら?獄寺君ダメじゃない、檸檬ちゃんを泣かせちゃ」
「あっ、いや、その……」
とんでもねー時にお母様に会っちまった。
「ん?ツナ達は?」
「いや、自分はその…帰ろうかと……。だから檸檬、もう泣きやめって…」
俺が檸檬をなだめていると、お母様が言った。
「あら、そのブレスレットじゃない?高校生の不良の方達が上納品として持って来たって言うのは」
「え!!何故それを…?」
「獄寺君の事は、ツナが良く話すもの」
その時、まるで俺の中に電撃が走ったような感じがした。
「10代目が俺の話を?」
「えぇ、ツナの口から獄寺君の名前が出ない日は無いわ」
知らなかった、
10代目はそこまで俺の事を…
なのに俺は……!!
「檸檬、」
『何…?』
「俺、間違ってた。10代目の側にずっといてやる!」
檸檬は目を丸くして俺を見て、にっこり笑った。
『うんっ、当たり前じゃん!』
俺は檸檬と買い物に行った。
菓子類をたくさん買って、10代目の家に戻る。
「10代目ーーーただいまっス!これ、差し入れ!」
『ただいま、ツナ』
「獄寺君!それに檸檬も!」
『あれ?武も来てたんだ』
「おう!……あれ?檸檬、目ェ赤くね?」
『えっ?あ、気のせいだよ!へへっ』
「いよぉ元気か?これからも俺の下で頑張るんだぞ、山もっちゃん!」
獄寺は山本の頭をくしゃっと掴んでそう言った。
「「『(山もっちゃん!!?)』」」
呆然とする檸檬、ツナ、山本。
「さーてと、ダイナマイトの手入れでもすっかな」
「んなーーーっ!!」
「手品かよ」
『(良かった、隼人が戻って)』
皆の影で、檸檬はこっそり安堵した。
---
--------
檸檬の後を追うと、そこにはいつも群れてる爆弾男がいた。
1人がどう、とか話している。
そう言う話題、檸檬は弱いはずなのに……
このお人好し。
そいつの為に嫌な記憶を思い出さなくてもいいんだよ。
しばらくすると、檸檬は泣き出した。
出て行こうと思ったけど、つけてるのバレたら後が厄介だからやめた。
でも、あいつが檸檬を泣かせたのは許せないから、いつか本気で咬み殺してやろうと思った。
『お願いだから…行かないで……』
檸檬の震える声が聞こえた。
そんなこと君に言われたら、誰だって離れたくなくなるよ。
だから、そんな奴にそんな言葉かけないでよ、檸檬。
「けど俺は…」
『どうしても、なの…?』
ムカつく。
何処にでも行けばいい。
檸檬もそんな奴に気を使わなくて済むから。
それでも檸檬は引き止める。
お人好しだから。
理由を聞けばまた、『大事だから』って言うんだろう。
と、その時、
「やーっぱり獄寺君だ」
第3者が現れた。
何か気が抜けたから帰る事にした。
『うんっ、当たり前じゃん!』
最後に聞こえた檸檬の声は、どこか無理してるような気がして。
やっぱり、つらい事を思い出してたんじゃないか……そう、思った。
---
-----
-------------
沢田家、夕飯時。
「あら、浮かない顔して…もしかしてまた“今日の獄寺君”?」
「うん……今日は山本の事突然“山もっちゃん”とか言い出して…それがまたいつも以上に怖くて」
「あらそう」
奈々さんは嬉しそうに笑った。
あたしはその横でため息をつく。
『もーっ、今日は大変だったんだから!』
「え?」
『だって隼人、1人になるとか言い出して』
「はぁっ!?」
「それで檸檬ちゃん、公園で泣いてたの?」
『う……はい、まぁ……』
「優しいのねぇ」
奈々さんに褒められて嬉しくなった。
けどツナは青ざめている。
「どーしよー!!やっぱり獄寺君嫌だったんだーーー!!」
「何言ってんだ、強化プログラムは成功だぞ」
「どこが!!」
『(強化プログラム??)』
よく分かんなかったけど、とりあえず一安心。
だって、隼人はあたしと違うから。
本当に、心の底から、ツナに付いて行こうと決めて傍に居る。
けど、あたしは………
「檸檬…?」
『えっ、あ、何?』
「何か…元気ないなって思って……あ!気のせいだったらごめん!」
「気のせいじゃねーぞ」
『リボーン……!』
何でも見抜かれてそうで、怖い。
あたしの歪んだ感情を、全て見抜かれてそうで。
「獄寺とお前は、何が違ぇんだ?ツナに対する忠誠なんて、誰もお前に求めてねーぞ、檸檬」
「え?忠誠!?」
『そんなんじゃ、ないもんっ…』
「いつまでも、全部隠せると思ってんじゃねーぞ」
「な、何言ってんだよリボーン…」
戸惑うツナの言葉を無視して、リボーンは檸檬の腕を引っ張った。
「来い。ツナもだ」
『ちょ、ちょっと…!』
「おいリボーン!」
ツナの部屋の真ん中に、3人で座る。
檸檬はずっと視線を逸らし、拳を作っていた。
「今ココで、ハッキリさせるぞ。日本でツナを護るのは、お前の意志か?それとも嫌々ながらの任務か?」
「はぁっ!?」
『………任務、だよ』
「檸檬!?」
その返答に驚いたツナは、直後に否定した。
「嘘だよ!だって檸檬、棒倒しの時に俺のこと助けてくれて……それで…俺を護るのは自分の意志だって言ってたんだ!!」
『そんな事……覚えてたの…?』
「あ、えと…うん……何か、印象的で……」
『そっか…』
俯く檸檬にリボーンは問いかける。
「そんなに、“任務”って事にしておきたいのか?」
「え?ど、どーゆー事…??」
「ツナ達と自分との間に、一線を引きたいのか?」
『……引いてるつもり、だよ』
「えぇ!?な、何でそんな…」
「1人は嫌だとか言いながら、何でそんな事しやがる」
リボーンの鋭い質問に、檸檬は更に拳を強く握る。
『だってっ……怖いんだもんっ…!どんなに笑って過ごしてても、どんなに仲良くなっても、離れちゃうかもしれないじゃないっ…!!』
「檸檬…」
『とんだ臆病者でしょ?あたし。けどね、もうあんな喪失感は嫌なの……心を開いた人が離れたり裏切られたり……そんなのは、もう嫌……』
つぅっと流れた一筋の涙が、檸檬の拳にぽたりと落ちた。
『日本で会った人は皆、素敵な人だよ。だから、皆を護るのはあたしの意志。だけどっ…』
「また、失うのが怖いのか。だから“任務だ”なんて嘘ついて、自分を遠ざけようとしてんのか」
『そうだよっ!!なのにっ…どうして?どうして…無償で手を差し伸べるの?あたしなんかを、どうして……』
その時ふと、檸檬は自分の手が握られているのを感じた。
見ると、固く握られた檸檬の拳をツナが解こうとしていて。
『何、して…』
「だってほら、爪……痛くない?」
促されるように拳を解けば、手の平には深い爪痕。
「やっぱり!ばんそうこう……ってか、包帯!」
『だからどうして…』
「ツナに、無償とか有償とかいう言葉は通じねーぞ。第一に、わかんねーからな」
「な!何言ってんだよリボーン!!いや、てゆーか…あんまり良く分かんなかったけど……でも俺は、俺達は…檸檬に出会えて幸せだよ」
救急箱からガーゼと包帯を取り出して、不器用ながらも檸檬の手の平に手当をしつつ、ツナは言う。
「だって檸檬は可愛いし頭良いし、歌も上手いしスポーツも出来るし優しいし、挨拶はちょっと吃驚するけど……でも、会えて嬉しいって思うよ」
『ツナ…』
「だから多分…つーか絶対、檸檬がイタリアにちょっと戻るって言っただけで大騒ぎになっちゃうと思うんだ」
手当を終え、ツナは檸檬を真直ぐ見つめる。
「意志でも任務でもいいよ。どっちだとしても、俺にとって檸檬は、大事な友達だから」
『大事……?短い間しか一緒に過ごしてないのに…?』
「関係ないよ、俺にとっては。だから……出来れば檸檬も、俺のこと…俺達のこと、信じて欲しい」
檸檬の瞳から、大粒の涙があふれた。
『信じても、いいの…?』
「うん」
『あたしの事、受け入れてくれるの…?』
「もちろん」
笑顔でそう言うツナを見て、檸檬の涙は激しさを増した。
『ディーノにね、言われてたの』
「何をだ?」
『信頼できる仲間を、絆を作れって。そんなの無理だと思ってた……あたしは、これ以上何もいらないって』
けど、違ったね。
10代目は…ツナは……
とっても温かい人だったよ。
『知らないうちに、信じてた。無意識に、仲間のままでいたいって思うようになってた。そのくらいココは、居心地が良かったの』
「檸檬…」
『それはダメなんだって、必死に言い聞かせてたのに………今日で終わりみたい』
今日で、終わりにしよう。
傷つく事を恐れるのは、やめよう。
あたしの意志で、全てを護ろう。
自分の居場所を護る為じゃなくて、皆の居場所を護る為に生きよう。
「え、じゃあ……」
『あたしの意志で、あたしはココにいる』
最初から、胸を張ってこの言葉を言いたかった。
つまらない過去に囚われていた。
もう、失わない。
その為に、あたしは強くなって護る。
『ちゃんと家庭教師補佐もします!』
「ああ、頼んだぞ」
「ちょっ…それはタンマ!」
『だって、あたしの来日理由はそれだもん。勿論、あたしは自分の意志で留まるけど、仕事はこなさなくちゃ♪』
「えぇーっ!そんなーっ!!」
ツナはショックを受けてたけど、リボーンはニッと笑っていた。
ちゃんと吐き出せて、良かった…な……。
---「俺達は…檸檬に出会えて幸せだよ」
そんな事を言って貰えるなんて、思ってなかった。
喧嘩ばかりしてきたあたしが、こんな輪の中に入れるなんて。
『(ホントに、ありがとう…)』
ふと、手当てされた手の平を見る。
包帯の不格好さに、クスッと笑みをこぼした。
「………うん」
こんにちは、檸檬です。
冬休みも明けて、ただいま応接室で恭弥にお弁当を食べてもらってます。
お正月でお世話になったんで。(前回参照)
『良かったぁ。恭弥って無言で食べるからさぁ、ちょっと心配になるのよねー』
「しゃべりながら食べるのは嫌だから」
『ふーん。ま、それは予想つくけどね』
「檸檬は、もう食べたの?」
『一応。最近ココでおやつ食べ過ぎたから、ちょっと食事制限してるの』
あたしがそう言うと恭弥は少し顔をしかめた。
え?
何か悪い事言った??
『あ、あのっ、別におやついらないワケじゃなくて、ただ食べ過ぎはよくないから……だけどおやつは欲しいから…』
「そんな事じゃなくて」
恭弥は一言言うと、またぱくぱくと食べ始めた。
何だろ…分かんないよ。
『恭弥、怒った??』
少し不安になる。
原因は全く分かんないけど。
すると恭弥は、横目であたしを見て、ため息をついて、「倒れても知らないからね」と、また一言。
あ、もしかして、もしかすると…
『心配、してくれたとか…?』
「……別に」
『ありがと恭弥!』
ちゅ、
嬉しくなって恭弥の頬にキスをする。
恭弥はまた無言になる。
あぁ、やっちゃったよ。
また怒らせちゃった…(違)
「モンブランならあるけど」
『え?』
急な話題転換にあたしはびっくり。
「食べないの?」
『あ、えと…食べるっ♪』
やっぱり、恭弥は優しいね。
あたしの返事を聞くと、恭弥は草壁さんにモンブランを持って来させた。
『あ、ありがとうございます』
「敬語じゃなくていいよ」
『何で恭弥が言うの?』
「委員長だから」
草壁さんは黙っている。
何か…可哀想に思えて来た。
『あの、草壁さんはどう思いますか?やっぱりあたしは下っ端風紀委員だし、敬語がいいですよね?』
立っている草壁さんを見上げながら言うと、草壁さんは目を丸くした。
あたしの顔、何かついてる?
「別に、どちらでも」
あれ?
何で草壁さんがへりくだってんの??
謎過ぎる……。
『じゃぁ敬語…』
「じゃなくていいって言ってるでしょ。檸檬は僕に逆らうつもり?」
恭弥がまた口出しした。
おとなしくお弁当食べてればいいのにー…
『(やっぱり、我が儘王子だ…)』
あたしはため息をついて草壁さんに言った。
『じゃあ、えっと…出来たらタメ語使います』
恭弥の王子様な性格に、呆れながら笑った。
そしたら草壁さんはまた目を丸くしてあたしを見る。
『(やっぱ何か付いてんのかな?)』
あたしはカバンから手鏡を取り出した。
そうして自分の顔を見ている間に、恭弥が草壁さんを睨んで威嚇していた事なんて、あたしは知らない。
そして、後でこっそり敬語にしておこうと決意したのは別の話。
『美味しかったー!!』
「草壁、片付けといて」
「はい」
『えっ、あたしやるよ!』
「檸檬は座ってていいよ」
『でも…』
「いいから」
恭弥はホントに我が儘王子だ。
草壁さんはホントに偉いなぁ…。
『恭弥、』
「何?」
『草壁さんの事、たまにはいたわってあげてね』
あぁ、檸檬はホントにお人好しだ。
その対象が他に向けば向く程、僕はイライラする。
そんな事、君は知らないでしょ?
「たまには、ね」
『良かった♪んじゃ、あたしはもう帰るね』
「ダメ」
『だ、ダメって何よ!』
「僕が終わるまで待ってて」
『……(この我が儘王子っ!でもまぁ、たまにはいっか)』
檸檬はふーっとため息をつき、雲雀の隣に座り直す。
『しょうがないから残っててあげますよー。でも早く帰りたいから手伝わせてねー』
「……その口調、何かムカつく」
『あ、やっぱり?』
ごめーん、と無邪気に笑う檸檬を見て、雲雀は微かに微笑んだ。
「じゃぁ、檸檬が全部やってよ」
『えぇ~っ!それはヤだ』
檸檬は少し膨れた。
「(そんな事しても可愛いだけなんだけど…)」
『だって、2人でやった方が早く終わるし、楽しいでしょ?』
そう言ってまた笑顔に戻る。
「楽しいかどうかは分からないけどね」
『楽しいよ、恭弥と一緒だもん♪』
檸檬の言葉には、いちいち驚かされる。
そんな事も知らないで隣で笑う檸檬。
手に入れたい、僕だけのものにしたい、
そう、願わずにはいられない。
案の定早く終わった仕事。
僕はバイクの後ろに檸檬を乗せた。
『ホントにいいの?』
「いいよ、仕事手伝ってくれたしね」
『やったー!!』
檸檬は僕の腰に抱きついた。
『ありがとう、恭弥!』
「別に」
バイクのエンジンをかけると、檸檬が少しだけその音に驚く。
「捕まっててね」
『うんっ』
思いきりとばした。
別に早く檸檬をあの家に帰したかったワケじゃなくて、ただとばしたかった。
こんな風に風を切れば、
きっと檸檬は……
『わぁーっ!気持ちーいっ!』
ほら、喜んでくれる。
ところがしばらくして、檸檬は急に叫んだ。
『恭弥、止めてっ!』
「何?」
仕方なく止めてみる。
「どうしたの?檸檬」
『ちょっと用事があって……今日はここまででいいから!ありがとう、また明日っ!』
檸檬は凄いスピードで走り去った。
何だろう…興味があったから、追ってみる事にした。
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バイクに乗って周りを見ていると、あたしの目に隼人が映った。
恭弥にバイクを止めてもらって、別れを告げて、あたしは走った。
何であんなトコに1人でいるの?
どうしてそんな顔をしているの?
1人は怖いから、側に行かなくちゃ。
お節介かもしれないけど、
誰かが1人になるのは………
“あの頃”のあたしと、同じように生きるのは……
あんな、光の届かない世界に生きるのは……
たとえ自分の事じゃなくたって、耐えられない。
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10代目の家でリボーンさんの指導を受けていたのに、10代目に怪我をさせてしまった。
悲鳴が聞こえて来たって言って、やって来た山本に10代目は言った。
---「山本ォ!助かったー!!」
10代目が頼りにしてるのは、俺じゃなくて山本……
「やっぱ俺、1人が向いてんのかな」
『それ……本気?』
独り言に返事をされ驚き見上げると、そこには檸檬がいた。
「なっ…檸檬!!?」
俺につかつかと歩み寄って、真剣な顔でもう一度聞く。
『本気?』
その息は荒かった。
一体どっから走って来たんだか。
そんな遠くから、俺を見つけたっていうのか?
俺が何にも答えないまま檸檬を見ていると、今度は涙目になっていった。
『本気でそんな事、思ってるの…?ねぇ、隼人っ……』
ついに涙が溢れた。
俺は吃驚して立ち上がる。
「なっ、何でオメ-が泣くんだよ!?」
『だって…1人は、怖いんだもんっ……あたしは知ってるもんっ……』
「な、泣くなよ……」
あたふたして、どうすればいいか考えた挙げ句、檸檬の背中を摩る。
「(………そうか…)」
檸檬は、本当の孤独を知ってんだ。
ストリートファイト時代、檸檬は優勝者であると同時に、1番孤独な人間でもあった。
親にすら、見捨てられた存在だったみてーだし、な……
『隼人、行かないで…』
檸檬は震える声で俺に言う。
そして、下に向けていた顔を上げ、俺をまっすぐ見つめた。
『皆が嫌いになっちゃったワケじゃないでしょう?』
「そ、そりゃぁ…」
そうだけどよぉ、
10代目に必要とされてないのに、いる意味はあるのか?
『お願いだから…行かないで……』
開いていた手を握られて、顔が熱くなるのを感じた。
檸檬は昔からよく分かんねぇ。
強気に喧嘩を仕掛けるクセに、こんなに脆いトコだってある。
そんな面を知っちまったら、守りたいと思わねぇはずがねぇ。
「けど、俺は…」
『どうしても、なの?』
檸檬は更に強く俺の手を握った。
と、そこに、
「やーっぱり獄寺君だ」
「お母様!!」
『奈々さん……』
「あら?獄寺君ダメじゃない、檸檬ちゃんを泣かせちゃ」
「あっ、いや、その……」
とんでもねー時にお母様に会っちまった。
「ん?ツナ達は?」
「いや、自分はその…帰ろうかと……。だから檸檬、もう泣きやめって…」
俺が檸檬をなだめていると、お母様が言った。
「あら、そのブレスレットじゃない?高校生の不良の方達が上納品として持って来たって言うのは」
「え!!何故それを…?」
「獄寺君の事は、ツナが良く話すもの」
その時、まるで俺の中に電撃が走ったような感じがした。
「10代目が俺の話を?」
「えぇ、ツナの口から獄寺君の名前が出ない日は無いわ」
知らなかった、
10代目はそこまで俺の事を…
なのに俺は……!!
「檸檬、」
『何…?』
「俺、間違ってた。10代目の側にずっといてやる!」
檸檬は目を丸くして俺を見て、にっこり笑った。
『うんっ、当たり前じゃん!』
俺は檸檬と買い物に行った。
菓子類をたくさん買って、10代目の家に戻る。
「10代目ーーーただいまっス!これ、差し入れ!」
『ただいま、ツナ』
「獄寺君!それに檸檬も!」
『あれ?武も来てたんだ』
「おう!……あれ?檸檬、目ェ赤くね?」
『えっ?あ、気のせいだよ!へへっ』
「いよぉ元気か?これからも俺の下で頑張るんだぞ、山もっちゃん!」
獄寺は山本の頭をくしゃっと掴んでそう言った。
「「『(山もっちゃん!!?)』」」
呆然とする檸檬、ツナ、山本。
「さーてと、ダイナマイトの手入れでもすっかな」
「んなーーーっ!!」
「手品かよ」
『(良かった、隼人が戻って)』
皆の影で、檸檬はこっそり安堵した。
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檸檬の後を追うと、そこにはいつも群れてる爆弾男がいた。
1人がどう、とか話している。
そう言う話題、檸檬は弱いはずなのに……
このお人好し。
そいつの為に嫌な記憶を思い出さなくてもいいんだよ。
しばらくすると、檸檬は泣き出した。
出て行こうと思ったけど、つけてるのバレたら後が厄介だからやめた。
でも、あいつが檸檬を泣かせたのは許せないから、いつか本気で咬み殺してやろうと思った。
『お願いだから…行かないで……』
檸檬の震える声が聞こえた。
そんなこと君に言われたら、誰だって離れたくなくなるよ。
だから、そんな奴にそんな言葉かけないでよ、檸檬。
「けど俺は…」
『どうしても、なの…?』
ムカつく。
何処にでも行けばいい。
檸檬もそんな奴に気を使わなくて済むから。
それでも檸檬は引き止める。
お人好しだから。
理由を聞けばまた、『大事だから』って言うんだろう。
と、その時、
「やーっぱり獄寺君だ」
第3者が現れた。
何か気が抜けたから帰る事にした。
『うんっ、当たり前じゃん!』
最後に聞こえた檸檬の声は、どこか無理してるような気がして。
やっぱり、つらい事を思い出してたんじゃないか……そう、思った。
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沢田家、夕飯時。
「あら、浮かない顔して…もしかしてまた“今日の獄寺君”?」
「うん……今日は山本の事突然“山もっちゃん”とか言い出して…それがまたいつも以上に怖くて」
「あらそう」
奈々さんは嬉しそうに笑った。
あたしはその横でため息をつく。
『もーっ、今日は大変だったんだから!』
「え?」
『だって隼人、1人になるとか言い出して』
「はぁっ!?」
「それで檸檬ちゃん、公園で泣いてたの?」
『う……はい、まぁ……』
「優しいのねぇ」
奈々さんに褒められて嬉しくなった。
けどツナは青ざめている。
「どーしよー!!やっぱり獄寺君嫌だったんだーーー!!」
「何言ってんだ、強化プログラムは成功だぞ」
「どこが!!」
『(強化プログラム??)』
よく分かんなかったけど、とりあえず一安心。
だって、隼人はあたしと違うから。
本当に、心の底から、ツナに付いて行こうと決めて傍に居る。
けど、あたしは………
「檸檬…?」
『えっ、あ、何?』
「何か…元気ないなって思って……あ!気のせいだったらごめん!」
「気のせいじゃねーぞ」
『リボーン……!』
何でも見抜かれてそうで、怖い。
あたしの歪んだ感情を、全て見抜かれてそうで。
「獄寺とお前は、何が違ぇんだ?ツナに対する忠誠なんて、誰もお前に求めてねーぞ、檸檬」
「え?忠誠!?」
『そんなんじゃ、ないもんっ…』
「いつまでも、全部隠せると思ってんじゃねーぞ」
「な、何言ってんだよリボーン…」
戸惑うツナの言葉を無視して、リボーンは檸檬の腕を引っ張った。
「来い。ツナもだ」
『ちょ、ちょっと…!』
「おいリボーン!」
ツナの部屋の真ん中に、3人で座る。
檸檬はずっと視線を逸らし、拳を作っていた。
「今ココで、ハッキリさせるぞ。日本でツナを護るのは、お前の意志か?それとも嫌々ながらの任務か?」
「はぁっ!?」
『………任務、だよ』
「檸檬!?」
その返答に驚いたツナは、直後に否定した。
「嘘だよ!だって檸檬、棒倒しの時に俺のこと助けてくれて……それで…俺を護るのは自分の意志だって言ってたんだ!!」
『そんな事……覚えてたの…?』
「あ、えと…うん……何か、印象的で……」
『そっか…』
俯く檸檬にリボーンは問いかける。
「そんなに、“任務”って事にしておきたいのか?」
「え?ど、どーゆー事…??」
「ツナ達と自分との間に、一線を引きたいのか?」
『……引いてるつもり、だよ』
「えぇ!?な、何でそんな…」
「1人は嫌だとか言いながら、何でそんな事しやがる」
リボーンの鋭い質問に、檸檬は更に拳を強く握る。
『だってっ……怖いんだもんっ…!どんなに笑って過ごしてても、どんなに仲良くなっても、離れちゃうかもしれないじゃないっ…!!』
「檸檬…」
『とんだ臆病者でしょ?あたし。けどね、もうあんな喪失感は嫌なの……心を開いた人が離れたり裏切られたり……そんなのは、もう嫌……』
つぅっと流れた一筋の涙が、檸檬の拳にぽたりと落ちた。
『日本で会った人は皆、素敵な人だよ。だから、皆を護るのはあたしの意志。だけどっ…』
「また、失うのが怖いのか。だから“任務だ”なんて嘘ついて、自分を遠ざけようとしてんのか」
『そうだよっ!!なのにっ…どうして?どうして…無償で手を差し伸べるの?あたしなんかを、どうして……』
その時ふと、檸檬は自分の手が握られているのを感じた。
見ると、固く握られた檸檬の拳をツナが解こうとしていて。
『何、して…』
「だってほら、爪……痛くない?」
促されるように拳を解けば、手の平には深い爪痕。
「やっぱり!ばんそうこう……ってか、包帯!」
『だからどうして…』
「ツナに、無償とか有償とかいう言葉は通じねーぞ。第一に、わかんねーからな」
「な!何言ってんだよリボーン!!いや、てゆーか…あんまり良く分かんなかったけど……でも俺は、俺達は…檸檬に出会えて幸せだよ」
救急箱からガーゼと包帯を取り出して、不器用ながらも檸檬の手の平に手当をしつつ、ツナは言う。
「だって檸檬は可愛いし頭良いし、歌も上手いしスポーツも出来るし優しいし、挨拶はちょっと吃驚するけど……でも、会えて嬉しいって思うよ」
『ツナ…』
「だから多分…つーか絶対、檸檬がイタリアにちょっと戻るって言っただけで大騒ぎになっちゃうと思うんだ」
手当を終え、ツナは檸檬を真直ぐ見つめる。
「意志でも任務でもいいよ。どっちだとしても、俺にとって檸檬は、大事な友達だから」
『大事……?短い間しか一緒に過ごしてないのに…?』
「関係ないよ、俺にとっては。だから……出来れば檸檬も、俺のこと…俺達のこと、信じて欲しい」
檸檬の瞳から、大粒の涙があふれた。
『信じても、いいの…?』
「うん」
『あたしの事、受け入れてくれるの…?』
「もちろん」
笑顔でそう言うツナを見て、檸檬の涙は激しさを増した。
『ディーノにね、言われてたの』
「何をだ?」
『信頼できる仲間を、絆を作れって。そんなの無理だと思ってた……あたしは、これ以上何もいらないって』
けど、違ったね。
10代目は…ツナは……
とっても温かい人だったよ。
『知らないうちに、信じてた。無意識に、仲間のままでいたいって思うようになってた。そのくらいココは、居心地が良かったの』
「檸檬…」
『それはダメなんだって、必死に言い聞かせてたのに………今日で終わりみたい』
今日で、終わりにしよう。
傷つく事を恐れるのは、やめよう。
あたしの意志で、全てを護ろう。
自分の居場所を護る為じゃなくて、皆の居場所を護る為に生きよう。
「え、じゃあ……」
『あたしの意志で、あたしはココにいる』
最初から、胸を張ってこの言葉を言いたかった。
つまらない過去に囚われていた。
もう、失わない。
その為に、あたしは強くなって護る。
『ちゃんと家庭教師補佐もします!』
「ああ、頼んだぞ」
「ちょっ…それはタンマ!」
『だって、あたしの来日理由はそれだもん。勿論、あたしは自分の意志で留まるけど、仕事はこなさなくちゃ♪』
「えぇーっ!そんなーっ!!」
ツナはショックを受けてたけど、リボーンはニッと笑っていた。
ちゃんと吐き出せて、良かった…な……。
---「俺達は…檸檬に出会えて幸せだよ」
そんな事を言って貰えるなんて、思ってなかった。
喧嘩ばかりしてきたあたしが、こんな輪の中に入れるなんて。
『(ホントに、ありがとう…)』
ふと、手当てされた手の平を見る。
包帯の不格好さに、クスッと笑みをこぼした。