未来編①
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聞きたい事がたくさんある。
気になる事もたくさんある。
とにかく俺は今、こんなトコに隠れてる場合じゃないのに……
「“2人”って……」
「あら、違う?」
スパナさんに質問するどころじゃないような、そんな状況になっていた。
メローネ基地
さっきこの部屋に来た女の人、スパナさんは“蜜柑”って呼んでた。
って事は、本当に………
「日本人じゃなかったかしら、ボンゴレ10代目は。」
「(や、やっぱり……!)」
檸檬の双子の妹の…… 蜜柑さんだ…!
そうだと分かった瞬間、俺はラルが言ってた事を思い出した。
---「部隊長ではないがそれと同等の権限を持つ。精製度Aのリングは所持していないが、それと同等の戦闘力を持つ。」
ダメだ、今の俺が適うワケない…!
グローブも死ぬ気丸も取り上げられちゃってるし…
空いてたドラム缶の中に隠れながら、入江正一に捕まる覚悟をした。
けど、ふと気がついた。
蜜柑さんは俺がいるって知ってる。
なのに、立ち上がる気配が全く無い。
「(ど、どーしてだ…?)」
疑問に思い始めた俺の耳に、蜜柑さんとスパナさんの会話の続きが聞こえてくる。
「初めに言ったわよね。」
「…………あ。」
「ココを血で汚すつもりは無い、興味があるのはモスカの技術だけよ。」
「……じゃあ、出してあげていいかな。」
「そちらが良いなら、構わないわ。」
「ありがとう、蜜柑。」
そして、スパナさんは俺が隠れてるドラム缶のフタを、開けた。
---
------
------------
同じ頃、入江はチェルベッロ2人を引き連れて、とある廊下を歩いていた。
「入江様、アレを使われるのですか?」
「何か問題があるかい?」
「この機密を知るのは白蘭様と我々と入江様のみ。これを行えば…ブラックスペルからの抗議は必至です。」
「そんなもの……何もせず失うものよりずっと小さい。」
「それと、後付けで設置された基地機能はマヒするでしょう。」
「君達は…反対なのかい?」
「いいえ、私達には入江様の命令が全てです。」
会話をしながら、入江は数々の認証センサーを通り抜け、奥へ奥へと進んで行く。
そして、最後の静脈認証を終え開けた扉の先にあったのは……
高さ1メートル程の柱が2本。
右手側には匣と太い管があり、左手側にはコンピューターマウスのボールのようなものがあった。
---
-----
----------
「バイシャナ!何処へ行く!!まさか匣兵器を置いて逃げるつもりなのか!!」
「黙れ!!どうしようと我の勝手なり!!」
了平がクワガタを全て撃墜した事により、追いつめられたバイシャナは絨毯に乗って逃げようとした。
しかしそれでも、嵐蛇は了平に向かって行く。
『あの蛇君……良い子なのに…』
「良い子って…」
匣兵器を置いて逃げようとするバイシャナを見て、檸檬はグッと拳を握った。
『……バイシャナっ!』
「なっ…!」
「檸檬…いつの間に!?」
次の瞬間、檸檬はバイシャナの行く手を阻むように、その前方に立っていて。
「DARQ…!退け!!」
『貴方に、逃げる権利なんて無い。』
「なぬ!?」
『あたしに口喧嘩ふっかけといて、クワガタ君いなくなったら退散?……ふざけないでよ!!』
その迫力に圧倒されかけるも、バイシャナは絨毯を止めようとしない。
すると檸檬は、スッと右手を前に出し、目を閉じた。
『見せてあけるわ……貴方が“新しく素晴らしい”と言った、ダークの力を。』
「な、何を…!」
「檸檬っ!?」
突然の言葉に驚く獄寺と山本。
それに構わず檸檬は、伸ばした右手をヒュンと上に振り上げた。
すると……
「ぬうっ…!?」
「ば、バイシャナの位置が…!」
「振り出しに戻った!?」
「檸檬、あまり無理はするなよ。」
『大丈夫です、了平さん。』
了平に笑いかけてから、再びバイシャナを睨む檸檬。
バイシャナ本人は、前に進んでいたハズなのに最初にいた場所に戻った事に、ただ驚愕していた。
「だ…ダーク!!何をした!!」
再度絨毯を進めるも、檸檬が右手を振り上げるだけでバイシャナは元の場所に戻ってしまう。
焦りが表情に出始めたバイシャナに、檸檬は静かに言った。
『貴方は……そこから逃がさない。』
一方、襲いかかって来た蛇に対して、了平は静かに言う。
「殺生はせん、お前の主と共に暫く眠っててくれ。」
噛み付こうとした蛇の顎をかわし、腹の下で構える了平。
「ゆくぞ!極限!!」
極限(マキシマム)イングラム!!!
3連続でその重い拳を叩き込まれた蛇は宙に浮き、
未だ檸檬の力に行く手を阻まれているバイシャナの方へ落ちて行く。
「のわっ、く…来るな!!」
「檸檬っ!巻き添え食うぞ!」
「こっち戻れ!」
『うん…』
ひゅっと姿を消し、檸檬は山本と獄寺の所へ空間移動した。
そして、悲痛な叫びをあげるバイシャナを見つめる。
「我!命だけは所望すーーー!!」
蛇は真直ぐ主の上に落ち、悲鳴は途切れた。
砂煙が起こる中、山本の口笛が響く。
「先輩強いな!」
「バイシャナ本体弱っ。」
「檸檬、体調は平気か?」
『はい、ありがとうございます。』
「よし…次へ急ぐぞ。」
---
-----
------------
「な、何で…!?」
「蜜柑が構わないって言ったから。」
フタを開けられたと思ったら、出て来て良いよなんて言われて。
せめてもの足掻きとして隠れたままでいたら、大丈夫だなんて促されて。
結局……俺は蜜柑さんから少し離れた所に立っている。
高い位置でのツインテールに、ホワイトスペルの隊服。
顔立ちはやっぱり檸檬とそっくりで、10年後の檸檬はこんな感じなのかなって、場違いな事も考えてた。
「座らないのか、ボンゴレ。」
「だ…だって…」
「私を警戒してるのよ。いつ殺されるか分からないって。」
言いながら蜜柑さんは、真直ぐ俺に目を向けた。
ゾクッとしたのは、その瞳から何の感情も読み取れなかった事。
まるで、カメラのレンズみたいな……無機質で透明な感じ。
「違う?」
「あ、えと……」
とにかく、蜜柑さんの銃がケースに入ってるうちに、疑問をぶつけておかなくちゃって思った。
「あ、あの!何で俺を殺さないんですか!?入江正一に報告しないんですか!?どうして俺と…普通に会話してるんですか!?」
「一気に聞くと分かりにくいと思うけど。」
「あ……!」
スパナさんの言葉にハッとして、蜜柑さんを見る。
やばい、失敗した…!?
「………スパナのモスカ技術を見に来ただけだから。報告をしろとの命令を受けていないから。貴方が私と会話しようとしているから。」
「……え、」
「すごいな、蜜柑は。」
目も合わせないで淡々とそう答えた蜜柑さん。
「この解答で満足かしら。」
「あ…はい……」
そこまで話して、ようやく分かってきた。
蜜柑さんは、本当に檸檬を捕まえる事しか考えてない。
檸檬と戦う為に、ココにいるんだって。
「じゃあ、俺がココにいるって報告は絶対しないんですか?」
「入江君がボンゴレの居場所を私に質問したら答えるわ。」
「えっ…!」
「これは、貴方を庇っている事になるのかしらね。どう捉えても構わないけど。」
蜜柑さんの言葉は、1つ1つが冷たかった。
こんなに近くで話すのは、10年前の事を合わせても初めてだ。
だから余計に緊張した。
「これ、設計図。」
「随分簡単に見せるのね。」
「日本人相手だから。それに、蜜柑は正一みたいに頭がいいって聞いてる。」
「そう。」
スパナさんに渡されたストゥラオ・モスカの設計図を、隅々まで読む蜜柑さん。
俺はしばらく黙ってその姿を見てたけど、耐え切れなくなって口を開いた。
「あ、あの!」
「……今度は何。」
「よく喋るな、ボンゴレ。」
「す、すみません……でも気になって。」
俺の苦手な目を向ける蜜柑さんに、思い切って尋ねた。
「蜜柑さんは、どうして檸檬を狙うんですか!?」
「憎いから。」
「どうしてですか!?檸檬は蜜柑さんに何もしてな…」
「貴方にそれを言って、何のメリットがあるの?」
蜜柑さんの眼光が、一瞬だけ鋭くなった。
しかも、何だって?
メリット…??
「私は不毛な問答はしない。」
「えと…じゃあ、檸檬に伝えます!だって、その……実の姉妹で戦うなんて、そんな…」
「説得するとでも?“大人しく殺されろ”って。」
「そ、それはっ…!」
俺は、檸檬にそんな説得はしたくない。
ただ、檸檬と蜜柑さんが戦わないまま仲直りしてくれたらって……
だから、
「どんな説得をするかは、蜜柑さんの話を聞いて俺が決めます。」
「ボンゴレ…」
「……変な人。」
「え?」
「母が視た未来を、私は視せられたの。」
突然話が変わるから、頭が混乱した。
急いで内容を理解して、また蜜柑さんの言葉に耳を傾ける。
「姉さんの力は目覚めた、もう止められない。力の目覚めはすなわち……両親と私の破滅を示すの。」
「そ、それって…」
「私達は、姉さんの“ダークの力”によって殺される……そう、母は視たのよ。」
信じられなかった。
あの檸檬が、血の繋がってる家族を…!?
しかも、“ダークの力”って……今の檸檬が修業してる“第六感”の事じゃ…
「俄に信じがたいでしょうね。けれど、母の未来視は私達にとっては絶対。それに…貴方も知ってるハズよ。」
「な、にを…?」
「姉さんが“ダーク”……つまり“闇”と呼ばれる理由を。」
ずっと前ラルに、通り名の略称だって聞いた。
けど、蜜柑さんの雰囲気は明らかにソレと違う答えを持ってるみたいだった。
「姉さんの力が、人間の闇によるものだからよ。」
「人間の、闇…?」
「それだけじゃない。その力を使いこなす姉さん自身も、“人間の闇”の産物。」
なんて事を言うんだろう、この人は。
だって、あんなに綺麗に笑いかけてくれて、あんなに一生懸命な檸檬が、闇なワケないんだ。
「私がココでいくら何を言っても、貴方には理解不能でしょうね。」
「蜜柑さん…」
「最初から理解させるつもりは無いわ。けど、これだけは覚えておく事ね。」
蜜柑さんの目は、モスカの設計図に向けられたままだった。
俺と話してる間も、読み進めてるみたいだ。
同時に出来るなんて凄いなと思いながら、蜜柑さんの言葉を待つ。
「あの力は、人智を越えているが故に“闇”と呼ばれる。そして、その力を有するが故に姉さんは“ダーク”と呼ばれる。」
「まるで、略称が先に付けられたみたいだな。」
「そうね。」
スパナさんに一言返して、蜜柑さんは俺の方を向いた。
「貴方や、その周りの人間が姉さんをどう扱おうと、それは自由よ。けど、考えてみる事ね。」
「え…?」
「姉さんは“人間の闇”、それを仲間とかいうコミュニティに加えたら、どうなるか。」
その冷たい目に見つめられると、何も反論出来なくなってしまった。
黙り込む俺から視線を退けて、蜜柑さんはスパナさんに設計図を返す。
「よく出来てるのね。」
「え、これだけでいいのか?」
「充分。」
入江君の評価の理由が分かったわ、と言って、蜜柑さんは立ち上がった。
どうやら、本当に俺を殺さないまま退室するようだ。
「あのさ、」
「何か?」
「また……話せるかな。ウチ、蜜柑と機械の話したい。」
「……どうでしょうね。」
小さく返した蜜柑さんは、不意に肩を震わせ天井を見た。
「蜜柑、どうかした?」
「黙ってて。」
スパナさんにピシャッと言い放ち、蜜柑さんは部屋全体を見回す。
「蜜柑さん…?」
「………動く。」
「へ?」
---
------
------------
地下深くのコントロールルームに着いた入江に、チェルベッロが言う。
「バイシャナの無線反応が消えました。」
「見えているさ。ココにも司令室と同じ情報が映し出される。」
白蘭に無理を言って設計した機能をこうも早く使うとは……
そう言いながら、入江は右手中指のマーレリングに黄色い炎を灯した。
そしてそれを、右側の柱にある匣に注入する。
「さぁ、目覚めてくれ。僕の匣………メローネ基地。」
炎のエネルギーを全ブロックに行き渡らせ、ブロックを動かして行く。
基地全体にその震動が伝わって行き、皆に地震かと思わせる。
「随分遊んでくれたな、ボンゴレの鼠ども。今度はお前達が、ボンゴレリングを狩られる番だ!!」
---
------
「何だ!?」
『酷い揺れ…!』
入江の研究所へと急いでいた檸檬達だったが、突然の大きな揺れに思わず立ち止まる。
と、その時。
ガゴン、
「なんと!」
「床が!」
床の高さが急激にズレ始め、ラルを背負った山本だけが下にさがって行く。
『武!!』
「いかん!」
「掴まれ山本!!」
咄嗟に手を伸ばす獄寺だったが、山本はそれを掴まなかった。
山本の立つ床はどんどん下がって行き、代わりに別の壁が降りて来る。
「手遅れだ!腕を持ってかれるぞ!」
『隼人!壁が…!!』
「ちっ…!」
壁が降りきる直前に腕を引っ込めた獄寺。
山本の姿は完全に見えなくなってしまった。
「くそっ、よりによってこんな時に地震とはよ!」
「これではすぐに山本と合流出来そうにないな………ん?檸檬、何してるのだ?」
『見つけ…られない…!』
壁に手を当てて目を閉じていた檸檬は、焦ったような声を出す。
『武が、見つけられない…!!』
「何だって!?」
『もしかしたら、波長を辿ってつれて来れるかと思ったんだけど…全部ぐちゃぐちゃになってるの…』
「どういう事だ?」
壁から手を離した檸檬は、疲れたようにその場に膝をつく。
腕には、じんわりと汗が滲んでいた。
「おい檸檬、大丈夫かよ!?」
『この基地全体に、大きなエネルギーが広がってて、それが波長を乱してる。それに…武も多分、凄い速さで何処かに移動してる。』
「正確な位置取りが掴めない、ということか…」
『波長さえ正確に読めれば、空間移動で連れて来れるんだけど……』
「檸檬っ!?」
『大、丈夫…』
口ではそう言ったものの、檸檬は床に手をついて体を起こしているのが精一杯のようで。
了平が肩を貸し、立ち上がらせながら言う。
「乱れた波長であればある程、自分の体に負荷がかかるんだ、無理をするな檸檬。」
『すみません…』
「ともかく、こうなっては仕方あるまい。作戦に集中するぞ。向こうに白い丸い装置があるはずだ。」
「ああ。」
了平、獄寺、檸檬が進む先のドアが誘導するかのように開く。
と、その瞬間、檸檬は了平の服を握った。
「どうした?檸檬。」
『この、波動は……!』
震え出す檸檬に疑問を抱きながら、了平と獄寺は足を進める。
すると、向こうから足音が1つ。
「なぁおい、今の地震……一体何なんだ?」
その声は、檸檬と獄寺には聞き覚えのあるもので。
向こうからやって来た人物、γと顔を合わせた瞬間、
反射的に全員の体が硬直した。
気になる事もたくさんある。
とにかく俺は今、こんなトコに隠れてる場合じゃないのに……
「“2人”って……」
「あら、違う?」
スパナさんに質問するどころじゃないような、そんな状況になっていた。
メローネ基地
さっきこの部屋に来た女の人、スパナさんは“蜜柑”って呼んでた。
って事は、本当に………
「日本人じゃなかったかしら、ボンゴレ10代目は。」
「(や、やっぱり……!)」
檸檬の双子の妹の…… 蜜柑さんだ…!
そうだと分かった瞬間、俺はラルが言ってた事を思い出した。
---「部隊長ではないがそれと同等の権限を持つ。精製度Aのリングは所持していないが、それと同等の戦闘力を持つ。」
ダメだ、今の俺が適うワケない…!
グローブも死ぬ気丸も取り上げられちゃってるし…
空いてたドラム缶の中に隠れながら、入江正一に捕まる覚悟をした。
けど、ふと気がついた。
蜜柑さんは俺がいるって知ってる。
なのに、立ち上がる気配が全く無い。
「(ど、どーしてだ…?)」
疑問に思い始めた俺の耳に、蜜柑さんとスパナさんの会話の続きが聞こえてくる。
「初めに言ったわよね。」
「…………あ。」
「ココを血で汚すつもりは無い、興味があるのはモスカの技術だけよ。」
「……じゃあ、出してあげていいかな。」
「そちらが良いなら、構わないわ。」
「ありがとう、蜜柑。」
そして、スパナさんは俺が隠れてるドラム缶のフタを、開けた。
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同じ頃、入江はチェルベッロ2人を引き連れて、とある廊下を歩いていた。
「入江様、アレを使われるのですか?」
「何か問題があるかい?」
「この機密を知るのは白蘭様と我々と入江様のみ。これを行えば…ブラックスペルからの抗議は必至です。」
「そんなもの……何もせず失うものよりずっと小さい。」
「それと、後付けで設置された基地機能はマヒするでしょう。」
「君達は…反対なのかい?」
「いいえ、私達には入江様の命令が全てです。」
会話をしながら、入江は数々の認証センサーを通り抜け、奥へ奥へと進んで行く。
そして、最後の静脈認証を終え開けた扉の先にあったのは……
高さ1メートル程の柱が2本。
右手側には匣と太い管があり、左手側にはコンピューターマウスのボールのようなものがあった。
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「バイシャナ!何処へ行く!!まさか匣兵器を置いて逃げるつもりなのか!!」
「黙れ!!どうしようと我の勝手なり!!」
了平がクワガタを全て撃墜した事により、追いつめられたバイシャナは絨毯に乗って逃げようとした。
しかしそれでも、嵐蛇は了平に向かって行く。
『あの蛇君……良い子なのに…』
「良い子って…」
匣兵器を置いて逃げようとするバイシャナを見て、檸檬はグッと拳を握った。
『……バイシャナっ!』
「なっ…!」
「檸檬…いつの間に!?」
次の瞬間、檸檬はバイシャナの行く手を阻むように、その前方に立っていて。
「DARQ…!退け!!」
『貴方に、逃げる権利なんて無い。』
「なぬ!?」
『あたしに口喧嘩ふっかけといて、クワガタ君いなくなったら退散?……ふざけないでよ!!』
その迫力に圧倒されかけるも、バイシャナは絨毯を止めようとしない。
すると檸檬は、スッと右手を前に出し、目を閉じた。
『見せてあけるわ……貴方が“新しく素晴らしい”と言った、ダークの力を。』
「な、何を…!」
「檸檬っ!?」
突然の言葉に驚く獄寺と山本。
それに構わず檸檬は、伸ばした右手をヒュンと上に振り上げた。
すると……
「ぬうっ…!?」
「ば、バイシャナの位置が…!」
「振り出しに戻った!?」
「檸檬、あまり無理はするなよ。」
『大丈夫です、了平さん。』
了平に笑いかけてから、再びバイシャナを睨む檸檬。
バイシャナ本人は、前に進んでいたハズなのに最初にいた場所に戻った事に、ただ驚愕していた。
「だ…ダーク!!何をした!!」
再度絨毯を進めるも、檸檬が右手を振り上げるだけでバイシャナは元の場所に戻ってしまう。
焦りが表情に出始めたバイシャナに、檸檬は静かに言った。
『貴方は……そこから逃がさない。』
一方、襲いかかって来た蛇に対して、了平は静かに言う。
「殺生はせん、お前の主と共に暫く眠っててくれ。」
噛み付こうとした蛇の顎をかわし、腹の下で構える了平。
「ゆくぞ!極限!!」
極限(マキシマム)イングラム!!!
3連続でその重い拳を叩き込まれた蛇は宙に浮き、
未だ檸檬の力に行く手を阻まれているバイシャナの方へ落ちて行く。
「のわっ、く…来るな!!」
「檸檬っ!巻き添え食うぞ!」
「こっち戻れ!」
『うん…』
ひゅっと姿を消し、檸檬は山本と獄寺の所へ空間移動した。
そして、悲痛な叫びをあげるバイシャナを見つめる。
「我!命だけは所望すーーー!!」
蛇は真直ぐ主の上に落ち、悲鳴は途切れた。
砂煙が起こる中、山本の口笛が響く。
「先輩強いな!」
「バイシャナ本体弱っ。」
「檸檬、体調は平気か?」
『はい、ありがとうございます。』
「よし…次へ急ぐぞ。」
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「な、何で…!?」
「蜜柑が構わないって言ったから。」
フタを開けられたと思ったら、出て来て良いよなんて言われて。
せめてもの足掻きとして隠れたままでいたら、大丈夫だなんて促されて。
結局……俺は蜜柑さんから少し離れた所に立っている。
高い位置でのツインテールに、ホワイトスペルの隊服。
顔立ちはやっぱり檸檬とそっくりで、10年後の檸檬はこんな感じなのかなって、場違いな事も考えてた。
「座らないのか、ボンゴレ。」
「だ…だって…」
「私を警戒してるのよ。いつ殺されるか分からないって。」
言いながら蜜柑さんは、真直ぐ俺に目を向けた。
ゾクッとしたのは、その瞳から何の感情も読み取れなかった事。
まるで、カメラのレンズみたいな……無機質で透明な感じ。
「違う?」
「あ、えと……」
とにかく、蜜柑さんの銃がケースに入ってるうちに、疑問をぶつけておかなくちゃって思った。
「あ、あの!何で俺を殺さないんですか!?入江正一に報告しないんですか!?どうして俺と…普通に会話してるんですか!?」
「一気に聞くと分かりにくいと思うけど。」
「あ……!」
スパナさんの言葉にハッとして、蜜柑さんを見る。
やばい、失敗した…!?
「………スパナのモスカ技術を見に来ただけだから。報告をしろとの命令を受けていないから。貴方が私と会話しようとしているから。」
「……え、」
「すごいな、蜜柑は。」
目も合わせないで淡々とそう答えた蜜柑さん。
「この解答で満足かしら。」
「あ…はい……」
そこまで話して、ようやく分かってきた。
蜜柑さんは、本当に檸檬を捕まえる事しか考えてない。
檸檬と戦う為に、ココにいるんだって。
「じゃあ、俺がココにいるって報告は絶対しないんですか?」
「入江君がボンゴレの居場所を私に質問したら答えるわ。」
「えっ…!」
「これは、貴方を庇っている事になるのかしらね。どう捉えても構わないけど。」
蜜柑さんの言葉は、1つ1つが冷たかった。
こんなに近くで話すのは、10年前の事を合わせても初めてだ。
だから余計に緊張した。
「これ、設計図。」
「随分簡単に見せるのね。」
「日本人相手だから。それに、蜜柑は正一みたいに頭がいいって聞いてる。」
「そう。」
スパナさんに渡されたストゥラオ・モスカの設計図を、隅々まで読む蜜柑さん。
俺はしばらく黙ってその姿を見てたけど、耐え切れなくなって口を開いた。
「あ、あの!」
「……今度は何。」
「よく喋るな、ボンゴレ。」
「す、すみません……でも気になって。」
俺の苦手な目を向ける蜜柑さんに、思い切って尋ねた。
「蜜柑さんは、どうして檸檬を狙うんですか!?」
「憎いから。」
「どうしてですか!?檸檬は蜜柑さんに何もしてな…」
「貴方にそれを言って、何のメリットがあるの?」
蜜柑さんの眼光が、一瞬だけ鋭くなった。
しかも、何だって?
メリット…??
「私は不毛な問答はしない。」
「えと…じゃあ、檸檬に伝えます!だって、その……実の姉妹で戦うなんて、そんな…」
「説得するとでも?“大人しく殺されろ”って。」
「そ、それはっ…!」
俺は、檸檬にそんな説得はしたくない。
ただ、檸檬と蜜柑さんが戦わないまま仲直りしてくれたらって……
だから、
「どんな説得をするかは、蜜柑さんの話を聞いて俺が決めます。」
「ボンゴレ…」
「……変な人。」
「え?」
「母が視た未来を、私は視せられたの。」
突然話が変わるから、頭が混乱した。
急いで内容を理解して、また蜜柑さんの言葉に耳を傾ける。
「姉さんの力は目覚めた、もう止められない。力の目覚めはすなわち……両親と私の破滅を示すの。」
「そ、それって…」
「私達は、姉さんの“ダークの力”によって殺される……そう、母は視たのよ。」
信じられなかった。
あの檸檬が、血の繋がってる家族を…!?
しかも、“ダークの力”って……今の檸檬が修業してる“第六感”の事じゃ…
「俄に信じがたいでしょうね。けれど、母の未来視は私達にとっては絶対。それに…貴方も知ってるハズよ。」
「な、にを…?」
「姉さんが“ダーク”……つまり“闇”と呼ばれる理由を。」
ずっと前ラルに、通り名の略称だって聞いた。
けど、蜜柑さんの雰囲気は明らかにソレと違う答えを持ってるみたいだった。
「姉さんの力が、人間の闇によるものだからよ。」
「人間の、闇…?」
「それだけじゃない。その力を使いこなす姉さん自身も、“人間の闇”の産物。」
なんて事を言うんだろう、この人は。
だって、あんなに綺麗に笑いかけてくれて、あんなに一生懸命な檸檬が、闇なワケないんだ。
「私がココでいくら何を言っても、貴方には理解不能でしょうね。」
「蜜柑さん…」
「最初から理解させるつもりは無いわ。けど、これだけは覚えておく事ね。」
蜜柑さんの目は、モスカの設計図に向けられたままだった。
俺と話してる間も、読み進めてるみたいだ。
同時に出来るなんて凄いなと思いながら、蜜柑さんの言葉を待つ。
「あの力は、人智を越えているが故に“闇”と呼ばれる。そして、その力を有するが故に姉さんは“ダーク”と呼ばれる。」
「まるで、略称が先に付けられたみたいだな。」
「そうね。」
スパナさんに一言返して、蜜柑さんは俺の方を向いた。
「貴方や、その周りの人間が姉さんをどう扱おうと、それは自由よ。けど、考えてみる事ね。」
「え…?」
「姉さんは“人間の闇”、それを仲間とかいうコミュニティに加えたら、どうなるか。」
その冷たい目に見つめられると、何も反論出来なくなってしまった。
黙り込む俺から視線を退けて、蜜柑さんはスパナさんに設計図を返す。
「よく出来てるのね。」
「え、これだけでいいのか?」
「充分。」
入江君の評価の理由が分かったわ、と言って、蜜柑さんは立ち上がった。
どうやら、本当に俺を殺さないまま退室するようだ。
「あのさ、」
「何か?」
「また……話せるかな。ウチ、蜜柑と機械の話したい。」
「……どうでしょうね。」
小さく返した蜜柑さんは、不意に肩を震わせ天井を見た。
「蜜柑、どうかした?」
「黙ってて。」
スパナさんにピシャッと言い放ち、蜜柑さんは部屋全体を見回す。
「蜜柑さん…?」
「………動く。」
「へ?」
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地下深くのコントロールルームに着いた入江に、チェルベッロが言う。
「バイシャナの無線反応が消えました。」
「見えているさ。ココにも司令室と同じ情報が映し出される。」
白蘭に無理を言って設計した機能をこうも早く使うとは……
そう言いながら、入江は右手中指のマーレリングに黄色い炎を灯した。
そしてそれを、右側の柱にある匣に注入する。
「さぁ、目覚めてくれ。僕の匣………メローネ基地。」
炎のエネルギーを全ブロックに行き渡らせ、ブロックを動かして行く。
基地全体にその震動が伝わって行き、皆に地震かと思わせる。
「随分遊んでくれたな、ボンゴレの鼠ども。今度はお前達が、ボンゴレリングを狩られる番だ!!」
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「何だ!?」
『酷い揺れ…!』
入江の研究所へと急いでいた檸檬達だったが、突然の大きな揺れに思わず立ち止まる。
と、その時。
ガゴン、
「なんと!」
「床が!」
床の高さが急激にズレ始め、ラルを背負った山本だけが下にさがって行く。
『武!!』
「いかん!」
「掴まれ山本!!」
咄嗟に手を伸ばす獄寺だったが、山本はそれを掴まなかった。
山本の立つ床はどんどん下がって行き、代わりに別の壁が降りて来る。
「手遅れだ!腕を持ってかれるぞ!」
『隼人!壁が…!!』
「ちっ…!」
壁が降りきる直前に腕を引っ込めた獄寺。
山本の姿は完全に見えなくなってしまった。
「くそっ、よりによってこんな時に地震とはよ!」
「これではすぐに山本と合流出来そうにないな………ん?檸檬、何してるのだ?」
『見つけ…られない…!』
壁に手を当てて目を閉じていた檸檬は、焦ったような声を出す。
『武が、見つけられない…!!』
「何だって!?」
『もしかしたら、波長を辿ってつれて来れるかと思ったんだけど…全部ぐちゃぐちゃになってるの…』
「どういう事だ?」
壁から手を離した檸檬は、疲れたようにその場に膝をつく。
腕には、じんわりと汗が滲んでいた。
「おい檸檬、大丈夫かよ!?」
『この基地全体に、大きなエネルギーが広がってて、それが波長を乱してる。それに…武も多分、凄い速さで何処かに移動してる。』
「正確な位置取りが掴めない、ということか…」
『波長さえ正確に読めれば、空間移動で連れて来れるんだけど……』
「檸檬っ!?」
『大、丈夫…』
口ではそう言ったものの、檸檬は床に手をついて体を起こしているのが精一杯のようで。
了平が肩を貸し、立ち上がらせながら言う。
「乱れた波長であればある程、自分の体に負荷がかかるんだ、無理をするな檸檬。」
『すみません…』
「ともかく、こうなっては仕方あるまい。作戦に集中するぞ。向こうに白い丸い装置があるはずだ。」
「ああ。」
了平、獄寺、檸檬が進む先のドアが誘導するかのように開く。
と、その瞬間、檸檬は了平の服を握った。
「どうした?檸檬。」
『この、波動は……!』
震え出す檸檬に疑問を抱きながら、了平と獄寺は足を進める。
すると、向こうから足音が1つ。
「なぁおい、今の地震……一体何なんだ?」
その声は、檸檬と獄寺には聞き覚えのあるもので。
向こうからやって来た人物、γと顔を合わせた瞬間、
反射的に全員の体が硬直した。