日常編
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カタン、
こんにちは、檸檬です。
今、病院の自動販売機で、ホットコーヒーを買ったところです。
『まさか恭弥が入院するとはねぇ…』
自分のアイスティーを飲みつつ、檸檬は、ある病室に入る。
『買って来たよ』
「ありがとう、檸檬」
そこには、我らが風紀委員長様、雲雀恭弥の姿。
話は2時間程前に遡る。
---
---------
檸檬が部屋に掃除機をかけていると、携帯が鳴った。
『もしもし。雨宮です』
「檸檬?」
『恭弥?どしたの?』
「今すぐ並盛病院に来て」
『えっ!?どっか悪いの!!?待ってて、すぐ行くから!』
それで家を飛び出した檸檬。
だが、雲雀はただ風邪を引いただけだった。
---
---------
『具合はどう?』
「特に問題ないよ。ゲームが出来そうだ」
『またやるの?相手が可哀想だよ。せめて恭弥が耳栓をするとかしなくちゃ』
「何で?」
『だって恭弥、耳いいんだもん』
「それはいい事じゃないの?」
『普通はそうだけど…恭弥は特別だもん』
特別、という言葉に少しだけ反応する雲雀。
『すんごく強いじゃん。尊敬しちゃうくらいだよ♪』
「(尊敬……何か違う…)」
『あれ?コーヒー飲まないの?』
「あぁ、飲むよ」
檸檬が買って来たブラックコーヒーを、少しずつ飲む雲雀。
檸檬は、どうしてもブラックは飲めない。
「それにしても、暇だね」
『そうだねぇ。じゃぁさ、あたしとゲームしない!?』
「檸檬と?咬み殺されたいの?」
『違うよ!それとは違うゲーム。相手の考えてる事を当てたら、言う事聞いてもらう!どう?』
期待の瞳で自分を見つめる檸檬に、雲雀は「ヤだ」と言えるはずもなく。
「………いいよ」
『やったぁ!』
まだゲームに勝ってもいないのに、いや、始まってもいないのに、何故か大喜びする檸檬。
「(そんなに勝つ自信あるのかな…)」
何でもいい。
無邪気なその笑顔が僕の薬だって、君に分かるはずがない。
『先攻と後攻、どっちがいい?』
「どっちでも」
僕がそう答えると、檸檬は『う~ん』と唸ってから、先攻を選んだ。
やっぱり勝つ自信があるみたいだ。
なら、試してみよう。
『じゃぁ行くよ!う~んとねぇ………』
檸檬は唸りながら僕の顔を覗き込んだ。
分かるわけ無いのにね。
ま、面白いからいいや、なんて思ってた。
それにしても長いな。
いつまでこうしてるんだろう…。
見つめられるのは別にいいけど、何かこっちも見つめたくなって来る。
そう思って、僕は檸檬を見つめ始めた。
---
------
もはや、檸檬は唸ってもいない。
ただ、僕の顔を、目を、見つめるだけ。
負けないように見つめ返していると、不意に檸檬の顔が赤くなった。
「(あぁ、いつもの“アレ”か)」
どうせまた、“王子様フェイス”がどうのこうの、とか思ってるんだろう。
よく分かんないけど、今僕が先攻だったら、勝っていたかもしれない。
『分かった!!』
「ん?」
突然の声に、少し吃驚した。
『恭弥今、あたしが王子様フェイスだって思ってるって思ってたでしょ!!』
………何か、
「分かりにくいよ、それ。」
『だーかーらー、恭弥は今、あたしが王子様フェイスの事を考えてると思ってた、違う?』
少しだけ驚いたのか、僕は目を見開いていたようだった。
檸檬が勝ち誇った顔を向ける。
『正解だね!恭弥今、動揺してるもん♪わーい!あたしの勝ち~!!』
ちょっと悔しかったけど、檸檬があまりにも嬉しそうだったから、僕は譲った。
「で、何すればいいの?」
『うーんとね…』
檸檬は再び唸りながら、じっくり考え始めた。
「僕は寝るから、思い付いたら起こしてね」
『はーい!……え?起こしていいの?』
「別に、檸檬なら構わないよ」
『ありがと、恭弥……おやすみ』
ちゅ、
目を閉じる最後の最後まで檸檬がいて、
最後に聞く声が檸檬の声、それもいいなと、密かに思った。
---
-------
雲雀が眠りにつこうとしたその時。
コンコン…
『はぁい。恭弥、誰か来た』
「ん?はぁ、面倒臭いな…」
「雲雀君、失礼します」
ドアの向こうから聞こえたのは、院長の声。
「今少々厄介な患者さんがいるのですが、この部屋に連れて来て宜しいでしょうか?」
「『(厄介………?)』」
「いいよ、別に」
何かあったら、咬み殺してしまおう。
そう思った。
「あ、ありがとうございます!」
院長が去っていく音がした。
『いいの?』
「別にいいよ。でもとりあえず、顔は見とかなくちゃね」
『寝ててもいいよ?あたしが相手するから。なんかあったら、それはそれで対応するし』
「別に檸檬は何もしなくていいんだよ。“僕の御見舞い”に来たんだから」
僕が言うと、少し頬を染める檸檬。
『ありがとう。恭弥ってホント、優しいよね』
「そう?」
素っ気無い風に返したけど、それがどれだけ大変か、檸檬には分からないでしょ。
と、そこに
「し、失礼します…」
厄介な患者が入って来た。
『あ!!!』
「えっ!!?」
『ツナ!!!』
「檸檬!!」
「『何でここに!?』」
「ってか、雲雀さん!!」
「やぁ」
恭弥が病院にいた事に、ツナはかなり驚いた様子。
「何で病院に!!?」
『恭弥はね、風邪引いちゃったの。ツナは?』
「ちょっと骨折…」
『え!?大丈夫!!?ちょっと、早くベッドに座って!!』
「だ、大丈夫だよ、軽いから。(ってか、さっきから雲雀さんの視線が怖いーーーー!!!!)」
それでも檸檬はツナに駆け寄った。
「檸檬、俺はいいから……(雲雀さんが怖い-ーー!!!)」
『何でこんな事に!?』
「えっと、ディーノさんに鞭を教えてもらって…そしたらエンツィオが井戸に落ちてでっかくなって…逃げたんだけど、こうなった」
『なっ、も~!!ディーノってば~!!後でちゃんと言っておかなきゃ!!!』
眉間にしわを寄せる檸檬。
「いや、その、ディーノさんは俺を助けてくれたんだけど、俺が転んで…」
「ねぇ」
「(ついに来ちゃった-ー-ー!!!!殺されるーーー!!!)」
『ん?』
普通の反応をする檸檬。
「君が相部屋なんだよね」
「は、はい……」
『ま、まさか…!!』
青ざめる檸檬。雲雀はふっと笑った。
「ゲームをしよう」
『ダメーーーーーっ!!!』
すかさず叫ぶ檸檬。
ツナは呆然とした。
「何で?」
『何でって…ツナだから!』
檸檬の答えにムッとする雲雀。
檸檬は、どうすればいいか考えを巡らせている。
『そうだ!』
檸檬は雲雀の目の前に来て、両手を組んだ。
『さっきあたし、ゲーム勝ったよね?それの条件、今使う!恭弥へのお願いは、入院してる間はツナを傷つけない事。これでいいでしょ?』
ツナは何がなんだか分からずに、ただその光景をハラハラしながら見つめる。
雲雀はしばらく黙っていたが、檸檬があまりに真剣な、と言うより潤んだ目をしていたので、ため息をついた。
「今回だけだよ」
途端に、檸檬の目が輝いた。
『恭弥ありがとうっ!』
ちゅ、
雲雀に抱きつき、その頬にキスを落とした。
「僕はもう寝るから」
『あ、うん、おやすみっ』
---
『はぁ~…』
「あの、檸檬…」
『あ、ツナ。なるべく静かにね』
「うん、何だか良く分かんないけど、とりあえずありがと」
『いいの。ツナの為だもん!だから、しっかりしてね、10代目♪』
「そっ、それは…」
ツナの心境は複雑だった…。
『ふぁ~。あたしも何だか眠くなって来ちゃった。そこのソファで寝るから、何かあったら言ってね』
「う、うん」
檸檬は少しふらつきながら、ソファに座り、上半身だけ倒した。
「俺も寝ようかな…」
ツナも目を閉じた。
が、なかなか眠りに付けなかった。
---
-----
---------
-「檸檬…、おい…檸檬………」
『う…ん?…………!!?』
目を開けると、そこはいつか自分が居た世界。
薄暗い世界。
そして、自分を呼ぶ声の主は…………
忘れてしまいたい、あの男。
『お父さん……』
「昨日は傷が3つだった。今日は、5つだ」
『そ、それは……』
「ペナルティだ。檸檬、5-3はいくつだ?」
体が震えて、声が出せない。
「いくつだ?」
怖い…
「答えろ」
『2です………グハッ…!』
答えた瞬間、檸檬は父親により、殴られる。
「2-1はいくつだ?」
『けほっ…けほっ……ハァッ…』
殴られて、血を吐き出す檸檬。
「答えろ」
『1です……ガッ…!!』
今度は腹部にケリを入れられる。
『クヘッ……ゲホッ…』
痛みから解放されない檸檬の髪の毛を乱暴に掴み、父は言う。
「明日6以上傷を負ったら、その時はまたこうなるからな。覚えておけ、檸檬」
『は…い……』
檸檬の返事を聞くと、父は檸檬を投げ捨て、車で何処かに消えていった。
『もう…嫌だ……』
助けて、
誰か助けて…
あたしは、
こんな所で生きていたくない。
こんな所で死にたくない。
神様、もし居るのなら、
別の世界をあたしに頂戴。
=================
檸檬は眠りながら涙を流していた。
それに気付いたツナが駆け寄る。
「檸檬っ!?どしたんだよ、檸檬!!」
「うるさいよ」
「ひ、雲雀さん!檸檬が…!」
ツナに言われて、雲雀は檸檬を見た。
怯えきった表情の上に、一筋の涙。
「檸檬?」
呼びかけてみるが、檸檬の涙は止まらない。
『………で…』
檸檬が何かを言った。
聞き取ろうと近付いた2人の耳に、今度は叫び声が入り込んで来る。
『来ないでぇぇぇぇ!!!!!!』
「檸檬!?」
ツナは思わず声を上げた。
目の前にいる檸檬は、何かを追い払うように手で風を切っている。
目をつぶっている所から、まだ眠っているようだ。
『もうヤだ!……嫌なの!』
暴れる檸檬。
まるで、激しい夢遊病のように。
雲雀がその手を押さえる。
「雲雀さんっ!?」
「檸檬、起きろ」
『はっ、なして……』
もはや夢と現実の区別もついていない。
「檸檬、」
雲雀はもう一度檸檬の名を呼ぶ。
だが、檸檬の暴走は止まらない。
ツナはただ呆然とする事しか出来なかった。
いつも明るい檸檬が、夢にうなされてるなんて。
「檸檬…!」
静かに、厳かに、そして強く、雲雀は檸檬の名を呼んだ。
『はっ…!!』
檸檬が目を開けた。
その息は荒く、目からこぼれる涙は止まる気配もない。
「檸檬…?」
ツナも恐る恐る檸檬を呼んでみた。
『恭弥………ツナ………』
2人の名前を呼ぶと、檸檬は更にボロボロと涙を流し始めた。
「ちょっ、檸檬!?」
「急にどうかしたの?」
『ごめ…あたしっ……うなされて、た…?』
「うん、かなりね。」
雲雀が答える。
『子供の頃の夢……時々見るの……怖くて、怖くて…何も分からなくなる………』
これはきっと、あたしの心がまだ弱いっていう証拠。
もっと、もっと強くならなくちゃ。
“護りたいものを護る為に”
『ごめんね、もう…大丈夫……』
「まったく……檸檬、」
『はいっ…!』
「もう、それは無しだから」
『うん、分かった…』
「あ、あの、あんまり無理しないでね?」
『うんっ』
檸檬の笑みは、いつものより弱々しかった。
細かく聞かないでいてくれた2人への、感謝の気持ちが込み上げた。
「(いつも、あんなに笑ってるのに…)」
雲雀には、不思議に思えてならなかった。
出会った頃から、檸檬には時々大きく真っ暗な影がチラついていた。
“イタリアからの留学生”……
それで片付けてしまえば、本当にそれだけだ。
しかし檸檬は、もっと別の何かを背負っている。
笑っているのも、時々哀愁を纏うのも、以前聞いた檸檬の過去が、根強く今に影響しているからなのだろう。
本当は、どんな夢だったのか聞いて、現実ではないと否定するべきなのかも知れない。
しかし、問う事が出来なかった。
必死に笑顔を見せようとする檸檬を見ると、どうにも聞く気になれなかった。
---
-----
その後は大変だった。
雲雀さんがまた眠ってくれたのは良かったけど、(流石檸檬!)まず、ランボとイーピンがやってきて、ランボは何故かいきなり手榴弾を取り出し、栓を抜いた。
俺は静かにするように言ったのに、どうして!!?
慌てて窓から投げ捨てる。
病室に戻ると、檸檬が真っ青な顔でイーピンを持って来た。
『ツナーーー!!!助けてっ!イーピンちゃんが!!』
「箇子時限超爆のカウントダウンーーー!!?どうして突然!?」
見れば、イーピンの頬はピンク色に染まっていた。
『恭弥に見とれてたの……』
「何ーーー!!?」
ドオオオオオン!!!!
---
------
------------
「沢田さん!困りますわよ!!病院に爆発物を持ち込んでは!!」
俺はまた看護師さんに怒られた。
「ダメな奴だなぁ。」と、リボーンにまで言われた。
でも、檸檬のおかげで雲雀さんに殺されなくて良かった…。
そして、移った先は獄寺君の隣。
「(やっぱり静かな病院ライフは無理だ-っ)」
「心配すんなツナ。俺が静かな場所を借りといたぞ」
「リボーン…!」
けどそこは、地下5階のワケわかんない所だった…。
---
-------
その頃、雲雀の病室。
『今日はホントにごめんね、恭弥』
「もういいってば。それより…」
『ん?何?』
「ブラックコーヒー、もう1本」
檸檬は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑った。
『うんっ!』
病室を出ようとする檸檬を、雲雀は少し引き止める。
『恭弥??』
「……泣きたい時は、我慢しなくていいから。応接室に来るんだよ」
少し赤くなる檸檬。
『あ、うんっ……ありがとう…』
柔らかく笑って、檸檬は病室の外に駆けて行った。
自販機の前にボーッと立ち、小さく呟く。
『どう、して……』
心臓の辺りで拳を作り、苦しそうに目を細めた。
『頭、ぐちゃぐちゃするよぉ……』
無条件にかけられた優しい言葉に、檸檬はしばらくその場を動けなかった。
こんにちは、檸檬です。
今、病院の自動販売機で、ホットコーヒーを買ったところです。
『まさか恭弥が入院するとはねぇ…』
自分のアイスティーを飲みつつ、檸檬は、ある病室に入る。
『買って来たよ』
「ありがとう、檸檬」
そこには、我らが風紀委員長様、雲雀恭弥の姿。
話は2時間程前に遡る。
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檸檬が部屋に掃除機をかけていると、携帯が鳴った。
『もしもし。雨宮です』
「檸檬?」
『恭弥?どしたの?』
「今すぐ並盛病院に来て」
『えっ!?どっか悪いの!!?待ってて、すぐ行くから!』
それで家を飛び出した檸檬。
だが、雲雀はただ風邪を引いただけだった。
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『具合はどう?』
「特に問題ないよ。ゲームが出来そうだ」
『またやるの?相手が可哀想だよ。せめて恭弥が耳栓をするとかしなくちゃ』
「何で?」
『だって恭弥、耳いいんだもん』
「それはいい事じゃないの?」
『普通はそうだけど…恭弥は特別だもん』
特別、という言葉に少しだけ反応する雲雀。
『すんごく強いじゃん。尊敬しちゃうくらいだよ♪』
「(尊敬……何か違う…)」
『あれ?コーヒー飲まないの?』
「あぁ、飲むよ」
檸檬が買って来たブラックコーヒーを、少しずつ飲む雲雀。
檸檬は、どうしてもブラックは飲めない。
「それにしても、暇だね」
『そうだねぇ。じゃぁさ、あたしとゲームしない!?』
「檸檬と?咬み殺されたいの?」
『違うよ!それとは違うゲーム。相手の考えてる事を当てたら、言う事聞いてもらう!どう?』
期待の瞳で自分を見つめる檸檬に、雲雀は「ヤだ」と言えるはずもなく。
「………いいよ」
『やったぁ!』
まだゲームに勝ってもいないのに、いや、始まってもいないのに、何故か大喜びする檸檬。
「(そんなに勝つ自信あるのかな…)」
何でもいい。
無邪気なその笑顔が僕の薬だって、君に分かるはずがない。
『先攻と後攻、どっちがいい?』
「どっちでも」
僕がそう答えると、檸檬は『う~ん』と唸ってから、先攻を選んだ。
やっぱり勝つ自信があるみたいだ。
なら、試してみよう。
『じゃぁ行くよ!う~んとねぇ………』
檸檬は唸りながら僕の顔を覗き込んだ。
分かるわけ無いのにね。
ま、面白いからいいや、なんて思ってた。
それにしても長いな。
いつまでこうしてるんだろう…。
見つめられるのは別にいいけど、何かこっちも見つめたくなって来る。
そう思って、僕は檸檬を見つめ始めた。
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もはや、檸檬は唸ってもいない。
ただ、僕の顔を、目を、見つめるだけ。
負けないように見つめ返していると、不意に檸檬の顔が赤くなった。
「(あぁ、いつもの“アレ”か)」
どうせまた、“王子様フェイス”がどうのこうの、とか思ってるんだろう。
よく分かんないけど、今僕が先攻だったら、勝っていたかもしれない。
『分かった!!』
「ん?」
突然の声に、少し吃驚した。
『恭弥今、あたしが王子様フェイスだって思ってるって思ってたでしょ!!』
………何か、
「分かりにくいよ、それ。」
『だーかーらー、恭弥は今、あたしが王子様フェイスの事を考えてると思ってた、違う?』
少しだけ驚いたのか、僕は目を見開いていたようだった。
檸檬が勝ち誇った顔を向ける。
『正解だね!恭弥今、動揺してるもん♪わーい!あたしの勝ち~!!』
ちょっと悔しかったけど、檸檬があまりにも嬉しそうだったから、僕は譲った。
「で、何すればいいの?」
『うーんとね…』
檸檬は再び唸りながら、じっくり考え始めた。
「僕は寝るから、思い付いたら起こしてね」
『はーい!……え?起こしていいの?』
「別に、檸檬なら構わないよ」
『ありがと、恭弥……おやすみ』
ちゅ、
目を閉じる最後の最後まで檸檬がいて、
最後に聞く声が檸檬の声、それもいいなと、密かに思った。
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雲雀が眠りにつこうとしたその時。
コンコン…
『はぁい。恭弥、誰か来た』
「ん?はぁ、面倒臭いな…」
「雲雀君、失礼します」
ドアの向こうから聞こえたのは、院長の声。
「今少々厄介な患者さんがいるのですが、この部屋に連れて来て宜しいでしょうか?」
「『(厄介………?)』」
「いいよ、別に」
何かあったら、咬み殺してしまおう。
そう思った。
「あ、ありがとうございます!」
院長が去っていく音がした。
『いいの?』
「別にいいよ。でもとりあえず、顔は見とかなくちゃね」
『寝ててもいいよ?あたしが相手するから。なんかあったら、それはそれで対応するし』
「別に檸檬は何もしなくていいんだよ。“僕の御見舞い”に来たんだから」
僕が言うと、少し頬を染める檸檬。
『ありがとう。恭弥ってホント、優しいよね』
「そう?」
素っ気無い風に返したけど、それがどれだけ大変か、檸檬には分からないでしょ。
と、そこに
「し、失礼します…」
厄介な患者が入って来た。
『あ!!!』
「えっ!!?」
『ツナ!!!』
「檸檬!!」
「『何でここに!?』」
「ってか、雲雀さん!!」
「やぁ」
恭弥が病院にいた事に、ツナはかなり驚いた様子。
「何で病院に!!?」
『恭弥はね、風邪引いちゃったの。ツナは?』
「ちょっと骨折…」
『え!?大丈夫!!?ちょっと、早くベッドに座って!!』
「だ、大丈夫だよ、軽いから。(ってか、さっきから雲雀さんの視線が怖いーーーー!!!!)」
それでも檸檬はツナに駆け寄った。
「檸檬、俺はいいから……(雲雀さんが怖い-ーー!!!)」
『何でこんな事に!?』
「えっと、ディーノさんに鞭を教えてもらって…そしたらエンツィオが井戸に落ちてでっかくなって…逃げたんだけど、こうなった」
『なっ、も~!!ディーノってば~!!後でちゃんと言っておかなきゃ!!!』
眉間にしわを寄せる檸檬。
「いや、その、ディーノさんは俺を助けてくれたんだけど、俺が転んで…」
「ねぇ」
「(ついに来ちゃった-ー-ー!!!!殺されるーーー!!!)」
『ん?』
普通の反応をする檸檬。
「君が相部屋なんだよね」
「は、はい……」
『ま、まさか…!!』
青ざめる檸檬。雲雀はふっと笑った。
「ゲームをしよう」
『ダメーーーーーっ!!!』
すかさず叫ぶ檸檬。
ツナは呆然とした。
「何で?」
『何でって…ツナだから!』
檸檬の答えにムッとする雲雀。
檸檬は、どうすればいいか考えを巡らせている。
『そうだ!』
檸檬は雲雀の目の前に来て、両手を組んだ。
『さっきあたし、ゲーム勝ったよね?それの条件、今使う!恭弥へのお願いは、入院してる間はツナを傷つけない事。これでいいでしょ?』
ツナは何がなんだか分からずに、ただその光景をハラハラしながら見つめる。
雲雀はしばらく黙っていたが、檸檬があまりに真剣な、と言うより潤んだ目をしていたので、ため息をついた。
「今回だけだよ」
途端に、檸檬の目が輝いた。
『恭弥ありがとうっ!』
ちゅ、
雲雀に抱きつき、その頬にキスを落とした。
「僕はもう寝るから」
『あ、うん、おやすみっ』
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『はぁ~…』
「あの、檸檬…」
『あ、ツナ。なるべく静かにね』
「うん、何だか良く分かんないけど、とりあえずありがと」
『いいの。ツナの為だもん!だから、しっかりしてね、10代目♪』
「そっ、それは…」
ツナの心境は複雑だった…。
『ふぁ~。あたしも何だか眠くなって来ちゃった。そこのソファで寝るから、何かあったら言ってね』
「う、うん」
檸檬は少しふらつきながら、ソファに座り、上半身だけ倒した。
「俺も寝ようかな…」
ツナも目を閉じた。
が、なかなか眠りに付けなかった。
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-「檸檬…、おい…檸檬………」
『う…ん?…………!!?』
目を開けると、そこはいつか自分が居た世界。
薄暗い世界。
そして、自分を呼ぶ声の主は…………
忘れてしまいたい、あの男。
『お父さん……』
「昨日は傷が3つだった。今日は、5つだ」
『そ、それは……』
「ペナルティだ。檸檬、5-3はいくつだ?」
体が震えて、声が出せない。
「いくつだ?」
怖い…
「答えろ」
『2です………グハッ…!』
答えた瞬間、檸檬は父親により、殴られる。
「2-1はいくつだ?」
『けほっ…けほっ……ハァッ…』
殴られて、血を吐き出す檸檬。
「答えろ」
『1です……ガッ…!!』
今度は腹部にケリを入れられる。
『クヘッ……ゲホッ…』
痛みから解放されない檸檬の髪の毛を乱暴に掴み、父は言う。
「明日6以上傷を負ったら、その時はまたこうなるからな。覚えておけ、檸檬」
『は…い……』
檸檬の返事を聞くと、父は檸檬を投げ捨て、車で何処かに消えていった。
『もう…嫌だ……』
助けて、
誰か助けて…
あたしは、
こんな所で生きていたくない。
こんな所で死にたくない。
神様、もし居るのなら、
別の世界をあたしに頂戴。
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檸檬は眠りながら涙を流していた。
それに気付いたツナが駆け寄る。
「檸檬っ!?どしたんだよ、檸檬!!」
「うるさいよ」
「ひ、雲雀さん!檸檬が…!」
ツナに言われて、雲雀は檸檬を見た。
怯えきった表情の上に、一筋の涙。
「檸檬?」
呼びかけてみるが、檸檬の涙は止まらない。
『………で…』
檸檬が何かを言った。
聞き取ろうと近付いた2人の耳に、今度は叫び声が入り込んで来る。
『来ないでぇぇぇぇ!!!!!!』
「檸檬!?」
ツナは思わず声を上げた。
目の前にいる檸檬は、何かを追い払うように手で風を切っている。
目をつぶっている所から、まだ眠っているようだ。
『もうヤだ!……嫌なの!』
暴れる檸檬。
まるで、激しい夢遊病のように。
雲雀がその手を押さえる。
「雲雀さんっ!?」
「檸檬、起きろ」
『はっ、なして……』
もはや夢と現実の区別もついていない。
「檸檬、」
雲雀はもう一度檸檬の名を呼ぶ。
だが、檸檬の暴走は止まらない。
ツナはただ呆然とする事しか出来なかった。
いつも明るい檸檬が、夢にうなされてるなんて。
「檸檬…!」
静かに、厳かに、そして強く、雲雀は檸檬の名を呼んだ。
『はっ…!!』
檸檬が目を開けた。
その息は荒く、目からこぼれる涙は止まる気配もない。
「檸檬…?」
ツナも恐る恐る檸檬を呼んでみた。
『恭弥………ツナ………』
2人の名前を呼ぶと、檸檬は更にボロボロと涙を流し始めた。
「ちょっ、檸檬!?」
「急にどうかしたの?」
『ごめ…あたしっ……うなされて、た…?』
「うん、かなりね。」
雲雀が答える。
『子供の頃の夢……時々見るの……怖くて、怖くて…何も分からなくなる………』
これはきっと、あたしの心がまだ弱いっていう証拠。
もっと、もっと強くならなくちゃ。
“護りたいものを護る為に”
『ごめんね、もう…大丈夫……』
「まったく……檸檬、」
『はいっ…!』
「もう、それは無しだから」
『うん、分かった…』
「あ、あの、あんまり無理しないでね?」
『うんっ』
檸檬の笑みは、いつものより弱々しかった。
細かく聞かないでいてくれた2人への、感謝の気持ちが込み上げた。
「(いつも、あんなに笑ってるのに…)」
雲雀には、不思議に思えてならなかった。
出会った頃から、檸檬には時々大きく真っ暗な影がチラついていた。
“イタリアからの留学生”……
それで片付けてしまえば、本当にそれだけだ。
しかし檸檬は、もっと別の何かを背負っている。
笑っているのも、時々哀愁を纏うのも、以前聞いた檸檬の過去が、根強く今に影響しているからなのだろう。
本当は、どんな夢だったのか聞いて、現実ではないと否定するべきなのかも知れない。
しかし、問う事が出来なかった。
必死に笑顔を見せようとする檸檬を見ると、どうにも聞く気になれなかった。
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その後は大変だった。
雲雀さんがまた眠ってくれたのは良かったけど、(流石檸檬!)まず、ランボとイーピンがやってきて、ランボは何故かいきなり手榴弾を取り出し、栓を抜いた。
俺は静かにするように言ったのに、どうして!!?
慌てて窓から投げ捨てる。
病室に戻ると、檸檬が真っ青な顔でイーピンを持って来た。
『ツナーーー!!!助けてっ!イーピンちゃんが!!』
「箇子時限超爆のカウントダウンーーー!!?どうして突然!?」
見れば、イーピンの頬はピンク色に染まっていた。
『恭弥に見とれてたの……』
「何ーーー!!?」
ドオオオオオン!!!!
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「沢田さん!困りますわよ!!病院に爆発物を持ち込んでは!!」
俺はまた看護師さんに怒られた。
「ダメな奴だなぁ。」と、リボーンにまで言われた。
でも、檸檬のおかげで雲雀さんに殺されなくて良かった…。
そして、移った先は獄寺君の隣。
「(やっぱり静かな病院ライフは無理だ-っ)」
「心配すんなツナ。俺が静かな場所を借りといたぞ」
「リボーン…!」
けどそこは、地下5階のワケわかんない所だった…。
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その頃、雲雀の病室。
『今日はホントにごめんね、恭弥』
「もういいってば。それより…」
『ん?何?』
「ブラックコーヒー、もう1本」
檸檬は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑った。
『うんっ!』
病室を出ようとする檸檬を、雲雀は少し引き止める。
『恭弥??』
「……泣きたい時は、我慢しなくていいから。応接室に来るんだよ」
少し赤くなる檸檬。
『あ、うんっ……ありがとう…』
柔らかく笑って、檸檬は病室の外に駆けて行った。
自販機の前にボーッと立ち、小さく呟く。
『どう、して……』
心臓の辺りで拳を作り、苦しそうに目を細めた。
『頭、ぐちゃぐちゃするよぉ……』
無条件にかけられた優しい言葉に、檸檬はしばらくその場を動けなかった。