未来編①
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「いーんですか?残り少ない牛のお肉、こんなに使っちゃって。」
「ええ、むしろ使うなら今日がいいわ。みんな精をつけなくちゃいけないから。」
不思議そうに尋ねるハルに答えたビアンキは、更に付け足す。
「成人組にはお酒もだして、今日はパーッといきましょ!」
「わぁーっ!今夜はパーティーですねっ♪」
「%&*+#!!」
キッチンには、ハルとイーピンがはしゃぐ声が響いた。
決戦前日?
一方…
「やっぱりだっ、ど~しよ~~~!!」
自室で一人頭を抱え込むツナ。
作業も一段落して廊下を歩いていたジャンニーニは、困った様子で部屋から出て来たツナを見て問いかけた。
「どうかなされたんですか?10代目。」
「あっ、ジャンニーニさん…その格好……」
「明日に備え、徹夜で発明ですよ。」
と、そこに獄寺と山本も合流する。
「みんな今日、修業はもうアガリ?」
「バッチリっスよ!」
「俺も、今日は休むだけだぜ!」
そして、山本の肩に乗ったリボーンが。
「いよいよ……明日は殴り込みだな。」
「そ…そうだね……」
そわそわしたツナの様子に疑問符を浮かべる獄寺達。
しかし、
「な、何でもない!俺、ちょっと用があるから……後で!」
「はい!」
「うぃっ。」
走り去って行くツナ。
その胸中は、不安と焦りでいっぱいになっていた。
「(何で…大空戦の時に京子ちゃんから貰ったお守り……失くしてんだよ~~~!!)」
大空戦の前日、屋上で京子に貰ったお守り。
10年後の未来に来てからも、肌身離さず持っていたお守り。
それを、殴り込み前日に失くしてしまった事が、ツナにとって今最も重要な問題だった。
「トイレで落としたのかな………?あ~~~~ど~しよ~~!!!」
---
------
--------------
『ん…うぅ……』
ベッドの上で起き上がった檸檬は、右腕をジーッと見つめてため息を一つついた。
『いたたた……』
知らないうちに右腕を枕にしたまま、うつ伏せで寝ちゃってたみたい。
じ~んと痺れて来る、嫌な感覚。
ま、おかげで疲労は吹っ飛んだみたいだし、問題ないか。
『ふぁ~…』
欠伸をしながら自室を出て、ツナ達のアジトに向かった。
明日は、いよいよメローネ基地に殴り込みに行く日。
京子やハル…それにランボちゃんやイーピンちゃんにも会っておかなくちゃ。
「あ、檸檬様!」
『ジャンニーニ、どしたの?』
廊下でバッタリ遭遇したジャンニーニは、あたしを見て思い出したように駆け寄って来た。
「実は、試着してもらいたいモノがあるんです!」
『試着…?』
「はい、未来の檸檬様から設計図を頂いた、ニュータイプのFブーツです!」
『フレイム…ブーツ……?』
---
------
-------------
「いよいよだな。」
雲雀のアジト、和室にて。
草壁、ラル、雲雀が静かに座る中、了平が言う。
「雲雀!明日は我ら年長組、いいとこ見せんとな!!」
「嫌だ。」
ガチャンッ、
その返事が気に食わない了平は、雲雀に掴み掛かろうとする。
が、草壁が必死に後ろから抑制して。
「落ち着いて笹川さん!」
「放せ!!中坊の時から成長せん男め!!」
横で行われるやや騒がしいやり取りにも関わらず、雲雀は静かに緑茶を啜り、一言。
「僕の目的は君達と群れるところには無い。」
「くっ…」
なおも気に食わない、という表情をしつつ、了平は黙る。
すると今度は草壁が、ラルに問う。
「貴方は明日、どうするのですか?」
「無論出る。戦力は多いに越した事はないからな。」
「その体調で無茶をするな!小僧だってアジトから出るのを断念しているのだぞ!!」
「死にたきゃ死ねばいいさ。」
気遣いの言葉をかけた了平は、直後に聞こえた雲雀の台詞にまたも掴み掛かろうとする。
「雲雀ぃ!!お前には思いやりの心は無いのか!!」
「笹川さん!」
と、そこに。
「盛り上がってるな。」
着物姿のリボーンが、襖を開けて入って来た。
ハイパーコンピューターにより作戦の成功率を出した草壁が、結果を伝える為に呼んだのだ。
敵施設の規模から人数を割り出し、
ミルフィオーレ構成員の平均戦闘力を入力、
更に他の要素を掛け合わせた結果……
「成功率…僅か0.0024%。」
しかも、コレはラルの戦闘力も含めて高く見積もったもの。
その体調が悪化すれば途端に数字は下がって行く。
おまけに、その他の要因は全てボンゴレ側に不利な条件ばかり。
「ま、そんなもんだろーな。」
「ちなみにヴァリアーは成功率が90%を越えないと実行しないと聞く…もっとも、ヴァリアークオリティを持つ彼らの基準ですが。」
「一流のプロってのはそーゆーもんだぞ。確実性を最優先とし、無謀な賭けなどしない…………」
「ふっ…奇跡でも起きなければ成功しない数字か……沢田達には黙っておけ、士気に関わるぞ。」
「今更ショックを与えても、他の選択肢は無いのだしな……」
「賛成です…」
部屋の中に重い空気が流れる。
が、
「ってより、無意味な数字だな。」
リボーンは言う。
完成されたプロなら戦闘力・可能性を数値化する事に意味がある。
しかしツナ達はまだ成長段階にいて、伸び盛り。
数値化出来ない事が、その強さなのだ……と。
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「こちらです。」
ジャンニーニの作業室に案内された檸檬。
その手に渡されたモノは、真っ黒な軽量ブーツだった。
『うわ、軽い…!』
「軽量化の為、衝撃に対する強度は落ちています。ですが耐炎性に関しては万全!表面に特殊なコーティングを施してあります。」
『すごい……あ、コレって何?』
檸檬が指差したのは、くるぶしの辺りに付けられている金属。
円盤の形をしていて、随分と薄い。
「えぇっとですね……」
ジャンニーニはパラパラと資料をめくって、答えた。
「それは、炎を灯す部位です。」
『ここに?』
「檸檬様は能力の関係上、リングを付けられない身……奪った炎をそのアルミ盤に移す事で、Fブーツを活用していたのかと………」
『あ…そっか……』
試着してみたら、驚く程ピッタリで。
あぁ、また未来のあたしに助けられたな……とか思う。
『ジャンニーニ、』
「はい、何でしょうか?」
『ありがと……本当にありがとうっ♪』
ギューッと抱きつくと、ジャンニーニはすっごくあたふたしてた。
「と、とんでもございません!何せ、作りが複雑だったもので……完成がこんなに遅くなってしまい…」
『でも、明日に間に合わせてくれた。』
「檸檬様……」
『明日はコレ履いて、頑張るね!』
「はいっ…お気をつけ下さいっ…!!」
目を潤ませるジャンニーニの背中を、あたしはポンポンと叩いた。
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その頃、未だお守りを見つけられないでいたツナは、もう一度トレーニングルームを見ようと方向転換し、角を曲がる。
と…
「わっ!!!」
「キャッ!」
誰かにぶつかって、尻餅をつく。
痛みを感じてから前を見ると、そこには同じように廊下に座り込んでいる京子が。
「京子ちゃん!!ゴメン!!だ、大丈夫!?」
「うん、ツナ君は?」
「俺は平気……あ!俺、拾うから!」
「一緒にやろ。」
京子が運んでいて、廊下に散らばってしまった洗濯物を、2人で拾う。
お守りを失くした事もあり、京子と目を合わせられないツナ。
そんなツナを少し見つめ、京子は口を開いた。
「ツナ君…ありがとう。」
「いや、完全に俺の不注意だから……」
「え…あ、そうじゃなくて…」
京子が言ったお礼は、工場跡で助けてくれた事へのもの。
長い間言いそびれていたのは、単にタイミングが掴めなかっただけではなくて。
「あの時の事、上手く思い出せてなかったの……どうしても頭が真っ白になっちゃって…」
「それって…記憶が……」
「でもビアンキさんに手伝ってもらって、今日やっと全部思い出せたんだ!」
「…京子ちゃん……」
「やっぱりアレは、ツナ君だった!」
「え…?」
その言葉の意図を汲み取れなず首をかしげるツナに、京子はにこりと笑顔を見せて。
「私、何度も“ツナ君”って、叫んでたね!」
「……うん!///」
京子の柔らかな表情に赤面しながらも、ツナは同じように笑った。
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ジャンニーニの部屋を出た檸檬は、ブーツを自室のベッドの脇に置いて、改めて部屋を見回した。
『(あ……)』
目に留まったのは、初めて部屋に来た時に伏せられていた、写真立て。
未来の檸檬と雲雀が写っているソレは、今はきちんと立てられている。
『あたし…幸せだったのかな……』
キュッと拳を作りながら、ぽつりと呟く。
写真の中の自分は幸せそうに笑って、雲雀の腕に自分のを絡めている。
しかし、今の檸檬の脳裏に浮かぶのは……
---『{信じてるわ…}』
哀しい目をした、未来の自分。
この写真が撮られたのは、一体いつの事なのだろうか。
第六感に注目すらされていない頃なのだろうか。
もしかしたら、蜜柑が積極的に動き出す前かも知れない。
でなければ、
こんな写真は撮れない。
こんな表情にはなれない。
こんな……
『(…恭弥と一緒に…こんなに明るく笑えない……)』
つぅ、と頬を伝う涙。
それを自分で拭おうともせず、檸檬は写真立てに向かって立ち続ける。
何処で、間違ったのだろうか。
何が、間違いだったのだろうか。
何故、その道を選んだのだろうか。
『分からないよっ………どうすれば……』
どうすれば、この写真のような未来に戻れる?
未来のあたしだけじゃない。
あたしを大事に思ってくれる恭弥の、哀しい表情はもうたくさん。
だけどあたしは…もしかしたら………
『また、失うかも知れないよ……?』
保証は無いんだよ。
だから、怖いよ。
でも、助けを求めるなんて…そんな事………
「檸檬…いる?」
不意をつくような、ドアの外からの声。
恭弥の、声。
『あ、うんっ……待って…!』
慌ててグッと涙を拭って、深呼吸を一つ。
『なーに?』
扉を開ける。
「LIGHTの事でいくつか…………檸檬…?」
『えっ?な、何?』
スッと頬に触れる、恭弥の手。
また何か見抜かれそうで、ビクビクする。
「……はぁ。」
『な、何でため息!?』
聞き返すあたしを、恭弥は何も言わないまま抱き寄せた。
『ちょっ…恭弥!!?///急にどうしt……』
「泣くなら、来なよ。」
『………えっ…』
「檸檬が泣くのは、僕の前でだけ………そうでしょ?」
あぁ、ダメだ…
また見抜かれちゃったみたい。
そんなにあったかくしないで、
じゃないとまた…
『………すんっ……ぅ…』
恭弥にギュゥゥっと抱きついて、顔をうずめる。
『…怖い…よ……』
「…うん、」
『たまに、ね……飲み込まれそ……にね、なるの……』
「うん…」
あーあ、カッコ悪いよ、あたし。
こんなに弱い心を持ってるなんて、バカみたい。
『ダメだよねっ……あたしが……あたし自身が…自分の力に怯えるなんてっ…』
寄りかからないと、潰れそうになるなんて。
「いいんだよ、檸檬……」
優しく頭を撫でられると、ますます止まらなくなる涙。
「悪い、なんて誰が言った?」
『……でも、』
「少なくとも僕は、嬉しいよ。」
嬉し、い…?
「僕にだけ…こうして甘えてればいい……」
『ぅ……んもーっ…///』
相変わらず、我が儘王子だなぁ……なんて。
でもそれが、あたしにとって何より嬉しい言葉だったりして。
『ありがと…恭弥……』
「うん。」
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「私、変なんだよ。今日は何度も何度も自分から思い出してるの。」
「あ、あの戦いを?こ…怖くならない?」
「うん!」
記憶が薄れる程の恐怖を覚えた工場跡での出来事。
しかし、蘇って来たビジョンには、頼もしい人の姿もあった。
だから今は、怖くならない。
恐怖と同時にそこにあったのは、恐怖から救ってくれた存在だった……
「(可愛い…やっぱり京子ちゃんは太陽だ……///)」
京子の笑顔に見惚れるツナは、ふとその手元に視線を落とし、叫んだ。
「あったー!!お守りー!!」
「これ?シャワー室に落ちてたから届けようと……」
「着替える時ポケットから落ちたんだ!!」
いつもは大事にしてるんだよ、と慌てて主張するツナ。
しかし京子は既にリボーンから聞いていたようで、落とした事を怒る様子もなく。
「でね、皆で相談してジャケットにコレをつけてみました!」
ちょうど手元にあったツナの上着を広げる京子。
「じゃじゃーん!お守り用、内ポケット~~♪」
「おおっ!前からお守り入れる場所欲しかったんだ!!いいよコレ!フタもあるから落ちないし!!穴も塞がってる~!!」
「同じ色の糸がなくて、ちょっと目立っちゃうけど。」
「ありがとう!!明日はこれ着て…と………あ、」
京子達には作戦は内緒だった事を思い出し、ハッとするツナ。
しかし、大まかには知られているようで。
「明日は過去に帰る為の大事な日なんでしょ?みんな知ってるよ?」
「そ…そっか……」
少し黙ったツナは、グッと拳を作って。
「京子ちゃん……俺、必ずみんなを過去に……」
“過去に帰す為に、何としても成功させる”
その決意を、言葉にしようとした……のだが、
「無茶しないで…」
「え…!?」
心配そうに自分の顔を覗き込む京子に、思考回路が一瞬フリーズする。
「そ、そーだよね!無茶したら意味ないよね!!」
自分だって、あれほど檸檬に「無理しないで欲しい」と言っていたのに。
そう思ったツナは恥ずかしそうに頭を掻く。
ところが、その言葉を放った京子自身も、自分で疑問に思っていた。
「(頑張って、って言おうと思ってたのに…)」
と、そこに。
「10代目~!!夕飯っスよ~~!」
「みんな!!」
獄寺と山本、ランボにイーピンが呼びに来た。
「先に行ってていいよ。私、これを置いて来るから。」
「あ、手伝おうか!?」
「いーの、大丈夫だよ。ありがとうツナ君。」
京子の笑顔に押され、ツナはそのままキッチンへ向かう事にした。
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『ところで……恭弥、蜜柑の事で話があったんじゃ…』
「あぁ、そうだね。」
あたしの部屋のソファに、2人で座る。
「ライトがIQ200だって事は知ってるよね。」
『うん。だから白蘭に買われたんじゃないかとも思ってるんだけど……』
「檸檬の命を狙い続けているだけあって、並の戦闘力じゃない。勝てない相手じゃないけどね。」
やっぱり、凄いんだ。
あたしが2週間以上前に戦った時のは、蜜柑の実力全部ってワケじゃないんだ…。
それに、恭弥が“並の戦闘力じゃない”とか言うなんて……
「最近、独自で匣を製作してるって話だよ。」
『ど、独自!?自分で作ってるってこと!!?』
「どんな物かは不明だけどね。」
3人の科学者と同じように、蜜柑も匣を作っている…?
もし、それが普通の匣よりも強力なパワーや補助能力があったとしたら……
『……凄いね、蜜柑は。』
「檸檬…?」
『それってきっと、あたしを殺す為だけに研究して、作っちゃったんでしょ?そこまで恨まれてるのかな、あたし……』
何も、蜜柑に害になるような事…してないハズなのに。
生きてるだけで、害なのかな……
「檸檬、やっぱり…」
『ううん、行くよ。』
目を見開く恭弥に、笑いかける。
『だって!あたしの方がお姉ちゃんだもん♪妹の面倒くらい、自分でみるよ。』
「……そんな次元の問題じゃないでしょ。」
『いーの!大丈夫だよ、恭弥は……自分の事に専念して。ね?』
そう言ったら、恭弥はまた驚いた顔であたしを見る。
『分かるよ、恭弥。ずっと一緒にいたんだもん。10年の差があっても変わらない。』
「檸檬……」
『今の恭弥、難しい事たくさん考えてる。あ、言わなくていいよ、全然。あたしが聞いて、恭弥の仕事に狂いが出ちゃったら嫌だからさ。』
「………ホントに、檸檬は檸檬だね…」
『え?』
「…何でも無い。じゃあ、僕は戻るよ。」
『うんっ、色々ありがと!』
パタンと閉じられたドアを、少しの間見つめる。
『…………あっ!いけない!皆のトコ行かなくちゃ!』
ツナ達のアジトへと急ぐ。
と、その途中で、お酒の瓶を持った草壁さんに会った。
『あ、草壁さんっ!』
「檸檬さん、もう皆さん夕飯を食べてますよ。」
『大変っ!急がなくっちゃ!!』
あたしは、更に走る速度を上げようとする。
けど、
「檸檬さん…!」
『あ、はいっ!何ですか!?』
「ライトの話は、恭さんから……」
『はい、聞きました。』
「そうですか。ではもう一つだけ。」
『もう一つ…??』
首を傾げるあたしに、草壁さんは話し始めた。
「リバウンド症状を抑える、あの薬のことですが……」
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「何だと!?」
同刻、ミルフィオーレ・メローネ基地。
耳に入った情報に、入江は眼光を鋭くさせる。
「ボンゴレのアジトを、つきとめた?」
「はい。」
返事をしたチェルベッロは、グロ・キシニアの眼球の動きから発信機を仕掛けた事を聞き出せた、と報告する。
彼女達2人と第8部隊副隊長で検討し、信憑性が高いと判断された、と。
「……で、どこだ?」
「ポイント座標A24.3-36.2、並盛の南西ですが、更地となっていて建物の存在しない地点です。」
その言葉に、入江だけでなく他の人物…
白いターバンを頭に巻いた年配の男、
アフロヘアーの派手な女、
黒髪で4本の剣を腰にさす男、
そして蜜柑をも反応を示す。
「そうか、そういう事か……何故、気がつかなかったんだ……ボンゴレのアジトも、地下にあると!!」
「いかがされますか?」
チェルベッロの問いに、入江は静かに聞き返す。
「準備は?」
「既に迎撃大隊のスタンパイ出来ております。すぐにでも出動させる事は可能です。」
「よし…」
そして、指令が下される。
「直ちにボンゴレアジトへ突入せよ!!」
司令室の空気が、張りつめる。
そんな中、蜜柑は消えるように呟く。
「見つかったのね……」
すると、その声に反応するかのように、隣に居た男……幻騎士が問う。
「共に突入するのか?」
「…まさか。」
小さく鼻で笑い、続ける蜜柑。
「私の目的はボンゴレを潰す事じゃない………。DARQが見つかり次第、向かうわ。」
「そうか。」
会話の終わりを察した蜜柑は、それほど古くない記憶を掘り起こす。
壊滅したボンゴレ本部に最後まで残っていた10年後の檸檬と、対峙した時の記憶を。
---『やっと来た。待ってたわ、蜜柑…』
不敵な笑みを見せる檸檬に、蜜柑は言う。
---「こんなにいるのに、あまりダメージ負わなかったみたいね。」
---『だってあたし、蜜柑を待ってたんだもの。』
だから、400人近いミルフィオーレの敵など、眼中に無い……
そう、檸檬は返した。
---『じゃあ、そろそろ始める?』
---「……そうね。」
周りにいる隊員達に、手を出すな、と合図しておく蜜柑。
---『“あたし達”の決着、つけよっか!』
---「…望む所。」
自分はあの時、姉に勝った。
その結果として、生命維持装置付きで檸檬は捕獲されていた。
しかし今、再び自分は姉と戦おうとしている。
入れ替わった、10年前の檸檬と。
「(まさか、ね……)」
あの瞬間から、引っかかっていた。
“あたし達の戦い”という言葉に。
まるで、過去の檸檬が戦いを引き継ぐのが分かっていたかのような物言いに。
しかし、檸檬の第六感が未来視の力ではない事は、蜜柑が一番良く知っている。
それに、経験が少ない過去の檸檬がやって来たとして、跳ね返すのは容易い。
「(私は、ただ待てばいい………ダークが現れるのを…)」
---
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「こっち来てから初めて食った!って気がします!!」
「あれ?獄寺君も山本も…顔赤くない??」
「いやー、このジュース熱くって火照るんスよ!」
「だな!」
「嘘つけーー!!!」
ボンゴレアジトで豪華な夕飯をみんなで食べるツナ達は、知らない。
入江が突入命令を出した事を。
全てが動き出してしまった、という事を。
「ええ、むしろ使うなら今日がいいわ。みんな精をつけなくちゃいけないから。」
不思議そうに尋ねるハルに答えたビアンキは、更に付け足す。
「成人組にはお酒もだして、今日はパーッといきましょ!」
「わぁーっ!今夜はパーティーですねっ♪」
「%&*+#!!」
キッチンには、ハルとイーピンがはしゃぐ声が響いた。
決戦前日?
一方…
「やっぱりだっ、ど~しよ~~~!!」
自室で一人頭を抱え込むツナ。
作業も一段落して廊下を歩いていたジャンニーニは、困った様子で部屋から出て来たツナを見て問いかけた。
「どうかなされたんですか?10代目。」
「あっ、ジャンニーニさん…その格好……」
「明日に備え、徹夜で発明ですよ。」
と、そこに獄寺と山本も合流する。
「みんな今日、修業はもうアガリ?」
「バッチリっスよ!」
「俺も、今日は休むだけだぜ!」
そして、山本の肩に乗ったリボーンが。
「いよいよ……明日は殴り込みだな。」
「そ…そうだね……」
そわそわしたツナの様子に疑問符を浮かべる獄寺達。
しかし、
「な、何でもない!俺、ちょっと用があるから……後で!」
「はい!」
「うぃっ。」
走り去って行くツナ。
その胸中は、不安と焦りでいっぱいになっていた。
「(何で…大空戦の時に京子ちゃんから貰ったお守り……失くしてんだよ~~~!!)」
大空戦の前日、屋上で京子に貰ったお守り。
10年後の未来に来てからも、肌身離さず持っていたお守り。
それを、殴り込み前日に失くしてしまった事が、ツナにとって今最も重要な問題だった。
「トイレで落としたのかな………?あ~~~~ど~しよ~~!!!」
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『ん…うぅ……』
ベッドの上で起き上がった檸檬は、右腕をジーッと見つめてため息を一つついた。
『いたたた……』
知らないうちに右腕を枕にしたまま、うつ伏せで寝ちゃってたみたい。
じ~んと痺れて来る、嫌な感覚。
ま、おかげで疲労は吹っ飛んだみたいだし、問題ないか。
『ふぁ~…』
欠伸をしながら自室を出て、ツナ達のアジトに向かった。
明日は、いよいよメローネ基地に殴り込みに行く日。
京子やハル…それにランボちゃんやイーピンちゃんにも会っておかなくちゃ。
「あ、檸檬様!」
『ジャンニーニ、どしたの?』
廊下でバッタリ遭遇したジャンニーニは、あたしを見て思い出したように駆け寄って来た。
「実は、試着してもらいたいモノがあるんです!」
『試着…?』
「はい、未来の檸檬様から設計図を頂いた、ニュータイプのFブーツです!」
『フレイム…ブーツ……?』
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「いよいよだな。」
雲雀のアジト、和室にて。
草壁、ラル、雲雀が静かに座る中、了平が言う。
「雲雀!明日は我ら年長組、いいとこ見せんとな!!」
「嫌だ。」
ガチャンッ、
その返事が気に食わない了平は、雲雀に掴み掛かろうとする。
が、草壁が必死に後ろから抑制して。
「落ち着いて笹川さん!」
「放せ!!中坊の時から成長せん男め!!」
横で行われるやや騒がしいやり取りにも関わらず、雲雀は静かに緑茶を啜り、一言。
「僕の目的は君達と群れるところには無い。」
「くっ…」
なおも気に食わない、という表情をしつつ、了平は黙る。
すると今度は草壁が、ラルに問う。
「貴方は明日、どうするのですか?」
「無論出る。戦力は多いに越した事はないからな。」
「その体調で無茶をするな!小僧だってアジトから出るのを断念しているのだぞ!!」
「死にたきゃ死ねばいいさ。」
気遣いの言葉をかけた了平は、直後に聞こえた雲雀の台詞にまたも掴み掛かろうとする。
「雲雀ぃ!!お前には思いやりの心は無いのか!!」
「笹川さん!」
と、そこに。
「盛り上がってるな。」
着物姿のリボーンが、襖を開けて入って来た。
ハイパーコンピューターにより作戦の成功率を出した草壁が、結果を伝える為に呼んだのだ。
敵施設の規模から人数を割り出し、
ミルフィオーレ構成員の平均戦闘力を入力、
更に他の要素を掛け合わせた結果……
「成功率…僅か0.0024%。」
しかも、コレはラルの戦闘力も含めて高く見積もったもの。
その体調が悪化すれば途端に数字は下がって行く。
おまけに、その他の要因は全てボンゴレ側に不利な条件ばかり。
「ま、そんなもんだろーな。」
「ちなみにヴァリアーは成功率が90%を越えないと実行しないと聞く…もっとも、ヴァリアークオリティを持つ彼らの基準ですが。」
「一流のプロってのはそーゆーもんだぞ。確実性を最優先とし、無謀な賭けなどしない…………」
「ふっ…奇跡でも起きなければ成功しない数字か……沢田達には黙っておけ、士気に関わるぞ。」
「今更ショックを与えても、他の選択肢は無いのだしな……」
「賛成です…」
部屋の中に重い空気が流れる。
が、
「ってより、無意味な数字だな。」
リボーンは言う。
完成されたプロなら戦闘力・可能性を数値化する事に意味がある。
しかしツナ達はまだ成長段階にいて、伸び盛り。
数値化出来ない事が、その強さなのだ……と。
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「こちらです。」
ジャンニーニの作業室に案内された檸檬。
その手に渡されたモノは、真っ黒な軽量ブーツだった。
『うわ、軽い…!』
「軽量化の為、衝撃に対する強度は落ちています。ですが耐炎性に関しては万全!表面に特殊なコーティングを施してあります。」
『すごい……あ、コレって何?』
檸檬が指差したのは、くるぶしの辺りに付けられている金属。
円盤の形をしていて、随分と薄い。
「えぇっとですね……」
ジャンニーニはパラパラと資料をめくって、答えた。
「それは、炎を灯す部位です。」
『ここに?』
「檸檬様は能力の関係上、リングを付けられない身……奪った炎をそのアルミ盤に移す事で、Fブーツを活用していたのかと………」
『あ…そっか……』
試着してみたら、驚く程ピッタリで。
あぁ、また未来のあたしに助けられたな……とか思う。
『ジャンニーニ、』
「はい、何でしょうか?」
『ありがと……本当にありがとうっ♪』
ギューッと抱きつくと、ジャンニーニはすっごくあたふたしてた。
「と、とんでもございません!何せ、作りが複雑だったもので……完成がこんなに遅くなってしまい…」
『でも、明日に間に合わせてくれた。』
「檸檬様……」
『明日はコレ履いて、頑張るね!』
「はいっ…お気をつけ下さいっ…!!」
目を潤ませるジャンニーニの背中を、あたしはポンポンと叩いた。
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その頃、未だお守りを見つけられないでいたツナは、もう一度トレーニングルームを見ようと方向転換し、角を曲がる。
と…
「わっ!!!」
「キャッ!」
誰かにぶつかって、尻餅をつく。
痛みを感じてから前を見ると、そこには同じように廊下に座り込んでいる京子が。
「京子ちゃん!!ゴメン!!だ、大丈夫!?」
「うん、ツナ君は?」
「俺は平気……あ!俺、拾うから!」
「一緒にやろ。」
京子が運んでいて、廊下に散らばってしまった洗濯物を、2人で拾う。
お守りを失くした事もあり、京子と目を合わせられないツナ。
そんなツナを少し見つめ、京子は口を開いた。
「ツナ君…ありがとう。」
「いや、完全に俺の不注意だから……」
「え…あ、そうじゃなくて…」
京子が言ったお礼は、工場跡で助けてくれた事へのもの。
長い間言いそびれていたのは、単にタイミングが掴めなかっただけではなくて。
「あの時の事、上手く思い出せてなかったの……どうしても頭が真っ白になっちゃって…」
「それって…記憶が……」
「でもビアンキさんに手伝ってもらって、今日やっと全部思い出せたんだ!」
「…京子ちゃん……」
「やっぱりアレは、ツナ君だった!」
「え…?」
その言葉の意図を汲み取れなず首をかしげるツナに、京子はにこりと笑顔を見せて。
「私、何度も“ツナ君”って、叫んでたね!」
「……うん!///」
京子の柔らかな表情に赤面しながらも、ツナは同じように笑った。
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ジャンニーニの部屋を出た檸檬は、ブーツを自室のベッドの脇に置いて、改めて部屋を見回した。
『(あ……)』
目に留まったのは、初めて部屋に来た時に伏せられていた、写真立て。
未来の檸檬と雲雀が写っているソレは、今はきちんと立てられている。
『あたし…幸せだったのかな……』
キュッと拳を作りながら、ぽつりと呟く。
写真の中の自分は幸せそうに笑って、雲雀の腕に自分のを絡めている。
しかし、今の檸檬の脳裏に浮かぶのは……
---『{信じてるわ…}』
哀しい目をした、未来の自分。
この写真が撮られたのは、一体いつの事なのだろうか。
第六感に注目すらされていない頃なのだろうか。
もしかしたら、蜜柑が積極的に動き出す前かも知れない。
でなければ、
こんな写真は撮れない。
こんな表情にはなれない。
こんな……
『(…恭弥と一緒に…こんなに明るく笑えない……)』
つぅ、と頬を伝う涙。
それを自分で拭おうともせず、檸檬は写真立てに向かって立ち続ける。
何処で、間違ったのだろうか。
何が、間違いだったのだろうか。
何故、その道を選んだのだろうか。
『分からないよっ………どうすれば……』
どうすれば、この写真のような未来に戻れる?
未来のあたしだけじゃない。
あたしを大事に思ってくれる恭弥の、哀しい表情はもうたくさん。
だけどあたしは…もしかしたら………
『また、失うかも知れないよ……?』
保証は無いんだよ。
だから、怖いよ。
でも、助けを求めるなんて…そんな事………
「檸檬…いる?」
不意をつくような、ドアの外からの声。
恭弥の、声。
『あ、うんっ……待って…!』
慌ててグッと涙を拭って、深呼吸を一つ。
『なーに?』
扉を開ける。
「LIGHTの事でいくつか…………檸檬…?」
『えっ?な、何?』
スッと頬に触れる、恭弥の手。
また何か見抜かれそうで、ビクビクする。
「……はぁ。」
『な、何でため息!?』
聞き返すあたしを、恭弥は何も言わないまま抱き寄せた。
『ちょっ…恭弥!!?///急にどうしt……』
「泣くなら、来なよ。」
『………えっ…』
「檸檬が泣くのは、僕の前でだけ………そうでしょ?」
あぁ、ダメだ…
また見抜かれちゃったみたい。
そんなにあったかくしないで、
じゃないとまた…
『………すんっ……ぅ…』
恭弥にギュゥゥっと抱きついて、顔をうずめる。
『…怖い…よ……』
「…うん、」
『たまに、ね……飲み込まれそ……にね、なるの……』
「うん…」
あーあ、カッコ悪いよ、あたし。
こんなに弱い心を持ってるなんて、バカみたい。
『ダメだよねっ……あたしが……あたし自身が…自分の力に怯えるなんてっ…』
寄りかからないと、潰れそうになるなんて。
「いいんだよ、檸檬……」
優しく頭を撫でられると、ますます止まらなくなる涙。
「悪い、なんて誰が言った?」
『……でも、』
「少なくとも僕は、嬉しいよ。」
嬉し、い…?
「僕にだけ…こうして甘えてればいい……」
『ぅ……んもーっ…///』
相変わらず、我が儘王子だなぁ……なんて。
でもそれが、あたしにとって何より嬉しい言葉だったりして。
『ありがと…恭弥……』
「うん。」
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「私、変なんだよ。今日は何度も何度も自分から思い出してるの。」
「あ、あの戦いを?こ…怖くならない?」
「うん!」
記憶が薄れる程の恐怖を覚えた工場跡での出来事。
しかし、蘇って来たビジョンには、頼もしい人の姿もあった。
だから今は、怖くならない。
恐怖と同時にそこにあったのは、恐怖から救ってくれた存在だった……
「(可愛い…やっぱり京子ちゃんは太陽だ……///)」
京子の笑顔に見惚れるツナは、ふとその手元に視線を落とし、叫んだ。
「あったー!!お守りー!!」
「これ?シャワー室に落ちてたから届けようと……」
「着替える時ポケットから落ちたんだ!!」
いつもは大事にしてるんだよ、と慌てて主張するツナ。
しかし京子は既にリボーンから聞いていたようで、落とした事を怒る様子もなく。
「でね、皆で相談してジャケットにコレをつけてみました!」
ちょうど手元にあったツナの上着を広げる京子。
「じゃじゃーん!お守り用、内ポケット~~♪」
「おおっ!前からお守り入れる場所欲しかったんだ!!いいよコレ!フタもあるから落ちないし!!穴も塞がってる~!!」
「同じ色の糸がなくて、ちょっと目立っちゃうけど。」
「ありがとう!!明日はこれ着て…と………あ、」
京子達には作戦は内緒だった事を思い出し、ハッとするツナ。
しかし、大まかには知られているようで。
「明日は過去に帰る為の大事な日なんでしょ?みんな知ってるよ?」
「そ…そっか……」
少し黙ったツナは、グッと拳を作って。
「京子ちゃん……俺、必ずみんなを過去に……」
“過去に帰す為に、何としても成功させる”
その決意を、言葉にしようとした……のだが、
「無茶しないで…」
「え…!?」
心配そうに自分の顔を覗き込む京子に、思考回路が一瞬フリーズする。
「そ、そーだよね!無茶したら意味ないよね!!」
自分だって、あれほど檸檬に「無理しないで欲しい」と言っていたのに。
そう思ったツナは恥ずかしそうに頭を掻く。
ところが、その言葉を放った京子自身も、自分で疑問に思っていた。
「(頑張って、って言おうと思ってたのに…)」
と、そこに。
「10代目~!!夕飯っスよ~~!」
「みんな!!」
獄寺と山本、ランボにイーピンが呼びに来た。
「先に行ってていいよ。私、これを置いて来るから。」
「あ、手伝おうか!?」
「いーの、大丈夫だよ。ありがとうツナ君。」
京子の笑顔に押され、ツナはそのままキッチンへ向かう事にした。
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『ところで……恭弥、蜜柑の事で話があったんじゃ…』
「あぁ、そうだね。」
あたしの部屋のソファに、2人で座る。
「ライトがIQ200だって事は知ってるよね。」
『うん。だから白蘭に買われたんじゃないかとも思ってるんだけど……』
「檸檬の命を狙い続けているだけあって、並の戦闘力じゃない。勝てない相手じゃないけどね。」
やっぱり、凄いんだ。
あたしが2週間以上前に戦った時のは、蜜柑の実力全部ってワケじゃないんだ…。
それに、恭弥が“並の戦闘力じゃない”とか言うなんて……
「最近、独自で匣を製作してるって話だよ。」
『ど、独自!?自分で作ってるってこと!!?』
「どんな物かは不明だけどね。」
3人の科学者と同じように、蜜柑も匣を作っている…?
もし、それが普通の匣よりも強力なパワーや補助能力があったとしたら……
『……凄いね、蜜柑は。』
「檸檬…?」
『それってきっと、あたしを殺す為だけに研究して、作っちゃったんでしょ?そこまで恨まれてるのかな、あたし……』
何も、蜜柑に害になるような事…してないハズなのに。
生きてるだけで、害なのかな……
「檸檬、やっぱり…」
『ううん、行くよ。』
目を見開く恭弥に、笑いかける。
『だって!あたしの方がお姉ちゃんだもん♪妹の面倒くらい、自分でみるよ。』
「……そんな次元の問題じゃないでしょ。」
『いーの!大丈夫だよ、恭弥は……自分の事に専念して。ね?』
そう言ったら、恭弥はまた驚いた顔であたしを見る。
『分かるよ、恭弥。ずっと一緒にいたんだもん。10年の差があっても変わらない。』
「檸檬……」
『今の恭弥、難しい事たくさん考えてる。あ、言わなくていいよ、全然。あたしが聞いて、恭弥の仕事に狂いが出ちゃったら嫌だからさ。』
「………ホントに、檸檬は檸檬だね…」
『え?』
「…何でも無い。じゃあ、僕は戻るよ。」
『うんっ、色々ありがと!』
パタンと閉じられたドアを、少しの間見つめる。
『…………あっ!いけない!皆のトコ行かなくちゃ!』
ツナ達のアジトへと急ぐ。
と、その途中で、お酒の瓶を持った草壁さんに会った。
『あ、草壁さんっ!』
「檸檬さん、もう皆さん夕飯を食べてますよ。」
『大変っ!急がなくっちゃ!!』
あたしは、更に走る速度を上げようとする。
けど、
「檸檬さん…!」
『あ、はいっ!何ですか!?』
「ライトの話は、恭さんから……」
『はい、聞きました。』
「そうですか。ではもう一つだけ。」
『もう一つ…??』
首を傾げるあたしに、草壁さんは話し始めた。
「リバウンド症状を抑える、あの薬のことですが……」
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「何だと!?」
同刻、ミルフィオーレ・メローネ基地。
耳に入った情報に、入江は眼光を鋭くさせる。
「ボンゴレのアジトを、つきとめた?」
「はい。」
返事をしたチェルベッロは、グロ・キシニアの眼球の動きから発信機を仕掛けた事を聞き出せた、と報告する。
彼女達2人と第8部隊副隊長で検討し、信憑性が高いと判断された、と。
「……で、どこだ?」
「ポイント座標A24.3-36.2、並盛の南西ですが、更地となっていて建物の存在しない地点です。」
その言葉に、入江だけでなく他の人物…
白いターバンを頭に巻いた年配の男、
アフロヘアーの派手な女、
黒髪で4本の剣を腰にさす男、
そして蜜柑をも反応を示す。
「そうか、そういう事か……何故、気がつかなかったんだ……ボンゴレのアジトも、地下にあると!!」
「いかがされますか?」
チェルベッロの問いに、入江は静かに聞き返す。
「準備は?」
「既に迎撃大隊のスタンパイ出来ております。すぐにでも出動させる事は可能です。」
「よし…」
そして、指令が下される。
「直ちにボンゴレアジトへ突入せよ!!」
司令室の空気が、張りつめる。
そんな中、蜜柑は消えるように呟く。
「見つかったのね……」
すると、その声に反応するかのように、隣に居た男……幻騎士が問う。
「共に突入するのか?」
「…まさか。」
小さく鼻で笑い、続ける蜜柑。
「私の目的はボンゴレを潰す事じゃない………。DARQが見つかり次第、向かうわ。」
「そうか。」
会話の終わりを察した蜜柑は、それほど古くない記憶を掘り起こす。
壊滅したボンゴレ本部に最後まで残っていた10年後の檸檬と、対峙した時の記憶を。
---『やっと来た。待ってたわ、蜜柑…』
不敵な笑みを見せる檸檬に、蜜柑は言う。
---「こんなにいるのに、あまりダメージ負わなかったみたいね。」
---『だってあたし、蜜柑を待ってたんだもの。』
だから、400人近いミルフィオーレの敵など、眼中に無い……
そう、檸檬は返した。
---『じゃあ、そろそろ始める?』
---「……そうね。」
周りにいる隊員達に、手を出すな、と合図しておく蜜柑。
---『“あたし達”の決着、つけよっか!』
---「…望む所。」
自分はあの時、姉に勝った。
その結果として、生命維持装置付きで檸檬は捕獲されていた。
しかし今、再び自分は姉と戦おうとしている。
入れ替わった、10年前の檸檬と。
「(まさか、ね……)」
あの瞬間から、引っかかっていた。
“あたし達の戦い”という言葉に。
まるで、過去の檸檬が戦いを引き継ぐのが分かっていたかのような物言いに。
しかし、檸檬の第六感が未来視の力ではない事は、蜜柑が一番良く知っている。
それに、経験が少ない過去の檸檬がやって来たとして、跳ね返すのは容易い。
「(私は、ただ待てばいい………ダークが現れるのを…)」
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「こっち来てから初めて食った!って気がします!!」
「あれ?獄寺君も山本も…顔赤くない??」
「いやー、このジュース熱くって火照るんスよ!」
「だな!」
「嘘つけーー!!!」
ボンゴレアジトで豪華な夕飯をみんなで食べるツナ達は、知らない。
入江が突入命令を出した事を。
全てが動き出してしまった、という事を。