未来編①
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地下10階にて。
突然上から降って来た大きな音に、山本は思わず体を震わせた。
「何だ…?今の音……」
「上の階からみてーだな。5時間ぶっ続けだ、休憩がてら他を見に行くか。」
「オッケー!!」
という事で、まずはツナの様子を見に地下5階へ。
「ちース!………あ。」
「お。」
「な、何だあれ!!?」
白い壁の上部を見上げた2人の目に、逆さまの人型をした大きな凹みが映った。
夢
「いっつ~~~」
「あ。」
「お。」
「お~~~いててて……」
目線を下げてみると、凹みの真下で後頭部を摩るツナが。
思わず駆け寄る山本。
「大丈夫かよ!?ツナ!」
「山本っ、リボーン!ハハッ……新技を試してみてたんだけど…」
「新技!?」
どうすればあんな上の方に大きな人型の凹みが出来るのか、山本は首を傾げる。
一方リボーンは、ツナに尋ねた。
「その技はモノに出来そーなのか?」
「うーん…どーだろ……」
答えた直後、ツナはその場で倒れ込んだ。
「おいツナ!」
「バテて寝ちまっただけだ。」
言いながらリボーンは考える。
いつも「ダメだ」と真っ先に言うツナが、
「どーだろう」とぼやかした。
それは、100%ダメだと思っていないことの証明であり、成長の証拠。
「(それに袖が焦げてやがる。ver.V.Rになって初めて本気の炎を使ったのか…)」
そして、抱き始める。
ツナが編み出す新技が、大きな大きな力になるかもしれない……
そんな、希望を。
---
-----
-----------
『(あー…やっぱりふらつく……)』
やっと地下6階まで行けたのになぁ。
でもまぁ、5階で修業してるツナの存在は感知出来たし、ギリギリクリアって事にしようかな♪
『あ、第五段階のメニュー見とくの忘れた…………まいっか!』
とにかく今は偏頭痛を治さなくちゃ。
そう思い、檸檬は雲雀の和室に向かった。
その雲雀の部屋では、了平と雲雀が互いに睨み合っていた。
しびれを切らした了平が、雲雀に向かって叫ぶ。
「ならば拳と匣を交えるまでだ!!」
「僕は構わないよ。」
やる気ゼロで答える雲雀に、闘争心をむき出しにする了平。
「極限に止めるもの、何も無し!!」
「いいえ!さっきから私が止めてます!下らない理由で守護者同士がバトルなど、やめて下さい。」
「何処が下らぬ理由だ!!」
宥める草壁にも、了平は抗議する。
「俺は屋敷に入れるのにチビ達は出入り禁止とはどーいう事だ!!!」
「本当は君だって入れたくないんだ。君を見てると闘争心が萎える。」
「何だと!?極限にプンスカだぞ!!!」
「分かりました分かりました!私が向こうでランボさんとイーピンさんと遊ばせて……」
なおもヒートアップする了平を宥めようとしたが、人の気配を感じ、振り向く草壁。
『あ、草壁さん…』
「檸檬さん、修業の休憩ですか?」
『はい……でも、あの…』
言葉を濁す檸檬に、草壁は疑問を抱く。
「何かありましたか?」
『いえ、ただ…ちょっと偏頭痛が……微妙に使い過ぎちゃったみたいで……………あ。』
へらっと笑っていた檸檬は、次の瞬間草壁の背後を見て、目を見開く。
草壁もつられるように後ろを向く、と。
「きょ、恭さん!」
「他に症状は?」
『へっ!?あ、何も無いよ!大丈夫!!えっと、頭痛薬か何か貰えないかなー…なんて……』
慌ててそう言う檸檬の目の前に立ち、雲雀はその目をジッと見る。
『な、何…?』
「………顔色、悪いよ。」
『え?』
「おいで。」
『あっ…』
雲雀に腕を引かれ、檸檬は襖の奥へ。
『了平さん!いらしてたんですか!』
「おお、檸檬!!極限に修業、頑張っているそうだな!!」
『はいっ!』
誉められて少し得意気に笑う檸檬に、雲雀は言う。
「体調崩したら意味ないでしょ。ほら、そこ座って。」
『え?あ、うんっ。』
檸檬が大人しくちょこんと座ると、雲雀は内ポケットから何かを取り出した。
『(頭痛薬常備してんのかな?恭弥…)』
「腕、痙攣してる。」
『えっ?あ、ホントだ!!』
自分でも全然気がつかなかったのに……
すごいなぁ、恭弥。
「軽いリバウンドだな……アレを使うのか?雲雀。」
「半分くらい投与して休めば、すぐ治る。」
『え?え?』
頭上で交わされる会話の意味が全く分からず、檸檬は2人の顔を交互に見ていた。
---
-----
-----------
「クロームさんの容体はどう?」
「だいぶ安定したわ。」
同じ頃、医務室。
髑髏を見守るビアンキと、お茶の差し入れを持って来たフゥ太が会話する。
「ボンゴレリングの幻覚でもっていると言っても、これだけの設備が無ければ危なかったわね。」
「この時代のツナ兄、医務室にはこだわってたからね…」
ふと、髑髏の瞼が微かに動く。
「夢でも、見てるのかな……」
「せめて夢ぐらいは、良いものであって欲しいわ…」
---
------
髑髏の意識は、何処か廃屋の中を彷徨っていた。
規則的に並べられた柱。
その間から差す陽光。
そして、頭の中に響く言葉。
「(コ…コ…ニ…ア…ル)」
繰り返し繰り返し聞こえるも、その声の主の姿は無い。
髑髏は更に歩き続ける、その夢の中を。
「骸様…何処にいるの?何があるんですか………?」
不意に、上から何かが落ちて来る。
銀の筋を筋を作り髑髏の手の平に舞い降りたソレは、骸の槍の……
「(残…骸…)」
サラサラと、まるで塵のように散りゆく槍の破片に、髑髏の目はじんわり熱くなっていく。
「(骸様…残った力で……何かを伝えようと…)」
と、その塵が丸い粒となり、それぞれ形の違う円形の部品になっていくのに気がつく。
それは、どんどん組み合わさっていき……
入江の研究室にあった、白く丸い装置に姿を変えた。
そして、その中心が花びらのように4つに分かれて開く。
“その中にあるモノ”を見た髑髏は、一層表情をゆがめて。
「何…これ……何でココに…いるの……?」
手を伸ばそうとした、その瞬間。
「近づくな!!」
「あっ…!」
突如現れた誰かによって、はね飛ばされる。
丸い装置を守るように立つ彼は、眼鏡をかけた同年齢くらいの少年。
「誰…?」
問いかける髑髏に彼は何も言わず、
ただ、リングを付けた右手を握りしめて。
途端に少年は、ホワイトスペルの服を着た10年後の姿になる。
何処か危機感を覚えた髑髏は、咄嗟にツナを呼んだ。
「ボス…!」
ガバッ、
「ハァ…ハァ……」
医務室から離れたトレーニングルームで、ツナは目を覚ました。
同じく、入江と丸い装置が出て来た夢を見ていたのだ。
「…変な夢…………ん?」
ふと、かけられている毛布と手元に置いてあるメモに気がつく。
そこには、
“休憩がてら獄寺の修業を見に行く。お前もボスなら部下の状況を把握しろ”
と。
「そう言えば獄寺君!ビアンキの修業サボってんだった!!」
ビアンキが「バッくれた」と怒っていたのを思い出し、ツナは駆け出した。
「争奪戦の時も平気な顔して無茶してたし!きっとまた修業うまくいってないんだ!!」
---
-----
-----------
「この時代でも、檸檬は度々無茶をしててな。」
『す…すみません……』
了平さんに謝るあたしに、恭弥は右腕を出すように言った。
『注射?』
「それはお前の為に作られた、神経麻痺剤だ。」
『神経…麻痺……?』
「打つよ。」
『あ、うん。』
痙攣していた右腕が、一瞬だけチクッとした。
恭弥は慣れた手つきで薬を投与する。
それってやっぱり……
あたしが無理して倒れる度に、こうしてたから?
そんなに迷惑かけてたんだ…。
「その薬は神経を麻痺させリバウンド症状を和らげる。」
「と言っても、多用すれば神経そのものがダメになるからね…あまり使わないんだけど……………檸檬?」
あ、ダメだ。
恭弥の声が…遠ざかる。
でも分かったよ。
つまりそれはあたしのリバウンドを抑えられる薬。
神経を麻痺させて、リバウンドそのものを感じないようにする薬なんだ…ね……。
もうちょっと詳しく聞きたいけど、でも……
急に麻痺剤を打たれたせいか、あたしの意識はぼんやりしていく。
側にいる恭弥と了平さんの姿も、ぼやけていく。
ふらっ…
「檸檬?」
『…………スー…スー…』
前方に倒れ込む檸檬を受け止めた雲雀は、その静かな寝息を聞いてため息をつく。
それを見て了平も、笑みをこぼしながら言った。
「どうやら、相当疲れていたようだな。」
「まったく…いつもこうだ……」
雲雀はそうっと檸檬の髪を撫でる。
「ふっ…」
「……何。」
不意に吹き出した了平を、雲雀はすぐに睨む。
が、了平は少し肩を震わせながら、笑いをこらえようとするだけ。
その姿は余計に雲雀の眉間の皺を濃くさせた。
「何、って聞いてるんだけど。」
「いや!……何でもないぞ!ただ、10年の月日は大きいと思ってな……」
「当たり前でしょ。」
言いながら雲雀はゆっくり檸檬を寝かせ、その頭を自分の膝に乗せた。
『ん……』
「眠ってなよ。」
『……ん…』
再び檸檬の髪を撫でる雲雀を前に、了平は考えていた。
「(本当に、まるで違うな……)」
頭の中で比較されるのは、彼が見て来た“未来の2人”。
---『お久しぶりです!了平さんっ♪』
---「おお!檸檬、今日はココで仕事か?」
---『はい、さっきヴァリアーの方から……』
---「檸檬、来るなら連絡してって言ったでしょ。」
---『恭弥っ!!もーっ、突然現れてソレ!?いーじゃない、たまには吃驚させてみたかったの。』
---「別に驚かないよ。」
---『あら、つまんなーいっ。』
記憶の中の檸檬は、大人びた微笑みを常に見せていた。
だがしかし今ココにいるのは、天真爛漫で無邪気に笑う少女。
「(未来の恋人同士も、これではまるで親子だな………)」
「ねぇ、」
「ん?おお、そうだった!俺は話をしに来たんだった!」
そして2人は、情報交換を始めた。
---
-----
-------------
「(大丈夫かな、獄寺君……こういう事になると頑張り過ぎちゃうんだよな………)」
不安を抱えつつ、ツナは獄寺を探してアジト中を駆け回る。
が、なかなか見つからない。
自分たちの部屋には戻っていない。
裁縫中の京子に聞いても「見てない」と。
「(何処行ったんだろ……)」
ついに、まだ来た事がないフロアに辿り着いた。
「あ!」
キョロキョロしていたツナの視界に、小さく映る人影。
それはよくよく見ると…
「リボーンと山本!!」
しゃがみ込んでドアの中を見る山本。
その膝の上に乗るリボーンは、やはり部屋を覗いている。
「(あの部屋の中に獄寺君いんのかな?)」
疑問に思いながらそちらへ向かおうとするツナに、山本が気がつく。
と、途端に焦ったような表情を見せ、何かを打ち消すかのように手を左右に振る。
「え…!?」
疑問符を浮かべるツナに向かって、山本は走り出す。
その瞬間、辺りに蜃気楼が立ち始め……
「逃げろツナ!!」
「ギャ!」
リボーンに頭を踏まれながら、山本に庇われ宙に浮く。
ズオゥッ!
ツナ達が床に伏せると同時に、壁の内側から爆発が起こり、廊下に炎やら煙やらが蔓延する。
その中から、ゆらりと現れる人影が1つ。
彼のベルトにあるたくさんの匣に、何かがしまわれていく。
「よし、SISTEMA C.A.Iの完成は見えたぜ。あとは10代目に……こいつをどう説明すっかだな。」
煙の中から現れた獄寺。
その頭の上にいるのは、長い尾を持ち耳に嵐の炎を帯びた、一匹の猫だった。
---
------
-----------
「失礼します。」
了平との話し合いを終えた雲雀の和室に、草壁が入って来る。
その腕には、遊び疲れて眠っているランボとイーピンが。
「あぁ、ちょうど良かった。」
「何ですか?」
「檸檬にかける毛布か何か、持って来て。」
「分かりました。」
神経麻痺剤を打たれてから眠り続けている檸檬。
草壁はランボとイーピンをツナのアジトに運ぶついでに、毛布を持ってくる事にした。
「(それにしても…)」
イーピンが眠りながらもギュッと抱きしめている人形を見て、草壁は思う。
「(中学時代はまさかあのガサツなボクシング部主将に、女性にマメな一面があるとは思わなんだがな…)」
イーピンに聞いた話では、その人形は師匠を象っていると言う。
その胸には、おしゃぶり型の赤い布が縫い付けられていた。
---
------
「お持ちしました、恭さん。」
「うん。」
草壁が持って来た薄めの毛布を、ふわりと檸檬にかける雲雀。
「半分程度の投与の割に、眠りが長いですね……。」
「それくらい、身体が疲れてたって事でしょ。もう行っていいよ、哲。」
「へい、失礼しました。」
草壁が襖を閉じたのを聞くと、雲雀は再び檸檬の髪をゆっくりと撫でた。
「ねぇ、どうして?檸檬……」
“その疑問”の答えは、今ココにいる檸檬が持っているモノではない。
が、雲雀は小さく尋ねた。
「どうして、あんな書類残していったの……?」
10年後の檸檬から、光を奪った第六感。
その存在を知らないでいてくれたら、この檸檬は修業をしようと思わなかったハズなのに。
もしかしてまた、失う気なの?
それとも、この未来が視えていた?
いや、檸檬の第六感は“未来を視る力”じゃない。
『…ん……』
不意に、檸檬が少しだけ頭を動かす。
そして、ゆっくりと目を開けた。
『あ…れ……?』
「起きた?」
起きたばかりの檸檬は、ボーッとした瞳で僕を見つめる。
『恭弥……』
「何?」
『ごめんね、膝………』
どうやら、自分の頭が乗っていたせいで僕の膝が痛くなったとか思ってるらしい。
畳に手をついて起き上がろうとする檸檬を、僕は制止した。
「疲れてるんでしょ、眠ってなよ。」
『もう回復したもん。』
「じゃあ、今度は僕の番。」
『え?』
檸檬の隣に寝そべり、そのまま抱きしめる。
『きょ、恭弥!!?///』
「さっき言ったでしょ、“一緒に寝る”って。」
『ぅ………もーっ。じゃあ15分だけ!』
「短いよ。」
『一休みする時って15分睡眠がいいんだって、テレビで聞いたし。』
「……ふぅん。」
じゃあ檸檬が数えててね、って言ったら、
ピッタリに起こしてあげるよ、と。
今、僕の目の前にいる檸檬は10年前の檸檬。
第六感はまだ完成してないから、視界が閉ざされてもいない。
だけど、いつも僕の脳裏に浮かぶのは未来の檸檬の哀しい笑みで。
大丈夫じゃないのに、ひたすら平気だと言い張る“あの檸檬”で。
「(いつまで、このままで居られるのかな……)」
約束はした。
だけど不安は消えない。
もし第六感が完成したら、
檸檬が変わってしまったら、
また僕から離れるんじゃないか…
そんな考えを無理矢理振り切って、
檸檬を抱きしめる腕に、少し力を込めた。
突然上から降って来た大きな音に、山本は思わず体を震わせた。
「何だ…?今の音……」
「上の階からみてーだな。5時間ぶっ続けだ、休憩がてら他を見に行くか。」
「オッケー!!」
という事で、まずはツナの様子を見に地下5階へ。
「ちース!………あ。」
「お。」
「な、何だあれ!!?」
白い壁の上部を見上げた2人の目に、逆さまの人型をした大きな凹みが映った。
夢
「いっつ~~~」
「あ。」
「お。」
「お~~~いててて……」
目線を下げてみると、凹みの真下で後頭部を摩るツナが。
思わず駆け寄る山本。
「大丈夫かよ!?ツナ!」
「山本っ、リボーン!ハハッ……新技を試してみてたんだけど…」
「新技!?」
どうすればあんな上の方に大きな人型の凹みが出来るのか、山本は首を傾げる。
一方リボーンは、ツナに尋ねた。
「その技はモノに出来そーなのか?」
「うーん…どーだろ……」
答えた直後、ツナはその場で倒れ込んだ。
「おいツナ!」
「バテて寝ちまっただけだ。」
言いながらリボーンは考える。
いつも「ダメだ」と真っ先に言うツナが、
「どーだろう」とぼやかした。
それは、100%ダメだと思っていないことの証明であり、成長の証拠。
「(それに袖が焦げてやがる。ver.V.Rになって初めて本気の炎を使ったのか…)」
そして、抱き始める。
ツナが編み出す新技が、大きな大きな力になるかもしれない……
そんな、希望を。
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『(あー…やっぱりふらつく……)』
やっと地下6階まで行けたのになぁ。
でもまぁ、5階で修業してるツナの存在は感知出来たし、ギリギリクリアって事にしようかな♪
『あ、第五段階のメニュー見とくの忘れた…………まいっか!』
とにかく今は偏頭痛を治さなくちゃ。
そう思い、檸檬は雲雀の和室に向かった。
その雲雀の部屋では、了平と雲雀が互いに睨み合っていた。
しびれを切らした了平が、雲雀に向かって叫ぶ。
「ならば拳と匣を交えるまでだ!!」
「僕は構わないよ。」
やる気ゼロで答える雲雀に、闘争心をむき出しにする了平。
「極限に止めるもの、何も無し!!」
「いいえ!さっきから私が止めてます!下らない理由で守護者同士がバトルなど、やめて下さい。」
「何処が下らぬ理由だ!!」
宥める草壁にも、了平は抗議する。
「俺は屋敷に入れるのにチビ達は出入り禁止とはどーいう事だ!!!」
「本当は君だって入れたくないんだ。君を見てると闘争心が萎える。」
「何だと!?極限にプンスカだぞ!!!」
「分かりました分かりました!私が向こうでランボさんとイーピンさんと遊ばせて……」
なおもヒートアップする了平を宥めようとしたが、人の気配を感じ、振り向く草壁。
『あ、草壁さん…』
「檸檬さん、修業の休憩ですか?」
『はい……でも、あの…』
言葉を濁す檸檬に、草壁は疑問を抱く。
「何かありましたか?」
『いえ、ただ…ちょっと偏頭痛が……微妙に使い過ぎちゃったみたいで……………あ。』
へらっと笑っていた檸檬は、次の瞬間草壁の背後を見て、目を見開く。
草壁もつられるように後ろを向く、と。
「きょ、恭さん!」
「他に症状は?」
『へっ!?あ、何も無いよ!大丈夫!!えっと、頭痛薬か何か貰えないかなー…なんて……』
慌ててそう言う檸檬の目の前に立ち、雲雀はその目をジッと見る。
『な、何…?』
「………顔色、悪いよ。」
『え?』
「おいで。」
『あっ…』
雲雀に腕を引かれ、檸檬は襖の奥へ。
『了平さん!いらしてたんですか!』
「おお、檸檬!!極限に修業、頑張っているそうだな!!」
『はいっ!』
誉められて少し得意気に笑う檸檬に、雲雀は言う。
「体調崩したら意味ないでしょ。ほら、そこ座って。」
『え?あ、うんっ。』
檸檬が大人しくちょこんと座ると、雲雀は内ポケットから何かを取り出した。
『(頭痛薬常備してんのかな?恭弥…)』
「腕、痙攣してる。」
『えっ?あ、ホントだ!!』
自分でも全然気がつかなかったのに……
すごいなぁ、恭弥。
「軽いリバウンドだな……アレを使うのか?雲雀。」
「半分くらい投与して休めば、すぐ治る。」
『え?え?』
頭上で交わされる会話の意味が全く分からず、檸檬は2人の顔を交互に見ていた。
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「クロームさんの容体はどう?」
「だいぶ安定したわ。」
同じ頃、医務室。
髑髏を見守るビアンキと、お茶の差し入れを持って来たフゥ太が会話する。
「ボンゴレリングの幻覚でもっていると言っても、これだけの設備が無ければ危なかったわね。」
「この時代のツナ兄、医務室にはこだわってたからね…」
ふと、髑髏の瞼が微かに動く。
「夢でも、見てるのかな……」
「せめて夢ぐらいは、良いものであって欲しいわ…」
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髑髏の意識は、何処か廃屋の中を彷徨っていた。
規則的に並べられた柱。
その間から差す陽光。
そして、頭の中に響く言葉。
「(コ…コ…ニ…ア…ル)」
繰り返し繰り返し聞こえるも、その声の主の姿は無い。
髑髏は更に歩き続ける、その夢の中を。
「骸様…何処にいるの?何があるんですか………?」
不意に、上から何かが落ちて来る。
銀の筋を筋を作り髑髏の手の平に舞い降りたソレは、骸の槍の……
「(残…骸…)」
サラサラと、まるで塵のように散りゆく槍の破片に、髑髏の目はじんわり熱くなっていく。
「(骸様…残った力で……何かを伝えようと…)」
と、その塵が丸い粒となり、それぞれ形の違う円形の部品になっていくのに気がつく。
それは、どんどん組み合わさっていき……
入江の研究室にあった、白く丸い装置に姿を変えた。
そして、その中心が花びらのように4つに分かれて開く。
“その中にあるモノ”を見た髑髏は、一層表情をゆがめて。
「何…これ……何でココに…いるの……?」
手を伸ばそうとした、その瞬間。
「近づくな!!」
「あっ…!」
突如現れた誰かによって、はね飛ばされる。
丸い装置を守るように立つ彼は、眼鏡をかけた同年齢くらいの少年。
「誰…?」
問いかける髑髏に彼は何も言わず、
ただ、リングを付けた右手を握りしめて。
途端に少年は、ホワイトスペルの服を着た10年後の姿になる。
何処か危機感を覚えた髑髏は、咄嗟にツナを呼んだ。
「ボス…!」
ガバッ、
「ハァ…ハァ……」
医務室から離れたトレーニングルームで、ツナは目を覚ました。
同じく、入江と丸い装置が出て来た夢を見ていたのだ。
「…変な夢…………ん?」
ふと、かけられている毛布と手元に置いてあるメモに気がつく。
そこには、
“休憩がてら獄寺の修業を見に行く。お前もボスなら部下の状況を把握しろ”
と。
「そう言えば獄寺君!ビアンキの修業サボってんだった!!」
ビアンキが「バッくれた」と怒っていたのを思い出し、ツナは駆け出した。
「争奪戦の時も平気な顔して無茶してたし!きっとまた修業うまくいってないんだ!!」
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「この時代でも、檸檬は度々無茶をしててな。」
『す…すみません……』
了平さんに謝るあたしに、恭弥は右腕を出すように言った。
『注射?』
「それはお前の為に作られた、神経麻痺剤だ。」
『神経…麻痺……?』
「打つよ。」
『あ、うん。』
痙攣していた右腕が、一瞬だけチクッとした。
恭弥は慣れた手つきで薬を投与する。
それってやっぱり……
あたしが無理して倒れる度に、こうしてたから?
そんなに迷惑かけてたんだ…。
「その薬は神経を麻痺させリバウンド症状を和らげる。」
「と言っても、多用すれば神経そのものがダメになるからね…あまり使わないんだけど……………檸檬?」
あ、ダメだ。
恭弥の声が…遠ざかる。
でも分かったよ。
つまりそれはあたしのリバウンドを抑えられる薬。
神経を麻痺させて、リバウンドそのものを感じないようにする薬なんだ…ね……。
もうちょっと詳しく聞きたいけど、でも……
急に麻痺剤を打たれたせいか、あたしの意識はぼんやりしていく。
側にいる恭弥と了平さんの姿も、ぼやけていく。
ふらっ…
「檸檬?」
『…………スー…スー…』
前方に倒れ込む檸檬を受け止めた雲雀は、その静かな寝息を聞いてため息をつく。
それを見て了平も、笑みをこぼしながら言った。
「どうやら、相当疲れていたようだな。」
「まったく…いつもこうだ……」
雲雀はそうっと檸檬の髪を撫でる。
「ふっ…」
「……何。」
不意に吹き出した了平を、雲雀はすぐに睨む。
が、了平は少し肩を震わせながら、笑いをこらえようとするだけ。
その姿は余計に雲雀の眉間の皺を濃くさせた。
「何、って聞いてるんだけど。」
「いや!……何でもないぞ!ただ、10年の月日は大きいと思ってな……」
「当たり前でしょ。」
言いながら雲雀はゆっくり檸檬を寝かせ、その頭を自分の膝に乗せた。
『ん……』
「眠ってなよ。」
『……ん…』
再び檸檬の髪を撫でる雲雀を前に、了平は考えていた。
「(本当に、まるで違うな……)」
頭の中で比較されるのは、彼が見て来た“未来の2人”。
---『お久しぶりです!了平さんっ♪』
---「おお!檸檬、今日はココで仕事か?」
---『はい、さっきヴァリアーの方から……』
---「檸檬、来るなら連絡してって言ったでしょ。」
---『恭弥っ!!もーっ、突然現れてソレ!?いーじゃない、たまには吃驚させてみたかったの。』
---「別に驚かないよ。」
---『あら、つまんなーいっ。』
記憶の中の檸檬は、大人びた微笑みを常に見せていた。
だがしかし今ココにいるのは、天真爛漫で無邪気に笑う少女。
「(未来の恋人同士も、これではまるで親子だな………)」
「ねぇ、」
「ん?おお、そうだった!俺は話をしに来たんだった!」
そして2人は、情報交換を始めた。
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「(大丈夫かな、獄寺君……こういう事になると頑張り過ぎちゃうんだよな………)」
不安を抱えつつ、ツナは獄寺を探してアジト中を駆け回る。
が、なかなか見つからない。
自分たちの部屋には戻っていない。
裁縫中の京子に聞いても「見てない」と。
「(何処行ったんだろ……)」
ついに、まだ来た事がないフロアに辿り着いた。
「あ!」
キョロキョロしていたツナの視界に、小さく映る人影。
それはよくよく見ると…
「リボーンと山本!!」
しゃがみ込んでドアの中を見る山本。
その膝の上に乗るリボーンは、やはり部屋を覗いている。
「(あの部屋の中に獄寺君いんのかな?)」
疑問に思いながらそちらへ向かおうとするツナに、山本が気がつく。
と、途端に焦ったような表情を見せ、何かを打ち消すかのように手を左右に振る。
「え…!?」
疑問符を浮かべるツナに向かって、山本は走り出す。
その瞬間、辺りに蜃気楼が立ち始め……
「逃げろツナ!!」
「ギャ!」
リボーンに頭を踏まれながら、山本に庇われ宙に浮く。
ズオゥッ!
ツナ達が床に伏せると同時に、壁の内側から爆発が起こり、廊下に炎やら煙やらが蔓延する。
その中から、ゆらりと現れる人影が1つ。
彼のベルトにあるたくさんの匣に、何かがしまわれていく。
「よし、SISTEMA C.A.Iの完成は見えたぜ。あとは10代目に……こいつをどう説明すっかだな。」
煙の中から現れた獄寺。
その頭の上にいるのは、長い尾を持ち耳に嵐の炎を帯びた、一匹の猫だった。
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「失礼します。」
了平との話し合いを終えた雲雀の和室に、草壁が入って来る。
その腕には、遊び疲れて眠っているランボとイーピンが。
「あぁ、ちょうど良かった。」
「何ですか?」
「檸檬にかける毛布か何か、持って来て。」
「分かりました。」
神経麻痺剤を打たれてから眠り続けている檸檬。
草壁はランボとイーピンをツナのアジトに運ぶついでに、毛布を持ってくる事にした。
「(それにしても…)」
イーピンが眠りながらもギュッと抱きしめている人形を見て、草壁は思う。
「(中学時代はまさかあのガサツなボクシング部主将に、女性にマメな一面があるとは思わなんだがな…)」
イーピンに聞いた話では、その人形は師匠を象っていると言う。
その胸には、おしゃぶり型の赤い布が縫い付けられていた。
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「お持ちしました、恭さん。」
「うん。」
草壁が持って来た薄めの毛布を、ふわりと檸檬にかける雲雀。
「半分程度の投与の割に、眠りが長いですね……。」
「それくらい、身体が疲れてたって事でしょ。もう行っていいよ、哲。」
「へい、失礼しました。」
草壁が襖を閉じたのを聞くと、雲雀は再び檸檬の髪をゆっくりと撫でた。
「ねぇ、どうして?檸檬……」
“その疑問”の答えは、今ココにいる檸檬が持っているモノではない。
が、雲雀は小さく尋ねた。
「どうして、あんな書類残していったの……?」
10年後の檸檬から、光を奪った第六感。
その存在を知らないでいてくれたら、この檸檬は修業をしようと思わなかったハズなのに。
もしかしてまた、失う気なの?
それとも、この未来が視えていた?
いや、檸檬の第六感は“未来を視る力”じゃない。
『…ん……』
不意に、檸檬が少しだけ頭を動かす。
そして、ゆっくりと目を開けた。
『あ…れ……?』
「起きた?」
起きたばかりの檸檬は、ボーッとした瞳で僕を見つめる。
『恭弥……』
「何?」
『ごめんね、膝………』
どうやら、自分の頭が乗っていたせいで僕の膝が痛くなったとか思ってるらしい。
畳に手をついて起き上がろうとする檸檬を、僕は制止した。
「疲れてるんでしょ、眠ってなよ。」
『もう回復したもん。』
「じゃあ、今度は僕の番。」
『え?』
檸檬の隣に寝そべり、そのまま抱きしめる。
『きょ、恭弥!!?///』
「さっき言ったでしょ、“一緒に寝る”って。」
『ぅ………もーっ。じゃあ15分だけ!』
「短いよ。」
『一休みする時って15分睡眠がいいんだって、テレビで聞いたし。』
「……ふぅん。」
じゃあ檸檬が数えててね、って言ったら、
ピッタリに起こしてあげるよ、と。
今、僕の目の前にいる檸檬は10年前の檸檬。
第六感はまだ完成してないから、視界が閉ざされてもいない。
だけど、いつも僕の脳裏に浮かぶのは未来の檸檬の哀しい笑みで。
大丈夫じゃないのに、ひたすら平気だと言い張る“あの檸檬”で。
「(いつまで、このままで居られるのかな……)」
約束はした。
だけど不安は消えない。
もし第六感が完成したら、
檸檬が変わってしまったら、
また僕から離れるんじゃないか…
そんな考えを無理矢理振り切って、
檸檬を抱きしめる腕に、少し力を込めた。