未来編①
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「がはっ!」
「クローム!!」
病室に駆け込んだツナの目に飛び込んで来たのは、
何とも酷な光景。
「ダメだわ!手の施し様がないの!!失われてるのよ、内臓が!!」
深刻そうに言うビアンキ。
その横には、髑髏の手を握り目を閉じる檸檬が。
「檸檬…!??」
その姿に疑問を持つものの、髑髏のか細い声が聞こえ、ツナは反対側に立つ。
「しっかりしろクローム!死んじゃダメだ!!」
「ボ…ス……?」
うっすら開けられた瞳。
口元には、夥しい量の血。
ツナは咄嗟に檸檬と同じように髑髏の手を握り、声をかける。
「そーだ、俺だよ!しっかりするんだ!!」
「あった…かい……」
不思議な程落ち着いた声でそう言った後、髑髏はツナの手を握り返して。
「ボ…ス……骸…様を………」
「え…?骸が……どーしたんだ?」
「がふっ!!」
「クローム!!」
酷くなる発作のせいで、まともに話す事すら出来なくなる髑髏。
骸は何をやってるのか、
大きな焦燥感がツナの中に渦巻いて行った。
六道骸VS.白蘭
ミルフィオーレ本部・パフィオペディラム。
破損した白蘭の部屋の中、砕けた匣と三叉槍の破片が散る。
その側に跪き、血の滴る右目を抑えているのは……
実体化した10年後の骸であった。
「何て恐ろしい能力でしょう……」
未だ流れ続ける血を床に垂らしながら、骸は言う。
目の前に、笑顔を貼付けたまま君臨する白蘭に。
「さすがミルフィオーレの総大将…というべきですかね。適いませんよ…。」
「また心にも無いこと言っちゃって。喰えないなぁ、骸君。」
作り笑顔を保ちつつ、白蘭は返す。
「君のこの戦いでの最優先の目的は、勝つ事じゃない。謎に包まれた僕の戦闘データを持ち帰れれば良し、ってトコだろ?」
「ほう……面白い見解ですね。しかし…だとしたら?」
「叶わないよ、ソレ。」
笑顔に包まれた白蘭の脅威が、ほんの少し、声色の中に見え隠れする。
骸は跪いたその姿勢のまま、次の言葉を待った。
---
------
『(ココは……)』
真っ暗な闇の中に、あたしは降り立った。
髑髏の波長と骸の波長が交わる所、精神世界の中に。
『イメージと…違うな……』
もっと綺麗な…どっちかってゆーと真っ白な世界だと思ってたのに。
もしかして、骸に何かあったから……この世界にも異変が?
『(とにかく!探さなくちゃ。)』
1人ぼっちだと思うと、動けなくなりそうになるけど。
グッと踏ん張って、涙を堪えて走り出す。
『骸ーっ!骸ーっ!!何処にいるのーっ!?』
返事は、来ない。
『骸ーっ!何処なのーっ!?』
早く見つけないと、あたしの本体にリバウンドが来る。
第六感の資料からすると、この世界にいられるのも数分が限界。
『骸ーっ!!』
それでも、無事を確かめるまでは……!
---
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「この部屋には特殊な結界が張り巡らされていて、光や電気の波はおろか思念の類いも通さないって言ったら、信じてくれる?」
「クフフフ……何を言っているやら。僕にはさっぱり理解出来ませんねぇ。」
結界の話を軽く流しながら、骸は今宿っている体の限界を感じていた。
「(そろそろ戻るとしましょうか…………)楽しかったですよ。」
実体化を解こうとした。しかし…
バチッ、
何かに弾かれたような、感覚。
まるで、その体に閉じ込められたかのように。
同時に、一瞬だけ聞こえた、覚えのある声。
--『骸ーっ!!』
「(まさか…檸檬……)」
様々な驚愕により目を見開く骸に、白蘭は言う。
「実体化を解いてココからズラかろうとしたってダメだからね、骸君。この部屋は全てが遮断されてるって言ってんじゃん。」
「(……バカな!)」
あの弾かれたような感覚は、退却ルートを絶たれた象徴。
「(だとしたら……!)」
今の声が聞き間違いで無かったら、自分の思念を伝って来る檸檬の思念すら閉じ込められてしまう…。
「(それだけは…)」
骸は黙って、目を閉じた。
思念の一部を送り、危機を伝えられるように。
---
------
『はぁっ…はぁっ……何処まで続くんだろ…この闇……』
走り疲れて立ち止まった檸檬の前に、何かが映る。
『あれ…?』
それは、ぼんやりとした空間の境目のようで。
向こうとこちらでは、何かが違う気がする。
が、それが何なのか分からない。
『もしかしたら…この先にいるの……?』
まるで薄い膜が貼ってあるようで、檸檬はほんの少し恐怖を覚えた。
が、意を決してその膜に触れようと……
「…檸檬……」
『えっ…?』
空耳じゃない。
今、確かに聞こえた。
『骸!?骸なのっ!?』
「…檸檬……いけません…」
『何処?骸、何処にいるの!?何してるの!?』
あたしが叫ぶと、膜の向こう側にぼんやりとした人影が1つ。
やがてそれは、くっきりと骸の姿になって。
『む…骸っ……!』
「…また会えて、嬉しいですよ……檸檬。」
『あのねっ、髑髏が大変なの!だから骸に何かあったんじゃないかって……』
「檸檬、」
言葉を遮られて骸の表情を窺うと、哀しい笑みが貼り付いていた。
途端に何故か、怖くなる。
『む、くろ…?』
「クロームを、頼みます。」
『え…?』
「檸檬も、ココに居続けるにはそろそろ力が限界のハズです。」
次の骸の台詞は、容易に想像出来た。
「……もう、行きなさい。」
『い…嫌っ!何でそんな顔するのよ!この膜は何!?あたし通り抜けれるかもっ……』
「檸檬、」
何で、そんなに落ち着いた声なの?
何で、最後みたいな言い方するの?
「これ以上…来てはいけません……」
そう言って骸は、背を向ける。
とにかく何かが哀しくて、涙が溢れた。
『骸!!待って、骸!!!』
「来てはいけませんよ、檸檬……」
『どうしてっ!!骸、何処に行くのっ!!?』
来るな、と言われたせいか、膜の直前で足は止まる。
骸は首だけ振り向いて、10年で伸びたらしき長髪をなびかせ、言った。
「また、会えますから……」
『骸!!待っ………うぅっ…!』
ヤバい、時間切れだ。
あたしの本体が悲鳴を上げてる。
発作が…起きちゃう。
「行きなさい……檸檬…来てくれて、本当に嬉しかったですよ………」
『む…くろ……』
どんどんどんどん意識は薄れていって、
急激に風を切るように移動していく感触がした。
---
------
突然目を閉じた骸に疑問を抱いた白蘭は、少しだけ近づいた。
「ん…?」
「フ……クフフ…」
「何?楽しい事でも考えてたの?」
「貴方には、関係ありませんよ……」
話すまいとする意図を感じ取ったのか、白蘭は直感で当てようとする。
「骸君がそんなに隠そうとする事…大切にしている事って………DARQ関係かな?」
ピクリと動く骸の眉に、白蘭はまた笑みを見せる。
「ボンゴレは本当に物好きだよねー。まぁ、分からなくもないよ。檸檬チャンは綺麗な子だし、いい子らしいしね。みんな彼女を好いてる。」
「……貴方もそうなのでは?」
「…どーゆー意味?」
「だからLIGHTを側に置いてるのでは、と聞いているんです。」
挑発的に問う骸に、白蘭は思わず笑み以外の表情を見せた。
しかしそれは一瞬で、すぐまた笑みを貼付ける。
「………もう少し君と話してようと思ったけど、やめた。ボンゴレリングを持ってるワケでもないしね。」
右手をスッと挙げる白蘭。
「蜜柑を代わりにしてるって思ってるなら……それは違うって言っておくよ。君にはもう、本当の死を迎えてもらうから。」
中指にあるマーレリングが、輝きを放つ。
骸は目を抑えたまま、ほんの少し歯を食いしばった。
「バイバイ♪」
次の瞬間、辺りには血飛沫が飛び散った。
---
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ボンゴレアジトの病室で、カバンの中にあった三叉槍が砕け、髑髏も酷く吐血する。
同時に、髑髏の手を握って立っていた檸檬はぐたりと崩れ落ちた。
『うぐっ…』
「く……クローム!!」
「どうしたの!?檸檬!!」
病室内が完全に混乱に包まれた、その時。
ガラッ、
「雲雀さん!」
「哲、檸檬を。」
「へい。」
ビアンキに肩を支えられる檸檬を、草壁が抱え上げる。
檸檬の額にはすごい汗が滲み、軽く発作を起こしていた。
その間に、雲雀はツナを押しのけ髑髏の側に。
片手で後頭部を持ち上げ、瀕死状態の髑髏に言った。
「死んでもらっては困る。」
その光景を不安そうに見つめるツナに、檸檬を抱えたまま草壁が言った。
「沢田さん、外でお待ち下さい。」
「あ、あの…檸檬はどうしたんですか…!?」
「心配要りません、すぐに治ります。」
促されるままツナは外に出て、ミーティングルームへ。
草壁は檸檬を抱え、雲雀のアジトの方へ急いだ。
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ミーティーングルームにて、話を聞いたメンバーは皆集まり、安否を気にしていた。
そこに入って来た草壁。
「クローム髑髏は一命を取り留めました。」
「本当!?良かったー!!」
歓喜の声をあげるツナ。
リボーンは処置法を尋ねる。
「ボンゴレリングです。」
雲雀に促され、髑髏は今自分でボンゴレリングの力を引き出し内臓を補っている、との事。
「そんな事…可能なのかよ!?」
「はい、ですが今の彼女の力では幻覚は不完全……………生命維持がやっとの状態だ…」
「あの…じゃあ…骸はどーなっちゃったの!?」
不安そうに尋ねるツナに、草壁は首を横に振る。
そして、了平に尋ねた。
「骸の行動については、ヴァリアーにいた笹川氏の方が詳しいのでは?」
「骸からヴァリアーへの指示は一方的なものだったと聞いている。俺はその指示を信じ行動したが……」
骸自身が何をしているのかは不明だ、と。
「クロームへの力が一切途絶えたのよ、最悪の事態も考えるべきだわ。」
「そんなぁ!!」
「……10代目!あのしぶとい骸です。まだ分かりませんって。」
獄寺がツナを励ましたところで、リボーンが指摘する。
5日後の作戦に髑髏は参加出来そうにない、と。
---
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同じ頃。
『ん……?』
目を開けると、いつかと同じように畳の匂いが鼻を刺激した。
病室にいたハズなのに…………あれ?
そうだよ…
あたし、髑髏の精神世界伝って……
『………骸っ!!!』
ガバッと起き上がろうとすると、肩を抑えられた。
『えっ?』
「檸檬……やっぱり使ったんだね、アレ。」
『恭弥………』
ちょっと怒ってる感じがして、あたしは目を逸らした。
「無理するなって、あれ程言ったのに。」
『もうちょっとだったの!骸に会って……骸と話せたのにっ……!』
「話した?」
聞き返す恭弥に頷いてから、今度はゆっくり起き上がる。
『骸…哀しい顔してた……』
「檸檬?」
『あたしっ……何も出来なかった…!』
鮮明に、思い出す。
こっちへ来るなって言ってた骸。
何故か背を向けて行ってしまった骸。
あぁ、ダメだ。
またワケ分かんない涙が溢れる。
『ど、どーしよっ……どーしよ恭弥ぁっ……』
「檸檬……」
情けなく泣き出したあたしを、恭弥は優しく抱きしめる。
何も言わないで、背中を摩ってくれる。
「………気に食わないな。」
『へ…?』
「アイツはいつも、檸檬をこんなに泣かせる。」
そう言って恭弥は、溢れるあたしの涙を指で拭った。
ひんやりした指に、ちょっと吃驚する。
「檸檬を泣かせていいのは僕だけなのに。」
『なっ、何言ってんの!?///』
「だってコレは、アイツの為に流れてるんでしょ?何か嫌だ。」
『恭弥ってば……』
こんな会話だけど、あたしの気分を軽くしようとしてくれてるのかな?
そう思うと、恥ずかしいけど嬉しい。
それに、あたしが泣いてたって何も変わらないし始まらない。
骸の安否を確かめる為には、ミルフィオーレに近づかなくちゃいけない。
その為には修業を、もっともっと頑張らなくちゃいけない。
『恭弥、ありがと。もう大丈夫。』
心配で不安で仕方無いけど、何とか笑顔で誤摩化す。
そんなあたしの強がりすら、恭弥は分かってくれる。
「………じゃ、行くよ。」
『うんっ。』
優しく手を握られて、ミーティングルームへ。
---
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「心配するな、クロームの不足分は俺が補う。」
「そんな事、任せられるワケねーだろ。お前、今座ってんのもしんどそうじゃねーか。」
ツナしか知らなかったはずのラルの不調を、リボーンは見抜いていた。
しかし、ラルは簡単に引き下がらない。
「何を言っている!!」
「無理すんな。お前の体は非73線を浴び過ぎてボロボロなんだろ?」
「(ノン・トゥリニセッテ……?)」
リボーンがラルを引き止めるのは、自分も入れ替わった時に非73線を肌で感じたからだと言う。
でも、ラルはだからこそソレを放出してるミルフィオーレを倒しに行きたい…と。
ここで、ジャンニーニと草壁が口を開いた。
「非73線が地上に漂っている原因はまだ特定出来ていません…。ミルフィオーレとの因果関係は恐らくあると思われるのですが決定打がなく……」
「我々も同じく……」
「いや!!奴らの仕業だ!!コロネロもバイパーもスカルも……奴らに殺されたんだ!!」
反論直後、ラルは体の痛みに耐えきれずその場に倒れる。
「ラル・ミルチ!!」
「大丈夫ですか!」
「触るな!!立てるっ…」
強がり続け、耐え続けるラルの姿を見て、駆け寄ろうとしたツナの表情はどんどん複雑になっていく。
その場で動けなくなるツナに、了平が静かに言った。
「5日後だが……これだけ戦力に悪条件が揃っては、お前が何と言うか見当がつく……作戦中止は俺が上に伝えに行こう。」
しかし、そんな言葉は耳に入らなかった。
ただツナの目には、大嫌いな光景だけが映っていた。
辛いハズなのに、
苦しいハズなのに、
それを素直に吐き出せない状況。
どれだけ強がって、
いくら踏ん張っても、
決してその後が保証されていない状況。
危険に晒されて、
酷く悩んで、
ちっとも笑顔になれない毎日を生き抜かざるを得ない状況。
打破する為にすべき事は……
もう分かっている。
「………やりましょう。」
『(あ…)』
あたしと恭弥が部屋に入った時には、
もうツナの答えは出ていた。
「敵のアジトに行けば、過去に戻る事だけじゃなくて、骸の手がかりも何か掴めると思うんです。それにその、ノン・トゥリニセッテの事も分かるかも知れないし……」
やっぱりツナは、紛れもなくあたし達のボスなんだ。
「………でもどっちも、ゆっくりしてると手遅れになっちゃう気がして。」
「うむ。」
『ツナ……』
「それに、やっぱり俺……こんな状況(トコ)に一秒でも長くいて欲しくないんだ。」
握られた拳が、示してる。
その答えを出す為に、どれだけ悩んだのか。
優しいツナが戦いを選ぶのに、どれだけ苦しんでるか。
「並盛の仲間は勿論だし、クロームやラル・ミルチだって………………こんな状況(トコ)、全然似合わないよ!!」
流れる沈黙。
その決断の重さが空気の重さとなってそのまんま伝わる。
「あ、えと……俺はそんな感じです………けど…」
「よく言ったぞ!男だ沢田!!」
「…………ガキが。」
『ツナならきっと、ちゃんと決めてくれるって思ってたよ♪』
「あっ!檸檬っ!!」
あたしの顔を見て、ツナは吃驚しながら駆け寄る。
「その、大丈夫?第六感、使い過ぎちゃったんでしょ…?」
『え!?あ、あー…もう平気だよっ♪骸のことは…心配だけど……あたしは大丈夫。』
「よ、良かったぁー…病室で急に倒れるから心配で……」
ホッと胸を撫で下ろしたツナは、ポケットから小瓶を取り出す。
「とにかく……」
死ぬ気丸を2つ飲み込めば、その目も雰囲気も一変する。
「5日しか時間がない。一刻も無駄には出来ないぞ。」
「はい!!」
「だな!!」
『うん!!』
今日の午後の修業が始まる。
隣にいる恭弥を見上げて、明るく一言。
『ツナに負けないように頑張ってね♪』
「負けるワケないでしょ。」
『あたしも、無理しないように頑張るからさ!』
「当然だよ。今度は何分やるつもり?」
『じゃあ、思い切って30…』
「25分ね。」
………聞いといて遮るとか…酷い。
「ちゃんと休み取るんだよ。」
『はーい!』
ツナの後に続いて、ミーティングルームを飛び出した。
恭弥のアジトにある自室へ向かう。
『(第4段階は確か………)』
“視覚外の波長の把握”
あたしの部屋にこもった状態で、何処までアジト全体の波長を読み切れるか。
人物配置が分かれば、なお良し。
5日後の作戦、決行されるならあたしは………
必ず蜜柑を止めてみせる。
「クローム!!」
病室に駆け込んだツナの目に飛び込んで来たのは、
何とも酷な光景。
「ダメだわ!手の施し様がないの!!失われてるのよ、内臓が!!」
深刻そうに言うビアンキ。
その横には、髑髏の手を握り目を閉じる檸檬が。
「檸檬…!??」
その姿に疑問を持つものの、髑髏のか細い声が聞こえ、ツナは反対側に立つ。
「しっかりしろクローム!死んじゃダメだ!!」
「ボ…ス……?」
うっすら開けられた瞳。
口元には、夥しい量の血。
ツナは咄嗟に檸檬と同じように髑髏の手を握り、声をかける。
「そーだ、俺だよ!しっかりするんだ!!」
「あった…かい……」
不思議な程落ち着いた声でそう言った後、髑髏はツナの手を握り返して。
「ボ…ス……骸…様を………」
「え…?骸が……どーしたんだ?」
「がふっ!!」
「クローム!!」
酷くなる発作のせいで、まともに話す事すら出来なくなる髑髏。
骸は何をやってるのか、
大きな焦燥感がツナの中に渦巻いて行った。
六道骸VS.白蘭
ミルフィオーレ本部・パフィオペディラム。
破損した白蘭の部屋の中、砕けた匣と三叉槍の破片が散る。
その側に跪き、血の滴る右目を抑えているのは……
実体化した10年後の骸であった。
「何て恐ろしい能力でしょう……」
未だ流れ続ける血を床に垂らしながら、骸は言う。
目の前に、笑顔を貼付けたまま君臨する白蘭に。
「さすがミルフィオーレの総大将…というべきですかね。適いませんよ…。」
「また心にも無いこと言っちゃって。喰えないなぁ、骸君。」
作り笑顔を保ちつつ、白蘭は返す。
「君のこの戦いでの最優先の目的は、勝つ事じゃない。謎に包まれた僕の戦闘データを持ち帰れれば良し、ってトコだろ?」
「ほう……面白い見解ですね。しかし…だとしたら?」
「叶わないよ、ソレ。」
笑顔に包まれた白蘭の脅威が、ほんの少し、声色の中に見え隠れする。
骸は跪いたその姿勢のまま、次の言葉を待った。
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『(ココは……)』
真っ暗な闇の中に、あたしは降り立った。
髑髏の波長と骸の波長が交わる所、精神世界の中に。
『イメージと…違うな……』
もっと綺麗な…どっちかってゆーと真っ白な世界だと思ってたのに。
もしかして、骸に何かあったから……この世界にも異変が?
『(とにかく!探さなくちゃ。)』
1人ぼっちだと思うと、動けなくなりそうになるけど。
グッと踏ん張って、涙を堪えて走り出す。
『骸ーっ!骸ーっ!!何処にいるのーっ!?』
返事は、来ない。
『骸ーっ!何処なのーっ!?』
早く見つけないと、あたしの本体にリバウンドが来る。
第六感の資料からすると、この世界にいられるのも数分が限界。
『骸ーっ!!』
それでも、無事を確かめるまでは……!
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「この部屋には特殊な結界が張り巡らされていて、光や電気の波はおろか思念の類いも通さないって言ったら、信じてくれる?」
「クフフフ……何を言っているやら。僕にはさっぱり理解出来ませんねぇ。」
結界の話を軽く流しながら、骸は今宿っている体の限界を感じていた。
「(そろそろ戻るとしましょうか…………)楽しかったですよ。」
実体化を解こうとした。しかし…
バチッ、
何かに弾かれたような、感覚。
まるで、その体に閉じ込められたかのように。
同時に、一瞬だけ聞こえた、覚えのある声。
--『骸ーっ!!』
「(まさか…檸檬……)」
様々な驚愕により目を見開く骸に、白蘭は言う。
「実体化を解いてココからズラかろうとしたってダメだからね、骸君。この部屋は全てが遮断されてるって言ってんじゃん。」
「(……バカな!)」
あの弾かれたような感覚は、退却ルートを絶たれた象徴。
「(だとしたら……!)」
今の声が聞き間違いで無かったら、自分の思念を伝って来る檸檬の思念すら閉じ込められてしまう…。
「(それだけは…)」
骸は黙って、目を閉じた。
思念の一部を送り、危機を伝えられるように。
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『はぁっ…はぁっ……何処まで続くんだろ…この闇……』
走り疲れて立ち止まった檸檬の前に、何かが映る。
『あれ…?』
それは、ぼんやりとした空間の境目のようで。
向こうとこちらでは、何かが違う気がする。
が、それが何なのか分からない。
『もしかしたら…この先にいるの……?』
まるで薄い膜が貼ってあるようで、檸檬はほんの少し恐怖を覚えた。
が、意を決してその膜に触れようと……
「…檸檬……」
『えっ…?』
空耳じゃない。
今、確かに聞こえた。
『骸!?骸なのっ!?』
「…檸檬……いけません…」
『何処?骸、何処にいるの!?何してるの!?』
あたしが叫ぶと、膜の向こう側にぼんやりとした人影が1つ。
やがてそれは、くっきりと骸の姿になって。
『む…骸っ……!』
「…また会えて、嬉しいですよ……檸檬。」
『あのねっ、髑髏が大変なの!だから骸に何かあったんじゃないかって……』
「檸檬、」
言葉を遮られて骸の表情を窺うと、哀しい笑みが貼り付いていた。
途端に何故か、怖くなる。
『む、くろ…?』
「クロームを、頼みます。」
『え…?』
「檸檬も、ココに居続けるにはそろそろ力が限界のハズです。」
次の骸の台詞は、容易に想像出来た。
「……もう、行きなさい。」
『い…嫌っ!何でそんな顔するのよ!この膜は何!?あたし通り抜けれるかもっ……』
「檸檬、」
何で、そんなに落ち着いた声なの?
何で、最後みたいな言い方するの?
「これ以上…来てはいけません……」
そう言って骸は、背を向ける。
とにかく何かが哀しくて、涙が溢れた。
『骸!!待って、骸!!!』
「来てはいけませんよ、檸檬……」
『どうしてっ!!骸、何処に行くのっ!!?』
来るな、と言われたせいか、膜の直前で足は止まる。
骸は首だけ振り向いて、10年で伸びたらしき長髪をなびかせ、言った。
「また、会えますから……」
『骸!!待っ………うぅっ…!』
ヤバい、時間切れだ。
あたしの本体が悲鳴を上げてる。
発作が…起きちゃう。
「行きなさい……檸檬…来てくれて、本当に嬉しかったですよ………」
『む…くろ……』
どんどんどんどん意識は薄れていって、
急激に風を切るように移動していく感触がした。
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突然目を閉じた骸に疑問を抱いた白蘭は、少しだけ近づいた。
「ん…?」
「フ……クフフ…」
「何?楽しい事でも考えてたの?」
「貴方には、関係ありませんよ……」
話すまいとする意図を感じ取ったのか、白蘭は直感で当てようとする。
「骸君がそんなに隠そうとする事…大切にしている事って………DARQ関係かな?」
ピクリと動く骸の眉に、白蘭はまた笑みを見せる。
「ボンゴレは本当に物好きだよねー。まぁ、分からなくもないよ。檸檬チャンは綺麗な子だし、いい子らしいしね。みんな彼女を好いてる。」
「……貴方もそうなのでは?」
「…どーゆー意味?」
「だからLIGHTを側に置いてるのでは、と聞いているんです。」
挑発的に問う骸に、白蘭は思わず笑み以外の表情を見せた。
しかしそれは一瞬で、すぐまた笑みを貼付ける。
「………もう少し君と話してようと思ったけど、やめた。ボンゴレリングを持ってるワケでもないしね。」
右手をスッと挙げる白蘭。
「蜜柑を代わりにしてるって思ってるなら……それは違うって言っておくよ。君にはもう、本当の死を迎えてもらうから。」
中指にあるマーレリングが、輝きを放つ。
骸は目を抑えたまま、ほんの少し歯を食いしばった。
「バイバイ♪」
次の瞬間、辺りには血飛沫が飛び散った。
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ボンゴレアジトの病室で、カバンの中にあった三叉槍が砕け、髑髏も酷く吐血する。
同時に、髑髏の手を握って立っていた檸檬はぐたりと崩れ落ちた。
『うぐっ…』
「く……クローム!!」
「どうしたの!?檸檬!!」
病室内が完全に混乱に包まれた、その時。
ガラッ、
「雲雀さん!」
「哲、檸檬を。」
「へい。」
ビアンキに肩を支えられる檸檬を、草壁が抱え上げる。
檸檬の額にはすごい汗が滲み、軽く発作を起こしていた。
その間に、雲雀はツナを押しのけ髑髏の側に。
片手で後頭部を持ち上げ、瀕死状態の髑髏に言った。
「死んでもらっては困る。」
その光景を不安そうに見つめるツナに、檸檬を抱えたまま草壁が言った。
「沢田さん、外でお待ち下さい。」
「あ、あの…檸檬はどうしたんですか…!?」
「心配要りません、すぐに治ります。」
促されるままツナは外に出て、ミーティングルームへ。
草壁は檸檬を抱え、雲雀のアジトの方へ急いだ。
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ミーティーングルームにて、話を聞いたメンバーは皆集まり、安否を気にしていた。
そこに入って来た草壁。
「クローム髑髏は一命を取り留めました。」
「本当!?良かったー!!」
歓喜の声をあげるツナ。
リボーンは処置法を尋ねる。
「ボンゴレリングです。」
雲雀に促され、髑髏は今自分でボンゴレリングの力を引き出し内臓を補っている、との事。
「そんな事…可能なのかよ!?」
「はい、ですが今の彼女の力では幻覚は不完全……………生命維持がやっとの状態だ…」
「あの…じゃあ…骸はどーなっちゃったの!?」
不安そうに尋ねるツナに、草壁は首を横に振る。
そして、了平に尋ねた。
「骸の行動については、ヴァリアーにいた笹川氏の方が詳しいのでは?」
「骸からヴァリアーへの指示は一方的なものだったと聞いている。俺はその指示を信じ行動したが……」
骸自身が何をしているのかは不明だ、と。
「クロームへの力が一切途絶えたのよ、最悪の事態も考えるべきだわ。」
「そんなぁ!!」
「……10代目!あのしぶとい骸です。まだ分かりませんって。」
獄寺がツナを励ましたところで、リボーンが指摘する。
5日後の作戦に髑髏は参加出来そうにない、と。
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同じ頃。
『ん……?』
目を開けると、いつかと同じように畳の匂いが鼻を刺激した。
病室にいたハズなのに…………あれ?
そうだよ…
あたし、髑髏の精神世界伝って……
『………骸っ!!!』
ガバッと起き上がろうとすると、肩を抑えられた。
『えっ?』
「檸檬……やっぱり使ったんだね、アレ。」
『恭弥………』
ちょっと怒ってる感じがして、あたしは目を逸らした。
「無理するなって、あれ程言ったのに。」
『もうちょっとだったの!骸に会って……骸と話せたのにっ……!』
「話した?」
聞き返す恭弥に頷いてから、今度はゆっくり起き上がる。
『骸…哀しい顔してた……』
「檸檬?」
『あたしっ……何も出来なかった…!』
鮮明に、思い出す。
こっちへ来るなって言ってた骸。
何故か背を向けて行ってしまった骸。
あぁ、ダメだ。
またワケ分かんない涙が溢れる。
『ど、どーしよっ……どーしよ恭弥ぁっ……』
「檸檬……」
情けなく泣き出したあたしを、恭弥は優しく抱きしめる。
何も言わないで、背中を摩ってくれる。
「………気に食わないな。」
『へ…?』
「アイツはいつも、檸檬をこんなに泣かせる。」
そう言って恭弥は、溢れるあたしの涙を指で拭った。
ひんやりした指に、ちょっと吃驚する。
「檸檬を泣かせていいのは僕だけなのに。」
『なっ、何言ってんの!?///』
「だってコレは、アイツの為に流れてるんでしょ?何か嫌だ。」
『恭弥ってば……』
こんな会話だけど、あたしの気分を軽くしようとしてくれてるのかな?
そう思うと、恥ずかしいけど嬉しい。
それに、あたしが泣いてたって何も変わらないし始まらない。
骸の安否を確かめる為には、ミルフィオーレに近づかなくちゃいけない。
その為には修業を、もっともっと頑張らなくちゃいけない。
『恭弥、ありがと。もう大丈夫。』
心配で不安で仕方無いけど、何とか笑顔で誤摩化す。
そんなあたしの強がりすら、恭弥は分かってくれる。
「………じゃ、行くよ。」
『うんっ。』
優しく手を握られて、ミーティングルームへ。
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「心配するな、クロームの不足分は俺が補う。」
「そんな事、任せられるワケねーだろ。お前、今座ってんのもしんどそうじゃねーか。」
ツナしか知らなかったはずのラルの不調を、リボーンは見抜いていた。
しかし、ラルは簡単に引き下がらない。
「何を言っている!!」
「無理すんな。お前の体は非73線を浴び過ぎてボロボロなんだろ?」
「(ノン・トゥリニセッテ……?)」
リボーンがラルを引き止めるのは、自分も入れ替わった時に非73線を肌で感じたからだと言う。
でも、ラルはだからこそソレを放出してるミルフィオーレを倒しに行きたい…と。
ここで、ジャンニーニと草壁が口を開いた。
「非73線が地上に漂っている原因はまだ特定出来ていません…。ミルフィオーレとの因果関係は恐らくあると思われるのですが決定打がなく……」
「我々も同じく……」
「いや!!奴らの仕業だ!!コロネロもバイパーもスカルも……奴らに殺されたんだ!!」
反論直後、ラルは体の痛みに耐えきれずその場に倒れる。
「ラル・ミルチ!!」
「大丈夫ですか!」
「触るな!!立てるっ…」
強がり続け、耐え続けるラルの姿を見て、駆け寄ろうとしたツナの表情はどんどん複雑になっていく。
その場で動けなくなるツナに、了平が静かに言った。
「5日後だが……これだけ戦力に悪条件が揃っては、お前が何と言うか見当がつく……作戦中止は俺が上に伝えに行こう。」
しかし、そんな言葉は耳に入らなかった。
ただツナの目には、大嫌いな光景だけが映っていた。
辛いハズなのに、
苦しいハズなのに、
それを素直に吐き出せない状況。
どれだけ強がって、
いくら踏ん張っても、
決してその後が保証されていない状況。
危険に晒されて、
酷く悩んで、
ちっとも笑顔になれない毎日を生き抜かざるを得ない状況。
打破する為にすべき事は……
もう分かっている。
「………やりましょう。」
『(あ…)』
あたしと恭弥が部屋に入った時には、
もうツナの答えは出ていた。
「敵のアジトに行けば、過去に戻る事だけじゃなくて、骸の手がかりも何か掴めると思うんです。それにその、ノン・トゥリニセッテの事も分かるかも知れないし……」
やっぱりツナは、紛れもなくあたし達のボスなんだ。
「………でもどっちも、ゆっくりしてると手遅れになっちゃう気がして。」
「うむ。」
『ツナ……』
「それに、やっぱり俺……こんな状況(トコ)に一秒でも長くいて欲しくないんだ。」
握られた拳が、示してる。
その答えを出す為に、どれだけ悩んだのか。
優しいツナが戦いを選ぶのに、どれだけ苦しんでるか。
「並盛の仲間は勿論だし、クロームやラル・ミルチだって………………こんな状況(トコ)、全然似合わないよ!!」
流れる沈黙。
その決断の重さが空気の重さとなってそのまんま伝わる。
「あ、えと……俺はそんな感じです………けど…」
「よく言ったぞ!男だ沢田!!」
「…………ガキが。」
『ツナならきっと、ちゃんと決めてくれるって思ってたよ♪』
「あっ!檸檬っ!!」
あたしの顔を見て、ツナは吃驚しながら駆け寄る。
「その、大丈夫?第六感、使い過ぎちゃったんでしょ…?」
『え!?あ、あー…もう平気だよっ♪骸のことは…心配だけど……あたしは大丈夫。』
「よ、良かったぁー…病室で急に倒れるから心配で……」
ホッと胸を撫で下ろしたツナは、ポケットから小瓶を取り出す。
「とにかく……」
死ぬ気丸を2つ飲み込めば、その目も雰囲気も一変する。
「5日しか時間がない。一刻も無駄には出来ないぞ。」
「はい!!」
「だな!!」
『うん!!』
今日の午後の修業が始まる。
隣にいる恭弥を見上げて、明るく一言。
『ツナに負けないように頑張ってね♪』
「負けるワケないでしょ。」
『あたしも、無理しないように頑張るからさ!』
「当然だよ。今度は何分やるつもり?」
『じゃあ、思い切って30…』
「25分ね。」
………聞いといて遮るとか…酷い。
「ちゃんと休み取るんだよ。」
『はーい!』
ツナの後に続いて、ミーティングルームを飛び出した。
恭弥のアジトにある自室へ向かう。
『(第4段階は確か………)』
“視覚外の波長の把握”
あたしの部屋にこもった状態で、何処までアジト全体の波長を読み切れるか。
人物配置が分かれば、なお良し。
5日後の作戦、決行されるならあたしは………
必ず蜜柑を止めてみせる。