未来編①
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
修業の具合を見たツナは、1人エレベーターの中で頭を悩ませていた。
「(檸檬はともかく、山本も獄寺君も5日で修業が完成するとは思えない……)」
自分自身も、人の事は言えないくらい未熟である事は分かっている。
が、やはり決断する者として不安を感じざるを得ない状況。
「(リボーンは忙しそうだし、ラル・ミルチに相談してみよう……)」
そう決めて、エレベーターを降りたツナの目に、
廊下で座り込むラルの姿が飛び込んできた。
レオナルド・リッピ
「ラル・ミルチ!!どーしたの!?大丈夫!?」
「ん……」
汗をかきながらも、ゆっくりと目を開けるラル。
が、その口からは予想外の言葉が。
「……誰だ………?」
「え!?」
戸惑うツナを今度は両目で確認し、やっと認識する。
「沢田か………少し…ふらついただけだ。」
「ラル……目…」
「以前から右目は弱いんだ。その為のゴーグルだ……もう必要なさそうだがな…」
「…俺、誰か呼んで来るよ。」
「その必要はない。」
「でも…」
「余計な事をするな!!」
あまりにも突然怒鳴られたから、吃驚して固まってしまった。
ラルは5日後の作戦で足を引っ張らない為にも黙ってろ、なんて言う。
だけどやっぱり、無理はして欲しくなくて。
第六感の修業をしてる檸檬にだって、ホントはちゃんと言っておきたかった。
いつもみたいに笑ってくれたけど……
雪山に繋いだハズなのにうっすら汗かいてた。
それはきっと、ちょっとずつ無理をしてるからで、
俺が1番嫌なのはその“ちょっとした無理”で。
なのにラルは5日後の作戦に、まるで命をかけるかのように俺を引き止める。
「だって、お兄さんも作戦は断っていいって……それに俺、こんな戦争みたいのに参加するの…あんまり乗り気じゃ……」
「本当にそう思ってるのか!!!」
突如胸ぐらを掴まれて、更に必死そうな大きな声。
そして…
「ミルフィオーレとボンゴレの戦力差は圧倒的、いずれココに居る多くの人間は死ぬんだ!!」
つらそうな苦しそうなその目で、
「お前に委ねられてるのは生死の選択ではない……」
真直ぐ、残酷に、
「……どちらの地獄を選ぶかだ。」
重い現実を突き付ける。
「甘い考えを捨てろ。0.01%でも生存確率の高い選択をするのが……お前の義務だ。」
怒鳴り声じゃなくなっても、厳格さは消えないラルの言葉。
掴んでいた俺の胸ぐらを放し、ラルは立ち上がる。
「ラル…」
「大丈夫だ……」
全然大丈夫そうじゃなかった。
けど、引き止められなかった。
それどころじゃなかったんだ。
自分の中に沸き起こる全てから逃げ出したい気持ち。
それを赦さない目前の状況。
俺はどうしたい?
どうすればいい?
何を選んでもダメな気がする。
何を望んでも未来は……
---
-----
------------
『お茶入れたよ、置いとくね。』
「うん。」
恭弥に修業を中断されて、10分が経過した。
とりあえず緑茶を飲みながら、未来のあたしが使ってたナイフを眺める。
恭弥はヒバードにエサをあげてる。
こんなのほほんとしてる場合じゃない気がするんだけどなー…。
「そんなに気になる?」
『えっ?』
「そのナイフ。」
『だって……何が違うのか分からないんだもん。普通に使っていいのかなぁ?』
「いいんじゃない。」
『う~~~ん…』
未来のあたしが使ってたって事は、炎を灯したりしてたのかな、とか考える。
「ねぇ檸檬、」
『ん?なに?』
恭弥が急に真剣な表情になるから、ちょっと吃驚する。
「何ともない?」
『え……あ、うんっ。』
「本当に?」
『ひょえっ!』
スッと頬に添えられる恭弥の手に、心臓が跳ね上がる。
固まりながら答えた。
『ホントに…何にもないよっ!///』
「汗。」
『汗……が、どうしたの?』
「さっき、かいてた。もう引いたみたいだけど。」
『そりゃー修業する時は汗かくよっ。』
当然でしょ、と言っても恭弥は続ける。
「哲に聞いたよ。檸檬、雪山に空間移動してたって。」
『それは……』
「大丈夫な気になってても、身体が無理してる証拠。」
ホント、何も言い返せない。
てゆーか、10年で過保護みたいになった気もする。
『(でもそれはきっと……)』
きっと、未来のあたしが無理し過ぎたせいなんだ。
恭弥はそれを踏まえた上で心配してくれてるんだ。
『ごめんね……』
「檸檬?」
頬に添えられたままの恭弥の手を、軽く握る。
『でも、本当にまだ大丈夫だよ。何ともない。』
それが貴方の優しさだって、知ってるから。
過ちは繰り返さないって、約束したから。
「何かあったら…言うんだよ。」
『うんっ♪』
無理矢理な笑顔は、見せないから。
笑う時は、いつでも自然体でいたい……
そう、願えるようになったから。
そうしてあたしは、ゆっくり進んで行くよ。
無理して転んで二度と立てなくなるなんて、無いように。
---
-----
-------------
同刻、ミルフィオーレ日本支部。
“レオナルド・リッピ”が推薦された人物と違っている事を連絡しようとした入江は、直接回線が繋がらず困惑していた。
「ダメですねぇ、緊急回線も繋がりません!」
「もーいいよ!!イタリア本部にいる他の部隊に繋いでくれ!!」
部下の報告に苛立つ入江に、チェルベッロが言う。
「それも無理のようです。本部パフィオペディラムに繋がる全ての回線が通信障害を起こしています。」
「何だよそれっ!?一体どーなって…………あっ!」
ふと脳裏によぎる、嫌な予感。
「(まさかあの伝達係が………白蘭サン!!)」
「何かあったの?入江君。」
「ライトさん!」
通信室にやって来たのは、騒ぎを聞きつけた蜜柑だった。
「通信障害……酷そうね。」
「じ、実は…」
「あの伝達係、動いたのかしら。」
「えっ……!??」
蜜柑が小さく口にした一言を、入江は聞き逃さなかった。
パソコンの画面を眺める蜜柑の腕を掴み、問いかける。
「ライトさん、まさか……気付いてた!?」
腕を引かれた事に少々驚くも、すぐに表情を戻し、蜜柑は答えた。
「……だったら?」
「なっ……何で言わないんだ!!いつも貴女はっ……!」
「仮に知っていたとして、入江君はどうしてたの?」
冷淡というより、何の感情も宿していない湖面のような瞳を向け、蜜柑は尋ねる。
「白蘭サンに連絡して、それで……」
「私たちが出来るのは情報伝達のみ。フライトするにもそれなりに時間はかかるし、増して日本からじゃ手は出せない。」
「けど隠しておく必要なんてっ…」
「私は隠してないわ。確信したのも、先程の白蘭からの電話の時よ。」
言いながら、腕を掴む入江の手を軽く振り払う。
「それでもっ…」
「何?」
「白蘭サンに何かあったら…!」
「スパイ1人で崩れるような組織のボスに、私は仕えない。」
強く反論しようとした僕の言葉は、彼女の静かな主張に遮られた。
驚いたのは、その表情がいつもより真面目だった事。
いつも飄々と我が道を歩むライトさんからは、想像出来ないような。
「そんな人に、仕えた覚えは無い。」
「ライトさん……」
ずっと前、白蘭サンに聞いた。
ライトさんは心を閉ざした蝋人形みたいな人だって。
ずっとずっとダークを追い続け、殺そうとしてる。
その為に仕える人には絶対忠誠を誓うけど、信頼はしない。
誰も信じないし、頼りにしない。
それが、ライトさんだって。
僕も初めて見た時から、あぁそうだなって納得してた。
白蘭サンにのみ誓っている忠誠。
期待を裏切らない高い能力。
けど、今のライトさんは………
「白蘭は、大丈夫。」
そう言って立ち去る彼女を、僕は止められなかった。
強い忠誠が表れただけというには、余りに意志が混じっている気がして。
それは、いつも見ていた彼女じゃない気がして。
「(もしかしたら……)」
心を捨てた戦闘マシーンは、
少なからず上司である白蘭サンの力量を“信頼してる”んじゃないか。
そんな、あり得ない事をふと考えた。
---
------
本部・パフィオペディラム。
食事から帰って来た白蘭に、部屋の中で待機していた伝達係・レオナルドが声をかける。
「お帰りなさいませ、白蘭様。お食事いかがでしたか?」
「うん、美味かったよ。ラーメンに餃子♪」
満足そうに答えてから、白蘭は問いかける。
「ところでレオ君、何してんの?とうとう世話係まで任せられちゃった?」
「い…いえ……あの…白蘭様にお仕事の話で相談が…」
「…?賃上げ要求とかヤダよ。」
「いえ!お給料には満足してます…。じ、実は…一身上の都合でやめさせて頂きたく……」
「お、それはびっくり。」
変わらぬ笑みのまま、白蘭は続けた。
「君の才能には期待してたのになーーー」
「ま…またそんな……」
「ホントホント、なかなか出来る事じゃないよーー。第11部隊を退け、グロ・キシニアを黒曜に向かわせるなんてさ。」
後半部の声色の変化、
そしてその内容にレオナルドは肩を震わせる。
「は…?」
「君はあそこで10年前のクローム髑髏を勝たせなければならなかった。」
それゆえ、白蘭に虚偽の含まれる報告……
第11ヴィオラ隊がヴァリアーに襲撃されたという報告をし、
グロ・キシニア率いる第8部隊を増援として送るよう操作した。
グロ・キシニアがクロームを個人的に標的にしていたのをいい事に、黒曜ランドの情報を教え、1人で向かわせた。
つらつら述べる白蘭に、レオナルドは戸惑う。
「白蘭様…?一体何を?」
「もういいから出ておいでよ、レオ君。いや…この場合グイド・グレコ君?それともボンゴレの霧の守護者かな。」
「ボンゴレの……霧の守護者…ですか?」
「うん。………六道骸君。」
鋭く光る、白蘭の眼光。
そして、口にされた“その名前”。
「はぁ?白蘭様…一体……それは…」
震える声で応答するレオナルドは、
途中でごくりと唾を飲み。
「……いつから?」
突如豹変したレオナルドの雰囲気にちっとも動じず、白蘭は答える。
「随分前だよ。部屋にダチュラの花を飾って貰ったの覚えてる?花言葉は“変装”なんだ。」
「やはり僕の予想通りだ。あの頃から貴方の視線がくすぐったかった…。」
そこで2人は、お互い楽しそうに笑う。
「お互い相手の腹を知りつつ知らぬフリをしていたワケだ。」
「貴方が入江正一やライトに知らせなければ、もっと遊べたんですがね。」
「よく言うなぁ。ま、蜜柑に関しては僕はノータッチ。自分で気付いてたからね。」
少し前の電話でのやり取りを思い出す白蘭。
---「伝達係は偽者、ですね。お気をつけ下さい。」
「それに、遊びを超えてボンゴレの仕事し始めちゃったの、君だろ?」
「ボンゴレ…?」
少し声のトーンを高くしながら答えるレオナルド。
その姿は、だんだんと霧に包まれて行く。
「彼らと一緒に扱われるのは心外ですね。」
見え隠れする、右の眸には“六”の文字。
「沢田綱吉は僕の標的でしかありませんよ。」
薄れゆく霧の中から現れた人物は、もうミルフィオーレの隊服を纏っていなかった。
その背丈や骨格すら異なる、別人物-----
“六道骸”---先程白蘭が口にした“その者”であった。
10年の月日を感じさせる長く伸びた後ろ髪が、ふわりと揺れる。
お馴染みとなった武器、三叉槍をその手に持ち、白蘭の前に立つ。
「へぇ、君が骸君かぁ。うん悪くないね♪そのレオ君…いやグイド・グレコ君は、君にとって2人目のクローム髑髏って解釈でいいのかな?」
「クフフフ…どうでしょう?」
「ふぅん、企業秘密か。まぁ答えたくないモン無理矢理言わせてもねぇ。」
ふと、白蘭の目線は骸の右手に向けられる。
「わっ、レア度星5つのヘルリング!2つも持ってるんだ。骸君、闘る気満々じゃん。」
「当然ですよ、僕は楽しみにしてましたからね。ベールに包まれた貴方の力を暴けるこの日を。そして……」
右手人差し指の指輪と同じ装飾が施された匣を取り出し、骸は続ける。
「貴方を乗っ取るこの時を。」
「……食後の運動くらいにはなるかな。」
---
------
-------------
雲雀のアジト内では、檸檬が修業に戻ろうとしていた。
『んじゃあたし、そろそろ再開するね。』
「今度は何分?」
『えーっと……じゃあまた20分にしよっかな。』
「檸檬、何かあったら…」
『1番に恭弥のこと呼ぶよ♪』
「………分かってるならいいけど。///」
目線を逸らす雲雀に、檸檬は後ろからギュッと抱きつく。
『行って来ますっ♪』
「…いってらっしゃい。」
雲雀は背中越しに檸檬の髪を撫で、優しくそう言った。
自室へ向かう途中、檸檬はバッタリ草壁に遭遇した。
その表情は何やら深刻そうで、檸檬は思わず問いかける。
『どうかしたんですか?草壁さん。』
「檸檬さん…!実はつい先程……」
---
-----
一方、ボンゴレアジトの応接室では、ツナが1人で頭を抱え込んでいた。
「(どーすりゃいいんだ!?作戦に参加してもしなくても地獄だなんて……それにラル・ミルチの状態があんなに悪かったなんて……!)」
と、そこに。
「ガハハハ!ツナみーっけ!!ツナにも落書きしてあげよっか!?」
黒マジックを持ったランボが走ってやって来た。
「ランボ……遊んでる気分じゃないんだ…あっち行ってくれよ。」
「あららのら♪本当は遊びたいクセに~~~!!」
「やめろ…本当に怒るぞ……」
ツナの静かな言葉は、ランボを制止させられず。
そのままマジックでズボンに落書きを始めるランボ。
「ガハハ!書いちゃうもんね!」
「やめろって言ってるだろ!!!」
募っていた不安や苛立ちが、一気に爆発した。
怒鳴られたランボは、泣きそうになりながら硬直する。
そこに、声が聞こえたのか、ハルがやって来た。
「どーしたんですかツナさん!?はひ?ランボちゃん、泣いてるんですか?」
ツナの中で爆発したマイナスの感情は、
居合わせたハルにも向けられて。
「ハル!!修業中はちゃんと面倒見ろって言ったじゃないか!!」
「す、すいません…。でも…」
ランボを抱え上げながら、ハルは言う。
「ランボちゃんだって遊んでばかりじゃなくて、ちゃんとお手伝いしてくれてるんですよ。ツナさん、何も知らないから………」
「(“何も知らない”………?)」
自分が今、どれだけ悩んでいる事か。
その悩みを打ち明けず、普通に過ごしているハル達。
それなのに、無知なのは自分の方だと言われ、平常心でいられるハズが無かった。
「何も知らないのは、お前達だろ!!?」
怒鳴った瞬間の、怯えたハルの表情も、
ちゃんと目に入らなかった。
ただ、その後の小さな謝罪で、ようやく正気を取り戻す。
「さぁ行きましょうね、ランボちゃん……」
「ハルっ、違うんだ……」
引き止めようとも、駆け足で去って行ってしまう。
マイナス感情の爆発の後に残ったのは、
もっと酷い自己嫌悪だった。
「(何やってんだよ俺っ…皆を安心させなきゃいけないってのに……)」
「ココにいたのか。」
「リボーン……」
いつも頼りっ放しの存在に、
やっぱり今回も弱音を吐く。
「俺には無理だよ!!ボスの役割なんて!!」
でも、返されたのは更に酷い状況を知らせる言葉。
「ヘコたれてる暇はねーぞ。クロームの容体が急変した。」
「え!!?」
「相当やべーぞ。内臓のいくつかが壊れ出した。」
「な……内臓!?」
原因として思いつくのは、ただ1つ。
だけど一体何が起こってるのか、到底理解出来なくて。
医務室に走る間も、不安と困惑と自己嫌悪に襲われ続けていた。
---
------
『髑髏が!!?』
「はい…あまりに酷い事態なので恭さんにも、と。」
『あたし、先に行きますっ!』
草壁から髑髏の容体が急激に悪化した事を知らされた檸檬は、医務室へ。
『ビア姉さんっ、髑髏は!!?』
「檸檬…どうしようも無いのよ、どうしたらいいか……!」
『髑髏っ…!』
ギュッと握った手は、予想以上に冷たくなって来てて、
怖くて怖くて視界がぼやける。
「檸檬…さん……」
『髑髏っ……』
髑髏の内臓に影響が出てるって事は……骸に何か起こった…?
『(一体何が……………そうだ!!)』
髑髏の手を握り直して、あたしは目を閉じる。
「檸檬、何を…?」
今まで修業して来たんだもん、読めるハズだよ………髑髏の脳波。
身体器官の目で見るんじゃなくて、心の眼で視る。
ゆっくり、ゆっくり、感じ取って。
『(視えた……!)』
髑髏の中に流れる波長。
そこから…骸とリンクしている箇所、
つまり骸の幻覚能力に直結している箇所の波長を辿れば………
『(骸がどうなってるか、視れるかもしれないっ…!)』
あたしの思念を送る、骸と髑髏が繋がってる場所へ。
精神世界の中へ。
-「檸檬っ…!?」
ビア姉さんの声が遠ざかる。
そしてあたしは、ぼんやりとした光の中へと。
『(骸……!)』
お願いだから、無事でいて。
今、貴方に会いに行く。
「(檸檬はともかく、山本も獄寺君も5日で修業が完成するとは思えない……)」
自分自身も、人の事は言えないくらい未熟である事は分かっている。
が、やはり決断する者として不安を感じざるを得ない状況。
「(リボーンは忙しそうだし、ラル・ミルチに相談してみよう……)」
そう決めて、エレベーターを降りたツナの目に、
廊下で座り込むラルの姿が飛び込んできた。
レオナルド・リッピ
「ラル・ミルチ!!どーしたの!?大丈夫!?」
「ん……」
汗をかきながらも、ゆっくりと目を開けるラル。
が、その口からは予想外の言葉が。
「……誰だ………?」
「え!?」
戸惑うツナを今度は両目で確認し、やっと認識する。
「沢田か………少し…ふらついただけだ。」
「ラル……目…」
「以前から右目は弱いんだ。その為のゴーグルだ……もう必要なさそうだがな…」
「…俺、誰か呼んで来るよ。」
「その必要はない。」
「でも…」
「余計な事をするな!!」
あまりにも突然怒鳴られたから、吃驚して固まってしまった。
ラルは5日後の作戦で足を引っ張らない為にも黙ってろ、なんて言う。
だけどやっぱり、無理はして欲しくなくて。
第六感の修業をしてる檸檬にだって、ホントはちゃんと言っておきたかった。
いつもみたいに笑ってくれたけど……
雪山に繋いだハズなのにうっすら汗かいてた。
それはきっと、ちょっとずつ無理をしてるからで、
俺が1番嫌なのはその“ちょっとした無理”で。
なのにラルは5日後の作戦に、まるで命をかけるかのように俺を引き止める。
「だって、お兄さんも作戦は断っていいって……それに俺、こんな戦争みたいのに参加するの…あんまり乗り気じゃ……」
「本当にそう思ってるのか!!!」
突如胸ぐらを掴まれて、更に必死そうな大きな声。
そして…
「ミルフィオーレとボンゴレの戦力差は圧倒的、いずれココに居る多くの人間は死ぬんだ!!」
つらそうな苦しそうなその目で、
「お前に委ねられてるのは生死の選択ではない……」
真直ぐ、残酷に、
「……どちらの地獄を選ぶかだ。」
重い現実を突き付ける。
「甘い考えを捨てろ。0.01%でも生存確率の高い選択をするのが……お前の義務だ。」
怒鳴り声じゃなくなっても、厳格さは消えないラルの言葉。
掴んでいた俺の胸ぐらを放し、ラルは立ち上がる。
「ラル…」
「大丈夫だ……」
全然大丈夫そうじゃなかった。
けど、引き止められなかった。
それどころじゃなかったんだ。
自分の中に沸き起こる全てから逃げ出したい気持ち。
それを赦さない目前の状況。
俺はどうしたい?
どうすればいい?
何を選んでもダメな気がする。
何を望んでも未来は……
---
-----
------------
『お茶入れたよ、置いとくね。』
「うん。」
恭弥に修業を中断されて、10分が経過した。
とりあえず緑茶を飲みながら、未来のあたしが使ってたナイフを眺める。
恭弥はヒバードにエサをあげてる。
こんなのほほんとしてる場合じゃない気がするんだけどなー…。
「そんなに気になる?」
『えっ?』
「そのナイフ。」
『だって……何が違うのか分からないんだもん。普通に使っていいのかなぁ?』
「いいんじゃない。」
『う~~~ん…』
未来のあたしが使ってたって事は、炎を灯したりしてたのかな、とか考える。
「ねぇ檸檬、」
『ん?なに?』
恭弥が急に真剣な表情になるから、ちょっと吃驚する。
「何ともない?」
『え……あ、うんっ。』
「本当に?」
『ひょえっ!』
スッと頬に添えられる恭弥の手に、心臓が跳ね上がる。
固まりながら答えた。
『ホントに…何にもないよっ!///』
「汗。」
『汗……が、どうしたの?』
「さっき、かいてた。もう引いたみたいだけど。」
『そりゃー修業する時は汗かくよっ。』
当然でしょ、と言っても恭弥は続ける。
「哲に聞いたよ。檸檬、雪山に空間移動してたって。」
『それは……』
「大丈夫な気になってても、身体が無理してる証拠。」
ホント、何も言い返せない。
てゆーか、10年で過保護みたいになった気もする。
『(でもそれはきっと……)』
きっと、未来のあたしが無理し過ぎたせいなんだ。
恭弥はそれを踏まえた上で心配してくれてるんだ。
『ごめんね……』
「檸檬?」
頬に添えられたままの恭弥の手を、軽く握る。
『でも、本当にまだ大丈夫だよ。何ともない。』
それが貴方の優しさだって、知ってるから。
過ちは繰り返さないって、約束したから。
「何かあったら…言うんだよ。」
『うんっ♪』
無理矢理な笑顔は、見せないから。
笑う時は、いつでも自然体でいたい……
そう、願えるようになったから。
そうしてあたしは、ゆっくり進んで行くよ。
無理して転んで二度と立てなくなるなんて、無いように。
---
-----
-------------
同刻、ミルフィオーレ日本支部。
“レオナルド・リッピ”が推薦された人物と違っている事を連絡しようとした入江は、直接回線が繋がらず困惑していた。
「ダメですねぇ、緊急回線も繋がりません!」
「もーいいよ!!イタリア本部にいる他の部隊に繋いでくれ!!」
部下の報告に苛立つ入江に、チェルベッロが言う。
「それも無理のようです。本部パフィオペディラムに繋がる全ての回線が通信障害を起こしています。」
「何だよそれっ!?一体どーなって…………あっ!」
ふと脳裏によぎる、嫌な予感。
「(まさかあの伝達係が………白蘭サン!!)」
「何かあったの?入江君。」
「ライトさん!」
通信室にやって来たのは、騒ぎを聞きつけた蜜柑だった。
「通信障害……酷そうね。」
「じ、実は…」
「あの伝達係、動いたのかしら。」
「えっ……!??」
蜜柑が小さく口にした一言を、入江は聞き逃さなかった。
パソコンの画面を眺める蜜柑の腕を掴み、問いかける。
「ライトさん、まさか……気付いてた!?」
腕を引かれた事に少々驚くも、すぐに表情を戻し、蜜柑は答えた。
「……だったら?」
「なっ……何で言わないんだ!!いつも貴女はっ……!」
「仮に知っていたとして、入江君はどうしてたの?」
冷淡というより、何の感情も宿していない湖面のような瞳を向け、蜜柑は尋ねる。
「白蘭サンに連絡して、それで……」
「私たちが出来るのは情報伝達のみ。フライトするにもそれなりに時間はかかるし、増して日本からじゃ手は出せない。」
「けど隠しておく必要なんてっ…」
「私は隠してないわ。確信したのも、先程の白蘭からの電話の時よ。」
言いながら、腕を掴む入江の手を軽く振り払う。
「それでもっ…」
「何?」
「白蘭サンに何かあったら…!」
「スパイ1人で崩れるような組織のボスに、私は仕えない。」
強く反論しようとした僕の言葉は、彼女の静かな主張に遮られた。
驚いたのは、その表情がいつもより真面目だった事。
いつも飄々と我が道を歩むライトさんからは、想像出来ないような。
「そんな人に、仕えた覚えは無い。」
「ライトさん……」
ずっと前、白蘭サンに聞いた。
ライトさんは心を閉ざした蝋人形みたいな人だって。
ずっとずっとダークを追い続け、殺そうとしてる。
その為に仕える人には絶対忠誠を誓うけど、信頼はしない。
誰も信じないし、頼りにしない。
それが、ライトさんだって。
僕も初めて見た時から、あぁそうだなって納得してた。
白蘭サンにのみ誓っている忠誠。
期待を裏切らない高い能力。
けど、今のライトさんは………
「白蘭は、大丈夫。」
そう言って立ち去る彼女を、僕は止められなかった。
強い忠誠が表れただけというには、余りに意志が混じっている気がして。
それは、いつも見ていた彼女じゃない気がして。
「(もしかしたら……)」
心を捨てた戦闘マシーンは、
少なからず上司である白蘭サンの力量を“信頼してる”んじゃないか。
そんな、あり得ない事をふと考えた。
---
------
本部・パフィオペディラム。
食事から帰って来た白蘭に、部屋の中で待機していた伝達係・レオナルドが声をかける。
「お帰りなさいませ、白蘭様。お食事いかがでしたか?」
「うん、美味かったよ。ラーメンに餃子♪」
満足そうに答えてから、白蘭は問いかける。
「ところでレオ君、何してんの?とうとう世話係まで任せられちゃった?」
「い…いえ……あの…白蘭様にお仕事の話で相談が…」
「…?賃上げ要求とかヤダよ。」
「いえ!お給料には満足してます…。じ、実は…一身上の都合でやめさせて頂きたく……」
「お、それはびっくり。」
変わらぬ笑みのまま、白蘭は続けた。
「君の才能には期待してたのになーーー」
「ま…またそんな……」
「ホントホント、なかなか出来る事じゃないよーー。第11部隊を退け、グロ・キシニアを黒曜に向かわせるなんてさ。」
後半部の声色の変化、
そしてその内容にレオナルドは肩を震わせる。
「は…?」
「君はあそこで10年前のクローム髑髏を勝たせなければならなかった。」
それゆえ、白蘭に虚偽の含まれる報告……
第11ヴィオラ隊がヴァリアーに襲撃されたという報告をし、
グロ・キシニア率いる第8部隊を増援として送るよう操作した。
グロ・キシニアがクロームを個人的に標的にしていたのをいい事に、黒曜ランドの情報を教え、1人で向かわせた。
つらつら述べる白蘭に、レオナルドは戸惑う。
「白蘭様…?一体何を?」
「もういいから出ておいでよ、レオ君。いや…この場合グイド・グレコ君?それともボンゴレの霧の守護者かな。」
「ボンゴレの……霧の守護者…ですか?」
「うん。………六道骸君。」
鋭く光る、白蘭の眼光。
そして、口にされた“その名前”。
「はぁ?白蘭様…一体……それは…」
震える声で応答するレオナルドは、
途中でごくりと唾を飲み。
「……いつから?」
突如豹変したレオナルドの雰囲気にちっとも動じず、白蘭は答える。
「随分前だよ。部屋にダチュラの花を飾って貰ったの覚えてる?花言葉は“変装”なんだ。」
「やはり僕の予想通りだ。あの頃から貴方の視線がくすぐったかった…。」
そこで2人は、お互い楽しそうに笑う。
「お互い相手の腹を知りつつ知らぬフリをしていたワケだ。」
「貴方が入江正一やライトに知らせなければ、もっと遊べたんですがね。」
「よく言うなぁ。ま、蜜柑に関しては僕はノータッチ。自分で気付いてたからね。」
少し前の電話でのやり取りを思い出す白蘭。
---「伝達係は偽者、ですね。お気をつけ下さい。」
「それに、遊びを超えてボンゴレの仕事し始めちゃったの、君だろ?」
「ボンゴレ…?」
少し声のトーンを高くしながら答えるレオナルド。
その姿は、だんだんと霧に包まれて行く。
「彼らと一緒に扱われるのは心外ですね。」
見え隠れする、右の眸には“六”の文字。
「沢田綱吉は僕の標的でしかありませんよ。」
薄れゆく霧の中から現れた人物は、もうミルフィオーレの隊服を纏っていなかった。
その背丈や骨格すら異なる、別人物-----
“六道骸”---先程白蘭が口にした“その者”であった。
10年の月日を感じさせる長く伸びた後ろ髪が、ふわりと揺れる。
お馴染みとなった武器、三叉槍をその手に持ち、白蘭の前に立つ。
「へぇ、君が骸君かぁ。うん悪くないね♪そのレオ君…いやグイド・グレコ君は、君にとって2人目のクローム髑髏って解釈でいいのかな?」
「クフフフ…どうでしょう?」
「ふぅん、企業秘密か。まぁ答えたくないモン無理矢理言わせてもねぇ。」
ふと、白蘭の目線は骸の右手に向けられる。
「わっ、レア度星5つのヘルリング!2つも持ってるんだ。骸君、闘る気満々じゃん。」
「当然ですよ、僕は楽しみにしてましたからね。ベールに包まれた貴方の力を暴けるこの日を。そして……」
右手人差し指の指輪と同じ装飾が施された匣を取り出し、骸は続ける。
「貴方を乗っ取るこの時を。」
「……食後の運動くらいにはなるかな。」
---
------
-------------
雲雀のアジト内では、檸檬が修業に戻ろうとしていた。
『んじゃあたし、そろそろ再開するね。』
「今度は何分?」
『えーっと……じゃあまた20分にしよっかな。』
「檸檬、何かあったら…」
『1番に恭弥のこと呼ぶよ♪』
「………分かってるならいいけど。///」
目線を逸らす雲雀に、檸檬は後ろからギュッと抱きつく。
『行って来ますっ♪』
「…いってらっしゃい。」
雲雀は背中越しに檸檬の髪を撫で、優しくそう言った。
自室へ向かう途中、檸檬はバッタリ草壁に遭遇した。
その表情は何やら深刻そうで、檸檬は思わず問いかける。
『どうかしたんですか?草壁さん。』
「檸檬さん…!実はつい先程……」
---
-----
一方、ボンゴレアジトの応接室では、ツナが1人で頭を抱え込んでいた。
「(どーすりゃいいんだ!?作戦に参加してもしなくても地獄だなんて……それにラル・ミルチの状態があんなに悪かったなんて……!)」
と、そこに。
「ガハハハ!ツナみーっけ!!ツナにも落書きしてあげよっか!?」
黒マジックを持ったランボが走ってやって来た。
「ランボ……遊んでる気分じゃないんだ…あっち行ってくれよ。」
「あららのら♪本当は遊びたいクセに~~~!!」
「やめろ…本当に怒るぞ……」
ツナの静かな言葉は、ランボを制止させられず。
そのままマジックでズボンに落書きを始めるランボ。
「ガハハ!書いちゃうもんね!」
「やめろって言ってるだろ!!!」
募っていた不安や苛立ちが、一気に爆発した。
怒鳴られたランボは、泣きそうになりながら硬直する。
そこに、声が聞こえたのか、ハルがやって来た。
「どーしたんですかツナさん!?はひ?ランボちゃん、泣いてるんですか?」
ツナの中で爆発したマイナスの感情は、
居合わせたハルにも向けられて。
「ハル!!修業中はちゃんと面倒見ろって言ったじゃないか!!」
「す、すいません…。でも…」
ランボを抱え上げながら、ハルは言う。
「ランボちゃんだって遊んでばかりじゃなくて、ちゃんとお手伝いしてくれてるんですよ。ツナさん、何も知らないから………」
「(“何も知らない”………?)」
自分が今、どれだけ悩んでいる事か。
その悩みを打ち明けず、普通に過ごしているハル達。
それなのに、無知なのは自分の方だと言われ、平常心でいられるハズが無かった。
「何も知らないのは、お前達だろ!!?」
怒鳴った瞬間の、怯えたハルの表情も、
ちゃんと目に入らなかった。
ただ、その後の小さな謝罪で、ようやく正気を取り戻す。
「さぁ行きましょうね、ランボちゃん……」
「ハルっ、違うんだ……」
引き止めようとも、駆け足で去って行ってしまう。
マイナス感情の爆発の後に残ったのは、
もっと酷い自己嫌悪だった。
「(何やってんだよ俺っ…皆を安心させなきゃいけないってのに……)」
「ココにいたのか。」
「リボーン……」
いつも頼りっ放しの存在に、
やっぱり今回も弱音を吐く。
「俺には無理だよ!!ボスの役割なんて!!」
でも、返されたのは更に酷い状況を知らせる言葉。
「ヘコたれてる暇はねーぞ。クロームの容体が急変した。」
「え!!?」
「相当やべーぞ。内臓のいくつかが壊れ出した。」
「な……内臓!?」
原因として思いつくのは、ただ1つ。
だけど一体何が起こってるのか、到底理解出来なくて。
医務室に走る間も、不安と困惑と自己嫌悪に襲われ続けていた。
---
------
『髑髏が!!?』
「はい…あまりに酷い事態なので恭さんにも、と。」
『あたし、先に行きますっ!』
草壁から髑髏の容体が急激に悪化した事を知らされた檸檬は、医務室へ。
『ビア姉さんっ、髑髏は!!?』
「檸檬…どうしようも無いのよ、どうしたらいいか……!」
『髑髏っ…!』
ギュッと握った手は、予想以上に冷たくなって来てて、
怖くて怖くて視界がぼやける。
「檸檬…さん……」
『髑髏っ……』
髑髏の内臓に影響が出てるって事は……骸に何か起こった…?
『(一体何が……………そうだ!!)』
髑髏の手を握り直して、あたしは目を閉じる。
「檸檬、何を…?」
今まで修業して来たんだもん、読めるハズだよ………髑髏の脳波。
身体器官の目で見るんじゃなくて、心の眼で視る。
ゆっくり、ゆっくり、感じ取って。
『(視えた……!)』
髑髏の中に流れる波長。
そこから…骸とリンクしている箇所、
つまり骸の幻覚能力に直結している箇所の波長を辿れば………
『(骸がどうなってるか、視れるかもしれないっ…!)』
あたしの思念を送る、骸と髑髏が繋がってる場所へ。
精神世界の中へ。
-「檸檬っ…!?」
ビア姉さんの声が遠ざかる。
そしてあたしは、ぼんやりとした光の中へと。
『(骸……!)』
お願いだから、無事でいて。
今、貴方に会いに行く。