未来編①
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・グロ・キシニア
ホワイトスペル
第8グリチネ隊
隊長Aランク
雨のマーレリング
(精製度A以上)
雨フクロウ 等
クローム髑髏VS.グロ・キシニア
突然目の前に現れた敵らしき人物に、髑髏は不安げに尋ねる。
「………誰?」
「グロ・キシニアだ。」
名乗ると同時にグロの隣にいたフクロウが匣に戻って行く。
「その様子ではタイムトラベルを分かってないな。さしずめ、不思議の国に迷い込んだアリス、というところか……どれ。」
瞬間、髑髏にサッと接近し、右手中指を確認する。
「あっ…!」
「何かで固めてあるのか?こいつのせいでレーダーに反応がないのだな。リング リング ボンゴレリーング♪」
「痛いっ!!」
渾身の力でグロの手を振り払って距離を取る髑髏。
だがその顔を見て、グロは妖しい笑みを見せる。
「男に触られて嬉しいようだな、頬の赤みが欲情を隠しきれていないぞ。」
なおも不安げな表情を浮かべる髑髏。
「ヒッ!」
興奮の表れか、グロの右目がビキッと動く。
「出てって……ここは私たちの場所……」
髑髏は抱えていたトライデントを構え、戦う事を決意した。
「ここには、骸様と犬と千種が帰って来るの!」
「いいぞ、やはりお前は上等だ。」
グロはそれを待っていたかのように言う。
「一途な想いをぶち壊してトラウマ植え付けるのは、胸が躍るぞ。いいか、少女クローム、その“骸様”は………私に敗れた。」
突きつけられたのは、信じられない事実。
目を見開く髑髏は、それでもトライデントを振るう。
「うそ!」
しかしそれは、簡単にグロに避けられて。
「さぁ…もっとその鈴の音のような声を…奏でよ!!」
「ああっ…!」
振るわれた鞭は、髑髏の左頬を掠った。
---
------
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同じ頃、ボンゴレファミリー地下アジト、会議室。
草壁により呼び出されたツナ達に、思いも寄らない情報が伝えられた。
「骸に動きがあったって、どういう事ですか!?」
『(骸…!?)』
「だって、まだ復讐者の牢獄に入ってるんじゃ……」
「我々もそう思っています。」
草壁さんの話によると、
5年前に髑髏と犬ちゃんと千種は、牢獄から骸を助けに行って失敗した。
その後消息を断っていて…
「半年ほど前、妙な噂が立った。」
「妙な噂?」
「骸が倒された、というものです。」
草壁さんの話を聞きながらも、あたしは何処かそわそわしていた。
何だかココで座ってる場合じゃないような気がしなくもない……
「ちょっと待て、草壁。」
「はい。」
リボーンが急に草壁さんの話をストップさせる。
「ど、どしたんだよリボーン?」
「何かあったんスか?」
疑問符を浮かべるツナと隼人をスルーして、リボーンはちょこんとあたしの前に立った。
『え…?』
「檸檬、俺が読心術使えるのは知ってるよな。」
『あ……うん…』
「行け。」
何処に、とは聞けなかった。
リボーンの目が、全部を語っていた。
いい加減、仲直りしろ……って。
『でもあたし…』
「中途半端にすんな。問題解決してから次に進め。」
『……リボーン…』
本当に、いっつも適わないな。
あたしはまだまだ未熟者だって、思い知らされる。
「檸檬さん、もしや…」
『行って来ます、草壁さん。ちゃんと……あたしの意見を伝えなくちゃいけないですし。』
「だったら後で、私が仲裁しつつでも…」
『ありがとうございます。でも…自分でケリつけますから。』
ガタッと席を立つ。
「ん?」
「檸檬?」
「おい、何処行くんだよ!」
『ちょっとね♪』
心がそわそわするのはね、
仲直りがしたいからだよ。
恭弥はあたしを大事に思って、修業をやめさせようとしてる、
その事は、ちゃんと分かってる。
だけどあたしにも、
あたしの考えがあるから。
せめてソレを伝えたいと思うから。
『殴られちゃうかもなぁ…』
口論で済めばいいんだけど…
乱闘にならない事をひたすら祈りながら、あたしの足は恭弥の部屋へと向かった。
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骸を倒したと発信したのは、ミルフィオーレの第8部隊長グロ・キシニア。
だが、骸が死んだとは考えにくいと草壁は言う。
「なぜなら我々はその後、イタリアの空港である男と接触しているクローム髑髏を捉えたからです。」
草壁の出した写真には、確かに10年後の髑髏と見られる女性が写っていた。
「く…クローム生きてたんだ!ケガはしてるみたいだけど……」
「そうか、骸が死んじまってたら、クロームは生きてられねーんだったな。」
「だが今、クロームは行方不明。ってことは、今回動き出したのは、密会していた男の方だな。」
「…!さすがです……その通り。雲雀はこの男が骸の“何か”だとふんでいます。」
どうやら、その男は身元不明で少なくともツナ達の知り合いではないらしい。
それとは別に、骸の手がかりとして気になるものがあると言う。
「この写真に写っています。」
「あっ!それって………前に見せてもらったヒバードの…」
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恭弥の部屋の前に立った。
だけど…体が震えて声が出せない。
『(何て切り出せばいいの…?)』
あたしには、どうしたらいいか分からないよ……
まだどうやって話せばいいのか……。
「誰?」
急に声を掛けられて、ビクッとした。
でも、返事しなくちゃ……
『あ、あたし……檸檬……』
「檸檬……?」
『あの、えと……今、いいかな…?』
恭弥は無言で答えた。
了承、って捉えていいのかな…
『入るね…』
襖を開けると、こっちに背を向けたまま小さな庭園を見つめて立ってる恭弥が見えた。
「……捨てる気になったの?」
『ちっ、違う!あたしはっ……修業を続ける。』
言っちゃった……
途端に恭弥の不機嫌オーラが全開になったのが分かった。
「まだ…分かってないみたいだね。」
『分かってる!今度はちゃんと…全部分かってる……あたしが、どうなるかも……』
「だったら…どうしてそんな事言えるの。」
『どうしても、第六感を使いたいの!周りを想う心に比例するこの力を、あたしは護る為に使いたい。』
「その結果が未来の檸檬だ。」
『違う。』
あたしがすぐに反論すると、恭弥は肩を震わせた。
「違う、だって?一体何が、どう違うって言うんだい?」
『未来のあたしのやり方は間違ってた。いきなり使い過ぎて、能力に飲み込まれたの。だから、今度は…』
「絶対に大丈夫だなんて保証、何処にもない。」
背を向けたまま放たれる恭弥の言葉1つ1つが、あたしを抉る。
修業をするなって、追いつめる。
ダメなの。
ちゃんと戦うって、決めたの。
だから……
『恭弥が何て言ったって、あたしは諦めない。危険を怖がってちゃ何も出来ないもんっ!』
震えながら訴えると、恭弥は静かに拳を握りしめた。
「………も……」
『恭…弥……?』
「いつも、そうだ……」
『え?』
急に振り向いて、
早歩きで歩み寄って来て、
『なっ……!』
ヒュンッ、
目の前でいきなり振り上げられたトンファーに、思わず目を瞑る。
あぁ、やっぱり乱闘になっちゃったな、とか思う。
同時に、一発くらい殴られる義務があるのかも、なんて。
『(あれ……?)』
それでも、いつまで経っても痛みは来なくて。
どうしたのかと顔を上げれば、寸止めされたトンファーが微かに髪の毛に触れた。
『恭弥…?』
「檸檬は…いつもそうだ……」
トンファーの向こうに見えた、哀しい表情に吃驚する。
と、次の瞬間…
ゴトッ、と恭弥の手からトンファーが滑り落ちて、その手はそのままあたしの頭と背中に回された。
「…檸檬………」
---
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--------------
トライデントが床を突き、辺り一面に立ち上る火柱。
その中でもグロは、着実に髑髏に歩み寄る。
「幻術とは、脳にありもしない事を思い込ませでっち上げる技だったな。こんな子供騙しが通用するか。」
常識に捕われるが故に、掛かる技。
「全ての技がこんな具合だ。お前の体から実体化した六道骸など、簡単に捻ってやったものだぞ。」
言いながらグロは、懐から先程の匣を取り出し愉しそうに笑った。
「私の誇る雨フクロウ(グーフォ・ディ・ピオッジャ)に手も足も出ずやられる様は、それは無様だった。」
「うそ!骸様は負けない!」
「お前の知識は10年前で止まっているんだったな。良かろう、見せてやる……この時代の魔法を。」
匣から出て来たフクロウは、青の炎と大きな波を纏いながら、髑髏の方へと飛んで来る。
巨大な波が、火柱を全て覆い、髑髏をも飲み込む。
ドォォォ…
波が過ぎ去った後、そこには火柱も何もなく、ただ咽せている髑髏が座り込んでいるだけだった。
「(火柱が消された……これは幻覚なの?)」
「これはリアルだぞ。」
「雨の属性の匣の特徴は、鎮静……雨フクロウの大波は炎を消して攻撃を鎮め、意識を闇に沈める。」
グロの言う通り、髑髏の瞼は急に重くなり、意識も朦朧として来る。
「いよいよいただく時間だな。リングと…お前をな!」
その言葉にハッと気がつき、頑張って立ち上がる髑髏。
「(………ダメ…逃げなきゃ……)」
ヨロヨロと横の出口から廊下に出る。
向かった先は、別室の地下倉庫だった。
疲労により息が荒い髑髏の目は、ふと床に落ちているガムの箱を捉えた。
---「………犬、何これ…?」
---「見りゃわかんだろ!!非常用の隠れ家だ!!!」
---「犬…ガムは非常食にならないよ。」
思い出されるのは、この隠れ家を作ったときの事。
急激に寂しさがこみ上げて、髑髏の目には涙が滲む。
そして、雨の匣の特性に身を任せ、重くなっていく瞼を閉じた、
その時。
「{眠ってはいけませんよ、可愛いクローム…}」
懐かしい声が頭に響く。
同時に、
「ここでいいのか?」
グロが髑髏の居場所を突き止めた。
「お前が逃げるのは2度目だ。骸が倒されてお前の体に戻った時、お前は5階の窓から飛び降りた。余程私が嫌いらしい!だからそこいたぶりがいがある。」
しかし、そんな声は耳に入らない。
髑髏の思考は今、先程聞こえた希望の声に集中していた。
「骸様!どこ!?」
「いい声だ!だが骸は来ないぞ。来れればとっくにお前の体に実体化している。」
その通りだった。
突きつけられた現実に、髑髏は肩を落とす。
「……………骸様………」
すると、
「{いいえ、ここにいますよ…}」
グロの言葉を否定する、骸の声。
「{さっきから、お前の後ろに。}」
「え……?」
“後ろ”と言われて振り向いた髑髏の瞳に、あるものが映った。
---
------
------------
“仲間の為だ”
そう言って、檸檬はいつも無理をする。
その結果自分が傷ついたって、笑って“大丈夫だよ”と言う。
だから……
『恭、弥…?』
「僕は……どうすればいい…?」
分からないんだ。
あの日も、そうだった。
---「どうして僕の目、見ないの。」
---『それは……』
---「やっぱり…見えないんでしょ。何でそんな…!」
---『視えるよ。』
---「そんな嘘……」
---『恭弥の周りの紫外線、赤外線、電磁波も…恭弥の脳波や波動も……全部視える。だから…』
綺麗に哀しく笑いながら、檸檬は言った。
---『それ以外は見えないけど、大丈夫だよ♪』
息が詰まって、苦しくなった。
色んな感情が押し寄せた。
“何で僕は気付かなかった?”
“何で周りは止めなかった?”
“何で檸檬はこんな事に?”
それら全ての感情を吐き出す術を知らなかった。
本当は、檸檬に怒鳴りたかった。
どうしていつも、1人で先に行くのかって。
だけど…
---『恭弥が心配する事じゃないよ、ほら……あたしは大丈夫だし、ね!』
---『迷惑かけないようにするから……じゃーね♪』
檸檬はいつも、笑ってるんだ。
既に視界を閉ざされて、1番傷ついた檸檬。
僕に心配をかけまいと、無理矢理笑っていた檸檬。
怒鳴れるワケ、なかった。
ごめんね、とか
仕方無いんだよ、とか
そんな返事しか来ない事は知っていた。
『……恭弥…震えてる、の…?』
僕の腕の中で、一回り小さい檸檬が問いかける。
今の自分の顔は見られたくなくて、腕に力を込めた。
「いつも檸檬は……1人で進んでく……」
僕が、追いつけないくらいに。
「勝手に突っ走って、勝手に傷ついて、勝手に大丈夫なフリしてる。」
“大丈夫、大丈夫”の一点張り。
まともに心配もさせてくれない。
「挙げ句の果てに………僕から離れてく。」
“もう遭えない、さようなら”
そんな言葉だけ残して、未来の檸檬は僕から離れた。
そのすぐ後だ、檸檬がミルフィオーレに捕まったのは。
「僕は……どうすればいいの…檸檬……」
無力な自分への怒りと、
1人で背負い込む檸檬への想いを、
どうすればいいの?
『恭弥は……』
ちっとも表情を見せてもらえないまま、あたしはただ恭弥の着物を軽く握る。
『恭弥は…何もしなくていいよ。』
「やだ。」
ギュウウと強まる恭弥の腕。
頑張って言葉を捻り出す。
『えと…あのね、リバウンドとか来ないように、あたしはちゃんと一日の修業時間を設定する!体調悪くなったら、即中止するし。』
未来のあたしとの、約束。
同じ過ちを繰り返さないっていう、約束。
『絶対絶対、無理しないよ。だから……許して欲しいの…』
どう言えば伝わるの?
こんなに恭弥が心配してくれてる。
だからあたしは自分の身にも気を使うつもり。
あたしだって、恭弥の哀しい顔を見たくない。
皆のつらそうな顔を見たくないの。
「………ソレを使うのが、どんなに危険か分かってるのに?」
『え…?』
「分かってて、それでも使おうとするの?」
知ってる。
目が見えなくなるんだよ、あたし。
でもこれしか方法が無いんだよ。
この力こそ、あたしがミルフィオーレに捕われてた理由。
だから……
『あのね…ホントはすごく………怖いんだ……』
恭弥に顔を見られないように、頭をくっつける。
『怖くて怖くて……たまらないんだ………』
「檸檬……」
『でもっ…あたしにはこれしか無くて……見えなくなるのは嫌でっ……』
「……うん…」
情けない事に、涙が溢れて頬を伝う。
恭弥は、優しく背中を摩ってくれていた。
『だから、ね……恭弥は何も…しなくていいから……』
「いいから、何?」
『怖くなった時………側に居て……?』
檸檬はいつも、1人で背負い込む人だった。
だから僕がこの時代で忠告した時は……
---「ソレは、危険な力かも知れないのに?」
---『…大丈夫だってー!もう、恭弥は心配性なんだからぁ。』
震える両手を隠すように後ろで組んで、10年後の檸檬はそう言った。
だけど、今ココにいる檸檬は……
怖いって、言ってくれる。
僕に助けを、求めてくれる。
『ダメ、かな…?』
恐る恐る僕の顔を覗き込む檸檬の目は、涙でいっぱいになっていて。
「ダメなワケない……」
もう一度、抱きしめ直す。
すると檸檬は、
『ありがと…』
と小さく言った。
『にしても、おかしーなー……草壁さんとフゥ太君の前では……ちゃんと…笑顔でいられたのに……』
リボーンやツナの前でも、手が震えただけだったのに。
「…それでいいでしょ。」
『へ?』
「檸檬が泣くのは、僕の前でだけだよ。」
あたしの髪を撫でながら、恭弥はそう言う。
ねぇ、恭弥…
あたしはきっと、恭弥の前だと強がりが出来なくなる。
『それって……甘えにならない?』
甘えは、負担になるんじゃない?
それで迷惑かけるのはヤダな…
「だから、僕だけに。」
『恭弥、だけに…?』
「他のヤツに甘えちゃダメだからね。」
あれ?
いつもみたいな発言系統…??
『…………(クスッ)』
「何。」
『ありがと、恭弥♪大好き!』
「僕もだよ。」
---
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「これが骸!?」
「これも骸の何かです。」
会議室にて、驚くツナ達に説明する草壁。
雲雀がイタリアで感じ取った視線は、間違い無く“ソレ”のものだったらしい。
そして、運良くカメラに1枚だけ写った、と。
「でもよ…」
「こいつぁ…」
「我々はこれに、骸をもじって名前をつけました。」
全員の視線の先、机の中央にあるのは、ヒバードが写っている写真。
そしてその端にいる…フクロウ。
---
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------------
黒曜ランドにて、グロと対峙する髑髏は、その注目を雨フクロウに移す。
「さぁ、どう料理して欲しい?」
鞭を手に髑髏を見下ろすグロの隣の雨フクロウ。
その右目に、僅かな亀裂が入り始める。
ビキビキビキ…
パリーン…
割れた右目の眸の中には、“六”の文字が刻まれていて。
髑髏はぼんやりと口にする。
「…………ムク…………ロウ……?」
それは、雲雀の組織が付けた、写真のフクロウの名前。
だが、それを知らないグロは、優越感に浸り口角を上げる。
「どうした?恐怖で呂律が回らぬか?」
グロの声は髑髏の耳に聞こえていなかった。
ただ、頭の中に再び響いて来た声……
「{さぁ行きますよ、クローム。}」
ホワイトスペル
第8グリチネ隊
隊長Aランク
雨のマーレリング
(精製度A以上)
雨フクロウ 等
クローム髑髏VS.グロ・キシニア
突然目の前に現れた敵らしき人物に、髑髏は不安げに尋ねる。
「………誰?」
「グロ・キシニアだ。」
名乗ると同時にグロの隣にいたフクロウが匣に戻って行く。
「その様子ではタイムトラベルを分かってないな。さしずめ、不思議の国に迷い込んだアリス、というところか……どれ。」
瞬間、髑髏にサッと接近し、右手中指を確認する。
「あっ…!」
「何かで固めてあるのか?こいつのせいでレーダーに反応がないのだな。リング リング ボンゴレリーング♪」
「痛いっ!!」
渾身の力でグロの手を振り払って距離を取る髑髏。
だがその顔を見て、グロは妖しい笑みを見せる。
「男に触られて嬉しいようだな、頬の赤みが欲情を隠しきれていないぞ。」
なおも不安げな表情を浮かべる髑髏。
「ヒッ!」
興奮の表れか、グロの右目がビキッと動く。
「出てって……ここは私たちの場所……」
髑髏は抱えていたトライデントを構え、戦う事を決意した。
「ここには、骸様と犬と千種が帰って来るの!」
「いいぞ、やはりお前は上等だ。」
グロはそれを待っていたかのように言う。
「一途な想いをぶち壊してトラウマ植え付けるのは、胸が躍るぞ。いいか、少女クローム、その“骸様”は………私に敗れた。」
突きつけられたのは、信じられない事実。
目を見開く髑髏は、それでもトライデントを振るう。
「うそ!」
しかしそれは、簡単にグロに避けられて。
「さぁ…もっとその鈴の音のような声を…奏でよ!!」
「ああっ…!」
振るわれた鞭は、髑髏の左頬を掠った。
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同じ頃、ボンゴレファミリー地下アジト、会議室。
草壁により呼び出されたツナ達に、思いも寄らない情報が伝えられた。
「骸に動きがあったって、どういう事ですか!?」
『(骸…!?)』
「だって、まだ復讐者の牢獄に入ってるんじゃ……」
「我々もそう思っています。」
草壁さんの話によると、
5年前に髑髏と犬ちゃんと千種は、牢獄から骸を助けに行って失敗した。
その後消息を断っていて…
「半年ほど前、妙な噂が立った。」
「妙な噂?」
「骸が倒された、というものです。」
草壁さんの話を聞きながらも、あたしは何処かそわそわしていた。
何だかココで座ってる場合じゃないような気がしなくもない……
「ちょっと待て、草壁。」
「はい。」
リボーンが急に草壁さんの話をストップさせる。
「ど、どしたんだよリボーン?」
「何かあったんスか?」
疑問符を浮かべるツナと隼人をスルーして、リボーンはちょこんとあたしの前に立った。
『え…?』
「檸檬、俺が読心術使えるのは知ってるよな。」
『あ……うん…』
「行け。」
何処に、とは聞けなかった。
リボーンの目が、全部を語っていた。
いい加減、仲直りしろ……って。
『でもあたし…』
「中途半端にすんな。問題解決してから次に進め。」
『……リボーン…』
本当に、いっつも適わないな。
あたしはまだまだ未熟者だって、思い知らされる。
「檸檬さん、もしや…」
『行って来ます、草壁さん。ちゃんと……あたしの意見を伝えなくちゃいけないですし。』
「だったら後で、私が仲裁しつつでも…」
『ありがとうございます。でも…自分でケリつけますから。』
ガタッと席を立つ。
「ん?」
「檸檬?」
「おい、何処行くんだよ!」
『ちょっとね♪』
心がそわそわするのはね、
仲直りがしたいからだよ。
恭弥はあたしを大事に思って、修業をやめさせようとしてる、
その事は、ちゃんと分かってる。
だけどあたしにも、
あたしの考えがあるから。
せめてソレを伝えたいと思うから。
『殴られちゃうかもなぁ…』
口論で済めばいいんだけど…
乱闘にならない事をひたすら祈りながら、あたしの足は恭弥の部屋へと向かった。
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骸を倒したと発信したのは、ミルフィオーレの第8部隊長グロ・キシニア。
だが、骸が死んだとは考えにくいと草壁は言う。
「なぜなら我々はその後、イタリアの空港である男と接触しているクローム髑髏を捉えたからです。」
草壁の出した写真には、確かに10年後の髑髏と見られる女性が写っていた。
「く…クローム生きてたんだ!ケガはしてるみたいだけど……」
「そうか、骸が死んじまってたら、クロームは生きてられねーんだったな。」
「だが今、クロームは行方不明。ってことは、今回動き出したのは、密会していた男の方だな。」
「…!さすがです……その通り。雲雀はこの男が骸の“何か”だとふんでいます。」
どうやら、その男は身元不明で少なくともツナ達の知り合いではないらしい。
それとは別に、骸の手がかりとして気になるものがあると言う。
「この写真に写っています。」
「あっ!それって………前に見せてもらったヒバードの…」
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恭弥の部屋の前に立った。
だけど…体が震えて声が出せない。
『(何て切り出せばいいの…?)』
あたしには、どうしたらいいか分からないよ……
まだどうやって話せばいいのか……。
「誰?」
急に声を掛けられて、ビクッとした。
でも、返事しなくちゃ……
『あ、あたし……檸檬……』
「檸檬……?」
『あの、えと……今、いいかな…?』
恭弥は無言で答えた。
了承、って捉えていいのかな…
『入るね…』
襖を開けると、こっちに背を向けたまま小さな庭園を見つめて立ってる恭弥が見えた。
「……捨てる気になったの?」
『ちっ、違う!あたしはっ……修業を続ける。』
言っちゃった……
途端に恭弥の不機嫌オーラが全開になったのが分かった。
「まだ…分かってないみたいだね。」
『分かってる!今度はちゃんと…全部分かってる……あたしが、どうなるかも……』
「だったら…どうしてそんな事言えるの。」
『どうしても、第六感を使いたいの!周りを想う心に比例するこの力を、あたしは護る為に使いたい。』
「その結果が未来の檸檬だ。」
『違う。』
あたしがすぐに反論すると、恭弥は肩を震わせた。
「違う、だって?一体何が、どう違うって言うんだい?」
『未来のあたしのやり方は間違ってた。いきなり使い過ぎて、能力に飲み込まれたの。だから、今度は…』
「絶対に大丈夫だなんて保証、何処にもない。」
背を向けたまま放たれる恭弥の言葉1つ1つが、あたしを抉る。
修業をするなって、追いつめる。
ダメなの。
ちゃんと戦うって、決めたの。
だから……
『恭弥が何て言ったって、あたしは諦めない。危険を怖がってちゃ何も出来ないもんっ!』
震えながら訴えると、恭弥は静かに拳を握りしめた。
「………も……」
『恭…弥……?』
「いつも、そうだ……」
『え?』
急に振り向いて、
早歩きで歩み寄って来て、
『なっ……!』
ヒュンッ、
目の前でいきなり振り上げられたトンファーに、思わず目を瞑る。
あぁ、やっぱり乱闘になっちゃったな、とか思う。
同時に、一発くらい殴られる義務があるのかも、なんて。
『(あれ……?)』
それでも、いつまで経っても痛みは来なくて。
どうしたのかと顔を上げれば、寸止めされたトンファーが微かに髪の毛に触れた。
『恭弥…?』
「檸檬は…いつもそうだ……」
トンファーの向こうに見えた、哀しい表情に吃驚する。
と、次の瞬間…
ゴトッ、と恭弥の手からトンファーが滑り落ちて、その手はそのままあたしの頭と背中に回された。
「…檸檬………」
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トライデントが床を突き、辺り一面に立ち上る火柱。
その中でもグロは、着実に髑髏に歩み寄る。
「幻術とは、脳にありもしない事を思い込ませでっち上げる技だったな。こんな子供騙しが通用するか。」
常識に捕われるが故に、掛かる技。
「全ての技がこんな具合だ。お前の体から実体化した六道骸など、簡単に捻ってやったものだぞ。」
言いながらグロは、懐から先程の匣を取り出し愉しそうに笑った。
「私の誇る雨フクロウ(グーフォ・ディ・ピオッジャ)に手も足も出ずやられる様は、それは無様だった。」
「うそ!骸様は負けない!」
「お前の知識は10年前で止まっているんだったな。良かろう、見せてやる……この時代の魔法を。」
匣から出て来たフクロウは、青の炎と大きな波を纏いながら、髑髏の方へと飛んで来る。
巨大な波が、火柱を全て覆い、髑髏をも飲み込む。
ドォォォ…
波が過ぎ去った後、そこには火柱も何もなく、ただ咽せている髑髏が座り込んでいるだけだった。
「(火柱が消された……これは幻覚なの?)」
「これはリアルだぞ。」
「雨の属性の匣の特徴は、鎮静……雨フクロウの大波は炎を消して攻撃を鎮め、意識を闇に沈める。」
グロの言う通り、髑髏の瞼は急に重くなり、意識も朦朧として来る。
「いよいよいただく時間だな。リングと…お前をな!」
その言葉にハッと気がつき、頑張って立ち上がる髑髏。
「(………ダメ…逃げなきゃ……)」
ヨロヨロと横の出口から廊下に出る。
向かった先は、別室の地下倉庫だった。
疲労により息が荒い髑髏の目は、ふと床に落ちているガムの箱を捉えた。
---「………犬、何これ…?」
---「見りゃわかんだろ!!非常用の隠れ家だ!!!」
---「犬…ガムは非常食にならないよ。」
思い出されるのは、この隠れ家を作ったときの事。
急激に寂しさがこみ上げて、髑髏の目には涙が滲む。
そして、雨の匣の特性に身を任せ、重くなっていく瞼を閉じた、
その時。
「{眠ってはいけませんよ、可愛いクローム…}」
懐かしい声が頭に響く。
同時に、
「ここでいいのか?」
グロが髑髏の居場所を突き止めた。
「お前が逃げるのは2度目だ。骸が倒されてお前の体に戻った時、お前は5階の窓から飛び降りた。余程私が嫌いらしい!だからそこいたぶりがいがある。」
しかし、そんな声は耳に入らない。
髑髏の思考は今、先程聞こえた希望の声に集中していた。
「骸様!どこ!?」
「いい声だ!だが骸は来ないぞ。来れればとっくにお前の体に実体化している。」
その通りだった。
突きつけられた現実に、髑髏は肩を落とす。
「……………骸様………」
すると、
「{いいえ、ここにいますよ…}」
グロの言葉を否定する、骸の声。
「{さっきから、お前の後ろに。}」
「え……?」
“後ろ”と言われて振り向いた髑髏の瞳に、あるものが映った。
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“仲間の為だ”
そう言って、檸檬はいつも無理をする。
その結果自分が傷ついたって、笑って“大丈夫だよ”と言う。
だから……
『恭、弥…?』
「僕は……どうすればいい…?」
分からないんだ。
あの日も、そうだった。
---「どうして僕の目、見ないの。」
---『それは……』
---「やっぱり…見えないんでしょ。何でそんな…!」
---『視えるよ。』
---「そんな嘘……」
---『恭弥の周りの紫外線、赤外線、電磁波も…恭弥の脳波や波動も……全部視える。だから…』
綺麗に哀しく笑いながら、檸檬は言った。
---『それ以外は見えないけど、大丈夫だよ♪』
息が詰まって、苦しくなった。
色んな感情が押し寄せた。
“何で僕は気付かなかった?”
“何で周りは止めなかった?”
“何で檸檬はこんな事に?”
それら全ての感情を吐き出す術を知らなかった。
本当は、檸檬に怒鳴りたかった。
どうしていつも、1人で先に行くのかって。
だけど…
---『恭弥が心配する事じゃないよ、ほら……あたしは大丈夫だし、ね!』
---『迷惑かけないようにするから……じゃーね♪』
檸檬はいつも、笑ってるんだ。
既に視界を閉ざされて、1番傷ついた檸檬。
僕に心配をかけまいと、無理矢理笑っていた檸檬。
怒鳴れるワケ、なかった。
ごめんね、とか
仕方無いんだよ、とか
そんな返事しか来ない事は知っていた。
『……恭弥…震えてる、の…?』
僕の腕の中で、一回り小さい檸檬が問いかける。
今の自分の顔は見られたくなくて、腕に力を込めた。
「いつも檸檬は……1人で進んでく……」
僕が、追いつけないくらいに。
「勝手に突っ走って、勝手に傷ついて、勝手に大丈夫なフリしてる。」
“大丈夫、大丈夫”の一点張り。
まともに心配もさせてくれない。
「挙げ句の果てに………僕から離れてく。」
“もう遭えない、さようなら”
そんな言葉だけ残して、未来の檸檬は僕から離れた。
そのすぐ後だ、檸檬がミルフィオーレに捕まったのは。
「僕は……どうすればいいの…檸檬……」
無力な自分への怒りと、
1人で背負い込む檸檬への想いを、
どうすればいいの?
『恭弥は……』
ちっとも表情を見せてもらえないまま、あたしはただ恭弥の着物を軽く握る。
『恭弥は…何もしなくていいよ。』
「やだ。」
ギュウウと強まる恭弥の腕。
頑張って言葉を捻り出す。
『えと…あのね、リバウンドとか来ないように、あたしはちゃんと一日の修業時間を設定する!体調悪くなったら、即中止するし。』
未来のあたしとの、約束。
同じ過ちを繰り返さないっていう、約束。
『絶対絶対、無理しないよ。だから……許して欲しいの…』
どう言えば伝わるの?
こんなに恭弥が心配してくれてる。
だからあたしは自分の身にも気を使うつもり。
あたしだって、恭弥の哀しい顔を見たくない。
皆のつらそうな顔を見たくないの。
「………ソレを使うのが、どんなに危険か分かってるのに?」
『え…?』
「分かってて、それでも使おうとするの?」
知ってる。
目が見えなくなるんだよ、あたし。
でもこれしか方法が無いんだよ。
この力こそ、あたしがミルフィオーレに捕われてた理由。
だから……
『あのね…ホントはすごく………怖いんだ……』
恭弥に顔を見られないように、頭をくっつける。
『怖くて怖くて……たまらないんだ………』
「檸檬……」
『でもっ…あたしにはこれしか無くて……見えなくなるのは嫌でっ……』
「……うん…」
情けない事に、涙が溢れて頬を伝う。
恭弥は、優しく背中を摩ってくれていた。
『だから、ね……恭弥は何も…しなくていいから……』
「いいから、何?」
『怖くなった時………側に居て……?』
檸檬はいつも、1人で背負い込む人だった。
だから僕がこの時代で忠告した時は……
---「ソレは、危険な力かも知れないのに?」
---『…大丈夫だってー!もう、恭弥は心配性なんだからぁ。』
震える両手を隠すように後ろで組んで、10年後の檸檬はそう言った。
だけど、今ココにいる檸檬は……
怖いって、言ってくれる。
僕に助けを、求めてくれる。
『ダメ、かな…?』
恐る恐る僕の顔を覗き込む檸檬の目は、涙でいっぱいになっていて。
「ダメなワケない……」
もう一度、抱きしめ直す。
すると檸檬は、
『ありがと…』
と小さく言った。
『にしても、おかしーなー……草壁さんとフゥ太君の前では……ちゃんと…笑顔でいられたのに……』
リボーンやツナの前でも、手が震えただけだったのに。
「…それでいいでしょ。」
『へ?』
「檸檬が泣くのは、僕の前でだけだよ。」
あたしの髪を撫でながら、恭弥はそう言う。
ねぇ、恭弥…
あたしはきっと、恭弥の前だと強がりが出来なくなる。
『それって……甘えにならない?』
甘えは、負担になるんじゃない?
それで迷惑かけるのはヤダな…
「だから、僕だけに。」
『恭弥、だけに…?』
「他のヤツに甘えちゃダメだからね。」
あれ?
いつもみたいな発言系統…??
『…………(クスッ)』
「何。」
『ありがと、恭弥♪大好き!』
「僕もだよ。」
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「これが骸!?」
「これも骸の何かです。」
会議室にて、驚くツナ達に説明する草壁。
雲雀がイタリアで感じ取った視線は、間違い無く“ソレ”のものだったらしい。
そして、運良くカメラに1枚だけ写った、と。
「でもよ…」
「こいつぁ…」
「我々はこれに、骸をもじって名前をつけました。」
全員の視線の先、机の中央にあるのは、ヒバードが写っている写真。
そしてその端にいる…フクロウ。
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黒曜ランドにて、グロと対峙する髑髏は、その注目を雨フクロウに移す。
「さぁ、どう料理して欲しい?」
鞭を手に髑髏を見下ろすグロの隣の雨フクロウ。
その右目に、僅かな亀裂が入り始める。
ビキビキビキ…
パリーン…
割れた右目の眸の中には、“六”の文字が刻まれていて。
髑髏はぼんやりと口にする。
「…………ムク…………ロウ……?」
それは、雲雀の組織が付けた、写真のフクロウの名前。
だが、それを知らないグロは、優越感に浸り口角を上げる。
「どうした?恐怖で呂律が回らぬか?」
グロの声は髑髏の耳に聞こえていなかった。
ただ、頭の中に再び響いて来た声……
「{さぁ行きますよ、クローム。}」