未来編①
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涙が止まらない。
ホント、随分涙もろくなったな…あたし。
恭弥と……喧嘩しちゃったし…
「檸檬姉?」
『へ?』
「どっ、どうしたの!?泣いてるの!?」
『フゥ太君……』
過去
ランボちゃん達と遊んでいたフゥ太君は、真直ぐあたしの方に駆け寄って来てくれた。
「大丈夫?檸檬姉、何かあったの?」
『うっ……わぁぁぁん!!』
「檸檬姉っ!?」
言葉をかけられたら、更に目が熱くなって来て、止まらない。
優しく背中を摩りながら、フゥ太君は尋ねる。
「聞いてもいい?」
ちょっと迷ったけど、小さく頷いた。
フゥ太君は第六感についてある程度知っていたから、いいかなって思った。
『恭弥が…修業しちゃダメって……あたしの視界が……何かなるらしくて…』
「視界……!?」
その単語を聞いた途端、フゥ太君は体を震わせる。
不思議に思って見上げると、すごくつらそうな顔をしていた。
『フゥ太、君…?』
「檸檬姉……やっぱり知らないまま修業してたんだね…。」
『え…?』
「その事は、10年後のツナ兄とリボーン、9代目と雲雀さんしか知らなかったんだ…」
僕はたまたま知っちゃったんだけどね、とフゥ太君は付け足す。
そして、話し始めた。
10年後のあたしが、第六感完成の代わりに何を犠牲にしたかを。
「10年後の檸檬姉は、ボンゴレが出した第六感研究結果を元に、自分で能力の完成を目指してた。」
それが、あのノートとファイル。
「その頃、もう既にリングと能力の相性が悪いと知っていた檸檬姉は…焦ってたんだと思う………何時間も部屋にこもって練習してたんだ。」
『空間…移動の……?』
聞き返すと、フゥ太君は頷く。
「その成果はちゃんと出て、第六感は完成した。檸檬姉は空間移動をマスターして、相手の炎を奪う戦法も身につけた。」
『だったら何も悪い事なんて…』
「異変が起きたのは、それから一週間後。」
異変…!?
フゥ太君の表情は、更に暗くなっていって。
何だかあたしも怖くなって来る。
だけど、聞かなくちゃ。
『(そうだ…そうだよ……何もないのに恭弥があんな顔するワケないもん…)』
言うのを躊躇っているフゥ太君に、あたしは言った。
『教えて、フゥ太君。』
「………うん…」
1つだけ深呼吸をして、フゥ太君は言った。
「第六感完成の一週間後、檸檬姉は………波長しか見えなくなっちゃたんだ。」
『え………?』
まるで、体の中を電撃が走ったような感覚。
あたしはフゥ太君の目の前で固まっていた。
だって、
だって…
『目が、見えなくなる……の?』
「……うん…」
『それって……』
「周りの波長の反射で物体の存在を認識して、脳波や波動の種類で人物を識別する……そういう事だよ。」
信じられなかった。
あたし……第六感のせいでそんな風に…?
ふと、10年後のあたしが夢で言ってた事を思い出す。
---『{同じ過ちを、繰り返さないで……}』
あぁ、あれは…こういう事だったのね。
10年後のあたしは知ってたんだ、
修業をする事であたしの目が見えなくなって、周りを傷つけるって。
「だから雲雀さんは止めるんだよ。僕も…あんまり賛成したくない……。」
『そう、だね…』
「そういう事だったんですね…」
『え?』
「草壁さん!」
あたしを探しに来たのか、草壁さんは少しだけ息を切らせていた。
「すみません、盗み聞きするつもりは…」
『いえ、構いません。』
「草壁さんは、知らなかったですか?」
「私が知っているのは、第六感が完成した10日後に檸檬さんが恭さんから離れて行った事くらいです。」
やっぱり、あたしは10年経ってもあたしのままだった。
『きっと、目が見えない自分のせいで苦しむ恭弥を見たくなかった……』
「そのように…おっしゃってました。しかし恭さんは……」
『分かってます。』
そんな事で、あの我が儘王子が納得するハズない……
両手で顔を覆い、あたしは長い溜め息を1つ。
このまま先へ進めば、あたしは盲目になる。
かと言って修業をやめれば、待ってるだけの存在になる。
どっちも嫌。
どっちも嫌だけど、でも……
『………それでも……』
「檸檬姉?」
『それでもあたしは修業する。』
自分に言い聞かせるように、決意を口に出す。
フゥ太君と草壁さんの驚く顔が目に入る。
『あたしのこの能力は…人を想う心に反応するんだって。護る為に戦うあたしに、ぴったりだと思わない?』
「でも……!」
『護れるなら、あたし自身はどうなっても構わない………』
それは、ずっとずっと前から決めていたあたしのモットー。
だけど、並盛で過ごした日々の中で、それは周りに迷惑と心配をかけるんだと教わった。
だから…
『…………なーんて、言わないよっ!今度は。』
「檸檬さん……?」
『10年後のあたしが盲目になったのは、第六感を制御しきれずに力に飲まれたからじゃない?』
「うん、そうかも知れないって僕も思ってたけど……」
『だったら!』
だったらさ、簡単なことだよ。
あたしは前に進めるよ。
『あたしはこの力をとことん制御するっ。もう皆の…恭弥の……あんな哀しい顔は見たくないもん。』
「檸檬姉…」
『あんな顔はさせない、絶対に。笑顔には出来ないかもしれないけど、眉間のシワくらいは……取ってあげられるかもしれないでしょ?』
そうと決まったら、もう一度足に力を入れて、
しっかりと立ち上がるの。
今度はもう、折れないように。
何があっても、負けないように。
「無理、しないでね。」
『大丈夫♪色々ありがと、フゥ太君。』
「うん…」
明るい笑顔で手を振って、自分の部屋に戻る。
途中、草壁さんが言った。
「やはり…強いですね、檸檬さんは。」
『そーでしょーか……負けず嫌いなだけかも知れません。』
「負けず嫌い、ですか?」
『はい、だから……』
今でもこの手は震えてる。
それを隠すように、あたしは笑う。
周りに心配かけないように。
『……何でもありませんっ。』
「…そうですか。」
それから3日間、あたしが恭弥と目を合わせる事はなかった。
これはただの意地っ張りだと分かっていても、どうしても何か話す気がしなくて。
それは恭弥も同じなのかな、なんて思ったりしてた。
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京子とハルは目をぱちくりさせた。
それもそのはず、机に座るツナと山本は食事を終えてそのまま寝に入ってしまったのだ。
「新しい修業が始まって3日連続ですよ。」
「よっぽど疲れてるんだよ。」
更に、
「獄寺さんは今日も1人だけ席離れてますし…」
「怪我……大丈夫かなぁ?」
その様子を見て修業について尋ねるリボーン。
ビアンキは結果以前にやる気の有無を疑う、と返す。
その会話を聞いていたのかいないのか、獄寺はガタッと立ち上がり、先に寝室に戻ってしまった。
『あれっ…?隼人…』
「あぁ、檸檬か…」
『おやすみ…』
「あぁ…」
ここ数日、雲雀と何となく距離を置いてるせいか、頻繁にボンゴレのアジトに来ている檸檬。
ばったり獄寺とはち遭わせたが、大した会話もなくすれ違った。
「あの子の事は、最後まで見させて下さい。先にお風呂いただきます。」
「あぁ。」
ビアンキが立ち去り、洗い物を終えた京子とハルも浴室に向かった。
「あ、檸檬ちゃん!」
「何だか久しぶりだねっ。」
『ハル、京子……これからお風呂?』
「うんっ、一緒に行く?」
『んーん、あたしは向こうで入って来たから……』
「そうですか、じゃあまた今度!という事で♪」
『うん。』
京子とハルと別れ、そのまま食堂へ向かう檸檬。
『リボーン、いる…?』
「檸檬か、どーした?」
『うん…ちょっと向こうに居づらくて。』
「喧嘩したそーだな、フゥ太から聞いたぞ。」
リボーンの言葉に、檸檬は苦笑いを返す。
「ま、たまには必要なんじゃねーのか?」
『だといいんだけど…』
と、その時。
「ん…檸檬……?」
『あ、起きてたんだ、ツナ。』
「今起きた………そーいやリボーン、ビアンキと獄寺君の例の件って何だよ。」
どうやら一瞬起きていたツナは、ビアンキとリボーンの会話を聞いていたらしい。
だが、檸檬とリボーンの会話の時は寝ていたようだ。
「近頃おかしいんだ!話しかけても反応薄いし……一体何があったの?」
『そう言えばさっきも…何か元気なかったなぁ……』
するとリボーンは、しょうがねーなと呟いて、話し始めた。
「獄寺ん家はマフィアで、父親がボスなんだが、獄寺はビアンキとは違う母親から生まれたんだ。正妻じゃない為何かと待遇が酷く、最後は父親の組織の者に消されたって噂だ。」
「け……消されたって…獄寺君のお母さんが!?」
リボーンの話によると、
隼人のお母さんは駆け出しだったけど将来を嘱望された才能ある美人なピアニストだった。
その人に一目惚れした隼人のお父さんは妻子がいたにも関わらず強引に口説いて付き合い始めた。
そして隼人が生まれたんだけど…正妻との子供ではない子がマフィア界で許される事はなく。
それから会う日も限られ、ピアニストとしての将来も奪われた隼人のお母さんは、隼人の3歳の誕生日の5日後、密会しに行く途中に…
『車で…転落死!?』
「あぁ、タイヤ痕は一切なく、彼女は即死………幼い獄寺を残してな。」
プレゼントも発見されていて、自殺は考えにくいらしい。
その事件について、お手伝い達の噂話を聞いて隼人が脱走したのは8歳の時だそうだ。
「………何それ…そんな酷い話、獄寺君一言も…」
「それであいつ…家庭がドロドロのグチャグチャだって……」
『武!』
「山本、起きてたの?」
武が入れてくれたお茶を飲みながら、ツナは隼人にかける言葉を考える。
だけどリボーンは放っとけ、と言う。
「お前こーゆー時冷たいぞ!!」
「周りがとやかく言う問題じゃねーって言ってんだ。」
「まーまー2人とも。気持ちがニッチもサッチもいかなくなった時は、気分転換が1番だと思うぜ♪」
『気分転換?』
「ああ、俺にいい考えがある。任せとけって!!」
何だか、すごく落ち着く空間…。
あたしはやっぱり、ボンゴレに入って良かったなって思うよ。
『んじゃ、あたしもそろそろ戻るね。』
「あ、檸檬!」
『ん?』
「その…ラル・ミルチに蜜柑さんの事聞いたんだけど……」
あ…ツナは知ってるんだね。
蜜柑がミルフィオーレに入って、あたしを狙ってるって事を。
『大丈夫だよ、あたしもちゃんと修業するから。』
「それってまさか…」
『うん、第六感。詳しい事はまた今度でいい?』
「あ、うん…」
『じゃーおやすみ♪』
何とか笑顔で挨拶出来た。
まぁ、少なくともリボーンにはバレてるんだろーな……
第六感の話をする度に、手が震えてること……
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同じ頃、ミルフィオーレ日本支部。
コンコン、
部屋のドアがノックされ、蜜柑はモニターをチェックした。
映っている人物を見て、小さな溜め息を1つ。
「もう来たの。」
「仕事は迅速に、だからな。」
蜜柑の部屋の前に立っているのは、つい先程来日したグロ・キシニア。
モニター越しに話をする。
「何か用があるんでしょ?」
「そうだ。コレを見ろ。」
モニターに近づけられたのは、
「消しゴムの欠片…?バカにされてるって受け取っていいのかしら。」
「飛行機内で読んでいた本の上に突然降って来た、と言ったらどうだ?」
得意気に話すグロの言葉に、蜜柑はほんの少し目を見開く。
「まさか…」
「私が仮定するに、10年前のDARQが………」
「空間移動を使い始めた、でしょ。情報提供感謝するわ。」
モニターを切ろうとする蜜柑を引き止めるように、グロは言う。
「それ程、憎いか。」
「……貴方には関係無い。」
「皮肉なものだな、実の姉だというのに。」
その時の蜜柑の動揺は、モニターを通してグロに伝わったであろう。
証拠に、勝ち誇ったように笑うグロ。
「やはりな。お前は双子の妹、雨宮蜜柑だろう。」
「それが何。」
「お前の弱みだ。」
「弱み?」
「LIGHTと名乗る事で“DARQの妹”と呼ばれる事を避けている。本名を名乗るのを恐れている。比較される事を拒み、区別されない事に憤りを抱いている。」
「黙って。」
憎たらしい笑みを浮かべるグロに、モニター越しに銃を向ける。
その殺気は、計り知れない強さ。
「モニター越しでは無駄だ。」
「甘く見ないで。貴方なんかに匣の力を使いたくないだけよ。“銃だけを構えているうちに”立ち去って。」
「これはこれは…怖い女だ。」
笑みを浮かべながら、グロは去って行った。
蜜柑は未だ銃を下ろす事はなく、
ただ沸き起こって来る憎悪と怒りを抑えようとしていた。
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翌朝。
疲れた表情で廊下を歩く獄寺。
朝食の為に食堂に入ろうとすると、ツナの声が聞こえて来る。
「おはよーございます!!10代……」
「待ってたぜ!」
「おはよう、獄寺君!」
ツナだけでなく、山本や京子達も既に起きていて、獄寺のことを待っていた。
また、ツナと山本が寿司屋のような着物を着ている事にも驚いた。
「今日は男子が朝ご飯当番になったんです!」
「山本君指導、竹寿司直伝の手巻き寿司を作るんだって♪」
「冷凍のネタだけど、結構いい感じに出来そうだぜっ。」
「最近修業ばかりだし、たまには息抜きしようよ。」
ツナが勧誘するも、獄寺はどうも乗り気になれない。
それはやはり、修業に入る前のビアンキの言葉が引っかかっているからであろう。
「す、すいません……今、自分…そういう気分では……」
「で…でも、人手が足りないんだ。俺、ラル・ミルチの分も作らなくちゃいけないし…。あの人、皆とご飯食べないけど結構食にはうるさくて…」
「とにかくやろーよ、隼人兄!!」
獄寺の後ろからフゥ太が背中を押す。
イーピンとランボも足下で騒ぎ始めた。
「こらアホ牛!!米粒ついた手で触んな!!」
「ベロベロベーー!」
ランボにつっかかる獄寺を見て、リボーンは呟く。
「これでちったー修業に身が入るといいがな。」
隣に座るビアンキは、不服そうにそっぽを向いていた。
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同じ頃、雲雀のアジト内。
鹿おどしの音が障子の向こうから聞こえる広い和室で、草壁が雲雀に話しかける。
「恭さん、マークしていた例の男が動き出したとの情報がイタリアから。」
「ここへ来るのかい?」
「まだ分かりませんが油断は禁物……この情報は沢田側にも提供すべきかと。」
「任せるよ。確かアレの写真があったハズだ。」
「へい。」
会話を展開する2人の間に、スウッと飛んで来る鳥。
それは真直ぐ雲雀の方へ向かい、頭に着地する。
「ヒバードとの撮影に成功したものが1枚。」
指示を受けた草壁は、部屋を出ようとする。
が、
「ねぇ草壁、」
「へい。」
「檸檬は…どうしてる?」
表情こそ見えないものの、躊躇いがちにその言葉が発せられたのを草壁は感じ取った。
「様子を見られに行っては…」
「どうしてるのか聞いてるんだよ。」
提案を遮られ、仕方無く知っている限りの事を答える。
「今は部屋に…動けなくなるのを承知で1人でこもっておられます。」
「………ふぅん、そう…」
小さく呟いた雲雀は、「行っていいよ」と。
草壁は一礼して部屋を出た。
このままでは、10年後のこの世界で起きたすれ違いの二の舞になってしまうのではないか、
そんなかすかな不安を抱きながら。
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髑髏が1人黒曜ランドで過ごし、何日か経った。
相変わらずすきま風が酷くて、少し肌寒い。
ぐるる…
お腹が鳴るのも当然。
少量の水と麦チョコで食いつないでいるのだから。
「(骸様……)」
髑髏の右手中指に填められたまま、何か氷のようなもので固められているリング。
争奪戦で貰った、霧のボンゴレリング。
道を歩いていたら、後ろから何かに当てられた。
それは、何かの弾みたいだった。
だけど…何も分からない。
「(何が……どうなってるの…?)」
そして、とりあえず来てみた“いつもの場所”にも、一緒にいた人達はいなくて。
「(犬……千種……)」
前を見れば、思い出というモノが蘇る。
---「(シャワー浴びて来る。犬もたまには浴びないと獣臭いぞ。)」
---「(うるへー!!メガネ!つーかこっち見んなブス女!!)」
犬がゲームをやっていたソファ。
千種がご飯を用意してくれていたテーブル。
その他何もかもが、今は廃棄物となって髑髏の目に映る。
「(何処行っちゃったの………?)」
不安に押しつぶされそうになる髑髏。
ふと、その耳にカタンッという音が入って来る。
「………犬?」
だが、それは口に出した人物の足音ではなく。
立ち上がった髑髏が見たのは、舞い落ちる鳥の羽根。
「まさか再び相見えるのが10年前の姿とはな。」
予想と違う声が聞こえて、一歩引く髑髏。
「だがここの情報がガセでなかった事は喜ばしい。」
現れたのは、右手中指のリングに炎を灯し、フクロウを連れた男。
髑髏を狙ってやって来た、グロ・キシニア。
「あった あーった 本当にあった。クローム髑髏、試食会場。」
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「“迅速な仕事”………」
ふと、グロが言っていた事を思い出す蜜柑。
「(あの男……)」
確か、ボンゴレの霧の守護者に興味を抱いていた。
先日聞き取った声のトーン、呼吸数、脈拍数を、解析する。
出てきた結果により、蜜柑は何かを感じ取った。
「…そう言う事なの……」
“何かお楽しみがある”
彼にとっての楽しみとは……霧の守護者関連のはず。
蜜柑は上着を着て、部屋を出た。
もし自分の予想通り、グロが霧の守護者と接触するのなら、
DARQに繋がる事が何か分かる可能性がある。
その為なら、時間を惜しんだりしない。
「探しに、行こうかしら。」
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「檸檬さん、檸檬さん、」
『あ、はい……』
草壁がドアをノックする音に気がつき、檸檬はゆっくりとドアを開ける。
やはり1人に慣れていないせいか、震えていた。
「あまり自分を追い込まないで下さい…」
『すみません……でも、どうしても1人になりたかったんです…。』
伏し目がちに言う檸檬に、草壁は話題転換をする。
「これから沢田氏側に情報提供しに行くんです。ご一緒にどうですか?」
『あ、行きますっ!』
部屋から出る檸檬。
だが、やはり思考回路は“ある事”に支配されていて。
『(どうすれば……どうすれば回避出来るの…?)』
10年後の檸檬が犯してしまった過ち……
雲雀の反対を押し切って第六感を使ってしまったという事。
『(恭弥を怒らせないで、修業する方法……ないのかなぁ…?)』
溜め息をつく檸檬を、草壁はただつらそうに見ていた。
ホント、随分涙もろくなったな…あたし。
恭弥と……喧嘩しちゃったし…
「檸檬姉?」
『へ?』
「どっ、どうしたの!?泣いてるの!?」
『フゥ太君……』
過去
ランボちゃん達と遊んでいたフゥ太君は、真直ぐあたしの方に駆け寄って来てくれた。
「大丈夫?檸檬姉、何かあったの?」
『うっ……わぁぁぁん!!』
「檸檬姉っ!?」
言葉をかけられたら、更に目が熱くなって来て、止まらない。
優しく背中を摩りながら、フゥ太君は尋ねる。
「聞いてもいい?」
ちょっと迷ったけど、小さく頷いた。
フゥ太君は第六感についてある程度知っていたから、いいかなって思った。
『恭弥が…修業しちゃダメって……あたしの視界が……何かなるらしくて…』
「視界……!?」
その単語を聞いた途端、フゥ太君は体を震わせる。
不思議に思って見上げると、すごくつらそうな顔をしていた。
『フゥ太、君…?』
「檸檬姉……やっぱり知らないまま修業してたんだね…。」
『え…?』
「その事は、10年後のツナ兄とリボーン、9代目と雲雀さんしか知らなかったんだ…」
僕はたまたま知っちゃったんだけどね、とフゥ太君は付け足す。
そして、話し始めた。
10年後のあたしが、第六感完成の代わりに何を犠牲にしたかを。
「10年後の檸檬姉は、ボンゴレが出した第六感研究結果を元に、自分で能力の完成を目指してた。」
それが、あのノートとファイル。
「その頃、もう既にリングと能力の相性が悪いと知っていた檸檬姉は…焦ってたんだと思う………何時間も部屋にこもって練習してたんだ。」
『空間…移動の……?』
聞き返すと、フゥ太君は頷く。
「その成果はちゃんと出て、第六感は完成した。檸檬姉は空間移動をマスターして、相手の炎を奪う戦法も身につけた。」
『だったら何も悪い事なんて…』
「異変が起きたのは、それから一週間後。」
異変…!?
フゥ太君の表情は、更に暗くなっていって。
何だかあたしも怖くなって来る。
だけど、聞かなくちゃ。
『(そうだ…そうだよ……何もないのに恭弥があんな顔するワケないもん…)』
言うのを躊躇っているフゥ太君に、あたしは言った。
『教えて、フゥ太君。』
「………うん…」
1つだけ深呼吸をして、フゥ太君は言った。
「第六感完成の一週間後、檸檬姉は………波長しか見えなくなっちゃたんだ。」
『え………?』
まるで、体の中を電撃が走ったような感覚。
あたしはフゥ太君の目の前で固まっていた。
だって、
だって…
『目が、見えなくなる……の?』
「……うん…」
『それって……』
「周りの波長の反射で物体の存在を認識して、脳波や波動の種類で人物を識別する……そういう事だよ。」
信じられなかった。
あたし……第六感のせいでそんな風に…?
ふと、10年後のあたしが夢で言ってた事を思い出す。
---『{同じ過ちを、繰り返さないで……}』
あぁ、あれは…こういう事だったのね。
10年後のあたしは知ってたんだ、
修業をする事であたしの目が見えなくなって、周りを傷つけるって。
「だから雲雀さんは止めるんだよ。僕も…あんまり賛成したくない……。」
『そう、だね…』
「そういう事だったんですね…」
『え?』
「草壁さん!」
あたしを探しに来たのか、草壁さんは少しだけ息を切らせていた。
「すみません、盗み聞きするつもりは…」
『いえ、構いません。』
「草壁さんは、知らなかったですか?」
「私が知っているのは、第六感が完成した10日後に檸檬さんが恭さんから離れて行った事くらいです。」
やっぱり、あたしは10年経ってもあたしのままだった。
『きっと、目が見えない自分のせいで苦しむ恭弥を見たくなかった……』
「そのように…おっしゃってました。しかし恭さんは……」
『分かってます。』
そんな事で、あの我が儘王子が納得するハズない……
両手で顔を覆い、あたしは長い溜め息を1つ。
このまま先へ進めば、あたしは盲目になる。
かと言って修業をやめれば、待ってるだけの存在になる。
どっちも嫌。
どっちも嫌だけど、でも……
『………それでも……』
「檸檬姉?」
『それでもあたしは修業する。』
自分に言い聞かせるように、決意を口に出す。
フゥ太君と草壁さんの驚く顔が目に入る。
『あたしのこの能力は…人を想う心に反応するんだって。護る為に戦うあたしに、ぴったりだと思わない?』
「でも……!」
『護れるなら、あたし自身はどうなっても構わない………』
それは、ずっとずっと前から決めていたあたしのモットー。
だけど、並盛で過ごした日々の中で、それは周りに迷惑と心配をかけるんだと教わった。
だから…
『…………なーんて、言わないよっ!今度は。』
「檸檬さん……?」
『10年後のあたしが盲目になったのは、第六感を制御しきれずに力に飲まれたからじゃない?』
「うん、そうかも知れないって僕も思ってたけど……」
『だったら!』
だったらさ、簡単なことだよ。
あたしは前に進めるよ。
『あたしはこの力をとことん制御するっ。もう皆の…恭弥の……あんな哀しい顔は見たくないもん。』
「檸檬姉…」
『あんな顔はさせない、絶対に。笑顔には出来ないかもしれないけど、眉間のシワくらいは……取ってあげられるかもしれないでしょ?』
そうと決まったら、もう一度足に力を入れて、
しっかりと立ち上がるの。
今度はもう、折れないように。
何があっても、負けないように。
「無理、しないでね。」
『大丈夫♪色々ありがと、フゥ太君。』
「うん…」
明るい笑顔で手を振って、自分の部屋に戻る。
途中、草壁さんが言った。
「やはり…強いですね、檸檬さんは。」
『そーでしょーか……負けず嫌いなだけかも知れません。』
「負けず嫌い、ですか?」
『はい、だから……』
今でもこの手は震えてる。
それを隠すように、あたしは笑う。
周りに心配かけないように。
『……何でもありませんっ。』
「…そうですか。」
それから3日間、あたしが恭弥と目を合わせる事はなかった。
これはただの意地っ張りだと分かっていても、どうしても何か話す気がしなくて。
それは恭弥も同じなのかな、なんて思ったりしてた。
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京子とハルは目をぱちくりさせた。
それもそのはず、机に座るツナと山本は食事を終えてそのまま寝に入ってしまったのだ。
「新しい修業が始まって3日連続ですよ。」
「よっぽど疲れてるんだよ。」
更に、
「獄寺さんは今日も1人だけ席離れてますし…」
「怪我……大丈夫かなぁ?」
その様子を見て修業について尋ねるリボーン。
ビアンキは結果以前にやる気の有無を疑う、と返す。
その会話を聞いていたのかいないのか、獄寺はガタッと立ち上がり、先に寝室に戻ってしまった。
『あれっ…?隼人…』
「あぁ、檸檬か…」
『おやすみ…』
「あぁ…」
ここ数日、雲雀と何となく距離を置いてるせいか、頻繁にボンゴレのアジトに来ている檸檬。
ばったり獄寺とはち遭わせたが、大した会話もなくすれ違った。
「あの子の事は、最後まで見させて下さい。先にお風呂いただきます。」
「あぁ。」
ビアンキが立ち去り、洗い物を終えた京子とハルも浴室に向かった。
「あ、檸檬ちゃん!」
「何だか久しぶりだねっ。」
『ハル、京子……これからお風呂?』
「うんっ、一緒に行く?」
『んーん、あたしは向こうで入って来たから……』
「そうですか、じゃあまた今度!という事で♪」
『うん。』
京子とハルと別れ、そのまま食堂へ向かう檸檬。
『リボーン、いる…?』
「檸檬か、どーした?」
『うん…ちょっと向こうに居づらくて。』
「喧嘩したそーだな、フゥ太から聞いたぞ。」
リボーンの言葉に、檸檬は苦笑いを返す。
「ま、たまには必要なんじゃねーのか?」
『だといいんだけど…』
と、その時。
「ん…檸檬……?」
『あ、起きてたんだ、ツナ。』
「今起きた………そーいやリボーン、ビアンキと獄寺君の例の件って何だよ。」
どうやら一瞬起きていたツナは、ビアンキとリボーンの会話を聞いていたらしい。
だが、檸檬とリボーンの会話の時は寝ていたようだ。
「近頃おかしいんだ!話しかけても反応薄いし……一体何があったの?」
『そう言えばさっきも…何か元気なかったなぁ……』
するとリボーンは、しょうがねーなと呟いて、話し始めた。
「獄寺ん家はマフィアで、父親がボスなんだが、獄寺はビアンキとは違う母親から生まれたんだ。正妻じゃない為何かと待遇が酷く、最後は父親の組織の者に消されたって噂だ。」
「け……消されたって…獄寺君のお母さんが!?」
リボーンの話によると、
隼人のお母さんは駆け出しだったけど将来を嘱望された才能ある美人なピアニストだった。
その人に一目惚れした隼人のお父さんは妻子がいたにも関わらず強引に口説いて付き合い始めた。
そして隼人が生まれたんだけど…正妻との子供ではない子がマフィア界で許される事はなく。
それから会う日も限られ、ピアニストとしての将来も奪われた隼人のお母さんは、隼人の3歳の誕生日の5日後、密会しに行く途中に…
『車で…転落死!?』
「あぁ、タイヤ痕は一切なく、彼女は即死………幼い獄寺を残してな。」
プレゼントも発見されていて、自殺は考えにくいらしい。
その事件について、お手伝い達の噂話を聞いて隼人が脱走したのは8歳の時だそうだ。
「………何それ…そんな酷い話、獄寺君一言も…」
「それであいつ…家庭がドロドロのグチャグチャだって……」
『武!』
「山本、起きてたの?」
武が入れてくれたお茶を飲みながら、ツナは隼人にかける言葉を考える。
だけどリボーンは放っとけ、と言う。
「お前こーゆー時冷たいぞ!!」
「周りがとやかく言う問題じゃねーって言ってんだ。」
「まーまー2人とも。気持ちがニッチもサッチもいかなくなった時は、気分転換が1番だと思うぜ♪」
『気分転換?』
「ああ、俺にいい考えがある。任せとけって!!」
何だか、すごく落ち着く空間…。
あたしはやっぱり、ボンゴレに入って良かったなって思うよ。
『んじゃ、あたしもそろそろ戻るね。』
「あ、檸檬!」
『ん?』
「その…ラル・ミルチに蜜柑さんの事聞いたんだけど……」
あ…ツナは知ってるんだね。
蜜柑がミルフィオーレに入って、あたしを狙ってるって事を。
『大丈夫だよ、あたしもちゃんと修業するから。』
「それってまさか…」
『うん、第六感。詳しい事はまた今度でいい?』
「あ、うん…」
『じゃーおやすみ♪』
何とか笑顔で挨拶出来た。
まぁ、少なくともリボーンにはバレてるんだろーな……
第六感の話をする度に、手が震えてること……
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同じ頃、ミルフィオーレ日本支部。
コンコン、
部屋のドアがノックされ、蜜柑はモニターをチェックした。
映っている人物を見て、小さな溜め息を1つ。
「もう来たの。」
「仕事は迅速に、だからな。」
蜜柑の部屋の前に立っているのは、つい先程来日したグロ・キシニア。
モニター越しに話をする。
「何か用があるんでしょ?」
「そうだ。コレを見ろ。」
モニターに近づけられたのは、
「消しゴムの欠片…?バカにされてるって受け取っていいのかしら。」
「飛行機内で読んでいた本の上に突然降って来た、と言ったらどうだ?」
得意気に話すグロの言葉に、蜜柑はほんの少し目を見開く。
「まさか…」
「私が仮定するに、10年前のDARQが………」
「空間移動を使い始めた、でしょ。情報提供感謝するわ。」
モニターを切ろうとする蜜柑を引き止めるように、グロは言う。
「それ程、憎いか。」
「……貴方には関係無い。」
「皮肉なものだな、実の姉だというのに。」
その時の蜜柑の動揺は、モニターを通してグロに伝わったであろう。
証拠に、勝ち誇ったように笑うグロ。
「やはりな。お前は双子の妹、雨宮蜜柑だろう。」
「それが何。」
「お前の弱みだ。」
「弱み?」
「LIGHTと名乗る事で“DARQの妹”と呼ばれる事を避けている。本名を名乗るのを恐れている。比較される事を拒み、区別されない事に憤りを抱いている。」
「黙って。」
憎たらしい笑みを浮かべるグロに、モニター越しに銃を向ける。
その殺気は、計り知れない強さ。
「モニター越しでは無駄だ。」
「甘く見ないで。貴方なんかに匣の力を使いたくないだけよ。“銃だけを構えているうちに”立ち去って。」
「これはこれは…怖い女だ。」
笑みを浮かべながら、グロは去って行った。
蜜柑は未だ銃を下ろす事はなく、
ただ沸き起こって来る憎悪と怒りを抑えようとしていた。
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翌朝。
疲れた表情で廊下を歩く獄寺。
朝食の為に食堂に入ろうとすると、ツナの声が聞こえて来る。
「おはよーございます!!10代……」
「待ってたぜ!」
「おはよう、獄寺君!」
ツナだけでなく、山本や京子達も既に起きていて、獄寺のことを待っていた。
また、ツナと山本が寿司屋のような着物を着ている事にも驚いた。
「今日は男子が朝ご飯当番になったんです!」
「山本君指導、竹寿司直伝の手巻き寿司を作るんだって♪」
「冷凍のネタだけど、結構いい感じに出来そうだぜっ。」
「最近修業ばかりだし、たまには息抜きしようよ。」
ツナが勧誘するも、獄寺はどうも乗り気になれない。
それはやはり、修業に入る前のビアンキの言葉が引っかかっているからであろう。
「す、すいません……今、自分…そういう気分では……」
「で…でも、人手が足りないんだ。俺、ラル・ミルチの分も作らなくちゃいけないし…。あの人、皆とご飯食べないけど結構食にはうるさくて…」
「とにかくやろーよ、隼人兄!!」
獄寺の後ろからフゥ太が背中を押す。
イーピンとランボも足下で騒ぎ始めた。
「こらアホ牛!!米粒ついた手で触んな!!」
「ベロベロベーー!」
ランボにつっかかる獄寺を見て、リボーンは呟く。
「これでちったー修業に身が入るといいがな。」
隣に座るビアンキは、不服そうにそっぽを向いていた。
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同じ頃、雲雀のアジト内。
鹿おどしの音が障子の向こうから聞こえる広い和室で、草壁が雲雀に話しかける。
「恭さん、マークしていた例の男が動き出したとの情報がイタリアから。」
「ここへ来るのかい?」
「まだ分かりませんが油断は禁物……この情報は沢田側にも提供すべきかと。」
「任せるよ。確かアレの写真があったハズだ。」
「へい。」
会話を展開する2人の間に、スウッと飛んで来る鳥。
それは真直ぐ雲雀の方へ向かい、頭に着地する。
「ヒバードとの撮影に成功したものが1枚。」
指示を受けた草壁は、部屋を出ようとする。
が、
「ねぇ草壁、」
「へい。」
「檸檬は…どうしてる?」
表情こそ見えないものの、躊躇いがちにその言葉が発せられたのを草壁は感じ取った。
「様子を見られに行っては…」
「どうしてるのか聞いてるんだよ。」
提案を遮られ、仕方無く知っている限りの事を答える。
「今は部屋に…動けなくなるのを承知で1人でこもっておられます。」
「………ふぅん、そう…」
小さく呟いた雲雀は、「行っていいよ」と。
草壁は一礼して部屋を出た。
このままでは、10年後のこの世界で起きたすれ違いの二の舞になってしまうのではないか、
そんなかすかな不安を抱きながら。
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髑髏が1人黒曜ランドで過ごし、何日か経った。
相変わらずすきま風が酷くて、少し肌寒い。
ぐるる…
お腹が鳴るのも当然。
少量の水と麦チョコで食いつないでいるのだから。
「(骸様……)」
髑髏の右手中指に填められたまま、何か氷のようなもので固められているリング。
争奪戦で貰った、霧のボンゴレリング。
道を歩いていたら、後ろから何かに当てられた。
それは、何かの弾みたいだった。
だけど…何も分からない。
「(何が……どうなってるの…?)」
そして、とりあえず来てみた“いつもの場所”にも、一緒にいた人達はいなくて。
「(犬……千種……)」
前を見れば、思い出というモノが蘇る。
---「(シャワー浴びて来る。犬もたまには浴びないと獣臭いぞ。)」
---「(うるへー!!メガネ!つーかこっち見んなブス女!!)」
犬がゲームをやっていたソファ。
千種がご飯を用意してくれていたテーブル。
その他何もかもが、今は廃棄物となって髑髏の目に映る。
「(何処行っちゃったの………?)」
不安に押しつぶされそうになる髑髏。
ふと、その耳にカタンッという音が入って来る。
「………犬?」
だが、それは口に出した人物の足音ではなく。
立ち上がった髑髏が見たのは、舞い落ちる鳥の羽根。
「まさか再び相見えるのが10年前の姿とはな。」
予想と違う声が聞こえて、一歩引く髑髏。
「だがここの情報がガセでなかった事は喜ばしい。」
現れたのは、右手中指のリングに炎を灯し、フクロウを連れた男。
髑髏を狙ってやって来た、グロ・キシニア。
「あった あーった 本当にあった。クローム髑髏、試食会場。」
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「“迅速な仕事”………」
ふと、グロが言っていた事を思い出す蜜柑。
「(あの男……)」
確か、ボンゴレの霧の守護者に興味を抱いていた。
先日聞き取った声のトーン、呼吸数、脈拍数を、解析する。
出てきた結果により、蜜柑は何かを感じ取った。
「…そう言う事なの……」
“何かお楽しみがある”
彼にとっての楽しみとは……霧の守護者関連のはず。
蜜柑は上着を着て、部屋を出た。
もし自分の予想通り、グロが霧の守護者と接触するのなら、
DARQに繋がる事が何か分かる可能性がある。
その為なら、時間を惜しんだりしない。
「探しに、行こうかしら。」
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「檸檬さん、檸檬さん、」
『あ、はい……』
草壁がドアをノックする音に気がつき、檸檬はゆっくりとドアを開ける。
やはり1人に慣れていないせいか、震えていた。
「あまり自分を追い込まないで下さい…」
『すみません……でも、どうしても1人になりたかったんです…。』
伏し目がちに言う檸檬に、草壁は話題転換をする。
「これから沢田氏側に情報提供しに行くんです。ご一緒にどうですか?」
『あ、行きますっ!』
部屋から出る檸檬。
だが、やはり思考回路は“ある事”に支配されていて。
『(どうすれば……どうすれば回避出来るの…?)』
10年後の檸檬が犯してしまった過ち……
雲雀の反対を押し切って第六感を使ってしまったという事。
『(恭弥を怒らせないで、修業する方法……ないのかなぁ…?)』
溜め息をつく檸檬を、草壁はただつらそうに見ていた。