未来編①
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「(これだよ、沢田綱吉……やはり君は面白い。)」
『(あ、笑った。)』
ツナが開匣した匣から飛び出して、恭弥に向かっていくハリネズミ。
恭弥は愉しそうに笑ってから、素早く別の匣を開けた。
匣の謎
『あ、あれって…!』
恭弥とツナのちょうど真ん中くらいでぶつかり合う匣ムーブメント。
その姿は…同じモノ。
「同じハリネズミ!?」
「もう一匣持っていたのか!!」
『(ハリネズミ大好きっ子みたい…)』
まぁ勿論そんなのは冗談で、
アレが使える匣だから持ってるだけなんだろーけど。
「気が変わったよ。」
『(おっ、)』
「もっと強い君と戦いたいな。それまで少し付き合おう。」
ツナはとりあえず第一関門クリアしたみたい。
恭弥が家庭教師をする意欲を示してくれた。
ホッと一安心して、あたしは草壁さんの方を見る。
だって、まだあたしの方はきちんと決まってない。
『あの…』
「分かりました。」
『えっ…?』
少し長い回想を終えた草壁は、未来の檸檬との約束を果たす事を優先した。
「檸檬さんにはいつも適いませんね。」
『じゃあっ…!』
目を丸くして自分を見つめる過去の檸檬。
彼女が、修業をすることで傷つくのは百も承知。
もしかしたら、自分が未来の世界で経験した最悪の事態をこの檸檬も引き起こしてしまうかも知れない。
しかし……
「お渡しします。ただ、コレが終わってからで宜しいですか?」
草壁は決意した。
未来の檸檬との約束を守る、と。
今度はきっと、引き止めてみせる、と。
『ありがとうございますっ!!』
目の前にいる檸檬の、この笑顔は守ろう、と。
その一方で、少しの期待も抱く。
過去から来た檸檬は、過ちを繰り返さないでくれるかも知れない。
“最悪の選択”をしなくてもいいような道を、切り開いてくれるかも知れない。
ただ、
それは余りに儚く、
空想のようにぼやけた、
希望----
---
-------
「……で、君たちは…匣がどうやって出来たのか、知っているの?」
『匣の、出来方…??』
突然の恭弥の問いに、あたし達は首を傾げた。
---
-----
----------
同じ頃、とある部屋から獄寺が廊下に飛び出す。
後ろを見ながらすぐに走り出す彼に襲いかかるのは、
真っ赤な炎。
「うっそだろ!?何だありゃ!!」
逃げ続けようとする獄寺。
しかし、その前方の壁には……
「げっ!!!こっちにも居やがる!!」
先程の真っ赤な炎を放ったモノと同じ物体が。
赤い炎に包まれたソレは、獄寺に向かって針のようなモノを向ける。
それが火炎放射の前兆だと察した獄寺は、咄嗟に壁伝いに避けた。
そしてそのまま…
「調子にっ…のんじゃねぇ!!」
“赤炎の矢”を放つ。
それは確実に敵である物体を捉え、炎で包んだ。
が、
「(効いてない!?)」
真っ赤な炎が尽きる事はなく、ソレはついに姿を現した。
「サソリ!!?」
「そうよ、この子達が私のお気に入り。」
後ろから聞こえる声に振り向く獄寺。
「逃げられなかったわね。」
そこには、赤い炎を纏ったサソリを何体も引き連れるビアンキの姿が。
「嵐サソリ(スコルピオーネ・ディ・テンペスタ)…ありていに言えば移動火炎砲台よ。」
「火炎砲台………?つーか……また動物の匣かよ…!」
山本の使っていたツバメ、γの使っていた狐が脳裏に蘇る。
するとビアンキは説明し始めた。
「生物を模した匣が多いのは当然なの。匣のルーツを貴方は知らないわね……」
匣の元となったのは、4世紀前の生物学者、ジュペット・ロレンツィニが残した343編の設計書。
それらは、当時の技術では再現出来ないオーバーテクノロジーで描かれていたのだが……
3人の発明家により、秘密結社の倉庫に眠る紙キレから生まれ変わった。
「3人の発明家?」
「イノチェンティ、ケーニッヒ、ヴェルデ……同じ秘密結社の仲間よ。」
匣の動力源にマフィアのリングから放射される炎が最適だと突き止めた彼らは、僅か5年でプロトタイプを完成させた。
生物を模した343種はジュペットのオリジナル。
そして、保存用や道具・武器の匣は3人の開発したモノだという。
「つい最近まで彼らは、研究資金調達の為に今では考えられない安価で多くのマフィアに売っていたわ。」
しかし、3人のうち2人が変死して……
---
------
「その後、生き残ったケーニッヒは地下に潜り、今も匣の研究を続け出来た物を闇の武器商人に流しているという……」
『(変死…!?)』
てゆーかヴェルデって……
どっかで聞いたと思ったんだけどなー…?
「これが俺の知る、最も有力と思われる匣の情報の全てだ。」
ラルの説明が終わって、草壁さんは驚きの表情を見せる。
でも恭弥は…
「間違ってはいない。が、どうして匣が出来たかという問いに対する、本質的な答えとは言えないな。」
『本質的…?』
「匣を現在に成り立たせた本当の立役者は、ジュペットでも優秀な科学者でもない…………偶然だ。」
「ぐーぜん?」
疑問符を浮かべるフゥ太君に、草壁さんが説明する。
世界的大発見や大発明には、発明家の身近に起きた偶然がひらめきを誘発することが多い。
もっとも偶然を必然とする受け手の準備と力がそれなりに望まれ、だとしてもそんなに簡単に起こる事じゃない。
なのに、
「匣開発においては、それが尋常でなく頻繁に起きている。」
「どういう事だ!?」
「我々はそれを調査しているのです。」
「知る程に謎は深まるばかりでね。」
そっか、それで“興味深い力”とか言ってたんだ…。
わざわざ財団で研究して…
と、ここで匣の話は終わって、恭弥はツナに話しかける。
「沢田綱吉、明日も楽しませてくれよ。」
更に、ぶつかり合ってるハリネズミを見て一言。
「覚えておくといい。大空の炎は全ての匣を開匣出来るが、他属性の匣の力を全て引き出す事は出来ない。」
「キイィィ!!」
「ツナ兄のハリネズミが取り込まれてる!!」
さっきまでぶつかり合ってたハズの2匹のハリネズミ。
だけど恭弥のがツナのを八方から針で追いつめていた。
そして…
バキッ、
破壊してしまった。
「悲観する事はないよ、大空専用の匣も存在するらしい。」
今日の闘いは終わり、と言うように、恭弥は背を向けてドアに向かっていく。
「哲、檸檬、」
「へい。」
『あ、待って!』
草壁さんと一緒に、恭弥を追いかける。
と、その時。
「あ。」
先にドアが開いて、外から誰か入って来る。
「こ…小僧見なかったっスか?」
「山本武……さーね。」
『あっ、武ーっ!』
「檸檬!」
何だか久しぶりのような気がして、手を振ってみた。
爽やかに振り返してくれた武は、あたしの後方を見てハッとする。
「小僧!!」
「待たせて悪かったな。」
「ツナも元気そーじゃねーか!いやー、良かった!!」
リボーンが武の肩に乗る。
「んじゃ、お前の修業再開すっぞ、山本。」
「ああ。」
その光景をボーッと見ていると、
「檸檬、早く。」
『あ、うん!』
恭弥がブスッとしながらあたしを急かした。
---
-------
「沢田、休んでる暇はないぜ。」
ラルは、未だうつ伏せで倒れているツナに歩み寄る。
「一刻も早くVer.V.Rも扱えるようにしなくてはまた雲雀に…………!」
ふと、ツナがその体勢のまま眠っている事に気がつく。
ふぅと溜め息をついて、ラルは続けた。
「…仕方無いヤツだ。あの試練の後だ……無理もないな。………とでも言うと思ったか!!」
「へ?」
豹変する口調に、ツナは寝ぼけ眼で驚く。
その胸ぐらはラルに掴まれていて。
「こんな事ではミルフィオーレに潜入し入江正一を消す事など出来んぞ!!目を覚ませ!!」
「ぶぶぶっ!」
物凄い往復ビンタを見て、フゥ太は弱冠青ざめる。
「ラルさん、凄いスパルタ……」
「ってか、ツナ鍛えるの降りたって言ってなかったか?」
山本が抱いた疑問に、リボーンはニッと口角を上げた。
---
-----
-----------
『恭弥、今日の夕飯は何がいい?』
歩いてアジトに戻る途中、あたしは恭弥に聞いてみた。
「随分とご機嫌みたいだね、檸檬。」
『うんっ、まーね♪』
やっと書類が見つかったんだもん。
やっとあたしも修業が出来るんだもん。
「何でもいいよ、檸檬が作るなら。」
『ホントー?うーん…どーしよっかなぁ……』
まず何の食材が残ってるかによるなぁ。
あとなるべく時間掛からない方が…
「ねぇ、檸檬。」
『ん?』
考えながら前を歩いていたあたしを、恭弥は呼び止める。
振り向くと、やっぱりそこには哀しい顔があって。
「僕、言ったよね。」
『え?』
「もう…無理させないから。」
ビクッと震えちゃったのは多分、
草壁さんから書類を受け取る事になってるから。
あたしの修業が始まるから。
『恭弥……』
何でそんなに哀しい顔するの?
どうして今それを確認したの?
なんて、今のあたしには聞く勇気がなくて。
「………何でもない、行くよ。」
『あ、うん…。』
ポン、と頭に手を乗せられて、そのまま並んで歩き出す。
後ろを歩く草壁さんの方を見てみたら、やっぱり哀しい顔をしていた。
ねぇ、何で?
恭弥だけじゃない。
草壁さんだけじゃない。
フゥ太君も、
---「最初のうちは、檸檬姉もリングが使えたんだよ、雲系のね。」
ラルも、
---「……頼む…それだけは………それだけはやめろ…」
そして…未来のあたしも、
---『{同じ過ちを、繰り返さないで……}』
みんなみんな、哀しい顔をする。
どうしてか分からない。
心のどっかで、分かりたくないって思ってる。
あたしはまだ、
化け物みたいな自分の力を怖がってる。
『(それでも…)』
それでも、修業するって決めた。
みんなを護る為に。
あたしの手を引く恭弥の手を、少し強く握り返した。
---
-----
----------
同じ頃、
吹き荒れる嵐の中、獄寺は1人立っていた。
「くそ!前が見えねぇ…何だよこりゃ!!」
「10年後の貴方が特注で作った部屋、嵐(ストーム)ルームよ。」
モニター越しに話しかけるのは家庭教師であるビアンキ。
「俺が?」
「足場も視界も悪い砂漠の嵐を再現したの。そこには私のサソリも20匹いるわ。」
「なぁ!?」
先程1つとして倒せなかったサソリが20もいる事に、獄寺は驚く。
「貴方のノルマは、1分間に20匹のサソリを全滅させる事よ。」
「んだと!?あの硬ぇのを1匹あたり3秒で!?無茶言うな!!大体俺はなぁ!!」
「私の事は憎んでいてくれて結構よ。」
何かを言おうとする獄寺を、ビアンキは遮る。
家庭教師が自分である事に不満を持っているのだと、分かり切っているから。
そして、敢えて宣言する。
「当然よね、私は貴方とは違い、お父様と正妻との間に生まれた娘ですもの。」
「……てめぇ!!」
突然の“敵だと思え”発言に、反論しようとする獄寺だったが、
「始めましょう。」と耳を貸さないビアンキ。
「幸いにも、この時代の隼人はSISTEMA C.A.I.のほとんどを残していったわ。それに私が最近入手したモノも入れておいたの。」
言い終わると同時に、天井がガシャッと開いて何かが落ちて来る。
「受け取って。」
ドッ、と重そうな音がした所に駆け寄る獄寺。
ビアンキはそれを見つめながら言う。
「貴方なら未来の自分の考えていた事が分かるはずよ、考えなさい。」
「こっ…こいつは…!!」
明らかに自分がカスタマイズしたと分かるドクロの装飾がされた匣。
鞄から溢れ出るほど大量のソレが、獄寺の目の前に散らばっていた。
---
-----
-----------
夕飯前、恭弥が部屋にこもってる隙に草壁さんに書類を貰いに行った。
「いいですか檸檬さん、くれぐれも一度に全てこなそうとしないよう…」
『大丈夫です♪その辺はご安心下さい。』
笑顔を見せると、草壁さんはA4サイズの茶封筒を渡してくれた。
受け取ってみると、結構分厚いことが分かる。
『ありがとうございますっ♪』
「いえ。何かありましたら遠慮なくお聞き下さい。ただし…」
『恭弥にはバレないように、ですよね?』
「…はい。」
小さく頷く草壁さんにもう一度礼をする。
「それでは檸檬さん、健闘を祈ります。」
『はいっ♪』
大きく返事をして、自室に戻った。
『さーてと!』
10年後のあたしが使っていたこの部屋で、あたしはあたしの修業をする。
その為に…
『どれどれ…』
袋の中身を全部出してみる。
ノートが3冊と、ファイルが2冊。
パラパラ見てみると、ノートはぎっしり書かれていて、ファイルにはぎっしりプリントやメモが詰まっていた。
『すごいなぁ…』
とりあえず、No.1と書かれたノートの1ページ目を開く。
と、
“過去の檸檬へ”
『え!?』
書かれていた内容は、今ここにいるあたしへのメッセージ。
“これを見てるって事は、哲さんから受け取ったって事よね?
つまり、第六感が完成してない昔の檸檬が見ているって事…。
少し不安だけど、あたしにはもう出来ない事が貴女には出来るかも知れない。
だから、1つずつゆっくり習得して欲しい。
それだけが、あたしの願いです。”
よく分からないけど、今までの事を全てひっくるめて、コレだけは分かった。
あたしは、取り返しのつかないような事態を引き起こしたんだ。
それも、周りに迷惑が掛かるものじゃなくて、自分に全部降り掛かるような事……
『忠告ありがとう、未来の檸檬。』
きっと、貴女の望みを叶えられるように頑張るね。
同じ過ちってヤツを、繰り返さないように。
グッと意気込んで、ページをめくった。
“第一段階 波長のひずみを見つける
・護る為に強くなろうとする事が絶対条件
・1度目を閉じ精神統一出来たら目を開ける
・波長の世界が現れても平常心を保つ事”
大丈夫、だよね?
あたし…ちゃんと出来るよね?
何度も何度も確認して、あたしは目を閉じた。
護る為なら、きっと習得してみせる。
誰が何と言おうと、もう立ち止まらないよ。
『(第六感……発動!)』
『(あ、笑った。)』
ツナが開匣した匣から飛び出して、恭弥に向かっていくハリネズミ。
恭弥は愉しそうに笑ってから、素早く別の匣を開けた。
匣の謎
『あ、あれって…!』
恭弥とツナのちょうど真ん中くらいでぶつかり合う匣ムーブメント。
その姿は…同じモノ。
「同じハリネズミ!?」
「もう一匣持っていたのか!!」
『(ハリネズミ大好きっ子みたい…)』
まぁ勿論そんなのは冗談で、
アレが使える匣だから持ってるだけなんだろーけど。
「気が変わったよ。」
『(おっ、)』
「もっと強い君と戦いたいな。それまで少し付き合おう。」
ツナはとりあえず第一関門クリアしたみたい。
恭弥が家庭教師をする意欲を示してくれた。
ホッと一安心して、あたしは草壁さんの方を見る。
だって、まだあたしの方はきちんと決まってない。
『あの…』
「分かりました。」
『えっ…?』
少し長い回想を終えた草壁は、未来の檸檬との約束を果たす事を優先した。
「檸檬さんにはいつも適いませんね。」
『じゃあっ…!』
目を丸くして自分を見つめる過去の檸檬。
彼女が、修業をすることで傷つくのは百も承知。
もしかしたら、自分が未来の世界で経験した最悪の事態をこの檸檬も引き起こしてしまうかも知れない。
しかし……
「お渡しします。ただ、コレが終わってからで宜しいですか?」
草壁は決意した。
未来の檸檬との約束を守る、と。
今度はきっと、引き止めてみせる、と。
『ありがとうございますっ!!』
目の前にいる檸檬の、この笑顔は守ろう、と。
その一方で、少しの期待も抱く。
過去から来た檸檬は、過ちを繰り返さないでくれるかも知れない。
“最悪の選択”をしなくてもいいような道を、切り開いてくれるかも知れない。
ただ、
それは余りに儚く、
空想のようにぼやけた、
希望----
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「……で、君たちは…匣がどうやって出来たのか、知っているの?」
『匣の、出来方…??』
突然の恭弥の問いに、あたし達は首を傾げた。
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同じ頃、とある部屋から獄寺が廊下に飛び出す。
後ろを見ながらすぐに走り出す彼に襲いかかるのは、
真っ赤な炎。
「うっそだろ!?何だありゃ!!」
逃げ続けようとする獄寺。
しかし、その前方の壁には……
「げっ!!!こっちにも居やがる!!」
先程の真っ赤な炎を放ったモノと同じ物体が。
赤い炎に包まれたソレは、獄寺に向かって針のようなモノを向ける。
それが火炎放射の前兆だと察した獄寺は、咄嗟に壁伝いに避けた。
そしてそのまま…
「調子にっ…のんじゃねぇ!!」
“赤炎の矢”を放つ。
それは確実に敵である物体を捉え、炎で包んだ。
が、
「(効いてない!?)」
真っ赤な炎が尽きる事はなく、ソレはついに姿を現した。
「サソリ!!?」
「そうよ、この子達が私のお気に入り。」
後ろから聞こえる声に振り向く獄寺。
「逃げられなかったわね。」
そこには、赤い炎を纏ったサソリを何体も引き連れるビアンキの姿が。
「嵐サソリ(スコルピオーネ・ディ・テンペスタ)…ありていに言えば移動火炎砲台よ。」
「火炎砲台………?つーか……また動物の匣かよ…!」
山本の使っていたツバメ、γの使っていた狐が脳裏に蘇る。
するとビアンキは説明し始めた。
「生物を模した匣が多いのは当然なの。匣のルーツを貴方は知らないわね……」
匣の元となったのは、4世紀前の生物学者、ジュペット・ロレンツィニが残した343編の設計書。
それらは、当時の技術では再現出来ないオーバーテクノロジーで描かれていたのだが……
3人の発明家により、秘密結社の倉庫に眠る紙キレから生まれ変わった。
「3人の発明家?」
「イノチェンティ、ケーニッヒ、ヴェルデ……同じ秘密結社の仲間よ。」
匣の動力源にマフィアのリングから放射される炎が最適だと突き止めた彼らは、僅か5年でプロトタイプを完成させた。
生物を模した343種はジュペットのオリジナル。
そして、保存用や道具・武器の匣は3人の開発したモノだという。
「つい最近まで彼らは、研究資金調達の為に今では考えられない安価で多くのマフィアに売っていたわ。」
しかし、3人のうち2人が変死して……
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「その後、生き残ったケーニッヒは地下に潜り、今も匣の研究を続け出来た物を闇の武器商人に流しているという……」
『(変死…!?)』
てゆーかヴェルデって……
どっかで聞いたと思ったんだけどなー…?
「これが俺の知る、最も有力と思われる匣の情報の全てだ。」
ラルの説明が終わって、草壁さんは驚きの表情を見せる。
でも恭弥は…
「間違ってはいない。が、どうして匣が出来たかという問いに対する、本質的な答えとは言えないな。」
『本質的…?』
「匣を現在に成り立たせた本当の立役者は、ジュペットでも優秀な科学者でもない…………偶然だ。」
「ぐーぜん?」
疑問符を浮かべるフゥ太君に、草壁さんが説明する。
世界的大発見や大発明には、発明家の身近に起きた偶然がひらめきを誘発することが多い。
もっとも偶然を必然とする受け手の準備と力がそれなりに望まれ、だとしてもそんなに簡単に起こる事じゃない。
なのに、
「匣開発においては、それが尋常でなく頻繁に起きている。」
「どういう事だ!?」
「我々はそれを調査しているのです。」
「知る程に謎は深まるばかりでね。」
そっか、それで“興味深い力”とか言ってたんだ…。
わざわざ財団で研究して…
と、ここで匣の話は終わって、恭弥はツナに話しかける。
「沢田綱吉、明日も楽しませてくれよ。」
更に、ぶつかり合ってるハリネズミを見て一言。
「覚えておくといい。大空の炎は全ての匣を開匣出来るが、他属性の匣の力を全て引き出す事は出来ない。」
「キイィィ!!」
「ツナ兄のハリネズミが取り込まれてる!!」
さっきまでぶつかり合ってたハズの2匹のハリネズミ。
だけど恭弥のがツナのを八方から針で追いつめていた。
そして…
バキッ、
破壊してしまった。
「悲観する事はないよ、大空専用の匣も存在するらしい。」
今日の闘いは終わり、と言うように、恭弥は背を向けてドアに向かっていく。
「哲、檸檬、」
「へい。」
『あ、待って!』
草壁さんと一緒に、恭弥を追いかける。
と、その時。
「あ。」
先にドアが開いて、外から誰か入って来る。
「こ…小僧見なかったっスか?」
「山本武……さーね。」
『あっ、武ーっ!』
「檸檬!」
何だか久しぶりのような気がして、手を振ってみた。
爽やかに振り返してくれた武は、あたしの後方を見てハッとする。
「小僧!!」
「待たせて悪かったな。」
「ツナも元気そーじゃねーか!いやー、良かった!!」
リボーンが武の肩に乗る。
「んじゃ、お前の修業再開すっぞ、山本。」
「ああ。」
その光景をボーッと見ていると、
「檸檬、早く。」
『あ、うん!』
恭弥がブスッとしながらあたしを急かした。
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「沢田、休んでる暇はないぜ。」
ラルは、未だうつ伏せで倒れているツナに歩み寄る。
「一刻も早くVer.V.Rも扱えるようにしなくてはまた雲雀に…………!」
ふと、ツナがその体勢のまま眠っている事に気がつく。
ふぅと溜め息をついて、ラルは続けた。
「…仕方無いヤツだ。あの試練の後だ……無理もないな。………とでも言うと思ったか!!」
「へ?」
豹変する口調に、ツナは寝ぼけ眼で驚く。
その胸ぐらはラルに掴まれていて。
「こんな事ではミルフィオーレに潜入し入江正一を消す事など出来んぞ!!目を覚ませ!!」
「ぶぶぶっ!」
物凄い往復ビンタを見て、フゥ太は弱冠青ざめる。
「ラルさん、凄いスパルタ……」
「ってか、ツナ鍛えるの降りたって言ってなかったか?」
山本が抱いた疑問に、リボーンはニッと口角を上げた。
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『恭弥、今日の夕飯は何がいい?』
歩いてアジトに戻る途中、あたしは恭弥に聞いてみた。
「随分とご機嫌みたいだね、檸檬。」
『うんっ、まーね♪』
やっと書類が見つかったんだもん。
やっとあたしも修業が出来るんだもん。
「何でもいいよ、檸檬が作るなら。」
『ホントー?うーん…どーしよっかなぁ……』
まず何の食材が残ってるかによるなぁ。
あとなるべく時間掛からない方が…
「ねぇ、檸檬。」
『ん?』
考えながら前を歩いていたあたしを、恭弥は呼び止める。
振り向くと、やっぱりそこには哀しい顔があって。
「僕、言ったよね。」
『え?』
「もう…無理させないから。」
ビクッと震えちゃったのは多分、
草壁さんから書類を受け取る事になってるから。
あたしの修業が始まるから。
『恭弥……』
何でそんなに哀しい顔するの?
どうして今それを確認したの?
なんて、今のあたしには聞く勇気がなくて。
「………何でもない、行くよ。」
『あ、うん…。』
ポン、と頭に手を乗せられて、そのまま並んで歩き出す。
後ろを歩く草壁さんの方を見てみたら、やっぱり哀しい顔をしていた。
ねぇ、何で?
恭弥だけじゃない。
草壁さんだけじゃない。
フゥ太君も、
---「最初のうちは、檸檬姉もリングが使えたんだよ、雲系のね。」
ラルも、
---「……頼む…それだけは………それだけはやめろ…」
そして…未来のあたしも、
---『{同じ過ちを、繰り返さないで……}』
みんなみんな、哀しい顔をする。
どうしてか分からない。
心のどっかで、分かりたくないって思ってる。
あたしはまだ、
化け物みたいな自分の力を怖がってる。
『(それでも…)』
それでも、修業するって決めた。
みんなを護る為に。
あたしの手を引く恭弥の手を、少し強く握り返した。
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同じ頃、
吹き荒れる嵐の中、獄寺は1人立っていた。
「くそ!前が見えねぇ…何だよこりゃ!!」
「10年後の貴方が特注で作った部屋、嵐(ストーム)ルームよ。」
モニター越しに話しかけるのは家庭教師であるビアンキ。
「俺が?」
「足場も視界も悪い砂漠の嵐を再現したの。そこには私のサソリも20匹いるわ。」
「なぁ!?」
先程1つとして倒せなかったサソリが20もいる事に、獄寺は驚く。
「貴方のノルマは、1分間に20匹のサソリを全滅させる事よ。」
「んだと!?あの硬ぇのを1匹あたり3秒で!?無茶言うな!!大体俺はなぁ!!」
「私の事は憎んでいてくれて結構よ。」
何かを言おうとする獄寺を、ビアンキは遮る。
家庭教師が自分である事に不満を持っているのだと、分かり切っているから。
そして、敢えて宣言する。
「当然よね、私は貴方とは違い、お父様と正妻との間に生まれた娘ですもの。」
「……てめぇ!!」
突然の“敵だと思え”発言に、反論しようとする獄寺だったが、
「始めましょう。」と耳を貸さないビアンキ。
「幸いにも、この時代の隼人はSISTEMA C.A.I.のほとんどを残していったわ。それに私が最近入手したモノも入れておいたの。」
言い終わると同時に、天井がガシャッと開いて何かが落ちて来る。
「受け取って。」
ドッ、と重そうな音がした所に駆け寄る獄寺。
ビアンキはそれを見つめながら言う。
「貴方なら未来の自分の考えていた事が分かるはずよ、考えなさい。」
「こっ…こいつは…!!」
明らかに自分がカスタマイズしたと分かるドクロの装飾がされた匣。
鞄から溢れ出るほど大量のソレが、獄寺の目の前に散らばっていた。
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夕飯前、恭弥が部屋にこもってる隙に草壁さんに書類を貰いに行った。
「いいですか檸檬さん、くれぐれも一度に全てこなそうとしないよう…」
『大丈夫です♪その辺はご安心下さい。』
笑顔を見せると、草壁さんはA4サイズの茶封筒を渡してくれた。
受け取ってみると、結構分厚いことが分かる。
『ありがとうございますっ♪』
「いえ。何かありましたら遠慮なくお聞き下さい。ただし…」
『恭弥にはバレないように、ですよね?』
「…はい。」
小さく頷く草壁さんにもう一度礼をする。
「それでは檸檬さん、健闘を祈ります。」
『はいっ♪』
大きく返事をして、自室に戻った。
『さーてと!』
10年後のあたしが使っていたこの部屋で、あたしはあたしの修業をする。
その為に…
『どれどれ…』
袋の中身を全部出してみる。
ノートが3冊と、ファイルが2冊。
パラパラ見てみると、ノートはぎっしり書かれていて、ファイルにはぎっしりプリントやメモが詰まっていた。
『すごいなぁ…』
とりあえず、No.1と書かれたノートの1ページ目を開く。
と、
“過去の檸檬へ”
『え!?』
書かれていた内容は、今ここにいるあたしへのメッセージ。
“これを見てるって事は、哲さんから受け取ったって事よね?
つまり、第六感が完成してない昔の檸檬が見ているって事…。
少し不安だけど、あたしにはもう出来ない事が貴女には出来るかも知れない。
だから、1つずつゆっくり習得して欲しい。
それだけが、あたしの願いです。”
よく分からないけど、今までの事を全てひっくるめて、コレだけは分かった。
あたしは、取り返しのつかないような事態を引き起こしたんだ。
それも、周りに迷惑が掛かるものじゃなくて、自分に全部降り掛かるような事……
『忠告ありがとう、未来の檸檬。』
きっと、貴女の望みを叶えられるように頑張るね。
同じ過ちってヤツを、繰り返さないように。
グッと意気込んで、ページをめくった。
“第一段階 波長のひずみを見つける
・護る為に強くなろうとする事が絶対条件
・1度目を閉じ精神統一出来たら目を開ける
・波長の世界が現れても平常心を保つ事”
大丈夫、だよね?
あたし…ちゃんと出来るよね?
何度も何度も確認して、あたしは目を閉じた。
護る為なら、きっと習得してみせる。
誰が何と言おうと、もう立ち止まらないよ。
『(第六感……発動!)』