未来編①
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「わっ…!」
「ふぅん。」
「あれは!!」
「超えたな…」
『新しい、武器……』
球針態から出て来たツナは、明らかに今までと違っていた。
その姿を見、それぞれが個々の反応を示す。
大空のリングが甲に宿されたグローブは、更なる輝きを放っていた。
Ver.V.R
「(これだ……これを待っていたんだ。)」
ラルは、指にリングを付けるように指示した理由を思い起こす。
それは、未来のツナが“あのグローブ”を使っていた事を聞いていたから。
「まさか、試練の末の形態だとはな……」
「俺も半分自信なかったけどな。」
ラルの呟きに反応するリボーン。
「飛躍的なパワーアップと言われて、この伝説の試練しか思いつかなかったのが正直なところだ。」
そして、その読みは正しかった。
もっとも、“ボンゴレを壊す”という答えで乗り越えたのは、歴代ボスでツナだけだろうが。
進化したグローブを見つめていたツナは、ギュッと握りしめる。
と、
ボウッ、
「ワオ。」
『綺麗……』
やっと目眩が収まり、起き上がる檸檬。
「大丈夫?檸檬姉…」
『うん、平気だよ。それにしても…本当に綺麗な色……』
「そうだね…。ほら、ランボも見て。」
「んん…?」
檸檬と、眠そうな声をあげるランボに向かって、フゥ太は説明する。
「混じり気が少なく純度が高い炎は、あーゆう澄んだ色になるんだ。」
大空はオレンジ、
晴はイエロー、
雨はブルー、
雷はグリーン、
嵐はレッド、
雲はバイオレット、
霧はインディゴ、に。
「そして純粋な炎ほど、属性の持つ特徴をより強く引き出すと言われる。」
『虹色なんだね。』
「うん。」
ツナの表情を見ると、その炎の感触に驚いているようだった。
と、そんなツナに恭弥が話しかける。
「少しだけ、僕の知ってる君に似て来たかな。赤ん坊と同じで、僕をワクワクさせる君に、ね。」
言いながら恭弥は匣を取り出す。
あたし、あの匣見た事ある…。
「ここから先は好きにしていいんだろ?赤ん坊。」
「あぁ……そういう約束だからな…。」
『えっ、ちょっとリボーン!?』
恭弥が好きにするって…
結構危ないんじゃ…
「雲雀はツナの家庭教師だぞ。」
『だっ、大丈夫なの!?』
「さぁな。」
『さぁな、って…』
無関心な答えに反論しようとしたけど、何だか脱力。
きっと、リボーンの考えてる事はこれからも分からないんだろうな。
「じゃあ、始めようか。」
ドシュッ、と匣から出て来たのは、やっぱりトンファーだった。
しかもγの時と同じ、紫色の炎を纏ってる。
同時に…
「ぐっ、」
「ひっ!」
『わっ…』
「なっ!」
それまで抑えられていたらしき、恭弥の物凄い殺気。
突然の放出にちょっと怯んだ。
「この闘いにルールはない。君が選べるのは僕に勝つか……死ぬかだけだ。」
「勝つさ。」
やっぱり…とんでもない修業だ…。
即答しちゃうツナも凄い。
そしたら恭弥はすんごく楽しそうに言った。
「来なよ。」
『(うわぁ…殺す気満々。)』
ツナはスッとグローブを構えて…
ドパッ、
「消えた!?」
『ううん…高速スタートダッシュ、ってトコかな。』
真直ぐに恭弥に向かっていく。
グローブの進化による推進力上昇は半端ない。
けど…
トッ、
タイミングを見計らい軽々とジャンプした恭弥は、ツナの頭に片手をついてそのままかわす。
そのまま壁に向かって突っ込んでいくツナ。
まぁ…スピードが凄いしすぐに止まれないとは思うけど。
「くっ…」
『(あれ…?)』
くるっと半回転して壁に着地する際、ツナの表情が少し苦しそうだった。
……何でだろう?
何にせよ、物凄い力で着地をされた壁は…
ボゴッ、
音を立てて崩れてゆく。
あたしが息を飲みながら見つめていると…
「檸檬さん、」
『え?あ、はい。』
「ちょっといいですか?」
横から草壁さんに呼ばれる。
あたしはフゥ太君とランボちゃんから離れて、草壁さんの話を聞く事にした。
『何か…?』
「檸檬さん、先程もしや、波長に飲まれてませんでしたか?」
急な質問に、あたしはビクッと震えた。
まさか、アレが“飲まれる”って事なの!?
あたしはただ、球針態の中を……
「彼が必死に呼びかけていた時の檸檬さんの様子は、どう見ても普通ではありませんでしたから。」
『えっ!?あたし…そんなに呼ばれてました!??』
あたしが逆に聞き返すと、草壁さんは目を見開いた。
そして、
「やはり……」
と、一言。
「強い力に、波長に引き寄せられる事は未来の檸檬さんにも度々あった現象です。ただ…そうなってしまっては、我々に出来る事は何もないのです。」
『そう、なんですか…。』
「目眩や吐き気に襲われませんでしたか?」
『あ、はい……少し。』
俯くあたしに、草壁さんは言う。
「お気をつけ下さい。目を逸らすだけでいいです、とにかく“強い力を持つ対象物”は、檸檬さんにとって危険物でしかない。」
『でもあたし、継承場面を見ていただけですよ?どうしてそんなに……』
「ある意味で、幽体離脱状態になるからです。」
『幽体、離脱…?』
と、その時。
ドゴォッ、
「え!?」
『ツナ?!』
どう考えても恭弥が叩きのめした音じゃなかった。
って事は……
自爆!??
「あ……うぅ………」
『つ、ツナ!!』
灰色がかった煙の中から聞こえる、ツナの痛そうな声。
床に生まれた大きなクレーターに向かって歩み寄りながら、恭弥は言う。
「何のマネだい?」
一方、ラルはツナの動きが悪くなったのが腑に落ちないという顔をしていた。
その横でリボーンが自分の見解を述べる。
「どうやらVer.V.Rってのは、随分ピーキーな特性らしいな。」
「ピーキー?」
「あぁ。」
恐らく普通のXグローブがツナの意志の強さに比例して出力を上げるのに対し、
Ver.V.Rではある地点から九にパワーが跳ね上がる特性を持っている……
だから扱いきれずにつんのめったりする、
というのがリボーンの説。
ラルも納得する。
「先代達がツナに授けた新兵器ってのは、とんだじゃじゃ馬ってワケだな。」
『(そこで笑顔になるのね…(汗)』
「何を嬉しそうに言っている!まだとても実践で使える代物ではない、という事だぞ。」
「あぁ、距離感もタイミングも掴めねーだろーしな。」
それでもきっと、ツナなら出来る。
何か、そのグローブを最大限に利用出来る方法を編み出せるって思うよ。
一段落(?)したところで、あたしは草壁さんに問う。
『それで…幽体離脱ってどういう事ですか??』
「あぁ、そうでしたね。先程の事を例にあげますと、精神のみ球針態の中に入った、という事です。」
『って事は、その間身体は…』
「その場に“在る”だけ、となります。」
そっか…
それじゃあ危険なハズだよね。
『分かりました、気をつけます。』
仕方無い、と笑みを見せれば、草壁さんはお辞儀をした。
「檸檬さん、誰もが貴女を心配しているんです……どうか、ご無理なさらず。」
『はいっ♪』
返事をしたはいいけど、
無理も何も、あたしはまだ書類が………
あれ?
『あの、草壁さん!』
「はい。」
『どうしてそんなに詳しいんですか?あたしの能力について…』
透視を使わなくったって分かった。
その瞬間の草壁さんの動揺。
『もしかしてっ……』
期待と不安が織り混ざって、声が震える。
『第六感に関する調査結果、持ってるんですか?』
---
------
-----------
「白蘭…?」
-「ん、何?」
「うわの空、でしたので。」
-「心配してくれたの?」
未だ繋がっているモニター通信越し。
僕が問いかけると、蜜柑は黙った。
心配、なんて人の心が無くちゃ出来ないもんね。
心を無くした蜜柑には、この質問はとてつもなく無意味……だね。
-「冗談。」
「そうですか。」
-「そーだ、進行度教えてよ、例のアレの。」
元々、それが気になって繋いだモニター通信。
蜜柑はコクリと頷いてパソコンを立ち上がらせる。
-「お。」
ディスプレイに映っているのは、1つの匣。
それを見て、白蘭は満足そうに笑う。
-「出来はいいみたいだね。」
「微調整が残ってますが。」
-「ふーん……楽しみだなぁ。蜜柑の新しい“マーちゃん”♪」
白蘭の言葉に、蜜柑は少しだけ首を傾げる。
-「だって1個目の“マーちゃん”も自分で作っちゃったじゃん。さすが、IQ200の天才だね。」
「……どうも。」
-「じゃ、そろそろ切ろうかな。電話代が心配?」
「私の負担でなければ、問題ありません。」
蜜柑がそう言うと、白蘭はクスッと笑う。
-「蜜柑の負担になるワケないじゃん。」
「ありがとうございます。」
-「んじゃーね♪完成したら電話して。」
「はい。」
会釈をする蜜柑に手を振りながら、白蘭はモニター通信を切った。
画面が黒くなったのを確認すると、蜜柑は再びパソコンでの作業をし始めた。
---
------
----------
「(このグローブ…思ったより気力の消耗が激しい…)」
前に立ちはだかる雲雀を見ながら、ツナは考える。
「(炎をコントロール出来ずに、どうにか出来る相手じゃない……)」
「ねぇ、君、僕が言ったこと覚えてる?」
「………勝つしかないんだろ?」
返事を聞き、雲雀はゆるりと口角を上げる。
一方檸檬は、問いかけに対する草壁の答えを待っていた。
『ご存知、ないですか?10年後のあたしが誰かに託した書類……』
すると草壁は溜め息を1つついて、
「もし私が“はい”と答えたら…檸檬さんはどうするおつもりですか?」
と。
『書類を元に、あたしはあたしのやり方で、第六感を使うつもりです。』
真直ぐな目を向ける檸檬。
草壁も真剣な眼差しを返す。
『あたしは…10年後のあたしがやっていたように戦いたい。リングが無くても、他の人と同じくらいの戦力を保持したいんです。』
すると草壁さんは、ツナと恭弥の方を見ながら言った。
「その修業が原因で、傷を負っても……ですか?」
『えっ…?』
同じようにツナ達の方を見るあたし。
次の瞬間、
「カウンターの餌食に!!!」
『ツナっ!!』
突っ込んで来たツナに思いっきりトンファーを叩き付ける恭弥。
ツナの悲痛な声が聞こえて、あたしは思わず叫ぶ。
空中に弧を描くその口許からは、
少量の血が飛び散って。
ドサッ、
「ツナ兄!」
『ツナ!』
ツナを心配するあたしに、草壁さんは言う。
「檸檬さんも…あのようにたくさん傷つくかもしれないんです。貴女が傷つけば……」
『分かってますっ……それでも、それでもあたしはっ…』
“みんなと一緒に戦いたい”
その気持ちは、いつまでも変わらないと胸を張って言える。
きっとあたしは、そんな感じで10年間生きて来た。
ずっと、変わらなかったんだと思う。
だから…
大嫌いな両親から授かった、
人間離れした化け物みたいな能力でも、
使ってみせようと…足掻いた。
『…それだけじゃ、ダメですか?』
「檸檬さん…」
『あたしが怪我してみんなに心配かける事は、重々承知です。けど…』
待っているだけはイヤ。
護られてるだけはイヤ。
打破する為には…
強くなるしかなくて。
『この状況に対応したいんです!あたしだって、みんなが傷つくのを黙って見てるのは嫌なんです!!』
グッと顔を上げて訴える檸檬を見て、草壁はつい最近の事のように思い出す。
未来の檸檬が、自分に書類を託した日の事を。
---
-----
-----------
『こんにちはっ♪』
「檸檬さん、お久しぶりです。恭さんなら…」
『いえ、今日は哲さんに用事があって。』
いつものように優しい笑みを見せる檸檬は、持っていた大きな茶封筒をキュッと握りしめた。
「私に、ですか?」
『はい、実は……コレを預かってて欲しいんです。』
握りしめていた茶封筒を、草壁に差し出す檸檬。
その手は、何処か震えていて。
「コレは一体…?」
『“DARQの力”に関する資料です。どうか恭弥には……』
頭を下げる檸檬に、慌てふためく草壁。
しかし、受け取っていいのか分からない。
すると檸檬は、その心情を察したのか、こう言った。
『あたしには、時間がないんです。』
「時間、ですか…?」
『あたしはこれから、最悪の選択をする事になる………』
その内容を聞かなかった事を、後に彼は後悔する。
が、その時はただ混乱しているだけだった。
『お願いです、哲さんに預かっていて欲しいんです。そして……もし“他のあたし”が見せるように頼んで来たら、その時は…』
「…お見せするんですか?」
草壁の言葉に、檸檬はゆっくり頷く。
『恭弥には、絶対絶対秘密にして下さいね。じゃないと…すぐ不機嫌になるから……』
「それは檸檬さんを心配して…!」
『分かってます、だから………』
その時の檸檬の哀しい笑みを、
彼は一生忘れまいと思った。
『だから、貴方に頼むんです…。』
---
-----
-----------
「君にはガッカリだな、弱い草食動物には興味ないよ。」
あ……
恭弥が不機嫌になった…。
「直接手を下す気にもならないよ、匣で………!」
『(ん?)』
恭弥の微妙に驚いたような顔に、あたしはパッとツナの方を見る。
「ハァ…ハァ……ハァ…」
荒い息を整える事もなく顔を上げるツナの手には、
恭弥の匣----
「あれって、雲雀さんの!」
「ヒットした際に!!」
リングに炎が灯され、匣にカチッと嵌められる。
そっか、大空の炎はどの属性の匣でも開けられるんだっけ。
「頼む………」
ツナの最後の望みと共に、それは開く。
ドシュッ、
「速い!!」
最強の推進力を持った炎で開けられたハリネズミの匣は、
真直ぐ恭弥に向かっていった。
「ふぅん。」
「あれは!!」
「超えたな…」
『新しい、武器……』
球針態から出て来たツナは、明らかに今までと違っていた。
その姿を見、それぞれが個々の反応を示す。
大空のリングが甲に宿されたグローブは、更なる輝きを放っていた。
Ver.V.R
「(これだ……これを待っていたんだ。)」
ラルは、指にリングを付けるように指示した理由を思い起こす。
それは、未来のツナが“あのグローブ”を使っていた事を聞いていたから。
「まさか、試練の末の形態だとはな……」
「俺も半分自信なかったけどな。」
ラルの呟きに反応するリボーン。
「飛躍的なパワーアップと言われて、この伝説の試練しか思いつかなかったのが正直なところだ。」
そして、その読みは正しかった。
もっとも、“ボンゴレを壊す”という答えで乗り越えたのは、歴代ボスでツナだけだろうが。
進化したグローブを見つめていたツナは、ギュッと握りしめる。
と、
ボウッ、
「ワオ。」
『綺麗……』
やっと目眩が収まり、起き上がる檸檬。
「大丈夫?檸檬姉…」
『うん、平気だよ。それにしても…本当に綺麗な色……』
「そうだね…。ほら、ランボも見て。」
「んん…?」
檸檬と、眠そうな声をあげるランボに向かって、フゥ太は説明する。
「混じり気が少なく純度が高い炎は、あーゆう澄んだ色になるんだ。」
大空はオレンジ、
晴はイエロー、
雨はブルー、
雷はグリーン、
嵐はレッド、
雲はバイオレット、
霧はインディゴ、に。
「そして純粋な炎ほど、属性の持つ特徴をより強く引き出すと言われる。」
『虹色なんだね。』
「うん。」
ツナの表情を見ると、その炎の感触に驚いているようだった。
と、そんなツナに恭弥が話しかける。
「少しだけ、僕の知ってる君に似て来たかな。赤ん坊と同じで、僕をワクワクさせる君に、ね。」
言いながら恭弥は匣を取り出す。
あたし、あの匣見た事ある…。
「ここから先は好きにしていいんだろ?赤ん坊。」
「あぁ……そういう約束だからな…。」
『えっ、ちょっとリボーン!?』
恭弥が好きにするって…
結構危ないんじゃ…
「雲雀はツナの家庭教師だぞ。」
『だっ、大丈夫なの!?』
「さぁな。」
『さぁな、って…』
無関心な答えに反論しようとしたけど、何だか脱力。
きっと、リボーンの考えてる事はこれからも分からないんだろうな。
「じゃあ、始めようか。」
ドシュッ、と匣から出て来たのは、やっぱりトンファーだった。
しかもγの時と同じ、紫色の炎を纏ってる。
同時に…
「ぐっ、」
「ひっ!」
『わっ…』
「なっ!」
それまで抑えられていたらしき、恭弥の物凄い殺気。
突然の放出にちょっと怯んだ。
「この闘いにルールはない。君が選べるのは僕に勝つか……死ぬかだけだ。」
「勝つさ。」
やっぱり…とんでもない修業だ…。
即答しちゃうツナも凄い。
そしたら恭弥はすんごく楽しそうに言った。
「来なよ。」
『(うわぁ…殺す気満々。)』
ツナはスッとグローブを構えて…
ドパッ、
「消えた!?」
『ううん…高速スタートダッシュ、ってトコかな。』
真直ぐに恭弥に向かっていく。
グローブの進化による推進力上昇は半端ない。
けど…
トッ、
タイミングを見計らい軽々とジャンプした恭弥は、ツナの頭に片手をついてそのままかわす。
そのまま壁に向かって突っ込んでいくツナ。
まぁ…スピードが凄いしすぐに止まれないとは思うけど。
「くっ…」
『(あれ…?)』
くるっと半回転して壁に着地する際、ツナの表情が少し苦しそうだった。
……何でだろう?
何にせよ、物凄い力で着地をされた壁は…
ボゴッ、
音を立てて崩れてゆく。
あたしが息を飲みながら見つめていると…
「檸檬さん、」
『え?あ、はい。』
「ちょっといいですか?」
横から草壁さんに呼ばれる。
あたしはフゥ太君とランボちゃんから離れて、草壁さんの話を聞く事にした。
『何か…?』
「檸檬さん、先程もしや、波長に飲まれてませんでしたか?」
急な質問に、あたしはビクッと震えた。
まさか、アレが“飲まれる”って事なの!?
あたしはただ、球針態の中を……
「彼が必死に呼びかけていた時の檸檬さんの様子は、どう見ても普通ではありませんでしたから。」
『えっ!?あたし…そんなに呼ばれてました!??』
あたしが逆に聞き返すと、草壁さんは目を見開いた。
そして、
「やはり……」
と、一言。
「強い力に、波長に引き寄せられる事は未来の檸檬さんにも度々あった現象です。ただ…そうなってしまっては、我々に出来る事は何もないのです。」
『そう、なんですか…。』
「目眩や吐き気に襲われませんでしたか?」
『あ、はい……少し。』
俯くあたしに、草壁さんは言う。
「お気をつけ下さい。目を逸らすだけでいいです、とにかく“強い力を持つ対象物”は、檸檬さんにとって危険物でしかない。」
『でもあたし、継承場面を見ていただけですよ?どうしてそんなに……』
「ある意味で、幽体離脱状態になるからです。」
『幽体、離脱…?』
と、その時。
ドゴォッ、
「え!?」
『ツナ?!』
どう考えても恭弥が叩きのめした音じゃなかった。
って事は……
自爆!??
「あ……うぅ………」
『つ、ツナ!!』
灰色がかった煙の中から聞こえる、ツナの痛そうな声。
床に生まれた大きなクレーターに向かって歩み寄りながら、恭弥は言う。
「何のマネだい?」
一方、ラルはツナの動きが悪くなったのが腑に落ちないという顔をしていた。
その横でリボーンが自分の見解を述べる。
「どうやらVer.V.Rってのは、随分ピーキーな特性らしいな。」
「ピーキー?」
「あぁ。」
恐らく普通のXグローブがツナの意志の強さに比例して出力を上げるのに対し、
Ver.V.Rではある地点から九にパワーが跳ね上がる特性を持っている……
だから扱いきれずにつんのめったりする、
というのがリボーンの説。
ラルも納得する。
「先代達がツナに授けた新兵器ってのは、とんだじゃじゃ馬ってワケだな。」
『(そこで笑顔になるのね…(汗)』
「何を嬉しそうに言っている!まだとても実践で使える代物ではない、という事だぞ。」
「あぁ、距離感もタイミングも掴めねーだろーしな。」
それでもきっと、ツナなら出来る。
何か、そのグローブを最大限に利用出来る方法を編み出せるって思うよ。
一段落(?)したところで、あたしは草壁さんに問う。
『それで…幽体離脱ってどういう事ですか??』
「あぁ、そうでしたね。先程の事を例にあげますと、精神のみ球針態の中に入った、という事です。」
『って事は、その間身体は…』
「その場に“在る”だけ、となります。」
そっか…
それじゃあ危険なハズだよね。
『分かりました、気をつけます。』
仕方無い、と笑みを見せれば、草壁さんはお辞儀をした。
「檸檬さん、誰もが貴女を心配しているんです……どうか、ご無理なさらず。」
『はいっ♪』
返事をしたはいいけど、
無理も何も、あたしはまだ書類が………
あれ?
『あの、草壁さん!』
「はい。」
『どうしてそんなに詳しいんですか?あたしの能力について…』
透視を使わなくったって分かった。
その瞬間の草壁さんの動揺。
『もしかしてっ……』
期待と不安が織り混ざって、声が震える。
『第六感に関する調査結果、持ってるんですか?』
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「白蘭…?」
-「ん、何?」
「うわの空、でしたので。」
-「心配してくれたの?」
未だ繋がっているモニター通信越し。
僕が問いかけると、蜜柑は黙った。
心配、なんて人の心が無くちゃ出来ないもんね。
心を無くした蜜柑には、この質問はとてつもなく無意味……だね。
-「冗談。」
「そうですか。」
-「そーだ、進行度教えてよ、例のアレの。」
元々、それが気になって繋いだモニター通信。
蜜柑はコクリと頷いてパソコンを立ち上がらせる。
-「お。」
ディスプレイに映っているのは、1つの匣。
それを見て、白蘭は満足そうに笑う。
-「出来はいいみたいだね。」
「微調整が残ってますが。」
-「ふーん……楽しみだなぁ。蜜柑の新しい“マーちゃん”♪」
白蘭の言葉に、蜜柑は少しだけ首を傾げる。
-「だって1個目の“マーちゃん”も自分で作っちゃったじゃん。さすが、IQ200の天才だね。」
「……どうも。」
-「じゃ、そろそろ切ろうかな。電話代が心配?」
「私の負担でなければ、問題ありません。」
蜜柑がそう言うと、白蘭はクスッと笑う。
-「蜜柑の負担になるワケないじゃん。」
「ありがとうございます。」
-「んじゃーね♪完成したら電話して。」
「はい。」
会釈をする蜜柑に手を振りながら、白蘭はモニター通信を切った。
画面が黒くなったのを確認すると、蜜柑は再びパソコンでの作業をし始めた。
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「(このグローブ…思ったより気力の消耗が激しい…)」
前に立ちはだかる雲雀を見ながら、ツナは考える。
「(炎をコントロール出来ずに、どうにか出来る相手じゃない……)」
「ねぇ、君、僕が言ったこと覚えてる?」
「………勝つしかないんだろ?」
返事を聞き、雲雀はゆるりと口角を上げる。
一方檸檬は、問いかけに対する草壁の答えを待っていた。
『ご存知、ないですか?10年後のあたしが誰かに託した書類……』
すると草壁は溜め息を1つついて、
「もし私が“はい”と答えたら…檸檬さんはどうするおつもりですか?」
と。
『書類を元に、あたしはあたしのやり方で、第六感を使うつもりです。』
真直ぐな目を向ける檸檬。
草壁も真剣な眼差しを返す。
『あたしは…10年後のあたしがやっていたように戦いたい。リングが無くても、他の人と同じくらいの戦力を保持したいんです。』
すると草壁さんは、ツナと恭弥の方を見ながら言った。
「その修業が原因で、傷を負っても……ですか?」
『えっ…?』
同じようにツナ達の方を見るあたし。
次の瞬間、
「カウンターの餌食に!!!」
『ツナっ!!』
突っ込んで来たツナに思いっきりトンファーを叩き付ける恭弥。
ツナの悲痛な声が聞こえて、あたしは思わず叫ぶ。
空中に弧を描くその口許からは、
少量の血が飛び散って。
ドサッ、
「ツナ兄!」
『ツナ!』
ツナを心配するあたしに、草壁さんは言う。
「檸檬さんも…あのようにたくさん傷つくかもしれないんです。貴女が傷つけば……」
『分かってますっ……それでも、それでもあたしはっ…』
“みんなと一緒に戦いたい”
その気持ちは、いつまでも変わらないと胸を張って言える。
きっとあたしは、そんな感じで10年間生きて来た。
ずっと、変わらなかったんだと思う。
だから…
大嫌いな両親から授かった、
人間離れした化け物みたいな能力でも、
使ってみせようと…足掻いた。
『…それだけじゃ、ダメですか?』
「檸檬さん…」
『あたしが怪我してみんなに心配かける事は、重々承知です。けど…』
待っているだけはイヤ。
護られてるだけはイヤ。
打破する為には…
強くなるしかなくて。
『この状況に対応したいんです!あたしだって、みんなが傷つくのを黙って見てるのは嫌なんです!!』
グッと顔を上げて訴える檸檬を見て、草壁はつい最近の事のように思い出す。
未来の檸檬が、自分に書類を託した日の事を。
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『こんにちはっ♪』
「檸檬さん、お久しぶりです。恭さんなら…」
『いえ、今日は哲さんに用事があって。』
いつものように優しい笑みを見せる檸檬は、持っていた大きな茶封筒をキュッと握りしめた。
「私に、ですか?」
『はい、実は……コレを預かってて欲しいんです。』
握りしめていた茶封筒を、草壁に差し出す檸檬。
その手は、何処か震えていて。
「コレは一体…?」
『“DARQの力”に関する資料です。どうか恭弥には……』
頭を下げる檸檬に、慌てふためく草壁。
しかし、受け取っていいのか分からない。
すると檸檬は、その心情を察したのか、こう言った。
『あたしには、時間がないんです。』
「時間、ですか…?」
『あたしはこれから、最悪の選択をする事になる………』
その内容を聞かなかった事を、後に彼は後悔する。
が、その時はただ混乱しているだけだった。
『お願いです、哲さんに預かっていて欲しいんです。そして……もし“他のあたし”が見せるように頼んで来たら、その時は…』
「…お見せするんですか?」
草壁の言葉に、檸檬はゆっくり頷く。
『恭弥には、絶対絶対秘密にして下さいね。じゃないと…すぐ不機嫌になるから……』
「それは檸檬さんを心配して…!」
『分かってます、だから………』
その時の檸檬の哀しい笑みを、
彼は一生忘れまいと思った。
『だから、貴方に頼むんです…。』
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「君にはガッカリだな、弱い草食動物には興味ないよ。」
あ……
恭弥が不機嫌になった…。
「直接手を下す気にもならないよ、匣で………!」
『(ん?)』
恭弥の微妙に驚いたような顔に、あたしはパッとツナの方を見る。
「ハァ…ハァ……ハァ…」
荒い息を整える事もなく顔を上げるツナの手には、
恭弥の匣----
「あれって、雲雀さんの!」
「ヒットした際に!!」
リングに炎が灯され、匣にカチッと嵌められる。
そっか、大空の炎はどの属性の匣でも開けられるんだっけ。
「頼む………」
ツナの最後の望みと共に、それは開く。
ドシュッ、
「速い!!」
最強の推進力を持った炎で開けられたハリネズミの匣は、
真直ぐ恭弥に向かっていった。