未来編①
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目を背けたい。
だけど背けちゃいけない。
対価となった業はいつも、
この手の中にあるから。
継承
「(ダメだ……ビクともしない…)」
強力な一撃を放ったはずなのに、俺の周りから闇が消える事は無く。
酸素の不足と体力の限界ばかりがひしひしと伝わって来る。
見れば、僅かに壁の装甲が溶かされた部分があって、
リング周辺…つまり純度の高い炎に弱い事が察せた。
けど、
「(一体…どうすれば……)」
どうすればより巨大かつ高純度の炎を出せる…?
---
-----
-----------
地下10階、
口笛を吹きながら修業の準備をする山本の隣で、リボーンがくるりと方向転換する。
「(そろそろか……死に追い込まれたツナの本当の覚悟が、リングに試されるのは…)」
と、立ち去ろうとするリボーンに気がついた山本が尋ねる。
「おい小僧、何処行くんだ?」
「ちょっとトイレだ。」
その足で、そのまま地下5階へと。
---
-----
----------
『ツナ…』
手を組んで必死に願い続ける檸檬。
手を出したいのは山々だが、
ツナの炎で壊れない球針態を、炎が使えない自分に壊せるワケがないと唇を噛み締める。
「檸檬姉、」
『どしたの?フゥ太君。』
「まだ、大丈夫?」
『え…?』
まだ…?
『それって一体どういう…』
「ううん、何でもない。」
うずくまったままのフゥ太君は、再び俯く。
さっぱり、分からない。
フゥ太君が何を心配してるのかも、
あたしにどんな危険があるのかも、
何も、分からない。
『ねぇ、フゥ太く…』
「檸檬姉、」
遮られて、あたしは思わず口を閉ざす。
フゥ太君は、本当に心配そうな目をして訴えた。
「何か来ると思ったら、すぐに言ってね。」
『何かって…何?』
「分からないけど…何か、強いモノ。」
『強い…モノ……?』
---
------
-----------
球針態の中、座り込んだツナは必死に考えていた。
「(こんな所で…死ぬワケには…)」
しかし、もう息が上がるほど限界に近づいて来ている。
「(どうすればいい…?まだ、覚悟が足りないのか……)」
その瞬間、額の炎が消えて元のツナに戻ってしまう。
どさっと倒れ込みながらも、更に考える。
「(これ以上…何が望みなんだ……何が………)」
『ツナ……?!』
「どうしたの、檸檬姉!」
『だって…リズムが弱くなって……!』
檸檬の言葉は途中で途切れた。
途端にフゥ太は少し青ざめる。
「檸檬姉っ!!?」
『待っ…て……』
目を見開いたまま固まった檸檬は、
ゆっくりと球針態の方に向き直り、凝視し始めた。
「檸檬姉!ダメだよ!そっち見ちゃダメだ!!」
『ど…して……?』
最早檸檬の焦点は合っていない。
そして、応答はするがフゥ太の方を向くことは無い。
「檸檬姉っ…!」
外の雨のせいで動きが鈍っているのにも関わらず、フゥ太は必死に檸檬を揺さぶる。
が、檸檬はその場から動こうとしなかった。
---
-----
----------
球針態の中で倒れ込んだツナ。
が突如その指にあるリングが光り輝き、ツナの額に向けて一本の筋を作る。
その光を不思議に思うツナの頭に、流れ込んで来る言葉。
《殺れ》
---「どうか命だけは助けてくれ!!俺が死んだら子供が…妻が………!!」
知らない人が、命乞いをする姿が見える。
しかし、次の瞬間。
---「ぐぁ!」
血飛沫が映る。
何だ……コレは!?
頭に直接流れ込んで来る……
《報復せよ》
---「ギャアア!!」
叫びと共に、燃え盛る館が見える。
《嵌ろ》
炎上する車。
《根絶やせ》
---「ぐあ!」
また、誰かが殺される。
何だよ…何なんだコレは!!
「ボンゴレの……業。」
突然後ろから聞こえて来る声。
気がつけば、俺は何人かの人に囲まれていた。
---
-----
----------
不思議…
強い力を感じる…
--「檸檬姉っ…!」
フゥ太君の声が、遠くの方から聞こえる…
『あれ…?』
気がつけばフゥ太君はいなくて、
それどころか、ラルも恭弥も草壁さんも見えなくて。
『あたし……』
ふと前を見て、目を見開く。
炎の仮面をつけた人達に囲まれたツナ。
ツナが見えるってことは…
ココ、球針態の中…??
「抹殺・復讐・裏切り・飽くなき権力の追求……マフィアボンゴレの血塗られた歴史だ。」
『(ボンゴレの、歴史…)』
「大空のボンゴレリングを持つ者よ、貴様に覚悟はあろうな。」
「………え!?」
あぁ…そうか……
大きな力を得る為の、
大きく重く、苦しい覚悟。
「この業を、引き継ぐ覚悟が。」
---
-----
----------
同刻、ミルフィオーレ日本支部。
カタカタとタイピングの音が響く、とある部屋。
無言でキーボードを打ち続けるその部屋の主・蜜柑は、ふと手を止めてテレビ電話の方を見る。
と、その時。
ビー、ビー、
テレビ電話のコール音。
「はい。」
-「あ、蜜柑!元気?」
「変わりありません。」
画面に映ったのは、ボスである白蘭で。
蜜柑はパソコンをスリープさせる。
-「どう?“その作業”は進んでる?」
「はい、順調です。」
-「良かったー、ちょっと気になってたからさ。」
にこりと笑う白蘭は、ふと思い出したように言う。
-「あのさ蜜柑、そろそろ正チャンに言わないとマズいと思う?」
「何をですか?」
-「蜜柑が…DARQの妹だってこと。」
一瞬だけ、蜜柑の表情が動く。
白蘭は続けた。
-「ダークが10年前と入れ替わったとするなら、もうすぐ接触するでしょ?そしたら流石に誤摩化しきれないと思って。」
「お言葉ですが、元々私は隠すつもりなど…」
-「だってさ、」
蜜柑の言葉を遮って、白蘭は言った。
-「嫌でしょ?“ダークの妹”って言われるの。」
「不快にはなりますが、お気遣い頂く必要はございません。それに……既に何人かには分かっている事です。」
-「あー…うん、そうだね。」
白蘭は思い出すように上を向く。
逆に蜜柑は目を伏せていた。
「いずれ……発覚する事です。姉さんとは…嫌になるほど瓜二つですから。」
握りしめられた蜜柑の拳を見て、白蘭は微笑する。
-「本当に…分かり易いね、蜜柑は。」
その言葉に蜜柑が首を傾げると、白蘭は静か首を振る。
-「何でも無いよ。」
「…そうですか。」
蜜柑は、本当に分かり易い。
特別憎しみを込めて檸檬ちゃんを呼ぶ時だけ、
“姉さん”って言ってるから。
血の繋がりがある実の姉妹なのにね、
なんて言ったら、多分僕も蜜柑に殺されるんだろうけど。
ちょっと哀しく思ったことは、
蜜柑には内緒。
---
------
------------
『うっ……』
思い出しただけで、苦しくなる。
周りを傷つけて自分を護ろうとしていた数年前のあたし。
あの頃があったから今の戦い方が身に付いた。
あの頃があったから今ここにいる事が出来る。
けど…
あの頃あたしはたくさん傷つけた。
あたしのせいで怪我をした人がたくさんいた。
あたしのせいで、あたしのせいで……
ただ、自分の身を護りたいが為戦っていたあたしのせいで。
「や…やめろ!」
ツナの目からこぼれる涙。
それは優しさ故。
ボンゴレのせいで誰かが傷つくのに、耐えられないという優しさ。
思いやり、
平和を望む心、
たくさんたくさん表現の仕方がある。
「やめろぉぉ!!!」
『ツナっ……』
どうしてか、遠くから見ている事しか出来ない。
駆け寄る事すら出来ない、否、許されていないのかも。
かつて同じような業を、自分から背負ったあたしには。
ツナ、それを背負うには貴方は優し過ぎる。
貴方は残酷じゃないから。
骸の襲撃の時も、
ヴァリアーとの争奪戦の時も、
相手が傷つく事さえ嫌がっていた。
--「これでは無駄死に以外の何物でもない!直ちに中止すべきだ!!」
--「君だろ?手にリングを付けて戦うよう彼に指示したのは。」
『(ラルと恭弥…?)』
不思議、全部聞こえる……
---「彼は極限状態の中、器を試されているんだ。最もこの若さでこの試練を受けた歴代ボンゴレはいないそうだが。」
それでも必要とされたのは、どうして?
「やめろ…!」
ツナは、あんなに苦しんでいるのに。
『スパルタ過ぎない…?リボーン……』
あたしの呟きは、球針態の闇に溶けて行く。
「やめろ!やめてくれ!!」
「目を逸らすな。これはボンゴレを継ぐ者の宿命…貴様が生を授かった事の意味そのものだ。」
「いやだ!!こんな酷い事は出来ない!!」
「代価を払わずして力を手に入れる事など叶わぬ。」
「偉大なる力が欲しければ、偉大なる歴史を継承する覚悟が必要なのだ。」
お願い…もうやめて。
ツナが、変わっちゃうのは嫌だよ。
あたしの手みたいに、血に染まる事なんてあっちゃいけない。
たくさんの業を背負ったら、ツナが潰れちゃうよ…。
『や…めて……』
「いやだ…皆を守る為なら何だって出来るって思ってた………でも……こんな…」
『(ツナ……?)』
起き上がる。
何を、言うつもり?
「こんな力なら、俺はいらない!!」
「何だと!?」
『え…?!』
いつもあったかくて優しいツナ。
皆の事を1番に考えるツナ。
だからこそ、業を背負わせるのは残酷なこと…
だと思う。
「こんな間違いを引き継がせるくらいなら……俺が…オレがボンゴレをぶっ壊してやる!!!」
『壊…す……?!』
いつもあったかくて優しいツナ。
皆の事を1番に考えるツナ。
だからこそ、なの?
「(何言っちゃってんだ、俺……)」
いらない、なんて。
ぶっ壊す、だなんて。
何て、ツナらしい答えなんだろう。
皆に害を成すものを、排除しようなんて“普通の考え”。
それを当たり前のように口にするツナは、やっぱり強いんだ。
その証拠にほら、仮面を外した歴代ボンゴレボス。
そして、現れる継承の場。
『(すごい……)』
ボンゴレII世
(セコーンド)
ボンゴレIII世
(テールツォ)
ボンゴレIV世
(クアールト)
ボンゴレV世
(クイーント)
ボンゴレVI世
(セースト)
ボンゴレVII世
(セッティモ)
ボンゴレVIII世
(オッターヴォ)
ボンゴレIX世
(ノーノ)
それぞれの武器に炎が灯る。
そして最後に…
『ツナと、同じ…!』
手の甲に“I”の文字が書かれた、グローブ。
ボンゴレI世
(プリーモ)
「貴様の覚悟、しかと受け取った。」
『(あれが…初代ボンゴレ……)』
目の前に現れた光景全てが、夢のようで。
「何これ…夢?幻覚…?」
“E'la nostra ora incisa sull'anello”
(リングに刻まれし我らの時間)
頭に響いて来る声は、とてもとても澄んでいて。
「栄えるも滅びるも好きにせよ、ボンゴレX世(デーチモ)。」
好きにせよ…って事は…!
「……お前を待っていた。ボンゴレの証を、ここに継承する。」
『う、わ…!』
歴代ボンゴレボスが、9つの炎に変わってツナを囲む。
そして、辺りには目映い光が……
---
-----
-----------
入り始めた、小さな亀裂。
それはいつしか球針態全てに行き渡り、
内側から溢れる光を外界へと解き放っていく。
同時に…
「檸檬姉っ、檸檬姉っ!!」
『………はぁっ…はぁっ…』
「大丈夫!?檸檬姉っ!」
ボーッと立っていた檸檬の体は、急にその場に倒れ込んで。
「檸檬姉っ!」
『平気……ちょっと目眩するだけ…』
片手で頭を押さえながらも、檸檬は目の前の球針態を見つめる。
「何だ!?何が起きている!?」
声を上げるラル。
「恭さん、これは!?」
「球針態が………壊れる。」
眩し過ぎる光に目を細める草壁。
表情には出さないものの、変化を感じ取る雲雀。
『ツナ……』
「ツナ兄…?」
入り口付近で、檸檬とフゥ太も息を飲み、
リボーンも無言でそれを凝視する。
ドガッ、
バラバラと崩れた球針態。
煙が立ちこめる中には、
見慣れた額の炎と、
初めて見る丸い形の光。
『あれが…!』
ボンゴレの業を背負う覚悟をしたツナに、
守る為に、ボンゴレを滅ぼす覚悟をしたツナに、
歴代のボスが与えてくれた武器………
“X グローブ Ver.V.R”
(バージョン・ボンゴレ・リング)
だけど背けちゃいけない。
対価となった業はいつも、
この手の中にあるから。
継承
「(ダメだ……ビクともしない…)」
強力な一撃を放ったはずなのに、俺の周りから闇が消える事は無く。
酸素の不足と体力の限界ばかりがひしひしと伝わって来る。
見れば、僅かに壁の装甲が溶かされた部分があって、
リング周辺…つまり純度の高い炎に弱い事が察せた。
けど、
「(一体…どうすれば……)」
どうすればより巨大かつ高純度の炎を出せる…?
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地下10階、
口笛を吹きながら修業の準備をする山本の隣で、リボーンがくるりと方向転換する。
「(そろそろか……死に追い込まれたツナの本当の覚悟が、リングに試されるのは…)」
と、立ち去ろうとするリボーンに気がついた山本が尋ねる。
「おい小僧、何処行くんだ?」
「ちょっとトイレだ。」
その足で、そのまま地下5階へと。
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『ツナ…』
手を組んで必死に願い続ける檸檬。
手を出したいのは山々だが、
ツナの炎で壊れない球針態を、炎が使えない自分に壊せるワケがないと唇を噛み締める。
「檸檬姉、」
『どしたの?フゥ太君。』
「まだ、大丈夫?」
『え…?』
まだ…?
『それって一体どういう…』
「ううん、何でもない。」
うずくまったままのフゥ太君は、再び俯く。
さっぱり、分からない。
フゥ太君が何を心配してるのかも、
あたしにどんな危険があるのかも、
何も、分からない。
『ねぇ、フゥ太く…』
「檸檬姉、」
遮られて、あたしは思わず口を閉ざす。
フゥ太君は、本当に心配そうな目をして訴えた。
「何か来ると思ったら、すぐに言ってね。」
『何かって…何?』
「分からないけど…何か、強いモノ。」
『強い…モノ……?』
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球針態の中、座り込んだツナは必死に考えていた。
「(こんな所で…死ぬワケには…)」
しかし、もう息が上がるほど限界に近づいて来ている。
「(どうすればいい…?まだ、覚悟が足りないのか……)」
その瞬間、額の炎が消えて元のツナに戻ってしまう。
どさっと倒れ込みながらも、更に考える。
「(これ以上…何が望みなんだ……何が………)」
『ツナ……?!』
「どうしたの、檸檬姉!」
『だって…リズムが弱くなって……!』
檸檬の言葉は途中で途切れた。
途端にフゥ太は少し青ざめる。
「檸檬姉っ!!?」
『待っ…て……』
目を見開いたまま固まった檸檬は、
ゆっくりと球針態の方に向き直り、凝視し始めた。
「檸檬姉!ダメだよ!そっち見ちゃダメだ!!」
『ど…して……?』
最早檸檬の焦点は合っていない。
そして、応答はするがフゥ太の方を向くことは無い。
「檸檬姉っ…!」
外の雨のせいで動きが鈍っているのにも関わらず、フゥ太は必死に檸檬を揺さぶる。
が、檸檬はその場から動こうとしなかった。
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球針態の中で倒れ込んだツナ。
が突如その指にあるリングが光り輝き、ツナの額に向けて一本の筋を作る。
その光を不思議に思うツナの頭に、流れ込んで来る言葉。
《殺れ》
---「どうか命だけは助けてくれ!!俺が死んだら子供が…妻が………!!」
知らない人が、命乞いをする姿が見える。
しかし、次の瞬間。
---「ぐぁ!」
血飛沫が映る。
何だ……コレは!?
頭に直接流れ込んで来る……
《報復せよ》
---「ギャアア!!」
叫びと共に、燃え盛る館が見える。
《嵌ろ》
炎上する車。
《根絶やせ》
---「ぐあ!」
また、誰かが殺される。
何だよ…何なんだコレは!!
「ボンゴレの……業。」
突然後ろから聞こえて来る声。
気がつけば、俺は何人かの人に囲まれていた。
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不思議…
強い力を感じる…
--「檸檬姉っ…!」
フゥ太君の声が、遠くの方から聞こえる…
『あれ…?』
気がつけばフゥ太君はいなくて、
それどころか、ラルも恭弥も草壁さんも見えなくて。
『あたし……』
ふと前を見て、目を見開く。
炎の仮面をつけた人達に囲まれたツナ。
ツナが見えるってことは…
ココ、球針態の中…??
「抹殺・復讐・裏切り・飽くなき権力の追求……マフィアボンゴレの血塗られた歴史だ。」
『(ボンゴレの、歴史…)』
「大空のボンゴレリングを持つ者よ、貴様に覚悟はあろうな。」
「………え!?」
あぁ…そうか……
大きな力を得る為の、
大きく重く、苦しい覚悟。
「この業を、引き継ぐ覚悟が。」
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同刻、ミルフィオーレ日本支部。
カタカタとタイピングの音が響く、とある部屋。
無言でキーボードを打ち続けるその部屋の主・蜜柑は、ふと手を止めてテレビ電話の方を見る。
と、その時。
ビー、ビー、
テレビ電話のコール音。
「はい。」
-「あ、蜜柑!元気?」
「変わりありません。」
画面に映ったのは、ボスである白蘭で。
蜜柑はパソコンをスリープさせる。
-「どう?“その作業”は進んでる?」
「はい、順調です。」
-「良かったー、ちょっと気になってたからさ。」
にこりと笑う白蘭は、ふと思い出したように言う。
-「あのさ蜜柑、そろそろ正チャンに言わないとマズいと思う?」
「何をですか?」
-「蜜柑が…DARQの妹だってこと。」
一瞬だけ、蜜柑の表情が動く。
白蘭は続けた。
-「ダークが10年前と入れ替わったとするなら、もうすぐ接触するでしょ?そしたら流石に誤摩化しきれないと思って。」
「お言葉ですが、元々私は隠すつもりなど…」
-「だってさ、」
蜜柑の言葉を遮って、白蘭は言った。
-「嫌でしょ?“ダークの妹”って言われるの。」
「不快にはなりますが、お気遣い頂く必要はございません。それに……既に何人かには分かっている事です。」
-「あー…うん、そうだね。」
白蘭は思い出すように上を向く。
逆に蜜柑は目を伏せていた。
「いずれ……発覚する事です。姉さんとは…嫌になるほど瓜二つですから。」
握りしめられた蜜柑の拳を見て、白蘭は微笑する。
-「本当に…分かり易いね、蜜柑は。」
その言葉に蜜柑が首を傾げると、白蘭は静か首を振る。
-「何でも無いよ。」
「…そうですか。」
蜜柑は、本当に分かり易い。
特別憎しみを込めて檸檬ちゃんを呼ぶ時だけ、
“姉さん”って言ってるから。
血の繋がりがある実の姉妹なのにね、
なんて言ったら、多分僕も蜜柑に殺されるんだろうけど。
ちょっと哀しく思ったことは、
蜜柑には内緒。
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『うっ……』
思い出しただけで、苦しくなる。
周りを傷つけて自分を護ろうとしていた数年前のあたし。
あの頃があったから今の戦い方が身に付いた。
あの頃があったから今ここにいる事が出来る。
けど…
あの頃あたしはたくさん傷つけた。
あたしのせいで怪我をした人がたくさんいた。
あたしのせいで、あたしのせいで……
ただ、自分の身を護りたいが為戦っていたあたしのせいで。
「や…やめろ!」
ツナの目からこぼれる涙。
それは優しさ故。
ボンゴレのせいで誰かが傷つくのに、耐えられないという優しさ。
思いやり、
平和を望む心、
たくさんたくさん表現の仕方がある。
「やめろぉぉ!!!」
『ツナっ……』
どうしてか、遠くから見ている事しか出来ない。
駆け寄る事すら出来ない、否、許されていないのかも。
かつて同じような業を、自分から背負ったあたしには。
ツナ、それを背負うには貴方は優し過ぎる。
貴方は残酷じゃないから。
骸の襲撃の時も、
ヴァリアーとの争奪戦の時も、
相手が傷つく事さえ嫌がっていた。
--「これでは無駄死に以外の何物でもない!直ちに中止すべきだ!!」
--「君だろ?手にリングを付けて戦うよう彼に指示したのは。」
『(ラルと恭弥…?)』
不思議、全部聞こえる……
---「彼は極限状態の中、器を試されているんだ。最もこの若さでこの試練を受けた歴代ボンゴレはいないそうだが。」
それでも必要とされたのは、どうして?
「やめろ…!」
ツナは、あんなに苦しんでいるのに。
『スパルタ過ぎない…?リボーン……』
あたしの呟きは、球針態の闇に溶けて行く。
「やめろ!やめてくれ!!」
「目を逸らすな。これはボンゴレを継ぐ者の宿命…貴様が生を授かった事の意味そのものだ。」
「いやだ!!こんな酷い事は出来ない!!」
「代価を払わずして力を手に入れる事など叶わぬ。」
「偉大なる力が欲しければ、偉大なる歴史を継承する覚悟が必要なのだ。」
お願い…もうやめて。
ツナが、変わっちゃうのは嫌だよ。
あたしの手みたいに、血に染まる事なんてあっちゃいけない。
たくさんの業を背負ったら、ツナが潰れちゃうよ…。
『や…めて……』
「いやだ…皆を守る為なら何だって出来るって思ってた………でも……こんな…」
『(ツナ……?)』
起き上がる。
何を、言うつもり?
「こんな力なら、俺はいらない!!」
「何だと!?」
『え…?!』
いつもあったかくて優しいツナ。
皆の事を1番に考えるツナ。
だからこそ、業を背負わせるのは残酷なこと…
だと思う。
「こんな間違いを引き継がせるくらいなら……俺が…オレがボンゴレをぶっ壊してやる!!!」
『壊…す……?!』
いつもあったかくて優しいツナ。
皆の事を1番に考えるツナ。
だからこそ、なの?
「(何言っちゃってんだ、俺……)」
いらない、なんて。
ぶっ壊す、だなんて。
何て、ツナらしい答えなんだろう。
皆に害を成すものを、排除しようなんて“普通の考え”。
それを当たり前のように口にするツナは、やっぱり強いんだ。
その証拠にほら、仮面を外した歴代ボンゴレボス。
そして、現れる継承の場。
『(すごい……)』
ボンゴレII世
(セコーンド)
ボンゴレIII世
(テールツォ)
ボンゴレIV世
(クアールト)
ボンゴレV世
(クイーント)
ボンゴレVI世
(セースト)
ボンゴレVII世
(セッティモ)
ボンゴレVIII世
(オッターヴォ)
ボンゴレIX世
(ノーノ)
それぞれの武器に炎が灯る。
そして最後に…
『ツナと、同じ…!』
手の甲に“I”の文字が書かれた、グローブ。
ボンゴレI世
(プリーモ)
「貴様の覚悟、しかと受け取った。」
『(あれが…初代ボンゴレ……)』
目の前に現れた光景全てが、夢のようで。
「何これ…夢?幻覚…?」
“E'la nostra ora incisa sull'anello”
(リングに刻まれし我らの時間)
頭に響いて来る声は、とてもとても澄んでいて。
「栄えるも滅びるも好きにせよ、ボンゴレX世(デーチモ)。」
好きにせよ…って事は…!
「……お前を待っていた。ボンゴレの証を、ここに継承する。」
『う、わ…!』
歴代ボンゴレボスが、9つの炎に変わってツナを囲む。
そして、辺りには目映い光が……
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入り始めた、小さな亀裂。
それはいつしか球針態全てに行き渡り、
内側から溢れる光を外界へと解き放っていく。
同時に…
「檸檬姉っ、檸檬姉っ!!」
『………はぁっ…はぁっ…』
「大丈夫!?檸檬姉っ!」
ボーッと立っていた檸檬の体は、急にその場に倒れ込んで。
「檸檬姉っ!」
『平気……ちょっと目眩するだけ…』
片手で頭を押さえながらも、檸檬は目の前の球針態を見つめる。
「何だ!?何が起きている!?」
声を上げるラル。
「恭さん、これは!?」
「球針態が………壊れる。」
眩し過ぎる光に目を細める草壁。
表情には出さないものの、変化を感じ取る雲雀。
『ツナ……』
「ツナ兄…?」
入り口付近で、檸檬とフゥ太も息を飲み、
リボーンも無言でそれを凝視する。
ドガッ、
バラバラと崩れた球針態。
煙が立ちこめる中には、
見慣れた額の炎と、
初めて見る丸い形の光。
『あれが…!』
ボンゴレの業を背負う覚悟をしたツナに、
守る為に、ボンゴレを滅ぼす覚悟をしたツナに、
歴代のボスが与えてくれた武器………
“X グローブ Ver.V.R”
(バージョン・ボンゴレ・リング)