未来編①
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夜の並盛。
「ぐあっ!」
闇に響くのは、一般人の悲鳴。
「……た…助けて…下さい……」
そんな声は無視して、黒い服を着た連中・ブラックスペルは彼の身分証明書を見る。
「山中武…?」
「ボンゴレの雨の守護者ってのは…」
「山本武だよ。こいつが間違えやがった。」
野猿が言った。
謝る部下の隣で、太猿は山中を見つめながら尋ねる。
「この哀れな山中はどーする?」
「情をかけてやれ。」
聞くだけでは、優しそうなその言葉。
しかし…
「情ってのは愛情じゃねーよな。」
「あぁ………非情の方な。」
大将であるγがそう言うと、太猿は何の躊躇いもなく黒鎌を振り下ろした。
辺りに血の飛沫が飛び散り、それきりその場は静まり返った…。
波動・リング・匣
「何で…?!何で俺だけ炎が出ないの?」
ボンゴレの地下アジト、トレーニングルーム。
ツナは未だに炎を出せずにいた。
「沢田…本当に覚悟はあるんだろうな…」
「あ、あります!!」
ラルに聞かれてよりいっそう念じてみるツナだけど、やっぱり炎は出ない。
少し心配になって来るけど、あたしには何も出来ない。
「やっぱりダメだ…」
「ツナ…」
「10代目…」
「やっぱり俺、口先だけのダメツナなんだ……」
『そ、そんな事っ…!』
「本当の覚悟なんて分かってないんだ。」
「甘ったれた事を…」
自己嫌悪に陥るツナに、ラルが拳を振り上げたその時。
「言うな!!」
「ぎゃ!!」
ツナの頭を、リボーンが先に蹴り飛ばした。
『ツナ……』
「下がってろ、檸檬。」
歩み寄ろうとするあたしを抑制して、リボーンはツナの胸ぐらを掴む。
「カッコつけんなツナ。お前はヒーローになんてなれねー男なんだぞ。」
「え?」
皆を過去に帰す、
敵を倒す為に修業に耐える、
そんな理屈はツナには似合わないし、ツナらしくない。
「あの時の気持ちはもっとシンプルだたはずだぞ。」
「あの時…?」
「初めてリングに炎を灯した時、何をしたかったんだ?」
リボーンに言われて、ツナは真剣に答えた。
「ただ…京子ちゃんを守りたかった。」
その答えに満足したように口角を上げると、再びリボーンは問う。
「今は守りたい奴、いねーのか?」
「え…そりゃあ決まってるよ。」
そう…
あたしと同じだね。
この危険な状況の中を、切り抜けたい。
大切な人を…
「皆を…守りたいんだ。」
その瞬間、
リングが目映い光を放って…
ボウッ、
『あ!』
「出たよ!!リボーン!」
「あたりめーだ。」
綺麗なオレンジ色の炎が、ボンゴレリングに灯った。
ふとラルの方を見ると、驚きを隠しきれてない様子が分かった。
「(沢田の覚悟も、対するリボーンの理解も大したものだが…)」
『ラールっ♪』
「な、何だ。」
『何に吃驚してるの?』
「…フン、知るか。」
誰だって驚くもん。
たくさんの試練を乗り越えてきた、リボーンとツナの信頼関係には。
「では、いよいよこの匣を開匣してもらう。」
「任せとけ。俺で終わらせてやるぜ。」
既に匣を開けた経験がある隼人は、自信満々。
カチッとはめてみるけど…
「不良品だな、経験で分かる。」
「え?」
何にも出てこなかった。
すると今度は、武が名乗りを上げる。
「俺にもやらせてくれよ。」
だけど…
「何も起きねぇ…」
『壊れてるの?』
「いや、違う。」
あたしの疑問にラルが答えた。
「匣を開けられない場合、考えられる要因は2つある。」
炎が弱いか、
属性が違うか、
だそうだ。
「リングが発する炎は7種類、ボンゴレリングと同じく…大空・嵐・晴・雲・霧・雷・雨に分類される。」
更に匣も同じく7属性に分かれていて、リングと属性が合わなければ開匣出来ないそうだ。
「何か鍵みてーだな。」
「おい、ちょっと待てよ。10年後の山本はそんな事言ってなかったぜ。奴は波動がどうこうって…」
「人の体を流れる波動とは、リングが炎を出す為に必要なエネルギーだ。」
波動ってのも、同じように7属性に分類され、それは生まれながらに決まっているらしい。
でも、一つのリングに反応して炎を引き出すのは一つの波動だそうだ。
分からなくなっちゃったツナと武に、ラルは言う。
「波動とリングと匣、この3つが合致しなくては、匣は開匣されない。」
『そうなんだ…3つも揃えるのって大変だね。』
あたしが言うと、ラルはこっちを向いた。
「檸檬の場合は…炎と匣の属性のみ合っていれば開く。」
『え?』
「でも、檸檬はリング使えないって…」
「リングは使えなくとも、匣は開匣出来ていた。」
『ど、どうして!?』
そんな事が出来たら、どんなにいいだろう。
少し期待してみるものの、
「波長が読めるからだ。」
『なっ…!』
結局はそこに行き着く。
しかも、
「ごく稀にしか開匣する事はなかった。かなりの労力を使うらしいしな。」
『そう、なんだ…』
しゅんとするあたしに、ツナが言った。
「大丈夫だよ、檸檬。」
『ツナ…』
「檸檬だけに戦わせない為にも、俺達が今修業するんだから、さ。」
「そーだぜ、あんまり焦んなよ。なっ!」
「たまには大人しくしてろってんだ。」
『武…隼人………』
気遣ってくれる。
支えてくれる。
それだけで、十分嬉しいよ。
『ありがとう。』
今のあたしに出来る事は、怪我が治った時の為に学んでおく事くらい。
だから、それを怠らないようにしよう。
「とりあえず…その匣は嵐でも雨でもないって事?」
「俺の霧属性のリングでも開かなかった。次は沢田の番だ。」
「え!?」
ラルの発言に、当てずっぽうかと突っかかる隼人。
大空属性でもないかもという不安を訴えるツナ。
しかし、ラルは言った。
「その心配はない。7種の属性の中で大空は唯一、全ての匣を開匣出来る。」
『えっ…!?』
「それが大空の長所だ。故に、その波動を有する者はごく僅かしかいない。」
全部使えるから特別で、
特別だからちょっとしかいなくて、
ツナは、その波動に選ばれた。
「やっぱり10代目は特別なんスよ!!」
「やるな、ツナ♪」
『すごい!すごいよ!!』
「さぁ、やってみろ。」
匣を渡され、ツナは覚悟を決めてリングを差し込んだ。
開かれた匣。
その中に入っていたのは…
「え!?」
『それって…』
「おっ、おしゃぶりだ!!」
「武器じゃ…ねーのか?」
驚く3人とは反対に、ラルは何処か哀しそうに表情を歪ませて。
ツナからおしゃぶりを取り上げた。
「今日はここまでだ。飯にしろ。」
『ラル…?』
「…どーなってんだ?」
リボーンでも、ラルの行動や表情の意味は分からず。
「あの戦闘痕…戦いの末、強引に摘出されたな。」
『アルコバレーノのおしゃぶり、だったよね…?』
「う、うん…。」
ツナとあたしも首をかしげる。
しかし、今はまだ触れない方がいいと悟った。
「とにかく飯にするぞ。腹減ったな。」
『そだね♪』
またまた武の背中を借りて、上の階に戻った。
---
------
夕飯はみんなでカレーを食べた。
こうしてると、本当に楽しくて落ち着く。
10年前の並盛にいた時みたいに、あったかい。
「鬼教官、結局来なかったな。」
「ああ。」
『あたし、ちょっと見てきていいかな?』
「檸檬、足大丈夫なの?」
『平気♪』
杖をつきながら、ラルの部屋に向かう。
どうしても、知りたかった。
未来のあたしの戦い方を。
ちゃんと護れていたのかを。
コンコン、
「誰だ?」
『あ、あたし!檸檬!入っていい?』
「あぁ。」
ラルは、京子とハルが作った夕食をちゃんと食べていた。
「どうした?檸檬。」
『あのね…あたしがどうやって匣を開けていたか、知りたいの。』
あたしがそう言うと、ラルは目線を落とした。
「そんな事、知らなくていい。ごく稀にやっていただけの事だ。」
『それでも知りたい!』
「知ったところでどうする!!檸檬の能力に関する書類はまだ手中にないんだ!」
『でも…』
「どんな数式でも、解法が分からず答えだけ知っていても仕方がない……それと同じだ。」
そんな事、分かってる。
あたしはまだ波長を読む事が出来ない。
読む為の条件だって、よく分からない。
それでも、知りたいと思った。
『じゃあ…一つだけ教えて?』
「……何だ。」
『あたしの波動は……何の属性なの?』
嫌でも分かる。
ラルの表情が暗くなった。
『やっぱり雲…なのかな?だってあたし、リング争奪戦で雲の守護者になったもん。』
「分からない…」
『じゃあさ、色んなリングつけて試してみればいいんだよね!』
「やめろ!!!!」
ラルが突然怒鳴って、あたしは硬直した。
困惑するあたしの顔を見て、ラルはギュッと抱きつく。
『ラル…?』
その体は、ほんの少し震えていた。
そして聞こえてきた、か細い声。
「……頼む…それだけは………それだけはやめろ…」
『な、何で…?』
「頼むっ…!」
横目で見ても、ラルの表情は伺えない。
よく分からないけど、ラルがこんなに震えてるのは嫌だった。
『わ、分かった…』
そう返事をすると、ラルは腕を解き、話した。
「10年後の檸檬は、リングを付けるのを頑に拒んでいた。そもそも付ける必要などないから、それで良かったんだろう。」
『そっか……』
それでも、少し哀しくなる。
やっぱり足手纏いなんだなぁ、あたし。
「心配するな。何の波動を持っているか分からなくとも、檸檬は7種の炎が使える。」
『えっ…!?』
一瞬、飲み込めなかった。
信じられなかった。
『どういう…事??』
「と言っても、それは特殊すぎる程特殊な使い方だ。」
ラルの声色が、
眼差しが、
真剣なものになる。
.「…書類が手中に入った時にすぐ修業出来るよう、教えといてやる。」
『ほ、ホントに!?』
「ただし、今は無茶をするな。」
『うんっ!!』
未来のあたしが最終目標。
自分が目標って、もの凄い事だと思うけど。
「波長が読めれば、あらゆる事が可能だ。10年後の檸檬は……相手の炎を奪っていた。」
『相手の炎を……奪う!!?』
「たくさんの敵と戦えば、属性の違う者が現れるのは必然だ。そこに目をつけた檸檬は、炎を奪う戦法を選んだ。」
『じゃぁ…奪った炎で匣を開けてたって事!?』
「ああ。だが俺は門外顧問所属だ。常に檸檬と任務をこなしていたワケではない。直接見たのは…1、2回だな。」
だから、ラルが知っているのはここまでらしい。
それでもあたしには凄くいい収穫だった。
『(波長を読む……炎を奪う……)』
二つだけ分かればそれで十分。
それが出来れば、戦力になれるんだ。
『ありがと、ラル。おやすみ♪』
チュッ、
「だから…それはやめろと言ってるだろ!!!」
『わっ!ごめん!!』
拳を振り上げるラルに頭を下げる。
すると、ラルは何だか哀しそうな笑みを見せた。
『…ラル?』
「本当に…檸檬は変わらないな…。」
『え?』
「お前がいて良かった……もう行け。」
『あ、うん。』
部屋を出た後、ラルの部屋からは何も聞こえてこなかった。
---
-----
その夜、
京子とハル、イーピンの部屋。
既に眠りについたハル。
その上のベッドで京子は膝を抱えて座っていた。
眠れずに、思い出すのはこれまでの出来事。
10年前の世界で、了平に相談した時の事。
---「何?沢田達が見当たらん?心配するな、どいつもくたばりそいにない奴ばかりだ。」
それから、探している最中に飛んできた、何かの弾。
そして…
---「えぇー!!?何で10年前の京子ちゃんが!!」
この世界に着いた時の、ツナの驚いた顔。
---「なぁに、怖がる事はない。一瞬であの世だ。」
黒い服を着た敵の恐ろしい姿。
---「大丈夫……君は、守ってみせる。」
怖くて何も出来なかった自分の前に立つ、いつもと違った雰囲気のツナ。
---「この時代の了平は行方不明なんだ。」
リボーンからの、酷な宣告。
全てが、不安になって襲いかかっていた。
---
------
------------
翌朝。
「えーと、トイレ何処だっけ……?」
アジトの中を歩き回るツナ。
ふと、一つの部屋から明かりが漏れているのを見つける。
そこに顔をのぞかせると…
「おはよーございます、10代目。」
「ちゃおっス。」
『おはよ、ツナ♪』
「ジャンニーニさん、リボーンと檸檬も。」
3人は、モニターで外の状況を見ていた。
「朝一番のグッドニュースだぞ。」
「え!?何?」
『グッドってワケじゃ…』
「外にミルフィオーレのブラックスペルがうじゃうじゃいる。」
『外に出たら戦闘は免れない感じなの。』
「何処がいいニュースだよ!!」
と、その時。
ヴーッ、ヴーッ、
「何これ!?」
突如ヴィジョンに映る、“S7S”の文字。
「救難信号をキャッチ!!味方からのSOSです!!」
「味方って…!?」
「ボンゴレ内で取り決めた秘密信号なんです。」
ジャンニーニはパソコンをカタカタ操作する。
ツナと檸檬はそれをジッと見つめる。
「信号の発信源を捕捉しました!モニターに映しますよ!!」
パッと映った、それは…
『あ、あれって…!!』
「雲雀さんの!!」
一番会いたい人の、手がかり。
『恭弥……』
---
------
------------
同刻、ミルフィオーレ日本支部。
とても広いとは言えない部屋に、ライトはいた。
「ん…?」
ふと何かに気がつき、パソコンを操作する。
と、そこに映ったのは地上の様子。
「γが…動いた。」
身勝手な奴等ね、と呟いて席を立つ。
ベルトに銃を取り付け、
懐には何個かの匣、
そして、
右手中指にリングをはめて。
立てられていた写真立てを、再び伏せる。
動き始めたライト。
コツコツ、という彼女のヒールの音が、
廊下に響いたのであった。
「ぐあっ!」
闇に響くのは、一般人の悲鳴。
「……た…助けて…下さい……」
そんな声は無視して、黒い服を着た連中・ブラックスペルは彼の身分証明書を見る。
「山中武…?」
「ボンゴレの雨の守護者ってのは…」
「山本武だよ。こいつが間違えやがった。」
野猿が言った。
謝る部下の隣で、太猿は山中を見つめながら尋ねる。
「この哀れな山中はどーする?」
「情をかけてやれ。」
聞くだけでは、優しそうなその言葉。
しかし…
「情ってのは愛情じゃねーよな。」
「あぁ………非情の方な。」
大将であるγがそう言うと、太猿は何の躊躇いもなく黒鎌を振り下ろした。
辺りに血の飛沫が飛び散り、それきりその場は静まり返った…。
波動・リング・匣
「何で…?!何で俺だけ炎が出ないの?」
ボンゴレの地下アジト、トレーニングルーム。
ツナは未だに炎を出せずにいた。
「沢田…本当に覚悟はあるんだろうな…」
「あ、あります!!」
ラルに聞かれてよりいっそう念じてみるツナだけど、やっぱり炎は出ない。
少し心配になって来るけど、あたしには何も出来ない。
「やっぱりダメだ…」
「ツナ…」
「10代目…」
「やっぱり俺、口先だけのダメツナなんだ……」
『そ、そんな事っ…!』
「本当の覚悟なんて分かってないんだ。」
「甘ったれた事を…」
自己嫌悪に陥るツナに、ラルが拳を振り上げたその時。
「言うな!!」
「ぎゃ!!」
ツナの頭を、リボーンが先に蹴り飛ばした。
『ツナ……』
「下がってろ、檸檬。」
歩み寄ろうとするあたしを抑制して、リボーンはツナの胸ぐらを掴む。
「カッコつけんなツナ。お前はヒーローになんてなれねー男なんだぞ。」
「え?」
皆を過去に帰す、
敵を倒す為に修業に耐える、
そんな理屈はツナには似合わないし、ツナらしくない。
「あの時の気持ちはもっとシンプルだたはずだぞ。」
「あの時…?」
「初めてリングに炎を灯した時、何をしたかったんだ?」
リボーンに言われて、ツナは真剣に答えた。
「ただ…京子ちゃんを守りたかった。」
その答えに満足したように口角を上げると、再びリボーンは問う。
「今は守りたい奴、いねーのか?」
「え…そりゃあ決まってるよ。」
そう…
あたしと同じだね。
この危険な状況の中を、切り抜けたい。
大切な人を…
「皆を…守りたいんだ。」
その瞬間、
リングが目映い光を放って…
ボウッ、
『あ!』
「出たよ!!リボーン!」
「あたりめーだ。」
綺麗なオレンジ色の炎が、ボンゴレリングに灯った。
ふとラルの方を見ると、驚きを隠しきれてない様子が分かった。
「(沢田の覚悟も、対するリボーンの理解も大したものだが…)」
『ラールっ♪』
「な、何だ。」
『何に吃驚してるの?』
「…フン、知るか。」
誰だって驚くもん。
たくさんの試練を乗り越えてきた、リボーンとツナの信頼関係には。
「では、いよいよこの匣を開匣してもらう。」
「任せとけ。俺で終わらせてやるぜ。」
既に匣を開けた経験がある隼人は、自信満々。
カチッとはめてみるけど…
「不良品だな、経験で分かる。」
「え?」
何にも出てこなかった。
すると今度は、武が名乗りを上げる。
「俺にもやらせてくれよ。」
だけど…
「何も起きねぇ…」
『壊れてるの?』
「いや、違う。」
あたしの疑問にラルが答えた。
「匣を開けられない場合、考えられる要因は2つある。」
炎が弱いか、
属性が違うか、
だそうだ。
「リングが発する炎は7種類、ボンゴレリングと同じく…大空・嵐・晴・雲・霧・雷・雨に分類される。」
更に匣も同じく7属性に分かれていて、リングと属性が合わなければ開匣出来ないそうだ。
「何か鍵みてーだな。」
「おい、ちょっと待てよ。10年後の山本はそんな事言ってなかったぜ。奴は波動がどうこうって…」
「人の体を流れる波動とは、リングが炎を出す為に必要なエネルギーだ。」
波動ってのも、同じように7属性に分類され、それは生まれながらに決まっているらしい。
でも、一つのリングに反応して炎を引き出すのは一つの波動だそうだ。
分からなくなっちゃったツナと武に、ラルは言う。
「波動とリングと匣、この3つが合致しなくては、匣は開匣されない。」
『そうなんだ…3つも揃えるのって大変だね。』
あたしが言うと、ラルはこっちを向いた。
「檸檬の場合は…炎と匣の属性のみ合っていれば開く。」
『え?』
「でも、檸檬はリング使えないって…」
「リングは使えなくとも、匣は開匣出来ていた。」
『ど、どうして!?』
そんな事が出来たら、どんなにいいだろう。
少し期待してみるものの、
「波長が読めるからだ。」
『なっ…!』
結局はそこに行き着く。
しかも、
「ごく稀にしか開匣する事はなかった。かなりの労力を使うらしいしな。」
『そう、なんだ…』
しゅんとするあたしに、ツナが言った。
「大丈夫だよ、檸檬。」
『ツナ…』
「檸檬だけに戦わせない為にも、俺達が今修業するんだから、さ。」
「そーだぜ、あんまり焦んなよ。なっ!」
「たまには大人しくしてろってんだ。」
『武…隼人………』
気遣ってくれる。
支えてくれる。
それだけで、十分嬉しいよ。
『ありがとう。』
今のあたしに出来る事は、怪我が治った時の為に学んでおく事くらい。
だから、それを怠らないようにしよう。
「とりあえず…その匣は嵐でも雨でもないって事?」
「俺の霧属性のリングでも開かなかった。次は沢田の番だ。」
「え!?」
ラルの発言に、当てずっぽうかと突っかかる隼人。
大空属性でもないかもという不安を訴えるツナ。
しかし、ラルは言った。
「その心配はない。7種の属性の中で大空は唯一、全ての匣を開匣出来る。」
『えっ…!?』
「それが大空の長所だ。故に、その波動を有する者はごく僅かしかいない。」
全部使えるから特別で、
特別だからちょっとしかいなくて、
ツナは、その波動に選ばれた。
「やっぱり10代目は特別なんスよ!!」
「やるな、ツナ♪」
『すごい!すごいよ!!』
「さぁ、やってみろ。」
匣を渡され、ツナは覚悟を決めてリングを差し込んだ。
開かれた匣。
その中に入っていたのは…
「え!?」
『それって…』
「おっ、おしゃぶりだ!!」
「武器じゃ…ねーのか?」
驚く3人とは反対に、ラルは何処か哀しそうに表情を歪ませて。
ツナからおしゃぶりを取り上げた。
「今日はここまでだ。飯にしろ。」
『ラル…?』
「…どーなってんだ?」
リボーンでも、ラルの行動や表情の意味は分からず。
「あの戦闘痕…戦いの末、強引に摘出されたな。」
『アルコバレーノのおしゃぶり、だったよね…?』
「う、うん…。」
ツナとあたしも首をかしげる。
しかし、今はまだ触れない方がいいと悟った。
「とにかく飯にするぞ。腹減ったな。」
『そだね♪』
またまた武の背中を借りて、上の階に戻った。
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夕飯はみんなでカレーを食べた。
こうしてると、本当に楽しくて落ち着く。
10年前の並盛にいた時みたいに、あったかい。
「鬼教官、結局来なかったな。」
「ああ。」
『あたし、ちょっと見てきていいかな?』
「檸檬、足大丈夫なの?」
『平気♪』
杖をつきながら、ラルの部屋に向かう。
どうしても、知りたかった。
未来のあたしの戦い方を。
ちゃんと護れていたのかを。
コンコン、
「誰だ?」
『あ、あたし!檸檬!入っていい?』
「あぁ。」
ラルは、京子とハルが作った夕食をちゃんと食べていた。
「どうした?檸檬。」
『あのね…あたしがどうやって匣を開けていたか、知りたいの。』
あたしがそう言うと、ラルは目線を落とした。
「そんな事、知らなくていい。ごく稀にやっていただけの事だ。」
『それでも知りたい!』
「知ったところでどうする!!檸檬の能力に関する書類はまだ手中にないんだ!」
『でも…』
「どんな数式でも、解法が分からず答えだけ知っていても仕方がない……それと同じだ。」
そんな事、分かってる。
あたしはまだ波長を読む事が出来ない。
読む為の条件だって、よく分からない。
それでも、知りたいと思った。
『じゃあ…一つだけ教えて?』
「……何だ。」
『あたしの波動は……何の属性なの?』
嫌でも分かる。
ラルの表情が暗くなった。
『やっぱり雲…なのかな?だってあたし、リング争奪戦で雲の守護者になったもん。』
「分からない…」
『じゃあさ、色んなリングつけて試してみればいいんだよね!』
「やめろ!!!!」
ラルが突然怒鳴って、あたしは硬直した。
困惑するあたしの顔を見て、ラルはギュッと抱きつく。
『ラル…?』
その体は、ほんの少し震えていた。
そして聞こえてきた、か細い声。
「……頼む…それだけは………それだけはやめろ…」
『な、何で…?』
「頼むっ…!」
横目で見ても、ラルの表情は伺えない。
よく分からないけど、ラルがこんなに震えてるのは嫌だった。
『わ、分かった…』
そう返事をすると、ラルは腕を解き、話した。
「10年後の檸檬は、リングを付けるのを頑に拒んでいた。そもそも付ける必要などないから、それで良かったんだろう。」
『そっか……』
それでも、少し哀しくなる。
やっぱり足手纏いなんだなぁ、あたし。
「心配するな。何の波動を持っているか分からなくとも、檸檬は7種の炎が使える。」
『えっ…!?』
一瞬、飲み込めなかった。
信じられなかった。
『どういう…事??』
「と言っても、それは特殊すぎる程特殊な使い方だ。」
ラルの声色が、
眼差しが、
真剣なものになる。
.「…書類が手中に入った時にすぐ修業出来るよう、教えといてやる。」
『ほ、ホントに!?』
「ただし、今は無茶をするな。」
『うんっ!!』
未来のあたしが最終目標。
自分が目標って、もの凄い事だと思うけど。
「波長が読めれば、あらゆる事が可能だ。10年後の檸檬は……相手の炎を奪っていた。」
『相手の炎を……奪う!!?』
「たくさんの敵と戦えば、属性の違う者が現れるのは必然だ。そこに目をつけた檸檬は、炎を奪う戦法を選んだ。」
『じゃぁ…奪った炎で匣を開けてたって事!?』
「ああ。だが俺は門外顧問所属だ。常に檸檬と任務をこなしていたワケではない。直接見たのは…1、2回だな。」
だから、ラルが知っているのはここまでらしい。
それでもあたしには凄くいい収穫だった。
『(波長を読む……炎を奪う……)』
二つだけ分かればそれで十分。
それが出来れば、戦力になれるんだ。
『ありがと、ラル。おやすみ♪』
チュッ、
「だから…それはやめろと言ってるだろ!!!」
『わっ!ごめん!!』
拳を振り上げるラルに頭を下げる。
すると、ラルは何だか哀しそうな笑みを見せた。
『…ラル?』
「本当に…檸檬は変わらないな…。」
『え?』
「お前がいて良かった……もう行け。」
『あ、うん。』
部屋を出た後、ラルの部屋からは何も聞こえてこなかった。
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その夜、
京子とハル、イーピンの部屋。
既に眠りについたハル。
その上のベッドで京子は膝を抱えて座っていた。
眠れずに、思い出すのはこれまでの出来事。
10年前の世界で、了平に相談した時の事。
---「何?沢田達が見当たらん?心配するな、どいつもくたばりそいにない奴ばかりだ。」
それから、探している最中に飛んできた、何かの弾。
そして…
---「えぇー!!?何で10年前の京子ちゃんが!!」
この世界に着いた時の、ツナの驚いた顔。
---「なぁに、怖がる事はない。一瞬であの世だ。」
黒い服を着た敵の恐ろしい姿。
---「大丈夫……君は、守ってみせる。」
怖くて何も出来なかった自分の前に立つ、いつもと違った雰囲気のツナ。
---「この時代の了平は行方不明なんだ。」
リボーンからの、酷な宣告。
全てが、不安になって襲いかかっていた。
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翌朝。
「えーと、トイレ何処だっけ……?」
アジトの中を歩き回るツナ。
ふと、一つの部屋から明かりが漏れているのを見つける。
そこに顔をのぞかせると…
「おはよーございます、10代目。」
「ちゃおっス。」
『おはよ、ツナ♪』
「ジャンニーニさん、リボーンと檸檬も。」
3人は、モニターで外の状況を見ていた。
「朝一番のグッドニュースだぞ。」
「え!?何?」
『グッドってワケじゃ…』
「外にミルフィオーレのブラックスペルがうじゃうじゃいる。」
『外に出たら戦闘は免れない感じなの。』
「何処がいいニュースだよ!!」
と、その時。
ヴーッ、ヴーッ、
「何これ!?」
突如ヴィジョンに映る、“S7S”の文字。
「救難信号をキャッチ!!味方からのSOSです!!」
「味方って…!?」
「ボンゴレ内で取り決めた秘密信号なんです。」
ジャンニーニはパソコンをカタカタ操作する。
ツナと檸檬はそれをジッと見つめる。
「信号の発信源を捕捉しました!モニターに映しますよ!!」
パッと映った、それは…
『あ、あれって…!!』
「雲雀さんの!!」
一番会いたい人の、手がかり。
『恭弥……』
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同刻、ミルフィオーレ日本支部。
とても広いとは言えない部屋に、ライトはいた。
「ん…?」
ふと何かに気がつき、パソコンを操作する。
と、そこに映ったのは地上の様子。
「γが…動いた。」
身勝手な奴等ね、と呟いて席を立つ。
ベルトに銃を取り付け、
懐には何個かの匣、
そして、
右手中指にリングをはめて。
立てられていた写真立てを、再び伏せる。
動き始めたライト。
コツコツ、という彼女のヒールの音が、
廊下に響いたのであった。