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その者、
狂ったように踊り、
相手を挑発し、翻弄する。
CRAZY DANCER
あたしのファイトネーム。
“CRAZY DANCER”
ある日、皆任務に出掛けてて、あたしはモスカと神経衰弱をしていた。
『あ~っ!!モスカってば超強いじゃん!!』
キュンキュン…
思えば、モスカは機械だから、記憶力っていうかインプットしちゃうんだよね。
でもさ、そんなモスカに勝ったらすごくない!?
そう思って、何度もチャレンジしてみるけど、やっぱりダメ。
人間の脳には限界がある。
『また負けた!5組も差があるしーっ。』
机に突っ伏す檸檬。するとモスカは、ポンポンと頭を叩く。
『慰めなんて、いらないもん。』
目だけモスカに向ける。すると今度は、急に立ち上がって何処かに行ってしまった。
あたしは慌てて立ち上がる。
何たってモスカ以外いないから、いなくなられると1人になってしまう。
そしたら、動けなくなるかも知れない。
『待ってよ~!』
モスカは歩くのは遅いから、小走りすればすぐに追い付く。
その足は、給湯室に向かっているようだった。
お湯を沸かし始めるモスカ。あたしはその動きを後ろからジッと見ていた。
すると…
「あら?こんな所で何してるの?」
「他はまだ帰ってないみたいだな。」
『ルッスーリア!レヴィ!』
2人が任務から帰って来た。
『お帰りなさいっ♪』
「ただいま、檸檬vV」
「た、ただいま……///」
レヴィの脳内では確実に若い奥さん的な妄想が広がっていた。
檸檬の後ろにピンク色の背景が見えてしまったから、もう末期である。(笑)
『モスカが急にここに来てさぁ、何するのかなぁって思って。』
檸檬が2人と話していると、モスカが急に振り向いた。
その手にはアイスココアが3つ。
「んまぁ。」
『用意してくれてたの!!?』
「気が利くな。」
キュンキュン…
モスカが少し嬉しそうだった。
4人で大広間に戻る。
『今ね、モスカと神経衰弱やってたんだけど…』
「あら、モスカ、神経衰弱めちゃめちゃ強いのに。」
「誰も勝てないぞ。」
「でも、ベルちゃんは勝ってたわよねん。」
『えーっ!ベル、勝ったの!!?あたしなんか、7戦7敗なのに。』
「そ、そんなにやったのか…。」
檸檬の真剣さに、ちょっと引き気味のレヴィ。
逆にルッスーリアは、何かを真剣に考えていた。
『ルッスーリア?』
「ねぇ檸檬、全然関係ない事なんだけど…」
『何?』
「檸檬って、あの戦い方、何処で覚えたの?」
少しだけ沈黙が流れる。
「言われてみれば…」
レヴィも考え込む。
檸檬はただ、俯いていた。
「話して、くれないかしら?」
『…どうしても?』
潤んだ目に上目遣いでルッスーリアとレヴィを見つめる檸檬。
それを見て少し動揺するも、やはり気になるモノは気になる。
「私達、もっと檸檬の事知りたいの。」
ルッスーリアの言葉に、
嬉しくなって体が震えた。
でも、
同時に罪悪感も感じた。
自分の事を隠して、仲間は語れないよね。
そうだよね、うん。
『分かった、話すよ。』
檸檬はぐっと顔を上げた。ルッスーリアとレヴィは何だかホッとする。
『あたしは日本人だけど、アメリカ生まれでアメリカ育ちなの。』
いつもそこから話し始める。
ディーノに話した時も、
バジルに話した時も、
あたしの全てはそこから始まったから、
必ずそこから話さなくちゃいけない。
3才の頃からいた世界、
ストリートファイトの世界
強い者が生き残り、
弱い者は全てを奪われる
---「今日から此所が檸檬の家だ。」
---『ここ?』
灰色の、薄汚れた部屋。
ラクガキで埋め尽くされた壁。
同居人は、汚い大男達。
---「ガキが近寄るんじゃねぇ!」
---『痛いっ!』
---「おい、やめろよ。こういう子供に暴力はいけねぇ。」
---「あぁ?」
---「お嬢さん、おいで。」
近寄ってはいけない。
だけど、
あの頃のあたしは、
人を疑うには幼過ぎた。
---『ううっ……ぐすっ……』
---「ほら、泣くなよ。」
---『う、うん……。』
---「ほら、俺がいいモノをあげよう。」
---『え?』
次の瞬間やって来たのは、
物凄い熱さと痛み。
---『うわぁぁぁぁあああ!!!』
---「へっへっへ…」
1人の男が持っていたタバコを、あたしの腕に押し付ける。
---『いやぁぁぁぁああああ!!!』
---「ほらほら、外の喧嘩はもっと痛いんだぞぉ?」
---「ははっ!やるなぁ、お前。」
---「もっとやっとけ。」
涙が枯れるまで泣いた。
声が出なくなるまで叫んだ。
火傷なんてモノじゃなかった。
でも、
どんなに酷い怪我を負っても、治してくれる人はいない。
周りの大人は、信じられない。
あたしは、すっかり心を閉ざした。
そうするしか、なかった。
.その男達は、毎日喧嘩場へと出向いていった。
負けそうになれば、平気であたしを盾にして。
痛いのはあたし。
いつだってあたし。
でもあたしには、彼らから逃れる術がない。
彼らの盾として、生きて行くんだろうか。
これからもずっと、
彼らの負い目をあたしが背負うのだろうか。
それでもいいかもしれない。
あたしが盾として働く間は、彼らはあたしを生かそうとしてくれる。
使い回しが出来るように。
---『If God were here, I could get freedom.』
(もし神様がいれば、自由を手にできるのに)
---「神なんざこの世にいるワケねぇ。」
---「もしいたとしたら、俺達は今頃大金持ちだ。神様が、導いてくれるはずだからなぁ!!」
---「くだらねぇ妄想抱いてねーで、お前は俺達を護ってればいーんだよ!」
違うよ。
神様がいても、
絶対貴方達を導いたりしない。
あたしは聖書も何も読んでないけど、
それだけは分かるよ。
神様が救ってくれるのは、
いつも困ってる人。
人の事を大事にする人。
だったらあたしにも、救いは来ないね。
あたしの大事なモノは、
他ならぬ、あたし自身だから。
---『(盾は…嫌だよ……。)』
毎晩月に祈ってるけど、届くはずないって分かってるよ。
月は太陽からの光で輝くんだって。
それ自体は、
自分で光る事も出来ないんだって。
そんなある日、お父さんが帰って来た。
---「檸檬、どうだ?」
---『お父さん……あたし、ここに居たくない。』
言葉を放った瞬間、殴られる。
---「そんな泣き言を言うんじゃない。」
---『だって……だって……!!ねぇお父さん、どうしてこんな所に置いてくの?』
立ち去ろうとしたお父さんは、首だけこちらに向ける。
---「檸檬、痛いのは嫌か?」
---『嫌だ。』
あたしの心は、死んでなかった。
嫌だっていう感情が、ちゃんと残っててくれた。
---「ならば強くなれ。誰にも負けないくらい、強く。」
---『つ…よく……?』
それっきり、お父さんは会いに来なかった。
でも、その最初で最後の教訓を胸に、あたしは立ち上がった。
もう、負けない。
痛いのは嫌だ。
あたしは、自分の力で生き抜いてみせる。
就寝時間になったら、適当に寝たフリをして、そうっと抜け出す。
その辺の広場で体力作りを開始した。
抵抗力を付けなくちゃ。
防御力を付けなくちゃ。
じゃないと、反撃は出来ないから。
毎晩毎晩、あたしの特訓は続いた。
あたしが一番大事なモノ、
それは、
あたしの命
それを護る為なら、どんな事でもする。
例え、ルームメイトを裏切る結果になったとしても、元々仲間じゃないし。
あいつらはあたしを利用してただけだし。
その時はただ純粋に、
“生き延びたい”
って思った。
数週間後、いつものように彼らの代わりに殴られる。
でも、もう違うんだ。
---『う…ぐっ……!』
立ち上がって。
前に進むのよ、檸檬。
そうすれば、ここから抜けだせるよ。
当てはないけど、
ここより酷い場所なんてない。
---「この女、まだ立てたのか。」
8才になったあたし。
もう、怖くないんだよ。
---「殺れ。」
---「OK、リーダー。」
迫って来る1人の男。
こいつは、敵。
あたしの命を狙う者。
護らなきゃ
---「おりゃぁあああ!!」
ヒュンッ、
---「な!?」
---「嘘だろ!!?」
成功した。
あたしは、
高く飛んでいた。
まるで、
本当に自由を手に入れた気分だった。
鍛えておいた跳躍力、動体視力、反射神経。
その全てがあたしの味方。
嬉しかった。
とてもとても、嬉しかったんだ。
---「うわぁぁあああ!!」
あたしに襲い掛かる男が倒れていく。
恐怖を叫びに変えて。
そうか…
この男達は……
いつもあたしが叫んでるのを、
こんな気持ちで聞いてたんだ……。
でも、
あたしが感じている気持ちの方が、
より素晴らしい快感だと思うよ?
---『あたしを見下していた罰よ。』
---「ひっ!ひいいいい!!!」
走って逃げて行く男達。
ルームメイトも呆然。
あたしが1人で、8人くらいを倒しちゃったから。
---「お、お嬢さん。」
---「俺達は、仲間だよな?」
---「お嬢さんと今までずっと一緒に暮らして来たんだからさぁ。」
---『仲間…??』
笑わせんじゃないよ。
さんざん盾にしてきたクセに。
---『今更でしょ?』
---「「「ひいいいっ!!」」」
一言返しただけなのに、ルームメイト達も逃げて行った。
あたしの口角は思わず上がる。
あたしを蔑んでた人が、
あたしにひれ伏した瞬間。
あたしが自由になった瞬間だった。
---
-------
--------------
『つまりね、痛いのが嫌で修行したの。自分1人でね。その結果、基礎体力が身に付いたってワケ。』
「そうだったの……。」
「大変だったな。」
ルッスーリアとレヴィは、あたしの頭をなでなでしてくれた。
『それで、ストリートファイトの選手として戦ってたら、気付いたの。人は、自分のリズムに乗って攻撃してるって。』
「それで、そのリズムを読んで攻撃を避ける事が出来たのね。」
『そうっ!』
その姿はまるで、
風に舞う、花びらのよう。
相手の動きは読めるクセに、相手には動きを読ませてくれない。
一度スイッチが入れば、
踊りはもう止まらない。
狂ったように、踊り続けて。
誰にもついて来させない。
---「勝者!“CRAZY DANCER”!!」
---『Thank you everybody!』
相手のリズムを読むのは、所詮第1段階。
“CRAZY DANCER”の本当の踊りが始まれば、
相手のリズムはかき消される。
檸檬自身のリズムが、
アップテンポの速いリズムが、
相手に叩き込まれるのだ。
『相手の事はお構い無しで踊り続ける、だからあたしは“CRAZY DANCER”って呼ばれるの。』
「ほほぅ…」
「なるほどねぇん…」
『ごめんね、暗い話しちゃって。』
「いいのよ。こっちこそ、無理に聞いちゃって悪かったわ。」
『ううん、いつか話さなくちゃいけない事だから。』
「そうか……」
アイスココアを、一口含んだ。
=========
モスカの中に録音機があった事を、檸檬は知らない。
同じ事をメンバー全員に話さなくても済むように、というルッスーリアのささやかな配慮。
「ただいまー♪」
「帰ったぞぉ!!」
『あ!ベルとアロちゃんだ!!』
檸檬は玄関へと走って行く。
その後ろ姿を、ルッスーリアとレヴィは優しく微笑んで見つめていた。
「何?そこの2人、キモいんだけど。」
「酷いわっ!ベルちゃん!!」
「侮辱は許さんぞ!」
「ま、いーや。檸檬、お土産買って来たよ。」
『ホント!?わーいっ!ベル大好きーっ♪』
「うしし♪俺もvV」
ベルの腕の中で笑う檸檬を見て、ルッスーリアが呟いた。
「檸檬は……強いのねぇ。」
「そうだな…。」
「さてと!ボスにコレ、届けに行かなくちゃ。」
ルッスーリアはモスカの中から録音機を取り出す。
「同行する。」
レヴィも席を立った。
その夜、ザンザスも檸檬の過去を知る事になる。
“CRAZY DANCER”
大っ嫌いな通り名だけど、おかげであたしは此所にいる。
神様は、
一度どん底を味わったあたしを、
ちゃんと助けてくれたんだ。
狂ったように踊り、
相手を挑発し、翻弄する。
CRAZY DANCER
あたしのファイトネーム。
“CRAZY DANCER”
ある日、皆任務に出掛けてて、あたしはモスカと神経衰弱をしていた。
『あ~っ!!モスカってば超強いじゃん!!』
キュンキュン…
思えば、モスカは機械だから、記憶力っていうかインプットしちゃうんだよね。
でもさ、そんなモスカに勝ったらすごくない!?
そう思って、何度もチャレンジしてみるけど、やっぱりダメ。
人間の脳には限界がある。
『また負けた!5組も差があるしーっ。』
机に突っ伏す檸檬。するとモスカは、ポンポンと頭を叩く。
『慰めなんて、いらないもん。』
目だけモスカに向ける。すると今度は、急に立ち上がって何処かに行ってしまった。
あたしは慌てて立ち上がる。
何たってモスカ以外いないから、いなくなられると1人になってしまう。
そしたら、動けなくなるかも知れない。
『待ってよ~!』
モスカは歩くのは遅いから、小走りすればすぐに追い付く。
その足は、給湯室に向かっているようだった。
お湯を沸かし始めるモスカ。あたしはその動きを後ろからジッと見ていた。
すると…
「あら?こんな所で何してるの?」
「他はまだ帰ってないみたいだな。」
『ルッスーリア!レヴィ!』
2人が任務から帰って来た。
『お帰りなさいっ♪』
「ただいま、檸檬vV」
「た、ただいま……///」
レヴィの脳内では確実に若い奥さん的な妄想が広がっていた。
檸檬の後ろにピンク色の背景が見えてしまったから、もう末期である。(笑)
『モスカが急にここに来てさぁ、何するのかなぁって思って。』
檸檬が2人と話していると、モスカが急に振り向いた。
その手にはアイスココアが3つ。
「んまぁ。」
『用意してくれてたの!!?』
「気が利くな。」
キュンキュン…
モスカが少し嬉しそうだった。
4人で大広間に戻る。
『今ね、モスカと神経衰弱やってたんだけど…』
「あら、モスカ、神経衰弱めちゃめちゃ強いのに。」
「誰も勝てないぞ。」
「でも、ベルちゃんは勝ってたわよねん。」
『えーっ!ベル、勝ったの!!?あたしなんか、7戦7敗なのに。』
「そ、そんなにやったのか…。」
檸檬の真剣さに、ちょっと引き気味のレヴィ。
逆にルッスーリアは、何かを真剣に考えていた。
『ルッスーリア?』
「ねぇ檸檬、全然関係ない事なんだけど…」
『何?』
「檸檬って、あの戦い方、何処で覚えたの?」
少しだけ沈黙が流れる。
「言われてみれば…」
レヴィも考え込む。
檸檬はただ、俯いていた。
「話して、くれないかしら?」
『…どうしても?』
潤んだ目に上目遣いでルッスーリアとレヴィを見つめる檸檬。
それを見て少し動揺するも、やはり気になるモノは気になる。
「私達、もっと檸檬の事知りたいの。」
ルッスーリアの言葉に、
嬉しくなって体が震えた。
でも、
同時に罪悪感も感じた。
自分の事を隠して、仲間は語れないよね。
そうだよね、うん。
『分かった、話すよ。』
檸檬はぐっと顔を上げた。ルッスーリアとレヴィは何だかホッとする。
『あたしは日本人だけど、アメリカ生まれでアメリカ育ちなの。』
いつもそこから話し始める。
ディーノに話した時も、
バジルに話した時も、
あたしの全てはそこから始まったから、
必ずそこから話さなくちゃいけない。
3才の頃からいた世界、
ストリートファイトの世界
強い者が生き残り、
弱い者は全てを奪われる
---「今日から此所が檸檬の家だ。」
---『ここ?』
灰色の、薄汚れた部屋。
ラクガキで埋め尽くされた壁。
同居人は、汚い大男達。
---「ガキが近寄るんじゃねぇ!」
---『痛いっ!』
---「おい、やめろよ。こういう子供に暴力はいけねぇ。」
---「あぁ?」
---「お嬢さん、おいで。」
近寄ってはいけない。
だけど、
あの頃のあたしは、
人を疑うには幼過ぎた。
---『ううっ……ぐすっ……』
---「ほら、泣くなよ。」
---『う、うん……。』
---「ほら、俺がいいモノをあげよう。」
---『え?』
次の瞬間やって来たのは、
物凄い熱さと痛み。
---『うわぁぁぁぁあああ!!!』
---「へっへっへ…」
1人の男が持っていたタバコを、あたしの腕に押し付ける。
---『いやぁぁぁぁああああ!!!』
---「ほらほら、外の喧嘩はもっと痛いんだぞぉ?」
---「ははっ!やるなぁ、お前。」
---「もっとやっとけ。」
涙が枯れるまで泣いた。
声が出なくなるまで叫んだ。
火傷なんてモノじゃなかった。
でも、
どんなに酷い怪我を負っても、治してくれる人はいない。
周りの大人は、信じられない。
あたしは、すっかり心を閉ざした。
そうするしか、なかった。
.その男達は、毎日喧嘩場へと出向いていった。
負けそうになれば、平気であたしを盾にして。
痛いのはあたし。
いつだってあたし。
でもあたしには、彼らから逃れる術がない。
彼らの盾として、生きて行くんだろうか。
これからもずっと、
彼らの負い目をあたしが背負うのだろうか。
それでもいいかもしれない。
あたしが盾として働く間は、彼らはあたしを生かそうとしてくれる。
使い回しが出来るように。
---『If God were here, I could get freedom.』
(もし神様がいれば、自由を手にできるのに)
---「神なんざこの世にいるワケねぇ。」
---「もしいたとしたら、俺達は今頃大金持ちだ。神様が、導いてくれるはずだからなぁ!!」
---「くだらねぇ妄想抱いてねーで、お前は俺達を護ってればいーんだよ!」
違うよ。
神様がいても、
絶対貴方達を導いたりしない。
あたしは聖書も何も読んでないけど、
それだけは分かるよ。
神様が救ってくれるのは、
いつも困ってる人。
人の事を大事にする人。
だったらあたしにも、救いは来ないね。
あたしの大事なモノは、
他ならぬ、あたし自身だから。
---『(盾は…嫌だよ……。)』
毎晩月に祈ってるけど、届くはずないって分かってるよ。
月は太陽からの光で輝くんだって。
それ自体は、
自分で光る事も出来ないんだって。
そんなある日、お父さんが帰って来た。
---「檸檬、どうだ?」
---『お父さん……あたし、ここに居たくない。』
言葉を放った瞬間、殴られる。
---「そんな泣き言を言うんじゃない。」
---『だって……だって……!!ねぇお父さん、どうしてこんな所に置いてくの?』
立ち去ろうとしたお父さんは、首だけこちらに向ける。
---「檸檬、痛いのは嫌か?」
---『嫌だ。』
あたしの心は、死んでなかった。
嫌だっていう感情が、ちゃんと残っててくれた。
---「ならば強くなれ。誰にも負けないくらい、強く。」
---『つ…よく……?』
それっきり、お父さんは会いに来なかった。
でも、その最初で最後の教訓を胸に、あたしは立ち上がった。
もう、負けない。
痛いのは嫌だ。
あたしは、自分の力で生き抜いてみせる。
就寝時間になったら、適当に寝たフリをして、そうっと抜け出す。
その辺の広場で体力作りを開始した。
抵抗力を付けなくちゃ。
防御力を付けなくちゃ。
じゃないと、反撃は出来ないから。
毎晩毎晩、あたしの特訓は続いた。
あたしが一番大事なモノ、
それは、
あたしの命
それを護る為なら、どんな事でもする。
例え、ルームメイトを裏切る結果になったとしても、元々仲間じゃないし。
あいつらはあたしを利用してただけだし。
その時はただ純粋に、
“生き延びたい”
って思った。
数週間後、いつものように彼らの代わりに殴られる。
でも、もう違うんだ。
---『う…ぐっ……!』
立ち上がって。
前に進むのよ、檸檬。
そうすれば、ここから抜けだせるよ。
当てはないけど、
ここより酷い場所なんてない。
---「この女、まだ立てたのか。」
8才になったあたし。
もう、怖くないんだよ。
---「殺れ。」
---「OK、リーダー。」
迫って来る1人の男。
こいつは、敵。
あたしの命を狙う者。
護らなきゃ
---「おりゃぁあああ!!」
ヒュンッ、
---「な!?」
---「嘘だろ!!?」
成功した。
あたしは、
高く飛んでいた。
まるで、
本当に自由を手に入れた気分だった。
鍛えておいた跳躍力、動体視力、反射神経。
その全てがあたしの味方。
嬉しかった。
とてもとても、嬉しかったんだ。
---「うわぁぁあああ!!」
あたしに襲い掛かる男が倒れていく。
恐怖を叫びに変えて。
そうか…
この男達は……
いつもあたしが叫んでるのを、
こんな気持ちで聞いてたんだ……。
でも、
あたしが感じている気持ちの方が、
より素晴らしい快感だと思うよ?
---『あたしを見下していた罰よ。』
---「ひっ!ひいいいい!!!」
走って逃げて行く男達。
ルームメイトも呆然。
あたしが1人で、8人くらいを倒しちゃったから。
---「お、お嬢さん。」
---「俺達は、仲間だよな?」
---「お嬢さんと今までずっと一緒に暮らして来たんだからさぁ。」
---『仲間…??』
笑わせんじゃないよ。
さんざん盾にしてきたクセに。
---『今更でしょ?』
---「「「ひいいいっ!!」」」
一言返しただけなのに、ルームメイト達も逃げて行った。
あたしの口角は思わず上がる。
あたしを蔑んでた人が、
あたしにひれ伏した瞬間。
あたしが自由になった瞬間だった。
---
-------
--------------
『つまりね、痛いのが嫌で修行したの。自分1人でね。その結果、基礎体力が身に付いたってワケ。』
「そうだったの……。」
「大変だったな。」
ルッスーリアとレヴィは、あたしの頭をなでなでしてくれた。
『それで、ストリートファイトの選手として戦ってたら、気付いたの。人は、自分のリズムに乗って攻撃してるって。』
「それで、そのリズムを読んで攻撃を避ける事が出来たのね。」
『そうっ!』
その姿はまるで、
風に舞う、花びらのよう。
相手の動きは読めるクセに、相手には動きを読ませてくれない。
一度スイッチが入れば、
踊りはもう止まらない。
狂ったように、踊り続けて。
誰にもついて来させない。
---「勝者!“CRAZY DANCER”!!」
---『Thank you everybody!』
相手のリズムを読むのは、所詮第1段階。
“CRAZY DANCER”の本当の踊りが始まれば、
相手のリズムはかき消される。
檸檬自身のリズムが、
アップテンポの速いリズムが、
相手に叩き込まれるのだ。
『相手の事はお構い無しで踊り続ける、だからあたしは“CRAZY DANCER”って呼ばれるの。』
「ほほぅ…」
「なるほどねぇん…」
『ごめんね、暗い話しちゃって。』
「いいのよ。こっちこそ、無理に聞いちゃって悪かったわ。」
『ううん、いつか話さなくちゃいけない事だから。』
「そうか……」
アイスココアを、一口含んだ。
=========
モスカの中に録音機があった事を、檸檬は知らない。
同じ事をメンバー全員に話さなくても済むように、というルッスーリアのささやかな配慮。
「ただいまー♪」
「帰ったぞぉ!!」
『あ!ベルとアロちゃんだ!!』
檸檬は玄関へと走って行く。
その後ろ姿を、ルッスーリアとレヴィは優しく微笑んで見つめていた。
「何?そこの2人、キモいんだけど。」
「酷いわっ!ベルちゃん!!」
「侮辱は許さんぞ!」
「ま、いーや。檸檬、お土産買って来たよ。」
『ホント!?わーいっ!ベル大好きーっ♪』
「うしし♪俺もvV」
ベルの腕の中で笑う檸檬を見て、ルッスーリアが呟いた。
「檸檬は……強いのねぇ。」
「そうだな…。」
「さてと!ボスにコレ、届けに行かなくちゃ。」
ルッスーリアはモスカの中から録音機を取り出す。
「同行する。」
レヴィも席を立った。
その夜、ザンザスも檸檬の過去を知る事になる。
“CRAZY DANCER”
大っ嫌いな通り名だけど、おかげであたしは此所にいる。
神様は、
一度どん底を味わったあたしを、
ちゃんと助けてくれたんだ。