ヴァリアー編
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足どころか、
体全部が動かない。
そんなあたしの目の前で、
ボスは血を流していく。
VARIABILE X
「がはあっ!!!」
ボス口から流れる血が、止まる事はない。
ツナはそれを、つらそうな目で見ていた。
「ムム!お前何か知っているな?リングが血を拒んだとはどういう事だ!?」
マーモンが問いかけても、ツナは答えなかった。
ただ、ボスを見ている。
「ぐふっ!さぞかし……いい気味だろうな!」
ボスが口を開く。
「そうだ…………俺と老いぼれは……血なんて繋がっちゃいねぇ!!」
『(え………!?)』
その言葉が放たれた瞬間、
時間が止まったかのように、みんな黙った。
その間に、ツナの小言弾の効果が切れて、普通のツナに戻る。
「…………ザンザス………」
「同情すんな!!!カスが!!!」
そう言いつつも、ボスからはおびただしい量の血が流れ出ていた。
その時、観覧席の方から声が。
「俺には分かるぞぉ…………」
チェルベッロがすぐにスピーカーのスイッチを入れる。
「お前の裏切られた悔しさと恨みが…………俺には分かる………」
中庭全体に響くアロちゃんの声。
それに少しだけ体を震わせたボス。
同時に、武も声を上げた。
「スクアーロ!!」
「生きてやがったのか…カスザメ…………分かるだと?」
ボスはつらそうに呼吸しながら問いかけた。
「てめーに俺の何が分かる…………知ったような口を……きくんじゃねぇ………」
「いいや分かる!!知っているぞぉ!!」
「なら言ってみろ!!俺の何を知っている!ああ?言えねーのか!!」
ボスの言葉に、アロちゃんは話すのを決意したみたいだった。
「お前は下町で生まれ、生まれながらに炎を宿していた。そして、お前の母親はその炎を見て、お前が自分とボンゴレ9代目の間に生まれた子供だという妄想に取り付かれたんだぁ。」
ボスは、何も知らないまま9代目に引き取られて、息子として育った。
自分の炎がボンゴレの死ぬ気の炎だと信じて。
でも、
ある時知ってしまった。
ボスと9代目の血縁関係は全くなく、
しかもボンゴレの血統でなければ後継者になれないという掟を。
---「この俺が!!カスどもより劣るだと!!」
その日、大きなボスの“怒り”が生まれた。
---「奴は俺を後継者にするつもりなどなかったんだ!!何が息子だ!!俺を裏切りやがったんだ!!」
そしてボスは、同じ頃アロちゃん達に出会った。
それから半年…
---「老いぼれを引きずり落とし、ボンゴレを手に入れる。」
ボスのクーデターが実行された。
---
------
------------
「これが俺の知る事の全てだ。揺りかごの後に調べた。」
「くだらねー……」
『ボス…』
あたし達の中で、動ける者はいなかった。
そんな中、ツナが口を開く。
「9代目が……裏切られてもお前を殺さなかったのは……最後までお前を受け入れようとしてたからじゃないのか?」
『ツナ……』
「9代目は血も掟も関係なく、誰よりお前を認めていたはずだよ。」
ボスはただ静かに、歯を食いしばっていた。
「9代目はお前の事を、本当の子供のように…」
「っるせぇ!!気色の悪い無償の愛など!!クソの役にも立つか!!」
ツナの言葉を遮って、ボスは思いっきり怒鳴った。
「俺が欲しいのはボスの座だけだ!!カスは俺を崇めてりゃいい!!俺を讃えてりゃいいんだ!!」
荒い息と共に、ボスは言う。
ツナは、ただボスを見つめてる。
「な、何て奴だ…」
「かっきー♪」
次の瞬間、ボスはまた血を吐き出した。
「ぐあっ!」
『ボス!』
吐血の理由は分かってる。
大空のリングを付けているから。
だったら……
「ぐお………!!」
『ボスっ!』
次の瞬間あたしは、
力を振り絞ってボスに抱きついた。
『もう…やめよう……?』
「檸檬…何、しやがる…」
あたしの体は、リバウンドの第2症状:体中の痙攣が始まってた。
「放しやがれ…」
『イヤっ…!』
「消すぞ…檸檬…」
『あたしをっ…振り払う力もないクセに……!!』
もうこれ以上、見たくない。
これ以上の血を、見たくない。
あたしの望みは、みんなで笑って暮らす事。
だから、もう………
ボスの右手をとって、中指にあるリングを外した。
「何…しやがる…」
『だってあたしは…守護者だから。ボスの血をこれ以上…見たくないから…』
「くっ………」
こいつは…檸檬は…いつもこうだった。
消せるはずのねぇ俺の憎悪を、
いとも簡単に消しやがる。
しかも、俺が気が付かないうちに。
1年前もそうだった。
---
------
------------
眠りから覚めた俺の耳に、檸檬のうわさが飛び込んで来た。
上手く丸め込んで勢力に加えれば、老いぼれを殺しやすくなる、
初めはそんな事を考えていた。
しかし、いざ呼んでみると…
---『これから1ヶ月間、宜しくお願いします♪』
見当違いだった。
俺はいつしかただ純粋に、檸檬を気に入り始めた。
檸檬の今のリバウンドの症状も、一度だけ見た事がある。
あれは、ヴァリアーの調査隊の報告が誤っていて、
檸檬が1人で何十人も相手して、
倒れた時だった。
他の幹部が迎えに行った時には既に、
敵の死体に囲まれながら、
檸檬は気を失っていた。
発作を起こして、
体中痙攣していて、
一目で無理をしたと分かる状況だったらしい。
その後、俺がボンゴレ本部に運び、檸檬は集中治療室行きとなった。
檸檬が細胞を使い過ぎた時は、本部の特殊な治療でしか回復しないそうだ。
俺が帰って来ると、談話室に幹部全員が集まっていた。
「ボス!檸檬は!?」
「集中治療室だ。」
発作のみにとどまらず、痙攣も起こした檸檬。
その状態はリバウンド状態と言い、老いぼれが一番恐れている事らしい。
「間違った情報を持って来た野郎は叩き斬ったぜぇ。」
「そうか…」
檸檬が回復するには、半日かかるらしい。
俺は、眠らないまま本部からの連絡を待っていた。
---
-----
13時間後、電話が鳴った。
「俺だ。」
「ザンザス様、檸檬様の意識が回復しました。」
「すぐ行く。」
俺が本部の病室の前に来ると、檸檬と老いぼれの会話が聞こえて来た。
「檸檬、やはりお前はヴァリアーに入るべきではなかった…。」
『9代目…』
そう言われるのも当然だ。
今回の件は、俺が檸檬を無理させたに等しい。
知らない間に、拳を握っていた。
仮入隊中止、という処分を覚悟して。
しかし…
『あの、あたし!大丈夫ですから!』
「檸檬…?」
『あたしっ…もうちゃんと動けますから!だから…お願いします、あたしを…もう一度ヴァリアーに……』
老いぼれに縋るように言う檸檬に、俺が驚かされた。
だが、当然老いぼれはそう簡単に許さない。
「檸檬、お前にとってヴァリアーの任務が危険だと分かったはず。もう、いいだろう。」
『ダメなんです!あたし…まだヴァリアーにいたい……仮入隊は1ヶ月だったはずです!だから、あと2週間…お願いしますっ!!』
「檸檬…」
老いぼれは困惑したようだった。
それから、こう言った。
「分かった。相談して決めなさい。」
『へ…?』
老いぼれは部屋を出た。
俺はそこに立っていたが、目も合わせなかった。
「檸檬、入るぞ。」
『ボス!?』
俺の顔を見ると、檸檬は急に頭を下げた。
『あの、えと、帰ったらすぐ報告書書くよ!今度からは無理しないで援護も呼ぶ!下調べも自分でするから、だから…』
ペラペラと喋って、最後に俯く。
『だから、あの、仮入隊………中止にしないで……』
涙ぐむ檸檬を咄嗟に抱き寄せた。
『ボス…!?』
「バカか、お前は。」
いや違う、
俺の方が檸檬よりバカなのかも知れない。
俺は…
俺達は…
いつの間にか檸檬と打ち解けていた。
それに気が付かないまま、
檸檬を失いかけて、
本気で焦った。
「んな事するワケねーだろーが。」
『え…?』
檸檬の髪を撫でてみると、思ったより柔らかかった。
「お前が帰って来なきゃ、アイツらが文句たれるからな。」
『ボス……』
それだけじゃねぇ、
俺も、
檸檬といるこの感じを、
心地よく思い始めてんだ。
『ありがとっ…!』
目に溜めた涙を流しながら、檸檬は笑顔を見せた。
---
------
------------
檸檬と過ごしている間は、
老いぼれを引きずり落とす事さえ頭から消えていた。
一種の平和ぼけと言っていい。
だから1年の間我慢出来たんだ。
檸檬が去ってから1年、俺達は待った。
だが檸檬は帰って来なかった。
だから行動に出た。
たったそれだけの話だ。
ボスになれば、檸檬を近くに置ける。
居心地のいい空間が甦る。
他の奴らだってそれを望んでる。
「ザンザス様!貴方にリングが適正か、判断する必要があります。」
「だ、黙れ!!叶わねーなら道連れだ!!どいつもぶっ殺してやる!!」
「ザンザス様!!」
驚くチェルベッロに対して、ベルとマーモンはやる気満々だった。
「大さんせーだボス、やろーぜ♪」
「当初の予定通りだよ。」
『ダメ…!』
あたしが止めようとすると、
「何処まで腐ってやがる!やらせるかよ!」
隼人、武、髑髏、了平さんが立ちはだかった。
4人を見て、ベルが一言。
「どいつも死に損ないじゃん。」
そこに、
『あっ…!』
「おっ、あっちにも…」
やって来たのは、ボロボロになった恭弥。
「こりゃ1000%間違いなし、お前ら死んだわ。」
ベルは相変わらず白い歯を見せる。
「てめー、見えてねーのか?2対5だ!!分が悪いのはそっちだぜ?」
「2対5?何の事だい?君達の相手はこの何十倍もの戦力だ。」
『え……!!?』
まさか、
まさか………!!
「総勢50名の生え抜きのヴァリアー隊が、まもなくここに到着するのさ。」
「何を言っている!!」
『そんな!何でそんな事!?』
「ボスは勝利後に、連中の関わりのある者全て片付ける要員を向かわせておいたんだ。僕ら幹部の次に戦闘力の高い、精鋭をね。」
マーモンの言葉に反応したのは、チェルベッロ。
「お待ち下さい!対戦中の外部からの干渉は認めるワケには…」
「ん?」
ベルが振り向いて、
何だかイヤな予感がした。
流れるようにナイフを取り出すベルの手の動きが、
スローモーションみたいに見える。
『ダメっ!!』
ほとんど動かない足を無理矢理動かして、
思いっきりベルに飛びついた。
「檸檬っ!?」
『やめて、ベル!!!』
あたしのせいでベルの手元が狂って、
ナイフはチェルベッロの頬をかすった。
「何してんの?檸檬はもう動かない方がいいって。」
『だ、だって…』
何とかして立ってたけど、やっぱり数秒しかもたずに倒れ込む。
ベルはあたしと一緒にしゃがんだ。
「リバウンド、やばいんでしょ?」
『だって…ベルに殺して欲しくないんだもんっ…!あたしは…またみんなで笑って暮らしたいだけなのに………!!』
ベルがナイフを投げないように、必死に袖を掴む。
そしたらベルは、あたしの頭を撫でながら言った。
「俺達も、同じだよ。」
『え…?』
「檸檬と一緒に笑って暮らしたいから、こいつらを消すんじゃん。邪魔だし。」
『ベル…!!』
どうして?
望みは一緒のはずなのに、
何かがちょっと違うだけで、
行動がこんなに違っちゃうのは、どうして?
『お願いベル……お願い……』
「檸檬………」
「檸檬、ベルが殺さなくても、すぐに仲間が到着するんだ。こいつらが死ぬのは時間の問題だよ。」
『ヤだ…そんなの、ヤダよぉ…』
涙で視界がぼやける。
すると、観覧席から声が聞こえて来た。
「そっちがそのつもりなら、俺達がツナ側で応戦するぜ!ここから出せコラ!」
「この場合、文句はないはずだ!」
「拙者も戦います!!」
皆の訴えに、チェルベッロもついに動いた。
「分かりました。それではヴァリアー側を失格とし、観覧席の赤外線を解除します。」
そう言って、ボタンを押す。
だけど…
「………解除されてねーぞ。」
『え……!?』
リボーンの言葉に、マーモンが答える。
「甘いよ、細工しておいたのさ。アイツらはまとめてオリの中で消す予定だからね。」
「んだと!?」
そのセンサーは、内部からの攻撃で爆発する仕組み。
絶体絶命になってしまった。
「くっそう!!こうなりゃ俺達だけでやるしかねぇ!!」
隼人が叫ぶ。
『ダメ……』
ダメ、
ダメ、
逃げて………
無理したら、
あたしの二の舞いになる……
その時、髑髏がぽつりと呟いた。
「え…………誰か…来る…?」
同時に、
「おい!」
「あれは!」
スタッという着地音。
ベルが嬉しそうに笑ったのが見えた。
「ナイスタイミーング♪待ってたぜ♪」
『そん、な……』
やって来たヴァリアーは3人。
彼らの口が開かれる。
「報告します。我々以外のヴァリアー隊、全滅!!!」
その言葉に、場にいる全員が驚く。
「奴は強すぎます!!鬼神のごとき男がまもなく…」
真ん中の人が喋っている後ろから聞こえて来るのは、
聞き覚えのある音。
空気を切り裂くような、
強い攻撃の音。
『この音………!』
「げげ!!」
そして、
聞き覚えのある声。
「暴蛇烈覇!!!」
次の瞬間、3人の部下達は吹っ飛ばされて行った。
黒い剛球と共に。
もしかして、
もしかすると……
無意識のうちに緊張して、
ベルの袖を握る力が、強まった。
体全部が動かない。
そんなあたしの目の前で、
ボスは血を流していく。
VARIABILE X
「がはあっ!!!」
ボス口から流れる血が、止まる事はない。
ツナはそれを、つらそうな目で見ていた。
「ムム!お前何か知っているな?リングが血を拒んだとはどういう事だ!?」
マーモンが問いかけても、ツナは答えなかった。
ただ、ボスを見ている。
「ぐふっ!さぞかし……いい気味だろうな!」
ボスが口を開く。
「そうだ…………俺と老いぼれは……血なんて繋がっちゃいねぇ!!」
『(え………!?)』
その言葉が放たれた瞬間、
時間が止まったかのように、みんな黙った。
その間に、ツナの小言弾の効果が切れて、普通のツナに戻る。
「…………ザンザス………」
「同情すんな!!!カスが!!!」
そう言いつつも、ボスからはおびただしい量の血が流れ出ていた。
その時、観覧席の方から声が。
「俺には分かるぞぉ…………」
チェルベッロがすぐにスピーカーのスイッチを入れる。
「お前の裏切られた悔しさと恨みが…………俺には分かる………」
中庭全体に響くアロちゃんの声。
それに少しだけ体を震わせたボス。
同時に、武も声を上げた。
「スクアーロ!!」
「生きてやがったのか…カスザメ…………分かるだと?」
ボスはつらそうに呼吸しながら問いかけた。
「てめーに俺の何が分かる…………知ったような口を……きくんじゃねぇ………」
「いいや分かる!!知っているぞぉ!!」
「なら言ってみろ!!俺の何を知っている!ああ?言えねーのか!!」
ボスの言葉に、アロちゃんは話すのを決意したみたいだった。
「お前は下町で生まれ、生まれながらに炎を宿していた。そして、お前の母親はその炎を見て、お前が自分とボンゴレ9代目の間に生まれた子供だという妄想に取り付かれたんだぁ。」
ボスは、何も知らないまま9代目に引き取られて、息子として育った。
自分の炎がボンゴレの死ぬ気の炎だと信じて。
でも、
ある時知ってしまった。
ボスと9代目の血縁関係は全くなく、
しかもボンゴレの血統でなければ後継者になれないという掟を。
---「この俺が!!カスどもより劣るだと!!」
その日、大きなボスの“怒り”が生まれた。
---「奴は俺を後継者にするつもりなどなかったんだ!!何が息子だ!!俺を裏切りやがったんだ!!」
そしてボスは、同じ頃アロちゃん達に出会った。
それから半年…
---「老いぼれを引きずり落とし、ボンゴレを手に入れる。」
ボスのクーデターが実行された。
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「これが俺の知る事の全てだ。揺りかごの後に調べた。」
「くだらねー……」
『ボス…』
あたし達の中で、動ける者はいなかった。
そんな中、ツナが口を開く。
「9代目が……裏切られてもお前を殺さなかったのは……最後までお前を受け入れようとしてたからじゃないのか?」
『ツナ……』
「9代目は血も掟も関係なく、誰よりお前を認めていたはずだよ。」
ボスはただ静かに、歯を食いしばっていた。
「9代目はお前の事を、本当の子供のように…」
「っるせぇ!!気色の悪い無償の愛など!!クソの役にも立つか!!」
ツナの言葉を遮って、ボスは思いっきり怒鳴った。
「俺が欲しいのはボスの座だけだ!!カスは俺を崇めてりゃいい!!俺を讃えてりゃいいんだ!!」
荒い息と共に、ボスは言う。
ツナは、ただボスを見つめてる。
「な、何て奴だ…」
「かっきー♪」
次の瞬間、ボスはまた血を吐き出した。
「ぐあっ!」
『ボス!』
吐血の理由は分かってる。
大空のリングを付けているから。
だったら……
「ぐお………!!」
『ボスっ!』
次の瞬間あたしは、
力を振り絞ってボスに抱きついた。
『もう…やめよう……?』
「檸檬…何、しやがる…」
あたしの体は、リバウンドの第2症状:体中の痙攣が始まってた。
「放しやがれ…」
『イヤっ…!』
「消すぞ…檸檬…」
『あたしをっ…振り払う力もないクセに……!!』
もうこれ以上、見たくない。
これ以上の血を、見たくない。
あたしの望みは、みんなで笑って暮らす事。
だから、もう………
ボスの右手をとって、中指にあるリングを外した。
「何…しやがる…」
『だってあたしは…守護者だから。ボスの血をこれ以上…見たくないから…』
「くっ………」
こいつは…檸檬は…いつもこうだった。
消せるはずのねぇ俺の憎悪を、
いとも簡単に消しやがる。
しかも、俺が気が付かないうちに。
1年前もそうだった。
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眠りから覚めた俺の耳に、檸檬のうわさが飛び込んで来た。
上手く丸め込んで勢力に加えれば、老いぼれを殺しやすくなる、
初めはそんな事を考えていた。
しかし、いざ呼んでみると…
---『これから1ヶ月間、宜しくお願いします♪』
見当違いだった。
俺はいつしかただ純粋に、檸檬を気に入り始めた。
檸檬の今のリバウンドの症状も、一度だけ見た事がある。
あれは、ヴァリアーの調査隊の報告が誤っていて、
檸檬が1人で何十人も相手して、
倒れた時だった。
他の幹部が迎えに行った時には既に、
敵の死体に囲まれながら、
檸檬は気を失っていた。
発作を起こして、
体中痙攣していて、
一目で無理をしたと分かる状況だったらしい。
その後、俺がボンゴレ本部に運び、檸檬は集中治療室行きとなった。
檸檬が細胞を使い過ぎた時は、本部の特殊な治療でしか回復しないそうだ。
俺が帰って来ると、談話室に幹部全員が集まっていた。
「ボス!檸檬は!?」
「集中治療室だ。」
発作のみにとどまらず、痙攣も起こした檸檬。
その状態はリバウンド状態と言い、老いぼれが一番恐れている事らしい。
「間違った情報を持って来た野郎は叩き斬ったぜぇ。」
「そうか…」
檸檬が回復するには、半日かかるらしい。
俺は、眠らないまま本部からの連絡を待っていた。
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13時間後、電話が鳴った。
「俺だ。」
「ザンザス様、檸檬様の意識が回復しました。」
「すぐ行く。」
俺が本部の病室の前に来ると、檸檬と老いぼれの会話が聞こえて来た。
「檸檬、やはりお前はヴァリアーに入るべきではなかった…。」
『9代目…』
そう言われるのも当然だ。
今回の件は、俺が檸檬を無理させたに等しい。
知らない間に、拳を握っていた。
仮入隊中止、という処分を覚悟して。
しかし…
『あの、あたし!大丈夫ですから!』
「檸檬…?」
『あたしっ…もうちゃんと動けますから!だから…お願いします、あたしを…もう一度ヴァリアーに……』
老いぼれに縋るように言う檸檬に、俺が驚かされた。
だが、当然老いぼれはそう簡単に許さない。
「檸檬、お前にとってヴァリアーの任務が危険だと分かったはず。もう、いいだろう。」
『ダメなんです!あたし…まだヴァリアーにいたい……仮入隊は1ヶ月だったはずです!だから、あと2週間…お願いしますっ!!』
「檸檬…」
老いぼれは困惑したようだった。
それから、こう言った。
「分かった。相談して決めなさい。」
『へ…?』
老いぼれは部屋を出た。
俺はそこに立っていたが、目も合わせなかった。
「檸檬、入るぞ。」
『ボス!?』
俺の顔を見ると、檸檬は急に頭を下げた。
『あの、えと、帰ったらすぐ報告書書くよ!今度からは無理しないで援護も呼ぶ!下調べも自分でするから、だから…』
ペラペラと喋って、最後に俯く。
『だから、あの、仮入隊………中止にしないで……』
涙ぐむ檸檬を咄嗟に抱き寄せた。
『ボス…!?』
「バカか、お前は。」
いや違う、
俺の方が檸檬よりバカなのかも知れない。
俺は…
俺達は…
いつの間にか檸檬と打ち解けていた。
それに気が付かないまま、
檸檬を失いかけて、
本気で焦った。
「んな事するワケねーだろーが。」
『え…?』
檸檬の髪を撫でてみると、思ったより柔らかかった。
「お前が帰って来なきゃ、アイツらが文句たれるからな。」
『ボス……』
それだけじゃねぇ、
俺も、
檸檬といるこの感じを、
心地よく思い始めてんだ。
『ありがとっ…!』
目に溜めた涙を流しながら、檸檬は笑顔を見せた。
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檸檬と過ごしている間は、
老いぼれを引きずり落とす事さえ頭から消えていた。
一種の平和ぼけと言っていい。
だから1年の間我慢出来たんだ。
檸檬が去ってから1年、俺達は待った。
だが檸檬は帰って来なかった。
だから行動に出た。
たったそれだけの話だ。
ボスになれば、檸檬を近くに置ける。
居心地のいい空間が甦る。
他の奴らだってそれを望んでる。
「ザンザス様!貴方にリングが適正か、判断する必要があります。」
「だ、黙れ!!叶わねーなら道連れだ!!どいつもぶっ殺してやる!!」
「ザンザス様!!」
驚くチェルベッロに対して、ベルとマーモンはやる気満々だった。
「大さんせーだボス、やろーぜ♪」
「当初の予定通りだよ。」
『ダメ…!』
あたしが止めようとすると、
「何処まで腐ってやがる!やらせるかよ!」
隼人、武、髑髏、了平さんが立ちはだかった。
4人を見て、ベルが一言。
「どいつも死に損ないじゃん。」
そこに、
『あっ…!』
「おっ、あっちにも…」
やって来たのは、ボロボロになった恭弥。
「こりゃ1000%間違いなし、お前ら死んだわ。」
ベルは相変わらず白い歯を見せる。
「てめー、見えてねーのか?2対5だ!!分が悪いのはそっちだぜ?」
「2対5?何の事だい?君達の相手はこの何十倍もの戦力だ。」
『え……!!?』
まさか、
まさか………!!
「総勢50名の生え抜きのヴァリアー隊が、まもなくここに到着するのさ。」
「何を言っている!!」
『そんな!何でそんな事!?』
「ボスは勝利後に、連中の関わりのある者全て片付ける要員を向かわせておいたんだ。僕ら幹部の次に戦闘力の高い、精鋭をね。」
マーモンの言葉に反応したのは、チェルベッロ。
「お待ち下さい!対戦中の外部からの干渉は認めるワケには…」
「ん?」
ベルが振り向いて、
何だかイヤな予感がした。
流れるようにナイフを取り出すベルの手の動きが、
スローモーションみたいに見える。
『ダメっ!!』
ほとんど動かない足を無理矢理動かして、
思いっきりベルに飛びついた。
「檸檬っ!?」
『やめて、ベル!!!』
あたしのせいでベルの手元が狂って、
ナイフはチェルベッロの頬をかすった。
「何してんの?檸檬はもう動かない方がいいって。」
『だ、だって…』
何とかして立ってたけど、やっぱり数秒しかもたずに倒れ込む。
ベルはあたしと一緒にしゃがんだ。
「リバウンド、やばいんでしょ?」
『だって…ベルに殺して欲しくないんだもんっ…!あたしは…またみんなで笑って暮らしたいだけなのに………!!』
ベルがナイフを投げないように、必死に袖を掴む。
そしたらベルは、あたしの頭を撫でながら言った。
「俺達も、同じだよ。」
『え…?』
「檸檬と一緒に笑って暮らしたいから、こいつらを消すんじゃん。邪魔だし。」
『ベル…!!』
どうして?
望みは一緒のはずなのに、
何かがちょっと違うだけで、
行動がこんなに違っちゃうのは、どうして?
『お願いベル……お願い……』
「檸檬………」
「檸檬、ベルが殺さなくても、すぐに仲間が到着するんだ。こいつらが死ぬのは時間の問題だよ。」
『ヤだ…そんなの、ヤダよぉ…』
涙で視界がぼやける。
すると、観覧席から声が聞こえて来た。
「そっちがそのつもりなら、俺達がツナ側で応戦するぜ!ここから出せコラ!」
「この場合、文句はないはずだ!」
「拙者も戦います!!」
皆の訴えに、チェルベッロもついに動いた。
「分かりました。それではヴァリアー側を失格とし、観覧席の赤外線を解除します。」
そう言って、ボタンを押す。
だけど…
「………解除されてねーぞ。」
『え……!?』
リボーンの言葉に、マーモンが答える。
「甘いよ、細工しておいたのさ。アイツらはまとめてオリの中で消す予定だからね。」
「んだと!?」
そのセンサーは、内部からの攻撃で爆発する仕組み。
絶体絶命になってしまった。
「くっそう!!こうなりゃ俺達だけでやるしかねぇ!!」
隼人が叫ぶ。
『ダメ……』
ダメ、
ダメ、
逃げて………
無理したら、
あたしの二の舞いになる……
その時、髑髏がぽつりと呟いた。
「え…………誰か…来る…?」
同時に、
「おい!」
「あれは!」
スタッという着地音。
ベルが嬉しそうに笑ったのが見えた。
「ナイスタイミーング♪待ってたぜ♪」
『そん、な……』
やって来たヴァリアーは3人。
彼らの口が開かれる。
「報告します。我々以外のヴァリアー隊、全滅!!!」
その言葉に、場にいる全員が驚く。
「奴は強すぎます!!鬼神のごとき男がまもなく…」
真ん中の人が喋っている後ろから聞こえて来るのは、
聞き覚えのある音。
空気を切り裂くような、
強い攻撃の音。
『この音………!』
「げげ!!」
そして、
聞き覚えのある声。
「暴蛇烈覇!!!」
次の瞬間、3人の部下達は吹っ飛ばされて行った。
黒い剛球と共に。
もしかして、
もしかすると……
無意識のうちに緊張して、
ベルの袖を握る力が、強まった。