ヴァリアー編
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貴方の過去を知った。
貴方の現在を知った。
だから、
あたしはまた約束する。
3勝3敗
原形をとどめていない体育館の真ん中に、骸は立っていた。
その手には、霧のハーフリングが2つ。
「バカな!あのマーモンが!!」
レヴィもベルも信じられないという顔をしている。
「勝った………」
「圧倒的だぞ………」
バジルと了平さんの開いた口は塞がっていない。
「へへ♪」
犬ちゃんと千種はどこか誇らしげにしていた。
そして、ツナは骸の強さに息を飲んでいる。
「このリングを2つに合わせるのですね?」
「は、はい。」
チェルベッロも驚いてるみたい。
すると…
「まだだよ!!!」
バイパーの声が聞こえたかと思うと、体育館の至る所から黒い粉が集まって来て、その姿が現れた。
息も上がっていて、もう限界の筈なのに。
「少し遊んでやれば、図に乗りやがって!!僕の力はまだまだこんなモノでは………」
言葉が途中で途切れたのは、骸の姿が一瞬で移動したから。
『(逆さまだ……!)』
骸は体育館の天井部分に立っていた。
勿論、余裕な表情は変わらぬまま。
「ご存知ですよね?」
驚くバイパーに、落ち着いた声で話し掛ける骸。
「幻術を幻術で返されると言う事は、知覚のコントロール権を完全に奪われた事を示している。」
骸が言い終わると同時に、ファンタズマがバイパーの首を絞め始めた。
「グゲッ!やめろファンタズマ!!」
『(もう……終わりなんだ。マーモン……)』
「さぁ、力とやらを見せてもらいましょうか?」
骸の力で、今度は床が崩れ始める。
「ムギャ!!!」
「落ちるー!」
「おっと!」
『きゃあっ!!』
カプセルごと、暗い穴に吸い込まれそう。
いっその事、もう壊しちゃおうかな?
このカプセル。
「クハハハハ!どうですか?アルコバレーノ、僕の世界は!!」
骸はそのまま、苦しむバイパーの口の中へ。
するとバイパーはどんどん膨れ上がって。
「ンムーッ!!!」
ダメ、ダメ、
殺さないで。
「死ぬ、死ぬ~~~!!!」
「君の敗因はただ1つ、僕が相手だった事です。」
そんな骸の言葉が聞こえた次の瞬間、
「ギャ!!」
『マーモンっ!!!』
バイパーは本当に砕け散ってしまった。
すると、体育館はもとに戻って、あたしのカプセルも自動的に開いた。
その後、微かにバイパーが体育館の外に逃げて行った気配がした。
『(死んでない………)』
あたしはひとまずホッとする。
『…………あれ?』
立てないや。
三半規管がどうかしちゃったみたい。
「これで………いいですか?」
骸がチェルベッロに霧のリングを見せた。
そして、判定が下される。
「霧のリングはクローム髑髏の物となりましたので、この勝負の勝者はクローム髑髏とします。」
『勝った……』
あたしの声が耳に入ったのか、骸はこっちを向いた。
「お久しぶりです、檸檬。」
『……………うんっ♪』
カプセルの中に座りっ放しだったあたしに疑問を抱いたのか、骸はこっちに来て、手を差し伸べた。
「どうぞ。」
『あ、ありがと。』
その手を握ると、強く引っ張られてそのまま骸の腕の中へ。
目が回り過ぎてちゃんと自分で立てないあたしは、骸に寄り掛かる。
するとツナが
「あの赤ん坊は……ホントに粉々に……?」
って聞いたから、
骸は小さなため息をついて答えた。
「この期に及んで敵に情けをかけるとは、どこまでも甘い男ですね、沢田綱吉。」
『ツナ、マーモンはどっか行っちゃったよ。』
「へ??」
「あの赤ん坊は最初から逃走用のエネルギーは使わないつもりだった。抜け目のないアルコバレーノだ。」
骸の言葉に反応したのは、ボスだった。
「ゴーラ・モスカ。争奪戦後、マーモンを消せ。」
『ボス……!』
「まったく君は、マフィアの闇そのものですね、ザンザス。」
骸がボスに話しかけて、あたしは少し驚いた。
「君の考えている恐ろしい企てには、僕すら畏怖の念を感じますよ。」
『え……?』
骸は…何か知ってるの?
「なに、その話に首を突っ込むつもりはありませんよ。僕はいい人間ではありませんからね。ただ1つ……」
骸はあたしを支えつつ、方向転換しながら言った。
「君より弱く小さいもう1人の後継者候補を、あまり弄ばないほうがいい。」
『(骸……)』
言い終わると、骸はツナ達の方に向かって数歩歩いた。
途端に、犬ちゃんと千種が駆け寄って来る。
「骸様!!」
「すんげー!!やっぱつえーー!!」
「檸檬、脳は大丈夫ですか?」
『え?あ、うん!もう大丈夫だよ、ありがとう。』
あたしが笑顔で返すと、隼人が突っかかって来た。
「てんめー!どの面下げて来やがった!!!檸檬から離れろ!!!」
「ちょっ……」
「おい、獄寺!」
止めようとするツナと武だったが、骸は言った。
「それくらい警戒した方がいいでしょうねぇ。僕もマフィアなどと馴れ合うつもりはない。」
あたしは、黒曜センターで犬ちゃんと千種に聞いた事を思い出す。
そしたらふと、骸があたしの手を握る力が強まった気がした。
『(骸……?)』
「僕が霧の守護者になったのは、君の体を乗っ取るのに都合がいいからだ、沢田綱吉。」
違うって、分かった。
犬ちゃんと千種の為でもあるんでしょ?
それは、ツナにも分かってるようだった。
「それに…」
骸はあたしと視線を合わせる。
「向こうに行かれてしまっては、約束が果たせなくなると思いましたから。」
『骸…』
「また、会えましたね、檸檬。」
骸は優しく微笑んで、あたしをぎゅっと抱きしめた。
「てめー!檸檬に何して……!」
『隼人、いいの。』
骸の背中をそっと摩って、小さな声で返した。
『約束……守ってくれて、ありがとう。』
そしたら、骸の体が少し震えたような気がした。
直後に聞こえた、小さな返答。
「もう一度………同じ約束をしてくれますか?」
『え?』
「またいつか………今度は本当の僕と、再会してくれますか?」
そっか、
ここにいる骸は、幻覚によって実体化しただけ。
本当の骸は復讐者の監獄の中………
『勿論っ♪』
また一緒に、笑えるといいね。
見ると、犬ちゃんと千種も側で笑ってた。
何だか、黒曜センターにいた時に戻ったみたいだった。
『骸……あんまり無理しないで。もう休んだ方がいいよ。』
「…………そうですね。」
だんだんと弱くなって来ている、骸のリズム。
このままじゃホントに消えちゃいそうで、怖くなった。
そしたらツナが、慌てて言った。
「骸………とりあえず、ありがとう。」
骸は一瞬だけ、安堵の笑みを浮かべた。
「檸檬、この娘をお願い出来ますか?」
『うん、いいよ。』
「少々……疲れました………」
そのままあたしにもたれ掛かった骸は、次の瞬間髑髏に戻っていた。
髑髏をしっかり支えるあたしに、犬ちゃんが言う。
「檸檬、頼むびょん。」
『オッケー♪』
後ろでは、みんなが驚いていた。
「また女になったぞ!」
「どーなっている!」
その横で、リボーンが深刻そうに何かを考えていた。
「(骸の奴、無茶したな。自分を実現化する程の力を使ったんだ。しばらくはこっちに出てこれねーかもな。)」
「どーなってんだ?骸が幻覚だったのか!?それともこいつが幻覚………?」
「そ、そーだ!この子、内臓は!?」
『大丈夫みたい。骸の幻覚が助けてくれてるよ。』
「良かった………」
あたしの返事を聞いたツナは、ホッと胸を撫で下ろした。
同時に、犬ちゃんと千種が歩き出す。
「犬、行こう。」
「うい。」
「え?ちょ、この子は!?」
「起きりゃ自分で歩けんだろ?その女ちやほやする気はねーし。」
『髑髏は骸じゃない、でしょ?』
あたしの言葉に、千種が無言で頷いた。
「(そうだ……骸は今、寒くて真っ暗な………)」
「同情すんなよ。」
「え?」
「強力な幻術で一度仲間にされていた檸檬はともかく、お前は骸のやった事を、忘れちゃならねーんだ。」
リボーンに言われたツナは、少しだけつらそうな顔をしていた。
『そーだ!あたし、先に病院に行ってるね。』
そう言って檸檬は髑髏を背負う。
少し戸惑う一同。
そんな中ベルが、檸檬を引き止めた。
「檸檬!」
『ん?』
「ブーツ、持って来たー♪」
『ほぇ?』
ナイスコントロールで投げられる一足のブーツ。
それは見事檸檬の手中に収まる。
『ありがと!ベル!』
「んーん♪じゃ、また明日ー♪」
『うんっ!』
大きく頷いた後、檸檬は俊足で姿を消した。
しばらく沈黙が流れ、チェルベッロが口火を切る。
「勝負は互いに3勝となりましたので、引き続き争奪戦を行います。」
「明日はいよいよ争奪戦守護者対決最後のカード、雲の守護者の対決です。」
「雲雀の出番だな。」
「ああ。」
「おいザンザス、どーするんだ?」
リボーンが不意に話し掛ける。
「次で雲雀が勝てば、リングの数の上では4対3となり、すでにお前が大空のリングを手に入れているとは言え、ツナ達の勝利は決定するぞ。」
それを聞いて初めて、みんなが納得する。
「そん時は約束通り負けを認め、後継者としての全ての権利を放棄するんだろーな。」
「あたりめーだ。」
ザンザスは不敵な笑みを浮かべつつ、答える。
「ボンゴレの精神を尊重し、決闘の約束は守る。雲の対決でモスカが負けるような事があれば、全てをてめーらにくれてやる。」
そして、思い出したように付け足す。
「勿論………檸檬もだ。」
すると、了平が意気込む。
「あと1つか!!」
獄寺も口角を上げて。
「認めたくねーがアイツなら……!」
しかし、コロネロが水をさすように言う。
「そいつは甘いぜコラ!」
「え?」
疑問符を浮かべるツナ達に、同じく深刻な顔つきのリボーンが言う。
「あのザンザスがココまで言い切るという事は………あのモスカって奴が絶対に勝つという確信があるからだ。」
「それって……雲雀さんが……」
あり得ない事を想定しなければいけない状況に、ツナは困惑した。
---
------
-----------
ディーノが手配した廃病院。
その一室に髑髏を運んだ檸檬は、静かにその横に立っていた。
「檸檬、まだいたのか?」
ドアが開いて、ディーノが入って来る。
檸檬は振り返って、小さく頷いた。
『犬ちゃんと千種と骸に、頼まれたんだもん。』
「そか………」
側にあった椅子に座るディーノ。
檸檬は窓際に立つ。
『明日で、決まるんだね。』
「そーだな。」
『実感………湧かないや。』
「そーか………」
少しの沈黙の後、ディーノは檸檬に問いかける。
「恭弥んトコ、行かねーのか?」
『え?』
「会わねーのか?」
檸檬は少し哀しそうに笑った。
『行かない。』
「いーのか?」
『うん。』
俯く檸檬に、ディーノは歩み寄る。
「何か、ワケがあんだろ?」
『2つあるの。』
「教えてくれるか?」
檸檬はちょっと考えてから、軽く頷いた。
『1つはね、勝負を控えた守護者との接触をチェルベッロに制限されてるから。』
「もう1つは?」
『マーモンが………』
檸檬は顎に手を当てて、何かを考え始めた。
『マーモンが言ってた事が、気になって………』
レヴィが勝った日、眠る直前に聞いた声。
---「僕、ボスが言ってたのを聞いたんだ。檸檬が、______の________________だって。」
何て言ったんだろう。
今更気になり始めて、不安になり始めた。
それに、ボスも言ってた。
---「これから、もっとつらくなる。」
『嫌な予感が………止まらないの。』
今、恭弥に会っちゃいけない気がするの。
無意識に震えるあたしの髪を、ディーノはそっと撫でた。
「心配すんな、恭弥は負けねーよ。」
『うん……』
それに、もう1つ不安な事がある。
今、ボスの側にいるモスカは、あたしが知ってるモスカじゃない。
何かが違う。
だから………怖くて怖くてたまらない。
『ディーノ、これから恭弥に会いに行くよね?』
「ああ。勝負の事、伝えなくちゃな。」
『気を付けてって………言って欲しいの。』
「あぁ、分かった。」
ディーノが笑ったから、あたしも安心した。
「んじゃ、行って来るぜ。」
『いってらっしゃい、ディーノ。』
チュッ、
ディーノの頬にキスして、髑髏のベッドサイドの椅子に座った。
病室のドアが閉まると、また窓の外を見る。
『綺麗な月………』
それを見てると、色々なモノが洗い流されるようで。
安心すると同時に、涙が溢れた。
あたしは…
どっちに行きたいんだろう?
どっちで生きたいんだろう?
『わかんないや。』
「………何が?」
『え?』
突然聞き返されて、吃驚した。
見ると、髑髏が目を覚ましてあたしを見ていた。
『髑髏…!?え?起きてたの!?大丈夫!?』
「さっき起きたの……。」
まだ起きあがれてないから、回復しきってないんだなって思った。
『今日は、お疲れさま。』
「うん………」
そこで一旦会話が途切れる。
「ありがと。」
『へ?』
「骸様に……会ってくれて。」
髑髏が真直ぐな目でそう言ったから、あたしはほんの少し吃驚した。
「檸檬さんは、骸様が大切にしてる人だから………私、頑張る。」
『髑髏……』
何だか、不思議だった。
あたしはボンゴレに入るまで、大切にされた事なんてなかったのに、
今では周りが大切に思ってくれてる。
『ありがとう、髑髏。』
嬉しくて、
あったかくなった。
『あたしね、ずっとずっと1人ぼっちだったの。だから……すっごく嬉しい。』
「檸檬さんも?」
“も”………って事は……
『髑髏も?』
「骸様に出会うまで、ずっと。」
髑髏は寂しそうに言った。
それから、あたし達は互いの昔話をし合った。
共通点は、
“親の愛情を受けなかった”
って事。
「骸様が、必要だって言ってくれたのが………嬉しかったの。」
『ディーノが、1人じゃないって言ってくれたのが、嬉しかった。』
おんなじだね。
「檸檬さん、」
『ん?』
「行かないでね。」
『え………?』
髑髏はまた、真直ぐあたしを見つめた。
「私、また檸檬さんとお話したい。」
『髑髏……』
友達が増えた。
仲間が増えた。
それが、今生きているあたしの喜び。
『あたしも、また髑髏とお喋りしたいな。今度はケーキ食べに行こうよ。』
「うん。」
約束が増えた。
それも嬉しい事。
けれど、明日モスカが勝ったら、
この約束は守れない。
『(ベル………)』
思い出したら恥ずかしくなって、
同時に少し哀しくなった。
---
------
-----------
檸檬がいる病院から、それほど遠くない土手。
そこにやって来たディーノは歩きながら話し掛ける。
「お前の勝負は明日になりそーだぜ。調子はどーだ?」
すると、背を向けていた人物は、くるっと振り返る。
「試してみなよ。」
握られているのは、愛用のトンファー。
見せる表情は、挑発的なモノ。
彼、雲雀恭弥は、これからディーノに最悪の事実を聞かされる事になる。
「明日もし負けたら、檸檬はヴァリアーの1人の彼女になっちまうんだ。」
「………………何それ。」
貴方の現在を知った。
だから、
あたしはまた約束する。
3勝3敗
原形をとどめていない体育館の真ん中に、骸は立っていた。
その手には、霧のハーフリングが2つ。
「バカな!あのマーモンが!!」
レヴィもベルも信じられないという顔をしている。
「勝った………」
「圧倒的だぞ………」
バジルと了平さんの開いた口は塞がっていない。
「へへ♪」
犬ちゃんと千種はどこか誇らしげにしていた。
そして、ツナは骸の強さに息を飲んでいる。
「このリングを2つに合わせるのですね?」
「は、はい。」
チェルベッロも驚いてるみたい。
すると…
「まだだよ!!!」
バイパーの声が聞こえたかと思うと、体育館の至る所から黒い粉が集まって来て、その姿が現れた。
息も上がっていて、もう限界の筈なのに。
「少し遊んでやれば、図に乗りやがって!!僕の力はまだまだこんなモノでは………」
言葉が途中で途切れたのは、骸の姿が一瞬で移動したから。
『(逆さまだ……!)』
骸は体育館の天井部分に立っていた。
勿論、余裕な表情は変わらぬまま。
「ご存知ですよね?」
驚くバイパーに、落ち着いた声で話し掛ける骸。
「幻術を幻術で返されると言う事は、知覚のコントロール権を完全に奪われた事を示している。」
骸が言い終わると同時に、ファンタズマがバイパーの首を絞め始めた。
「グゲッ!やめろファンタズマ!!」
『(もう……終わりなんだ。マーモン……)』
「さぁ、力とやらを見せてもらいましょうか?」
骸の力で、今度は床が崩れ始める。
「ムギャ!!!」
「落ちるー!」
「おっと!」
『きゃあっ!!』
カプセルごと、暗い穴に吸い込まれそう。
いっその事、もう壊しちゃおうかな?
このカプセル。
「クハハハハ!どうですか?アルコバレーノ、僕の世界は!!」
骸はそのまま、苦しむバイパーの口の中へ。
するとバイパーはどんどん膨れ上がって。
「ンムーッ!!!」
ダメ、ダメ、
殺さないで。
「死ぬ、死ぬ~~~!!!」
「君の敗因はただ1つ、僕が相手だった事です。」
そんな骸の言葉が聞こえた次の瞬間、
「ギャ!!」
『マーモンっ!!!』
バイパーは本当に砕け散ってしまった。
すると、体育館はもとに戻って、あたしのカプセルも自動的に開いた。
その後、微かにバイパーが体育館の外に逃げて行った気配がした。
『(死んでない………)』
あたしはひとまずホッとする。
『…………あれ?』
立てないや。
三半規管がどうかしちゃったみたい。
「これで………いいですか?」
骸がチェルベッロに霧のリングを見せた。
そして、判定が下される。
「霧のリングはクローム髑髏の物となりましたので、この勝負の勝者はクローム髑髏とします。」
『勝った……』
あたしの声が耳に入ったのか、骸はこっちを向いた。
「お久しぶりです、檸檬。」
『……………うんっ♪』
カプセルの中に座りっ放しだったあたしに疑問を抱いたのか、骸はこっちに来て、手を差し伸べた。
「どうぞ。」
『あ、ありがと。』
その手を握ると、強く引っ張られてそのまま骸の腕の中へ。
目が回り過ぎてちゃんと自分で立てないあたしは、骸に寄り掛かる。
するとツナが
「あの赤ん坊は……ホントに粉々に……?」
って聞いたから、
骸は小さなため息をついて答えた。
「この期に及んで敵に情けをかけるとは、どこまでも甘い男ですね、沢田綱吉。」
『ツナ、マーモンはどっか行っちゃったよ。』
「へ??」
「あの赤ん坊は最初から逃走用のエネルギーは使わないつもりだった。抜け目のないアルコバレーノだ。」
骸の言葉に反応したのは、ボスだった。
「ゴーラ・モスカ。争奪戦後、マーモンを消せ。」
『ボス……!』
「まったく君は、マフィアの闇そのものですね、ザンザス。」
骸がボスに話しかけて、あたしは少し驚いた。
「君の考えている恐ろしい企てには、僕すら畏怖の念を感じますよ。」
『え……?』
骸は…何か知ってるの?
「なに、その話に首を突っ込むつもりはありませんよ。僕はいい人間ではありませんからね。ただ1つ……」
骸はあたしを支えつつ、方向転換しながら言った。
「君より弱く小さいもう1人の後継者候補を、あまり弄ばないほうがいい。」
『(骸……)』
言い終わると、骸はツナ達の方に向かって数歩歩いた。
途端に、犬ちゃんと千種が駆け寄って来る。
「骸様!!」
「すんげー!!やっぱつえーー!!」
「檸檬、脳は大丈夫ですか?」
『え?あ、うん!もう大丈夫だよ、ありがとう。』
あたしが笑顔で返すと、隼人が突っかかって来た。
「てんめー!どの面下げて来やがった!!!檸檬から離れろ!!!」
「ちょっ……」
「おい、獄寺!」
止めようとするツナと武だったが、骸は言った。
「それくらい警戒した方がいいでしょうねぇ。僕もマフィアなどと馴れ合うつもりはない。」
あたしは、黒曜センターで犬ちゃんと千種に聞いた事を思い出す。
そしたらふと、骸があたしの手を握る力が強まった気がした。
『(骸……?)』
「僕が霧の守護者になったのは、君の体を乗っ取るのに都合がいいからだ、沢田綱吉。」
違うって、分かった。
犬ちゃんと千種の為でもあるんでしょ?
それは、ツナにも分かってるようだった。
「それに…」
骸はあたしと視線を合わせる。
「向こうに行かれてしまっては、約束が果たせなくなると思いましたから。」
『骸…』
「また、会えましたね、檸檬。」
骸は優しく微笑んで、あたしをぎゅっと抱きしめた。
「てめー!檸檬に何して……!」
『隼人、いいの。』
骸の背中をそっと摩って、小さな声で返した。
『約束……守ってくれて、ありがとう。』
そしたら、骸の体が少し震えたような気がした。
直後に聞こえた、小さな返答。
「もう一度………同じ約束をしてくれますか?」
『え?』
「またいつか………今度は本当の僕と、再会してくれますか?」
そっか、
ここにいる骸は、幻覚によって実体化しただけ。
本当の骸は復讐者の監獄の中………
『勿論っ♪』
また一緒に、笑えるといいね。
見ると、犬ちゃんと千種も側で笑ってた。
何だか、黒曜センターにいた時に戻ったみたいだった。
『骸……あんまり無理しないで。もう休んだ方がいいよ。』
「…………そうですね。」
だんだんと弱くなって来ている、骸のリズム。
このままじゃホントに消えちゃいそうで、怖くなった。
そしたらツナが、慌てて言った。
「骸………とりあえず、ありがとう。」
骸は一瞬だけ、安堵の笑みを浮かべた。
「檸檬、この娘をお願い出来ますか?」
『うん、いいよ。』
「少々……疲れました………」
そのままあたしにもたれ掛かった骸は、次の瞬間髑髏に戻っていた。
髑髏をしっかり支えるあたしに、犬ちゃんが言う。
「檸檬、頼むびょん。」
『オッケー♪』
後ろでは、みんなが驚いていた。
「また女になったぞ!」
「どーなっている!」
その横で、リボーンが深刻そうに何かを考えていた。
「(骸の奴、無茶したな。自分を実現化する程の力を使ったんだ。しばらくはこっちに出てこれねーかもな。)」
「どーなってんだ?骸が幻覚だったのか!?それともこいつが幻覚………?」
「そ、そーだ!この子、内臓は!?」
『大丈夫みたい。骸の幻覚が助けてくれてるよ。』
「良かった………」
あたしの返事を聞いたツナは、ホッと胸を撫で下ろした。
同時に、犬ちゃんと千種が歩き出す。
「犬、行こう。」
「うい。」
「え?ちょ、この子は!?」
「起きりゃ自分で歩けんだろ?その女ちやほやする気はねーし。」
『髑髏は骸じゃない、でしょ?』
あたしの言葉に、千種が無言で頷いた。
「(そうだ……骸は今、寒くて真っ暗な………)」
「同情すんなよ。」
「え?」
「強力な幻術で一度仲間にされていた檸檬はともかく、お前は骸のやった事を、忘れちゃならねーんだ。」
リボーンに言われたツナは、少しだけつらそうな顔をしていた。
『そーだ!あたし、先に病院に行ってるね。』
そう言って檸檬は髑髏を背負う。
少し戸惑う一同。
そんな中ベルが、檸檬を引き止めた。
「檸檬!」
『ん?』
「ブーツ、持って来たー♪」
『ほぇ?』
ナイスコントロールで投げられる一足のブーツ。
それは見事檸檬の手中に収まる。
『ありがと!ベル!』
「んーん♪じゃ、また明日ー♪」
『うんっ!』
大きく頷いた後、檸檬は俊足で姿を消した。
しばらく沈黙が流れ、チェルベッロが口火を切る。
「勝負は互いに3勝となりましたので、引き続き争奪戦を行います。」
「明日はいよいよ争奪戦守護者対決最後のカード、雲の守護者の対決です。」
「雲雀の出番だな。」
「ああ。」
「おいザンザス、どーするんだ?」
リボーンが不意に話し掛ける。
「次で雲雀が勝てば、リングの数の上では4対3となり、すでにお前が大空のリングを手に入れているとは言え、ツナ達の勝利は決定するぞ。」
それを聞いて初めて、みんなが納得する。
「そん時は約束通り負けを認め、後継者としての全ての権利を放棄するんだろーな。」
「あたりめーだ。」
ザンザスは不敵な笑みを浮かべつつ、答える。
「ボンゴレの精神を尊重し、決闘の約束は守る。雲の対決でモスカが負けるような事があれば、全てをてめーらにくれてやる。」
そして、思い出したように付け足す。
「勿論………檸檬もだ。」
すると、了平が意気込む。
「あと1つか!!」
獄寺も口角を上げて。
「認めたくねーがアイツなら……!」
しかし、コロネロが水をさすように言う。
「そいつは甘いぜコラ!」
「え?」
疑問符を浮かべるツナ達に、同じく深刻な顔つきのリボーンが言う。
「あのザンザスがココまで言い切るという事は………あのモスカって奴が絶対に勝つという確信があるからだ。」
「それって……雲雀さんが……」
あり得ない事を想定しなければいけない状況に、ツナは困惑した。
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ディーノが手配した廃病院。
その一室に髑髏を運んだ檸檬は、静かにその横に立っていた。
「檸檬、まだいたのか?」
ドアが開いて、ディーノが入って来る。
檸檬は振り返って、小さく頷いた。
『犬ちゃんと千種と骸に、頼まれたんだもん。』
「そか………」
側にあった椅子に座るディーノ。
檸檬は窓際に立つ。
『明日で、決まるんだね。』
「そーだな。」
『実感………湧かないや。』
「そーか………」
少しの沈黙の後、ディーノは檸檬に問いかける。
「恭弥んトコ、行かねーのか?」
『え?』
「会わねーのか?」
檸檬は少し哀しそうに笑った。
『行かない。』
「いーのか?」
『うん。』
俯く檸檬に、ディーノは歩み寄る。
「何か、ワケがあんだろ?」
『2つあるの。』
「教えてくれるか?」
檸檬はちょっと考えてから、軽く頷いた。
『1つはね、勝負を控えた守護者との接触をチェルベッロに制限されてるから。』
「もう1つは?」
『マーモンが………』
檸檬は顎に手を当てて、何かを考え始めた。
『マーモンが言ってた事が、気になって………』
レヴィが勝った日、眠る直前に聞いた声。
---「僕、ボスが言ってたのを聞いたんだ。檸檬が、______の________________だって。」
何て言ったんだろう。
今更気になり始めて、不安になり始めた。
それに、ボスも言ってた。
---「これから、もっとつらくなる。」
『嫌な予感が………止まらないの。』
今、恭弥に会っちゃいけない気がするの。
無意識に震えるあたしの髪を、ディーノはそっと撫でた。
「心配すんな、恭弥は負けねーよ。」
『うん……』
それに、もう1つ不安な事がある。
今、ボスの側にいるモスカは、あたしが知ってるモスカじゃない。
何かが違う。
だから………怖くて怖くてたまらない。
『ディーノ、これから恭弥に会いに行くよね?』
「ああ。勝負の事、伝えなくちゃな。」
『気を付けてって………言って欲しいの。』
「あぁ、分かった。」
ディーノが笑ったから、あたしも安心した。
「んじゃ、行って来るぜ。」
『いってらっしゃい、ディーノ。』
チュッ、
ディーノの頬にキスして、髑髏のベッドサイドの椅子に座った。
病室のドアが閉まると、また窓の外を見る。
『綺麗な月………』
それを見てると、色々なモノが洗い流されるようで。
安心すると同時に、涙が溢れた。
あたしは…
どっちに行きたいんだろう?
どっちで生きたいんだろう?
『わかんないや。』
「………何が?」
『え?』
突然聞き返されて、吃驚した。
見ると、髑髏が目を覚ましてあたしを見ていた。
『髑髏…!?え?起きてたの!?大丈夫!?』
「さっき起きたの……。」
まだ起きあがれてないから、回復しきってないんだなって思った。
『今日は、お疲れさま。』
「うん………」
そこで一旦会話が途切れる。
「ありがと。」
『へ?』
「骸様に……会ってくれて。」
髑髏が真直ぐな目でそう言ったから、あたしはほんの少し吃驚した。
「檸檬さんは、骸様が大切にしてる人だから………私、頑張る。」
『髑髏……』
何だか、不思議だった。
あたしはボンゴレに入るまで、大切にされた事なんてなかったのに、
今では周りが大切に思ってくれてる。
『ありがとう、髑髏。』
嬉しくて、
あったかくなった。
『あたしね、ずっとずっと1人ぼっちだったの。だから……すっごく嬉しい。』
「檸檬さんも?」
“も”………って事は……
『髑髏も?』
「骸様に出会うまで、ずっと。」
髑髏は寂しそうに言った。
それから、あたし達は互いの昔話をし合った。
共通点は、
“親の愛情を受けなかった”
って事。
「骸様が、必要だって言ってくれたのが………嬉しかったの。」
『ディーノが、1人じゃないって言ってくれたのが、嬉しかった。』
おんなじだね。
「檸檬さん、」
『ん?』
「行かないでね。」
『え………?』
髑髏はまた、真直ぐあたしを見つめた。
「私、また檸檬さんとお話したい。」
『髑髏……』
友達が増えた。
仲間が増えた。
それが、今生きているあたしの喜び。
『あたしも、また髑髏とお喋りしたいな。今度はケーキ食べに行こうよ。』
「うん。」
約束が増えた。
それも嬉しい事。
けれど、明日モスカが勝ったら、
この約束は守れない。
『(ベル………)』
思い出したら恥ずかしくなって、
同時に少し哀しくなった。
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檸檬がいる病院から、それほど遠くない土手。
そこにやって来たディーノは歩きながら話し掛ける。
「お前の勝負は明日になりそーだぜ。調子はどーだ?」
すると、背を向けていた人物は、くるっと振り返る。
「試してみなよ。」
握られているのは、愛用のトンファー。
見せる表情は、挑発的なモノ。
彼、雲雀恭弥は、これからディーノに最悪の事実を聞かされる事になる。
「明日もし負けたら、檸檬はヴァリアーの1人の彼女になっちまうんだ。」
「………………何それ。」