ヴァリアー編
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武の最後の賭けに、
アロちゃんも最大級の奥義で挑む。
お願い、
2人共死なないで……
雨の勝負の結末
アロちゃんの視界から消えた武は、真横で身構えていた。
「かわした!」
「で、どーした!?」
水を纏ったアロちゃんが、武のいる方に向きを変える。
『すごい…』
「何て反応速度だ!」
武に斬り掛かるアロちゃん。
かろうじて防いだ武は、そのまま柱の影に。
「山本ォ!!」
「ギリだぜ!!」
了平さんと隼人が言い、あたしは両手を組む力を強める。
「とどめだぁ!」
『(武っ…!)』
と、その時。
柱に向かっていくアロちゃんの後ろに、ぼんやりと何か浮かび上がる。
まさか、
あれって…
武……?
「(逆!!?)」
アロちゃんだけでなく、ツナやバジルも驚く。
「(ここまでやるとはな……だが俺の剣に………)死角はない!!」
カチン、
『あっ…!』
「義手!?」
『アロちゃん………』
知らなかった。
今分かった。
手を繋ぐ時、アロちゃんがいつも右手を差し出すワケ。
左でいつでも攻撃出来るようにする為じゃなくて…
後ろに曲がったアロちゃんの萱は、確かに武を貫いた。
だけど…
ドバシャッ、
アロちゃんに降り掛かったのは、
武の血じゃなくて、水。
「(まさか、俺が切ったのは……)」
「水面に映った影か。」
真正面から武が降りて来る。
刀を振り上げて。
『これが……』
時雨蒼燕流、攻式九の型---
うつし雨------
最初の一太刀で波を作り、おびき出した相手の後ろに自分の虚像を作る。
『(やっ……た………)』
アロちゃんの首の鎖を切り、指輪をとる武。
これで武が…
武が………
「勝ったぜ♪」
「あいつ…………」
「山本………」
「やりましたね!!」
カプセルが開いて、あたしは飛び出した。
『武っ!!』
「よぉ、檸檬!」
傷だらけの体に、ぎゅっと抱きつく。
『おめでとう♪』
「へへっ。だってよ、檸檬と約束したじゃねーか。ぜってぇ勝つってさ!」
『うん……うん………!』
大きく頷いた後、あたしはしゃがんでアロちゃんに聞いた。
『アロちゃん………大丈夫?』
アロちゃんは気を失ってるみたいで、何も言わなかった。
「ぶったまげ。」
「まさか、こんな事がね………」
ベルとマーモンの声がした。
ザンザスの脳裏には、8年前の記憶が蘇る。
---
------
------------
「う"お"ぉいザンザス!!誓ってやるぜぇ。」
ヴァリアーのアジトのバルコニーにて。
ザンザスとスクアーロは2人で話していた。
「俺は例の計画が成就されるまで髪は切らねぇ。」
「あ"?」
「俺の願掛けだ。お前も誓え、髪は切るな。」
「はんっ、下らねぇ。剣帝に使い物にならなくされたその手で、役に立てるのか?」
「う"お"ぉい、勘違いすんなよ!俺は左手を持たない剣帝の技を理解する為にこの手を落としたんだ。」
スクアーロの左手は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「これが俺の、お前とやっていく為の覚悟だ。」
そう言って強い視線を送るスクアーロに、ザンザスも同じような視線を返す。
するとスクアーロはにやりと笑って。
「まぁ見てろ、御曹司。」
そして、ザンザスの肩に手をかけ言った。
「これから先お前は、俺を仲間にした事に感謝する日が必ず来る。」
---
------
-----------
「スクアーロ………」
ボスが、アロちゃんの名前を呟いたのが聞こえた。
そしたら、ボスの表情は何処か切なげで。
『(ボス…)』
「ざまぁねぇ!!負けやがった!!!カスが!!!」
一瞬見せたあの表情を隠すかのように、ボスは笑い出す。
そして、最後に一言。
「用済みだ。」
『えっ………!?』
「ボスが直接手を下さなくとも、」
「僕がやってこよーか?」
みんな…
何言ってるの??
そんなのイヤだよ!
あたしが止めようとした、その時。
チェルベッロがワンテンポ早くヴァリアーに言った。
「お待ち下さい。今アクアリオンに入るのは危険です。」
ゴゥン………
『え?』
「どした?檸檬。」
何かの錠が外れた音。
それと…
『すごく……大きな生き物の気配がする。』
「規定水深に達した為、獰猛な海洋生物が放たれました。」
「そんな………!」
武は慌ててチェルベッロに聞く。
「ちょ………待てよ。スクアーロはどーすんだ?」
「スクアーロ氏は敗者となりましたので、生命の保証は致しません。」
「やっぱな、んなこったろーと思ったぜ。」
アロちゃんを担ごうとする武を、あたしは止めた。
「檸檬?」
『武、先に行って。あたしがアロちゃん運ぶから。』
「………オッケ♪悪ぃな、檸檬。」
『んーん♪』
武は一段上に昇る。
『ほらアロちゃん、行くよ。』
答えないのは分かってたけど、あたしはアロちゃんにそう言ってから背負った。
「うわー、俺のお姫さまに担いでもらうなんて、最低ーっ。」
「助けてもどうなるか分からないのにね。」
周りの声は聞こえなかった。
アロちゃんの細い息遣いが、あたしの耳の一番近くにあったから。
『ちゃんと………怪我治すんだよ?アロちゃん。』
「うっ……せぇ………。」
『ほぁ?』
アロちゃんの返事が聞こえて来て、あたしは一瞬吃驚した。
同時に、
「檸檬!急げ!!」
上から武の声が聞こえた。
『うんっ!』
あたしが踏み出そうとした、その時。
ガンッ、
『え……!?』
「血の匂いに反応して、鮫が寄ってきたぞ!!」
「で、でけぇ!!」
『やっば!』
届かないと思ってたけど、鮫は頭が良いようで、近くの柱を噛み砕き始めた。
『きゃあっ!!』
ガラガラガラ…
床が崩れて、あたしとアロちゃんは下に1階分落ちる。
「「「檸檬!!!」」」
「檸檬殿!!」
『よっ………と!』
体勢を立て直して、昇ろうとする。
だけど……
「う"お"ぉい檸檬…………」
『何?アロちゃん。あたし今、忙しいんだけどっ。』
「下ろせ。」
『はい!!?』
一瞬耳を疑う。
その隙にアロちゃんは思いっきり暴れて、あたしの背中から降りた。
『なっ、何してんのよっ!』
「刀のガキに伝えとけ。剣の筋は悪くねぇから、甘さを捨てろ……………ってな。」
その言い方が、
まるで……
最期みたいで。
『い、イヤ!自分で伝えなさいよっ!!』
アロちゃんの袖をぐいぐい引っ張る。
だけど、アロちゃんはしゃがんだまま動かない。
『ほら!立ってよ!!アロちゃんっ!!!』
「俺は、負けたんだぁ。」
『関係ない!ねぇ、立って!!ヴァリアーのトコに帰るんだよ!!』
何故か、涙が溢れて止まらない。
『(こうなったら剛腕使って……)』
アロちゃんの服を握り直した、その時だった。
ぐいっ、
『え?』
崩れ落ちゆく床の上で、アロちゃんにぎゅっと抱き締められる。
『アロちゃん??う…動けないよっ…………!早く立たなくちゃ。ね?』
「檸檬……」
こんな時なのに、
どうしてそんな落ち着いた声をしてるの?
「檸檬は……やっぱり温ぃなぁ。」
『なっ……!』
そんな事言ってる場合じゃないよ!
後で聞くから、だから今すぐ立って!!
「俺ぁ、温い奴は嫌いだ。」
嫌いでも構わないよ。
だから立って、ここから逃げよう?
「温い奴はうぜぇ。」
『知ってる!知ってるよ!アロちゃんがそう思ってるの、知ってるもん!!』
だけど、生き延びて欲しいの。
それだけお願い。
「檸檬……」
抱き締められたまま、
何故か抵抗出来なくて、
あたしはただただ泣いていた。
ねぇ、早く………
立とうよ。
『アロちゃん、負けても大丈夫だよ。』
「いいかぁ、檸檬。このままだと……俺の剣士としての誇りが………汚れるんだよぉ。」
アロちゃんのバカ。
そんなのあたしが知るもんか。
どんだけ誇りが汚れたって、
アロちゃんに生きてて欲しいんだよ。
『ねぇ、早く立たないと………』
「温ぃ……うぜぇ………」
『分かってるから!!』
「けどな…………」
抱き締める力が強まって、
一瞬だけ時間が止まった。
「うぜぇ檸檬が、俺は好きだぜぇ。」
『え………?』
ドンッ、
『あ……………!』
崩れ落ちゆく床。
最早、水面と同じ高さ。
次の瞬間あたしは、
上の階に投げ飛ばされていた。
どうして?
アロちゃん…
ボロボロのクセに、
怪我してるクセに、
何処にそんな力があるのよぉ……
空中にいながらも、手を伸ばした。
アロちゃん、
アロちゃん、
死なないでっ………!!
「じゃぁなぁ、檸檬。」
『い…イヤ………』
鮫が近くに寄って来やがる。
血が好きなのかぁ………
俺と同じだなぁ。
---
------
------------
---「う"お"ぉい檸檬、どうしてお前はそんなに強ぇんだぁ!?」
---『えー?んー………護る為…かな。』
---「護る為だとぉ?」
---『人は何かを護る為なら、どこまでも強くなれるって、9代目とディーノが言ってた!』
---「檸檬は何を護るんだぁ?」
---『んーとね…………全部!!あたしの大切な人と、物と、場所っ!』
---「そぉかぁ。」
---『アロちゃんの事も、護ってあげるよ!』
---「なっ!俺はそんな弱くねぇ!!」
---『別にバカにしてるんじゃなくて。ほら、もし十億年に一度のミラクルが起きて、アロちゃんがピンチになった時の為にさ♪』
---
------
-----------
「起きちまったなぁ…檸檬…………」
自信満々な笑みで俺を護ると檸檬は言った。
だが…
今の檸檬は、涙で顔が歪みまくってやがる。
やっぱりお前は温いなぁ、
負けた俺の為に、そんなに泣くなんてよぉ。
「バカが…」
『アロちゃんっ!!!』
逆方向に飛ばされながら、目一杯腕を伸ばす檸檬。
それを見たら、何だか笑みがこぼれた。
「ありがとなぁ、檸檬。」
『アロちゃ……………!!』
ドサッ、
最後に檸檬が床に落ちた音がして、
そこで俺の意識は無くなった。
.伸ばした手の向こうに見えた光景は、
残酷なモノだった。
『い………や…………』
涙で滲んだ視界のせいで、ちゃんと見えなかったけど。
“アロちゃんが消えた”
それだけは、分かった。
1階の床に落ちたあたしのトコに、武がやって来る。
「スクアーロ!!!」
『アロちゃ……』
違う…違うよね?
嘘だよね…コレ。
夢なんだよね?
誰か、あたしを騙してるんでしょ?
『いやあああああ!!!!』
水の中に潜って、あのデカい鮫を殺してやるんだ!
そしたらアロちゃんが生還するでしょう?
立ち上がったあたしの腕を、武が掴んだ。
『なっ………!』
「檸檬、行くな!」
『嫌ぁっ!!』
「檸檬っ!!!」
だってだって、アロちゃんはまだ生きてるもん。
認めたくないんだもんっ!!
『放して、武!!』
「檸檬まで食われる気かよ!!」
『大丈夫だもん!放してぇーっ!!』
ホントに…
何処にそんな力があるの?
武の手は、決して振り払えなかった。
「檸檬…頼む………」
『だってっ………アロちゃんがぁー………』
死んで欲しくないの。
それは知ってるでしょ?
あたしが温い奴だって、
アロちゃんも知ってるでしょ?
『どうしてよアロちゃんっ……………アロちゃんっ……………スクアーローーーっ!!!』
思いっきり叫んだあたしは、思いっきり脱力した。
その場にぺたりと座り込む。
『ふぐっ……ぐすっ………』
「檸檬………ごめんな。」
『武が悪いんじゃ……ないもんっ。アロちゃんが……バカなんだよぉっ………』
止まらない涙。
そして、
上から降って来る笑い声。
「ぶはーっははは!!!最後がエサとは、あの………ドカスが!!」
『ボ…ス………』
それは、嘲笑なんかじゃなかった。
少なくともあたしには、そう聞こえた。
「っくしょー……………」
武の呟きも聞こえて、あたしは涙を拭った。
もう、どうしようもないのだ、と。
.皮肉にも、ショックを受けるのはヴァリアーではなく並盛側。
「………んだよっ!」
隼人が静かに俯く。
そして、チェルベッロが何事も無かったかのように判定を言い渡す。
「雨のリング争奪戦は、山本武の勝利です。それでは、次回の対戦カードを発表します。」
「こ、こんな終わり方……」
ツナもバジルも俯いて、ディーノも眉間に皺を寄せる。
「明晩の対戦は、霧の守護者同士の対決です。」
『(霧………)』
「おい、リボーン!来たぞ!!どーすんだよ!?霧の人って一体………!」
「いよいよ奴の出番だな。」
“奴”…
おそらく、リボーンが“あの日”口にした人が…
ツナ達の霧の守護者だ…
---
-----
体育館の上では、山本の戦いを大人しく観戦していた3人が、バッと動いた。
「檸檬……彼らには…渡しませんよ………」
そう一言、呟いて。
---
------
「んじゃ、帰るか。」
『うん………』
武とあたしが立ち上がった、その時。
「檸檬、」
『え?』
急にボスがあたしを呼んで、何かを投げた。
ポスッ、
キャッチして見てみると、それは………
「明日から着て来い。いつ決まるか分からねぇからな。」
『うん………分かった。』
それは、仕立て直してあるヴァリアーの隊服。
あたし専用の、世界一軽い服。
「ブーツは明日持って来るからね♪」
『うん。』
ベルが手を振りながら言った。
それを最後に、ヴァリアーのみんなは姿を消した。
それからあたしは、武と一緒に病院に行った。
===========
夜の廃病院。
廊下の長椅子に、1人腰掛ける檸檬。
「なんだ、まだ帰ってなかったのか?」
『ディーノ………』
向かいの病室から顔を出したのは、ディーノだった。
「てっきり山本と帰ったんだと思ったぜ。」
『力抜けちゃって。』
檸檬は小さなため息をついた。
それを見て、ディーノは隣に座る。
病院の、少し薄暗いライトが2人を照らした。
「なぁ、檸檬………」
『んー?』
聞きたい事があったんだ。
「どうして、ベルフェゴールの話を受けた?」
『え…?』
多分俺は、すごく身勝手だ。
檸檬は今、スクアーロの事でショック受けてるってのに、こんな事聞くんだもんな。
『隼人に、聞いたの?』
「あぁ。」
『そっか……』
少しだけ重い沈黙が流れる。
俺は、黙って檸檬の答えを待つ。
『ディーノには…』
「ん?」
『関係ない、ハズだよ…』
虚ろな目をした檸檬は、そう言った。
そうだ、確かに関係ない。
檸檬が檸檬の相手を探すのは自由であって、
それは俺には関係ない。
関係あると思ってるのは、俺の方だけ。
それでも知りたいと思うのは……、
檸檬のことが、好きだから。
大事な大事な妹分を、それ以上に想ってるから。
だから…
『ディーノ…大丈夫?』
「檸檬……悪ぃ…」
顔を覗きこもうとする檸檬を、抱き寄せた。
こんな情けねぇ顔は見られたくないってのものある。
「大丈夫じゃねぇ、みてーだ…」
何で俺は、何も出来ないんだろーな。
檸檬が日本に残れるかどうかが、ツナ達の手にかかってるなんて。
「なぁ、さっきの話で…俺にも関係あるって言ったら、どーする?」
『え…?でも……どうして?』
抱きしめる力は緩めて、小さな額にコツンと自分のをくっつける。
「兄貴が妹の心配するのは、いけねーことか?」
俺がそう言って笑いかけると、檸檬は虚ろな瞳を潤ませて、
次の瞬間、顔を埋めるように抱きついた。
「檸檬…?」
『ホントに、いいの…?ディーノのこと、お兄ちゃんって思って……いい、の?』
弱々しい声で尋ねる檸檬の髪を、ゆっくりと撫でた。
そっか……檸檬はアメリカにいる両親とも絶縁状態。
家族愛を教えてくれたのは、9代目だって言ってたな。
「あぁ、いいぜ。」
檸檬が必要としている存在になれるなら。
“兄貴”になることで、俺を他の奴より頼ってくれるなら。
「なーんでも、聞いてやるよ。」
たとえ俺が、お前に恋愛対象と見られなくても。
涙を拭って座りなおし、話し始める。
『あのね、あたし…』
「ん、」
『嬉しかった、んだと思う…』
檸檬は、自分でもイマイチ掴めていないようだった。
頭を撫でる手を止めず、俺は相槌を打つ。
『外国の人って、“I love you”って言うでしょ?恋人だけじゃなくて、家族にも、友達にも。』
「あぁ。」
『だけど、あたしは言われた事なくて……アメリカ育ちなのに、親があんなのだったから。』
ぽつりぽつりと紡がれる言葉は、檸檬がかつて感情を欠落させてたことを思い出させる。
『嬉しかった……ベルが初めて、言ってくれて。』
口元に緩やかな笑みを浮かべながら、檸檬はそう言った。
『“好き”じゃなくて、“愛してる”って。それが………すごくあったかかったの。』
思い出すように目を閉じる檸檬。
「そか…」
俺はその肩を抱き寄せた。
檸檬は頭を俺の肩に預ける。
『ねぇ、ディーノ、』
「ん?」
『も1つだけ、相談してもいい?』
「あぁ、言ってみな。」
俺の返事を聞いた檸檬は、ほんの少しだけ俯いて。
『あのね、あたし……最近…何てゆーか、寂しいの………体に穴が空いたみたい……』
「檸檬…」
『おかしい、よね……みんな、いるのに…』
「……おかしくねーよ、」
俺は、半ば脱力した状態で返事をする。
けど不思議と、衝撃は少なかった。
「檸檬の心は、正常に動いてるぜ。」
『あたしの、心…?』
首をかしげる檸檬を見て、気付いた。
うとうとしかけている。
そーいやさっきから、言葉が途切れ途切れだったな…
「心配すんな、すぐ分かるからよ。」
『本当…?』
「あぁ。」
『そっ…か……』
直後に聞こえて来た、檸檬の静かな寝息。
俺は隣の病室のベッドに檸檬を寝かせて布団を掛けた。
「おやすみ、檸檬。」
いい夢が見れるようにと願いを込めて、額にキスを一つ。
部屋を出たら、苦めのコーヒーが飲みたくなった。
……気付いちまった。
けどそれは、檸檬がまた一段階、“普通の少女”に近づいた証。
檸檬には、心ん中で一番大事にしてるヤツがいる。
抱いたその感情はきっと、檸檬にとっては初めてで。
「見守ってやるか、兄貴として…」
月光が、眩しかった。
アロちゃんも最大級の奥義で挑む。
お願い、
2人共死なないで……
雨の勝負の結末
アロちゃんの視界から消えた武は、真横で身構えていた。
「かわした!」
「で、どーした!?」
水を纏ったアロちゃんが、武のいる方に向きを変える。
『すごい…』
「何て反応速度だ!」
武に斬り掛かるアロちゃん。
かろうじて防いだ武は、そのまま柱の影に。
「山本ォ!!」
「ギリだぜ!!」
了平さんと隼人が言い、あたしは両手を組む力を強める。
「とどめだぁ!」
『(武っ…!)』
と、その時。
柱に向かっていくアロちゃんの後ろに、ぼんやりと何か浮かび上がる。
まさか、
あれって…
武……?
「(逆!!?)」
アロちゃんだけでなく、ツナやバジルも驚く。
「(ここまでやるとはな……だが俺の剣に………)死角はない!!」
カチン、
『あっ…!』
「義手!?」
『アロちゃん………』
知らなかった。
今分かった。
手を繋ぐ時、アロちゃんがいつも右手を差し出すワケ。
左でいつでも攻撃出来るようにする為じゃなくて…
後ろに曲がったアロちゃんの萱は、確かに武を貫いた。
だけど…
ドバシャッ、
アロちゃんに降り掛かったのは、
武の血じゃなくて、水。
「(まさか、俺が切ったのは……)」
「水面に映った影か。」
真正面から武が降りて来る。
刀を振り上げて。
『これが……』
時雨蒼燕流、攻式九の型---
うつし雨------
最初の一太刀で波を作り、おびき出した相手の後ろに自分の虚像を作る。
『(やっ……た………)』
アロちゃんの首の鎖を切り、指輪をとる武。
これで武が…
武が………
「勝ったぜ♪」
「あいつ…………」
「山本………」
「やりましたね!!」
カプセルが開いて、あたしは飛び出した。
『武っ!!』
「よぉ、檸檬!」
傷だらけの体に、ぎゅっと抱きつく。
『おめでとう♪』
「へへっ。だってよ、檸檬と約束したじゃねーか。ぜってぇ勝つってさ!」
『うん……うん………!』
大きく頷いた後、あたしはしゃがんでアロちゃんに聞いた。
『アロちゃん………大丈夫?』
アロちゃんは気を失ってるみたいで、何も言わなかった。
「ぶったまげ。」
「まさか、こんな事がね………」
ベルとマーモンの声がした。
ザンザスの脳裏には、8年前の記憶が蘇る。
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「う"お"ぉいザンザス!!誓ってやるぜぇ。」
ヴァリアーのアジトのバルコニーにて。
ザンザスとスクアーロは2人で話していた。
「俺は例の計画が成就されるまで髪は切らねぇ。」
「あ"?」
「俺の願掛けだ。お前も誓え、髪は切るな。」
「はんっ、下らねぇ。剣帝に使い物にならなくされたその手で、役に立てるのか?」
「う"お"ぉい、勘違いすんなよ!俺は左手を持たない剣帝の技を理解する為にこの手を落としたんだ。」
スクアーロの左手は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「これが俺の、お前とやっていく為の覚悟だ。」
そう言って強い視線を送るスクアーロに、ザンザスも同じような視線を返す。
するとスクアーロはにやりと笑って。
「まぁ見てろ、御曹司。」
そして、ザンザスの肩に手をかけ言った。
「これから先お前は、俺を仲間にした事に感謝する日が必ず来る。」
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「スクアーロ………」
ボスが、アロちゃんの名前を呟いたのが聞こえた。
そしたら、ボスの表情は何処か切なげで。
『(ボス…)』
「ざまぁねぇ!!負けやがった!!!カスが!!!」
一瞬見せたあの表情を隠すかのように、ボスは笑い出す。
そして、最後に一言。
「用済みだ。」
『えっ………!?』
「ボスが直接手を下さなくとも、」
「僕がやってこよーか?」
みんな…
何言ってるの??
そんなのイヤだよ!
あたしが止めようとした、その時。
チェルベッロがワンテンポ早くヴァリアーに言った。
「お待ち下さい。今アクアリオンに入るのは危険です。」
ゴゥン………
『え?』
「どした?檸檬。」
何かの錠が外れた音。
それと…
『すごく……大きな生き物の気配がする。』
「規定水深に達した為、獰猛な海洋生物が放たれました。」
「そんな………!」
武は慌ててチェルベッロに聞く。
「ちょ………待てよ。スクアーロはどーすんだ?」
「スクアーロ氏は敗者となりましたので、生命の保証は致しません。」
「やっぱな、んなこったろーと思ったぜ。」
アロちゃんを担ごうとする武を、あたしは止めた。
「檸檬?」
『武、先に行って。あたしがアロちゃん運ぶから。』
「………オッケ♪悪ぃな、檸檬。」
『んーん♪』
武は一段上に昇る。
『ほらアロちゃん、行くよ。』
答えないのは分かってたけど、あたしはアロちゃんにそう言ってから背負った。
「うわー、俺のお姫さまに担いでもらうなんて、最低ーっ。」
「助けてもどうなるか分からないのにね。」
周りの声は聞こえなかった。
アロちゃんの細い息遣いが、あたしの耳の一番近くにあったから。
『ちゃんと………怪我治すんだよ?アロちゃん。』
「うっ……せぇ………。」
『ほぁ?』
アロちゃんの返事が聞こえて来て、あたしは一瞬吃驚した。
同時に、
「檸檬!急げ!!」
上から武の声が聞こえた。
『うんっ!』
あたしが踏み出そうとした、その時。
ガンッ、
『え……!?』
「血の匂いに反応して、鮫が寄ってきたぞ!!」
「で、でけぇ!!」
『やっば!』
届かないと思ってたけど、鮫は頭が良いようで、近くの柱を噛み砕き始めた。
『きゃあっ!!』
ガラガラガラ…
床が崩れて、あたしとアロちゃんは下に1階分落ちる。
「「「檸檬!!!」」」
「檸檬殿!!」
『よっ………と!』
体勢を立て直して、昇ろうとする。
だけど……
「う"お"ぉい檸檬…………」
『何?アロちゃん。あたし今、忙しいんだけどっ。』
「下ろせ。」
『はい!!?』
一瞬耳を疑う。
その隙にアロちゃんは思いっきり暴れて、あたしの背中から降りた。
『なっ、何してんのよっ!』
「刀のガキに伝えとけ。剣の筋は悪くねぇから、甘さを捨てろ……………ってな。」
その言い方が、
まるで……
最期みたいで。
『い、イヤ!自分で伝えなさいよっ!!』
アロちゃんの袖をぐいぐい引っ張る。
だけど、アロちゃんはしゃがんだまま動かない。
『ほら!立ってよ!!アロちゃんっ!!!』
「俺は、負けたんだぁ。」
『関係ない!ねぇ、立って!!ヴァリアーのトコに帰るんだよ!!』
何故か、涙が溢れて止まらない。
『(こうなったら剛腕使って……)』
アロちゃんの服を握り直した、その時だった。
ぐいっ、
『え?』
崩れ落ちゆく床の上で、アロちゃんにぎゅっと抱き締められる。
『アロちゃん??う…動けないよっ…………!早く立たなくちゃ。ね?』
「檸檬……」
こんな時なのに、
どうしてそんな落ち着いた声をしてるの?
「檸檬は……やっぱり温ぃなぁ。」
『なっ……!』
そんな事言ってる場合じゃないよ!
後で聞くから、だから今すぐ立って!!
「俺ぁ、温い奴は嫌いだ。」
嫌いでも構わないよ。
だから立って、ここから逃げよう?
「温い奴はうぜぇ。」
『知ってる!知ってるよ!アロちゃんがそう思ってるの、知ってるもん!!』
だけど、生き延びて欲しいの。
それだけお願い。
「檸檬……」
抱き締められたまま、
何故か抵抗出来なくて、
あたしはただただ泣いていた。
ねぇ、早く………
立とうよ。
『アロちゃん、負けても大丈夫だよ。』
「いいかぁ、檸檬。このままだと……俺の剣士としての誇りが………汚れるんだよぉ。」
アロちゃんのバカ。
そんなのあたしが知るもんか。
どんだけ誇りが汚れたって、
アロちゃんに生きてて欲しいんだよ。
『ねぇ、早く立たないと………』
「温ぃ……うぜぇ………」
『分かってるから!!』
「けどな…………」
抱き締める力が強まって、
一瞬だけ時間が止まった。
「うぜぇ檸檬が、俺は好きだぜぇ。」
『え………?』
ドンッ、
『あ……………!』
崩れ落ちゆく床。
最早、水面と同じ高さ。
次の瞬間あたしは、
上の階に投げ飛ばされていた。
どうして?
アロちゃん…
ボロボロのクセに、
怪我してるクセに、
何処にそんな力があるのよぉ……
空中にいながらも、手を伸ばした。
アロちゃん、
アロちゃん、
死なないでっ………!!
「じゃぁなぁ、檸檬。」
『い…イヤ………』
鮫が近くに寄って来やがる。
血が好きなのかぁ………
俺と同じだなぁ。
---
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---「う"お"ぉい檸檬、どうしてお前はそんなに強ぇんだぁ!?」
---『えー?んー………護る為…かな。』
---「護る為だとぉ?」
---『人は何かを護る為なら、どこまでも強くなれるって、9代目とディーノが言ってた!』
---「檸檬は何を護るんだぁ?」
---『んーとね…………全部!!あたしの大切な人と、物と、場所っ!』
---「そぉかぁ。」
---『アロちゃんの事も、護ってあげるよ!』
---「なっ!俺はそんな弱くねぇ!!」
---『別にバカにしてるんじゃなくて。ほら、もし十億年に一度のミラクルが起きて、アロちゃんがピンチになった時の為にさ♪』
---
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「起きちまったなぁ…檸檬…………」
自信満々な笑みで俺を護ると檸檬は言った。
だが…
今の檸檬は、涙で顔が歪みまくってやがる。
やっぱりお前は温いなぁ、
負けた俺の為に、そんなに泣くなんてよぉ。
「バカが…」
『アロちゃんっ!!!』
逆方向に飛ばされながら、目一杯腕を伸ばす檸檬。
それを見たら、何だか笑みがこぼれた。
「ありがとなぁ、檸檬。」
『アロちゃ……………!!』
ドサッ、
最後に檸檬が床に落ちた音がして、
そこで俺の意識は無くなった。
.伸ばした手の向こうに見えた光景は、
残酷なモノだった。
『い………や…………』
涙で滲んだ視界のせいで、ちゃんと見えなかったけど。
“アロちゃんが消えた”
それだけは、分かった。
1階の床に落ちたあたしのトコに、武がやって来る。
「スクアーロ!!!」
『アロちゃ……』
違う…違うよね?
嘘だよね…コレ。
夢なんだよね?
誰か、あたしを騙してるんでしょ?
『いやあああああ!!!!』
水の中に潜って、あのデカい鮫を殺してやるんだ!
そしたらアロちゃんが生還するでしょう?
立ち上がったあたしの腕を、武が掴んだ。
『なっ………!』
「檸檬、行くな!」
『嫌ぁっ!!』
「檸檬っ!!!」
だってだって、アロちゃんはまだ生きてるもん。
認めたくないんだもんっ!!
『放して、武!!』
「檸檬まで食われる気かよ!!」
『大丈夫だもん!放してぇーっ!!』
ホントに…
何処にそんな力があるの?
武の手は、決して振り払えなかった。
「檸檬…頼む………」
『だってっ………アロちゃんがぁー………』
死んで欲しくないの。
それは知ってるでしょ?
あたしが温い奴だって、
アロちゃんも知ってるでしょ?
『どうしてよアロちゃんっ……………アロちゃんっ……………スクアーローーーっ!!!』
思いっきり叫んだあたしは、思いっきり脱力した。
その場にぺたりと座り込む。
『ふぐっ……ぐすっ………』
「檸檬………ごめんな。」
『武が悪いんじゃ……ないもんっ。アロちゃんが……バカなんだよぉっ………』
止まらない涙。
そして、
上から降って来る笑い声。
「ぶはーっははは!!!最後がエサとは、あの………ドカスが!!」
『ボ…ス………』
それは、嘲笑なんかじゃなかった。
少なくともあたしには、そう聞こえた。
「っくしょー……………」
武の呟きも聞こえて、あたしは涙を拭った。
もう、どうしようもないのだ、と。
.皮肉にも、ショックを受けるのはヴァリアーではなく並盛側。
「………んだよっ!」
隼人が静かに俯く。
そして、チェルベッロが何事も無かったかのように判定を言い渡す。
「雨のリング争奪戦は、山本武の勝利です。それでは、次回の対戦カードを発表します。」
「こ、こんな終わり方……」
ツナもバジルも俯いて、ディーノも眉間に皺を寄せる。
「明晩の対戦は、霧の守護者同士の対決です。」
『(霧………)』
「おい、リボーン!来たぞ!!どーすんだよ!?霧の人って一体………!」
「いよいよ奴の出番だな。」
“奴”…
おそらく、リボーンが“あの日”口にした人が…
ツナ達の霧の守護者だ…
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体育館の上では、山本の戦いを大人しく観戦していた3人が、バッと動いた。
「檸檬……彼らには…渡しませんよ………」
そう一言、呟いて。
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「んじゃ、帰るか。」
『うん………』
武とあたしが立ち上がった、その時。
「檸檬、」
『え?』
急にボスがあたしを呼んで、何かを投げた。
ポスッ、
キャッチして見てみると、それは………
「明日から着て来い。いつ決まるか分からねぇからな。」
『うん………分かった。』
それは、仕立て直してあるヴァリアーの隊服。
あたし専用の、世界一軽い服。
「ブーツは明日持って来るからね♪」
『うん。』
ベルが手を振りながら言った。
それを最後に、ヴァリアーのみんなは姿を消した。
それからあたしは、武と一緒に病院に行った。
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夜の廃病院。
廊下の長椅子に、1人腰掛ける檸檬。
「なんだ、まだ帰ってなかったのか?」
『ディーノ………』
向かいの病室から顔を出したのは、ディーノだった。
「てっきり山本と帰ったんだと思ったぜ。」
『力抜けちゃって。』
檸檬は小さなため息をついた。
それを見て、ディーノは隣に座る。
病院の、少し薄暗いライトが2人を照らした。
「なぁ、檸檬………」
『んー?』
聞きたい事があったんだ。
「どうして、ベルフェゴールの話を受けた?」
『え…?』
多分俺は、すごく身勝手だ。
檸檬は今、スクアーロの事でショック受けてるってのに、こんな事聞くんだもんな。
『隼人に、聞いたの?』
「あぁ。」
『そっか……』
少しだけ重い沈黙が流れる。
俺は、黙って檸檬の答えを待つ。
『ディーノには…』
「ん?」
『関係ない、ハズだよ…』
虚ろな目をした檸檬は、そう言った。
そうだ、確かに関係ない。
檸檬が檸檬の相手を探すのは自由であって、
それは俺には関係ない。
関係あると思ってるのは、俺の方だけ。
それでも知りたいと思うのは……、
檸檬のことが、好きだから。
大事な大事な妹分を、それ以上に想ってるから。
だから…
『ディーノ…大丈夫?』
「檸檬……悪ぃ…」
顔を覗きこもうとする檸檬を、抱き寄せた。
こんな情けねぇ顔は見られたくないってのものある。
「大丈夫じゃねぇ、みてーだ…」
何で俺は、何も出来ないんだろーな。
檸檬が日本に残れるかどうかが、ツナ達の手にかかってるなんて。
「なぁ、さっきの話で…俺にも関係あるって言ったら、どーする?」
『え…?でも……どうして?』
抱きしめる力は緩めて、小さな額にコツンと自分のをくっつける。
「兄貴が妹の心配するのは、いけねーことか?」
俺がそう言って笑いかけると、檸檬は虚ろな瞳を潤ませて、
次の瞬間、顔を埋めるように抱きついた。
「檸檬…?」
『ホントに、いいの…?ディーノのこと、お兄ちゃんって思って……いい、の?』
弱々しい声で尋ねる檸檬の髪を、ゆっくりと撫でた。
そっか……檸檬はアメリカにいる両親とも絶縁状態。
家族愛を教えてくれたのは、9代目だって言ってたな。
「あぁ、いいぜ。」
檸檬が必要としている存在になれるなら。
“兄貴”になることで、俺を他の奴より頼ってくれるなら。
「なーんでも、聞いてやるよ。」
たとえ俺が、お前に恋愛対象と見られなくても。
涙を拭って座りなおし、話し始める。
『あのね、あたし…』
「ん、」
『嬉しかった、んだと思う…』
檸檬は、自分でもイマイチ掴めていないようだった。
頭を撫でる手を止めず、俺は相槌を打つ。
『外国の人って、“I love you”って言うでしょ?恋人だけじゃなくて、家族にも、友達にも。』
「あぁ。」
『だけど、あたしは言われた事なくて……アメリカ育ちなのに、親があんなのだったから。』
ぽつりぽつりと紡がれる言葉は、檸檬がかつて感情を欠落させてたことを思い出させる。
『嬉しかった……ベルが初めて、言ってくれて。』
口元に緩やかな笑みを浮かべながら、檸檬はそう言った。
『“好き”じゃなくて、“愛してる”って。それが………すごくあったかかったの。』
思い出すように目を閉じる檸檬。
「そか…」
俺はその肩を抱き寄せた。
檸檬は頭を俺の肩に預ける。
『ねぇ、ディーノ、』
「ん?」
『も1つだけ、相談してもいい?』
「あぁ、言ってみな。」
俺の返事を聞いた檸檬は、ほんの少しだけ俯いて。
『あのね、あたし……最近…何てゆーか、寂しいの………体に穴が空いたみたい……』
「檸檬…」
『おかしい、よね……みんな、いるのに…』
「……おかしくねーよ、」
俺は、半ば脱力した状態で返事をする。
けど不思議と、衝撃は少なかった。
「檸檬の心は、正常に動いてるぜ。」
『あたしの、心…?』
首をかしげる檸檬を見て、気付いた。
うとうとしかけている。
そーいやさっきから、言葉が途切れ途切れだったな…
「心配すんな、すぐ分かるからよ。」
『本当…?』
「あぁ。」
『そっ…か……』
直後に聞こえて来た、檸檬の静かな寝息。
俺は隣の病室のベッドに檸檬を寝かせて布団を掛けた。
「おやすみ、檸檬。」
いい夢が見れるようにと願いを込めて、額にキスを一つ。
部屋を出たら、苦めのコーヒーが飲みたくなった。
……気付いちまった。
けどそれは、檸檬がまた一段階、“普通の少女”に近づいた証。
檸檬には、心ん中で一番大事にしてるヤツがいる。
抱いたその感情はきっと、檸檬にとっては初めてで。
「見守ってやるか、兄貴として…」
月光が、眩しかった。