毒を喰らわば、
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閑話休題。
警備に見つかり、追手を食い止める辛三と二手に別れた七悪は、ひとり解毒剤や資料があると推測される最深部の実験室の前に立っていた。
一際厳重な警備を特製ガスで眠らせ、四怨のハッキングでこじ開けた扉の先には、まさに七悪たちが求めていたものがあった。
毒のレシピが記された、研究データがあった。
「六美姉ちゃん、あったよ! 研究データ!」
「でかしたわ! あとは早く帰って……」
「親に隠されたゲーム機を見つけたような喜び様だな。夜桜七悪」
無線越しの六美の声と重なって、低い声が七悪の背中に浴びせられる。慌てて振り返ると、入口に背を預けて立つ男がいた。
くらげの首を切り裂き、凶一郎に毒を浴びせた張本人が、七悪の目の前に立っていた。
「今すぐ解析を始めたところで、解毒剤が完成するのが先か、あの男が息絶えるのが先か。勝率の低い博打じゃないか?」
「っ……」
「あぁ、俺を力ずくでどうにかしようとは考えない方が良い。研究所ごと吹き飛ばす起爆スイッチを押したくはないからな」
無線の向こうで、六美が他の姉弟に七悪の援護に向かうよう指示している声が聞こえる。所内にいる辛三が最短経路で駆けつけたとしても、男の言う通り解毒剤が完成するより先に凶一郎の身体がもたない可能性が高い。
だからこそ、七悪のミッションは〝研究データと解毒剤を入手すること〟だった。既に調合されている解毒剤を投与する方が確実かつ時間がかからない。
「俺はここで死んでも構わない。夜桜凶一郎が、俺の父を殺したあの男が、父の作った最高傑作で死ぬ末路を見られないのだけが、心残りだが」
男は遠い過去を思い出すように、眉間に皺を寄せて過去を語り出した。
「五年前、父はある研究所の研究員だった。上の命令で強力な化学兵器の開発を進めていたとき、情報を嗅ぎつけたスパイ協会から派遣されたあの男が、父の研究資料を持ち出し、破棄した。父は、」
痛々しいほどに拳を握り締め、男が壁を殴りつける。
「すべての責任を負わされ、研究所から追い出された。家族はバラバラになり、独りになった父は、自ら命を絶った!」
「そんなの……」
「〝そんなのは兄の責任ではない〟と!? あの男に咎がないと言うのなら、一体誰の首を縄にかけるべきだった!? 父をクビにした奴らか? 職を失った父を捨てた俺たち家族か? 非人道的な実験を行った父自身か?」
激昂した男が七悪に詰め寄る。覗き見えた資料に載っていた、男の父が行ったとされる〝非人道的〟な実験の内容を思い浮かべ、七悪は苦しげに口を開いた。
「あなたのお父さんがしたことは、許されないことです……! 人間を毒漬けにして血の一滴に至るまで殺戮兵器に作り変えるだなんてことは! 許されるべきじゃない!」
「ならば! その実験を引き継いだこの俺も! 許されざる者だということか!」
揉み合った拍子に、七悪の耳からインカムが外れ落ちる。起爆スイッチさえ手放させることができれば、七悪の体格で負ける相手ではないのだが、所内にいる人たちを死なせたくない。夜桜七悪は殺し屋ではなく、スパイだった。
誰か、事態を好転してくれる誰かが訪れることを七悪は強く願った。
「いいえ。罪は、ここに」
七悪に覆い被さる男の首筋に、注射器が刺さった。油の切れたブリキのような動きで、男が背後を振り返る。そこには、包帯を赤く滲ませた少女が立っていた。
「あなたの罪も、あなたのお父さんの罪も、ぜんぶ、ここにあります。私に、あります」
「くらげ、おまえ……俺を、殺すつもりか」
「はい。私の毒で誰かの命を奪うのは、あなたで最後にします。せんせい」
男がフラフラと立ち上がり、少女に近付く。男が少女の首を切り裂いたことを思い出し、二人を遠ざけようと七悪が手を伸ばした。
「危なっ……!」
「大丈夫です。もう、死んでいます」
倒れ込んできた男の身体をゆっくりと降ろし、少女は男を床に寝かせた。彼女の言う通り、男はもう息をしていなかった。
ふらり、と自身も倒れかけた少女を七悪が慌てて支えようとすると、弱々しい力で抵抗される。そして、伸ばされた手を取り、小さな手に握り締めた何かを捩じ込んだ。
「これを、あなたのお兄さんに……私の毒に効く解毒剤、です」
まだ間に合うのなら、と言って少女が七悪の手に握らせたものは、解毒剤の入った小瓶だった。
「早く、持って……普通のひとなら、とっくに手遅れになってるはずですから」
「で、でも、君の方こそ早く止血しないと」
少女の首に巻かれた包帯から溢れた血が、病衣まで垂れている。今日一日だけで相当な量の血液を失っているはずだが、少女はそんなこと気にも留めない様子で床に転がったインカムを指差す。
七悪が思い出したように、飛ばされたままだったインカムを拾い上げる。と同時に、凄まじい轟音を引き連れ辛三が二人の前に現れた。
「七悪! 無事で良かったぁ!!」
「辛三兄ちゃんこそ!」
再会を喜び、抱き合った辛三がハッと身体を離す。
「解毒剤は!?」
「安心して、辛三兄ちゃん。あの子がくれたんだ。あとは急いでこれを凶一郎兄ちゃんに投与すれば……」
「あの子……?」
七悪の示す方を見た辛三の動きが止まる。目を見開き、言葉を失っている兄の前に七悪が慌てて飛び出す。
「こっこの子は悪い子じゃないんだ! どうしようもなかったところを助けてくれたんだよ!」
「七悪……」
「それにっこの子だって被害者なんだ! 酷い実験のせいで……」
「七悪!」
必死に少女を擁護しようとする七悪の肩を、辛三が強く掴んだ。
「落ち着いて、聞いてくれ。七悪」
真剣な兄の表情に、七悪はそれ以上何も言えず、次の言葉を待つ。ちらと少女の方を窺えば、遺体の前に座り込み、安らかとは言い難いその顔を眺めているようだった。
「四怨が流通経路を潰してくれたお陰で毒が市場に出回ることは防げたけど、代わりに誰が一番に手に入れるかでちょっとした騒動が起こって、懸賞金がかかったりしたんだ」
夜桜家の人間である二人にとっては、その身に懸賞金がかかること自体さして珍しい話でもない。
問題は、その後だった。
「その懸賞金騒動の背後に、国家転覆を目論むテロリスト集団がいることが分かった。もし、その子の身柄がそいつらの手に渡ってしまったら、多くの人の安全が脅かされる。だから、」
研究所を襲撃してでも〝商品〟を奪いにやって来る輩の数も、それによって動く金の桁も、とても無視できるものではなかった。
「スパイ協会、ヒナギク両組織が、この研究所を無力化することを決定した。もう二度と同じものが作られないよう、あらゆる資料は破棄されるし、その子も……」
争いの芽は、蕾をつける前に摘まれる。根すら残さず、その土には何も埋まっていなかったように。
七悪の手が、辛三の腕を掴む。その手は、微かに震えていた。
「そんな、だって、この子は」
「四怨が調べてくれたから、俺も事情はある程度把握してる」
「止血するだけじゃダメなんだ、輸血もしないともう助からないんだ、普段から血を抜いて使ってるなら、きっとこの建物のどこかに輸血パックがあるはずなんだよ」
「ここで俺たちがこの子を助けたとしても、この子は生きてる限り命を狙われ続けるんだ。その場しのぎじゃ、ダメなんだ」
「じゃあ兄ちゃんは見殺しにするの!? そんなのって……!」
「俺だってッ! 助けられるなら助けたいよ! でも……!」
スパイ界一の家族の一員とはいえ、七悪はまだ十三歳の少年だ。目の前の命を割り切ろうと思って、割り切れるほど大人ではなかった。そして、誰より心優しい辛三も同じ辛さを味わっていた。
いつまで経っても応答しない七悪に痺れを切らしてマイクの音量を上げたのか、インカムから六美の声が辺りに響き渡る。
「二人とも! 追手がすぐそこまで来てる! 外は賞金稼ぎと派遣されてきたスパイたちが混戦状態! 今なら騒ぎに乗じて助け出せるかもしれないわ!」
「六美!?」
「六美姉ちゃん……!」
「七悪、悩んでる暇はないわ。今はまだお兄ちゃんの容態は安定しているけれど、時間が経てばその子を狙う手も増えていく。今ここで、あなたが決めるのよ」
何もかもを敵に回しても、少女を助けるか。少女を見殺しにして、世界の安寧を取るか。二つの異なる選択肢が七悪の前に現れる。
七悪は、ほんの数秒逡巡し、少女に背を向けた。
「僕の背中に乗って!」
「……え? なに、言って……」
「いいから早く! 輸血パックが保管されてる場所は分かる?」
「保管庫が、研究所の地下に」
状況が飲み込めていない様子の少女を七悪が背負うと、辛三が無線で四怨に保管庫までの道筋のナビゲートを頼んでいた。
少女、くらげは何が起こっているのか理解ができなかった。自分は、育ての親を裏切り、殺し、あとは失血死による終わりを待つばかりだったはずだ。それなのに、なぜ?
「何が、起こってるの……」
「あんまり動かない方が良いよ。応急処置はしたけどそれだけだから」
「どうして、」
「どうしてって……君だって、僕のこと助けてくれたでしょ」
くらげを取り戻そうとする研究所職員や、懸賞金目当てのゴロツキを手製の銃火器で退け、道を作る辛三の後を追いながら七悪はくらげの問いに答える。
その答えを聞いて、血が足りていないくらげは、朦朧とした意識の中で自身のこれまでを振り返ってしまった。
「でも、ひとを殺しました。苦しいことも、辛いこともたくさんあったけれど、それでもあのひとの役に立ちたくて、たくさん、死んでしまうと分かっていたのに」
警備に見つかり、追手を食い止める辛三と二手に別れた七悪は、ひとり解毒剤や資料があると推測される最深部の実験室の前に立っていた。
一際厳重な警備を特製ガスで眠らせ、四怨のハッキングでこじ開けた扉の先には、まさに七悪たちが求めていたものがあった。
毒のレシピが記された、研究データがあった。
「六美姉ちゃん、あったよ! 研究データ!」
「でかしたわ! あとは早く帰って……」
「親に隠されたゲーム機を見つけたような喜び様だな。夜桜七悪」
無線越しの六美の声と重なって、低い声が七悪の背中に浴びせられる。慌てて振り返ると、入口に背を預けて立つ男がいた。
くらげの首を切り裂き、凶一郎に毒を浴びせた張本人が、七悪の目の前に立っていた。
「今すぐ解析を始めたところで、解毒剤が完成するのが先か、あの男が息絶えるのが先か。勝率の低い博打じゃないか?」
「っ……」
「あぁ、俺を力ずくでどうにかしようとは考えない方が良い。研究所ごと吹き飛ばす起爆スイッチを押したくはないからな」
無線の向こうで、六美が他の姉弟に七悪の援護に向かうよう指示している声が聞こえる。所内にいる辛三が最短経路で駆けつけたとしても、男の言う通り解毒剤が完成するより先に凶一郎の身体がもたない可能性が高い。
だからこそ、七悪のミッションは〝研究データと解毒剤を入手すること〟だった。既に調合されている解毒剤を投与する方が確実かつ時間がかからない。
「俺はここで死んでも構わない。夜桜凶一郎が、俺の父を殺したあの男が、父の作った最高傑作で死ぬ末路を見られないのだけが、心残りだが」
男は遠い過去を思い出すように、眉間に皺を寄せて過去を語り出した。
「五年前、父はある研究所の研究員だった。上の命令で強力な化学兵器の開発を進めていたとき、情報を嗅ぎつけたスパイ協会から派遣されたあの男が、父の研究資料を持ち出し、破棄した。父は、」
痛々しいほどに拳を握り締め、男が壁を殴りつける。
「すべての責任を負わされ、研究所から追い出された。家族はバラバラになり、独りになった父は、自ら命を絶った!」
「そんなの……」
「〝そんなのは兄の責任ではない〟と!? あの男に咎がないと言うのなら、一体誰の首を縄にかけるべきだった!? 父をクビにした奴らか? 職を失った父を捨てた俺たち家族か? 非人道的な実験を行った父自身か?」
激昂した男が七悪に詰め寄る。覗き見えた資料に載っていた、男の父が行ったとされる〝非人道的〟な実験の内容を思い浮かべ、七悪は苦しげに口を開いた。
「あなたのお父さんがしたことは、許されないことです……! 人間を毒漬けにして血の一滴に至るまで殺戮兵器に作り変えるだなんてことは! 許されるべきじゃない!」
「ならば! その実験を引き継いだこの俺も! 許されざる者だということか!」
揉み合った拍子に、七悪の耳からインカムが外れ落ちる。起爆スイッチさえ手放させることができれば、七悪の体格で負ける相手ではないのだが、所内にいる人たちを死なせたくない。夜桜七悪は殺し屋ではなく、スパイだった。
誰か、事態を好転してくれる誰かが訪れることを七悪は強く願った。
「いいえ。罪は、ここに」
七悪に覆い被さる男の首筋に、注射器が刺さった。油の切れたブリキのような動きで、男が背後を振り返る。そこには、包帯を赤く滲ませた少女が立っていた。
「あなたの罪も、あなたのお父さんの罪も、ぜんぶ、ここにあります。私に、あります」
「くらげ、おまえ……俺を、殺すつもりか」
「はい。私の毒で誰かの命を奪うのは、あなたで最後にします。せんせい」
男がフラフラと立ち上がり、少女に近付く。男が少女の首を切り裂いたことを思い出し、二人を遠ざけようと七悪が手を伸ばした。
「危なっ……!」
「大丈夫です。もう、死んでいます」
倒れ込んできた男の身体をゆっくりと降ろし、少女は男を床に寝かせた。彼女の言う通り、男はもう息をしていなかった。
ふらり、と自身も倒れかけた少女を七悪が慌てて支えようとすると、弱々しい力で抵抗される。そして、伸ばされた手を取り、小さな手に握り締めた何かを捩じ込んだ。
「これを、あなたのお兄さんに……私の毒に効く解毒剤、です」
まだ間に合うのなら、と言って少女が七悪の手に握らせたものは、解毒剤の入った小瓶だった。
「早く、持って……普通のひとなら、とっくに手遅れになってるはずですから」
「で、でも、君の方こそ早く止血しないと」
少女の首に巻かれた包帯から溢れた血が、病衣まで垂れている。今日一日だけで相当な量の血液を失っているはずだが、少女はそんなこと気にも留めない様子で床に転がったインカムを指差す。
七悪が思い出したように、飛ばされたままだったインカムを拾い上げる。と同時に、凄まじい轟音を引き連れ辛三が二人の前に現れた。
「七悪! 無事で良かったぁ!!」
「辛三兄ちゃんこそ!」
再会を喜び、抱き合った辛三がハッと身体を離す。
「解毒剤は!?」
「安心して、辛三兄ちゃん。あの子がくれたんだ。あとは急いでこれを凶一郎兄ちゃんに投与すれば……」
「あの子……?」
七悪の示す方を見た辛三の動きが止まる。目を見開き、言葉を失っている兄の前に七悪が慌てて飛び出す。
「こっこの子は悪い子じゃないんだ! どうしようもなかったところを助けてくれたんだよ!」
「七悪……」
「それにっこの子だって被害者なんだ! 酷い実験のせいで……」
「七悪!」
必死に少女を擁護しようとする七悪の肩を、辛三が強く掴んだ。
「落ち着いて、聞いてくれ。七悪」
真剣な兄の表情に、七悪はそれ以上何も言えず、次の言葉を待つ。ちらと少女の方を窺えば、遺体の前に座り込み、安らかとは言い難いその顔を眺めているようだった。
「四怨が流通経路を潰してくれたお陰で毒が市場に出回ることは防げたけど、代わりに誰が一番に手に入れるかでちょっとした騒動が起こって、懸賞金がかかったりしたんだ」
夜桜家の人間である二人にとっては、その身に懸賞金がかかること自体さして珍しい話でもない。
問題は、その後だった。
「その懸賞金騒動の背後に、国家転覆を目論むテロリスト集団がいることが分かった。もし、その子の身柄がそいつらの手に渡ってしまったら、多くの人の安全が脅かされる。だから、」
研究所を襲撃してでも〝商品〟を奪いにやって来る輩の数も、それによって動く金の桁も、とても無視できるものではなかった。
「スパイ協会、ヒナギク両組織が、この研究所を無力化することを決定した。もう二度と同じものが作られないよう、あらゆる資料は破棄されるし、その子も……」
争いの芽は、蕾をつける前に摘まれる。根すら残さず、その土には何も埋まっていなかったように。
七悪の手が、辛三の腕を掴む。その手は、微かに震えていた。
「そんな、だって、この子は」
「四怨が調べてくれたから、俺も事情はある程度把握してる」
「止血するだけじゃダメなんだ、輸血もしないともう助からないんだ、普段から血を抜いて使ってるなら、きっとこの建物のどこかに輸血パックがあるはずなんだよ」
「ここで俺たちがこの子を助けたとしても、この子は生きてる限り命を狙われ続けるんだ。その場しのぎじゃ、ダメなんだ」
「じゃあ兄ちゃんは見殺しにするの!? そんなのって……!」
「俺だってッ! 助けられるなら助けたいよ! でも……!」
スパイ界一の家族の一員とはいえ、七悪はまだ十三歳の少年だ。目の前の命を割り切ろうと思って、割り切れるほど大人ではなかった。そして、誰より心優しい辛三も同じ辛さを味わっていた。
いつまで経っても応答しない七悪に痺れを切らしてマイクの音量を上げたのか、インカムから六美の声が辺りに響き渡る。
「二人とも! 追手がすぐそこまで来てる! 外は賞金稼ぎと派遣されてきたスパイたちが混戦状態! 今なら騒ぎに乗じて助け出せるかもしれないわ!」
「六美!?」
「六美姉ちゃん……!」
「七悪、悩んでる暇はないわ。今はまだお兄ちゃんの容態は安定しているけれど、時間が経てばその子を狙う手も増えていく。今ここで、あなたが決めるのよ」
何もかもを敵に回しても、少女を助けるか。少女を見殺しにして、世界の安寧を取るか。二つの異なる選択肢が七悪の前に現れる。
七悪は、ほんの数秒逡巡し、少女に背を向けた。
「僕の背中に乗って!」
「……え? なに、言って……」
「いいから早く! 輸血パックが保管されてる場所は分かる?」
「保管庫が、研究所の地下に」
状況が飲み込めていない様子の少女を七悪が背負うと、辛三が無線で四怨に保管庫までの道筋のナビゲートを頼んでいた。
少女、くらげは何が起こっているのか理解ができなかった。自分は、育ての親を裏切り、殺し、あとは失血死による終わりを待つばかりだったはずだ。それなのに、なぜ?
「何が、起こってるの……」
「あんまり動かない方が良いよ。応急処置はしたけどそれだけだから」
「どうして、」
「どうしてって……君だって、僕のこと助けてくれたでしょ」
くらげを取り戻そうとする研究所職員や、懸賞金目当てのゴロツキを手製の銃火器で退け、道を作る辛三の後を追いながら七悪はくらげの問いに答える。
その答えを聞いて、血が足りていないくらげは、朦朧とした意識の中で自身のこれまでを振り返ってしまった。
「でも、ひとを殺しました。苦しいことも、辛いこともたくさんあったけれど、それでもあのひとの役に立ちたくて、たくさん、死んでしまうと分かっていたのに」
