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第1章『お引っ越し』

「どうしよう…」

(学校までの時間もあんまり無いし…かと言ってこの子をこのままにするわけにもいかないし…しかもこの子に次いつ会えるか分からないし…)


先程から考えすぎて頭がパンクしそうだ。


[???]
「すやぁ…」

(この子はいつまで経っても起きないし!)

「ちょっと!起きてよ!」

[???]
「すやぁ…」


乱暴に揺すってみてはいるが、男の子は全く起きる気配がしない。


(まあ良いや…初日から遅れるわけにもいかないし、この子はほっとこう)

[???]
「すやぁ…」

(とりあえずこの子はここに寝かせておいて…)


男の子をソファーに寝かせ、毛布をかけてあげた。


(このことはもう学校が終わった後で考えよう…この子だってまだ寝てるかもしれないし…)

「じゃ、じゃあ行ってきますっ…」

(何やってんだ私…)


私は寮を出て学校の校門に向かった。
そしてそこで立ち止まる。


「私、ほんとに今日からこの学校に通えるんだ…」


キキーッ!


近くで車が停まる音が聞こえた。


「今の音は…」


停まっていた車は、なんと黒いリムジンだった。
一瞬目を疑ったが、それは紛れもない現実だった。


[執事]
「行ってらっしゃいませ、お坊っちゃま」

[???]
「はいっ」


白い髪に金色の目をした美しい美少年が、後部座席から降りてきた。
しかも、私はその顔になんだか見覚えがあった。


「凄い…」

(あれって、噂で聞いてた城ヶ崎じょうがさき景魔けいま?)


城ヶ崎景魔とは、この街で1番のお金持ちの家のひとり息子のお坊っちゃまらしい。
歳は私と一緒で、2年生だ。


[城ヶ崎 景魔]
「…?」

(あっ、こっち見た…)


城ヶ崎君はそのまま私の前を通り過ぎた。


(なんか…こっちを微笑んでくれた気がするけど……自意識過剰かな…)


きっと気のせいだ、お金持ちの人が私に微笑んでくれるはずが無い。


「……よしっ!」

(仕切り直して、門を通るぞ)


私は門の向こう側に足を踏み入れた。


(なんとも言えない感動だな、よし行こう)


そう思って2歩目を踏み出そうとしたところ。


ガサガサ…。


茂みの方からガサガサと物音が聞こえた。
何だろうと見ていると…。


ガサガサ…。
ガサガサ…。


(何かが、いる…)


私は恐る恐る茂みに近付き、茂みの向こうを覗き込んだ。


[???]
「もぐもぐ…」


なんとそこには、『メロンパン』を口いっぱいに頬張っている栗毛の男の子がいた。
桜色の瞳に、右目に黒い眼帯を着けていて、いかにも中二っぽい感じの男の子だった。


[???]
「もぐもぐ…」

「君、何やってんの…?」

[???]
「もぐもぐ…ん!?ゴホッゴホッ…!!」


男の子は私の声にかなりびっくりしたようで、ゴホゴホとせている。


「ご、ごめん!大丈夫?」

[???]
「はぁはぁ………」

(制服来てるし、生徒なんだよね…?私と同学年?)

[???]
「…食うか?」

「えっ!?い、いいよ…別に…」

[???]
「欲しけりゃくれてやる!」


男の子はそう言って、食べかけのメロンパンを私の口めがけて飛ばしてくる。


「ふごっ…!?」

[???]
「お礼はいいっ!」


それだけ言って、男の子はどこかに走っていってしまった。


(今のはいったい何だったんだろう…)


「もぐっ…」


貰ったメロンパンをひと口食べてみる。


「お、美味しい…」


これは焼きたての味だ、しかもほんのりあったかい。


キーン♪
コーン♪
カーン♪
コーン♪


ホームルームのチャイムが鳴る。
私はホームルームに遅れてしまったのだ。


(いけない!自分は何をしてるんだ…早く学校に行かないと!)


私は急いで校舎に駆け込む。


「失礼します…」


私は職員室に顔を出す。


[担任の先生]
「お、来たな。自己紹介の件だが…自分で出来るか?」

「あ、自己紹介ですか…」


私は自己紹介があまり得意ではない。
友人もあまりいないし、親友すらいない。
この学校で友達を作るのにとても心配だ。


「私、あんまりそういうの得意じゃなくて…」

[担任の先生]
「そうか…じゃあ、先生から皆に紹介しとくな。お前は前に出るだけで良いから」

「はい、それでお願いします。すみません…」


ダメだ。自分はいつもこうだ。
いつも1歩が踏み出せない。


[担任の先生]
「雨風のクラスは2年2組だ。案内するから、ついてきてくれ」

「はい…」

[2年3組担任]
「すみません!ちょっと来てもらいますかー?!」

[担任の先生]
「また…あいつらですか…」

[2年3組担任]
「すみません…『腹減ったー!』って言うこと聞かなくて…」

[担任の先生]
「うーん、すまん!雨風、急用が出来てしまった。変わりに…あっ!おい、お前!」

「…?」


先生が誰かを見つけたようだ。
その視線は私の後ろを差しているようで。
私は自然と振り返った。


[???]
「はい、何かご用ですか?」

(背が高い…?)

[担任の先生]
「こいつ、お前らのクラスの転校生だ。ちょっとこいつをクラスまで連れてってやってくれないか?」

[???]
「分かりました」

[担任の先生]
「悪いな」

[???]
「お安いご用ですよ、先生」

「よ、よろしくお願いします…」

[???]
「ついて来て下さい」

「は、はいっ…」


その男の子は背が高く、スタイル抜群で、珍しいグーリンゴールドの髪色に、赤紫色の瞳をしていた。


(凄いカッコいい人だなぁ…この人が同じクラスだなんて、授業中も緊張してしょうがないかも…きっと相当モテるんだろうなぁ…)


なんてことを考えながら、私はその人にただ黙ってついていった。
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