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第1章『お引っ越し』

「さて、いよいよ明日から学校かぁ…楽しみだなぁ…」


私はお風呂に入った後、お気に入りの黒猫の抱き枕を抱き締め、ベッドに入って眠った。


(明日がほんとに楽しみだな…)

「…Zzzz」


私は深い眠りに入った。


「…うーん……」


身体全体が不思議な感覚に襲われる。


(…ここは…夢の中?私、夢見てるのか…)


凄まじい浮遊感だ。


(あー、この感じもなんか久し振りだなぁ…)


[???]
「おーい!おーい!雨風千華ー!」


誰かが私のフルネームを大声で叫んでいる。


「……誰?」


声の主を探すが、辺りには誰もいない。
それでも必死にあちらこちらに視線を移す。


[???]
「あれ、もしかしてこっちの姿が見えていない?」

「え?あー、そうです」

[???]
「何でだろー?相性悪いのかな?」

「あ、相性?」

(この夢なんか怪しくね?夢にしては自由度高いし…)

[???]
「まぁいいや、さっそく本題に入るんだけどー」

「え?」


姿すら見えないのに本題が始まってしまった。


[???]
「千華にある人の変わりをしてもらうことにーなっちゃったんだよね~!いやー、失敬!失敬!」

(…こいつ、うざいぞ…?)

「変わり?誰の何をですか?」


怒りを堪えてこれはスルーする。


[???]
「うーん…それはこれからの楽しみっつーかなんつーか…」

「はい?」

[???]
「まあ後のことは、オレの1つ下の弟…サブローって言うんだけど。そいつを人間界に送ったから、何にも心配ナッシング!!」

「え?サ、サブロー?!」

[???]
「あー、やばいよー!嫁とのデートに遅れるー!」

(よ、嫁?この人結婚してんの?それとも二次元嫁…??)

[???]
「じゃ、バーイバーイ!!」

「え!?結局誰ー?!」

(うっ…なんか急に目眩が…)


視界が暗闇に飲み込まれていく…。


「あ…」


ピヨピヨ。
ピヨピヨ。


心地の良い鳥のさえずりが聞こえる。
朝が来たのだ。
私は枕元のケータイを手に取り、時刻を確認する。


「危なっ、私アラームかけ忘れてたわ…奇跡的に時間通りに起きれて良かっ……」


いつもは抱き枕と共に朝を迎えるが、その抱き枕がいつもと違う、生温かい。


[???]
「すやぁ…」

(あ、この子って昨日の朝の…って…)

「きゃーーー!!?」


私はこれまで出したことの無い大きな悲鳴をあげた。
その悲鳴は、寮中に間違い無く響いただろう。
今すぐ誰かが助けに駆けつけてきてもおかしくは無い!


バンバン!


ドタバタと足音が聞こえ、部屋のドアを思いっきり叩かれた。


[如月 麗]
「雨風さん?凄い悲鳴が聞こえてきましたけど?大丈夫ですかー?」

(この声は大家さんだ…お、大家さんにこの状況を見せるわけにもいかない……だって私のすぐ横に、男の子が寝てるんだもん!)


私はなんとか言い訳を考えた。


「す、すみません!何でも無いです!ちょっと…ゴ、ゴキブリが現れて…」


咄嗟の言い訳にこれしか浮かばなかった。


[如月 麗]
「ゴキブリ…?!大問題です…」

「あれ?」

[如月 麗]
「あの、雨風さん。ちょっと部屋に入れて下さい」

「えっ、部屋に?!」

[如月]
「はい」


大家さんを部屋にはとても招けない。
まだこの男の子を隠せられていないのだから。


「あ、あの…まだ私着替えていないので…それからでも良いですか?」

[如月 麗]
「構いません、とにかく…早くお願いします」


どこに隠そうかと迷ったが、部屋の中で人ひとり分が隠せられる場所が、ベッドの下しか無かった。


[???]
「すやぁ…」

(この子まだ寝てる?!)

「仕方無い…ちょっと乱暴になるけど…」


私は男の子を持ち上げ、ベッドの下に押し込んだ。
そのあと、制服に着替え、ある程度の掃除をした。


「こ、これでよし…」

[如月 麗]
「大丈夫ですか?もう終わったんですか?」

「あっ、はい!終わりました!」

[如月 麗]
「じゃあ、鍵を開けて下さい」

「はい…」


私は玄関の鍵を開け、大家さんを部屋の中に入れた。


[如月 麗]
「…そのゴキブリはどこに?」


大家さんの目が鋭くなっている。
これはもう殺そうとしてる目だ。


(こ、これは見つかるまで帰らなそうだな…)

「えっと…見間違えました…」

[如月 麗]
「…見間違え…?」

「そ、そうなんです…」

[如月 麗]
「…本当ですか?」


大家さんが疑わしい目でこちらを凝視してくる。


「ほ、ほんとです!そこのテーブルの…木の模様が…寝起きでボケてて、ゴキブリに見えてしまって…」

[如月 麗]
「……そうですか…」


大家さんの目が元の優しい目に戻った。


(良かった、なんとか大家さんを誤魔化せたみたい…)


そう思って、ふうーっと肩の力を抜くと。


[如月 麗]
「では、このテーブルは撤去させてもらいます…2度とこんな間違いが起きないように」


そう言って、大家さんはテーブルをドリルで解体し始めた。


(し、仕事が早い…)

「は、はい…分かりました…すみません……」

[如月 麗]
「変わりのテーブルは今日中に用意しとくので…では」

「大変申し訳ありませんでした…」


私がそう言うと、大家さんは解体されたテーブルを持って部屋から出ていった。


[如月 麗]
「…寮の中に害虫がいるなんて知られたら…」
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