このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

小話

 忘れないで。
「認められた今までの努力を捨ててしまうのは、変だと僕は思うよ」
映画のワンシーンであったセリフが頭から離れない。
 君には伝わらない思いを僕は伝わらないままで苦しい。けれどそれを伝えたくない。

「あんなハッピーエンドいいなぁ」
隣の君が据えた目で言った。両手はキュッと繋いだままだ。
「私もああなりたい」
「あれは愛してくれる人がいるからハッピーエンドになるんでしょ」
君にそう返すと君はクスクスと笑いながら手を離して、自身の両手を広げてパチンと合わせた。
「不幸な人は愛されるんだよ、ゆうくん」
歪んだ帝国に閉じこもる君の戯言が僕をゆらした。

 絵なら、小説なら、作品に昇華させれば何を言ってもいいと思っている人間が増えていく。赤い絵の具をキャンバスにぶち撒けた。
 僕もその一人だ。そうなりたくないのに、そうでしかストレスが消化できない。僕は筆を手に取った。
 それも被害者からは言い訳になってしまうんだ。しかし僕は筆を置き、濡れ雑巾を手に取る。
 僕は加害者だから。悪人だから。その布で絵の具を拭き取る。掠れて薄まった赤はキレイだ。

「早く終われ」



6/6ページ
スキ