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小話

 特に意味もなく自傷行為をしたとか、そんなの私にとってはあり得ないことだ。切ったときは痛くないとか、そんなのもあり得ない。 
 何らかの理由があって、その傷だけにすべてが集中するくらいに痛い。だから現実を忘れられる。
 切ったあとも暫く痛い。痛みで泣いているのか、それとも苦しさで泣いているのか、わからなくなる。
 母はそれを理解しなかった。父は家にいなかった。弟は一人で愉しんでいたし、私はその声を聞いてもうなんとも思わなくなった。それが私の日常だった。

 友達ができた。大切な人になった。何人にも増えた。
 一人目は私が楽しそうにしているのを見て嫌いになった。私も大切な人が理解できなくなって嫌いになった。
 他にもいる。
 みんな、自己犠牲の塊だ。みんな、私の、誰かの、優しい人だ。みんな、いい人で素晴らしい世界を作り上げることができる人だ。一時でも好かれた自分がいることを自慢したくなるほどの人たちだ。これからもどうか幸せで。私も一緒に歩きたかった。手を差し伸べてくれる来世を今から楽しみにしている。

 電車が近づいた。カンカンという音が警告だった。私にとっては死後へ誘うメロディだった。

 電車へ乗り込む。窓の外の景色は思考回路を円滑にさせるローションのようだ。

 今も大切な人がいる。永遠なんてないからそのうち私の手の指の隙間からきっとこぼれていく。優しい光の粒のような人たち。

 悪人なんて照らしてもなんにもならないよ。ごめんねとありがとうを永遠に繰り返して、明日も君の声が聞きたい。
 
 おやすみ。
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