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小話

 廊下に鳴り響くコツコツという音は眠りにつこうとしていた彼を起こすのに十分な囁きであった。自身の体の横たわる部屋の前に止まる人物までもう予想できる。止まった靴の音にどきりと心臓がはねた。末期だと嘲笑を浮かべ
「今開けます」
とドアの向こうの同業者に声をかけた。
 こんな時間に訪ねてくるのは、否、私の部屋を訪ねてくるのは彼しかいないのだ。
 起き上がった際にベッドが立てた軋む音はこれから起こるであろう行為を想像させるにはたやすく、朱紅は生唾を飲んだ。

「派手にやられました」
その一週間後、首と胴体に真新しく巻かれた包帯をまざまざと見せつけながら、朱紅はコーヒーを片手につぶやいた。
 もっとも首の包帯は彼が一番理由を知っているのである。
「ああ、心配はいりませんよ」
そう言って朱紅はコーヒーを手渡しシャツのボタンを穴に通していき、逆に首の包帯を解いた。
 『新しく傷をつけてください』とでも言いたげに
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