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うちの本丸

「カカカカカ!主殿、拙僧は山へ修行に赴くゆえ本丸を少しの間空ける許可を頂きたく!」


恒例の如く居間でテレビ、今回はアニメを見ながら本日近侍の乱ちゃんに髪を弄られているのをされるがままにしていたら突如山伏さんが居間へと現れて言い放つ。襖ってあんなに良い感じにスパーンって音出るんだなぁと呑気に考えつつ、山伏さんに「いいよー、いってらっしゃーい」と返す。常にというわけではないけれど、山伏さんは山へ修行に行くことがあるのでこのやり取りには慣れたものだ。最初お山修行宣言をされた時には、いきなりどうした?と返してしまったことが懐かしい思い出だったりする。山でのというよりも『修行』で連想されるのは7つのボールを集めると願いが叶えることが出来るアニメで、重力室で100倍以上の重力の中で死にそうになりながらも鍛えたり、いきなり見知らぬ土地に放置されて半年間ぐらい一人で生き抜いてみろみたいなのを彷彿とさせられる。いやまぁ、滝行とか馬鹿でかい岩を持ち上げるとか搗ち割るとかの方が近い気がするけれど。


「良ければ主殿も拙僧と山へ修行に参らぬか?」


「え.......」と私と私の髪を結っていた乱ちゃんの声が重なる。山伏さん、今なんて言いました?良ければ主殿もって言ったように聞こえたんだけど、幻聴?これは幻聴?しかし乱ちゃんの反応を見るに幻聴ではないことは直ぐに理解した。審神者になる前は平々凡々な人生を送ってきた私が付喪神のしかも山伏さんと修行なんて絶対についていけるわけない。無理だよ、無理無理。最初から諦めるなよ!って私の中の松岡〇造が雄叫び上げてるけど結果は安易に予想が出来る。滝行なんてやったこともなければ、武道の試へさえもないし、修行なんてものもやったことがないのだ。ぬくぬくとぬるま湯のような優しい世界で平和に暮らしてきた私には到底ついていける気がしない。折角こうして山伏さんが申し出てくれているけれど、こんな私が山伏さんの修行についていけないだろう。


「あー……それはちょっと無理、かな……」


私がそう言うと見るからにションボリとする山伏さん。ゔゔ……心が、良心が痛むよ。私が胸の真ん中をギュッと手で握る仕草すると、それを見た乱ちゃんが「主さん、絶ッ対にダメだからね」と私の心を見透かすように釘を刺す。


「でも乱ちゃん……こんな顔文字みたいにションボリしてる山伏さんを見てると私の良心が、ゔゔゔ……」

「何言ってるの、主さんが滝行やらなんやら出来るわけないでしょ?それに!僕も含めてみんなが心配することになるんだよ?怪我しない保証なんてどこにも無いんだから無茶しない!」

「はい、おっしゃる通りでございます……」


乱ちゃんの正論過ぎる言葉と形相にタジタジになる私。山伏さんには再度「ごめんね……」と謝ると少し悲しそうな目をしているものの、それでも笑顔で大丈夫だと言ってくれた。すまぬ、山伏さん。お山修行から帰ってきたら一緒に何か美味しいものでも食べようね!!と心の中で決心をする私であった。お山修行には同田貫が同伴したとかしなかったとか。
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