短編
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同じ柱である冨岡義勇という男は無口で無愛想な男だ。朴念仁を体現しているようなそんな感じ。当初は頑張って会話を続けようと話しかけ続けていた時代が私にもあった。いくら話し掛けてもよくて「ああ」「そうか」などの相槌がある程度で反応も何もない。それに耐えきれなくなった私が話しかけ続けるのをやめた。最低限の業務連絡以外しか冨岡とは話をしないぐらいに。そうなったのは他にも理由があったりするのだが、それは私にだけ明らかに無愛想で素っ気ないということだった。同じ柱である蜜璃に冨岡は話し掛けても話は聞いてくれていると思うが、基本的には何も反応してくれないと話すと、そんなことはないと自分と同じ任務のときは、やはりこちらから話題提供をするみたいだが何かしらの反応はあるようで、他の柱も皆口を揃えてそう言う。そんな話を聞いてしまっては、私はこの冨岡義勇という人に嫌われているのではないか?と思うようになっていた。だからこそ段々業務連絡以外話すことをしなくなったのだ。私自身冨岡のことは別に苦手でも嫌っているわけでもないし、逆に好感を持っているほどだったりする。
それは彼と初めて一緒の任務に就いたときのこと。鬼が出没するという山があり、他の隊士が先に入山していたのだが、連絡が取れず更には帰ってきた隊士は誰一人としていなかった。そこで柱の私たちが隊士達の生存確認及び鬼の討伐を御館様から直々に任を承った。初めて冨岡との任務だったためか私は少々緊張気味で、道中は何とか場を持たせようと必死だった気がする。あまりそういうことは得意な方ではないはずなのに。今思えばこの時から冨岡は相槌などの反応がほとんど無かったような気がする。そんな冨岡と共に目的地の山へ入山すると、山道を数分歩くと山道には似つかわしくない食い散らかされた死体の数々。ざっと見た感じ10や20は優に超えているだろう。何たる惨い有様だ、これは本当に酷い。連絡が取れなかった一般隊士も無造作に横たわる中、一般市民までもが被害にあっている。長く放置されているのだろうか、辺りは肉の腐敗した独特な異臭が立ち込めていた。
「なんて惨い……」
私がそう漏らしながら無造作に横たわる亡骸を眺めながら鬼の気配を辿りながら先に進んでいく。この人達のためにも早く鬼を滅殺して、安心して安らかに眠ってもらいたい。ふと冨岡も後について来ているのだろうと思いながら、後ろを見ると立ち止まって仲間の亡骸を冨岡はなんだか悲しそうな、寂しそうな目で見ていた。そんな顔をする冨岡見るのは初めてで、冨岡もあんな表情が出来るのかと思う反面、不器用な人だけど本当は誰よりも優しい人なのだと思った。その後、鬼を見つけた私たちは、苦戦することもなく鬼を討伐することができた。この任務以来だった、私が冨岡義勇という男に対して好感を持つようになったのは。
そして今日は久しぶりに冨岡との共同任務だった。冨岡は何時もと変らず何も喋らないし、何を考えているのかも分からない。
「今日の任務ってなんだっけ?」
「……」
私の問いかけに対して冨岡は何も言わない。私自身、こうも冨岡に他のみんなとの接し方があからさまに違うと嫌われているのだろうという気持ちに嫌でもなってしまう。もういっそのこと白黒ハッキリつけてしまおうか。こんなに悶々と苦悩するぐらいなのだから。
「ねぇ、どうして何も言ってくれないの?」
「……」
「……あのさ、そんなに私のこと嫌い?私、冨岡に何かした?」
「ちがっ!」
「え」
冨岡が何かを言いかけていたはずなのに、急に私の後ろを見て殺気を放ち始めた。何事かと思い、後ろを振り返ろうとした瞬間、私の腕には大量の血が流れている。痛い、凄まじい激痛が襲いかかってきている。今は冨岡に抱き抱えられているという状況。油断した、その言葉に尽きる今の現状は不甲斐ない私が招いたこと。私は背後に居た鬼に気づかなかったのだ。既に鬼は冨岡さんが倒していて、私を抱える一瞬の間にそれは終わっていた。
「おい、山田!大丈夫か!」
「止血するぞ」と冨岡が心配そうな声色で私に問い掛けると、自分が羽織っていた上着を脱いで、一部分だけ布を破ると、止血をするために私の腕へと巻き付ける。冨岡が布を当てた部分を圧迫すると今ある激痛と共に更なる痛みが全身を駆け巡る。私が声にならない叫び声を上げると冨岡は「すまない、少しの間だけ我慢してくれ」と私を気遣いながら止血を続けてくれた。
「……ありがとう冨岡」
「喋るな、傷に障るぞ」
この痛みに少しずつ慣れ始め、先程よりかは幾分マシになり、まだ冨岡にお礼を言っていなかったのを思い出してお礼を言う。何だかこのまま冨岡にお礼を言えないような気がしてしまったのだ。今思ってしまうのは場違いかも知れないが、初めて冨岡と会話が成立したのが嬉しくて冨岡の忠告も聞かず、喋り続ける。
「私、ここで出血死して死んじゃうのかな……」
「この程度では死なないし、お前を死なせたりはしない」
「え、いやだってこれ、さっき見たけど傷口から脂肪が見えてたよ?明らかにぱっくり裂けてたよね?」
「……大丈夫だ」
「ちょっとその間は何なの!逆に怖いんだけど!あー、これじゃあお嫁にもいけないよ」
「こんな傷物の女、貰ってくれる人なんて居ないよぉー」と嘆く。傷は腕の3分の4とかなりの広範囲で、この深さまで裂けていると傷跡は必ず残るだろうと予想ができる。そんな状態で貰ってくれる心優しい男性は希少価値だと思う。
「ならば……ならば俺が、山田を嫁にもらう」
「へ?」と間抜けな声が出てしまったが、聞き間違えではないだろうか。冨岡がこんなことを言うはずがない、きっと聞き間違えだ!そう思い込むようにしたのに、それは無駄に終わる。
「初めて出会ったときから山田のことが好きだった」
ちょっと待ってちょっと待って。いきなり告白?この状況での告白?確かに生命の危機的状況かもしれないけど今?もしかして私の所為?私が嫁入りできないって愚痴っちゃったから冨岡が気を使って言ってくれてるの?私の知る冨岡義勇という男は気遣いとか出来ない人のはずなのに?本当にどうしちゃったの冨岡!?
「こんなときに、と思っているかもしれない。けれど、俺の気持ちに嘘偽りはない」
「冨岡……」
真剣な眼差しで私を見つめながら言う冨岡から目が離せない。胸の辺りがザワザワと騒がしく、何時もよりも早く脈打っている。こんな感覚は初めてで、知らなくて戸惑ってしまう。別の男の人にもこうして告白をされたことがあるのに、けれど今感じているような感情を抱いたことはない。どうして、冨岡だけ……。嗚呼、そうか。私も冨岡のことが好きなんだ……。この感情の正体を理解したすぐ後に冨岡の顔が近づいてくる。接吻される、と直ぐに分かり私は自然と目を閉じた。
「あれ?冨岡さんと山田さん?何やってるんですか?」
「し、しのぶ?!」
「……」
そこには同じ柱である胡蝶しのぶが、こちらを不思議そうに見つめてくる。うわぁー、しのぶに変なところ見られたぁあ!!恥ずかしい、恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい!
「あら、山田さんお怪我をされて怪我をされているじゃないですか」
「あ、ははは」
「早く家で怪我の治療をしないといけませんね」
「ほら、早く行きますよ」としのぶは冨岡から私を引き剥がし、私の背中を押しながら先へ進むように促してきた。けれど、しのぶが冨岡に何かを言っていたが私には聞こえなかった。
「あ、そうだ冨岡さん。往来であんなことするのは止した方がいいですよ」
「……善処する」
それは彼と初めて一緒の任務に就いたときのこと。鬼が出没するという山があり、他の隊士が先に入山していたのだが、連絡が取れず更には帰ってきた隊士は誰一人としていなかった。そこで柱の私たちが隊士達の生存確認及び鬼の討伐を御館様から直々に任を承った。初めて冨岡との任務だったためか私は少々緊張気味で、道中は何とか場を持たせようと必死だった気がする。あまりそういうことは得意な方ではないはずなのに。今思えばこの時から冨岡は相槌などの反応がほとんど無かったような気がする。そんな冨岡と共に目的地の山へ入山すると、山道を数分歩くと山道には似つかわしくない食い散らかされた死体の数々。ざっと見た感じ10や20は優に超えているだろう。何たる惨い有様だ、これは本当に酷い。連絡が取れなかった一般隊士も無造作に横たわる中、一般市民までもが被害にあっている。長く放置されているのだろうか、辺りは肉の腐敗した独特な異臭が立ち込めていた。
「なんて惨い……」
私がそう漏らしながら無造作に横たわる亡骸を眺めながら鬼の気配を辿りながら先に進んでいく。この人達のためにも早く鬼を滅殺して、安心して安らかに眠ってもらいたい。ふと冨岡も後について来ているのだろうと思いながら、後ろを見ると立ち止まって仲間の亡骸を冨岡はなんだか悲しそうな、寂しそうな目で見ていた。そんな顔をする冨岡見るのは初めてで、冨岡もあんな表情が出来るのかと思う反面、不器用な人だけど本当は誰よりも優しい人なのだと思った。その後、鬼を見つけた私たちは、苦戦することもなく鬼を討伐することができた。この任務以来だった、私が冨岡義勇という男に対して好感を持つようになったのは。
そして今日は久しぶりに冨岡との共同任務だった。冨岡は何時もと変らず何も喋らないし、何を考えているのかも分からない。
「今日の任務ってなんだっけ?」
「……」
私の問いかけに対して冨岡は何も言わない。私自身、こうも冨岡に他のみんなとの接し方があからさまに違うと嫌われているのだろうという気持ちに嫌でもなってしまう。もういっそのこと白黒ハッキリつけてしまおうか。こんなに悶々と苦悩するぐらいなのだから。
「ねぇ、どうして何も言ってくれないの?」
「……」
「……あのさ、そんなに私のこと嫌い?私、冨岡に何かした?」
「ちがっ!」
「え」
冨岡が何かを言いかけていたはずなのに、急に私の後ろを見て殺気を放ち始めた。何事かと思い、後ろを振り返ろうとした瞬間、私の腕には大量の血が流れている。痛い、凄まじい激痛が襲いかかってきている。今は冨岡に抱き抱えられているという状況。油断した、その言葉に尽きる今の現状は不甲斐ない私が招いたこと。私は背後に居た鬼に気づかなかったのだ。既に鬼は冨岡さんが倒していて、私を抱える一瞬の間にそれは終わっていた。
「おい、山田!大丈夫か!」
「止血するぞ」と冨岡が心配そうな声色で私に問い掛けると、自分が羽織っていた上着を脱いで、一部分だけ布を破ると、止血をするために私の腕へと巻き付ける。冨岡が布を当てた部分を圧迫すると今ある激痛と共に更なる痛みが全身を駆け巡る。私が声にならない叫び声を上げると冨岡は「すまない、少しの間だけ我慢してくれ」と私を気遣いながら止血を続けてくれた。
「……ありがとう冨岡」
「喋るな、傷に障るぞ」
この痛みに少しずつ慣れ始め、先程よりかは幾分マシになり、まだ冨岡にお礼を言っていなかったのを思い出してお礼を言う。何だかこのまま冨岡にお礼を言えないような気がしてしまったのだ。今思ってしまうのは場違いかも知れないが、初めて冨岡と会話が成立したのが嬉しくて冨岡の忠告も聞かず、喋り続ける。
「私、ここで出血死して死んじゃうのかな……」
「この程度では死なないし、お前を死なせたりはしない」
「え、いやだってこれ、さっき見たけど傷口から脂肪が見えてたよ?明らかにぱっくり裂けてたよね?」
「……大丈夫だ」
「ちょっとその間は何なの!逆に怖いんだけど!あー、これじゃあお嫁にもいけないよ」
「こんな傷物の女、貰ってくれる人なんて居ないよぉー」と嘆く。傷は腕の3分の4とかなりの広範囲で、この深さまで裂けていると傷跡は必ず残るだろうと予想ができる。そんな状態で貰ってくれる心優しい男性は希少価値だと思う。
「ならば……ならば俺が、山田を嫁にもらう」
「へ?」と間抜けな声が出てしまったが、聞き間違えではないだろうか。冨岡がこんなことを言うはずがない、きっと聞き間違えだ!そう思い込むようにしたのに、それは無駄に終わる。
「初めて出会ったときから山田のことが好きだった」
ちょっと待ってちょっと待って。いきなり告白?この状況での告白?確かに生命の危機的状況かもしれないけど今?もしかして私の所為?私が嫁入りできないって愚痴っちゃったから冨岡が気を使って言ってくれてるの?私の知る冨岡義勇という男は気遣いとか出来ない人のはずなのに?本当にどうしちゃったの冨岡!?
「こんなときに、と思っているかもしれない。けれど、俺の気持ちに嘘偽りはない」
「冨岡……」
真剣な眼差しで私を見つめながら言う冨岡から目が離せない。胸の辺りがザワザワと騒がしく、何時もよりも早く脈打っている。こんな感覚は初めてで、知らなくて戸惑ってしまう。別の男の人にもこうして告白をされたことがあるのに、けれど今感じているような感情を抱いたことはない。どうして、冨岡だけ……。嗚呼、そうか。私も冨岡のことが好きなんだ……。この感情の正体を理解したすぐ後に冨岡の顔が近づいてくる。接吻される、と直ぐに分かり私は自然と目を閉じた。
「あれ?冨岡さんと山田さん?何やってるんですか?」
「し、しのぶ?!」
「……」
そこには同じ柱である胡蝶しのぶが、こちらを不思議そうに見つめてくる。うわぁー、しのぶに変なところ見られたぁあ!!恥ずかしい、恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい!
「あら、山田さんお怪我をされて怪我をされているじゃないですか」
「あ、ははは」
「早く家で怪我の治療をしないといけませんね」
「ほら、早く行きますよ」としのぶは冨岡から私を引き剥がし、私の背中を押しながら先へ進むように促してきた。けれど、しのぶが冨岡に何かを言っていたが私には聞こえなかった。
「あ、そうだ冨岡さん。往来であんなことするのは止した方がいいですよ」
「……善処する」
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