短編
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私は誰かを好きになっている人を好きになってしまう傾向がある。それは本当に決まってそうだった。自分でも自覚しない内に本能的なもので、見極めているのだろう。よく「恋をしている人は輝いて見える」って言うのだから。今だって私には好きな人がいる、けどその人には好きな人がいる。この学園には私を含めて女子が二人。もう一人の女の子は私なんかとは大違いで可愛くて優しくて文武両道で努力家な子。この学園のマドンナと呼ばれる彼女を慕う男子生徒は殆どだろう。私の好きな人もその内の一人だ。彼の名前は宮地龍之介、マドンナ基夜久月子ちゃんと私と同じで弓道部に所属しており、副部長という役職を担っている。宮地くんも月子ちゃん負けないぐらいの努力家な上、堅物真面目キャラを体現したようなそんな感じだ。宮地くんは月子ちゃんをライバルだと公言しているけどその実、彼は月子ちゃんに好意を寄せている。それをライバルだと言って誤魔化しているんだろうけど、いつも宮地くんをひっそりと見ていた私には、それは直ぐに気づいたことだった。それに気付きながらも諦めの悪い私は、宮地くんを思い続け、少しのアプローチもしている。そんな中、私はある現場を目撃してしまう。
部活終了後の道場、先程まで誰も居らず静寂に包まれていた。そんな中、部室でいそいそと一人袴から制服へと着替えていたのだが、誰かが道場へと入ってきたのだ。私は誰かが忘れ物でも取りに来たのだろうと、当たり障りのない予想を付けていたが、それは間違いだった。
「好きだ……」
聞き覚えのある声が聞こえて来た。それは私の想い人でもある宮地くんの声で、それは聞き間違えることがないほどはっきりとした声をしている。いきなりのことで固まってしまった私。そんな状態の私でも脳をフル回転させて、今のこの状況が告白現場であることは理解することができた。
「夜久のことが、好きなんだ」
彼は続けてそう相手に告げた。部室の中に居たので、相手の方の確証を得なかったけど、やはり相手は月子ちゃんのようだ。よく漫画や小説とかでガツンと鈍器に殴られたみたいな感覚や、冷たい水を頭からぶっ掛けられたような感覚とかって表現されるけど、まさにそんな感じの衝撃が一気に降り掛かる。私にとっては最悪の現場に立ち会ったものだ。本当に最悪で本当についてない。月子ちゃんは戸惑ったような声を出しており、宮地くんはそんな月子ちゃんの返事待ちといった状況。やだやだ、これ以上は聞きたくない。この場から逃げ出したい。でも今この部室から出て行けば、二人と顔を合わせないと行けなくなるわけで、そんなこの上ない気まずい状況は絶対にいやだった。私はその場でぺたりと座り込み、耳を塞いで、この最悪な状況を乗り切った。耳を塞いでいたので、その後の会話は聞こえることはなかった。月子ちゃんがどんな返事を宮地くんにしたのかは、分からない。だけど知りたいと思う反面、知りたくないと矛盾した気持ちが交差していた。でも宮地くんは私の惚れたという贔屓目無しにもイケメンに分類されるほどカッコイイ、更に大の甘党という所はいつもの彼とギャップがあり、これがギャップ萌えってやつなのかと私は密かにキュンっとしていた。それに彼は不器用ながらに凄く優しい一面もあるから、だから月子ちゃんは多分宮地くんの返事を了承したのだろうと思った。そう思うと、私の中で虚無感だけが支配する。嗚呼、本格的に失恋しちゃったな……。何れは失恋するとタカをくくっていたけど、こうも見せ付けられた状態だと流石にというか、かなり深い傷を負った。私は静かに涙を流しながら、着替えを続行した。早く部屋に帰りたい、その一心で着替えを終わらせて落ち着いてから道場を後にした。外を出るとまだ夕陽が眩しく光っており、私の傷付いた傷口をチクチクと焼いてくる。
「……先輩?」
寮に向かって足を進めようとすると、聞き慣れた声が私を呼び止める。こんな状態で知り合いに出会すなんて、本当に今日はついてないなと、自分の不幸を呪いながら声のした方へと身体ごと向ける。
「……梓くん」
「泣いてたんですか」
「泣いて、ないよ」
「……宮地先輩ですか。……宮地先輩が原因なんですか」
「梓くんには、関係ないでしょ……」
さっきから痛いところばかりをついてくる梓くんは、私の後輩でもあり、うちの弓道部の天才ルーキーだ。その名に恥じず、彼の腕前は部の中で抜きん出ており、そしていつも自信満々な不敵な笑みを引っ提げている。そんな梓くんに私は少しだけ苦手意識があった。それにしてもどうして梓くんは、こんなに根掘り葉掘りと蒸し返して欲しくないことを聞いてくるんだろうか。梓くんには関係ないことだし、興味もないはずなのに。
「……関係、ありますよ。好きな人が、そんな泣きそうな顔してたら」
「え」
「宮地先輩よりも、僕の方が先輩にこんな泣きそうな顔なんてさせないし、先輩を大切にするのにっていつも思ってました」
「え、ちょ、まっ、て」
どういうことなの、何なのどういう状況。いきなり展開すぎて意味が分からない。というか、え?これってもしかしなくとも梓くんに告白されてるよね?だって、確かに梓くんは私のことを、私の目を見詰めて好きな人とそう言った。私さっき好きな人に失恋したばかりなのに、一体何なのこの状況……。未だに私を真剣な眼差しで射抜いてくる彼に、不覚にもキュンとときめいてしまう。
「だから先輩、覚悟しててくださいね」
彼はそう言って、いつもの自信満々な不敵な笑みを向けた。苦手だと思っていた後輩は少しだけ気になる存在へと変わった瞬間だった。不思議と梓くんと話したあとは気持ちが軽くなって自分が失恋したことも忘れるぐらい。いや、もしかしたら最初から諦めがついてたのかもしれないけれど、それでも私って凄く現金で、単純な奴だなーと呑気に考えながら帰路に着いた。まだ夕陽は沈まずに私たちを眩しく照らしていた。
部活終了後の道場、先程まで誰も居らず静寂に包まれていた。そんな中、部室でいそいそと一人袴から制服へと着替えていたのだが、誰かが道場へと入ってきたのだ。私は誰かが忘れ物でも取りに来たのだろうと、当たり障りのない予想を付けていたが、それは間違いだった。
「好きだ……」
聞き覚えのある声が聞こえて来た。それは私の想い人でもある宮地くんの声で、それは聞き間違えることがないほどはっきりとした声をしている。いきなりのことで固まってしまった私。そんな状態の私でも脳をフル回転させて、今のこの状況が告白現場であることは理解することができた。
「夜久のことが、好きなんだ」
彼は続けてそう相手に告げた。部室の中に居たので、相手の方の確証を得なかったけど、やはり相手は月子ちゃんのようだ。よく漫画や小説とかでガツンと鈍器に殴られたみたいな感覚や、冷たい水を頭からぶっ掛けられたような感覚とかって表現されるけど、まさにそんな感じの衝撃が一気に降り掛かる。私にとっては最悪の現場に立ち会ったものだ。本当に最悪で本当についてない。月子ちゃんは戸惑ったような声を出しており、宮地くんはそんな月子ちゃんの返事待ちといった状況。やだやだ、これ以上は聞きたくない。この場から逃げ出したい。でも今この部室から出て行けば、二人と顔を合わせないと行けなくなるわけで、そんなこの上ない気まずい状況は絶対にいやだった。私はその場でぺたりと座り込み、耳を塞いで、この最悪な状況を乗り切った。耳を塞いでいたので、その後の会話は聞こえることはなかった。月子ちゃんがどんな返事を宮地くんにしたのかは、分からない。だけど知りたいと思う反面、知りたくないと矛盾した気持ちが交差していた。でも宮地くんは私の惚れたという贔屓目無しにもイケメンに分類されるほどカッコイイ、更に大の甘党という所はいつもの彼とギャップがあり、これがギャップ萌えってやつなのかと私は密かにキュンっとしていた。それに彼は不器用ながらに凄く優しい一面もあるから、だから月子ちゃんは多分宮地くんの返事を了承したのだろうと思った。そう思うと、私の中で虚無感だけが支配する。嗚呼、本格的に失恋しちゃったな……。何れは失恋するとタカをくくっていたけど、こうも見せ付けられた状態だと流石にというか、かなり深い傷を負った。私は静かに涙を流しながら、着替えを続行した。早く部屋に帰りたい、その一心で着替えを終わらせて落ち着いてから道場を後にした。外を出るとまだ夕陽が眩しく光っており、私の傷付いた傷口をチクチクと焼いてくる。
「……先輩?」
寮に向かって足を進めようとすると、聞き慣れた声が私を呼び止める。こんな状態で知り合いに出会すなんて、本当に今日はついてないなと、自分の不幸を呪いながら声のした方へと身体ごと向ける。
「……梓くん」
「泣いてたんですか」
「泣いて、ないよ」
「……宮地先輩ですか。……宮地先輩が原因なんですか」
「梓くんには、関係ないでしょ……」
さっきから痛いところばかりをついてくる梓くんは、私の後輩でもあり、うちの弓道部の天才ルーキーだ。その名に恥じず、彼の腕前は部の中で抜きん出ており、そしていつも自信満々な不敵な笑みを引っ提げている。そんな梓くんに私は少しだけ苦手意識があった。それにしてもどうして梓くんは、こんなに根掘り葉掘りと蒸し返して欲しくないことを聞いてくるんだろうか。梓くんには関係ないことだし、興味もないはずなのに。
「……関係、ありますよ。好きな人が、そんな泣きそうな顔してたら」
「え」
「宮地先輩よりも、僕の方が先輩にこんな泣きそうな顔なんてさせないし、先輩を大切にするのにっていつも思ってました」
「え、ちょ、まっ、て」
どういうことなの、何なのどういう状況。いきなり展開すぎて意味が分からない。というか、え?これってもしかしなくとも梓くんに告白されてるよね?だって、確かに梓くんは私のことを、私の目を見詰めて好きな人とそう言った。私さっき好きな人に失恋したばかりなのに、一体何なのこの状況……。未だに私を真剣な眼差しで射抜いてくる彼に、不覚にもキュンとときめいてしまう。
「だから先輩、覚悟しててくださいね」
彼はそう言って、いつもの自信満々な不敵な笑みを向けた。苦手だと思っていた後輩は少しだけ気になる存在へと変わった瞬間だった。不思議と梓くんと話したあとは気持ちが軽くなって自分が失恋したことも忘れるぐらい。いや、もしかしたら最初から諦めがついてたのかもしれないけれど、それでも私って凄く現金で、単純な奴だなーと呑気に考えながら帰路に着いた。まだ夕陽は沈まずに私たちを眩しく照らしていた。
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