うちの本丸

やほー、蛍丸でーす。少し前に主と俺の間に仲違いがあったのは覚えてるよね?(※蛍と審神者を参照)俺も三条大橋に出陣して国俊のお手伝いしたかったんだけど、大太刀っていう刀種が災いして反対されちゃったんだよねー。まぁ、今は修行へ旅立って戻ってきた国俊たちが三条大橋を周回してるんだけど。でも、一つだけ問題があったりする。それは国行のことだったり。そう、国行は無気力って言葉を具現化したような感じ。もしも国行が主に「自分、やる気ないのが売りですからなぁ」なんて主に言っちゃったら「あ、そうなの?それじゃあ働かなくてもいいよ。働きたくない人を無理矢理働かすのも悪いしね」と主は言うに違いない。国行や主はそれで良いのかも知れないけど、俺と国俊はそうはいかない。それは国俊も同じことを思っていたようで、このことを話し合うことになった。


「絶対、国行は「何言われても、自分は働きまへん」って主に言い放つよね……」

「そうだな、国行の性格なら主さんに言うだろうな……しかも主さんも「あ、分かった。じゃあ働かなくていいよ〜」って返す」

「うんうん。主も国行もそれでいいかもだけど、俺たちはそれだと周りの刀剣男士たちに申し訳が立たないよね」

「嗚呼。みんな優しいから全然気にしないだろうけど、それが余計に俺たちの罪悪感を掻き立ててるんだよなー」

「だから国俊、国行が三条大橋で見つかったら」

「嗚呼任せとけ、口を酸っぱくして言っとくから」

「俺も国行が本丸に来たら、主に会う前に口止めする」


こうして、俺と国俊の国行が主に余計なことを言わないように口止めする作戦を計画した。こうでもしないと、国行は必ず主に「働きたくない」って言うに違いないから。そして主も「じゃあ、働かなくていいよ」って返すに決まってる。それに主は変な所で徹底していると言うか、完璧主義というか、そんは所があって国行を働かせないようにあれこれする、絶対にする。あんなに待ち遠しかった国行がこの本丸に仲間入りするっていうことが、今はこんなにも気が重いなんて……はぁああ……。




明石さんが来た。部隊長の愛染くんに連れられて、うちの本丸にもついに明石国行がやって来た。良かったね良かったね、愛染くんと蛍丸くん!私の隣に居た蛍丸くんの方へ目線を向けると、何だか渋い顔をしている。しかも何故だか連れて来てくれた愛染くんまでもが。え、何で?どうしたの?あんなに、普段温厚な蛍丸くんが私と一時的な仲違いするほど、渇望してたんじゃないの?待望の明石さんだよ?どうしてそんな苦虫を噛み潰したよう顔してるの?そんな親の仇みたいな顔で明石さんを見ないであげて!明石さんも滅茶苦茶吃驚した顔してるじゃん!


「……主、少しだけ国行と話をさせて」

「あ、はいどうぞ」


え、怖い。蛍丸くんの顔が怖過ぎて、はいしか言えなかった。何時もの蛍丸くんは何処へ?!本当に明石さんは蛍丸くんに何をやったの!まだ会って?再開して数秒だったよね?たった数秒間で明石さんはどうやって蛍丸くんの御機嫌を損ねたの!?幾ら考えても答えなんて出ないので、一応蛍丸くんには話が終わったら私の部屋に明石さんを連れて来てもらうようにお願いした。ごめんなさい明石さん、貴方を見捨ててしまうことになりますが生きて私の部屋に来てくれることを祈ってます。

数十分後、何だかげっそりと疲れた顔をした明石さんが部屋へとやって来た。何があったんだ、というか何をされたんだ特に蛍丸くんに。あれだよね、普段怒らない人が怒ると怖いって現象が蛍丸くんに現れちゃったかな?一先ず、明石さんには楽にしてもらってお茶を出す。


「一応聞いときますけど、何があったの?」

「あ、嗚呼。ただ二人にこってり絞られとっただけです」

「は、ははは」


遠い目をしながら言う明石さんと苦笑しかでない私。あれ、明石さんって来派の祖なんだよね?蛍丸くんと愛染くんの保護者なんだよね?立場逆転してない?大丈夫?


「ただ、主はんには「働きたくない」とか「やる気がないのが売り」とか言わへんようにって頼まれたんですわ」

「え……」


蛍丸くんと愛染くん、そんなこと言ってたんだ。別にそんなこと言わなくてもいいのに。変な気遣いさせちゃったかな?


「主はんは放任主義やからって、二言返事で働かくていいって言いはるからって。それやと他の刀剣男士に悪いからって口を酸っぱくて言われしまいましたわ。他でもない、蛍丸の頼みやから働きたくないなんて言えまへんよね」

「やっぱり明石さんって、二人の保護者だね」

「うん?何当たり前のこと言ってはりますの?……でもまぁ、主はんにはこれでもちゃーんと感謝しとるんですよ?二人から色々と話とか聞かせてもろて、主はんが蛍丸の三条大橋出陣を頑なに了承せえへんかったから、一触即発の雰囲気やったらしいやないですか」


あちゃー、その話明石さんに話しちゃったかぁー。お恥ずかしい限りだわ。それでも、蛍丸くんが三条大橋に出陣するのは心配だったのだ。決して蛍丸くんの力不足とかじゃなくて、今回は蛍丸くんにとって出陣先が本当に分が悪かった。


「まぁ、蛍丸くんが三条大橋に出陣するのは凄く心配だったから」

「国俊からも話聞いて知っとりますよ。だから感謝しとるんですわ、蛍丸を気い使って出陣させんでもらえてね。それに国俊もえらい様変わりして、成長しとるみたいやしなぁ」


「ホンマに、早うこの本丸に来れとったら良かったわ」と零す明石さん。蛍丸くん贔屓の人だと聞いてはいたけど、それでもこうして蛍丸くんはもちろん、愛染くんのことも大切にしているってことが凄く伝わってくる。明石さんって素直じゃないというか、ツンデレっぽい所があるのだろう。


「何言ってんですか。確かに愛染くんが修行へ旅立った後に来たかも知れないけど、それでもこれからその遅くなった分、沢山思い出を作ればいい!だってもう明石さんはこの本丸の仲間になったんだから、みんなと一杯思い出作ろう!」

「……あっはっはっは、お手柔らかに頼んます」


こうしてうちの本丸に明石さんという仲間が増えた。それから明石さんは「働きたくない」と言ちるものの、なんだかんだ言いつつ働いてくれた。やっぱり彼はツンデレのようだ。
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