うちの本丸

これは私がはじめて検非違使に遭遇したときのお話です。この日もいつもと同じように出陣という名の周回をしようとしていました。


「ちょっと待って。なんでそんなにおどろおどろしい感じで語り始めたの?」


語りだした私を静止する日向くん。事の発端は日向くんが検非違使について聞いてきたからで、それならばと私が検非違使との初遭遇のときのことでも話そうと日向くんに申出ると日向くんもノリノリで聞いてきていたのに。話はまだ序盤、検非違使にすら触れてない。


「いやぁ、雰囲気作りってやつ?まぁまぁ、最後までちゃんと聞いてよ」

「分かった、黙って聞くよ」


半ば呆れた感じで日向くんの了承を得たので、私は続きから語り始める。……その日の部隊編成は、清光くん、鶴丸さん、前田くん、骨喰くん、石切丸さん、そして燭台切さんが部隊長をしてくれていました。出陣する彼らを見送り、彼らの無事の帰還を祈りながらいつも通り自室で書類整理をしていました。本当にいつも通りの、何気ない日になるはずだったのですが、それは突然崩れ去ったのです。喧ましい警告音が本丸中に突如として鳴り響きます。いきなりのことで、私は何が起こっているのか理解が出来ず、唯々呆然と警告音を聞くことしか出来ませんでした。すると特徴的な甲高い声が近付いてきて、それのお陰で私はふと我に返ることが出来ました。


「主様、大変です!け、検非違使が!検非違使が出現致しました!」

「なんだって!検非違使が出現しただと?!」

「はい!」

「何故検非違使が……検非違使ってなに?」


こんのすけのノリについつい合わせてしまって失念していましたが、その当時の私は検非違使が何だか知りもしませんでした。そんな拍子抜けした私の問いに対して、昭和のギャグアニメのような感じで態とらしくズコーっと倒れるこんのすけ。


「……そうだった、主さまにはまだ検非違使について説明出来てなかったんだった……ゴホン。検非違使とは過去への干渉・遡及自体を許さない、言わば過去を厳重に監視する者たちです。彼らは過去を改竄しようとする歴史修正主義者を敵視しておりますが、その改竄を阻止するため過去に介入して歴史修正主義者と戦う刀剣男士の存在も否定・敵視しておりますので、刀剣男士にも攻撃してくる第3勢力といえる存在になります」

「ちょっと待てい。何サラッと伝えてること忘れてるんだよ、何故そんな大事なことを早く言わないんだこんのすけよ。それでその検非違使という第三勢力が出現してしまったからさっきの警告音が本丸中に鳴ってたってわけだ」

「左様でございます!主さまには遭遇したときにでも説明しようかなっと思いまして。直ぐにでも遭遇するだろうとタカをくくっておりましたが、主さまったら何だかんだで運がよろしいのでそのまま遭遇せずじまいで、わたくしもすっかり忘れておりました」


てへぺろという感じであっけらかんと言い放つこんのすけを後目に呆れて溜息しか出てきませんでした。そんな中、検非違使と交戦していた第一部隊が帰還したという知らせが私の元へと寄せられました。すぐさま私は第一部隊の様子を確認すべく、急いで転送装置がある場所まで向かいます。到着すると、そこにはボロボロの状態の第一部隊がありました。軽いもので中傷一歩手前、酷いもので戦線離脱の重傷。私は直ぐに手入れ部屋へと第一部隊の面々を連れて行き、手入れが終わった者から各々に事情を聞くことにしました。検非違使は予想以上に手強く、第一部隊の中で最も練度が高かった清光くんですら中傷にまで追い込まれていました。後に聞いた話ですが、検非違使は出陣した自部隊内で最も練度の高い刀剣男士にあわせて、検非違使の強さも変化してくるようで、要するには陣営内の練度にばらつきが出れば出るほど苦戦するようでした。なので、当時の第一部隊がこれ程までに苦戦したのも部隊内の練度にばらつきがあったからでした。


「そんなこととは露知らず、そんな事実を知ってしまった私は、検非違使という存在がトラウマになるレベルで嫌悪するようになったのです」

「検非違使っていうのは厄介な敵なんだね。でも今までだって何度も検非違使と遭遇していたはずだけど、主が検非違使怖いなんて言ってる所を見たことがないような?」

「え?だってそこまでの脅威ではないからねー。あの時は新米のペーペー審神者だったからガクブルだったけど、今はそれなりに極の子達とかも居るから全然だね!寧ろかかってこいやーって感じ」

「違う形でそのときの恨みを晴らしてるって感じだね」

「そうとも言う」


日向くんは苦笑いしており、当時の私をよく知っているこんのすけや清光くんなんかは立派な審神者ゴリラに育ったなと沁々した感じで言われる始末。敵には容赦なく、それが私のやり方なので、仕方がないのだ。清光くんたちを傷付けた罪は重いぞ、検非違使よ。
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