うちの本丸

俺の名はへし切長谷部。この本丸に俺が顕現されたのは14番目になり、それは主が審神者へ着任してから僅か3日目だった。その当時は石切丸の次に顕現されたのが、昨日のことのように思い出せる。俺が主に顕現された時、俺の名前を聞いて主は「強そうな名前だね」と言ってくださった。その一言で俺は救われたような気がした。たった一言、その何気ないような言葉を俺は聞きたかったのかもしれない。その後に、俺が主に名前に対して劣等感を感じていると伝えた時でも「え?そうなの?隠れた茶坊主をその棚ごと圧し斬ったって由来も強そうだし凄いけどね?まぁでも、長谷部さんって何だかんだ言いつつ、織田さんのこと大好きだよね」と仰っていたが、その時は主にあの男のことを大好きだと思われていることが嫌で否定していたな。けれど、今では本当は心の中で俺は織田信長という男に対して執着にも似た感情を抱いていたのかもしれないと思っている。それをあの御方は見抜いていらっしゃったのかも知れない。何時もは飄々と振る舞っていて直ぐに表情が顔に出てしまうのに、偶に何を考えているのか分からない。分かりやすいのか分かりにくいのか、本当に食えない御方だ。そんな主を俺は心底お慕いしている。この本丸に顕現されて良かったと、主に仕えることが出来て良かったと思っている。それは他の刀剣男士たちにも言えることだろう。



「此処にいらっしゃいましたか」

「あ、長谷部さん」

「なんだ、長谷部じゃないか」


書類の期限が迫っているのでそのことを主に相談しようと主を探していたら、縁側のほとりで鶯丸と茶を飲んでいた。主が楽しんでいる所で水を差すのは気が引けてしまうが、これも主のための事なので仕方ないと自分に言い聞かせ、本題を主にお伝えする。


「主。書類の期限がもう間近まで迫っておりますよ」

「嘘?!うわぁー、やっちゃったなぁ……」

「僭越ながらこの長谷部がお手伝いさせて頂きます」


俺がそう申し出ると主は至極嬉しそうに「本当!?それはすっごく助かるー!ありがとう長谷部さん!」と言いながら主は立ち上がり、鶯丸に断りを入れながら自室の方へと歩みを進めた。俺もその後に続こうとすると鶯丸に「長谷部」と名を呼び止められる。


「なんだ?俺はこれから主の手伝いをしなければならないのだが」

「長谷部。主はお前だけの主ではないぞ?みんなの主だからな」

「……ふっ。そんなこと疾うに自覚している」

「ならいいがな」


そう鶯丸は言うと茶を啜り始める。まさか鶯丸にこんなことを言われるとはな、と意外に思いながら主の自室へと向かう。あの男の所為もあり、俺は主という者に必要以上に固執してしまう所がある。囚われてる言っても過言ではないだろう。そんな俺を救ってくださったのは主だ。主は皆を平等に大切に愛でてくださっている。それを目の当たりにして、俺一人の主ではないと、痛感させられながらも気持ちが軽くなった自分がいた。ただ俺は皆と同等に大切にしてもらいたかったのかもしれないのだと、主のお陰で気づくことが、吹っ切れることが出来たのだ。だからこそ主、主はそのまま変わらず居てくださいね。
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