うちの本丸

審神者着任一週間目にしてレア太刀と呼ばれている鶯丸さんを顕現する事に成功した私なのだけれど、今回のイベント「連隊戦」の確定報酬である大包平を求めて連隊戦に参加することになった。

この一週間ほど慌ただしく忙しい日々を過ごした。連隊戦期間中はレア短刀でもある厚藤四郎くんを顕現することは出来たのだけれど、結果的に大包平は愚か蛍丸くんにさえも届かず、連隊戦は呆気なく幕下ろした。そしてその忙しさのお陰で、私はまだ鶯丸さんを近侍に任命したことがなかった。連隊戦が終わり一段落付いたので、友好を深める為にも今日の鶯丸さんに近侍をしてもらうことになっている。


「……」

「ずず…」


鶯丸さんは優雅に、然れども黙ってお茶を啜っているのだが空気が重い、沈黙が痛い。完全に話し掛けてくるなと言わんばかりのオーラを鶯丸さんから放たれている様な気がするけど、何故不機嫌オーラ全開なのか分からない。真逆、今現在進行形で鶯丸さんが無表情で飲んでいるお茶が美味しくない?でも無表情ではあるけど普通に飲んでるし.......。それじゃあお茶菓子に何か問題でもあったのか?お茶菓子には一切手を付けていない様子を見ると、余り好みではないお茶菓子だったとか?こ、このままこの雰囲気で一日中過ごさなければならないのは嫌だ。


「何だ、主。そんなにマジマジと、しかも無表情で見られていては飲みにくいだろう」

「あ、ごめんなさい。.......お、お茶の味はどうです?」


考え込んでいたら無意識ながらに鶯丸さんをついついガン見していたらしい。しかし、どさくさに紛れて鶯丸さんにお茶のことを聞けたので結果オーライだ。


「嗚呼。この茶も中々美味いな、一体誰が淹れてくれたんだ?」

「そのお茶なら私が」

「そうか、主が淹れてくれたのか.......」


そう言った鶯丸さんの口角が、一瞬だけ上がった様な気がするけど、すぐに直ってしまった。
だけどあれは絶対に鶯丸さんの笑顔で、鶯丸さんがここに顕現されて、初めて真面な笑顔を見せてくれた気がする。ここ一週間は特にバタバタと忙しく、鶯丸さんを含め全体的に気が張り詰めていてピリピリしていた。その緊張感も良い意味で緩み、この本丸にも馴染めている様で本当に良かった。


「あの、お茶菓子はまだ手を付けて無いみたいですけど、気に入りませんでした?」

「練り切りは俺の好物だ。だから最後まで取っておいてから食べようと思っていた。.......それにこの練り切りは、食べるのが勿体無いな」


鶯丸さんが好きな物は後で食べる派だったのは、とても意外で、私の勝手な想像だけれど鶯丸さんは好きな物は最初に食べる、若しくは間々に少しずつ食べていく派だと思っていた。だからこそ余計に意外だと思ってしまった反面、可愛らしい部分もあるんだなとほっこり。


「その練り切りなら歌仙さんと一緒に作ったんですよ。タイトルは春告鳥はるつげどりです!」

「なるほど。春告鳥で、鶯か.......随分と風流だな。これでは益々食べるのが勿体無いが、折角の手作りだ。頂くとしよう」


歌仙さんと作った鶯の練り切りは、鶯丸さんに好評だった。食べるのが勿体無いなと言ってくれたのは作った側として凄く嬉しいもので、表情は分かりにくいけど美味しそうに食べてくれている。結局、私の分も美味しく平らげて「また作って欲しい」と言ってくれた。気に入ってくれたみたいで、本当に良かった。


「なあ、主。大包平は何をやって居るんだろうな。大包平は天下五剣の称号を気にしすぎ上に、大包平は放って置くと無茶ばかりをする。それに大包平は……」

「……」


そこから永遠と大包平の事を語る鶯丸さん。傷付いた心を容赦無く抉られている気がする。さっきまで穏やかなムードだったじゃん、のほほんとしてたじゃん!何を引き金に大包平の話題を持ち掛けたの鶯丸さん?!いやもうホント、私が腑甲斐無いばかりに大包平をお迎え出来なかった理由だから責めらるのは仕方がないんだけど、私って見た目よりもガラスのハートなんだって!傷ついやすいし、直ぐに砕け散ってしまうからもう辞めて!私のライフはもうゼロよ!お願いだから、私が悪かったから、だからそれ以上私の傷口を抉らないで!けれど私の願いは、鶯丸さんには届かなかった様で、今日一日中大包平の事を聞かされ続けたのだった。

次の日、昨日は鶯丸さんに散々大包平の事を聞かされ続けた。大包平の事を語っている鶯丸さんは、凄く生き生きとしていて、そんな顔を見てしまうと嫌とも言えず、鶯丸さんの大包平語りに一日中付き合ってしまった。そんな自分のお人好しさには熟々飽きれてしまう。


「主?今日は顔色が宜しくない様ですが…真逆!何処か体調がお悪いのですか?!」


今日の近侍は長谷部さんで、その長谷部さんと本丸の廊下を歩いていると、私の顔色が相当悪いらしく、心配してくれている。そんなに顔色が悪いのかぁなんて他人事ように考えてしまう。長谷部には大丈夫とは言ったものの、滅茶苦茶心配された。それは私の顔色のことあるだろうけど、何故か今日の私は不運に見舞われていた。角に足の小指を打つけるたり、何も無いところで躓く、よく足をつるは基本。短刀達とボールで遊んでいるとボールが顔面強打する、調理中に包丁で指を切る、挙げるとキリがないほとだ。何故これほどまで不幸に見舞われているのか、今何も次々と不幸が訪れるものなのか、いや可笑しい。可笑しすぎるのだ、普通はこれほどまでの不運は起きる筈がない。そう思い立った私は、御神刀の石切丸さんの元へと赴いた。


「……という事が有って」

「だから私の元へ訪れたという理由だね」

「あ、ははは」


石切丸さんに今日の出来事を細かく話したのだけれど、この異常なまでの不運は可笑しいと石切丸さんも思ってくれている見たいだ。


「……主は何か心当たりとかはないのかい?こうなってしまった原因は、必ずある筈なんだ」

「それが全く心当たりがたいんだよね」

「.......主、単刀直入に言おう。君には呪詛が掛けられている。まだ初期段階だからこそ、その程度の事で留まっているけど、放って置くと大変な事になる」


「主に掛けられている呪詛は、そんじょ其処らの呪詛とは訳が違うからね……」と重々しく言い放った石切丸さんは、何時もの穏やかな表情とは一変してとても強ばっている。真逆呪詛を掛けられていたとは思いもしなかった。多分石切丸さんの言い方からすると、呪詛を掛けられたのはつい最近になる。それが審神者になってからだということは容易に予想が出来た。私が審神者になってからこんのすけと政府のお役人、刀剣男士達で、この誰かが私に対して何らかの怨みがあり、呪詛を掛けたという事になる。然して石切丸さんの口振りからして、特別なこれは呪詛。そんな芸当が出来るのは付喪神の刀剣男士しか居ないだろう。


「それじゃあ……」

「その通りだ」


突然、石切丸さんと私しか居ない空間に声がした。その声は聞き覚えがあって、誰かは分かって居る筈なのに、その人では無いと、違うそうじゃないと心が否定する。その事が、唯の現実逃避だとしても、私はその事実を認めたくは無かったのだ。何故なら彼こそが私に呪詛を掛けた人物なのは、石切丸さんを見れば明白だったからだ。強ばっていた石切丸さんの表情は、悲哀と怒りが入り交じり殺意さえ感じる。


「なぁ、主。認めたくないと思っているだろうが、何処かで気付いていたんじゃないか?でも、認めたくないと、違うと否定し続けたのがこの結果だ」

「鶯丸さん……」


鶯丸さんはそう言いながら私達に近付き、私の背後まで来ると、私の肩に手を置いた。手を置かれた瞬間に、反射的にもあったが、其れよりも恐怖という感情が一気に押し寄せて来て身体を強ばらせてしまう。私の様子を見た石切丸さんが、更に殺気だってしまって、今からでも鶯丸さんに斬りかかっても可笑しくないくらいだった。鶯丸さんは確かに主と呼んだ筈なのに、主として呼ばれた気がしない。未だ肩に乗せられている手は、何処か冷たく私の体温を奪っていっている。


「どうだ主、俺を刀解するか?」

「……しないよ」


鶯丸さんの言葉を否定した時の声は、予想以上に震えていて、とても説得力何てものは無かっただろう。けれど、私は鶯丸さんを刀解をするつもりもないし、これから先もする予定もない。


「……何故だ?俺は主に呪詛を掛けた張本人だぞ?其れ共俺が、レア刀剣男士と呼ばれているからそう簡単には刀解しないのか?」

「そんなのは関係ない。私は、昨日一緒にお茶した一時が忘れられないだけ。鶯丸さんと呑んだお茶は凄く、凄く美味しかった。それに私と歌仙さんが作った練り切りを、あんなに大事そうに食べてくれたのが本当に嬉しかったんです。歌仙さんも喜んでましたよ」

「……」

「其れに、鶯丸さんが呪詛を私に掛けた理由を知っているので、大丈夫!」

「!?」

「鶯丸さんは唯、寂しかっただけじゃないですか?あんなに頑張ったのに大包平を迎えることは出来なくて、悔しかったと思う。だからそんな鶯丸さんを咎めたりしないよ。逆に私が謝らないと。私の力不足が招いた原因でもあるので、甘んじて罰は受ける心算ですよ」

「ふふふっあははははは!済まん、済まん。真逆土下座までして謝られるとは思わなくてな……主、済まなかった。あの呪詛は唯、主を揶揄ってみただけの冗談だ」

「…へ?」


な、何だ…鶯丸さんの冗談だったのか…。何か安心したら一気に緊張が解けて、力んでいた身体の力が抜ける。


「…だが、次大包平を迎える好機が訪れた際には、必ず迎えてくれ」

「分かってる!必ず次はお迎えするから、期待してて待ってて!!.......では、この件も一件落着したので、私は執務に戻るねー。石切丸さんも有難う御座きました!鶯丸さんも、又お茶会しようね」


私はそう言って石切丸さんの部屋を出た。
今度は石切丸さんと鶯丸さんとの3人で、お茶会をするのも一興だろう。美味しいお茶とお茶請けを用意して置かないとだ!そんな呑気な事を考えながら私は、執務室に戻っていた。これにて一件落着!後日、全然来てくれなかった平野くんが来てくれた。
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