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サニーサイドアップ

 裏切られてきた。
 金を貸してくれと言われて貸したら、行き先も告げずに引っ越されて、二度と会うことはなかった。
 下に見られてきた。
 作家さんをやってらっしゃるんですね、稼ぎが少ないんじゃないですか? と、余計なお世話である心配をされた。
 侮られてきた。
 そんな強そうな名前なのに引きこもって文章を書くだけなの? と失礼にもほどがある驚き方をされた。

 男は……君主きみぬしは、周りからのデリカシーのない言動の数々に、疲れ果てていた。人間の薄汚さ、滑稽さをこれでもかと味わった気分だった。
 できる事ならば二度と人間と関わりたくない。親切にしていればつけ上がり、調子に乗る馬鹿共と同じ空気を吸いたくない。低俗な者共と距離を置きたい。
 ……。
 …………。
 君主は、街の外れにある自身の家に、それこそ本当に引きこもるようになっていた。
 食事は配達されたものを食べる。服は通販で買う。ゴミ出しは夜のうちに済ませて、朝などの人とすれ違う時間帯には決して外出しない。
 徹底した人嫌いである。
 君主は、それでいいと思っていた。

 ある日、君主の家に一冊のカタログが届いた。
 通販でよく利用しているカタログ配達サイトからの、お試し品だった。
「月刊、アンドロイドパニック」
 という、客に届ける物なのにパニックをつけたらいけないだろう、妙なタイトルのカタログだ。
 暇つぶしにページを捲ってみる。
「格安で最新式のアンドロイドをお届け! 初回利用者様のみの、にこにこパック!」
 そんな文言が、目に飛び込んてきた。

 君主は人間が嫌いだ。デリカシーがなく、敬意もなく、想像力も気遣いもない人間なんて、大嫌いだ。
「……機械なら、振り回されることもないんだろう」
 ポツリと呟き、スマホでカタログを読み込み、注文番号をタップした。
 高度なAIを持つ機械ならば、身の回りを任せても問題は無さそうだと、判断してのことだった。
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