軌跡
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わたしの せいで ひとりの いのちが うばわれて しまった
『(……人の優しさを、私は踏みにじっちゃったんだ)』
後悔に明け暮れて、もうご飯だって食べてられないぐらい、何もかもどうでもよくなってきてしまった。このまま、訳の分からない世界に私は生きている意味がないとまで思った
だってそうでしょう…?
いまどき、明かりを照らすものがろうそくの火で。誘導尋問や拷問は禁止されたはずだったのに、身に降りかかってきた様々なこと
『(……あれ、?)』
そういえば、見張りの人が死んだというニュースを聞いてから一つだけ変わったことがある。……身体的苦痛が、なくなったのだ。相変わらずひょこひょこと二人の尋問者は現れるが、手を出して来たり、手にバケツを持っていることはなった。ジャーファルさんじゃない人なんかは毎回来ては独り言のように喋っては、帰っていくだけだった
──でも
雑談のような彼の独り言に、返してしまえば彼は"罪人と口をきいた"ことになるのではないか……?
「……よぉう、なんだまた寝てないのか」
『……』
噂をすれば何とやら。例の尋問者の一人、まえに"切腹した"と教えてくれた人だ。そう、ジャーファルさんじゃない方
にこり、ととても優しげな顔を浮かべる彼。でも鉄格子越しにみる顔はただの同情の眼差しにも見えてしまう。……だめだ私、そうとう思考回路がひねくれてきたと思う
「今日の飯はなんだと思う?」
『………』
「へへ、きっとびっくりするぞ」
『………』
「騙されたと思って食べてみろよ?」
「本当に美味いんだ」と言って、しゃがみ、鉄格子の中に食器をことりと置いた。……そんなもの、いらない。どうせ、どうせまた入ってる。もう、吐くのはいや
もう、いなくなるのも、いや
置かれた食器には、きれいな薄いピンクで。まるで生ハムのようななんというか、おいしそうな……お肉、だろうか?
「無理に、とは言わねぇからさ、一口だけでも……な?」
『………』
──とても、おいしそう
だけど、だけど……。口にするのは、こわい
「……なぁ、きっとあの日から食べてないんだろ?」
彼の言う"あの日"=切腹したと宣言された時だろう。眉を下げて、目には憂いがともされる
なんて、なんて表情をするのだろうとそう思った。口は情けなく半開きで、力は入っておらず、目は伏せられ、まつ毛の陰に瞳が隠れる。本気で、心配してくれて、るの?
『………』
「そのままだと、身体もたないぜうたちゃん……」
──でも、最後まで無言でいてしまった
******
「………」
『………』
今日は、ジャーファルさんじゃない人もきたし、……そしてジャーファルさんも、ここを訪れに来た。でも彼は、もう一人の方のように口を開くことはなく……、静寂が支配する
ふと、鉄格子の奥でジャーファルさんが動く気配がした
「食べて、ないのですか」
『ッ!』
ひどく驚いた。言葉を失うぐらい。恐る恐る彼の顔色を伺う
「………食べろ、とは言いませんが」
そこまで言いかけて、彼は一度口を紡いだ。何かを言おうとしてるのか、彼は少し黙る
「………死なれては困るのです」
ああ、もういやになる
それが彼なりの優しさだとは知らずに、間に受けてしまった。死なれては困る、……どういう意味なのだろうか
だれか おしえて
不意に見上げた天井の窓らしきところからは、小さいながらも静かに主張する満月があった
──同刻、とある一室にて
「王様、王様!!や、ヤムライハ様が只今お戻りになられました!!」
「ッ!そうか!!至急ここに呼んでくれ」
「ハッ!」
そうして物語は一気に加速する
fin