軌跡
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ズリズリ、と人差し指で横に一本引く。そうすればうっすらと"正"の文字が浮かび上がった。この行為だけでも、ほっと心が安らぐ。……どうかしてると自分で思った
『(この、食事ルーティンで五回め、)』
──あれから数日が経った。そして学んだことがある
この牢屋の中には、柵の外に見張りが一人。隊長と呼ばれる偉い人だそうだ。それと、扉の向こうに2人ぐらい。たまに話声が聞こえる。彼らはただの見張りで、話しかけることは一切なかった
また、寝ていれば冷水を浴びわされ、覚醒を強いられる。それは生理現象の一つである睡眠の妨害だった。これは精神的にくるもので、安心して寝てなんかいられない。おかげさまで体がだるい
人間の三大欲求の一つを制限されているのだ、ストレスを感じないわけがない
ふと足を崩そうと、体育座りから足を倒した。それだけの行為にジャラリ、と重い音がした。私には、足枷が付けられている。それすなわち、動ける範囲だって限られてくる。これも、とてもつらい。寝転がることも、ましてや歩くことなんてできやしない
食事だって、でるときもあればまったくでないときだってある。本当は食欲がないが、食べなければ声がでなくなりそうだと思ったため、食べ続けることにしている
これらはまるで、死なないようにぎりぎり生かされている感じだった。ここだけの話、脱獄を考えた。しかしできなかった。こんなに居心地の悪いところ好んで長居などしない、と皮肉めいたことを考える
どうでもいいことだけれど、あの銀髪の彼はは"ジャーファル"というそうだ
見張っている人が喋っていた
「食事の時間だ」
『……、』
ことりと置かれた食事に、視線を移せばパンとスープ、という少し豪華なものだった。……珍しい。と思いじっと見つめる
そういえばいつもはこのぐらいの時間に誰か来るのに、今日は誰も来る気配がなかった。足音がしない。……この、見張りの人だけなのだろうか
『(静かなの、久しぶり……)』
そう思いながら、つけられているスプーンのようなものでスープを掬って口にした。クラムチャウダーのような、乳酸品の味がする
『………おいしい』
コクリ、と暖かいスープが喉を通った
「………そうかい」
『、?』
見張りの人は、静かにそう言った。伏せがちの瞳は哀愁漂っており、その瞳はまるで……"同情"
『………、』
どうしたのかと声を出しかけて、引っ込める。声をかけてはいけない。かければ、彼が疑われてしまうかも。もしかしたら、私ももっと疑われて、一生出られなくなってしまうのかもしれなくなるし
「無理して全部食べなくてもいい。残すなら、残してくれ」
『……?』
何を言っているのだろうか、この人は。少し不思議に思ったが、今食べなければまたいつ食事が出るか分からない。それこそ餓死してしまうかもしれないと思うと、食べなければと思った
いつもは声をかけないのに。
不思議に思いながら、パンをちぎって最後の一口を飲み込んだ
fin