軌跡
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ーーーーー乾きを、感じていた。
じりじりと焼けていくのが嫌で、日陰を求めて、路地裏に入ったのがいけなかった。たまたま、そこに居合わせた、ガラの悪い人たちと目が遭ってしまって。
ライラさんが言っていたっけ、物陰に入ると、「闇市」とかがあるから、一人で歩くなら気をつけろ。と
ゾッとした。
本能的にここは入っちゃいけない、そう思った。反射的に踵を返せば、案の定追いかけてきた。
ああもう、どうして、こうなるの。
よたよたになりながらも、走り続けた。
そうして気が付いたら、自分は砂漠に立っていたし、ガラの悪い人たちも、追いかけてきていた。
「はぁっ!はぁッ……」
「どこまで行く気だぁ~?そんな軽装で砂漠を越えられるわけねぇだろ?オニーサン達に黙ってついてこいよ」
「や…!」
「捕まえたぜ…!おっと、あばれんなよ」
「んんんんっ!」
ついに追いつかれて、腕を強く囲まれる。叫ぼうにも、即座に手で口を押さえられた。男たちは、満足げに、ゲヘヘゲヘヘと舌を出して笑みを浮かべていた。そんな顔を見て反吐が出そうになる。
とても気持ち悪い顔だった。
「別に危害は加えねぇさ。お嬢ちゃんが大人しくしてればなぁ!」
「見たところ、金品も持ってねェし……こりゃぁ足跡残らねぇだろ。へっへっ、久々の獲物だなァ…」
自分に向けられたニタァという、捕食者の目。ゾッ、と改めて恐怖が沸き起こる。
こわいよ、と。
たすけてと。
誰か……と。
──だけど、そう思ってるうちは助けなんてこないことを知っている。
しぬのは こわい
まだ、しぬわけにはいかないの。わたしはまだ生きる意味をみつけていないのだから。
なんとか自分を取り押さえている男たちから逃げられないかと、キッと男たちを睨み、ともがいた。
やられてたまるか。
やられるぐらいなら、いっそのことーーー。
「ふーん。お前、良い面するじゃねぇか」
その瞬間、ギラギラと差し込んでいた光に、影がフッとさした。
「なーんか面白そうなことしてんなーって思ってたけど、案外いい拾い物じゃね?これ」
ニタリと笑う、突然現れた黒。
黒が、太陽がを遮り、自分の顔に影を作ってゆく。それはまるで。太陽が黒に飲み込まれていくような。
それは、皆既日食のようだった。
ニタリと笑う黒が私を捉える。
その瞬間に、私を捕らえていた男たちの拘束が緩んだ。
「な、なんだ、お前…!!!」
「空から降りてきやがった…!?」
「は?あーあー面倒くさえな…」
ぽかんとする私をよそに、男たちとその黒は向かい合う。そして黒が、面倒そうに頭をガリガリとかきむしり、ため息を吐いた。
「だりぃ……、一気に攻略させんのが手っ取り早やくね。どうぜダメな奴はダメだからな」
お前らみたいな低俗なやつ、無理に決まってるさと吐き捨てた黒は、腕を高らかに掲げた。
それを合図に、ズズズズと砂が揺れ、一気に砂が動きだす。まるで蟻地獄のように真ん中が窄み、中心へと砂が集められていくではないか。
ぎゃああああ、助けてくれええ!と男たちの叫び声が聞こえる。やがて、その中心には、大きな建物が出現した。
な、なんだこれは。何が起こっているのだと周りが騒ぐ中り私は、ただひたすら、蟻地獄の中のにそびえ立つ、建物の神々しさに息を飲んでいた。
「なに、あれ…」
やっと声が出たかと思えばそんなこと。近くにいた黒は、それを聞くなり、またニタリと笑顔を見せた。そして、座り込んでいる私の腕を力一杯引っ張る。ぐいっと近く私と、黒の距離に思わず息を飲む。
「っ…!?」
「これからお前が攻略する迷宮(ダンジョン)だよ」
ーーえ?
それを聞くなり、ドンっと押され、私は体勢を崩した。ふわりと浮いた体に、先ほどまで至近距離にいたはずの黒が遠くなっていく。
「まっ、精々ダンジョンに喰われないよう頑張れよー!」
ニコニコと無邪気な子供のように、そして、残酷に。彼はヒラヒラと手を振っていた。私はそんな黒の様子を見ながら、出現した蟻地獄風の建物に落下していった。
あなたは だれ
それを聞くこともできず、ぱああああと不思議な光に体が包まれた。それはまるで、私が死んだ、あの日のようで。
「うた…!」と、私の名前を呼ぶ誰かを、思い出していた。
「なっ、なんなんだお前!俺たちの獲物を突き落としやがって…!」
「あ?なんだ、まだいたのかよ…。残念だったなぁ!あれは俺の獲物なんでな」
お前らなんかが喰えると思うなよ、と、細められた紅い瞳に、男たちは恐怖で震える。
そんななかでも、少女を追いかけていた男たちーー所謂、盗賊の頭は、怯みながらも黒い、紅い瞳の人物に吠え続ける。
「でもあの獲物、迷宮に…!だっ、ダンジョンってあれだろ!?最近各地に出没してて、人間を喰らうって噂の…!!入った人間は2度と出てこれないだとか……!」
そんなの矛盾してるじゃねえか!と吠え散らかす男に対して、黒の人物はそれはそれは面倒そうに耳をほじる。
「ま、あいつが出てこなかったらそれはそれまでってことだな。別に、ちょっと気になる気配しただけだしな」
「なんだ、それ……あの獲物丸腰だったし…!絶対終わったぞ…!!!くそっ!どーしてくれんだ俺たちの貴重な収入源!!!」
「うるせぇなぁ…そこまで言うなら獲物のために助けにでもいけよ」
その言葉に、ヒィッと怖気付いた盗賊を見て、くくくと笑う。
「無理だろうなぁ、お前らの中に王の器はいねえし」
それだけ言うと、黒の奴はあぐらをかき、その上に重ねて頬杖をついて、宙に浮いた。
その様子を盗賊たちはあんぐりと口を開けていた。人が、浮いた。そんなバカなと言いたげな顔である。
「さぁーってと!ちゃっちゃと攻略して出て来いよ。異端者」
ニタリと笑う姿はだれが見ても、寒気を思えるほどの純粋な笑顔であり、悪意に満ちた笑顔とも言えた。
そして言い放った「異端者」という言葉を、すくい上げるものもいなかった。
丁度ダンジョンに吸い込まれて数十分後。もう中で目覚めた頃だろう。と期待に満ちた顔で。
しかし、ぷかぷかと浮かぶ黒は、数時間あと経過したのち、飽きたのか姿を消していたーーー。
そうして、黒も、盗賊も。周りに誰もいなくなった後の事である。
建物が姿を消した代わりに、その建物があった場所に1人の少女が、大量の宝石や金品とともに現れた。
疲れているのか、眠るように横たわっている。外傷は見当たらない。
少女の持つ、淡い水色が、砂場に散らばっている姿は1つの芸術品のようでもあった。
「なっ女の子……!?お、おい生きてるのか……?おい!?」
そしてそれを、黄金色を持つ、通りすがかりの少年が気に留め、横たわる少女をその場からすくいあげたのだった。
これが、彼女にとっての、この世界での、運命の出会いである。
fin