軌跡
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「さぁ買った買った!ここでしか買えない代物あるよ!今なら特別価格だ!さー買った買ったぁ!」
「こっちは限定の木の実!熟れてて美味しい、今が食べ頃、乾いたそこの兄ちゃんいかがかなー!」
最後に到着した、オアシス都市、ウータンは良いところだった。市場?のようなものが栄えていて、ワイワイと賑わっている様子は、とても明るいイメージを持たせる。
「(文字は、見たことないのに読める…。ほんとにどうなってるの…)」
ワイワイと人が行きかうなか、外に張り出されている張り紙に目を向けると、見たことのない文字ではあるのに、すんなりと読めた自分がいた。とある張り紙には『盗賊団、また壊滅』とある。
もうなにがなんだか。考えるのをやめたくなるほどだ。とりあえず、飲み物、お水を買おうと踵を返した瞬間だった。
私はまた吹き飛んでいた。
でもそれは、マスルールさんのような、強いものじゃなくて。とんっと。友達とじゃれついた時の、ような感覚で。
突然、いきなり、唐突に。「おうおうおう!元気だったか!?」とドーンと突進され、私は受け身もなにも取っていなくて、ドーンッとそのまま勢いよく転んだ数分前のこと。
「それよりも、ほんとごめんなさい。私はサアサ。こっちはライラっていうの」
「い、いやぁ、まさか吹き飛ぶとは思ってなくって、その、ほんとにすまん」
「い、いえそんな。間違えは誰にでもありますし、」
「ほんとに怪我までさせてしまってもうなんて言えば……」
「あわわ、顔を上げてください」
深々と頭を下げ、こちらもなんだか申し訳なくなってくる。ライラさんとサアサさんに何度も謝罪を入れられているのだ。怪我と言っても、これはライラさんの突進によるものではなくて。
「この怪我はちょっと前にっできたものなので、ライラさんのせいじゃないですよ。むしろ手当までしていただいて、なんと言ってお礼を、」
「いや!これくらいさせてくれ!」
半ば強引に、手当を施してくれたライラさんとサアサさん。強引ではあったけど、彼女たちはとても優しく、朗らかだった。
その純粋な優しさがまた、私の涙腺を刺激してくる。ああ、もう、だめだというのに。人の優しさはなんでこんなにもあったかいんだろう。
「にしても驚いたよ!うたって言ったっけ?その髪色とかさ、知り合いに似てたんだ」
「髪色、ですか」
きょとん、とする私に、ライラさんとサアサさんは、誰かを重ねている。私の髪色、青い、青い色。
「そう!ちょうどそんな色で!ちょっと生意気だけど、私たちの恩人なんだ」
「元気かしら。あの子」
「意外とやってってるさ。あの図太さはな」
「ふふっ、ライラってば」
「あ!もしかしてうた、実はお姉さんだったり……」
ぽんぽんとテンポ良く会話をしていたが、はたっと間が開く。二人は顔を見合わせると、ハッとしたようにこちらを見た。
「うたさ、“アラジン”って聞き覚えあるか?」
「あら、じん」
聞いたこと、ある。
アラジン、アラジンと魔法のランプ…。某ネズミのお話にもある、あの魔人を呼び出す、青年。しかしそれはどれもこれも、おとぎ話の登場人物のことだ。
「あいつ、サアサの……むっ胸にこう……!」
「ライラ落ち着いて、あれはただの戯れよ」
「サアサはなんでそんな平気そうなんだよ!もっとこう危機感を…!」
顔を赤く染め、両手をワキワキを動かすライラさんに、気にしすぎだと笑うサアサさん。その姿は、本当に仲の良い親友同士なのだとわかるぐらいだった。
アラジンは何回胸に!とか、あの笛は、とか。盗賊団を壊滅させちゃったとか。
アラジンがやっていることがあまりにもファンタジーすぎて。小さい小柄の少年らしいが、子供がサアサさんのおっぱい…胸に飛びつき、巨人を操り、盗賊を壊滅させているところを想像すると、どうしてもおかしくて。
やっぱりこの世界は、おとぎ話の中なんじゃないかと、笑ってしまった。
「あはは、ずいぶんと、破天荒な子なんですね。そのアラジンって、子」
「……やっと笑ったな。うたはずっと困り顔だったから」
そう言って片目を細め、綺麗に微笑むライラさんはとても美しくて。その荒っぽい、破天荒な性格を打ち消すまでの、優しい笑顔だった。
その笑顔につられて、私も自然と口元が緩む。
「ライラさん、優しいんですね」
「なっ!」
「ふふっでしょう、ライラは優しいのよ」
「さっ、サアサ!」
ライラさんが顔を真っ赤にして、サアサまで茶化すなよ!と反論し、サアサさんは嬉しそうにクスクスと笑っている姿に、自然と「いいなぁ」という気持ちが溢れた。
手当を終えたライラさんは、顔を真っ赤にしたままふんっと鼻を鳴らした。そして、手当をしてくれたからこそ、私の足付近にある傷たその様子に不安げな顔をを浮かべてくれる。
そんなライラさんに気づき、そして察するサアサさん。お互いが頷くと今度はゆっくりとかがみ、座っている私と視線を合わせて、口を開く。
あ。待って。
だめ、ライラさん。サアサさん。
「あーー、っと、その。その傷どうしたんだよ、大丈夫か?」
「行く場所は決まってるの?」
だめだ、このまま、この人たちと話をしていると、今度はこの人たちに、すがってしまいそうだ。
「あはは、ちょっと転んでしまって。…、このあとは、友人と会う約束を、しているんです」
乾く唇を開き、いるはずもない、架空の友人を思い浮かべながら、そう答える。その返答を聞き、少し安心したように微笑む二人に、ずきりと良心が痛んだ。
嘘だ。
でも、あの後彼女たちが私に何を言うのか、簡単に予測できてしまって。優しい彼女たちのことだ。行く当てのない私に、「居場所」を与えてくれただろう。
でも、でも。
私は、まだ居場所を見つけてはいけない気がして。
「ライラさん、サアサさん。ありがとうございます、またいつか」
「おうよ!またなうた!悪質な盗賊に気をつけろよ!」
「ふふ。ライラがそういうと説得力が違うわね。あと、砂漠は危険だから立ち寄らないほうがいいわ」
「い、言うな。とっとにかく!なにかあったら私たちのところにこいよー!日が昇るまではいるからさ!」
「(なんて、優しい人たちなんだろう)」
私が見えなくなるまで、見送り続け、大きく手を振ってくれた彼女たちに、気が付けば涙がこぼれていた。泣きながら歩く私は、周りから見たらひどくみじめで、滑稽だっただろう。
この世界は、正義にも、優しさにも満ちている。だけど時には冷たくて、悪意になることだって。同じ、私のいた世界と同じ人たちが、住まい生活をしているのに。
同じ、人間なはずなのに。
ひどい疎外感が自分を襲っていた。
fin