軌跡
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「まはらがーん……?」
とは、いったい。
数分前のは私はそう思っていた。
そうと決まれば、と、ピスティさんに連れられて私の部屋にもどる。
「ちょっと待ってて!」と言い、部屋を後にする。暫くしてから、ワンピースを持ったピスティさんがやってきた。
「これね、ヤムとつくったの!うたちゃんの、腰巻きみたいなやつ真似てみたんだけど…その、うまくできなくて」
「!!!」
渡されたワンピースに、視線を落とす。ハコヒダを作りたかったのだろう。そこは長い部分や短い部分があり
ギザとしていた。
確かに制服とはかけ離れたものだけれど、縫い目はガタガタだし、だけど、それは一枚のワンピースで。縫い目は決してきれいだとはいいがたいけど、だけどふにゃふにゃな線が一本、さらにそれを修正するように、上から縫い直されていた。
「えへへ、私もヤムも、裁縫はちょっと……だから仕上げはね、とある人がやってくれたんだよ。その人もね、陰ながらうたちゃんの背中を押してくれてるんだぁ」
「とあるひと…」
「……うん」
うたちゃんも、よく知る人だよ。と教えてくれたピスティさんにふと脳裏を掠めたのは、銀髪の──。
「さぁっその服着て、今日は楽しもうよ!」
ぐいっと手を引いてくれたピスティさんに、光が差し込んだように見えた。単純に、国のお祭り、に参加させてくれるという事実が、嬉しかった。
「──はいっ、」
もう思い知ったのだ。
怖がることも、避けることも、もう必要ない。
*******
「シンドバット王と南海の恵みに感謝を!!」
ウォオオオオ!!と一斉に沸き起こる完成。夜の空に向けて撃ちあがるたいまつの炎。ワイワイと人で賑わっており、誰もが笑顔でシンドバットさんに向けて杯を向けていた。
──すごい、!
目の前の光景はきらきらしていて、食い入るように見つめていると、隣の方で「ハハ」と笑い声が聞こえた。
振り返ると、さっきまでいなかったはずのシンドバットさんが隣にきていた。ことり、と豪勢な食事を持って。
ニッと笑うと、豪勢な食事を私に渡してくれて。
「楽しんでもらえてるかな。そんな顔をしてもらえるなんて思ってもなかったよ。すごいだろう?これが謝肉祭だ!!」
「──謝肉祭はただのお祭りではありません。いわゆる、収穫祭みたいなものです。国民全員で得たものを振舞う、まさに宴というべきものでしょう」
「おっ、ジャーファルも来たのか」
「シン、あなた少し飲むのが早いのでは……?」
「なぁにそんなことはないさ!」
はぁ、とため息をつくジャーファルさん。突然の登場に当然言葉は出なくて。ぱくぱくと口を開閉させるだけである。
「……シン、さきほどヤムライハが探していましたよ」
「おっそうか。では俺は行くとするか。うたちゃん!お祭り、楽しんでくれたまえ」
え”。
ハッハッハ、と片手をあげて立ち去っていくシンドバットさん。そして、動かないジャーファルさん。
嫌な予感がする。
「……もう回復したのですね」
「ッ!!」
話しかけて、きた。と緊張が走った。なんだかいたたまれない気持ちになり、こくりと小さく頷く。けど、こうして歩けるのも、なんだかんだ食事を出してくれたりお風呂に入れてくれたりと養ってくれたのは、紛れもなく、シンドバットさんたちだ。一人だったら、きっと何もできなかっただろうに
「みなさんの、おかげです」
「……そうですか」
「……」
なんだか視界の隅で、目が細められたような気がして。ごくりと唾を飲み込む。長い沈黙が続いた。
「あなたは──」
そんな中でも宴は盛り上がっていて。ここだけがどこか別の世界に切り離されたように思えた。
「この国を、どう思いますか」
突然の質問にぐっと言葉に詰まる。ちらりとジャーファルさんをちら見する。彼はただただ国民を見つめているだけだった。視線を戻し、そして考えた。
──この国は、私から見ても、とても、とてもいい国だと思う。情勢だとか、治安だとか。私には分からないけれど。一人の王様がいて、忠実な部下がいて。誰もが信頼していて。素敵な国民に、素敵な国。だけど、この国は私を受け入れることはない。
ドォォッとたいまつが激しく吹き上げる。
「シンドバット王とシンドリア王国に祝福あれ!!」
ワァアア!と一層盛り上がっていく声を聞いて、口が勝手に言葉を吐き出す。
「素敵な、国、」
やっと出た言葉は皮肉だった。そして対するジャーファルさんも、きっとその言葉が皮肉だと分かっていただろう。目を閉じて、間を置く。
「……えぇ。」
一層大きな、たいまつの炎が夜空を照らしていた。宴もそろそろ終わりに近づいており、夜も更けてきた。
まるでそれを合図だというかのように、ジャーファルさんがこちらを向いた。
「お渡ししたいものがあります」
「、そんな!受け取れない、です」
「王が聞かないのです。さぁ、足を」
「あ、し?」
「えぇ。その足では目立ってしまうでしょう」
「ッ、」
カァッと顔が熱くなった。そうだ、こんな痣があっては誤解を呼んでしまうかもしれない。スッと屈み何かを私の足首に巻きつけた。
黒い、リボンのような、紐のようななにかが、布の上に巻かれる。一枚の布を足首が隠れるように巻き、それを紐で結んでいるような感じになっている。
「……ありがとう、ございます」
「服をダメにしてしまったのはこちらです。これも好きに使ってください」
「そんな、」
抵抗する前に、テキパキと服装が整い始める。少し厚めで、一枚の大きい布を、ふわりとわたしに巻き付け、内側にある紐で結び前を閉じた。手際の良さに、口をはさむ暇もない。
そしてスッと屈み、私の耳元まで近づく。
"夜明けと同時に、船の準備ができます"
そう告げて、体勢を元に戻す。そこで初めて視線が合った。ずっと、ずっと見れなかったジャーファルさんの顔。きっと蔑んだ目をしてるんだろうなと、偏見を持っていたけど、実際のジャーファルさんは、そうではなくて。
「こうして顔を合わせるのは初めてですね」
どこか不安そうで、だけどそれを隠すように、苦笑いをしていた。
「ジャーファルさん、」
「…、はい」
「わたしは、ずっとジャーファルさんを怖いと、思っていました」
「それは、仕方ないことでしょう」
そうさせたのは私です。と続けた。
「ピスティさんから聞きました。このワンピ……服を仕上げてくれたのは"とある人"だと」
「とある人、ですか」
「はい。だからその方にも、ありがとうと」
サァッと風が2人の間を抜けた。一度間を取ると、彼は両手を袖の中に入れて、目を閉じる。
「今までのを許せ、とはいいません。ただ、あなたは間違っていなかった。私が言えることではありませんが……」
ヤムライハさんが歩みより、ピスティさんが行動し、マスルールさんが背中を押し、シャルルカンさんがケジメを教えてくれた。
「どうか、お元気で」
そして、ジャーファルさんはこの国を、教えてくれた。シンドバットさんの、人柄を見せつけて、そうしてこの国を出ようとする私の背中を押してくれた人たち。
「ありがとうございます、」
さようなら、と。
fin