軌跡
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ぺたぺた、とひんやりとした床に足が離れるたびに音が響く。ベットから扉まで、一直線に。そしてスムーズに。辿りつくことができた。締め切りの乾いた空気の中、ハァッと息があがる。
「わたし、歩ける…!」
思わず言葉にしてしまうほど、喜びを感じた。
「これで、やっと、」
この国から、出ることができる。
口元がゆるみ、自分の足をみつめる。ようやく、だ。と胸が高鳴った。
すると、コンコンと扉が叩かれる音がする。返事をする前に扉が開くのはもう恒例事項だ。入ってきたのは、ヤムライハさんだった
「遅れちゃってごめんね。剣術バカが解体ショーなんてするから……」
「剣術バカ……?」
ハッとしたように「なんでもないわ、さぁ今日はこれよ」と言ってヤムライハさんは、食事を出した。解体ショーって、なんだろう。と思いつつ、ぺこりと頭を下げる。
「うたちゃん、体の調子はどう?」
「だいぶ……。あの、」
「ん?」
歩けようになったと言えば、一瞬だけ「……そう」というと、ぎゅっと抱きしめてくれた。後からやってきたピスティさんにも、ヤムライハさんが伝えると、ピスティさんもヤムライハさんと同じように「そっか……」と言った。
そして少し間を開けると、ピスティさんが意を決したように、こちらを見つめてくる。いつも経験談を教えてくれるピスティさんはどこにもいなかった。
「王様がね、うたちゃんと話がしたいって」
ピリッと緊張が走った。そして、にこりと笑えば、彼女たちはなぜか浮かない顔をしていた。ヤムライハさんを見ても、少しさびしそうに笑うだけで。
どうしてそんな顔をするのだろうと、疑問に思った。
*******
「やぁ、ピスティたちから話は聞いているよ。確かに、顔色も大分よくなってきたな。それに、歩けるようになったんだろう?よく頑張ったな」
うんうん、と歩み寄って来ては嬉しそうに、そして大げさに動きながらそういってきた、この国の王様、シンドバットに戸惑う。少し気まずさを覚えて、目をそらすと、ふいに頬に何かが触れようとした。
「シン!!」
その瞬間に、バチリと音がする。
ザワリ、と周りが騒がしくなったように思った。そうしてまたも血の気が引ける。今度は、シンドバットさんとジャーファルさんの目の前で。彼らの王たる人物に対しての、静電気。もしこの世界に静電気がまだ発見されていないとしたら、私は、どうなるのだろう。
「あ、……」
「なるほどな」
「ッ!!」
低い声に、びくりと体が跳ねた。まさか、まさかと冷や汗があふれ出る。自分の体質が嫌になった。まさか、静電気体質がこんなところで発揮されるなんて。
怖くて顔を上げられないでいると、そのままぐいっと無理矢理上を向かされた。驚く前に、視界にはシンドバットさんの顔が。そして、シンドバットさんの何を考えているのか分からない瞳に、自分の顔が映り込んだ。
「顔をあげなさい。なぁに、取って食うわけじゃないさ。呼んだのは、君の二つ目のお願いを叶えるためだ」
「!」
静電気のことを、何か言及されることもなく、有無を言わせぬ声色で言った。もちろん、その雰囲気におされて私は喋れなくなる。
「君に、この国を出る許可をしよう。こちらから出るための手配はしておく。交易の船だ、話は通している。そいつは分かりやすいからな、特徴だけ教えよう、とにかくでかいやつさ」
「、そこまで、していただける、なんて」
申し訳ないです、と言おうとしたが、彼は全てを受け入れたようにニッコリと笑う。ぞくりとした。その笑顔が何を物語っているかなんて、考えたくもない。
「それと、これは俺からのお願いだ。今日一日だけ君の時間をくれ。どうしても君に見てもらいたいことがあるんだ」
「みてもらいたいもの……」
「ああ。君にこの国を知る良い機会になるだろう」
「この国……、を?」
「そう、ここはシンドリア王国。そして、今宵は謝肉祭(マハラガーン)だ!」
そう、高らかに声を上げたシンドバットさんに。私はただただぽかんとしていた。
視界の奥では、ジャーファルさんが頭を抱えた。
fin