軌跡
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ご飯を食べるようになったとか。マスルールが報告に」
「アイツ何したんだ……」
かちゃかちゃ、と食器の上に食べ物を丁寧に盛り付けていく、一人。と壁に寄りかかりながら、その様子をうかがう人が一人いて、雑談をしていた。
少し間が空いてから、口をはさむ。
「でも。やっとっすね」
「本当かどうかはわかりません。もしかしたら処分しているかも」
「いや、それはさすがに……」
「一つ、頼まれてくれますか。シャルルカン」
「……げ、」
くしゃりと顔を歪ませたシャルルカンに、たった今綺麗に盛り付けたばかりのお皿を手渡した。
「……ジャーファルさん、そりゃねぇっすよ」
自分で盛り付けたんだから、自分で。と言いかけた言葉は出ずに、シャルルカンはジャーファルを見る。対するジャーファルは、一度きょとんとしたあと、にこりと静かに笑った。
「頼みましたよ」
******
「、ごちそうさまでした」
ぱちん、と両手を合わせて、一言。
少しずつだけど、出される食事に手を付けていく。今日だけで、一食分を一日かけて食べれるようになった。
この間マスルールさんに連れ出してもらってから、ヤムライハさんとピスティさんが部屋に来てくれて。食事を持ってきてくれた。
お風呂の時以来で、いろいろと申し訳なかったが、突き放した私を彼女たちは、それでも優しくしてくれた。
"たっ食べてくれた!!"
"え、ええ!!うたちゃんが……。嬉しいわ、食べられる?"
2人が持ってきてくれたのは、パンのようなもので。千切って一口食べれば彼女たちは自分のことのように喜んでくれて。思わず笑っちゃったっけ。
"この前は、ごめんなさい"って。"ありがとうございます"って言えば、今度は2人が嬉しそうに笑ってくれた。
思い出すだけでほっこりする。冷たい世界だったはずなのに、歩み寄って来てくれる。突き放しても、優しくしてくれた。こんな、わけの分からない私を。得体の知れない、私を。
「随分と思い悩んだ顔してんのな、」
「!?」
「よ、うたちゃん。元気してたか?」
「ぁ……、っと、」
驚いてる暇はなく、ただただ突然そこに現れた人物を見つめる。鉄格子越しの彼ではなくて、今、ここに。目の前にいる、彼を。名前はたしか、
「シャルルカン、さん…」
「なんだ、覚えてくれたのな」
彼は一度、前のように目を伏せた後、ニヤッと笑った。そして、前のように口を開く──あの日々を連想させるような、世間話を。サァと血の気が引いた。
まって、やめて。おねがい、ちょっと、まって
「お、ちゃんと食ってんじゃねーか!!偉い偉い──」
「っ、!!」
ぱちん、という乾いた音がした。
はっとした時には、もう。手が出ていて。すっと伸びてきた腕に、フラッシュバックしてしまった。鎖を、引っ張られるような感覚が自分を襲う。
「……悪ぃ、ごめんな」
目を真ん丸に開いているシャルルカンさんを見て、やってしまったと、後悔した。だけど、否定する言葉すら、出てこなくて。
「顔あげな、うたちゃん。さんざん怖ぇ思いさせちまったんだ。別に気にしちゃいねぇよ。それがフツーだぜ」
「ッ、あ、の、」
「ちゃんと飯食えるようになってるみたいだしな、」
「しゃるるかんさ、」
「これも食って俺らに一発、ビンタでも入れてやんな、うたちゃん」
"ごめんなさい"
って言葉をつなぎたいのに。シャルルカンさんは、言葉を挟むのを赦してくれなかった。ペラペラというと、彼はことりとお肉のようなものを置いて、にこりと私に笑いかけた。その瞬間に察してしまう。自分が、彼を、
──傷つけてしまった、と。
パタム、と閉じられた扉を見て、このままでいいのか。いやいいわけがないと。そう思った。
「しゃるるかん、さん!!」
「あ、シャルルカン。どうでし……」
「ジャーファルさぁあああん!!」
「ッ!?!?」
「な、なんで避けるんすかぁぁあ!!、き、聞いてくださいよぉぉおお!!」
「ひっつくな暑苦しい!!何ごとです?」
「ひど!俺に対してひどいっすよやっぱ!!」
「……あの剣術バカなにやってるのかしら」
「あはは、私も混ざる~。ジャーファルさぁぁん」
「ピスティまで、次から次へとなんなんですかあんたら!!」
出て行ったシャルルカンさんを追いかけようと、ベットから転がり落ちてみたもののひどく後悔した。廊下の外では、私の知らない。私が入り込めない、彼等だけの世界があった。
最初から、私はその世界に歓迎されていなかった。それなのになぜかひどく、疎外感が私を襲った。そうだ、私は一人ぼっちなのだ。何が優しくされると、だ。ホントは優しくされたかったくせに。もっと受け入れてほしかったくせに。
ただ、構ってほしかっただけの、子供のくせに。
この国から出たいだって?本当はただ引き留めてもらいたかっただけじゃないの。本当は、すぐ、歩けたくせに。とやかく理由をつけて、ご飯も食べずに。、引き伸ばしたかっただけなんじゃないの。
「そ、っか……」
ここに私の居場所は存在しない。なにがあっても、彼らが私を受け入れることはないんだ。
「ありがとう、シャルルカンさん」
現実を見せてくれて。
はやくあるけるように、なろう
もっと歩く練習の回数を増やした。たくさん転んだし、相変わらず食事を交代でもってきてくれる。ヤムライハさんにピスティさん。マスルールさんに、シャルルカンさん。当たり障りのない会話をして、また歩く。転ぶ、歩く。転ぶ……
痛みなんて、もう気にしなくなった。
fin